山梨県南アルプス市は、年間降水量が少なく果樹栽培の適地である。今回紹介するのは、「ドメーヌヒデ」。南アルプス市で、自然派ワインと国際コンクールで認められた本格派ワインの両立に成功しているワイナリーだ。
ドメーヌヒデの創業者は、渋谷(しぶたに)英雄さん。臨床心理士やダイバーなどの経歴を持ち、50代でワイン醸造の道に入った。日本全国を巡って探し出したぶどうの栽培適地でマスカット・ベーリーAを中心とした多様な品種を栽培。月の満ち欠けや潮の満ち引きを基準とした、化学農薬を使わない循環型農業を実践している。
ものづくりへの情熱を原動力として、山梨県で得られる最高の知識と技術を生かしながらワイン造りをおこなう渋谷さん。今回は、ドメーヌヒデのこれまでの歩みと、ぶどう栽培・ワイン醸造におけるこだわりについて詳しいお話を伺った。
『自分を表現するため、ものづくりをしたい』
まずは、ドメーヌヒデ設立までの経緯から追っていきたい。渋谷さんがワインと出会ったきっかけと、どうしてワイン造りの道に進むことになったのかを探っていこう。
「もともと、私の母がワイン好きだったのです。私と妻の結婚式の日に、『10年後に飲みなさい』と言ってワインをプレゼントしてくれました。10年経って実際に飲みましてね、本当に美味しかったのです。もちろん、母から贈られたワインだったという特別感もあったでしょう。そのときのワインに感動した経験が、私がワイン造りを志すことになった要因のひとつでしたね」。
その時プレゼントされたボトルは、お祝い用に夫婦の名前のラベルに張り替えられており、銘柄がなんだったのかはわからない。今思うと、フランスの5大シャトーのうちのひとつだったのかもしれないという。こんなに美味しいワインがあるのなら、自分もいつか造ってみたいと、ほのかな憧れを抱くきっかけになったのだ。
当時の渋谷さんは、臨床心理士の資格を生かしてカウンセラーとして働いていた。カウンセリングでは、たくさんの人から話を聞くわけだが、聞いた話を漏らすわけにはいかない。そのため、自分を表現できないというフラストレーションを常に抱えた生活だったという。
そして、50歳を超えた頃に、「自分を表現できる仕事をしたい、人生の最後にものづくりがしたい」と一念発起したのだ。
▶︎未経験からのスタート
自分を表現する方法として、自分が好きなお酒造りを選択した渋谷さん。ウイスキーや泡盛など、さまざまな種類のお酒造りを検討した。農業にも興味があったため、原料から自分で手がけることができるものはないかと模索する日々。そして最終的にたどり着いたのは、お母様からの贈り物のきっかけに憧れを抱くようになっていたワインの道だった。
当時は東京在住で、農業もまったくの未経験だった渋谷さん。都心からも通いやすく、ワイン造りが盛んな山梨のワイナリーで、ボランティアとして関わることから始めた。
「いろいろなワイナリーを訪れて、お手伝いをさせてもらいました。農業のこともまるでわからなかったので、春先に農家さんのところに行って、『ぶどうはないんですか?』と尋ねたら、『春にぶどうがあるもんか!』と笑われたこともありましたね」。
山梨県甲州市勝沼の「東夢ワイナリー」で手伝いを始めた渋谷さん。すると、ぶどうを売ってくれる農家がいるという話が舞い込んだ。早速ぶどうを購入し、東夢ワイナリーで300本の委託醸造をした。2012年のことだった。
▶︎ぶどう栽培の適地を探して
