追跡!ワイナリー最新情報!『Belly Beads Winery』地道な取り組みが形になって花ひらく

「Belly Beads Winery(ベリービーズワイナリー)」は、長野県塩尻市にあるワイナリー。経営母体は、飲食・宿泊事業などを手がけている「王滝グループ」だ。2018年のワイナリー創立以降、塩尻の伝統品種であるコンコードとナイアガラの栽培を継承し、地元の食材とともに楽しめるワイン造りに努めてきた。

Belly Beads Wineryがぶどう栽培をしている畑は、標高780m程度。日照時間が長く、昼夜の寒暖差が大きいのが特徴だ。降雨量が少なく、火山灰土壌で水はけがよいという環境を生かして、ぶどうの栽培適地である塩尻市ならではのぶどう栽培をおこなっている。

荒廃農地を減らすことを目指し、地域のぶどう農家から引き継いだ畑の樹を大切に守るBelly Beads Winery。収穫時期を工夫し、複数の醸造方法を使うことで、ぶどうのポテンシャルをしっかりと引き出したワインを造っている。

今回は、Belly Beads Wineryの2022年以降の動向について、取締役でワイナリー長も務める川島和叔様さんと、栽培・醸造担当の川村泰丈さんにお話を伺った。塩尻の地を愛するBelly Beads Wineryの、最新情報をお届けしたい。

『Belly Beads Winery 2022年以降のぶどう栽培』

まずは、2022年以降の天候の様子と、Belly Beads Wineryの自社畑におけるぶどう栽培を見ていこう。

ぶどうを栽培する上で天候は生育状態に直結する。ヴィンテージごとに異なる多様な味わいを生み出すのも天候だが、実際には雨などの影響で思い通りの栽培ができないことも多い。

Belly Beads Wineryの自社畑がある塩尻市では、2022年以降どんな天候だったのだろうか。また、ぶどうの出来にどんな影響を及ぼしたのかについても確認しておこう。

▶︎2022年以降の天候の特徴

まず2022年は梅雨が短く、そのまま気温が急激に上がって猛暑になった。雨の影響が少ないかと期待したが、8月の中旬以降になると長雨に。収穫時期まで断続的にぐずついた天気が続いた、と川島さんは振り返る。

「ここ数年は2022年と同じような天候が珍しくなく、難しさを感じていました。特に2022年は秋雨が多く、収穫当日の朝まで雨が降り続いていても、収穫に踏み切るしかないこともありましたね。雨の影響で病気が広がりやすくなるので不安はありましたが、幸い畑の管理がしっかりとできていたのでなんとか乗り切ることができました」。

続く2023年はとにかく暑かった。9月になっても夜温が下がらず、糖度が上がらないのではないかと気を揉んだという。

「2020年からBelly Beads Wineryでぶどう栽培を担当していますが、毎年暑さが増していると感じています。以前は、日中の気温が30度を超える日が続いても、8月中旬頃には朝晩の気温が下がり始めたものです。しかし2023年は、9月に入っても暑さが続きました」と、川村さん。

▶︎健全な圃場にするために

Belly Beads Wineryの自社畑で栽培しているぶどうのうち、2022〜2023年に収穫したのはナイアガラ、コンコードの2品種だ。天候の影響は心配されたが、収穫時期は例年通りのタイミングで実施。幸いにも満足のいく品質のぶどうが収穫できたという。成功の秘訣はなんだったのだろうか。

「私が入社した当時は、たくさんの病果を取り除きながら収穫するような状況でした。それが普通の状態ではないと知ったのは、後になってからでしたね。状況を改善するために病気になりやすい枝を大きく剪定するなどの対策をして、2022年には随分と健全な状態にまで回復することに成功しました」と、川村さん。

農家の高齢化により管理ができなくなった畑は日本各地で問題となっているが、ぶどうの一大産地である塩尻市も例外ではない。Belly Beads Wineryでは、農家が管理できなくなったそんな畑を引き継いで管理しているのだ。

昔から使われてきた畑には、大切に守られてきた古木が残る。だが、樹齢が高い樹の中には、病気が発生しやすい状態のものも多い。そこでBelly Beads Wineryでは、数年がかりで健全な状態を取り戻すための対策をおこなってきたのだ。

雨が多くぶどうにとっては好ましい環境ではなかったにも関わらず、満足のいく品質のぶどうが収穫できたのは、大掛かりな対策の効果が発揮されたためだった。

「2022年には病気の枝を大幅に切って新しい枝を生やすように促して、2023年は剪定と誘引を工夫しました。病気の9割はなくなったと感じています。2023年はさらに気をつけて管理をした効果が出て、収量は2022年の倍になりました。健全な圃場になりつつあるので、2024年以降はさらに収量を増やせるように取り組んでいきます」。

