『KANATA WINERY』果樹栽培のスペシャリストが手がけたぶどうで造る、魚津の食材に寄り添うワイン

富山県の北東部にある魚津市は、富山湾に面した平野部と2000m級の山岳地帯をあわせ持った、独特の地形の都市である。そんな自然豊かな魚津市に設立されたのが、果樹栽培のスペシャリストが栽培と醸造を担当する「KANATA WINERY」。創設のきっかけとなったのは、地域が抱えるさまざまな課題を解決したいとの思いだ。

KANATA WINERYで栽培している品種は、魚津で古くから栽培されてきた生食用ぶどうと、ワイン専用品種。手がける品種の中でも特に注目したいのは、ピノ・ノワールだ。雨に弱く栽培が難しいとされる品種だが、万全の対策を取りつつ魚津独自のピノ・ノワールの栽培と醸造を成功させつつある。

KANATA WINERYがワイン造りで大切にするのは、地域の食に合うワインであること。ぶどうのポテンシャルを最大限に引き出し、魚津の海産物に寄り添うワインを造っている。

今後目指すのは、地域の豊かな食文化をさらに充実させ、県外からも多くの人が魚津に訪れるきっかけを作ること。地域の若手シェフとのコラボレーションや、イベント開催にも積極的だ。

未来につながる可能性を秘めたKANATA WINERYの、設立のきっかけからこれまでの歩みや、ぶどう栽培とワイン造りのこだわりについて、栽培・醸造責任者の土井祐樹さんにお話を伺った。

『KANATA WINERY設立までのストーリー』

まずは、KANATA WINERY発足までの経緯をたどっていこう。KANATA WINERYの経営母体は、富山県魚津市でLPガス事業などを手がける「株式会社 丸八」だ。

魚津で長く事業を展開してきた地元密着型の企業だからこそ、丸八は魚津をよりよくしていかなければならないと考え、事業を拡大してきた。

なかでも丸八の前会長は、地域で起こった問題を解決するために自ら奔走。前会長が取り組んでいた地域課題は数多くあり、そのうちのひとつが耕作放棄地問題だった。

▶︎地元への貢献のために

現在KANATA WINERYがある土地に隣接するエリアには、古くから生食用のぶどう栽培が盛んだった場所がある。だが近年、農業従事者の高齢化により、耕作放棄される土地が増えてきていた。

「丸八の前会長は、中山間地域で人口減少傾向にある地元をなんとか盛り上げたいという思いを抱いていました。そこで立ち上がったのが、耕作放棄地問題を解決するために、ぶどう栽培とワイン造りを自社で手がけるという新事業でした。地元のライフラインをおよそ70年に渡って支えてきた企業だからこそ、地域貢献が使命だと考えたのです」。

また、前会長は若い頃に養鶏に携わっていたが、家業を継ぐ形でガス会社の運営に参画してきたという経歴を持つ。そのため、人生の最終盤には農業に回帰したいと考えていたそうだ。

2018年、新事業のスタートを決めた丸八は、富山県氷見市にある「SAYS FARM(セイズファーム)」から苗木を譲り受けて植栽を開始。KANATA WINERYが始動したのだ。

▶︎果樹栽培のスペシャリスト

ここで、KANATA WINERYで栽培・醸造責任者を務める土井さんの経歴について紹介しておこう。富山県出身の土井さんは長年、富山県庁の「改良普及員」(現在の「普及指導員」)として果樹栽培の普及指導をしてきた。

そんな土井さんがあるとき耳にしたのが、地元のガス会社がワイナリーを立ち上げようとしているという噂だった。

「素晴らしい取り組みだと感じましたが、ぶどう栽培に関しては知識がない企業なので、心配になっていろいろとアドバイスしました。すると、丸八の前会長から、『うちに転職しないか』という誘いを受けたのです。ワインを飲むのは好きでしたが、まさか自分がワイナリーで働くことになるとは思いもしませんでしたね。しかし、よいめぐりあわせだったので、縁を大切にしたいと考えて転職を決めました。一期一会という言葉の意味を今、実感しています」。

