若い情熱をかけて ワインにまっすぐな青年二人の「Le Milieu(ル・ミリュウ)」

帝国データバンクの2017年度の調査によると、全国にワインメーカーは206社あるという。このうちワイナリーは138社。2000年以降に設立されたのは36社である。全体の1/4だ。さらに5人以下のところが75社で全体の54.3パーセントを占める。代表者が50代以上のところが82.7%。

以上の数字からワイナリーは50代以上の中高年が5人以下の小さな規模で経営し、新規参入が比較的容易な業界だというイメージが湧く。
しかしである。経営者が30歳ちょうどで従事者が代表と副代表の二人だけとなると、どうだろう。なにか大きなドラマを感じてしまうのは筆者だけではないと思う。

『創業者二人の出会いは飲み会』

「Le Milieu(ル・ミリュウ)」は2018年に創業したばかりの若い会社だ。代表の塩瀬豪さんと副代表の齋藤翔さんは年が同じで、前述の通り30歳のときこのワイナリーを立ち上げた。

ワイナリー設立を考えたのは、 齋藤さんだという。

「僕は安曇野市三郷の出身。南アフリカへ留学したり、高知県で漁師に弟子入りするなどして広い世界を巡り歩いた後、地元に戻って飲食店に就職しました。そこでソムリエの資格を取ったのですが、どんどんワインに興味が出てきてしまってワイナリーをやろうと思って店を辞めました。学生の頃は飲むだけで、自分が作る側になるなんて考えてもみませんでした。店で知り合った方の中に異業種からワイン業界に入って醸造家になった人がいて、意識が変わったんだと思います」

 齋藤さんは須坂市の「楠わいなりー」(https://www.kusunoki-winery.com/)で3年間、そして地元に戻って「安曇野ワイナリー」(https://www.ch-azumino.com/)で2年間、栽培と醸造を学んだ。並行して耕作放棄地で雑木林と化していた安曇野市明科天王原の桑畑だった場所に手を入れはじめ、独立の機会を窺っていた。

 ちょうどその頃、松本市にある長野ワインを置いてある店に飲みに行ったことが、齋藤さんの運命の歯車を回転させた。

「お店の人が『向こうの子はワイナリーで働いている子だよ』と言ってある人と引き合わせてくれたんです。須坂にいたときは同世代のワインメーカーさんと会うことがなくて、同世代はワイン作っていないのだと思っていました。でもその人の企画で参加した飲み会に豪君(塩瀬さん)がいて、いろいろ話しているうちに最終的に一緒にやろうという話になって今があります。だから創業のきっかけは飲み会なんです」。

 一方塩瀬さんは「マンズワイン小諸ワイナリー」(https://mannswines.com/winery/)のある小諸市出身。2008年に安曇野の「あづみアップル」(http://www.swissmurawinery.com/)に入社し栽培と醸造に携わった。同社の代表銘柄であるソーヴィニヨン・ブランの醸造を任され「日本ワインコンクール」で銀賞を受賞している。
 しかし齋藤さん同様学生時代はワインに興味はなく、大学の商学部を中退して沖縄でダイビングのインストラクターの仕事をしていたとき、観光資源としてワインに興味を持ち始めたという。 

「僕は齋藤に出会うまでは『自分でワイナリーをやろう』なんて考えていなくて。中規模のワイナリーにいたので『安定してワインつくっていけたらな』という感じでした。でも同じ年の齋藤と出会って刺激を受けたんです。自分でワインをつくって独立できるんだ、と。将来的なことを考えると、一人でやるよりは一緒に組んだ方がいいのかなと思ったんですね」。

『Le Milieu(ル・ミリュウ)という名の由来』

 二人は会社を立ち上げた。屋号が必要だ。二人が選んだのは「Le Milieu(ル・ミリュウ)」というフランス語だった。
 県内には「サンクゼール」や「リュードヴァン」のようにフランス語の屋号を掲げるワイナリーがないわけではないが、しかし珍しいことは事実である。
「Le Milieu(ル・ミリュウ)」は中心という意味だ。「テーブルの真ん中に置いてもらいたい」という願いが込められている。と同時に「自分たちの生活の真ん中にワイン醸造、ぶどう栽培を置いていこう」という決意表明でもある。

 命名のきっかけは「二人に繋がりのある言葉で会社を興した方が良いんじゃないか」と考えたことだった。塩瀬さんと齋藤さんには、天秤座でO型(そして同じ年)という共通点があった。そこからバランス、そして O の字の丸みから連想して「中心」というキーワードが導き出されたのだという。
 かなり時間を掛けて決めた名称だと踏んだ。実際はどうだろう?