▶︎栽培管理における取り組み

栽培管理において、病気への対策と並行して心がけたことは、日当たりと風通しを確保することだ。特に除葉の作業にはしっかりと時間をかけたという。

「管理している畑は3か所に分かれているのですが、2022年は順番に対応していたら全てを回りきれないことがあったため、2023年は均等に対応できるように工夫しました。管理方法を毎年バージョンアップしているので、だんだんと効果が出てきていることが実感できて、感慨深かったですね」。

数年がかりで進めてきた対応が間違っていなかったことは、収穫時期に証明された。病果がほとんどなかったため、収穫カゴがすぐにいっぱいになるほどスムーズに収穫できたのだ。

また2023年は、栽培する上で次にどんな工程が必要なのかを意識しながら管理をしてきた。例えば剪定する際には、のちのち誘引と収穫がしやすいように枝の配置をすることを心がけたという。

「一部の畑は醸造用品種の糖度と収量の確保が期待できる、『スマート仕立て』を採用しています。日当たりがよく均等に枝が配置されているので、誰が見ても、きれいなぶどう畑だと思っていただけると思います」。

▶︎美しい畑は地域のために

地元の農家の畑を引き継いで管理しているBelly Beads Winery。土地の所有者も、畑が美しく管理されていることを喜んでくれているという。

「ぶどう栽培の師匠でもある地主さんが畑を見に来て、『よく管理している、ありがとう』と褒めてくださいました。喜んでいただけて本当に嬉しいですし、やりがいを感じましたね」と、顔を綻ばせる川村さん。

最近は、近隣の畑の持ち主からも、畑を任せたいという声をもらうようになったのだとか。Belly Beads Wineryのこれまでの取り組みが、地元の人たちに受け入れられている証拠だろう。

管理する人が変わると畑の様子も一変するので、畑を見ると栽培を手がけているのがどんな人なのかということがよく分かる、と川島さん。

「数年前からワイン専用品種の栽培を始めた新しい畑もあるので、どこまで対応できるかは分かりませんが、可能な範囲で対応できればと考えています。地域の荒廃した農地がさらに整備できれば、より明るくて安全な場所になって、地域の人がもっと愛着を持てるでしょう」。

Belly Beads Wineryでは、メルローやカベルネ・フラン、リースリングなども栽培している。2024年には、まとまった量の収穫が可能になる予定だ。

川村さんがとりわけ楽しみにしている品種はメルローである。メルローは塩尻での栽培実績が豊富で土壌に適した品種だとの評価があることから、Belly Beads Wineryで育つメルローにも期待が膨らむ。

『Belly Beads Winery 2022年以降のワイン醸造』

Belly Beads Wineryの2022年以降のワイン醸造については、川島さんにお話を伺った。まずは、フラッグシップ・ワインとして人気が高いナイアガラのワインにスポットを当てていこう。

Belly Beads Wineryでは2022年から、早摘みのナイアガラの仕込み方法を変更したそうだ。以前は「フォクシー・フレーバー」と呼ばれる香りをできるだけ抑える方向でワインにしていたそうだが、どのように変えたのか。また、新しい方向性のナイアガラワインについても詳しくお話いただいた。

▶︎ナイアガラらしさを引き出す醸造

フォクシー・フレーバーとは、ぶどうジュースのように甘いラブルスカ種特有の香りのことで、ワインにおいてはネガティブな香りとされることもある。

そのため、Belly Beads Wineryでも、2021年以前はできるだけ早いタイミングで収穫することで品種由来の香りが出るのを抑えていた。また、醸造工程でも香りが出過ぎないように注意していたそうだ。だが、せっかく大切に育てたナイアガラの個性をもっと大切にすべきではないかと考えた。

「ナイアガラらしさを消してしまうのは、もったいないのではないかと考えました。そこで、ナイアガラのよさを出すため、早摘みする穫時期を少しだけ遅らせて品種由来の香りを生かすことにしたのです」。

華やかな香りが適度にありつつ、食事にも合わせやすい香りに仕上げるため、使用する培養酵母にもこだわった。ナイアガラは塩尻の特産品なのだから、ひと口飲んですぐに「ナイアガラだ」とわかるワインを造ろうと考えた川島さん。工夫を重ねた結果、トロピカルな果物のように印象的な香りを表現することに成功した。

「上品で甘い香りがありつつ、心地よいドライな酸も感じられる味わいに仕上げました。ナイアガラのワインは甘口が多いので、意外性を楽しんでいただけたら嬉しいですね。食事にも合わせやすいですよ」。

