「晴れの国」として知られる岡山県は、降水量が1mm未満の日数が全国第1位。また、快晴日数の多さと日照時間の長さが全国トップクラスであることを生かし、ぶどうや桃の栽培が盛んなフルーツ王国として知られている。
温暖な気候と豊かな水資源に恵まれた岡山は、生食用ぶどう栽培の長い歴史を誇る。1886年に本格的に開始したのが、「マスカット・オブ・アレキサンドリア」の栽培。エジプト原産の品種で世界三大美女のひとりであるクレオパトラが愛したぶどうとされ、「ぶどうの女王」とも称される香り高い品種だ。
そんなマスカット・オブ・アレキサンドリアでワインを造っているのが、岡山県倉敷市の船穂地区にある「ふなおワイナリー」。
現在もマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培が続く倉敷市船穂町で、自社畑で栽培したマスカット・オブ・アレキサンドリアを使ったワイン醸造をおこなっている。
今回は、代表取締役の岩瀬吉晴さん、技術顧問・醸造責任者の木口敦夫さんにお話を伺った。ふなおワイナリー設立の経緯とぶどう栽培のこだわり、マスカット・オブ・アレキサンドリアのワインの魅力について、余すところなく紹介していこう。
『ワイナリー誕生までのストーリー』
まずは、ふなおワイナリー誕生の経緯を岩瀬さんにお話いただいた。
ぶどうの生産量が全国第4位の岡山県。生食用ぶどうの栽培が盛んで、岡山独自の栽培技術を確立しているのが特徴だ。現在もさまざまな品種のぶどうが栽培されている中、もっとも古くから栽培されてきた歴史を持つ品種がマスカット・オブ・アレキサンドリアなのだ。
かつては岡山県内の広い地域で盛んに栽培されてきたマスカット・オブ・アレキサンドリアだが、現在ではほかの品種にトップの座を譲っている。
だが、そんなマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培を現在も続けているエリアのひとつが、倉敷市船穂町にある。「平成の大合併」により倉敷市に編入合併されたが、かつては「浅口郡船穂町」という独立した自治体だった。
「ふなおワイナリーは、倉敷市に合併される1年前の2004年に、マスカット・オブ・アレキサンドリアを使って産業を活性化したいという地元の期待を背負って設立されたワイナリーなのです」。
▶︎船穂町のぶどう栽培の歴史
船穂町でマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培が始まったのは1951年のこと。ぶどうとスイートピーの栽培が盛んな町として栄えてきた。
だが、ぶどう農家の高齢化が進んだことなどにより、離農者が増加。たくさんあったぶどう畑は次第に耕作放棄地となっていった。そこで、問題を解決するために船穂町が農地を再整備して研修圃場とし、若い新規就農者を受け入れてきた。
現在ふなおワイナリーが自社畑として使用しているのは、かつて研修圃場としてマスカット・オブ・アレキサンドリアが植栽された土地だ。
▶︎ぶどうの女王、マスカット・オブ・アレキサンドリア
ふなおワイナリーがワイン醸造に使用しているぶどうはいくつかあるが、メインはマスカット・オブ・アレキサンドリアだ。
ここで、マスカット・オブ・アレキサンドリアという品種について紹介しておこう。
古代から連綿と受け継がれてきた品種であるマスカット・オブ・アレキサンドリアの特徴は、なんといってもムスクのような芳香。上品な香水のような香りと、さっぱりとした甘さを持っており、生食用ぶどうとして根強いファンが多いのもうなづける。
優れた品種特性を持つマスカット・オブ・アレキサンドリアからは、さまざまな交配品種が誕生してきた。生食用品種として近年人気が高いシャインマスカットも、マスカット・オブ・アレキサンドリアのDNAを持つ。
「マスカット・オブ・アレキサンドリアは種あり品種なので、昨今の種なしぶどう人気に押されてしまっていますね。しかし、香りが抜群によい特徴を持つため、ワインにしたときに、なによりも品種由来の香りを大切にしたいと考えています」。
▶︎原料ぶどうの90%は自社栽培
