「Vinoble Vineyard & Winery」は、2021年に広島県三次市に誕生したワイナリーだ。新しいワイナリーではあるが、すでに日本ワイン業界での注目度は高い。世界的ワインコンペティションである「IWSC(インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション)2022」では、白ワイン「Sauvignon Blanc 2021」がゴールドメダルを獲得した実績を持つ。
そんなハイレベルなワインを醸すのは、代表取締役の横町崇さん。横町さんはぶどう栽培やワイン醸造はもちろん、ワイン用ぶどう苗木生産、ぶどうの棚造りまで、ワイン造りに関係するあらゆる技術のプロフェッショナル。広島県三次市の特徴を生かし、棚仕立てのぶどう栽培でワインにテロワールを宿す。
今回は、Vinoble Vineyard & Wineryの2022年のワイン造りを追った。代表の横町さんにお話いただいた、Vinoble Vineyard & Wineryがたどった2022年ヴィンテージに関してのエピソードをともに見ていこう。
『2022年のぶどう栽培 天候のよさから収量が向上』
最初に見ていくのは、2022年のぶどう栽培の様子について。
ワイナリーがある広島県三次市の天候の様子とあわせて、ぶどうの出来や栽培の状況を確認していきたい。
▶︎「比較的よい年」となった2022年の天候
2022年の広島県三次市は、近年の中では比較的天候が安定した1年になった。とくに梅雨と秋口の天候が、ぶどうの生育に好ましいものだったのだ。また、懸念していた台風の影響もほとんど見られなかった。
「ひどい状況だった2021年の天候と比べると、2022年はよい年だったといえます。収量も大きく改善したので本当によかったです」と、安堵した様子の横町さん。
ビッグ・ヴィンテージだった2020年には及ばないものの、天候が不安定なここ数年の中では、「十分に満足できる年」だったという。
だが、今後も油断できない状況は続いていくことが予想される。天候は確実に変化してきているのだ。
「とくに感じるのが、一度に降る雨の量が増えていることです。広島県全体を見ても、豪雨災害が多くなってきています。ゲリラ豪雨を生み出す『線状降水帯』という天候用語が一般的になってきたことからも、雨の降り方の変化がわかると思います」。
線状降水帯とは、ゲリラ豪雨を生み出す積乱雲の帯を指す。線状降水帯が発生すると、大雨による災害の危険性が高くなるのだ。しかし、発生メカニズムにはいまだ不明な点も多く、対策が難しい気象現象だ。
難しい天候が増える一方で、今まで脅威だった「台風」については、危険度が下がりつつあるという。広島に台風が直撃しづらくなっているためだ。
原因として考えられるのは、海水温度の上昇によって上昇気流が発生し、台風の進路が変化していることだ。これにより、韓国に流れたり関東に向かったりと、今までにない進路をとることが多くなってきた。
天候がいくら変わろうと、ぶどうの栽培場所を変えることはもちろんできない。横町さんは日々変化する天候と共存しながら、三次ならではのぶどう栽培を考えて粛々と栽培管理をする。できることを最適なタイミングで丁寧におこなうことで、ぶどうは必ず造り手の思いに応えてくれるはずだ。
▶︎霜害対策の重要性
「雨」の影響が比較的少なかった2022年だが、春先には「霜」がぶどうに襲いかかった。2022年4月末に、遅霜が発生したのだ。横町さんは、霜対策の重要性を強調する。
「ぶどう栽培において、遅霜の対策は必須です。過去には遅霜によって全滅した畑もあります。遅霜の怖さは、せっかく芽吹いた花芽がだめになってしまう点ですね。花芽がやられてしまうと、その年はもう房がつかなくなるのです」。
遅霜の被害が発生すると収量が大きく減ることもあるため、経営的な打撃を大きく受ける可能性もある。そのため、ぶどう栽培において、なんとしても避けねばならない被害のひとつだ。
では、霜を防ぐにはどうしたらよいのだろうか?Vinoble Vineyard & Wineryでは、防霜資材を使って霜の発生を防いでいる。米ぬかをろうで固めた資材を畑で燃やし、畑に温かい煙を循環させるのだ。作業時刻は明け方の2〜5時頃。気温が氷点下になると霜が発生するため、春先の気温チェックは日々欠かせない。
「三次は極端な盆地地形なので、夜間の底冷えが強いのが特徴です。氷点下の予報があったときにいつでも動けるよう、春先には気温を常に見張っている状態です」。
