今回紹介するワイナリー「224winery(ニーニーヨンワイナリー)」は、瀬戸内海東部の播磨灘に浮かぶ小豆島にある。香川県小豆郡(しょうずぐん)土庄町(とのしょうちょう)から、小豆島の新たな魅力を発信しているのだ。
224wineryを設立したのは、醸造責任者の志賀隆太さん。志賀さんが子供の頃からのたくさんの思い出が詰まっている土地だという小豆島で、大好きなワイン造りを手がけている。
小豆島では初となるワイナリーを設立するまでには、さまざまな障壁を乗り越える必要があったが、今や島の魅力を発信する上で欠かせない存在となった224winery。
ワイナリーをオープンするまでの経緯と、ぶどう栽培・ワイン醸造に関するこだわりについて、志賀さんに詳しくお話いただいた。さっそく紹介していこう。
『224winery設立までのストーリー』
まずは、224winery設立までの物語をたどっていこう。大阪出身の志賀さんは、大阪を拠点に、30年以上事業を展開してきた実業家でもある。
志賀さんがぶどう栽培とワイン造りを始めたきっかけは、もともと大のワイン好きだったこと。仕事関係でアメリカ・カリフォルニアを訪問する機会が多く、訪れるたびにナパバレーやソノマのワイナリーに足を運んだ。現地のワイナリーは、ほぼ踏破したほどだという。
▶︎5か年計画でワイナリーを設立
「ワイン好きは昔からですが、飲むだけでは面白くないですからね。せっかくなら、作り手になって自分の味を造ろうと考えたのです。小豆島は私の母の出身地で、私にとっては子供の頃からの思い出がたくさんある土地です。いずれは小豆島に住みたいと思っていました。第二の故郷でワイン造りをするのが、かねてからの夢だったのです」。
当初は退職後に計画をスタートするつもりだったが、歳を重ねてからでは体力が持たないのではないかという考えに至る。そこで、50歳になったのを機に、5か年計画でワイナリー設立プロジェクトを開始した。
まず手をつけたのは、自社畑として使う土地を開墾することだった。山に生える木をチェーンソーで伐採し、切り株をユンボで掘り起こして整備。労力と時間がかかる作業のため、一度に終わらせることは不可能だった。少しずつ作業を進めて、整備ができた畑から順に、5年かけてぶどうの苗を植栽していったのだ。

▶︎小豆島に新たな産業を
畑の開墾を始めて5年目の2022年には、予定通り醸造免許も取得。だが、ワイナリー設立までには大きな壁がいくつもあり、決してかんたんな道のりではなかったという。
「まず、小豆島にワイナリーができるなんて初めてのことでしたから、誰もやり方がわからなかったわけです。税務署や保健所、森林課などの関係各所とのやり取りは本当に大変でしたが、めげずに突き進んできました。手続きには丸3年かかりましたが、だんだんと役場の皆さんも協力してくれるようになりましたよ」。
志賀さんがやり遂げたのは、ただ単に「自分のワイナリーを設立した」という事実だけではなく、島に新たな産業を興すという大きな改革をもたらした。志賀さんが諦めなかった3年間は、観光の島である小豆島に、今後さまざまな新しい産業が生まれるための礎を作った時間でもあったのだ。

『224wineryのぶどう栽培』
続いては、224wineryのぶどう栽培について紹介していきたい。大自然に囲まれた中での農業は、決して簡単ではない。強風で畑が壊滅的な被害を受けるなど、心まで折れそうな出来事も何度もあったという。
だが、そんな中でもあきらめずにぶどう作りを続けてきた志賀さん。224wineryの自社畑の特徴と、ぶどう栽培における工夫やこだわりを見ていこう。
▶︎ぶどう栽培は強風との戦い
志賀さんが自社畑の整備をスタートさせたのは2017年のこと。自社畑の標高は100mほど、小豆島の西の端、本州と四国の間を吹き抜ける風の通り道に位置している。
「自社畑は海風がまともに吹き付ける場所にあるので、年を経るごとに、土壌に海のミネラルが蓄積しています。ぶどうが吸収したミネラルは、ワインの味わいにもはっきりとあらわれていますよ。自然の力の偉大さを実感しています」。
唯一無二のテロワールを作り上げてくれる自然の力だが、恩恵だけを与えてくれるわけではない。強く吹く海風は、ぶどうを痛めつけることもあるのだ。
「年間を通して風が強い場所で、東南の風には特に注意が必要ですね。強風で枝が折れたり、房が落ちたりといった被害が出るので、風による被害で房が何割落ちても問題ないかを計算しながら房数を決めて栽培しています。2023年には垣根栽培のワイヤーに鳥害対策として防鳥ネットを張ったので、風対策としても効果がありました」。
ぶどう栽培を始めた年には、雨対策としてレインカットを設置したそうだ。だが、台風でレインカットがすべて飛ばされ、畑は全滅。もうぶどう栽培を辞めてしまおうかと思ったほどの被害だったという。
ぶどう栽培において雨対策は重要だが、風が強い場所ではレインカットは使えない。なんとか気持ちを切り替えた志賀さんはすべての苗を植え直し、翌年からはレインカットを廃止することを決意。風雨に晒された状態で育つことになった224wineryのぶどうは、雨風に耐えてたくましく育っている。

