追跡!ワイナリー最新情報!『ホーライサンワイナリー』「ワインで楽しませる」ことを考え抜いた2021年

富山県富山市婦中町にある「ホーライサンワイナリー」。家族経営の小規模ワイナリーだが歴史は古く、創業は昭和初期の1927年。北陸最古のワイナリーだ。
創業者である山藤重信氏はワインの持つ可能性を信じ、ぶどう栽培が難しい富山の地でいち早くワイン造りに取り組んだ。 

ホーライサンワイナリーでは、楽しい時間を人々が共有できるワイナリーでのイベントを大切にしている。ホーライサンワイナリーが醸造する魅力的なワインたちは、人々に楽しい時間を提供するために造られているのだ。 

家族とスタッフたちが力を合わせて醸造するワインには、遊び心がいっぱいだ。特に注目すべきなのがワインの名前。「ほしあつめ」「ねこかぶり」など、ワインのストーリーがイメージできるような名前が並ぶ。可愛らしいエチケットは、ぜひ実際に手にとって見てみてほしい。 

今回は2021年シーズンについて、ワイナリーの1年間を見ていきたい。お話を伺ったのは、代表取締役社長の山藤智子さん。ワイナリーの「現在と未来」を、共に追っていこう。

『ホーライサンワイナリーにとって「ワイン」とは何か ワインのありかたを考えた2021年』

新型コロナウイルス流行前よりも、売り上げが伸びたというホーライサンワイナリー。売上アップの背景には若い世代が活躍した影響が大きいのでは、と社長を務める智子さん。
「ホーライサンワイナリーでは、仕事は若手の感性に合わせるべきだと考えています。20代前半のスタッフも大活躍しているのですよ」。

様々な世代が入り交じる中にこそ刺激があり、成長の種がある。世代ごとに考え方はまったく違うが、違いこそが面白い。ホーライサンワイナリーの型に囚われない姿勢は、多様な意見を尊重する大切さを教えてくれる。

ホーライサンワイナリーの2021年は、智子さんにとって「原点回帰」の1年だった。

▶ワイナリーのあり方とは 初代の思いに立ち返る

「初代がワイナリーを立ち上げた当時の情勢と今の時代には、共通点があります。初代がワイナリーを始めた時期は戦争の影響が大きかった時期で、今は新型コロナウイルスが猛威を振るっている時代。
どちらにも死の影があり、人々は困難に向き合っています」。時代は違えど困難な世の中に生きることで、「初代の思いに立ち返ることができた」という。

創業者の山藤重信氏は、ワインどころか生食ぶどうをデザートとして食べる文化さえなかった戦前の時代に、山を開拓してぶどうを植えた。ぶどう栽培には周囲からの協力も必要だった。どうして周囲を巻き込んで、わざわざぶどうを栽培し始めたのか。考えた先に思い至ったのは、「ワインを使って喜びや楽しさを伝えたかったのではないか」ということ。

ワインを造ることが人々の希望になる。生きる楽しさを伝えることができる。
「創業者は、本当に優しく周囲に細かな気を使える人だったと聞いています。周囲の幸せや娯楽の大切さを考え、ワイン造りを始めたのでしょう」智子さんは創業者の気持ちに思いを馳せる。

ワインもぶどうも嗜好品であり、娯楽。生きるうえで必要不可欠なものではない。しかし娯楽は人々の活力につながり、初代が託した「夢」でもある。初代が抱いていた夢を感じることで、よりワイナリーを後世まで残したいという思いが強まったという。

また初代の願いに思いを馳せることは、ワイナリーの使命を再確認することにもつながった。ホーライサンワイナリーの使命とは、人を楽しませることだ。

「ただ美味しいワインを追求すること以上に、思いを込めて人々を楽しませること。私達のやるべきことは、ワイン造りの先にある、楽しむことの大切さを共有することです」。

新型コロナウイルスの脅威にさらされている厳しい時代だからこそ、今までと変わらず「娯楽」を提供したい。2021年に再確認した、ホーライサンワイナリーの核となっている思想だ。