ふなおワイナリーで原料として使用しているマスカット・オブ・アレキサンドリアのうち、実に90%は自社畑で栽培したものだ。
ワイナリー設立当時には、自社栽培と地元の農家が栽培したものを半々くらい使用していたが、栽培農家が減少してきているため、自社ぶどうの比率が次第に高くなってきた。
「マスカット・オブ・アレキサンドリアを栽培する農家は、大幅に減ってきています。栽培が難しく手間がかかる品種のため、高齢になると続けることが難しくなるのです。そのため、離農したり、より簡単に栽培できるシャインマスカットなどの品種に植え替えたりする人が多いですね」。
『ふなおワイナリーのぶどう栽培』
ここからは、ふなおワイナリーのぶどう栽培について紹介していこう。
岡山県では昔から、生食用のぶどうにおいては露地栽培ではなく温室栽培が採用されてきた。近年ではビニールハウスも増えてきたが、かつてはガラス製の温室での栽培が広くおこなわれていたのだ。
だが、ふなおワイナリーのマスカット・オブ・アレキサンドリアは、生食用ではなくワインの原料として使用するぶどう。どのような栽培管理がおこなわれているのかが気になるところだ。
▶︎岡山県ならではのぶどう栽培
ふなおワイナリーの自社畑では、マスカット・オブ・アレキサンドリアはすべて棚栽培。ハウス栽培と、雨よけのある露地での栽培をおこなっている。
「ビニールの屋根で雨を完全に防いで、房が水に濡れない状態を作っています。側面は網なので、風が吹き抜けて風通しは良好ですよ。屋根があるので、雨の日でも作業ができるのがメリットですね」。
岡山では、百貨店に出荷するような贈答用クラスになると、年明け早々に温室内を暖房で加温することで、樹の生育スピードをコントロールすることもある。ふなおワイナリーではどうだろうか。
「ふなおワイナリーの自社畑で栽培しているマスカット・オブ・アレキサンドリアはすべてワイン用なので、生食用と同じレベルの管理まではしていません。しかし、房が雨に当たるとすぐに病気になる品種なので注意が必要です。また、傾斜があって空気と水分のコントロールがしやすいところに畑を作るなどの工夫もしています」。
▶︎自社畑の特徴
ふなおワイナリーの自社畑はいずれも船穂地区に位置し、ワイナリーに隣接した畑と、山の上にある畑の2か所がある。
船穂地区の土壌は花崗岩で水はけがよいのが特徴。年間の平均気温は約15度で、西日本特有の温暖な気候だ。
一般的なワイン用ぶどうの栽培とマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培で大きく異なる点といえば、水分管理の方法だろう。
ぶどうは乾燥した環境を好む植物のため、ワイン用ぶどうを栽培する場合には畑に散水することはあまりない。しかし、マスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培においては、定期的な水やりが必要だ。
「近くを一級河川の高梁川が流れているので、川から引いた散水用の水を山の上に設置したタンクに貯めて使用しています。岡山は『晴れの国』だけあって降水量が少ないのです。また、生食用のマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培では、定期的な散水をおこなうのが慣習なので、昔からのやり方を踏襲しています」。
ただし、生育期に湿気が溜まると病気発生の原因となるため、散水をおこなうのは春の芽吹きの時期や、雨が少ない秋が中心だ。
▶︎マスカット・オブ・アレキサンドリアならではの摘粒作業
マスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培においては、もうひとつ特徴的な点がある。花が咲いてすぐに、『摘粒作業』をおこなう必要があることだ。
マスカット・オブ・アレキサンドリアは、ひと房に500~700もの粒ができるため、摘粒して粒の数を減らさなければならない。皮が薄く病気に弱い品種なので、粒が混み合うとすぐに潰れて、そこから病気が発生してしまう。
