『Belly Beads Winery』早摘みナイアガラのワインで地域活性化を目指す

長野県塩尻市でぶどう栽培が開始されたのは、1890年のこと。その後ワイン醸造も始まり、日本におけるワインの一大産地となった。

そんな歴史ある土地である塩尻に、2018年に創立されたのが「Belly Beads Winery」だ。塩尻市の伝統品種であるナイアガラやコンコードの栽培の継承と、農地の再生を掲げ、地域とつながりながらワイン造りに情熱を注いでいる新進気鋭のワイナリーだ。

Belly Beads Wineryの経営母体は、長野県で飲食・宿泊事業やケータリング事業などを広く展開する「王滝グループ」。さまざまな事業を経営する中で培ってきた知見を生かし、ワインと料理のマリアージュの提案にも意欲を見せている。

今回は、Belly Beads Winery取締役・ワイナリー長の川島和叔さんと、栽培・醸造担当の川村泰丈さんにお話を伺った。

Belly Beads Winery創設のきっかけから現在までの歩みと、ぶどう栽培・ワイン醸造へのこだわりを深掘りしていこう。

『創設までの道のり』

まずは、Belly Beads Wineryの立ち上げの経緯から見ていきたい。Belly Beads Wineryは、塩尻市が主催した「塩尻ワイン大学」の受講生たちと講師が立ち上げたワイナリーだ。

ワイナリー長の川島さんは、ワイナリー創業時からのメンバーでもある。

▶︎塩尻ワイン大学での出会い

「塩尻ワイン大学は、ワイナリー経営者を育成するプログラムです。4年間かけて、ぶどう栽培の基礎から醸造技術、ワイナリーの経営方法に至るまで、各分野のプロから直接学べます。とても有益なカリキュラムが組まれていますよ」。

2018年、川島さんは、塩尻ワイン大学で学び始めて4年目に、同期生や講師とともにワイナリーの立ち上げを決意。そこには、地元農家を守りたいという熱い思いがあった。

▶︎ぶどう畑の存続のために

川島さんたちがワイナリーを立ち上げた背景には、地元農家の高齢化問題がある。ぶどう栽培が盛んな塩尻市でも、多くの畑が後継者不足により、耕作放棄地が増えていたのだ。

塩尻ワイン大学で学んだ知識を生かし、後継者がいないぶどう畑を自分たちが引き継いで、地元で長く栽培されてきた品種のぶどうを作る。また、そのぶどうでワインを造ることにも取り組みたいと考えたのだ。

Belly Beads Wineryの立ち上げに際しては、これまでにない新しいアプローチをすることで、消費者に刺さるワインを造り出せる目算があった。

Belly Beads Wineryが引き継いだ畑で栽培されていたのは、ナイアガラやコンコードだ。どちらも塩尻で長い栽培実績がある、ヴィティス・ラブルスカ種と呼ばれるアメリカ系統の品種だ。

ラブルスカ種のぶどうから造ったワインには、品種特性からくる「フォクシー・フレーバー」と呼ばれる独特な香りがある。フォクシー・フレーバーとは、ぶどうジュースのような甘い香りのことで、日本人には馴染みのある香りだが、ヨーロッパなどではマイナスの要素として捉えられることが多い。

さらに当時、ナイアガラなどから造るワインは甘口が主流だった。そのため、食事に合わせにくいことも、市場人気が低くワインラヴァーからの評価を下げる要因だったそうだ。

そこでBelly Beads Wineryでは、ナイアガラを使ってフォクシー・フレーバーを抑えたワインを造ることにした。

「Belly Beads Winery立ち上げメンバーのひとりが塩尻ワイン大学の講師で、山梨大学と塩尻市と一緒にナイアガラを使った新しいワインを開発したんです。そのワインを造っていこうということになりました」。

自社の醸造施設ができるまでは、ほかのワイナリーに醸造を委託。そして、2018年には念願の自社醸造を開始した。

さらに、2020年には王滝グループの傘下となり、現在の体制でのBelly Beads Wineryがスタートしたのだ。

▶︎グループの理念に共感

Belly Beads Wineryで栽培・醸造を担当する川村さんは、2020年に王滝グループに入社した。

「40歳になるのを機に、今後の人生で何をやりたいのかと自問自答してきました。自然の中で働きたいという思いから、農業に人生を注ぐことを決意します。ぶどうは栽培が難しいからこそ挑戦しがいがあり、さらにワインにできるところが面白い農作物だと感じて惹かれました」。

