「Veraison-Note(ヴェレゾン・ノート)」は、長野県上田市の塩田平にあるヴィンヤード。メイン圃場のある東山地区はミネラルが豊富に含まれた土地だという。レベルの高いぶどうを生み出す力を秘めた場所なのだ。
今回紹介するVeraison-Noteは、日本では非常に珍しい「ネッビオーロ」というぶどう品種を育てている。気難しいといわれるネッビオーロにあえて挑むのは、園主の中川さんと栽培兼広報担当の櫻山さんだ。
櫻山さんに、創業のきっかけからぶどう栽培についてまでを詳しく伺った。Veraison-Noteならではのこだわりや、ワインへの熱い思いを感じていただきたい。
『ワインが好きで始めたぶどう栽培 Veraison-Note誕生のきっかけ』
まずはVeraison-Note創業のきっかけから紹介していこう。なぜぶどう畑を始めるに至ったのだろうか?ぶどう栽培を始めた経緯や、当時の思いを聞いた。
▶Veraison-Noteの始まり 園主・中川さんの長野移住から
Veraison-Noteが始まったきっかけは、園主である中川さんの長野移住にあった。東京在住だった中川さんは、2014年に長野県上田市に所有していた別荘に移住したのだ。
元々ワインが大好きだったという中川さん。 長野に移住したことでワイン造りへの夢が膨らみ、ぶどう畑にするための土地を取得。その土地というのが、後にVeraison-Noteの「東山圃場」となる場所である。
今でこそカベルネ・ソーヴィニヨンの一大産地として有名な東山。しかし2014年当時は、そこまでワイン用ぶどう栽培に力が入れられていたわけではなかった。そのため運よく土地が取得できたのだ。
▶おさえきれないワインへの思い アルカンヴィーニュと櫻山さん
Veraison-Noteで栽培兼広報を担当している櫻山さん。ぶどう栽培に参加することになったのは、日本ワイン農業研究所「アルカンヴィーニュ」が運営する「千曲川ワインアカデミー」がきっかけだ。
ワイン好きが高じて、アカデミーの設立当初から裏方としてアカデミーを支えてきた櫻山さん。
「受講生はみな、退路を断って参加していました。会社を辞めてまでワイン造りへの夢を追いかけている人ばかりだったのです」。
大好きなワインのアカデミーに参加することで、さらに高まったワインへの熱意。自分でワインを造りたいという思いが胸にあったものの、できるはずがないと諦めていたという。
だが、ワインへの思いがどうしても捨てきれなかった櫻山さん。そんなとき、東京からやってきて長野でぶどうを栽培する中川さんの活動を知る。ワイン造りに携わりたい一心で、Veraison-Noteに参画することになったのだ。
▶畑の取得と手探りの栽培 それでも続けるのはワインが好きだから
中川さんが取得した東山圃場でぶどう栽培がスタートしたのは2015年のことだ。しかし実は、畑の取得に関しても紆余曲折があった。というのも、農業経験のない人はいきなり畑を買うことができないのだ。
そのため、まず前山にある圃場を借りて1年間大豆を栽培。大豆栽培をしてJAに販売したことで農業者の認定を受ける。そしてようやく東山の圃場を購入できたのだ。
やっとのことで取得した圃場。しかし次なる困難が待ち受ける。それは「農業について右も左も分からない状態からのスタート」だったこと。アカデミーの授業は受けたものの実践経験が少ない。
そんななかでも、中川さんと櫻山さんは、周囲の農家の助けを借りることができた。