▶︎自社畑の特徴
かつては年間降水量が1300mmほどだった小豆島だが、近年はさらに増えてきている印象を持っているという志賀さん。小豆島でぶどう栽培をおこなう上での懸念点のうちのひとつが雨だ。
「小豆島は、大阪よりも湿度が高いですね。雨の多さは、西日本でぶどう栽培をしている人に共通する苦労だと思います。かなり自然に近い状態で栽培しているので、病気とどれだけうまく付き合うかが、今の私たちのテーマです」。
除草剤や肥料は使わず、農薬による防除も最低限に留めている224winery。花崗岩がメインの土壌は養分がなく非常に痩せているため、畑を造成する際には必要な成分を補充した。水はけに関しては非常によいが、一部の水はけが悪い区画では、暗渠を作って対策している。
豊かな自然が残る場所に作った224wineryの自社畑には、たくさんの鳥や獣もやってくる。
「鳥はもちろん、イノシシやシカ、タヌキが来ては畑で運動会をしていますよ」と、苦笑いの志賀さん。2022年に猪対策として鉄柵を設置し、効果を実感しているそうだ。
▶︎7種類のぶどうを栽培
小豆島には耕作放棄地が数多くあるため、島内のどのエリアでもぶどう栽培をすることは可能だった。だが、目が届く場所に畑を作りたいと考えて、自分が所有する土地にワイナリーと自社畑を作った。
224wineryの畑では、以下の7種類のぶどうを栽培している。
- カベルネ・ソーヴィニヨン
- メルロー
- マスカット・ベーリーA
- デラウェア
- シャルドネ
- シャインマスカット
- ビジュノワール
ぶどう栽培をスタートする際に、ぜひ手がけたいと考えていたのは、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、マスカット・ベーリーA、デラウェア、シャルドネ。そのほかにマルベックも栽培したいと思ったが、あいにく苗が手に入らなかったため、マルベックの交配品種であるビジュノワールを植栽した。
「欧州系品種は、日本の気候で育てると果皮の色が十分に出ないことがあります。その点、ビジュノワールは、日本の気候で十分に色づき、味わいもフルボディワインに仕上げることができるので満足しています」。
また、いずれも醸造用として栽培しているため、生食用としての流通が一般的なシャインマスカットも種ありで育てている。
「シャインマスカットは生食用にしようかと思いましたが、生食用ぶどうをワインにしても、味わいにパンチが出ないのです。そこで、小粒で種ありに作ったら、素晴らしいクオリティの甘口ワインに仕上がりましたよ」。
224wineryの自社畑に合っている品種として志賀さんが挙げてくれたのは、棚栽培をしているデラウェアだ。たくさんの房が健全に育ち、毎年収量が増えている。栽培管理に手間がかからず、樹齢が高くなるごとに房も大きくなってきているそうだ。

▶︎ぶどうの力を信じる
ぶどう栽培における志賀さんのモットーは、「ぶどうが持っている力を信じること」である。
「いろいろなところで栽培について勉強させてもらっていますが、みなさん、ぶどうの栽培方法はそれぞれですね。作り方は違っても、どれがあってるとか間違ってるとかいうことではないと思うのです。ぶどうはどんな荒地でも育つ植物なので、信用して育ててやれば立派に育ちますよ」。
管理をする上で特に気をつけているのは、草刈りだ。除草剤を使っていないので、頻繁に実施しなければならない草刈りは大変な作業。草が伸びすぎて房に触れると病気の発生源になることも考えられるので、念入りにおこなっている。
「ぶどうに対しては、『頑張って美味しい実を作れよ』、と声をかけて見守っています。ちょっとグレたヤツなんかもいますけど、それも自然な姿なので仕方ないですね」。
志賀さんの優しい声と気持ちは、きっとぶどうにしっかりと届いていることだろう。

