『GozanWineWorkS』ぶどうのおいしさをそのままに表現した、優しい味わいのワインを造る

長野県中野市にある「GozanWineWorkS」は、大のワイン愛好家がワイナリー設立を目指して創業。2019年に圃場を開設し、2023年に委託醸造で初リリースを迎えたばかりだ。ワインを造る側になりたいという長年の夢を叶えた金子修一さんが代表を務める。

中野市出身の金子さんは、東京で仕事をしながら週末ごとに長野に通い、ぶどう栽培をする生活を数年続けてきた。そして、2021年には中野市に移住し、2023年には委託醸造したワインを初リリース。

GozanWineWorkSの自社畑で栽培されたぶどうは、どんなときでもそばに寄り添ってくれるやさしい味わいのワインになる。世界各地のワインをこよなく愛する金子さんが目指すのは、ぶどうそのものの個性や美味しさをストレートに表現したワインだ。

今回は、そんなGozanWineWorkSの立ち上げまでの経緯と、ぶどう栽培・ワイン醸造におけるこだわりについて、金子さんにお話を伺った。ぜひ最後までお読みいただきたい。

『GozanWineWorkS 設立までの歩み』

まずは、金子さんとワインとの出会いから、GozanWineWorkSを創業するに至った経緯までを紹介していこう。いくらワインを飲むのが好きな人でも実際にたったひとりで圃場を拓きワイナリー設立を目指すのは至難の業ではないかと想像できる。
ワインを愛する飲み手として長い年月を過ごしてきた金子さんが、自分もワインを造ろうという決心をするに至ったのには、どのようなきっかけがあったのだろうか。

▶︎ワインとの出会いから、ぶどう栽培を始めるまで

金子さんがワインを好んで飲むようになったのは、結婚後のこと。ワイン好きだった妻に勧められたことがきっかけだった。

「ワインを飲むようになって、かれこれ35年ほど経つでしょうか。さまざまなワインを味わう中で、ワインの美味しさの秘密は一体どこにあるのかという純粋な疑問を持ったのが、ワイン造りに興味を持ったきっかけですね」。

ワインについてより詳しく知りたいと考えた金子さんは、2008年頃からワインに関する勉強を続けてきた。また、自分でもワインを造りたいと考えていることを、周囲にも強くアピールし続けてきたそうだ。

当時は東京在住だったが、長野県中野市に住む両親の介護が必要になり、毎週のように地元に通うことになった。その後、両親を看取るまで続けた週末介護だったが、故郷に通う生活の中で、自然に触れる心地よさを思い出したそうだ。

自分が思い描いているようなぶどう栽培を、地元・中野市でならできるだろうとの想いを強く持っていた金子さん。実家は農家ではなかったのでまずは畑探しから開始した。そして2018年の秋口、金子さんの希望を知った友人がぶどう畑として使える土地を紹介してくれたのだ。

「ぶどう栽培に本格的に取り組むなら一刻も早く始めるべきだと考えました。紹介された1haの畑を借りることをすぐに決めて、すぐに畑の造成と苗の手配をおこない、2019年のゴールデンウィークに2,500本の苗を植栽しました」

だが、東京での仕事は続けていたため、長野に移住したのは2021年1月のこと。移住までの2年間、平日は東京で働き、週末には中野市に通って畑の管理をするという多忙な生活を続けたのだ。

▶︎ぶどう栽培とワイン造りを学ぶ

ワインについてより詳しく学びたいと考え、2021年には千曲川ワインアカデミーの7期生として参加。

また、各地のワイナリーを見学してまわり、長野県の北信エリアで開催されていた県主催のワインについて学べる講座も3年間受講した。さらに、高山村のワインぶどう研究会にも所属し、ぶどう栽培とワイン造りに関しての知識をつけていった。

「農業経験がまったく無かった素人がワイン用ぶどう栽培を始めるにあたって、アドバイスやご指導をいただける多くの方々と出会えたのが大きいです」。

週末や連休に畑での仕事をしながら、並行して貪欲に知識を吸収していった金子さんの努力は計り知れない。

忙しくはあったが、充実した日々の中で愛情を込めて育てたかいあって、2021年に無事に初収穫を迎えたGozanWineWorkSの自社畑。収穫したぶどうは、委託醸造でワインにした。続く2022年も委託醸造し、造ったワインは、2023年6月に晴れてGozanWineWorkSとしての初リリースを迎えたのだ。