「摘粒作業は開花後すぐにスタートして、最終的にはひと房あたり50~70粒程度になるように、不要な粒を摘み取っていくのです。数cmしかない小さな房の粒をひとつずつ摘粒するのは、本当に大変な作業です」。
もともと、生食用のマスカット・オブ・アレキサンドリアの栽培では、房型を整えるために実施している摘粒作業。ふなおワイナリーが摘粒をおこなっている理由は、あくまでも粒が混み合わず順調に生育できる環境を作るためだ。
ひと房ずつ摘粒をおこなうのはコストがかかりすぎるため、過去には、できるだけ手をかけない方法はないものかと試行錯誤したことがある。しかし、ひとつずつ摘粒する以外の方法は見つかっていない。
「摘粒作業には、ひと房あたり数分~数十分程度かかります。畑の房すべてに対して一斉に実施する必要があるため、ボランティアを募集してなんとか対応しています。ボランティアの方からも、あまりに細かい作業なので、見えにくくて大変だと言われてしまうこともあります」。
ボランティアとして力を貸してくれるのは、主に地元の倉敷市の人たちだ。約60名のボランティアが、健全なマスカット・オブ・アレキサンドリアが育つための手助けをしている。ふなおワイナリーの自社畑で栽培しているのはマスカット・オブ・アレキサンドリアのみなので、同じ時期に一斉に作業を実施する必要がある。
摘粒作業は開花から成長段階に応じて数回に分けて実施し、6月いっぱいまでおこなう。一般的なワイン用ぶどうの栽培管理においては必要ない作業だが、ふなおワイナリーの自社畑では、毎年やってくる摘粒の時期は栽培シーズンの始まりを告げる風物詩だ。
『ふなおワイナリーのワイン醸造』
続いては、ふなおワイナリーの醸造について木口さんに伺った。ふなおワイナリーで扱っている品種はいくつかあるが、メインはもちろんマスカット・オブ・アレキサンドリアだ。
マスカット・オブ・アレキサンドリアは、果皮が非常にデリケートな品種。果皮には「テルペン」というマスカット香のもとになる成分が含まれている。そのため、栽培段階ではもちろん、醸造工程でも細心の注意を払って新鮮なうちに仕込むことが欠かせない。
「品種由来の芳香をしっかり維持できるように丁寧に仕込むことを心がけています。目指しているのは、『果汁そのものをワインに再現すること』です」。
▶︎醸造におけるこだわり
マスカット・オブ・アレキサンドリアは、品のある甘みと酸味のバランスが最大の魅力だ。ほかのワイン用品種と比べると、栽培には格段に手間がかかるが、みずみずしい果実はぶどうそのままを食べているようなワインに仕上がる。
「ワインにおいては複雑性やボディ感が重視されがちですが、ふなおワイナリーのワインはみずみずしい果汁感が特徴で、クリアな味わいのワインです」。
2023年にファーストリリースを迎えた、「フリーラン製法」を採用した新銘柄を例に挙げて紹介しよう。
「マスカット・オブ・アレキサンドリア フリーラン【極甘口】」は、除梗・破砕後に、自然に流れ出る果汁だけを使用したワイン。
「繊細で雑味がなく、よい香りだけを閉じ込めてワインにしました。本当にぶどうを食べているような味わいで、非常に好評ですよ」。
ワイン用ぶどうのルーツを持ちながら、船穂町の長年の生食ぶどう栽培技術による果粒の大きいマスカット・オヴ・アレキサンドリアだからこそできた果実感溢れるワインが、「マスカット・オブ・アレキサンドリア フリーラン【極甘口】」なのだ。
マスカット・オブ・アレキサンドリアで日本ワインを造っているのは、ふなおワイナリーを入れても国内に4社だけ。なかなか味わえないマスカット・オブ・アレキサンドリアのワインを、ぜひ味わってみたいものだ。
▶︎楽しい団らんのきっかけになるワイン
ふなおワイナリーが造るのは、「お客さまの美食・美酒・美談」に寄り添うワイン。飲み手が大切な人たちと共に過ごすシーンに、ふなおワイナリーのワインがあるのが理想だ。
「楽しい食と会話があるシーンのお供になるワインを造るのが醸造のテーマです。マスカット・オブ・アレキサンドリアを好むお客さまは、雑味のないワインを求めているのではないかと考え、クリアな味わいのワインを造っています。よいコミュニケーションのお手伝いができるワインを造りたいですね」。