山梨に通いながらぶどう栽培とワイン醸造の勉強をする生活を1年続け、その後、本格的にワイン醸造を始めることに。そのためにはまず、ぶどうを栽培するための場所探しから始めなければならなかった。渋谷さんが探し求めたのは、ぶどう栽培に適した土地だ。
「私は東京生まれで田舎がないので、ぶどう栽培に適した土地があるなら、どこへでも行こうと考えていました。雨が多く土壌の水分量も多い土地は、防除が大変なので化学農薬を使う必要があります。そのため、化学農薬を使わなくてもぶどうが栽培できる水捌けがよい土地を探して、日本全国の36か所に水を撒いて歩きました」。
1年ほどかけて全国のワイナリー巡りをしながら、ペットボトルに入った水を地面に撒き、水が染み込むスピードがもっとも速い場所を探したのだという。そして、渋谷さんが見つけたのが南アルプス市だった。
南アルプス市周辺はかつて、『月夜にも灼(や)ける』と言われるほどの干魃(かんばつ)地帯だった。現在は灌漑用のスプリンクラー技術が発達し、さくらんぼや桃、ぶどうの栽培が可能だ。
もうひとつ、南アルプス市がいかに雨の少ない土地であるかがわかる歴史的事実がある。
「南アルプス市には、旧陸軍の飛行場である「御勅使河原(みだいがわら)飛行場」、通称『ロタコ(ろたこ)』の跡地があるのです。このことからも、雨が降らない土地であるということがよくわかります」。
そして最後の決め手は、日本で2番目に高い山「北岳」が南アルプス市の西側に位置し、西日をさえぎってくれることだった。西日が差さないことで夜温が下がりやすく、昼夜の寒暖差が大きくなる。
水はけがよく、降水量が少なくて寒暖差が大きい土地を、渋谷さんは自らの足で1年かけて探し出したのだ。
▶︎ドメーヌヒデの自社畑
ドメーヌヒデの自社畑は標高330m、およそ10か所に点在している。土壌は砂礫質で、開墾には非常に苦労した。
「土を掘るとスコップがすぐに壊れるほど、石がゴロゴロしています。支柱を立てるのもひと苦労でした。作業をしていると軍手もすぐに破れるので、毎年12枚くらい新しいものに交換しなければなりませんね」。
ここで、ドメーヌヒデの自社畑のうち、渋谷さんが「神の畑」と呼んでいる畑についてのエピソードを紹介しよう。前職のツテで紹介してもらった耕作放棄地だった土地で、いざ借りるという段階になって、畑に関する不穏な噂を耳にしたのだとか。
「借りようとしたときに、隣のおじさんに『ここは借りちゃならねえ!』と言われました。2代前の持ち主が、祀られていた水の神様を勝手に移動してしまい、よくないことが起こったのだそうです。畑には24本もの柿の木が生えていたのですが、たった1本だけが枯れずに残っていました。ちょうどその場所が、神様の祠(ほこら)があった場所だったのです」。
神様に戻ってきて貰えばよいのだと考えた渋谷さんは、神主に依頼して神様を祀り直してもらった。その後、特によくないことは起こっていないが、今でも渋谷さんは、畑仕事を始めるときと終わるときには祠に手を合わせる。神様や自然に感謝することを毎日心がけながらぶどうを作っているのだ。
森羅万象に対して神を見出し、自然と一体となって暮らしを営んできた日本の古の人たちが祀った神様は、渋谷さんとぶどうをいつも見守ってくれているのかもしれない。
『ドメーヌヒデのぶどう栽培』
続いては、ドメーヌヒデのぶどう栽培について見ていきたい。
ぶどう栽培に適した南アルプス市の自社畑では、どんな点にこだわった栽培がおこなわれ、どんなぶどうが育っているのだろうか。