▶︎「ボヌール」シリーズの新酒がおすすめ

Belly Beads Wineryは、2022年にラインナップを一新して、「ボヌール」シリーズをリリースした。また、エチケットも新たなデザインに変更し、さらにBelly Beads Wineryらしい魅力をアピール。自社栽培のナイアガラとコンコードのワインも、2022年からは「ボヌール」シリーズで登場している。

「ボヌール」シリーズのエチケットは黒と白を基調としているが、ナイアガラとコンコードのみはグリーンとピンクを基調としたポップな印象が特徴だ。

「『ボヌール』シリーズとしてリリースするナイアガラとコンコードの新酒は、自社畑のぶどうで造った中でいちばんの推し商品です。ナイアガラの新酒は、ぜひ塩尻の料理と一緒に楽しんでいただきたいと思っています。皆さんにおすすめすることが多いのは、郷土料理である『山賊(さんぞく)焼き』とのペアリングです」。

山賊焼きとは、ニンニクを効かせた醤油だれに漬け込んだ鶏肉を油で揚げた料理で、塩尻市発祥だ。また、コンコードのワインは、酢豚などの中華料理に合わせるとしっかりとした酸味が料理の味をいっそう引き立ててくれるだろう。

▶︎スパークリングワインと、「ゼフィール」シリーズ

2023年にリリースした「Heritage PRECIOUS Niagara Sparkling (ヘリテージ プレシャス ナイヤガラ スパークリング)」は、Belly Beads Winery初のスパークリングワインだ。

「2019年と2020年に仕込んだ早摘みのナイアガラに、炭酸ガスを注入してスパークリングワインにしました。スパークリングにしたいと思って残しておいたものなので熟成感もありますし、泡によって華やかさを出すことができました」。

ナイヤガラ特有の果実味とリッチな味わいが楽しめる辛口の「Heritage PRECIOUS Niagara Sparkling 」は、特別な日に開ける1本としてもふさわしいだろう。

また、買いぶどうで造ったワインは、自社栽培のものとは別のシリーズ、「ゼフィール」として商品化。エチケットに印象的な女性の顔が描かれており、思わずボトルを手に取ってしまいたくなる魅力がある。まずは気になった絵柄からチョイスしてみるのも、ワインの選び方としては楽しいかもしれない。

▶︎シードル造りにも挑戦

Belly Beads Wineryでは、2021年からシードル醸造にも挑戦している。長野は県全域でりんごの栽培が盛んで、それぞれの地域ごとに特徴のあるりんごが手に入るのだ。

「産地別のりんごの味わいの違いをシードルで表現したいと考え、2021年は産地別に仕込みました。2021年は4,500本、2022年は8,000本造り、おかげさまで好評でした。2023年はさらに増やして12,000本造ったので、たくさんの方に楽しんでいただきたいですね」。

2021年に使用したのは、いくつかの産地の「フジ」という品種。あえて同じ酵母を使って、産地ごとの味わいの違いを表現。続く2022年は、5軒の農家から数種類のりんごを購入し、農家別に仕込んだ。栽培を手がけた農家にとっても、自分のりんごだけで造ったシードルは思い入れが深いに違いない。

「出来上がったシードルに、農家さんも愛着を持ってくださったようです。『ほかにもこんなりんごがあるよ』と、おすすめの品種を提案していただくことなどもあり、今後もさらに面白い取り組みができそうです」。

醸造量が増え、Belly Beads Wineryのもうひとつの看板商品となったシードルは、エチケットデザインにもこだわりがある。幅広い事業を手がける「王滝グループ」ならではの知見を生かし、社内でアイデアを出し合って戦略を立ててきたのだ。引き続き、新たな味が登場することを楽しみにしたい。

『まとめ』

最後に、Belly Beads Wineryの今後の抱負を尋ねてみた。

「失敗もたくさん経験していますが、その度に問題点を改善して、よりよりワインを造るという経験を毎年重ねています。よりよいワインを造るための土台作りをしていくことが直近の目標ですね。将来的には、瓶内二次発酵のスパークリングワインなどにも挑戦していきたいと思います」。

健全なぶどうが安定して収穫でき、満足のいく品質の美味しいワインが造れるようになったら、ナチュラルな造りのワインも造っていきたいと考えているそうだ。

荒れていた耕作放棄地のぶどう畑を再生し、地域のために取り組んできたBelly Beads Wineryの強みのひとつに、新しいことにどんどん挑戦するフットワークの軽さがある。これからもさまざまな課題に果敢に取り組んでいくであろうBelly Beads Wineryの挑戦を、引き続き応援していきたい。


基本情報

名称Belly Beads Winery
所在地〒399-6461
長野県塩尻市宗賀2372-1(醸造所)
アクセス【電車でお越しの場合】
JR洗馬駅から徒歩10分 
【お車でお越しの場合】
塩尻インターより木曽方面へ15分
HPhttps://bellybeadswinery.com/

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