ちなみに2023年は、氷点下になることなく春が過ぎていった。遅霜の心配はなく、幸いにも対策が必要なかったという。
「2023年は、3月になると例年よりも暖かくなり、霜もまったく下りなかったですね。気温が高いと芽吹きが早いものですが、なぜかうちの畑は例年より少し遅いくらいでした。2023年は気温が高く、雨がしとしと降る日が多い傾向があるようです。そのためか、雑草の伸びが非常に早いと感じます。今年は雑草を刈るのが大変になりそうですね」。
霜対策によって被害をまぬがれた2022年と、そもそも遅霜がなかった2023年。年々変わる気候を相手に、念入りな観察と今までの経験を駆使して立ち向かう。
▶︎栽培の新たな取り組み たくさんの苗で賑わう
ワイン用ぶどう苗専門店の取締役も兼務している横町さん。2022年もたくさんの新しい苗が海外から入荷した。以下が、2022年に新たにやってきた新顔だ。
- ピノ・ムニエ
- プティ・マンサン
- ヴィオニエ
- アルバリーニョ
- シュナン・ブラン
- マスカット・ブラン
- ヴィダル・ブラン
上記は苗木店用に入荷したものでもあるため、Vinoble Vineyard & Wineryの圃場に入るのは試験的な本数に限られる。
そのほかに、Vinoble Vineyard & Wineryの圃場に新しく導入した品種についても触れておこう。以下の品種やクローン苗が、広島の畑に仲間入りしている。
- メンシア
- トゥーリガ
- グリューナー・ヴェルトリーナー
- ガメイ
- ネッビオーロ
- グルナッシュ
- シラー
- バルベーラ
- カベルネ・ソーヴィニヨン(新しいクローン型)
- シャルドネ(新しいクローン型)
- ピノ・ノワール(新しいクローン型)
「扱っている品種が多いため、どれが三次に合っているかまではまだ判断できていませんが、ピノ・ノワールには特に可能性を感じていますね。2024年にピノ・ノワールの畑をさらに広げる予定です」。
現在育てているピノ・ノワールのクローンは、なんと15種類。前回インタビューした時点では10種類を育てているとのことだったが、さらに増えたようだ。
「ピノ・ノワールは、ほかのぶどうに比べてクローンごとの差が出やすく、興味深い品種です。クローンによって土地との相性もはっきりしているのですよ」。
三次に合うピノ・ノワールのクローン型は、943、MV6、115など。房が小さく、粒と粒の間に空間ができる「ばら房」になる943などのタイプは、湿気が溜まりづらく病気になりにくいため相性がよい。
しかし、クローン型によっては、明らかに三次との相性が悪いものもあるのだとか。クローンの多様性は、私たち飲み手の想像を超えて大きなものらしい。
「クローンによって性質がまったく違う点も、ピノ・ノワールの面白さなのです」。
ピノ・ノワールのクローンについて語ってくれた時の、横町さんの楽しそうな表情が印象的だった。
▶︎持続可能な農業を実現しつつ、土を豊かにするために
2023年から始めた、ぶどう栽培の新しい試みをひとつ紹介したい。
「『チッパーシュレッダー』という機械を導入し、剪定したぶどうの枝をチップにして畑に戻す作業を開始しました。剪定枝を粉々に砕いて木くずにし、有機物を投入して生物の餌にしているのです。SDGsの観点で、自分たちにできることはないかと考えた結果に始めた取り組みです」。
チッパーシュレッダーを導入する前までは、燃やして処理していた剪定枝。燃やすことでたくさんの二酸化炭素が発生してしまい、環境負荷が懸念された。その点、チッパーシュレッダーを使って枝を土に還せれば、炭素を畑に戻して循環させることができる。
「土作り」という観点から見ても、土壌にチップ投入するのはよい方法だ。土中の微生物が増えて土が柔らかくなり、ぶどうや雑草の根が深くまで張れるようになる。
根が土の深くまで張ると、酸素が土の深くまで行き渡る。するとさらに微生物が増殖して土が豊かになってさらに根を張る。時間をかけてゆっくりと土が豊かになっていくのだ。
「ぶどう栽培においては、『土』が大切だと思います。水分を吸い上げるのは土からですよね。そして吸い上げた水分が果汁になって、最終的にワインになります。そのため、ワインの元になる一番大事なものなのが土壌なのです」。
『2022年ヴィンテージのワイン』
続いては、2022年のワイン造りにスポットを当てる。
2022年の生産量は1万ℓ以上。日照不足が原因で生産量が少なかった2021年と比較して、飛躍的にアップした。
▶︎2022年の主な銘柄
