実は農業が盛んな都市・神戸が誇る『神戸ワイナリー』の歴史

実は農業が盛んな都市・神戸が誇る「神戸ワイナリー」の歴史「神戸の名物と言えば?」そんな風に尋ねたならば、多くの人は「神戸ビーフ」と答えるに違いない。それでは「神戸ビーフにぴったりのワインは?」と訊かれたら、あなたはなんと答えるだろうか?

神戸っ子なら、きっとこう答えるだろう。「神戸ワインです!」

神戸というと港町、観光都市というイメージが強い。しかし神戸市は農業にも強いのだ。そんな神戸の一面を、ワインを通して見ていきたい。「神戸ワイナリー」のワイン事業の部長・大西省三さん、課長・安居俊和さん、そして主任・松本紀之さんにお話を伺った。

『「神戸ワイナリー」38年の足取り』

「1983年の創業ですから、38年やっているんです」とワイン事業部長の大西さんは 語り出した。

神戸市は沿岸部を中心に商業や工業が発展している。しかし同市は広大だ。六甲山 の南西側に相当する西区の丘陵地域や北区の山間部は、どうしても発展の足取りが 重くなりがち。神戸ワイナリーの設立に先立つ1969年に米の生産調整が行われ、農 業を巡る環境は変わりつつあった。

折しも1970年から「東播用水事業」という水利事業が行われた。日本有数の小雨地 帯で、古くから水不足に悩まされてきた西区や三木市など、東播磨地域で農業振興 が計られたのだ。この事業に乗る形で、当時の第13代市長・宮崎辰雄さん(故人) が「神戸には神戸ビーフがある。ビーフに合うものとしてワインがあるじゃないか 」と提案し、ワイン造りが開始されたのだ。
「契約農家さんもヨーロッパに行って ぶどうの栽培を勉強したんです。ですから栽培品種はぜんぶ欧州系のぶどうです」 と大西さんは語る。

「神戸ワイナリー」の事業は、「神戸ワイナリー農業公園(以下「農業公園」)の 開園とともに本格的に始まった。31ヘクタール(甲子園球場8個分)という広大な敷 地を誇る同公園は、丘陵地に広がっている。目をこらすと、遠方に明石海峡を捉え ることもできる。2018年度の年間来場者数は19万人を超える。
農業体験をはじめ、 バーベキューや垂水区から移築した古民家で憩うこともできる。休暇を楽しみつつ 農業の振興にも貢献する施設ということで「農業公園」というネーミングになって いるそうだ。

この公園がオープンした1980年代前半は、図らずも「第3次ワインブーム」だった 。ワイン消費の裾野が広がっていたという背景もあり、「神戸ワイナリー」の船出 は順調だった。ぶどうの苗木が成長するに従って醸造量も増加していく。

やがて1998年になると「赤ワインブーム」が到来。年間110万本という自社の最高販 売数を記録し、ワイナリーも契約農家も活況を呈した。

しかしここでブレーキが掛かる。大手量販店が直接海外のワイナリーと契約してバルク(大量一括)で安価なワインを買い付け、自社ブランドを広げるという動きが出てきたのだ。チリ産や南アフリカ産などの第三国の安いワインもどんどん入ってくる。
海外産の格安ワインが台頭すると、小売店の店先から国産ワインの姿が消え
ていった。

生産数を追っていた「神戸ワイン」は在庫過多に苦しみ始めた。営業しようにも置いてもらう棚がない。積み上がるばかりの在庫の整理に苦慮し、ついには生産調整に乗り出さざるを得なくなった。
創業以来、契約農家との間に全量買い取りの約束を取り交わしていたが、「市場の縮小に併せて収穫量を販売量に合わせる」と方向を転換。買い取り制限を行い「量より質」へと舵を切った。

「うちは最盛期でぶどうの収量が1700トンあったんです。全て神戸市内のぶどうですけどね。それが今は300~400トンくらい。苦渋の選択でした」(大西さん)

企業経営に浮き沈みはつきものだ。好調の後には不調が、不調の後には好調がやって来る。在庫の処理には長年苦労したものの、5年ほど前にようやく適正量まで減らすことに成功。今度はブランドを高める戦略に打って出た。

まず契約農家に協力を取り付けて、ぶどうの品質重視を徹底、輸出にも力を入れた。同社はワインのみならずブランデーも蒸留している。ブランデーはワインから造られるため、増えすぎた在庫の処理にもなる。ラインナップも増え、一石二鳥となるのだ。
同社のブランデーは香港、マカオ、上海といったアジア圏で高い評価を得ていたが、それがワインにも波及していく。その結果、輸出は好調に数字を伸ばしているという。