▶安全性に配慮した上で運営したイベント

「鬱屈した状況だからこそ、うちのワイナリーはイベントをやめてはいけないと思っています。規則に従って安全性に配慮し、人数制限などの対策をとったうえでイベントを開きました」。

人々を楽しませることを諦めてはいけない。強い信念から、ホーライサンワイナリーでは2021年も数々のイベントを開催した。

イベントを開催することは、アーティストやミュージシャン、飲食店への還元にもつながる。政府から支給された給付金も、自分たちのためではなく人を呼ぶために利用した。

「アーティストや飲食店は、仕事がなくなって困っています。イベントに呼ぶことで彼らの力にもなれる。今こそ音楽や芸術のために資金を使いたいのです」。

イベント開催は赤字覚悟。しかし、人と人とのつながりや、笑顔の力を信じて運営を続けた。ホーライサンワイナリーのイベントは、ただ楽しむためにあるものだ。美味しい食事、楽しい音楽や芸術にワインが寄り添う。心を開放して楽しめる場を提供しているのだ。

「『楽しんではいけない』という無言の縛りが生きにくさにつながり、人から生きる力を奪っている現状があります。もっと楽しく生きられるということを、積極的に発信していきたいです」。

困難な時代でもイベントを続けるからこその、「ホーライサンワイナリー」の存在感。2021年もワイナリーらしさを大切に、人々に笑顔を届け続けた。

▶2021年にスタートした試み ワインを買うことが未来を考えるきっかけになれば

智子さんのアイデアで2021年から新たにスタートしたのが、「投票済み証明書を持参したらワインが5%OFFになる」という試みだ。

なぜこのような試みを始めたのか。智子さんは、未来を真剣に考えることの大切さに気づいてほしいと話す。

「政治云々ではなく『自分たちの選んだものが、そのまま自分たちに返ってくる』ということを伝えたいのです。投票に行くことの重要性を、若い人たちにも改めて考えてほしい。ワイナリーがきっかけになればと考えて始めた試みです」。ホーライサンワイナリーは、ワインを通じて「未来を自分のこととして考えるきっかけ」を発信したのだ。

私達がワインを購入することで、少しでも投票の意味を考えることができれば、智子さんの試みは成功だ。ホーライサンワイナリーは、ワインを販売すること以上に大切なものを見据えている。子供や孫、次の世代のために少しでも世の中を変えていけるような努力を、今後も続けていくという。

『2021年のぶどうとワイン 厳しい天候ながらも満足のいくワインが生まれる』

続いては、2021年のぶどう栽培とワイン醸造について見ていきたい。地球規模の異常気象が続く昨今。2021年のホーライサンワイナリーの栽培と醸造の様子を紹介しよう。

▶異常気象が続く2021年 難しい状況の中でのぶどう栽培

2021年も、ぶどう栽培にとっては厳しい1年だったホーライサンワイナリー。もともと富山は降水量が多く、ワイン用のぶどう栽培が難しい地域だ。そんな中で続く異常気象、ここ4〜5年は特に困難な状況が続いている。

「とにかく天候がまったく読めません。あまりにも読めないので、気象庁に電話をして確認しながら栽培作業をしていました」と智子さんは笑って振り返るが、厳しい状況がひしひしと伝わってくる。

ぶどう栽培にとって、天候は何よりも重要だ。ワインの味に影響を与える「糖度」や「酸度」、そして醸造量に直結する収穫量につながる。

ホーライサンワイナリーでは、気象図を見ながら作業の判断をしているが、予想外の荒天が多発するという。いくら勉強しても勉強しても追いつかないほどの地球環境の変化に、シーズン中おおいに振り回された。

具体的にどのような影響が出たのかを伺った。すると、一番苦しんだのは病気の発生だという。
「不安定な天候だと、ぶどうは病気になりやすいので、防除作業が大部分です」。