▶︎栽培しているぶどう品種
自社畑のうち、神の畑では、マスカット・ベーリーAとメルロー、ピノ・ノワールを栽培しているドメーヌヒデ。
渋谷さんがぶどう栽培を始めた頃はまだ、マスカット・ベーリーAには安価なワインの品種というイメージがあった。しかし、渋谷さんはマスカット・ベーリーAの色の美しさに魅せられ、メインの栽培品種として選んだのだ。
「マスカット・ベーリーAの果汁がきれいなピンク色なのを見て、自然界の中にこんな美しい色が存在するのかと驚きましたね」。
渋谷さんが魅せられたという美しい色のマスカット・ベーリーAの原液の写真は、ドメーヌヒデの公式サイトに掲載されているので、ぜひご覧いただきたい。
神の畑以外では、シラー、カベルネ・フラン、甲州、山梨県が開発した交配品種のモンドブリエ、コリーヌヴェルトを栽培している。
「山梨での栽培の歴史が長い甲州も、とても美しいぶどうです。薄ピンク色の果実が畑に実っているところは、この世のものとは思えないほどにきれいですよ」。
ドメーヌヒデが自社畑で栽培するぶどうの約8割は、マスカット・ベーリーA。渋谷さん自身、マスカット・ベーリーAがもっとも土地に合う品種だと感じている。
▶︎自社畑で栽培するぶどうの特徴
栽培している品種のうち、一番育てやすいのは?と尋ねると、ピノ・ノワールだという回答だった。ピノ・ノワールの育てやすさは、むしろマスカット・ベーリーA以上ではないかと感じているという渋谷さん。
一般的には、栽培が難しいとされるピノ・ノワール。日本の気候に適していることで知られるマスカット・ベーリーAよりも栽培が楽だとは驚きだ。ドメーヌヒデの自社畑では化学農薬を使用していないが、ナチュラルな栽培をしていても、ピノ・ノワールは病気になりにくいのだとか。
「ピノ・ノワールは栽培しやすいのですが、味のよい果実を収穫するのはなかなか難しいですね。ほかの品種では収穫時期を迎えてから最大2週間程度の猶予がありますが、うちのピノ・ノワールは、収穫できる状態になってから3日以内に収穫しないと腐ってしまうのです」。
やはりピノ・ノワールは、繊細な品種特性を持つぶどうなのだろう。そんなドメーヌヒデのピノ・ノワールの特徴は、なんといってもスパイシーさ。
「西日が差さない畑であることと、降水量の少なさが影響しているのかもしれません。メトキシピラジン由来の青臭い香りがなく、シラーのようなスパイシーさがしっかりと出るのです」。
また、栽培量がもっとも多いマスカット・ベーリーAについても紹介したい。
ドメーヌヒデでは、マスカット・ベーリーAは9月半ばから10月の半ばと遅めに収穫をおこなう。フラネオール由来のイチゴ臭はなく、ブラックベリーの風味が感じられるのが特徴だ。なんと、マスカット・ベーリーAのワインだと気付かない方も多いほどだとか。
「ただし、スパークリングの新酒に使うマスカット・ベーリーAだけは早めに収穫します。飲みやすい味わいなので、ワインをあまり飲んだことがないという方にも好評です」。
ドメーヌヒデでは、同じマスカット・ベーリーAでも収穫時期と仕立て方を変え、それぞれ違った魅力あるワインとして楽しませてくれる。飲み比べをする楽しみもあるとは、飲み手にとってなんとも嬉しいことだ。
▶︎循環型農業を推進
渋谷さんがぶどう栽培においてこだわっているのは「よそ者を畑に入れない」こと。いったいどういうことなのだろうか?