ぶどう栽培とワイン造りに狙いを定め、さまざまなワイナリーの求人を比較検討。その中で、王滝グループが運営するBelly Beads Wineryに魅力を感じた。当時、王滝グループは創立50周年を迎えるタイミングで、より幅広い業種への進出を積極的に進めているところだった。

「『真心・謙虚・感謝』という、王滝グループの理念にも共感しました。社風も魅力的で、ここなら社内のみんなと協力して、よいものが造れるのではないかと感じたのです」。

飲食関連の事業を展開する企業に所属することのメリットは大いに感じていると、川島さんも話す。

「グループ内に飲食店があるということは、醸造したワインに対する意見がちゃんと聞けるということなんです。地元で作ったワインを、グループの飲食店で料理と一緒に提供できるのは、Belly Beads Wineryならではの強みですね。王滝グループは地元愛が強い会社で、農地再生への取り組みについても積極的です。Belly Beads Winery設立時の自分たちの思いともリンクしました」。

王滝グループの社長の出身は、長野県王滝村だ。村出身の力士である御嶽海の講演会長となり、大関昇進の際には記念ワインを出すなど、地元への想いが強い。また、塩尻市の農業の衰退に対しても、自分のこととして問題意識を持っている。

そんな社長のもと、地元で作った食材で地元を盛り上げようという熱い志を持ったスタッフが集まっているのが、王滝グループであり、Belly Beads Wineryなのだ。

『Belly Beads Wineryのぶどう栽培 』

続いては、Belly Beads Wineryのぶどう栽培について見ていこう。

後継者がいなくなった畑を引き継ぐことを使命としたBelly Beads Winery。それらの畑に植栽されていたのは、ナイアガラとコンコードだ。

現在では、自分たちの目指すワインを造るため、以下の品種も栽培している。

  • メルロー
  • リースリング
  • カベルネ・フラン
  • アルモノワール
  • サンジョヴェーゼ
  • マスカット・ベーリーA

▶︎ナイアガラとコンコード

「塩尻で長年栽培されてきたナイアガラとコンコードは、これから先も絶対に残していかなければいけないと思っています。それ以外には、塩尻での栽培実績があるメルローと、ブレンドに役立ちそうな品種を選定しました」。

Belly Beads Wineryでは、コンコードとマスカット・ベーリーA、メルローとサンジョヴェーゼやアルモノワールのブレンドに注目。今後Belly Beads Wineryからリリースされるブレンドワインにも期待がかかる。

品種選びは、寒暖差のある山裾の傾斜面、火山灰土壌、この地で合う品種を探ることから始めた。自分たちが憧れるワインの品種も取り入れたという。

伝統の継承と開拓精神がバランスよく配されているのがBelly Beads Wineryの栽培品種だ。新たに植えた品種でのワインが醸造されるのは、数年先のことになる。楽しみに待ちたいものだ。

▶︎自社畑の特徴

Belly Beads Wineryが引き継いたナイアガラとコンコードの畑は、広さ約1ha。良質なワイン用ぶどうの産地として注目されている、桔梗ヶ原ワインバレーに位置する。

畑の標高は780mで日照時間が長く、昼夜の寒暖差が大きいのが特徴だ。土壌は、火山灰土壌で水はけも良好。塩尻は降水量が少ないため、ぶどう栽培には非常に適している。

山裾に位置していることや、管理されなかった期間があるため、2018年に畑を引き継いだときには、サルやカモシカによる被害が甚大だった。しかし、畑に人がいることで、獣たちは次第に近づかなくなってきた。

「最近では獣害が随分と減った印象です。『昔みたいにナイアガラの香りがするね。ありがとう』と、近所の方が散歩のついでに声をかけてくれるんですよ。地元の方とも仲良くさせていただいていますし、猟友会のみなさんも見回りにきてくださいます」。

Belly Beads Wineryの畑は、地域との強いつながりによって、大切に守られているのだ。

▶︎古木を大切に守る

Belly Beads Wineryが引き継いだ畑のナイアガラとコンコードの樹齢はおよそ50年。立派な古木だ。栽培を担当する川村さんは、畑の地主さんに教えを受けながら、日々の栽培管理をしている。古木の中には元気がなくなってきた樹もあり、必要に応じて植え替えもおこなっている最中だ。