東山は大手ワイナリーの契約農家が多い場所だ。近所にはアメリカ前大統領トランプ氏が絶賛した、有名なカベルネ・ソーヴィニヨンの圃場もある。質の高いぶどう栽培が、周囲の農家によって行われているのだ。
経験豊富な農家が周囲にいることで、栽培技術を学んだり観察したりできる。「今でも周囲の農家さんを必死に見て勉強しています」。
Veraison-Noteを立ち上げ、続けている理由を改めて尋ねると「ふたり共、ただただワインが好きなのです」と櫻山さんは明るく笑う。
ここでVeraison-Noteの名前の由来について紹介したい。「Veraison(ヴェレゾン)」とは、黒ぶどうの果実が段々と色付いていく時期を表すフランス語。Veraisonの時期は「7色ぶどう」ともいわれ、美しい色の移り変わりを見せるのだ。
ぶどうの色の移り変わりは未来への希望を思わせる。
「これからどんなぶどうが実り、そしてどんなワインになるんだろう。先のことを思いワクワクする、『Veraison』という言葉には『自分たちもこれから成熟していく』という意味も込めています」。
そしてnoteは「音階」という意味。未来あるぶどうたちが、どんな音楽を奏でてくれるのか。ぶどうの未来に対する思いが、名前に深く刻まれているのだ。
『日本でネッビオーロを育てたい Veraison-Noteのぶどう栽培』
続いてVeraison-Noteで行うぶどう栽培について紹介していきたい。
Veraison-Noteのぶどう栽培には、ほかにはない特徴がある。それは、日本ではほとんど栽培されていない「ネッビオーロ」というぶどう品種を中心的に栽培していることだ。ネッビオーロはイタリアのピエモンテ州などで栽培される品種のぶどうだ。
Veraison-Noteがネッビオーロを栽培する理由とは?そしてほかにはどんなぶどう品種が栽培されているのか?また栽培のこだわりとは?ひとつひとつ紹介していこう。
▶珍しいぶどう「ネッビオーロ」 Veraison-Noteで育てるぶどう品種
Veraison-Noteで栽培するワイン用ぶどう品種を、圃場ごとに見ていこう。
まずはメインの圃場である、東山圃場で栽培する品種から。主として栽培するぶどうは「カベルネ・ソーヴィニヨン」と「ネッビオーロ」の2品種。Veraison-Noteのメインのぶどう品種であり、第2の畑である前山圃場でも栽培されている。そして、2021年から拡張した東山圃場で新たに栽培している品種が「バルベーラ」と「シラー」だ。
次に、2018年に取得した新しい畑である生田圃場について紹介しよう。生田圃場では試験栽培が中心だ。そのため数多くの品種が植えられている。
栽培品種は以下の通り。どれが土地に合うのかを探している最中だという。
- サンジョベーゼ
- カベルネ・フラン
- バルベーラ
- ピノ・グリ
- ピノ・ノワール
- アルバリーニョ
- シャルドネ
中でも「バルベーラ」は特によい結果が得られたという。バルベーラはネッビオーロと同じく、イタリア・ピエモンテ州で広く生産されているぶどう品種だ。
果実感豊かで親しみやすい赤ワインを生み出すぶどうバルベーラ。
「バルベーラの調子がよかったので、2021年に東山圃場でも植え始めました」。
今後どのようなワインが生まれるのかを、非常に楽しみにしているという。
▶ネッビオーロの魅力と苦労
気難しいネッビオーロをあえて育てる理由について、櫻山さんに伺った。
「やはり1番は、好きなぶどう品種だから。そしてぶどう自体の味が素晴らしいからです」。
ネッビオーロにはどんな特徴があるのだろうか?