畑にあるものだけですべてを完結させる「循環型農業」を、渋谷さんは「よそ者を畑に入れない」と表現しているのだ。
例えば、肥料は外部から持ち込んだものではなく、ぶどうの搾りかすを堆肥にしたものを使っている。
しかし、搾りかすを撒き続けていると土壌が酸性化してしまう。一般的な農業では、酸性化した土壌にはアルカリ性の石灰を撒く。だが、循環型農業を推進するドメーヌヒデでは、ぶどうの枝を炭化させたものを撒いて中和している。
枝を炭化して土壌に散布することは、炭酸ガスの排出を抑えることにつながる。いわゆる、「4(フォー)パーミル・イニシアチブ」の考え方だ。4パーミル・イニシアチブでは、地球上の土壌表層の炭素量を年間4パーミル(=0.4%)増やすことができれば、増加し続けている大気中の二酸化炭素を実質ゼロにできるとされる。
「野菜畑をやっている人が籾殻(もみがら)を『くん炭』にして撒いているのを見て、ぶどうの枝を炭化することを思いつきました」。
ドメーヌヒデでは山梨県が4パーミル・イニシアチブの取り組みに参加したことに賛同し、2019年ごろから「炭化枝」を作り、脱炭素社会の実現を目指す取り組みの先陣を切っているのだ。
▶︎引き潮を狙って剪定と収穫を実施
「月の満ち欠け」や「潮の満ち引き」を意識したぶどう栽培とワイン醸造をおこなっているドメーヌヒデ。
「沖縄に住んでいた頃にダイバーや漁師の経験があるので、満月の日に産卵が多かったり、潮の満ち引きによって魚が釣れるか釣れないか変わったりと、生き物が月の影響を大きく受けることを体感してきました」。
ひとつ例を挙げてみよう。月の力の影響により、満ち引きの度に海の水は何億tと動く。そのため、引き潮の際には樹液が根の方に下がってぶどうの実が乾燥して凝縮感が増す。反対に、満ち潮になれば樹液が実の方に上がるので、実が水っぽくなるのだという。
「もともとそういう仮説は持っていたのですが、最近発達してきた樹液センサーを使うことで、月の満ち欠けや潮の満ち引きが植物に大きな影響を及ぼしていることが実証され始めています。またなんとなく、新月のときはぶどうが寝ているような気がしませんか?もしかして、剪定しても痛くないのかもしれないと私は思っています。逆に、満月のときは畑がイキイキしていると感じますね」。
ぶどうの収穫だけでなく、剪定するタイミングを判断する上でも月や海水の状態を意識している。剪定を実施するのは、樹液が根に下がった引き潮のとき。なんと、このタイミングを守ることで、剪定したぶどうが病気になりにくいのだそう。
「どこのぶどう農家さんも、おそらく、潮の満ち引きを気にして剪定されてはいないと思います。そして通常、選定した枝には病気を防ぐために農薬を塗っているようです。しかし、うちでは引き潮のタイミングで剪定をすることで、農薬を使わなくても病気になった樹は出ていません」。
引き潮はだいたい夜8時くらいからはじまる。そのため、収穫にせよ剪定にせよ、暗い中での作業となる。そして時間が過ぎ、夜中の12時になると、今度は満ち潮に切り替わる。ちょうどこのとき、素晴らしい体験ができるのだとか。
「満ち潮に切り替わるときには、畑の様子が一変します。引き潮のときにはハサミを入れるとパキンパキンと乾いた音がしているのですが、満ち潮の時間になると、とたんにジュワッという水を含んだ音に変わります。そして、畑が水っぽくなって長靴が濡れ始め、虫たちが鳴き出します。いわゆる、『樹液転流』という現象です。静まり返った深夜にこの体験をすると、とても感動しますよ」。
渋谷さんが語ってくれた話は、現代人から見ると神秘的な現象に思える。しかし、昔の人は月の暦にしたがって農業をしてきた。自然と共に過ごした経験値をもとに暮らしていた昔の人には、もしかすると、ごく当たり前なことだったのかもしれない。
『ナチュラルワインと本格派ワインの両立』
ここからはドメーヌヒデのワイン醸造へと話を進めていこう。ワイン醸造における工夫とこだわりについて見ていきたい。