もともと魚津市は、梨とりんごの栽培において100年以上の歴史がある土地。県の果樹研究センターも市内にあり、富山県の果樹栽培の中心地でもある。そんな土地で発足するプロジェクトを、失敗させるわけにはいかない。土井さんは果樹栽培のスペシャリストとして、大きな責任を感じたそうだ。そして、2020年に株式会社丸八(KANATA WINERY)に入社し、栽培・醸造担当として活躍することとなったのだ。

『KANATA WINERYのぶどう栽培』

続いては、KANATA WINERYのぶどう栽培について見ていきたい。自社畑では、どのような品種をどんな栽培方法で育てているのだろうか。

魚津市ならではの気候の特徴や、ぶどうの味わいなどについても詳しく尋ねてみた。さっそく紹介していこう。

▶︎KANATA WINERYで栽培している品種

KANATA WINERYではワイン専用品種と生食用品種の両方を栽培している。まず、栽培を手がけているワイン専用品種は以下だ。

白ワイン用品種

  • アルバリーニョ
  • ソーヴィニヨン・ブラン
  • 甲州
  • シャルドネ

赤ワイン用品種

  • カベルネ・ソーヴィニヨン
  • メルロー
  • カベルネ・フラン
  • プティ・ヴェルド
  • シラー
  • ピノ・ノワール

また、生食用品種としてはロゼのスパークリング用に「バッファロー(通称アーリー・スチューベン)」を栽培。バッファローは、古くから魚津で親しまれてきたぶどうだという。

「バッファローは普通のスチューベンよりも2週間ほど収穫が早く、ちょうどお盆の時期に食べられるということで、地元で人気の品種です。ほかにも、シャインマスカットとピオーネ、巨峰、『ヒムロッド・シードレス』という品種なども育てています」。

生食用品種をワインに使う際には、複数品種を混醸にして深みのある味わいを表現しているそうだ。

▶︎土地に合う品種はピノ・ノワール

多様な品種が育つKANATA WINERYの自社畑。栽培に適していると土井さんが考える品種はピノ・ノワールである。

「ピノ・ノワールの栽培を始めるにあたっては、関係各所からさまざまなご意見をいただきました。しかし、工夫すればうまく行くだろうとの算段がついていたので、私自身は特に不安はありませんでした。そして実際に今、当地では栽培しやすい品種だと感じています。ワインにしたときの発色は物足りないものの、しっかりと収量が確保でき、品質も良好です。なかなかすごい品種ですね」。

雨に非常に弱いとされるピノ・ノワールを、魚津で栽培することに反対意見があったのは、当然のことかもしれない。魚津市の年間降水量は約2500mmあり、全国平均の1700mmを大きく上回る。さらに、ぶどうの成長期にあたる4〜9月までの降水量だけでも1200mmほどあり、ぶどう栽培には厳しい環境であるように感じられるだろう。健全なぶどうを栽培するために、どのような対策をとっているのだろうか。

「梅雨時は長雨が続きますし、冬場にも雪が積もります。まさに雨の影響を大きく受けそうな気候ですよね。対策としては、房を地面から離して枝葉の成長と果実の成長のバランスを取りやすくするため、棚栽培のダブルコルドン仕立てを採用しています。また、雨の影響を最小限に抑えるためにフルーツゾーンの上部には雨除け用のビニールを張って、果実に雨が直接当たるのを防いでいます。対策が効果を発揮して、うまくいっています」。

▶︎環境や天候を味方につけたぶどう栽培

KANATA WINERYの自社畑は、直線距離で海まで約4kmの場所に位置する。標高は100mほどで丘陵地帯のため、風がよく通るエリアだ。

「土壌はちょっと変わっていますね。表面にはやや黒みを帯びた『未熟黒ボク土』があり、その下は粘土質の赤土です。水はけが悪くて大変そうに思えるのですが、丘陵地帯であることと、礫(れき)を多く含むことから、実は非常に水が抜けやすいのです」。