「糖度も酸度も高いぶどう。そしてなんといっても渋味がすごいんですよ」。
ぶどうの実を食べた時に、抜群に美味しさを感じるのがネッビオーロなのだとか。
ネッビオーロがほかであまり栽培されていない理由は、栽培の難しさにある。「ネッビオーロは樹勢が強すぎるのです。まさに元気なイタリア品種といった感じ」と、櫻山さんはネッビオーロについて語る。
ネッビオーロは樹勢が強すぎることで、実を付けるのではなく枝を伸ばす方にエネルギーを使っていまいがち。そのため樹勢の調整が非常に大切になる。細かな栽培調整の難易度が高く、まだまだ試行錯誤の段階だという。樹勢が強く苦労するものの、果実の酸度が高いため一度結実すると病気にはなりにくい。
ネッビオーロは日本の環境下では、完熟まで持っていくのが難しいという。そのため単一品種ではなく、ブレンドすることで活路を見いだしている。
「ネッビオーロをブレンドすると、イタリアワインのような風味が生まれるのです。ほかにはない魅力が輝くワインになります」。
Veraison-Noteで育てるネッビオーロには、唯一無二の個性が光る。
▶東山の特長とぶどう栽培の方法
長野県上田市東山地区で育てるワイン用ぶどうには、特殊な味わいが付与されるという。東山ならではの味の要因は、ぶどうの「酸度」にある。東山で育つぶどうは酸度が高いのだ。
「普通は熟してぶどうの糖度が上がるにつれ、酸度が落ちます。しかしなぜだか、東山では酸度が落ちにくいのです」。
酸度が高いぶどうは、熟成に耐えうるワインになる。東山には深みのあるワインを生み出す素地がある、ということだ。
東山は、元々海の底にあった場所だったそうだ。土壌は断層が合わさってできており、複雑な土壌がぶどうに影響を与えると考えられている。Veraison-Noteでは、より東山地区ならではの味を表現するための方法を模索している最中だ。
東山の土壌で育つVeraison-Noteのぶどうは、すべて垣根栽培だ。垣根栽培をする理由は、設備投資の容易さから。棚仕立ては大きな設備投資が必要なのだ。
現在はすべて垣根栽培であるが、ネッビオーロを棚栽培することにもいずれチャレンジしてみたいと櫻山さんは話す。
「樹勢が強いため、もしかしたらネッビオーロと棚栽培は相性がよいかもしれないと思っているのです」。
また Veraison-Noteでは、同じ垣根でも品種によって仕立て方を少しずつ変えている。東山圃場では、垣根の間隔を80cm〜1m程に狭めているという。ぶどう同士が栄養を取り合うために樹勢がおさえられ、根や枝を十分に伸ばしにくくなる。
「ただし間隔が狭いと、茂ってしまった時に大変ですけどね」櫻山さんは笑いながら話す。
また品種によっては「コルドン仕立て」にするなど、最適な仕立て方を試している。今後も様々な試みを栽培で実践し、ぶどうにとって最適な方法を探求しているのだ。
▶手作業にこだわれるのがVeraison-Noteの強み
Veraison-Noteのぶどう栽培では、化学肥料、除草剤、化学農薬を使用しない。日本の気候では病気や害虫被害に遭いやすいワイン用ぶどう。そのため、化学肥料や化学農薬不使用で育てることは、大きな困難を伴う。
しかしVeraison-Noteでは、化学的なものに頼らず、人の手作業を大切にした栽培にこだわりをもって取り組む。
具体的な栽培のこだわりを見ていこう。まずは畑の土壌が不耕起であるという点だ。また、化学肥料のみならず有機肥料も無施肥。そのままの土壌を使ってぶどうを育てている。
また除草剤や殺虫剤といった化学農薬も一切使わない。
「使わないと口でいうのは簡単ですが、ものすごく大変です」。
化学農薬の代わりとして「唐辛子スプレー」などを手作りし、害虫忌避のために撒く。農薬を使わない方法を色々試して、工夫を重ねながら実践しているのだ。
「手作りスプレー以外の害虫対策は、ひたすら手で取ることですね」。
毎年恒例であるが、苦労しているのは、コガネムシによる食害だ。1枚の葉に5〜6匹のコガネムシが付き、バリバリと食べてしまうという。
放置すると葉が葉脈だけになってしまい、光合成が阻害されて株が弱る。連日、虫取りが続くこともある。