「Le Milieu」の特徴は、別々のワイナリーで経験を積んだ二人が意見を出し合いながら作っていくということだ。
 ほかのワイナリーでは醸造長が先頭に立ち、どんどんものごとを決めていく。しかし「Le Milieu」ではすべてが相談ベースで進んでいく。「今年はこんな方向性で行こう」「このワインはこんな感じにしよう」と天秤座らしいバランス感覚で意見調整しながら、最終的には「Le Milieu」のワインとして瓶詰めされていく。塩瀬さんと齋藤さんのどちらのワインでもない。そこにあるのは「Le Milieu」のワインだ。

『古くからぶどう栽培が盛んな安曇野一帯』

 さて塩瀬さんと齋藤さんが拠点に定めた安曇野とは、一体どんな土地だろう。
 安曇野から松本にかけての一帯は、古くからぶどう栽培が盛んな土地である。長野県内のぶどう栽培発祥の地はこのエリアにある。

 現在安曇野市になっている旧五常村(現在の松本市五常と安曇野市豊科田沢字高萩に跨がる)では、たくさんの農家が集まってリュウガンを作りマンズワインに売っていた。また北隣の池田町でも30年ほど前からワイン用ぶどうを育てる農家があって「あづみアップル」に納入するなど、一応歴史はある。しかし産地としての安曇野は大きく拾い上げてもらうことはなく、小さくやってきたという感じが否めない。東京のワインラバーがイメージするのは、長野だったら東御市(とうみし)か高山村辺りだという。

 とは言え、安曇野一帯にはワイン用ぶどうの栽培適地とされる圃場(ほじょう:農産物を育てる場所。田、畑、果樹園、牧草地、放牧地のいずれにも使える言葉)が多く、降水量が比較的少ない、水はけが良い、寒暖差がある、日照時間が長く西日がよく当たる、風が吹くなど好条件が揃っている。各ワイナリーと契約するぶどう畑も少なくない。
「僕らの圃場に限らず、この辺り一帯の表土は砂礫混じりの粘土質と言われています。特質すべき気象条件として、高瀬川が近くに流れているので霧が捲くときもありますし、上昇気流もあります。谷形状なので東西から吹き下ろしの風が来ます。南北へは吹き抜ける風があるので条件は良いと思います。
 詳細な気温は測っていないのですが、メルシャンさんやサッポロさん、それから過去にサントリーさんもいたので、ぶどうに適した土地であることは間違いないと思います」と塩瀬さんは語る。

 逆に齋藤さんは「僕は地元が安曇野ですから、安曇野以外でやる気は全然なかったですね」と言う。
「もちろん栽培出来る環境だとある程度分かっていたので、外さないだろうと。あとはどこまで良いぶどう、どこまで良いワインができるかです」。 

「Le Milieu」は安曇野市明科天王原に約1.5ヘクタールの自社畑を持っている。標高約600メートルの西向きの斜面になっており、かつては耕作放棄地だった。ここに二人はシャルドネ、メルロ、カベルネソーヴィニヨン、カベルネフラン、ピノノワール、ネッビオーロ、シラー、ピノ・グリ、リースリング、ナイアガラと実に多様な欧州系葡萄品種を栽培している。品種を絞るワイナリーも多いなか、なぜこれほど多品種を育てるのだろうか?

 塩瀬さんはこんな風に語る。「僕らの醸造施設は小規模でタンク自体500リットル以下のものを使用しているので、大量に仕込めません。そこで多品種少量生産という形でぶどうの品種を多くしているという状況です。選んだ品種はワイン好きなら一度は耳にしたことがあるものばかりです。
 まだ始めて2年ですから、どれがダメでどれが良いという適合性の部分は判断できません。状況を見ている段階ですので、品種は絞ってはおらず多いですね。時間を掛けて少しずつ判断を下せればと考えています」。

 ところでワインの年間生産本数はどれくらいなのだろうか。
 塩瀬さんによると、去年は初めてだったのでペースが分からず、頑張って1万5千本生産したという。しかしバタバタしすぎてワイン1本1本に時間が割けなかったので反省し、今年はゆったり目に作ろうと1万本に落としたという。規模を追うのではなく、納得できる味わいを追求した結果だろう。

『ナチュラルにその年採れたぶどうをそのままワインに』

 前述の通り「Le Milieu」は自社の畑を持っている。しかしワインの生産量を落としたことから窺えるように、ぶどうの収量に関してもこだわりがある。
 齋藤さんは語る。「自分たちの周りに農地が3軒分あって、合計10ヘクタールでぶどうを育てています。自社のぶどうだけでなく、地元のぶどうも使っていきたいと考えているので、自社でつくる分は低収量でいいんです」。
 つまり厳選したぶどうを使うことで質を高めていく戦略なのだろう。
 栽培に関しても「農薬の散布は最小限に、土は自然に任せて、木は自分たちの手でどうにかしたい」と塩瀬さん。
 さらに土壌づくりに関して「開墾地ですから特にやることはなくて、比較的腐葉土みたいなものが多いはずなので手を付けていません。逆に手を入れると自然なものではなくなると思います。実際は開墾している時点で自然ではないのですが、そこに手数を掛けるくらいなら葉をいじる時間を増やしたい」と言う。