「いつかはワインを造る側に回りたいという思いをずっと持ち続けてきたので、初めてのワインをリリースできて感無量でした」と、金子さんは屈託のない笑顔を見せてくれた。

▶︎ワイナリー名の由来

GozanWineWorkSというワイナリー名は、自社畑から見渡せる、雄大な「北信五岳」に由来する。「斑尾」「妙高」「黒姫」「戸隠」「飯縄」の5つの山の総称である北信五岳の「Gogaku」を、スペイン語で「楽しむ」「喜ぶ」という意味を持つ動詞「gozar」の活用形である「Gozan(五山)」に読替えたネーミングなのだとか。

「将来は、私の後を引き継いでくださる方を見つけたいと思っているので、あえて『ドメーヌ』ではなく、『ワインワークス』という名称にしました。また、サブタイトルとして『wine&more』とつけたのは、『ワインを軸に人生を楽しもう』という気持ちを込めたかったからです」。

ワインを心から愛している金子さんらしい素敵なワイナリー名である。

『GozanWineWorkSのぶどう栽培』

次に紹介するのは、GozanWineWorkSのぶどう栽培について。GozanWineWorkSの自社畑は、もともと牧草地として使われていた土地だ。


偶然紹介された畑ではあるが、ぶどう栽培向きの土地だと感じているという。自社畑の土壌の特徴や、栽培しているぶどうについてお話いただいた。

▶︎自社畑の特徴と栽培品種

長野県北部の中野市にあるGozanWineWorkSの自社畑の標高は450mほど。千曲川沿いにあって日本海から遮られることなく風が吹き抜ける。丘の頂上にあるため日照量も十分で、土壌は粘土質、昼夜の寒暖差が大きいのが特徴だ。

畑が位置するのは千曲川の直右岸、圃場西側の切り立った約100mの崖の下を流れている。千曲川とは、日本最長河川である信濃川の地域名称で、新潟県境から長野県に入ると千曲川と呼ばれる。

「まさに北信のサン=テミリオンといったところでしょうか。実は、愛車の軽トラのナンバーも、サン=テミリオンにちなんだ3103です」と、笑う金子さん。

GozanWineWorkSが栽培しているのは、メルロー、カベルネ・フラン、シャルドネ、ピノ・ノワールの4品種。いずれも、2019年に植栽したものだ。また、2023年には新たにバルベーラも植えた。

「実は、ワイン好きになるきっかけとなりその後も常に私に寄り添ってくれている特別な品種はイタリアの『ヴェルナッチャ(VERNACCIA DI SAN GIMIGNANO)』で、どうしても植えたかったのですが、苗が入手できず断念しました」。

また、圃場の特徴から、フランス・ボルドー近郊のサン=テミリオンで使われるメルローとカベルネ・フラン、そしてブルゴーニュのシャルドネとピノ・ノワールなど、自らが好きなワインの品種を選んだ。ピノ・ノワールは難しい品種だが、どうしてもやってみたいとの気持ちが先走ったかもしれないと話してくれた。

2019年に植えた4品種のうち、栽培のしやすさや生育具合は品種によって大きく異なる。植栽した苗の株数に対して、観察時に生育状況が「良好」または「ふつう」だと判断された株数の割合を「活着率」と呼ぶが、GozanWineWorkSの自社畑で活着率が高かったのは、赤ワイン用品種だ。一方、シャルドネは、初年度に植栽した苗の約4割は生育が悪く、翌年に植え直す必要があった。

「本来土地を選ばないシャルドネは土地に合わなかったというわけではなく、台木と植えた区画の地力、排水など複合的な問題があったようです。台木を変え、暗渠(あんきょ)を作るなどの対策を実施し、年々生育状態が改善されてきました」。

施肥などはおこなわず、自然な状態でのぶどう栽培を実践しているGozanWineWorkS。初仕込みしたシャルドネは、ミネラル感があり酸がしっかりと残ってすっきりとした美味しいワインになった。

「まだ若木なので、これからの成長に期待したいです。現時点でも塩味やミネラルの風味といった土地のよさが出てきているので、年数を重ねればもっとよくなりそうです」。

メルローとカベルネ・フランに関しては、当初の読み通り土地に合っていると感じている金子さん。品種ごとに違いはあるものの、それぞれにうまく育ちつつある自社畑のぶどうに、今後さらなる期待が集まる。

▶︎日々の観察を大切に

ぶどう栽培において金子さんがもっとも大切にしているのは、日々の観察だ。

「毎日畑に出て観察することが重要です。2年間、土日しか畑を管理できない状態で栽培をしてきたからこそ、しっかりと観察することの重要性を改めて実感しています。ひとりで畑に出ているので、ぶどうの樹に『頑張れよ』と語りかけながら作業をしています」。