2021年に大量発生した害虫には「マイマイガ」の幼虫も。10年に1回の大発生なのだとか。マイマイガによるぶどう被害は、畑にある「バラの苗」にマイマイガが集中したことで、最小限におさえられた。
ぶどうが襲われなかった代わりに、バラのつぼみは大部分が食べられてしまったそうだ。
「バラがぶどうを守ってくれたのかもしれないですね。ただしバラは1〜2輪しか咲かず、かわいそうでした」。
害虫被害は今年だけのものではない。無農薬である以上、毎年何らかの害虫が大発生するという。これほど苦労してまで殺虫剤を使わないのはなぜか?と聞くと、「殺虫剤を撒いてしまうと、よい虫も死んでしまうのです」という答え。
害虫を食べてくれるテントウムシやクモを大切にしているのだ。
「農業を始めて、特にクモが神様のようだと気づきました。ぶどうは一切食べず虫だけを食べる。今では家にいるクモも、ありがたくて退治できません」。
櫻山さんは、ぶどうだけでなく畑の生き物に対しても慈しみにあふれている。
Veraison-Noteでは、できる限りの作業を自分たちの手で行うことにこだわっている。秋には圃場から落ち葉を丁寧に取り除き、落ち葉で虫が越冬することを防ぐ。また、巻きツルも翌年まで残さず手作業で除去していく。巻きツルの中に虫が付く可能性があり、病気の原因にもなるためだ。
「正直たったふたりですべてを手作業で行うのは非常にしんどいです。しかし『農薬を撒けばよい』という農業はしたくないのです。
農薬を撒いて一時的によくなっても、すぐに同じ結果になり、より多くの農薬を必要とすることが目に見えているからです」。
余計なものは一切使用されていない、無垢なぶどうから生まれるワインが、美味しくないはずがない。Veraison-Noteのワインを飲む時は、ふたりの思いを噛み締めながら、ぶどうそのものの味を感じてみて欲しい。
『パンチがありエレガント Verison-Noteのワイン』
それではVeraison-Noteが造るワインについての話に移ろう。中川さんと櫻山さんが好きなワインに「バローロ」がある。ネッビオーロ100%からなる、イタリアワインの王だ。
Veraison-Noteが最終目標にするのも「バローロのような」ワインだ。ネッビオーロを生かして、エレガントかつパンチのあるワインを造ることを目指す。
バローロを思わせるワインを造るために目指している方向は「ブレンドの妙を生かす」こと。ぶどうの樹齢が低い現段階では、単品よりもブレンドによって味を表現する方が良いのではと考えている。
Veraison-Noteの看板商品である「Experience」も、ネッビオーロとカベルネ・ソーヴィニヨンのブレンドだ。効果的にブレンドすることで、果実感がありつつブルゴーニュのような透明感のあるエレガントさを表現し、ネッビオーロ特有の酸味やタンニン感も醸せる。
「日本のワインに足りないのは、タンニンだと思っています」と櫻山さん。
ワインを飲み慣れていない人にとっては、渋みが強く感じられることもあるかもしれない。
「『飲兵衛』向きのワインを造っているかもしれませんね。ふたりとも飲兵衛なので」。ワインについて話す櫻山さんは本当に楽しそうで、つられて笑顔になってしまう。
▶Veraison-Noteのワイン ワイン名の由来に秘められた意味とは?
Veraison-Noteの「Experience」の味わいについて紹介したい。
ネッビオーロの渋みが利いている「Experience」。2021年のブレンドでは、比較的柔らかめの仕上がりを目指したという。
「ネッビオーロの割合を、2020年よりも若干減らしました。渋味がおさえられ、幅広い人が楽しめる味になっていますよ」。
そんな「Experience」を楽しむ時は、2日以上に分けて飲むのがおすすめだという。1日目と2日目の味わいが、大きく変わるからだ。
開けたてはクリアな質感。軽めに感じ、飲みやすさを覚える。一転して2日目からは、深みと重厚感が出てくる。味の変化が魅力的な赤ワインだ。
「まさにネッビオーロ」といった具合の、豊かな酸味やタンニンをじっくりと感じ取ってみて欲しい。
続いて、Veraison-Noteに並ぶワインの名前に迫ってみよう。「Experience」「THE ROSE」「THE RINGO STAR」。すべて音楽に由来するネーミングであることにお気づきだろうか?