マスカット・オブ・アレキサンドリアを食べたときに、誰もが「美味しい」と感じる成分をワインにそのまま表現している。仕込みの最初の段階から品質に気を配り、手間を惜しまずに作業に臨むのが、ふなおワイナリー流。
▶︎発酵中は緊張の連続
醸造家としての長いキャリアを持つ、醸造責任者の木口さん。醸造において特に気をつけているのは、過度な酸化を防ぐことだという。
「ワインはゆっくりと酵素に触れることで熟成して美味しくなっていきます。仕込んだあとも、酵母による発酵が始まって炭酸ガスができるまでは安心できません」。
醸造機器やタンクのすみずみまで注意して確認し、酵素が発生しないように炭酸ガスを注入して置換したり、適量の酸化防止剤を使用して不要な酸化を防ぐためにきめ細かく対応している。
「ふなおワイナリーの醸造期間は8〜10月中旬までですが、ワインが発酵している間は動物を飼っているのと同じで、毎日面倒をみる必要があります。根気が必要な仕事ですね。仕上がったワインを瓶に充填し終わるときになって、ようやくほっとできます」。
『ふなおワイナリー初の本格辛口ワイン』
ふなおワイナリーが造るマスカット・オブ・アレキサンドリアのワインは、ラインナップが実に豊富だ。
「考えうる醸造方法をすべて取り入れて商品化しています。ワインを蒸留したブランデーも発売中です。また、2023年8月には、新銘柄の『マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】』が仲間入りしました」。
▶︎「マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】」の特徴
「マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】」は、ふなおワイナリー初の本格辛口ワインだ。
「ふなおワイナリーを応援してくださるたくさんの方から、辛口ワインを造ることをすすめていただきました。ワイン業界の方からもアドバイスいただいたので、期待に応えたいと思って挑戦してみました。香り高く、満足いく仕上がりになったと思っています」。
「マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】」は、自社畑のぶどうをすべて食べ比べ、もっとも香りがよい果実だけを集めて仕込んだ。
マスカット香のもとである成分の「テルペン」は糖と結合している場合が多い。糖は発酵によってアルコールに変わるため、発酵中はよく香るが、ワインになったら香りが消えてなくなる場合が多いのだ。そのため、辛口ワインを醸造する場合には、香りを保持するのが難しいのだとか。
「本当に香りのよいぶどうだけで仕込んだ特別醸造で、頑張れるだけ頑張って造ったのが『マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】』です。今後は、飲み手のご意見を取り入れながらさらに本格的な味わいを目指して進化させていきたいですね」。
▶︎おすすめペアリング
「マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】」は、フルーティーな香りと軽快さが特徴だ。木口さんにおすすめのペアリングを尋ねてみた。
「一番合うのは、塩味で食べるレモン蒸しにした野菜ですね。ワインと食材の味をもっともよく引き出すのが、あっさりした味付けの料理だと思います」。
「マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】」は糖分を発酵に使い切ったため、残糖分はゼロ。より深みのある味わいを出すために、発酵終了後にワインを澱(おり)の上で熟成させる「シュール・リー」をおこなった。アミノ酸が豊富な酵母の味わいをワインの中に封じ込めることを目指したのだ。
そのため、出汁の効いた和食や脂分のある料理とも合わせられるのではないかと木口さんは期待している。