▶︎ナチュラルワインで賞を獲得
ドメーヌヒデが目指すワイン像は、ぶどうの味わいがそのまま表現されていること。基本的には、ナチュラルな造りのワインが中心だ。
「ただし、賞を狙うときは別ですね。世界の醸造学の英知を集めて造るようなこともしますよ」。
ナチュラルな造りと、きれいな造り。両方を追求することは難しいことのようにも思えるし、目的が異なるのではないかと疑問を持つ人もいるかもしれない。その点について、渋谷さんに尋ねてみた。
「ドメーヌヒデのある山梨県は、ワイン研究に関する叡智が集まっている場所なのです。そんな山梨でワイン造りに携わっている以上、人類の叡智を知らずに自然にまかせて造ってしまうと、過去の人たちの考え方や知識を否定することになると思いませんか?また、どうしてこんなに美味しく造れたのかを知りたいという気持ちもあります」。
そう答えてくれた渋谷さんの表情は、好奇心に満ちあふれていた。ワイン造りが楽しくて仕方ない、そんな心の声が漏れ聞こえてきそうな笑顔だ。
「確かに最初は、ナチュラルワイン1本で行こうと思っていました。しかし山梨にいると、海外のワイナリーで働いた経験があるような優秀で美味しいワインを造る方たちといっぱい出会うわけです。すると、『どうやってこんなに美味しくしたの?』と、つい聞きたくなるじゃないですか。皆さんにいろいろと教えてもらっているうち、ナチュラルだけでやっていたら損をするし、面白くないなと次第に思うようになったのです」。
ドメーヌヒデのワイン造りでは、自然酵母と乾燥酵母の両方を使っている。また、亜硫酸塩と清澄剤を使うこともあるが、それ以外の添加物の使用は一切おこなわない。また、ナチュラルワインに限っていえば、亜硫酸塩は一切使わない。
いっぽう、ナチュラルだけにこだわるのではなく、美味しく造ることを重視したワインで国際コンクールでの受賞を狙うことも、ドメーヌヒデの主軸のひとつだ。ドメーヌヒデのように、ナチュラルワインを造りつつもワインコンクールに出すワインも手がけるワイナリーは決して多くはない。
そんな中、ドメーヌヒデのナチュラルワイン「サージュV.V.2019」は、世界中の女性ワイン専門家が審査するフランスの国際コンクール「FÉMINALISE(フェミナリーズ)2023」で銀賞を受賞。
「サージュV.V.2019」は、樹齢58年のマスカット・ベーリーAを使った、しっかりとした果実味が魅力のナチュラルワインだ。ナチュラルワインが国際的なコンクールで入賞を果たすのも稀有なことだ。
▶︎古木の魅力
「サージュV.V.2019」のマスカット・ベーリーAも含め、ドメーヌヒデの古木の魅力は、味の奥行きが深く、余韻が長く続くこと。
「天候が悪くてもぶどうの実が腐らないとか、少しぶどうが痛んでいても、むしろ味に複雑味が出て美味しくなることがあるとか、今までの既成概念を払拭してくれるのが古木という存在です。古木から教わることは多いですね」。
経験を積んだ古老が人生の知恵を授けてくれるように、古木もまた、飲み手の私たちにも何かを教えてくれるに違いない。
▶︎もう1杯飲みたくなる美味しいワイン
渋谷さんが理想とする美味しいワインとは、「もう1杯飲みたい」と言ってもらえるワインだ。ついついおかわりが欲しくなる味わいのワインを目指している。
「例えばナチュラルワインを造る場合、すぐに目指すワインになるわけではありません。1年目に自分が思うままに造ると、改善点が見えてきます。方向性が決まったら、2年目に新たな挑戦をおこないます。収穫時期をもっと早めたり、スティルではなくスパークリングにしたり、そんな微調整も必要ですね。そして3年目にようやく、そのぶどうにしっくりくる造りの『もう1杯飲みたくなる美味しいワイン』ができるのです」。
美味しいワインを造るためには、それぞれのぶどうが持つ個性を、醸造で最大限に引き出すことも欠かせない。美味しいワインは1日にしてならず。ドメーヌヒデの試行錯誤と挑戦はこれからも続いていく。