粘土質の保水力を持ちつつ、水はけもよいという珍しい土壌は、ぶどう栽培に適した環境だ。梅雨の雨が多い気候ではあるものの、梅雨が終わったら土壌はしっかりと乾燥する。また、通常の赤土であれば乾きすぎてカチカチに固まるような日照りの際にも、ほどよく水分を保ってくれるというちょうどよいバランスを持っているのだ。

だが、栄養分の少ない赤土なので、植物栽培の分野で「秋落ち」と呼ばれる状態に陥りやすいという。「秋落ち」とは、夏場の高温が原因で急激な乾燥が進み、土壌の養分が吸収できなくなる等によって植物の成長率が急激に下がる状態を指す言葉だ。通常は、ネガティブな状態として使われることが多い。しかし、この「秋落ち」の状態こそが、KANATA WINERYの自社畑ではヴェレゾン期以降に効果を発揮する。

「たまたまかもしれませんが、ちょうど梅雨明け頃にヴェレゾン期を迎えます。ぶどうの成熟する時期は高温・乾燥が続き『秋落ち』となることから、枝葉の成長が自然に抑えられて、よい状態で収穫時期を迎えることができるのです」。

ぶどう栽培は、自然環境や天候との絶妙な兼ね合いで成立するものだ。人間の力だけではいかんともしがたいことも多いのが農業だが、環境や天候をうまく味方につければ、一見不可能なことも可能にすることができるのだろう。

▶︎ぶどう栽培における対応

KANATA WINERYでは、ぶどう栽培においてどのような工夫をしているのかと尋ねてみると、「工夫なんて何にもしてないですよ」と、朗らかに笑う土井さん。気をつけているのは、生食用品種とワイン専用品種のバランスをとりながら栽培管理をすすめることだという。

「生食用の管理には非常に手間がかかるので、時期によってはワイン専用品種にしっかりと手をかけることが難しいこともあります。少人数で管理しているため、必ずしも適切な時期に作業できるわけではないのです。その場合、その時期ごとにどうするのがいちばんよいかを見極めて、臨機応変に対応することが重要ですね」。

ぶどうの新梢の先端部を取り除く『摘心(てきしん)』作業の場合はどうだろう。少人数では一気にすべての作業を終わらせることは難しいので、畑の最後の区画にたどり着く頃には、新梢がすっかり伸びてしまっている。この場合に大切なのは、例えば、一律に何節目で摘心する等の対応ではなく、新梢の状況にあわせてその場で最適な対応を判断しながら管理していくことだ。

「常に状況にあわせて対応することが求められますが、口頭で説明されても難しいですよね。そのため、スタッフにわかりやすいよう、私も一緒に畑に入って作業するところを見せながらすすめています。当たり前のことですが、ぶどうは日々成長していきますから、ずっと同じ対応をしていてもダメなのです」。

『KANATA WINERYのワイン醸造』

改良普及員として働いていた頃に、他社の醸造の様子を見て、ワイン造りの大体の流れはひと通り把握していたという土井さん。だが、醸造経験はまったくなかったため、転職後に広島県東広島市にある「独立行政法人 酒類総合研究所」でワイン醸造講習を受講した。

KANATA WINERYでは、2021年にファーストヴィンテージを約1t委託醸造。2022年には醸造所が完成し、自社醸造をスタートさせた。

KANATA WINERYのワイン造りについて、こだわりや特徴を見ていこう。

▶︎地元の食に合うワイン

KANATA WINERYが理想とするワイン像について、土井さんにお話いただいた。

「ワインの仕上がりは、ぶどうの出来に大きく左右されます。そのため、高品質なぶどうを栽培し、ぶどうのポテンシャルを最大限に引き出したワインを造りたいと考えています。また、なによりも郷土料理の『昆布締め』にも合うような、地元の食に合うワインを目指したいですね」。