選りすぐりの果実だけを使っている「マスカット・オブ・アレキサンドリア【特辛】」は、毎年醸造するのは難しいそうだ。2023年の次にリリースできそうなのは、おそらく3年後以降になる見込みなのだとか。運よく手にすることができたなら、大切な人との楽しい時間のお供として、じっくりと楽しんでいただきたい。
『ふなおワイナリーの、マスカット・ベーリーAのワイン』
ふなおワイナリーでは、マスカット・ベーリーAを使ったワインも醸造している。
以前、岡山県は西日本随一のマスカット・ベーリーAの産地だった。だが、高齢化などで栽培する農家が減少。その状況を危惧したふなおワイナリーは、船穂町のマスカット・ベーリーAの樹をなんとか残すため、手間の掛からないようワイン用に栽培したマスカット・べーリーAをすべて買い取ったそうだ。
マスカット・ベーリーAのワインは、2021年にファースト・リリースを迎えた。
▶︎岡山県のマスカット・ベーリーAの特徴を表現
温暖な気候の岡山県は昼夜の寒暖差が小さいため、果皮が黒く色づくぶどうの場合、色付きが薄くなるのが特徴だ。ぶどうは日中におこなう光合成によって、糖や酸、ポリフェノール、黒い色素のもととなるアントシンなどを生成する。
日没後になって夜温がしっかりと下がれば、ぶどうもしっかりと休むことができるので、酸が残り、ポリフェノールやアントシアニンは増えるというメカニズムだ。
ところが、岡山県のように熱帯夜が1か月近く続くエリアでは、ぶどうも寝不足になる。夜間も代謝が止まらないために、果皮の色付きは薄くなるのだという。
だが、メリットもある。中国地方で栽培されたマスカット・ベーリーAで造ったワインは、関東以北のものよりも、舌の上に残る余韻が長いのだとか。
「飲んだ後に口の中にさまざまな成分が残るタイプのぶどうに仕上がるのが、西日本のテロワールの特徴なのです。船穂町産のぶどうで造ったマスカット・ベーリーAのワインも、色は赤ワインというよりはロゼワインのようですが、複雑味と奥行きがある味わいで美味しいですよ」。
できるだけ濃い色合いを表現するため、除梗・破砕後にフリーラン果汁だけを抜き、種や果皮の成分がより多くなった状態で仕込むという工夫をおこなった。
▶︎日本食に合うマスカット・ベーリーAのワイン
続いて紹介する「FUNAO MADE MUSCAT BALLEY A 2021【赤樽熟成】」は、日本人が普段食べている料理にはなんにでも合う、と木口さん。
「西洋系品種の赤ワインは魚などと合わせることは難しいですが、マスカット・ベーリーAは日本で生まれた品種だけあって、魚介類とも合わせられるのです。お寿司はもちろん、肉じゃがなど家庭で普段食べるごく普通の料理との相性も最高ですよ」。
また、木口さんおすすめのペアリングは、なんとチョコレート。カカオの香りともマッチするということなので、お試しいただきたい。
「FUNAO MADE MUSCAT BALLEY A 2021【赤樽熟成】」は9か月間樽熟成し、ミディアムボディを目指して造ったワインだ。余韻として残る、マスカット・ベーリーAならではの甘い香りも楽しみたい。
▶︎桜色をイメージして造ったワイン「ブラッシュ」
最後に紹介するのは、マスカット・ベーリーAのロゼワイン、「マスカット・ベーリーA ブラッシュ(ロゼ)」。
「ブラッシュ」とは、アメリカ・カリフォルニア州において、赤ワイン用ぶどうを使って白ワインとほぼ同様の製法で造ったワインを指す言葉だ。
色合いは淡い桜色で、ひな祭りや花見の席で飲むのがおすすめだという。甘酸っぱい味わいが特徴なので、食中酒としてよりもデザートワインとして飲むのがよい。
さまざまな表情を見せる、ふなおワイナリーのマスカット・ベーリーAのワイン。気になった方は、公式オンラインショップからの購入も可能だ。
『ふなおワイナリーの取り組みと未来』
最後に、ふなおワイナリーの最新の取り組みと、目指す未来について紹介したい。
ふなおワイナリーは未来に向けたふたつの目標を持っている。ひとつは、「生食用ぶどうで日本を代表するワインを造りたい」と考えていること。もうひとつは、「新しい赤ワイン用ぶどう品種の開発」。フルーツ王国・岡山県ならではの、誰も味わったことのない新たなワインの開発に挑んでいるのだ。それぞれについて、詳しく見ていこう。