まずはVinoble Vineyard & Wineryが2022年に醸造した銘柄について、全体像を紹介していきたい。
基本的には2021年のラインナップを踏襲したものが多いが、一部、新しい銘柄が登場している。
2021年と同様2022年も生産している白ワインには、シャルドネを樽発酵した「Chardonnay Barrel Fermentation」、2021年に高評価を受けたソーヴィニヨン・ブランの「Sauvignon Blanc」がある。とくに人気のソーヴィニヨン・ブランは、すでに完売となっている。
スパークリングは、シードルとセミヨンのスパークリングを醸造中。シードルには、広島北部にあるりんご産地の原料を使用している。デゴルジュマンで澱を飛ばし、濁りをなくした仕上がりだ。発売時期は、2023年冬頃を予定している。
セミヨンについては、スパークリングワイン以外にも新しい醸造の取り組みが始まり、期待がふくらむ。
続いては、ピノ・ノワールの赤ワイン、「Pinot Noir」。基本的には例年と同様の造りだが、野生酵母の採用やクローン毎の仕込みなど2022年ならではのさまざまな工夫も凝らされている。
そのほかの赤ワインだと、唯一の買いぶどうであるマスカット・ベーリーAを使った樽仕込みにも注目だ。また、ボルドー系ブレンドで仕上げた「Vinoble Rouge Type BDX」には、晴れてセミヨンとソーヴィニヨンブランをブレンドして樽熟成をおこなった白ワイン「Vinoble Blanc Type BDX 2022」が仲間入りした。
続いて、注目の銘柄の個別紹介に移っていこう。まずは白ワイン用品種の「セミヨン」を使ったワインについて見ていきたい。
▶︎セミヨンのスパークリングと貴腐を醸造中
2022年ヴィンテージのセミヨンは、さまざまな種類のワインに姿を変えた。
醸造量がもっとも多かったのは、スパークリングワイン「Semillon Sparkling 2022」だ。1,900本ほど生産され、2023年5月現在すでに発売されている。横町さんはセミヨンのスパークリングについて、次のように話す。
「セミヨンのスパークリングは、フランス・ボルドー地方の『クレマン・ド・ボルドー』以外にはほとんどなく、世界的に見ても珍しいワインで面白さを感じています。セミヨンの特徴であるボディ感は、熟成とともに発揮されます。飲む時期によって雰囲気が変わるワインですよ」。
瓶詰め直後は硬い印象だが、年月を重ねると洋梨などの濃厚なフルーツ感が出てくる。「Semillon Sparkling 2022」も、瓶熟させてから飲むのがおすすめだ。フレッシュなフルーティー感を楽しめるだろう。5月におこなわれた広島G7サミットに採用もされた。
2022年ヴィンテージのセミヨンワインのふたつ目は、「貴腐ワイン」だ。インタビュー時点ではまだ醸造途中で、完成までは1年ほど待つことになる可能性があるそうだ。
「2024年の冬にリリースする予定で醸造しています。時間がかかっているのは、味をまとめるために熟成が必要だからです。およそ1年ほど熟成させれば、貴腐菌の香りがとれてまろやかになっていくでしょう」。
完成が実に楽しみな貴腐ワインだが、生産量が30ℓとかなり少ないため、残念ながら一般販売はされないかもしれない。貴腐ワインを造るためのぶどうには、意図的に貴腐菌を増殖させる必要がある。水分が抜けてレーズンのような状態になったぶどうは最終的な収量が減り、搾汁量も少なくなる。ワインになる量は、なんと通常の9分の1程度になってしまうのだ。
だが、日本国内では手がけるワイナリーが少ない貴腐ワインの生産は、今後も続けるという横町さん。
「今後は、セミヨンにソーヴィニヨン・ブランを少量ブレンドして、よりバランスのよい味わいを目指していきたいです。樽熟成も加えてリッチな風味を出したいですね」。
日本ワインではなかなか飲めない「貴腐ワイン」。Vinoble Vineyard & Wineryのリリース情報から目が離せない。
▶︎新銘柄「Vinoble Blanc Type BDX 2022」
スパークリング、貴腐ワインに続き、セミヨンはスティルワインとしても仕込んだ。
「以前からあった銘柄『Vinoble rouge Type BDX』の白ワイン版として、『Vinoble Blanc Type BDX 2022』を造っているところです。使っているのはセミヨンとソーヴィニヨン・ブランで、割合は8対2です。ボルドーブレンドの白ワインですね。セミヨンのスティルワインには手応えを感じているので、今後はスティルワインに使用する割合を増やしていきたいと考えています」。