また東京の成田空港、名古屋の中部国際空港セントレアなど、国際空港の免税店でも販売が始まっている。
「特にセントレアではコロナ禍にも関わらず、去年の秋に国際線の免税店で販売会を催しました。各地で神戸ワインのブランド力向上の手応えを感じています」と大西さんは満面の笑みを浮かべた。

月2回の巡回で契約農家との関係性を築く

「神戸ワイナリー」は農業公園内にぶどうの圃場(ほじょう:農産物を育てる場所。田、畑、果樹園、牧草地、放牧地のいずれにも使える言葉)を所有し、ワイン用ぶどうの栽培を行っている。

「面積は約2ヘクタールでリースリングとカベルネ・ソーヴィニヨンを中心に栽培しています。北区と西区にある5つの農事組合法人さんと契約しているんですが、そこは併せて約40ヘクタールですね。
シャルドネ、メルロー、信濃リースリング、カベルネ・ソーヴィニヨンを栽培してもらっています」と製造課長の安居さんは説明する。

創業当初は、セイベル9110やセイベル13053といった栽培しやすいぶどうから定植を開始したという。しかし「世界中で栽培されている高級品種に手を付けなければ始まらないだろう」ということになり、欧州系のメジャーな品種も植えるようになった。
さらに、ドイツでぶどうづくりを学んだメンバーの希望でリースリングも導入。長野県にある「マンズワイン」の小諸ワイナリーから、日本で交配した信濃リースリングの苗木を分けてもらっている。

「いままでは赤2品種と白3品種の欧州系ぶどうでやってきましたが、新しい品種の栽培も始まっています。白でしたらプティ・マンサン、ソーヴィニヨン・ブラン。赤の方はシラー、タナ、プティ・ヴェルド、ヤマソービニオン。その他にも神戸に合った品種が選定できていますから、新しいワインを造っていこうと思ってます。一部の品種は既に商品化したり、少しずつブレンドに回しています」(安居さん)

現在の契約農家は平成に入ってから付き合いが始まったところが多いが、関係性は良好で収穫時期の調整などもうまく話し合えているという。

「弊社も含めて神戸市農政担当さん、JAさん、農業改良普及センターさん(県の農業機関)と連携して5月から収穫前まで大体2週間に1回くらいの頻度で各農家さんの畑を巡回しています。
病気や虫が出ていないか調査しているんですね。そのとき農家さんに『べと病が出ているので薬を撒いて下さい』など随時連絡しながら栽培状況の確認をしています。ですから農家さんとは近い間柄で、その積み重ねが良い関係性に繋がっているのだと思います」(安居さん)

安居さんたちから契約農家にお願いしていることは、概ね次の2点だという。ひとつはぶどうの品質を高めるため、10アールあたり1トンに収穫量を調整すること(かつては10アールあたりの収穫量は1.5トンだった)。

もうひとつは病気対策のため、結実直後のタイミングで「除葉(ぶどうの樹の葉の一部を除去してしまう作業)」を行うこと。日当たりを良くして灰色カビ病を防いだり実の青臭さを取り去るためだ。

特記すべきは栽培効率が上がり日光が当たって風通しをよくするため、当初から棚ではなく垣根で栽培していることだ。
国内では先駆的事例のひとつに数えられるのではないだろうか。語られない苦労も多かったことだろう。

神戸のテロワール

「神戸ワイナリー」では家飲みタイプから高級品まで幅広いワインを造っている。年間の総販売量は30万本弱。そのなかでも高級なものはより収穫量を制限し、ワインのラインナップに合わせたぶどう作りを心掛けている。
なんといっても一番のこだわりは、神戸の土と太陽、それに風とぶどうでワインを造っていることである。もっとも一口に神戸と言っても、西区と北区には環境面での相違がある。

まず西区は年間降水量が少ない瀬戸内気候で、雨は年間1000mm程度。晴れの日が多い。土壌はカリウムやマグネシウムが少なく酸性化しやすいので、牡蠣殻を入れてpHを調整しながら栽培している。

対する北区は山間部なので若干雨が多く、年間降水量は1200mm。平均気温も西区より2℃程度低い。マグネシウムやカルシウムに恵まれた土壌で、酒米の山田錦の産地でもある。
つまり酒米に適した土壌でワインを造っているのが北区の圃場だ。