 この「自然」へのこだわりは昨今のオーガニックブームを反映しているのかもしれないし、あるいはミレニアル世代特有のものなのかもしれない。

 齋藤さんはワインを醸造するときは畑と同様になるべく不純物を入れたくないと語る。
「二人とも割と大きなワイナリーにいたので、大きな会社として守らなければならないルールみたいなものに縛られていました。今は小さなワイナリーだからこそチャレンジできることをやっていきたいんです。それは品質保持のために添加していたものをやめることだったり、糖分を上げるために加えていた砂糖を入れないことだったりです。その年採れたぶどうをそのままワインにすることにこだわっています」。
 無添加だけではない。彼らは手作業で醸造することを自社の強みだと言い切る。それが機械化のすすんでいる他社にはない特徴だという。
 このナチュラル指向に通じる部分だが、フルーティーさや飲み口の柔らかさを大切にしているため、 熟成ワインはお試し程度の生産で本腰は入れていない。将来的に熟成に適したぶどうが分かってポテンシャルとして10年以上の熟成に耐えるようであれば、必然的に熟成させるかもしれない。しかし今は飲み頃のワインがおいしいので、そのまま楽しんでもらいたいそうだ。

『ミレニアル世代にこそ飲んで欲しい』

 ミレニアル世代のアルコール離れが喧伝されて久しい。しかし塩瀬さんも齋藤さんも若い人にこそ飲んで欲しいという。
「『Le Milieu』のターゲット層は女性や若い世代。ワインに馴染みがなかったり、なかなかお酒を飲まなかったりという人たちをいかにして引きつけるかということを考えています。僕らのワインを切っ掛けに、ワインの世界に一歩踏み出して欲しい」。(塩瀬さん)
 だからこそフルーティーさや飲み口の柔らかさが大切になる。

 またラベルのデザインにもこだわっている。「ジャケ買い」ではないが、空いた瓶を飾りたくなるようなお洒落なラベルにすることで、思わず商品を手に取ってしまうことを狙っているからだ。
「去年作ったワインは全部名前を二人で先に決めて、そのイメージから連想するものをラベル業者のデザイナーさんに伝えて絵にしてもらっています」。(齋藤さん)

『まとめ』

「Le Milieu」は2018年3月に安曇野市、池田町、大町の3自治体で認可された小規模ワイナリーを開業できる国の「北アルプス・安曇野ワインバレー特区」の適用第1号である。酒税法の定めるワイナリーの最低生産量は6千リットルだが、この特区では1/3に該当する2千リットルで製造免許を取得できる。必要な条件は「域内のぶどうを使用すること」などだ。
 塩瀬さんも齋藤さんもあたたかく応援してくれる地元の人々の期待に応えられるワインをつくって恩返しがしたいという。
 「今年はいつ出してくれるのか、と楽しみにされるワイナリーになりたいと思ってますね」。(齋藤さん)

 同社の公式サイトでは目指すワイン像として「フィネス」を上げている。フィネスとは「洗練された」「上質な」「繊細な」という意味で、決して高価ではないがエレガントでバランスの良いワインを指す言葉だ。
「海外のグランヴァン(ボルドーの1級シャトーなどの高価なワインを指す用語)ではありませんが、納得できる味わいをつくり上げたいと思って始めたんです。しかし実際に会社を始めて思うことは、地元の人たちが買いたくなるワインにしたいということなんです。会社として地元の人に愛されるワイン。
『憧れたあの味』というよりは、農家さんが作ってくれたぶどうをそのままワインにして、地元の味として楽しんでもらえる1本が出来ればなと思ってます」。(齋藤さん)

 齋藤さんは「Le Milieu」を立ち上げた現在もソムリエの仕事を続けている。お客様から自社のワインの評価を直に聞ける環境に身を置いたワインを見極めるプロだ。
 一方塩瀬さんは「日本ワインコンクール」で銀賞を受賞した経験を持ち、広島市の酒類総合研究所でも学んだ経歴も持つ栽培と醸造のプロだ。
 そんな二人が手を組んで日本有数のワイン産地である長野のワイナリーの一翼を担う。今は地元の酒屋・飲食店様を中心に販売しているが、今後はワイナリーでの直接販売も計画しているという。

「誰かの大切な1本になればという想いを持って」(公式サイトより)
塩瀬さんと齋藤さんの視線は未来に向けられている。

基本情報

名称Le Milieu(ル・ミリュウ)
所在地〒399-7104
長野県 安曇野市 明科七貴4671-1
アクセス安曇野インターから車で10分
HPhttps://le-milieu.co.jp/

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