▶︎生食用品種のワインの可能性を追求
ぶどう栽培が盛んな岡山県では、マスカット・オブ・アレキサンドリア以外にも多様な品種が栽培されている。そして、生食用ぶどうには、これまでにワインに使用されたことのない品種も多い。
ぶどう栽培の歴史が長い岡山県は栽培のプロが多い地域。委託醸造を受け入れているふなおワイナリーには、地元の栽培家からさまざまな品種のぶどうをワインにしたいとの相談が寄せられるそうだ。
2022年にも実際に、ワインになったのは初めてではないかという品種のワインがいくつも誕生した。
「『クイーンニーナ』や『黒いアルファ』といった、珍しい食用品種のワインを醸造しました。美味しいワインができましたよ。食用品種として人気が高いシャインマスカットの高級ワインも開発中です」。
生食用ぶどうを用いて、ぶどうをそのまま食べているような味わいの華やかさのあるワインを醸造するのは、ふなおワイナリーの得意分野だ。
「世界中探しても、まだ存在していないような新しいワインを造りたいと考えています。フルーツ王国・岡山ならではのワインを目指したいですね。生食用品種から日本ワインを代表する存在となるワインを造るのが目標です。日本ワインの可能性を広げていきたいと思っています」。
ぶどうの美味しさをストレートに表現した、クリアな味わいが持ち味のワインを造るふなおワイナリー。今後は、ワインそのもののポテンシャルをより向上させるための研究にも取り組んでいく。
「お客様の期待になんとか応えたいという気持ちが大きいですね。飲み手や関係者の声を聴きながら、引き続き品質向上に取り組んでいきます」。
▶︎新たな赤ワイン用品種を開発中
ふなおワイナリーでは、新品種の開発にも積極的だ。地元の固有品種である「シラガブドウ」と、マスカット・オブ・アレキサンドリアの交配品種を開発している。
「『シラガブドウ』は、高梁川流域にのみ自生していて、環境省の絶滅危惧種に指定されている野生品種です。貴重な品種を後世に残すため、自治体や県内外の大学と連携し、マスカット・オブ・アレキサンドリアと交配させた赤ワイン用品種を開発しています」。
「シラガブドウ」は、NHKの連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルとなった、植物学者の牧野富太郎氏が命名した品種なのだとか。
「新品種は試験圃場で栽培中で、2023年には試験醸造する予定です。運よく素晴らしい新品種が交配できたので、ふたつの品種のそれぞれの個性とポテンシャルを素直に表現したワインを醸造していきます。お客様に味わっていただくのが楽しみです」。
新品種のワインは、ふなおワイナリーの個性を表現した赤ワインのブランドである「FUNAO MADE」シリーズとして展開していく予定だ。
岡山が誇る品種であるマスカット・オブ・アレキサンドリアの特性をしっかりと受け継いだ赤ワイン用品種が、未来まで長く受け継がれていくことを期待したい。
『まとめ』
ふなおワイナリーには、設立時から使用している「緑が時間を止める空間」というキャッチフレーズがある。
ワイナリーがあるのは、倉敷市船穂町の緑あふれる環境。地元の人が気軽に立ち寄れる場所だ。高品質なワインを醸造するワイナリーとして存在感のあるワイナリーを目指している。
マスカット・オブ・アレキサンドリアのよさを広めるため立ち上がったワイナリーは、時を経ても思いを引き継ぎ、船穂町らしさを全開にしたワインを生み出し続けている。
ぶどうそのものを食べているかのような芳醇なワインは非常に好評で、「G7倉敷労働雇用大臣会合」では地域を代表する味として提供された。
初の本格辛口ワインもラインナップに追加され、未来を見据えた新たな品種の開発も順調だ。フルーツ王国・岡山県ならではの高品質なぶどうの美味しさが凝縮されたワインを、ぜひ楽しんでみて欲しい。
基本情報
名称 | ふなおワイナリー |
所在地 | 〒710-0262 岡山県倉敷市船穂町水江611-2 |
アクセス | https://www.funaowinery.com/#access |
HP | https://www.funaowinery.com/ |