まずは「Experience」から。「Experience」とは英語で「経験」の意味。しかしそれだけではない。ギターの神様、ジミー・ヘンドリックスが結成したバンド名でもあるのだ。実は中川さんは若い頃、ミュージシャンをしていた。
そのためワインには、大好きな音楽に関連した名前がつけられている。
歌の名前からつけられた、巨峰スパークリングワインである「THE ROSE」。
「THE RINGO STAR」に至っては、もはや説明不要だろう。なんともおちゃめなネーミング。
遊び心満点の、Veraison-Noteのワイン。
新しいワインがリリースされたら、由来を考えてみるもの楽しいかもしれない。
▶委託醸造とナチュラルなワイン醸造
Veraison-Noteはまだワイナリーを持たない。収穫されたぶどうは委託先で醸造され、ワインに生まれ変わる。醸造の様子やメリット、難しさについて話を伺った。
2020年の委託先は3軒。
2021年3月まで学んでいたマザーバインズの醸造学校と、そのほかに2軒のワイナリーに委託した。
醸造学校では、基本的なワイン醸造でワインが造られる。
「いわゆるクラシカルなワイン造りです。教科書的なワイン造りともいえますね」。
造られたワインは、かっちりとした仕上がりになるという。
新しく委託醸造を依頼した2件のワイナリーは「テールドシエル」と「ツイヂラボ」。いずれもナチュラルな造りが特徴の醸造所だ。
有機栽培をしているからこそ、中川さんと櫻山さんは自然な造りのワインを目指している。「今後はすべてナチュラルな造りのワインにシフトします」。
ナチュラルな醸造方法でワインを造ると、「ぶどうのよさ」がそのまま表現される。櫻山さんの体感的に、ぶどうの出来は90%ワインに反映すると感じている。
ナチュラルなワイン造りは、本当に「何もしない」のが特徴だ。できる限りぶどうに負担を与えず、そのままの味を生かす。
テールドシエルでは、サンジョベーゼ主体のペティヤン(微発泡ワイン)「Acoustic Shower」を。ツイヂラボでは「Blush Pink Lady」という名前の、鮮やかなピンク色が特徴のロゼを造った。
「クラシカルな造りとナチュラルな造りはまったく違うので、勉強になりますね」。
ナチュラルな造りでは、機械の使用は最小限。例えば、通常は機械で除梗するところを、テールドシエルでの委託醸造では「穴の開いた板」を使用して除梗した。板の穴にぶどうの実だけを通して落としていく方法だ。
ぶどうの醪(もろみ)を移動させる際には、グラヴィティ・コントロールを行った。自然な重力を使って醪(もろみ)を移動させる方法だ。ポンプで吸い上げるのではなく、高いところから低いところに向かって醪(もろみ)を物理的に流していく。
グラヴィティ・コントロールをすることで、ぶどうへの負荷が最小限になるという。ぶどう本来が持つ優しい果実味が、もれなくワインに溶け込むのだ。
また無濾過にもこだわった。「なぜこんなに美味しい部分を濾過するの、と思ってしまうのです。無濾過は旨味が違いますよ」。もちろん無濾過にはリスクも伴う。しかし無濾過にしか出せない滋味深さが生まれるメリットがある。
以上のこだわりが詰まったワインは、1年瓶熟ののち2022年の冬にリリース予定だ。今まさにワインになりつつあるぶどうの様子を想像しながら、楽しみに待ちたい。
▶委託醸造の難しさと自家醸造への思い
委託先の醸造所のこだわりに触れられる「委託醸造」だが、難しい点もある。一番の難しさは、長期熟成ができないことだ。委託していると、次年度に向けてタンクを空けなくてはならない。
ネッビオーロやカベルネ・ソーヴィニヨンは長期熟成に適したぶどう品種。思う通りに熟成ができないのは、生産者としてさぞもどかしいことだろう。
また自分たちの思うとおりに醸造できないという点もある。