はにかんだ笑顔で話してくれた金子さんの穏やかな口調からは、常に愛情たっぷりにぶどうを見守っている様子が容易に想像できる。

毎日しっかりと観察しているからこそ、幹や枝葉のちょっとした変化にもすぐに気づくことができる。異変があれば早めの対策が可能になるので、ダメージを最小限に抑えることも可能だ。こまめな観察こそが、最終的なぶどうの出来に大きく直結するのである。

『GozanWineWorkSのワイン醸造』

続いては、GozanWineWorkSのワイン造りにフォーカスしていこう。GozanWineWorkSはこれまで、3回の委託醸造をおこなってきた。
金子さんはどんな味わいを目指してワインを造ってきたのか。また、今後挑戦したいワインについても尋ねてみた。

▶︎GozanWineWorkSが目指すワイン

GozanWineWorkSが目指すのは、ぶどうそのものが持つ個性や特徴をストレートに表現したワイン。素材のよさをいかに引き出すかに重点を置いたワイン造りをおこなっている。

「委託醸造先の醸造責任者の方に相談して、アドバイスをいただきながら私自身が希望する味わいが表現できるように勉強中です。ぶどうのおいしさをしっかりと表現したワイン造りをしたいと考えています。私は自分が造りたいワインがはっきり決まっているタイプなので、目指す味わいが出せるように、仕込みのお手伝いをしながら学ばせていただいています」。

自身の課題は、経験不足であることだと金子さん。将来的にはワイナリーを設立する予定なので、独立するときのためにさまざまな対処法を身につける必要がある。そのため、今は委託先に指導してもらいながら、経験値を積んでいる段階なのだとか。

「ぶどうの個性をしっかりと表現するためにはどうすればよいのかを検討しています。補糖補酸はもちろん、樽やチップ、選抜酵母も使わない方がよいかなどですね。もちろん、品質の維持向上が最優先ですが、最終的にお客様に受け入れていただけなければ意味がありません。造りたいワインが明確でも、売れるワインとの一致を目指す上ではまだまだ経験不足です」。

▶︎大好評のラインナップ

GozanWineWorkSから初リリースした銘柄5種類を紹介していただいた。

・Gozanルージュ2021 メルロー、カベルネ・フラン
初リリースにして初ヴィンテージワイン。メルロー56%、カベルネ・フラン44%、収穫量が少なく単一で仕込みは難しかったためにブレンドスタイルに。アルコール度12%、醸造委託先はたかやしろファーム&ワイナリー。
「メルローとカベルネ・フランをそれぞれ発酵した後にブレンド。ステンレスタンク貯蔵熟成10か月、ウッドチップ使用、瓶詰め後6か月以上熟成して発売開始しました。フラン由来のアーシーなニュアンス、メルローの果実味、そこにウッディな要素が少し加わり複雑性も感じられます。サン=テミリオンスタイルの仕上がりです」。

・Gozan2022シャルドネ
2022年に収穫、アルコール度12%、醸造委託先はマザーバインズ。
「透明感のある外観、冷涼地ですが若干トロピカルなニュアンスも。噛むと塩味やミネラル感そして旨味、爽やかでキレイな酸がありバランスのよいワインになりました。とても苦労をしている圃場ですが大きな可能性を感じています」。

・Gozanスパークリングロゼ2022 シャルドネ、ピノ・ノワール
2022年に収穫、シャルドネ75%、ピノ・ノワール25%、アルコール度12%、醸造委託先はマザーバインズ。
「ピノ・ノワールを除梗破砕して2日間浸漬、全房のシャルドネと合わせて圧搾し発酵。オレンジがかった淡いピンク色。シャルドネのシャープな酸と、ピノ・ノワールからくるボリューム感があります。香り・果実味とも豊かでグレープフルーツのような若干の苦みもよく、舌にピリリと感じる程度の微発泡で単独でも多様な料理やお菓子と合わせても楽しめます。価格も抑えており気軽に楽しんでいただけます。リピート購入してくださるお客様も多く人気の銘柄です」。

・Gozan2022メルロー
2022年に収穫、アルコール度11.5%、醸造委託先はマザーバインズ。
「透明感のある赤紫色、ベリー系の香り、軽い口当たりでボディは弱めですがまだ若木の現在は重いワインを目指しておらず、バランスのよい可愛らしいワインになりました。自社畑の粘土質圃場に合っており、今後地勢地質の反映とともに、メルローの特徴がさらにしっかり開花してくると考えています」。