『小豆島でしか造れないワイン』
ここからは、224wineryのワイン造りについて紹介していこう。ワイン造りへのこだわりを、志賀さんは次のように語ってくれた。
「『美味しいワインを造る』ことを目指しています。しかし、ワインは嗜好品なので、味の好みは十人十色ですよね。そのため、さまざまなシチュエーションや料理に合わせて楽しんでいただけるように、まずはワインの種類を増やしていきたいと思っています」。
▶︎豊富なラインナップを目指す
224wineryでは、自社栽培のぶどうのほか、買いぶどうを使ったワインも造っている。
「ワインは、誰と飲むか・どんな料理と合わせるかによって違う姿を見せてくれる存在です。私自身は、自分が美味しいと思うワインを造っているつもりですが、人によっては好みに合わないと感じることもあるでしょう。そのため、できるだけ多様なシチュエーションに合わせられて、楽しんでもらえるラインナップを目指しています。飲んで楽しいと感じていただけるワインを造りたいですね」。
20年以上かけて、カリフォルニアでたくさんのワイナリーを巡ってきた志賀さん。美味しいワインにもたくさん出会ったが、中には好みに合わないものもあった。だが、好みではないワインでも、そのワインをいかに美味しく楽しんで飲むかという点において、飲み手の技量が試されるのだという。
224wineryのワインも、とにかく楽しく飲んで欲しいと考えている志賀さん。ワイン関連のイベントでも、自然と場を盛り上げるような雰囲気になるよう工夫しているそうだ。
「せっかく造り手と飲み手が直接話せる機会なのに、楽しまないと損ですよ。畑の話なんて長々としていても飽きるでしょう。食事の席に花を添えるのがワインなんやから、アドリブをかまして、笑いが起きるように工夫してます。造り方がどうこうと語られてもシラけるでしょ、お酒はとにかく楽しく飲まないとだめですよ。私は大阪の人間やからね、何事も楽しんだもん勝ちという考えがあるんです」。
ユーモアたっぷりに話してくれる志賀さんの言葉からは、224wineryのワインを楽しく飲んで欲しいという気持ちが伝わってくる。今後も224wineryからリリースされるであろう豊富なラインナップを心待ちにしたい。

▶︎どんな味とも喧嘩しない「SHIMA CHAM(島シャン)」
224wineryのフラッグシップワイン「SHIMA CHAM(島シャン)」について紹介したい。「SHIMA CHAM」は、志賀さんにとってもっとも思い入れのあるワインで、この銘柄を造るためにワイナリーを創設したと言っても過言ではないそうだ。デラウェアにシャルドネをブレンドした瓶内二次発酵の「SHIMA CHAM」は、224winery自慢の1本に仕上がっている。
「SHIMA CHAM」と聞いて、大阪のとあるワイナリーのスパークリングワインを連想した勘のよい方もいらっしゃるのではないだろうか。そう、大阪府柏原市にある「カタシモワイナリー」の「たこシャン」である。それもそのはず、志賀さんはワイナリー設立にあたり、5年間かけてカタシモワイナリーで修行した経歴を持っている。
「『SHIMA CHAM』は、カタシモワイナリーさんの『たこシャン』のパクリですわ。門を叩いて喰らいついて、なんとか教えてもらった秘伝の味です」と、豪快に笑う志賀さん。
ワイナリー設立にあたり、自社のフラッグシップをスパークリングワインにしたいと考えた志賀さんは、全国のワイナリーからスパークリングワインを取り寄せた経験がある。その中でもっとも感銘を受けた銘柄が、カタシモワイナリーの「たこシャン」だったのだ。
「たこシャン」にヒントを得て造り上げた「SHIMA CHAM」だが、まったく同じ造りというわけではない。「たこシャン」はデラウェア100%だが、「SHIMA CHAM」はデラウェアにシャルドネを20%ブレンド。シャルドネの風味をプラスしたことで、独自性のある味わいに仕上がっている。
味わいは「たこシャン」同様、完全な辛口になる一歩手前で発酵を止めたことによる絶妙な風味が特徴で、寿司や肉料理など幅広い料理に合わせられる点が大きな魅力だ。
「小豆島の食材に合わせるなら、ハモがおすすめです。湯引きしてポン酢をかけたハモによく合いますよ」。
2021年ヴィンテージまではカタシモワイナリーに委託醸造していた「SHIMA CHAM」だが、2022年ヴィンテージからは自社醸造をスタート。口当たりに新たな味わいが出たそうだ。
「メインで使用しているデラウェアは、自社畑で栽培したものです。もともとのぶどうの味が全然違うので、ワインにしたときの深みと酸味が『たこシャン』とは異なりますね」。
志賀さんは毎年、できたワインをカタシモワイナリーに送って味を評価してもらっている。カタシモワイナリーの社長からは、「ミネラル感がたっぷりの、小豆島でしかできない味のぶどうなのだから、畑は一生大事にせえよ」というアドバイスを受けたそうだ。
師匠に認められる味を造り上げつつ、自社畑ならではのテロワールも表現してオリジナリティも掴み取ることができた224wineryの「SHIMA CHAM」。ぜひ一度味わってみたいものだ。