防除だけでなく、病気になったぶどうを取り除く作業もある。収穫期には、傷んだぶどうを取り除かなくてはならない。傷んでいるぶどうが多ければ、取り除く作業に多くの時間を割かれる。もちろん収量も下がるため、ワインの生産量にも影響してしまうのだ。

病気以外では、収穫時期の遅れにも悩まされた。8月に急激に寒くなったため、糖度の伸びが後ろ倒しになってしまったのだ。収穫時期を遅らせて糖度が上がるのを待つしかなく、収穫はギリギリのタイミングになった。

醸造スペースには限りがあるため、順を追って収穫し、醸造を回していきたいのが本音。収穫時期の乱れは、収穫後の作業にも大きく影響する。

「ぶどうに限らず、富山の果樹栽培は昨今とても厳しいようです。2021年はシーズン中に雹(ひょう)が降り、大打撃を被った果樹園もありました」。

日本海側特有の不安定な天候に悩まされ、果樹の栽培難易度が急上昇している富山県。しかし自然との格闘もまた、ワイン造りの本質だ。「難しい天候は覚悟しています。受け止めて実直に栽培を続けるのみですね」。

ワインの面白さは、ただワインの味を楽しむことに留まらない。「地域の天候、大地の性質が反映した味を楽しむ」ことや、「栽培された土地に思いを馳せる」こと。ワインを心から楽しむための真髄だ。ホーライサンワイナリーの2021年は厳しい年だったが、2021年ならではのよさを、ワインが映し出す。
ホーライサンワイナリーの家族やスタッフが手塩にかけたぶどうを美味しく飲み、造り手の笑顔を思い浮かべたい。

▶新銘柄も登場 メンバー全員で造る2021年のワイン

ホーライサンワイナリーの2021年醸造作業は、12月に大部分の仕込みが完了した。2022年1月頃には、ホーライサンワイナリーのメンバー全員で一度仕込み中のワインを試飲する。ワインの状態や味を確認しながら、ブレンドの方針や熟成期間を話し合うのだ。

メンバー全員でワインを造り上げているホーライサンワイナリーでは、若手スタッフの教育にも力を入れている。
「今年は醸造メンバーに若いスタッフが入っています。そのため、新しい手法を試すより醸造の基本を徹底して、基本に忠実なワインを造ることを、今年の醸造のテーマにしています」。

ホーライサンワイナリーには、昭和初期から積み重ねてきた醸造技術の蓄積がある。ワイン造りの基本を若い世代に仕込み、ホーライサンワイナリーの未来へつなぐ。

続いては、2021年ヴィンテージのワイン銘柄について紹介したい。特筆すべきワインは3つあり、ひとつは人工的に造るアイスワイン「ほねぬき」だ。アイスワインとは、ぶどうをあえて凍らせてから醸造する甘口ワインのこと。水分が凍ることで果実の旨味や糖度が凝縮されるため、濃厚な甘さを持つワインに仕上がるのだ。ただ、富山ではぶどうが凍るまで収穫を待つことは不可能なため「クリオエクストラクション」という造り方をしている。智子さんも「出来が楽しみ」だと話す、2021年ヴィンテージおすすめの1本になりそうだ。

2つめは、自家圃場のソーヴィニヨン・ブランで造る「ほしあつめ」。2021年のソーヴィニヨン・ブランは、酸が豊富に含まれた状態での収穫になった。豊かな酸味とのバランスをとるため、若干糖度を残した状態であえて発酵をストップ。難しいぶどうではあったが、醸造方法を工夫することで、ぶどうが本来持つ魅力を引き出すことに成功した。

最後に紹介するのは、2021年シーズンが初仕込みとなったぶどう「ブラッククイーン」を使ったワインだ。
「現状の仕込みの具合をみると、とてもよいものができそうだと感じています。このままうまくいけば、新しい銘柄の誕生ですね」と、完成に期待がかかる。

ブラッククイーンのワインは、マスカット・ベーリーAとブレンドしてリリースする予定だ。まだリリース時期は決まっておらず、スタッフたちで味をみながら最適なタイミングを見極める。ワインは生き物。状態は常に変わるため、飲み頃の時期はワインの個性次第だ。