「地主さんは、長年の経験があるぶどう栽培のプロです。いろいろと教えていただけるので、とてもありがたいですね」。

2021年には、病害によって、収量がなんと半分になる被害が発生した。病害が発生したのは、数年にわたって耕作放棄地となっていた畑のナイアガラだ。地元の農家によると、放棄されていた期間に病気が蔓延したのではないかということだ。

念入りに消毒と手入れをしているところだが、畑の再生には数年程度かかる。病害が発生した場合、木を切って新たな苗に植え替えるという方法もある。しかし、ナイアガラの古木を無駄にしたくないというのがBelly Beads Wineryの考えだ。ワイナリー設立時の理念を貫くためにも、塩尻の伝統品種の畑を守ろうと努力を続けている。

「今はまず、ぶどうにとって快適な環境をつくることに注力しています。畑の環境が改善できたら、栽培方法に工夫を凝らしていきたいです。うちならではのぶどう栽培ができるのかは、この先のステップですね」と、川島さん。

Belly Beads Wineryの歩みはまだ始まったばかりだが、これから先の未来のためにも、今が重要な時期にあることは間違いないだろう。

▶︎ナイアガラのワインの秘密

Belly Beads Wineryのワインでもっとも注目すべき銘柄は、ナイアガラのワインだ。その秘密について、さっそく探っていきたい。

ラブルスカ種に特有のフォクシー・フレーバーと呼ばれるぶどうジュースのような甘い香りをおさえて仕上げるために、Belly Beads Wineryではどんな方法を採用しているのだろうか。

答えはズバリ、収穫期を早めることだ。通常は果実がしっかりと熟してから収穫するが、Belly Beads Wineryでは収穫の適期よりも2週間程度早く収穫する。酸がしっかりと残り、香りが出始めたときが収穫のタイミングだ。

「早摘みすることにより、フォクシー・フレーバーを抑えることができます。また、酸が残っている状態で収穫するので、キレがあって食事に合わせやすいワインを造ることが可能になります」。

早摘みは、収量の確保にも大いに貢献する。近年、塩尻エリアではナイアガラの通常の収穫時期にあたる8〜9月の長雨が増えてきた。収穫直前に雨が降ると、病気が一気に蔓延する可能性が出てくるが、雨の前に収穫すれば、そのリスクを避けることができるのだ。

消費者のニーズにマッチする味わいのワインができることがわかれば、塩尻のぶどう農家のナイアガラ離れにストップをかけられる。また、早摘みで収量を確保できれば、農家の収入の確保にも繋がる。

「ナイアガラやコンコードなど、塩尻での歴史が長い品種を存続させるためにBelly Beads Wineryの立ち上げました。今後は、地域の農家さんから材料を仕入れられる規模にまでワイナリーを育て、地元のぶどう産業の衰退を食い止めたいと考えています」。

『Belly Beads Wineryのワイン醸造』

続いては、Belly Beads Wineryのワイン醸造について紹介しよう。

「塩尻でワイナリーをする上では、ナイアガラとコンコードを使ったワインをきちんと造り、地元の人たちに美味しいと言っていただけることが欠かせません」と、川島さん。

Belly Beads Wineryで造るナイアガラとコンコードのワインは、食事にも合わせやすいが、その取り組みは成功しているのだろうか。

▶︎低温発酵がこだわり

かつては甘いワインが主流だったナイアガラとコンコードは、ワイン初心者向けというイメージが強かった。そのため、海外のワインに肩を並べられるようなワインではないと捉えられていたのだ。実際、今でもそのイメージを払拭しきれたとは言えないという。

「うちのナイアガラのワインは、キリッとした酸が特徴で、飲み飽きない味わいです。柑橘系の香りがほのかにあり、ブラインドテイスティングしていただくと、ソーヴィニヨン・ブランと回答される人もいるくらいです」。