▶︎徹底したヴィーガンワイン
販売中のワインの中で、渋谷さんがおすすめだと紹介してくれたワインは、「Vegan(ヴィーガン)」である。「完全菜食」を意味する名を持つこのワインは、原料のマスカット・ベーリーAの栽培者もヴィーガンだという筋金入り。
「女性の栽培家で、彼女はヴィーガンです。自然栽培やヴィーガンとうたいながら、栽培家や造り手がジャンクフードばかり食べて暮らしているというのは、なんだか違うなと思うんですよね。だから僕も彼女の真似をして、ここ3年程は、なんちゃってヴィーガンです」。
コルクも動物性の油が使われていないものを使用し、ぶどうの破砕は足踏みでおこなう。また、澱引きは満月かつ引き潮にタイミングを合わせて実施した。
「まるで清らかな水のせせらぎのような、体に染み渡る味わいのワインです。料理と合わせるよりも、単体で楽しむのがおすすめですね。静かに月でも眺めながら、ゆっくりリラックスして飲んでいただきたいと思って造りました」。
▶︎大人の炭酸飲料
渋谷さんおすすめのワインを、もう1銘柄だけ紹介しよう。「ピケット」シリーズはぶどうの搾りかすにもう一度水を足し、再発酵させて造る微発泡ワインだ。
「アルコール度数は3〜5%と低く、ヨーロッパでは水代わりに飲むタイプのワインです。大人の炭酸飲料ですね」。
ぜひ、暑い季節やお風呂上がりなどにキンキンに冷やして飲んでいただきたい。
ドメーヌヒデがターゲットとしている飲み手像は、なんと「都会でちょっと仕事に疲れた人」。そんな人たちにほっとしてもらいたいという渋谷さんの気遣いを、ぜひ感じてみてはいかがだろうか。
▶︎干しぶどうで造る濃厚なワイン
渋谷さんが現在力を入れているのは、肉料理になどにも合う濃厚なワインを造ること。
「欧米から来た人と食事をしていて、メインの料理が来たタイミングで、『日本のワインは薄いから海外のを出してくれ』と彼らがソムリエに頼んでいたのを見て、私は大変ショックを受けたんですよ」。
それ以来、濃厚なワインを造りたいとの思いから、2か月半干したマスカット・ベーリーAで造る「ホシワイン アパッシメント」を毎年リリースしてきたドメーヌヒデ。
干しぶどうで造るワインは深い果実味が出て、余韻がいつまでも続く味わいに仕上がる。イタリアの「アマローネ」は、同様に果実を陰干しする「アパッシメント」製法で造られる最高級ワインだ。
「抜栓した途端に、部屋中が香りで満たされるほど濃厚なワインです。2023年には施設を移転し、より多く仕込める体制を整えました。海外の人にも、日本ワインは美味しいと唸って欲しいですね」。
『まとめ』
ドメーヌヒデでは、2023年6月4日に古民家カフェ「月晴れる」をオープンした。
「ぶどうを干すための小屋が欲しくて買ったら、古民家がついてきたんです。あまりにも景色がよいのでカフェを始めることにしました」。
カフェで提供するのは、ドメーヌヒデのワインと、渋谷さんの奥様お手製の米粉の蒸しパン。渋谷さんはこのカフェで、日本ワインとデザートの素晴らしい出会いを実現させようとしている。蒸しパンなら、さまざまな食材を使って作ることができるため、日本ワインがどの食材に合うかを模索していくのにうってつけだ。
「蒸しパンは、私の母が好きだったおやつなんです。私が子供の頃は、そんなのいらないって言ってしまっていましたが、今風で美味しい蒸しパンなら、今の子供も喜んで食べてくれるかなと思っています」。
渋谷さんの多彩な経験によって培われた感性とワインへの愛、そして、ものづくりへの情熱が生み出すドメーヌヒデのワインに、今後ますます注目していきたい。
基本情報
名称 | ドメーヌ ヒデ |
所在地 | 〒400-0316 山梨県南アルプス市中野316 (カフェ「月晴れる」) |
アクセス | https://goo.gl/maps/YgPjgHs1B2SHfihf7 |
HP | https://www.domainehide.com/ |