▶︎フレッシュさが魅力の新酒
224wineryの製品ラインナップの中から、もう1本おすすめを紹介しておきたい。
「2023年11月にリリースした銘柄が、自社栽培のマスカット・ベーリーAを100%使用した新酒の『Shima Rouge A 2023』です。小豆島ならではの味わいを楽しんでいただける、すっきりとした新酒ですよ。島のみなさんにはもちろん、小豆島に旅行で来てくれた観光客の方たちにもぜひ飲んで欲しいですね」。
新酒リリース時にはワイナリーでイベントを開催している224winery。イベントにあわせて小豆島を訪れ、現地で新酒を楽しむのもよいだろう。224wineryは、自治体や島主催のイベントにも数多く出店している。小豆島を訪問する際には、島の観光局が運営しているSNSなども確認してほしい。

▶︎みんなに愛されるワイナリー
志賀さんが目指しているのは、224wineryが小豆島を元気にする起爆剤のような存在となることだ。
地元の人と観光客に愛されて、スタッフや島の人はもちろん、島の外から来てくれるボランティアの人たちとも一緒に育んでいけるワイナリーになりたいと話してくれた。
さまざまなシーンで多くの人に助けられたからこそ、今の224wineryがある。ワインの味が美味しいということはもちろん、『みんなで作り上げたワイナリー』だということもたくさんの人に知ってもらえるように発信していきたいと考えているのだ。ワイナリーの知名度をアップさせることで、島の観光にも今後さらに寄与できるだろう。
「小豆島に、ほかにもワイナリーができたら面白いし、なおよいですね。私は長く商売をしてきた経験があるので、事業を運営する上でのよい時期だけではなく、どん底も知っています。これまでの経験をしっかりと生かして大好きな小豆島に貢献するため、着実に進んでいきたいですね」。
事業を長年手がけてきた志賀さんならではの、重みのある一言だ。

『まとめ』
瀬戸内海を抜ける強い風と共にある小豆島、土庄町。厳しい自然環境はときに手強い敵になるが、何物にも変えがたい恵みをもたらしてくれる味方でもある。
224wineryはこれからも、小豆島ならではのミネラル感たっぷりのワインを次々に生み出し、たくさんの人に愛されることだろう。そして、小豆島は224wineryとともにますます魅力的な土地として多くの人を惹きつけるに違いない。
最後に、2023年ヴィンテージのワインについて紹介しておこう。販売中の2023年ヴィンテージは4銘柄。いずれも、公式オンラインショップで購入可能だ。
・「デラウェア 2023」(白)
島シャンのメイン品種であるデラウェアを、完熟の状態で醸造。果実味あふれるジューシーな口当たりで、余韻の長い白ワイン。
・「アルバリーニョ 2023」(白)
やや辛口の白ワイン。蒸し牡蠣にオリーブオイルとレモンをかけると最高のマリアージュ。
・「Shima Rouge A 2023」(赤)
小豆島産マスカットベーリーA 100%のフレッシュフルーティーな赤ワイン。色調は可愛らしいが、香りと味わいは上品で美人タイプ。
・「木樽熟成 Merlot 2023」(赤)
ワイナリーとして初めての木樽熟成に挑戦したワイン。ピュアなぶどうに木樽のスパイシーさが加わり、味わい深いワインに仕上がっている。
ところで、224wineryというワイナリー名の由来が気になった方も多いのではないだろうか。
「私は誕生日が2月2日、名字が『志賀』なので、2×2=4で『ににんが志賀』です。こういうのはね、コテコテのベタなのがいちばんいいんですよ。うちのワイナリーの看板犬はドーベルマンですが、名前は『コロ』ですから」と、志賀さん。シンプルさに遊び心を感じる。
小豆島を訪れる機会があったらぜひ、224wineryまで足を伸ばして欲しい。きっと志賀さんとコロが、明るい笑顔であたたかく出迎えてくれるに違いない。

基本情報
名称 | 224winery |
所在地 | 〒761-4114 香川県小豆郡土庄町甲3406-1 |
アクセス | 土庄港から車で約6分 |
HP | https://224winery.com/ |