Belly Beads Wineryでは、早摘みのナイアガラを低温発酵させている。発酵温度は、約12度だ。

「発酵温度を一定に保つため、温度管理可能なステンレスのサーマルタンクを使っています。限られた設備ですが、ぶどうをよい状態で醸造できるように気を遣っていますね」。

ヨーロッパ品種に負けないポテンシャルを秘めた、塩尻のナイアガラで造られたワイン。これまでナイアガラのワインを手に取る機会がなかった人にも、Belly Beads Wineryのナイアガラを、ぜひ一度味わってみてほしい。

▶︎Belly Beads Wineryが目指すワイン

次に紹介するのは、Belly Beads Wineryが目指すワインについて。Belly Beads Wineryのワインをどんなシーンで飲んでほしいかについて尋ねてみた。

「私がワインと出会ったとき、ワインはほかのお酒とはちょっと違う特別な飲み物だと思いました。ワインを飲むときに、味わいのこと以外にも、栽培者のことや土地のことについて語り合うことがありますよね。それに深く感銘を受けました。私たちのワインも、今年は雨が多かったなとか暑かったなと、ワインの熟成を想像しながら味わってもらえたらなと思います。ワインとともに、素敵なひと時をすごして頂けたらうれしいです」と、川村さん。

Belly Beads Wineryのラインナップにはミニボトルやハーフボトルも揃うが、フルボトルを気のおけない仲間とともに味わって飲んでもらうのが理想だという。

主なターゲットは女性。おしゃれなエチケットとリーズナブルな価格設定で、気軽に飲めるワインを目指している。そして、地元の人に親しみを持って飲んでもらえるワインであることも重要だ。

「ワインができたときには、地主さんをはじめとした地元の人に飲んでいただくんです。みなさんに美味しいと言っていただけるのが、何よりも嬉しいですね」。

Belly Beads Wineryのワインの価格帯は、王滝グループの飲食店での取り扱いのしやすさも考慮して設定されている。

王滝グループのレストランで、美味しい料理とともにBelly Beads Wineryのワインを味わう、素敵な時間を過ごしてみてはいかがだろうか。

▶︎未来に向かって

Belly Beads Wineryでは、飲食事業を幅広く手掛ける王滝グループに所属する強みを生かし、グループ内のシェフと一緒にワインのブレンドを研究するなど、より食事に合うワインを造っていきたいと考えている。食事と一緒に楽しんでもらうためのワインを開発するには、料理を手掛けるシェフとともに検討するのが一番なのだ。

王滝グループは地元密着型の企業で、地元産の農産物を使った製品の開発にも積極的だ。最近では、2022年春にグループ初のスイーツ店をオープン。Belly Beads Wineryのぶどうやワインを使ったメニューもあるという。

「グループとワイナリーの目指す地元・長野への思いが一致しているので、非常にやりやすい環境です。機動力があり、地元を盛り上げるパワーがあるので、これからも積極的に取り組んでいきたいですね」。

『まとめ』

川村さんはBelly Beads Wineryのこれからについて、次のように語ってくれた。

「収量制限した高品質なぶどうを収穫し、長期熟成に耐えるフルボディのワインを造ってみたいですね。畑の土壌改良や拡大も視野に入れています」。

Belly Beads Wineryの早摘みナイアガラワインは、「天ぷらに合うワイン」として販売され、好評を博している。地元の農家を救う手段としての取り組みと、方向性が正しかったことが実証されたのだ。

「早摘みのナイアガラのワインの成功例は、今後ほかの品種のワインを造っていく上でも生かせるモデルケースになりました。今後は、農家さんが手塩にかけて栽培した大切なぶどうをしっかりと高値で買い取ることで、塩尻のぶどう畑を未来に残していきたいです」。

畑を続けてもらえるための仕組みを構築し、若手が栽培を引き継ぎたくなる環境を整えるためにはどんなワインを造ればよいのか模索中だという。

塩尻のワイン造りの歴史を支えてきたナイアガラとコンコードの継承と、先人たちの残してくれた農地の再生を最優先にしてきたBelly Beads Winery。これからはさらに活躍の幅を広げ、引き続き魅力的なラインナップを展開してくれるに違いない。

基本情報

名称Belly Beads Winery
所在地〒399-6461
長野県塩尻市宗賀2372-1(醸造所)
アクセス【電車でお越しの場合】
JR洗馬駅から徒歩10分 
【お車でお越しの場合】
塩尻インターより木曽方面へ15分
HPhttps://bellybeadswinery.com/

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