一番ワインが輝くタイミングを探す過程も、また楽しいと話す智子さん。
「リリース時期を決めるのは、自分たちの感覚だけではなく、お客さんの反応も参考にします。イベントでワインを開けたときの反応も確認しながら、リリース時期を判断することになるでしょう」。
ホーライサンワイナリーのワインは、人々とのつながりが造り出すワインなのだ。

▶「楽しい」のそばにワインがある 音楽とワインとホーライサンワイナリー

「2021年といえば、栽培醸造を担当する長男が、楽器演奏を始めたのです。若いスタッフにも波及して、みんなで本格的に始めているようです」。
見守る智子さんは嬉しそうだ。ホーライサンワイナリーでは音楽も取り入れつつ、楽しく仕事に取り組んでこそ、人生が豊かになると考えているのだ。

醸造所にはドラムのリズムがこだまする。音楽の振動が伝わり、もしかしたらワインの熟成にもよい影響が出るのでは?との期待もある。

ホーライサンワイナリーのイベントには欠かせない「音楽」の存在。ワイナリーに楽器が用意してあれば、アーティストもさらに参加しやすくなるだろう。ホーライサンワイナリーのメンバーがイベントの演奏に参加する日も近いかもしれない。

『目指すのは働く人や子供たちの明るい未来を造ること 2022年の目標』

最後に伺ったのは、2022年以降に実現していきたい目標について。

「やりたいことや、やらなくてはいけないことが多いのが悩みです」。
ホーライサンワイナリーが目指すのは、ワイナリー運営を超えた先にあるものだった。

▶働き方を変えていきたい 新しい事業へのチャレンジ

ホーライサンワイナリーでは、富山での働き方を変えるための挑戦をはじめている。具体的に考えているのは、企業に対しメンタルヘルスケアの大切さを伝える事業だ。
「臨床心理士、公認心理師の資格を持つ姉が、アメリカ、イギリスでの研修を受けて身につけた『マインドフルネス』『セルフ・コンパッション』などを企業研修に取り入れ、自分を大切にケアしながら楽しく働くモデルを伝えたいです」。

ワインで人を癒やすことから、働く環境を整えて人々を癒やす活動へと範囲を広げていく考えだ。

ホーライサンワイナリーのモットー「楽しむこと」を、多くの働く人に広めること。そして富山県のみならず、日本の働く環境を変えていくのが目標だ。

▶ワイナリーでサマーキャンプを ぶどう栽培を子供の成長に役立てたい

もうひとつ、智子さんが構想中の試みがある。それは、子供たちを集めてワイナリーでサマーキャンプを開くことだ。

「1〜2週間、子供たちと一緒にぶどうを育てるイベントを開きたいと思っています」。
自然のなかでのびのびと生活することで、子供の心を開放させたいとの思いから生まれた構想だ。

自然とのふれあいと、親と離れた子供同士の共同生活の中で、大きな成長の機会を得ることができるはずだ。具体的な日程は実施に向けて検討中。子供を持つ人々にとって、非常に気になるイベントなりそうだ。

『まとめ』

ホーライサンワイナリーは2021年も、ワインやイベントを通して人々に数々の「楽しさ」を提供してきた。

ぶどう栽培では天候に苦労することがあったが、ワインの仕上がりは上々。今後のイベントに参加すれば、いち早く新酒を味わうことができるだろう。ワイナリーの強みが存分に感じられるイベントの数々に、ぜひ足を運んでみてほしい。

ホーライサンワイナリーでは2022年も、新しいワイン造りや新事業と、世の中を楽しくするための試みが目白押しだ。ワイナリーに行ってワインを飲み、造り手と交流することで新たな取組を応援していきたい。


基本情報

名称ホーライサンワイナリー
所在地〒939-2637  
富山県富山市婦中町みさご谷10
アクセス電車
砺波駅から車で17分

高岡砺波スマートICより車で20分
HPhttps://www.winery.co.jp/

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