2022がファーストヴィンテージになる「Vinoble Blanc Type BDX 2022」。ひと樽分の生産で、ワイナリー限定販売となる。6月に販売を開始した。
「洋梨などのセミヨン特有の風味がありつつ、ソーヴィニヨン・ブランも生きています。うちのソーヴィニヨン・ブランに感じられるメロン香がしっかりと出ていると思いますよ。樽に5か月間貯蔵し、控えめな樽香ですっきりとさせました」。
2023年以降のヴィンテージでは、ソーヴィニヨン・ブランの割合を増やしたいという横町さん。最終的にはセミヨン7割、ソーヴィニヨン・ブラン3割でブレンドし、さらに樽熟成の期間を伸ばそうと考えているそうだ。
おすすめのペアリングについても伺ってみた。
「白ワインではありますが、味に厚みと酸があるので肉料理にも合いますよ。メインディッシュにぴったりで、魚から肉まで合わせることができます。シンプルな味付けのものと相性がよいでしょう。また、鶏肉料理なら、どんな調理方法でも合いますよ」。
コース料理にも合わせられる上質な白ワイン、「Vinoble Blanc Type BDX 2022」。ぜひVinoble Vineyard & Wineryまで足を伸ばしてお買い求めいただきたい。
▶︎2022年のピノ・ノワール
横町さんが愛する「ピノ・ノワール」からは、どんなワインが生まれたのだろうか?2022年ヴィンテージの様子を紹介したい。
「2022年、ピノ・ノワールは5樽仕込んでいます。5樽のうち半分は野生酵母で発酵させました。樽発酵・樽熟成させたものやクローンごとに仕込んだものなど、それぞれの樽に特徴を持たせました。最終的に5樽のピノ・ノワールをどうワインにするかは考え中です。クローンごとのシリーズにするか、全部ブレンドするか悩ましいですね」。
ほかに注目すべき点としては、発酵に野生酵母を採用したことだ。
「野生酵母で発酵させると香りが抜群によくなるため、今回はトライアルとして導入してみました。実は今までも野生酵母を使ったことはあったのですが、最後の工程で乾燥酵母を投入して調整していました。野生酵母を使って発酵させると色が薄くなりがちなこと、また発酵にリスクが生じることなどが理由です。今回はこまめに味や色をチェックしながら、最後まで野生酵母で発酵させきることができました」。
Vinoble Vineyard & Wineryで育つピノ・ノワールの樹齢は10年を超えた。若木にはない果実味の強さが出てきており、味の厚みも増しているという。
「ブラインドで飲むと、日本のピノ・ノワールだとは感じられないほど濃厚になっていると思いますよ。また、熟成させることで本領発揮できるでしょう。現時点でも十分美味しいですが、3年後には素晴らしい仕上がりになりそうです。2本購入いただき、1本はすぐ開けて、もう1本は寝かせておくのがおすすめです」。
日本のピノ・ノワールの常識を打ち破る、Vinoble Vineyard & Wineryのピノ・ノワール。ぜひ造り手がすすめる楽しみ方で、ワインに込められた「年月の厚み」と「造り手の工夫」、そして「テロワール」を感じ取ってほしい。
『2022年の振り返りと次年度以降の目標』
最後のテーマは過去と未来について。2022年を振り返っての感想と、未来に向けての目標を横町さんに伺った。
▶︎2022年の反省と次年度の目標 糖度の調節
2022年の反省点は、「白ワイン用品種の糖度が高すぎた」ことだという。中には、糖度が22度まで上がった品種もあった。しかしなぜ、「糖度が高い」ことが問題になるのだろうか。
「糖度をもう少し抑えたかった理由はふたつあります。ひとつはアルコール度数が高くなり、酸が減ってしまうことです。もうひとつは、香りが南国系に寄ってしまうことですね。コンクールで評価いただいた2021年のソーヴィニヨン・ブランは、冷涼なハーブ香を表現できていました。そのため、2022年のソーヴィニヨン・ブランには冷涼さがあまり出せなかったことが反省点です」。
Vinoble Vineyard & Wineryでは、ワインとしての完成度を考えてぶどう栽培をおこなっている。大切なのは、果実味と香りのバランスだ。
一方で、次年度の参考になる「成功例」もあった。同じ白ワイン用品種でも、シャルドネのワインは理想の仕上がりとなったのだ。成功の秘訣は、収穫を数回に分けたことだという。