・Gozan2022カベルネ・フラン(ロゼ)
2022年に収穫、アルコール度11%、醸造委託先はマザーバインズ。
「透明感のあるオレンジがかった赤色の外観、ベリー系にハーブの香り。北信地区におけるカベルネ・フランの可能性が言われていますが、色付きの悪さが課題となっており当園の2022年のカベルネ・フランも色づきは深くなりませんでした。しかし、味わいはしっかりしておりカベルネ・フラン由来のアーシーなニュアンスも感じられます。ほどよい粘性を感じる口あたりでバランスもよく、色合いとともにチャーミングなワインになりました。とくに女性の皆さんに大人気です」。


ファースト・ヴィンテージで、まさに自分好みのワインを造った金子さん。夢を実現していく中では、苦労も多いに違いない。だが、ワインについて語ってくれる金子さんの笑顔は、好きなことに取り組むことがいかに楽しく素晴らしいかを、私たちに教えてくれている。

▶︎GozanWineWorkSのワインの楽しみ方

GozanWineWorkSが造るワインは、幅広い層の人たちに、気軽に飲んでもらうことを念頭に醸造している。そのため、いずれの銘柄も軽やかな味わいいが特徴だ。

「将来的には長期熟成タイプのビッグなワインも造る可能性もありますが、今はいろいろなシチュエーションで飲んでいただきやすいワインを造ることに専念しています。私が造ったワインを飲んで、『喜びが倍増して、悲しみが半減する』と感じていただけたら嬉しいですね」。

簡単に作れる料理と合わせて、明るいうちから楽しく飲んでもらうのが理想だという。ひとりでゆっくり味わうもよし、気の置けない友人と過ごす楽しい場のお供にするもよし。GozanWineWorkSのワインは、お好みのシーンに寄り添ってくれるワインになることだろう。

GozanWineWorkSのワインボトルを手にしたら、エチケットにもぜひ注目していただきたい。いずれも花の写真、赤系はポピーを使い、着物の帯をイメージしたデザインで日本らしさを表現している。

「エチケットのデザインは、ワインのイメージに合わせています。2021年ヴィンテージのワインは赤いポピーが2輪咲いている写真を使い、メルローとカベルネ・フランを使ったことを表現しました」。

金子さん自身がテイスティングして感じたイメージで、銘柄ごとに花の表情を選んでエチケットをデザインしている。また、自身が撮影した花の写真を使用している銘柄もあるそうだ。

シャルドネのエチケットに使われているのは「ヤブイチゲ」の白い花。また、スパークリングワインには淡いピンクのポピーをあしらい、ワインの色と泡のイメージに合わせた。

メルローは金子さんが「将来性を感じる」と表現する、熟成感のニュアンスをイメージした赤いポピーを使用。そして、カベルネ・フランは、オレンジ色のポピーだ。

「カベルネ・フランは、チャーミングな味わいと色合いから、オレンジのポピーをイメージしました。ぜひ、グラスに注いだときの色合いも楽しみながら味わっていただきたいですね」。

『まとめ』

さらに次のステップに進もうとしているGozanWineWorkS。中野市行政もワイン特区取得に向けて動いてくれており、近いうちに自社醸造所の設立が実現する予定だ。

「実は昨年、中野市に東京から転入してワイン用ぶどう栽培を始めた仲間が出来ました。もっと仲間を増やせるように今まで以上に外部へのアピールにも力を入れていきたいですね」。

優しい語り口と笑顔がチャーミングな金子さんがワインの魅力を伝える姿は、きっと多くの人の心を動かすに違いない。

醸造に関しては、初リリースしたワインの評判がよかったため、2024年以降も同じスタイルを踏襲していく予定だ。まだ苗木のバルべーラが成長して収穫できる頃には、醸造面でも少し冒険をしてみたいと考えている。

最後に、GozanWineWorkSの魅力について尋ねてみた。

「自分の出身地でワインを造ることの意義は大きいと思います。ワイン造りを軸に地域貢献するという強い思いがあること自体が、GozanWineWorkSの強みだと思います。私自身が残りの人生を楽しみながら、GozanWineWorkSの思いを次の世代に繋いでいきたいです」。

ワイン造りに携わっていることが楽しくて仕方ないと話してくれた金子さんの思いは、GozanWineWorkSのワインの味わいにもしっかりと表現されていることだろう。人生を楽しんでいる造り手の想いが溶け込んだ、軽やかで優しい味わいのワインをぜひ味わってみてほしい。

基本情報

名称GozanWineWorkS
所在地〒383-0023 
長野県中野市小舘5-23
アクセス長野電鉄信州中野駅下車徒歩15分
上信越自動車道信州中野ICより車で15分

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