西区と北区では気候が異なるため、同じ品種を作っていても、収穫時期に1週間程度のずれが生じる。この点が収穫時期の調整に有利に働いているという。畑を作り始めた当初はどちらの区の圃場も栄養分が不足していた。
そのため、神戸牛の牧場から堆肥を分けてもらい、毎年10アールあたり3トンをすき込んでいたという。しかし最近では堆肥を入れるのはやめて、草生(そうせい)栽培に切り替えている。
草生栽培とは、除草せず耕したり刈り取ったりした雑草を土に還してしまう農法である。

同じ市内でありながらテロワール(ぶどう畑をとりまく自然環境)に幅があることは、ワイン造りに奥行きを与えているに違いない。 

当たり年だった2020年の白ワイン

ここで製造主任の松本紀之さんにバトンを繋いでいただいた。

「日本各地にワイナリーさんが増えています。個人経営されているところも増えて、『全量自社畑のぶどうで造っています』というところも珍しくないと思うんです。

でも1983年に醸造を開始していて、しかもかなり規模の大きなワイナリーでありながら、神戸産のぶどう以外使っていない。
これが弊社の強みでもあり、アピールポイントでもあると思うんです。神戸市そのものは案外広いんですが、ぶどうが良い状態のまま収穫から仕込みまで短時間でこなしています」

早朝から午前中の涼しい時間帯に収穫を済ませ、速やかにワイナリーに搬入。予冷庫で15℃に冷やしてから搾汁する。果実の良さをそのまま凝縮することに、徹底してこだわっているのだ。
原料となるぶどうが持っているポテンシャル。それぞれの樹が持つ個性。そしてワインを醸す酵母の力。それらを最大限に活かすワイン造りを目指す。
圃場とワイナリーが近場にあるからこそ実現できることがある。

松本さんの発言からは、神戸市内で完結している生産体制に強い矜持を感じる。「神戸ワイナリー」のワインは、神戸という風土を液体で表現したものなのだ。そんな同社のラインナップの中から、お薦めの商品を上げてもらった。

「元々はブランデーの原料として仕込んでいたものなんですが」と前置きしつつ紹介していただいたのは、2021年2月に発売された「無添加(白)」という少量生産の1本。同社が初めて挑んだ無添加の白ワインだという。

ブランデーのベースワインには亜硫酸(酸化防止剤)を添加しない。これには酸化、雑菌汚染などのリスクが伴うのだが、今年造ったこの原料ワインは非常に出来がよかったという。今年度は特に白ブドウの品質が高かったのだ。
これにより、青リンゴのようなさわやかさな香り、蜂蜜のような濃厚な甘さ、そしてクリアな酸味がそろった。そのため、透明感、清涼感が際立ったワインに仕上がったのだ。ブランデーの原料ワインを長く造ってきた同社だが、この1本は出色の出来だったという。

この商品を特別たらしめているのは、飲み口だけではない。コルク栓ではなく王冠を使っている点もユニークだ。無添加かつ無濾過でボトリングしているため、酵母を残したまま封じ込めている。酵母のエサとなる糖分はほぼ食べ尽くされているので発酵は止まっているものの、微量な炭酸が発生する。
通常のコルク栓だと内圧が上がったときに、コルクが抜けてしまうかも知れない。そこでワインにも関わらず、念のため王冠で栓をしているのだそうだ。

「ご自宅にワインオープナーをお持ちでないご家庭もあります。でも栓抜きだったらありますよね? 飲んでいただききやすいかな、と考えてひとつの試みとして形にしました」(松本さん)

松本さんは白ぶどうでいくつかのラインナップを新登場させた。それが12月に発売した「皮醸(かも)し」と「無濾過」だ。

「皮醸し」は赤ワインのようにぶどうを丸ごと粉砕して白ワインを醸造した1本。「無濾過」は文字通り濾過をせず造ったワインだ。

「コロナ禍による外出自粛で、家飲みされる方が多くなりました。ご要望を募ったところ、本物志向を望む声が多く、それを反映させたいという気持ちがありました。もちろん出来の良い白ぶどうを活かしたい、という考えも働いています」と松本さんは開発意図を語った。

「神戸ワイナリー」のワインを海外の方にも気軽に飲んでいただきたい

「神戸ワイナリー」といえば、2019年に開催された G20大阪サミット首脳夕食会で同社の「ベネディクシオン・ルージュ」が提供されたことが記憶に新しい。日本ワインの中から唯一選ばれた赤ワインということで話題になった。
メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを1対1でブレンドした逸品。このワインのために、圃場で摘み取るぶどうを選別し、小さなタンクを使って手仕込みで丹念に醸造している。
先進国の首脳たちに味わってもらう機会を得たわけだが、これを機に世界進出を考えるということはないのだろうか?