「畑ごとに分けて醸造してみたり、様々なブレンドを試したりと、自由にやりたい思いがあります」。
ブレンドの面白さを感じている櫻山さんは、自分でたくさんのブレンドを試したいと考えているのだ。そのためにはやはり、自分の醸造所でさまざまなことを試してみたいと考えるのは当然だろう。
「ワインのラボも造りたいですね。ブレンドもひたすら試してみたい。もっともっと研究したいです」。櫻山さんの熱意はとどまることがない。
Veraison-Noteの醸造所ができたら、いったいどんなワインが登場するのだろうか?ワイナリーらしさがこれでもかと詰まったワインを期待したい。タンニンの利いたパンチある「Veraison-Noteらしい」味で、多くのワインラバーを虜にすることだろう。
『Veraison-Noteらしさを極めたい 将来の展望』
最後に伺ったのが、Veraison-Noteの将来の展望について。ワインに関する目標と、ワイナリー全体の目標について伺ったので、順に紹介していこう。
まずはワインに関する目標からだ。
「『Veraison-Noteといえば、こんなワイン』というのを、さらに固めていきたいを思っています」。
櫻山さんが考える「Veraison-Noteらしさ」とは、パンチのきいたパワフルでエレガントなワインであること。味はもちろん、ワインとしての面白さ、スパイスの効いたワインだという。
そして2023年を目標に、醸造所を造ることを目指す。自社醸造ができれば、より一層「Veraison-Noteらしさ」の表現が加速するはずだ。
イベント開催などの目標についても紹介したい。
「二人とも音楽好きなので、畑でコンサートをしながらワインを楽しむイベントができたらと思っています」。
なんとVeraison-Noteには、ピザ釜まであるという。音楽を聞き、自家製ピザを食べながらイタリア品種の日本ワインを飲む。なんと贅沢なひと時だろうか。
続いて構想しているのが、前山圃場にある宿泊施設「前山亭(ぜんざんてい)」を使ったイベントだ。前山亭は、ぶどう栽培の手伝いに来てくれる人用に造った施設。「Veraison-Note club」会員向けの宿泊サービスなどを検討中だ。
そして最後のイベント企画が、ロードレースチーム「チーム長野」とのコラボイベント。チーム長野とは、櫻山さんのいとこである櫻山 茂昇さんが参画するバイクのチームだ。
「長野を盛り上げよう」と活動しているチーム長野は、世界大会への参戦を通じて地域の活性化を図る。2020年にも行ったコラボ企画を、2021年以降も行っていく予定だ。
「次の人たちが後に続いていけるよう、チャレンジャーとして頑張ってければと思っています」。
どこまでもポジティブで、ワインへの愛情が深い櫻山さん。話を聞いているこちらまで元気になるような、素敵な笑顔が印象的だった。
『まとめ』
ネッビオーロという個性的なぶどうを育て、新たな日本ワインの可能性を表現するVeraison-Note。これからも注目すべきワインが続々と出てくるであろう、近い将来見逃せないワイナリーになるだろう。
手作業にこだわり、自然のままのぶどうを大切にするワイン造り。そのこだわりは、ワインの味に反映され、飲んだ私たちの体に染み込む。
Veraison-Noteのスパイスの効いたワインは、心と体の隅々に至るまで活力をチャージしてくれるはずだ。
基本情報
名称 | Veraison-Note(ヴェレゾン・ノート) |
所在地 | 〒386-0504 長野県上田市武石小沢根574-186(事務所) 〒386-1212 長野県上田市富士山字上居守沢1960-7(東山圃場) |
アクセス | 上田電鉄下之郷駅から車で7分 |
HP | https://www.veraison-note.com/ |