「シャルドネは3回に分けて収穫しました。スパークリング用は8月末、樽を使わないアンウッド用は9月上旬、樽発酵用は9月下旬に収穫したのです。糖度は収穫時期を遅らせるとどんどん上がっていきますから、収穫期をずらすことで糖度の調整ができるのです。2023年は、ソーヴィニヨン・ブランも収穫時期を分けたいと思います」。
試行錯誤が続くぶどう栽培とワイン醸造。さまざまな天候や醸造を経験することで、Vinoble Vineyard & Wineryのワイン造りはより洗練されていくのだろう。
▶︎海外展開を増やし、ハイレンジワインを展開
「海外市場への進出に力を入れていきたいです。現状はシンガポールと香港への進出が始っています。今後はより一層、海外を意識したワイン造りを目指します」。
香港で行われるイベントでは、Vinoble Vineyard & Wineryのワインが使われることがすでに決定しているという。また海外のソムリエからのコラボオファーもあり、海外市場への歩みは順調だ。
Vinoble Vineyard & Wineryが海外展開に力を入れるのは、実は「日本でワインを売るため」でもある。国内では「海外の評価が高いこと」がワイン販売の推進力になる場合もあるためだ。実際、「IWSC2022」で「Sauvignon Blanc 2021」がゴールドを受賞したことで、販路が広がった。
「海外と国内の両方から評価されるワイナリーでありたいです。今、日本ワインはブームですが、『日本ワインだから』という理由ではなく、海外と同じ土俵で見て『ワインとして美味しい』という理由で評価されたいと考えています。さまざまな銘醸地のワインを飲んでいるワインラバーにこそ美味しいと言ってもらえるワインを造りたいと思っています」。
だからこそ、オーソドックスなワイン造りはこれからも変えないという横町さん。ブルゴーニュやシャンパーニュなど、世界のハイレンジワインがそうであるように、濁りやオフ・フレーバーのない正統派の美味しさを追求し続ける。
Vinoble Vineyard & Wineryがハイレンジワインの醸造に注力する理由は、経営規模が大きく影響している。少人数で自社畑を中心にワイン造りをしていることから、ワインの単価が高くなるのが必然なのだ。安く提供できないのだから、品質を徹底的に高める道を選ぶのだと、横町さんは力強く話す。
「かかっている手間や生産規模から考えても、うちのワイナリーで日常消費用のワインを造るのは困難です。ワイナリーとして長く続いていくためには、ハレの日に特化したこだわりのワインに絞って造っていく必要があります」。
『まとめ』
Vinoble Vineyard & Wineryは、2022年も上質で洗練された数々のワインを造り上げた。
2021年と比較して天候が良好だったため、収量や生産量は大幅に向上。基本のラインナップはそのままに、新しい銘柄「Vinoble Blanc Type BDX 2022」やセミヨンの貴腐ワインも誕生する。
ピノ・ノワールは目下醸造中であり、野生酵母発酵やクローンごとの醸造など、新しい試みがワインにどのように反映されるのかが楽しみだ。
「世界の銘醸地のワインのコピーを目指したい」と横町さんは言う。日本ワインならではの個性表現を目指すワイナリーが多い中、横町さんの考え方は珍しいかもしれない。
だが、Vinoble Vineyard & Wineryは決して、個性をないがしろにしているわけではない。最後に、横町さんの信念が分かる言葉を紹介して締めくくりとしたい。
「世界の名醸地のワインといえば、オフ・フレーバーがなくて樽香のバランスがよく、品種個性が感じられるクリアなワインです。そんなハイレベルなワインを到達点として見据えて醸造していくのが、私が目指すワイン造りなのです。いわゆる『コピー』だと思われるかもしれませんが、真似をしていく過程では、日本ならではのオリジナリティが必ず出てくるはずです。ぶどうが育つ土壌や気候、樹齢の違いによって、テロワールは自然とワインに滲み出るものだからです。私が尊敬する銘醸地のワインと同じ味わいを表現するために、私なりにアプローチ方法も工夫します。それらはすべて、Vinoble Vineyard & Wineryのワインのオリジナリティになっていくのです」。
基本情報
名称 | Vinoble Vineyard & Winery |
所在地 | 〒728-0016 広島県三次市四拾貫町1371 |
アクセス | 車 三次東ICより車で5分 電車 下和知駅より車で6分 |
HP | https://vinoble-vineyard.jp/ |