「色々な方に神戸に来ていただいて、そこから広まっていくのが理想ですね。世界的なコンペティションで賞をとれば、名前を売るのは簡単です。しかしそれが重荷になってくると思うんですよね。しんどくなると、ワイン造りが楽しくなくなるんじゃないでしょうか。
今は楽しくワインを造れています。その延長線上で、弊社のワインが世界で愛飲されたら、という思いはあります。海外の方が弊社のサイトから気軽に購入できるように、もうすこし使い勝手の良いシステムに変えていくことも考えています」

松本さんたちが思い描いているのは、こちらからなにかを仕掛けることではない。神戸で同社のワインを楽しんだ外国人を起点に、徐々に世界に広まるという自然な形だそうだ。

訪日旅行客や全国の方々に楽しんでもらう一方で、地元神戸在住の市民に愛されるワインを造っていきたいという思いもある。

神戸のワイン造りは農業振興策の一環として始まった。神戸市は総面積の約10%が農地である。農業産出額は政令指定都市の中では全国6位。人口100万人以上の都市のなかでは最も大きい。特定の商品作物を大量につくるというよりも、多種多様な作物を小ロットで生産する農家が多い。
消費地である都市部と農村部の距離が近いため、傷みやすい野菜の生産にも有利だという強みもある。

そんな神戸の都市農業の底力を端的に示しているのが、「神戸ワイナリー」なのである。

転換期の先に見える光

最後に再度、大西さんに語り手になっていただき、今後の展望を伺った。

「今までお世話になっていた大手量販店向けの出荷は、厳しくなってくると考えています。原料の買い取り価格がネックになりますから、海外産の格安ワインには太刀打ち出来ません。
ですからホテルや飲食店などの業務筋の販路を拡充していきたいですね。当然、更なる品質向上を計っていく必要があります」。

「神戸ワイナリー」は、地元神戸の老舗日本酒メーカー「白鶴酒造」との共同開発商品「梅ブランデー雫(しずく)」を2020年9月に発売している。
国産梅酒をベースに、純米酒とホワイトブランデーをブレンドした、まさに和と洋のコラボレーションといえるリキュールだ。

こうした試みも踏まえつつ、一般流通から企業筋、そして「農業公園」への来場を呼び込んで販売するという方向へ転換を図っていきたいそうだ。

過剰在庫の清算という、ひとつの危機を乗り越えた「神戸ワイナリー」。だが、困難をひとつ乗り越えると、次の困難が立ち現れてくる。

たとえば気候変動。世界的な傾向だが、神戸でも、この10年ほどで急速にぶどうに厳しい気候に変化してきている。ぶどうの生育には昼夜の温度差がはっきりしている方が好ましい。
気温差の縮小や、夏場の酷暑にぶどうの樹がまいっているという。シャルドネが完熟する前に痛み始めたり、カベルネ・ソーヴィニヨンが色付く前に熟したりもする。

そんな悲しい現実を前にして、納得出来るワインを造り続けることが課題になっているそうだ。もちろんこれは神戸だけの問題ではなく、日本の平野部全般で顕著に表れている傾向である。

さらにもう一点、日本ワイン間の競争がある。日本ワインのワイナリーはレベルの高いところが多い。したがって「日本ワインブームとはいえ、追い風とは考えていません」と大西さんは気を引き締める。
「今、弊社は転換期にあって職員一同しんどいです。しかし明るい兆しが見えていますから、みんなで頑張ってやっています」

神戸ビーフに合うワインを。そのビジョンを示した宮崎市長の志は、40年の歳月を経て大輪の花を咲かせた。これからもかぐわしい香りを振りまきながら、咲き誇ってくれるに違いない。

基本情報

名称神戸ワイナリー
所在地〒651-2204 
兵庫県神戸市西区押部谷町高和1557-1
アクセス電車 神戸市営地下鉄西神中央駅より以下の神姫バスをご利用ください。
10番のりば発 80・81系統
11番のりば発 20系統
10番のりば発 120・27系統
車 第二神明道路「玉津インター」より、北へ約20分
新神戸より山麓バイパス西神中央線で約40分
山陽道、神戸淡路鳴門自動車道 「神戸西インター」より西へ約10分

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