富山湾は、「天然のいけす」と呼ばれるほどの魚介類の宝庫である。魚津には3つの漁港があり、水揚げされる魚介の種類が非常に豊富なのが特徴だという。水揚げされた魚介はほとんどが地元で消費されるため、魚津では豊かな食文化が育まれてきた。また、北前船がもたらした昆布文化が、郷土料理の「昆布締め」に代表されるように食文化として定着している街でもある。

「魚津市は人口4万人の小都市ですが、駅前に飲食店街が発達していて、若い料理人たちも活躍しています。そのため、和食だけではなく、地元の食材を使ったイタリアンやフレンチなども楽しめるのです。地元の味覚とともに楽しんでもらえるワインを造るのが直近での目標ですね」。

KANATA WINERY創業の目的のひとつである「地域貢献」と「地域振興」は、まず魚津市民にワインを楽しんでもらうことで果たすことができるだろう。また、現地でしか味わえない特別な食とワインを求め、県外からも人がやってくるようになれば、さらに地域が豊かになるはずだ。

▶︎先入観にとらわれないことを大切に

KANATA WINERYでは、オープン前から地域の若手シェフと連携し、ワインとコース料理を合わせて提供するイベントを開催してきた。今後も継続的に同様のイベントを実施していく予定だという。

「腕のよい料理人は、うちのワインにマッチする味付けをしてくれますよ。料理人たちからの声を大切にして、今後の醸造に生かしていきたいと思っています。醸造に関しては、今後しっかりと経験とデータを積み上げていかなければなりません」。

土井さんが大切にしたいと考えていることのひとつに、「先入観にとらわれないこと」があるそうだ。一例としてわかりやすいのが、KANATA WINERYのピノ・ノワールだろう。

KANATA WINERYのピノ・ノワールのワインは、飲んだ人から高い評価を受けてはいるが、酸が低いために一般的なピノ・ノワールの味わいのイメージとはやや異なる。つまり、ピノ・ノワール好きのワイン愛好家から、「これはピノ・ノワールではない」という意見を聞く可能性も大いにあるということだ。

「今後、熟成することで味わいが変化していくとは思いますが、魚津ならではの味わいであることに変わりはありません。造り続けるうちに、魚津のピノ・ノワール独自のスタイルとして広く定着させていきたいですね」。

先入観にとらわれないことの大切さは、魚津のりんご農家から学んだという土井さん。

「魚津のりんご栽培は、120年ほどの歴史があります。私は、ベテランの栽培家の方たちから多くのことを教えていただきました。彼らは青森や長野のりんご農家から技術を学びつつ、青森や長野とは異なる気候の魚津の土地に合った独自のりんごの栽培技術を確立してきたのです。私も先人たちの後に続き、常識に囚われないやり方を踏襲して今後も取り組んでいきたいですね」。

魚津のピノ・ノワールの味わいは繊細で、日本人の味覚にフィットする。チャーミングで出汁の感じと塩味もあるのが特徴だ。今後はより凝縮感がある味わいのピノ・ノワール栽培を目指すが、並行して魚津らしさも大切にしていきたいと話してくれた。

「魚津のピノ・ノワールは、新鮮な魚介の刺身とよく合います。アオリイカの噛むほどに出てくる旨みとマッチしますよ」。

先入観を捨てて土地に合った栽培方法を選び、ぶどうが持つ新たな魅力を引き出す。するといつの間にかそれは、やがてひとつのスタンダードになっていくのだろう。KANATA WINERYが確立していくピノ・ノワールの新しいスタイルに注目していこう。

▶︎魚津にワイン文化を

土井さんが考えるKANATA WINERYのワインの楽しみ方は、地域の集まりなどで気軽に飲んでもらえる存在になること。

「いろいろな銘柄を造っているので、コース料理に合わせていただくこともできます。しかし、地元の方たちが富山弁で楽しく談笑しながら、コップ酒みたいなイメージでとにかく楽しく飲んでくれたら、それ以上の喜びはありません。富山で乾杯するならKANATA WINERYのワインがいちばんと言われるような文化を作っていきたのです」。

『まとめ』

KANATA WINERYは、地元に愛されるワイナリーとして成長を遂げている。地元の人が気軽にお酒を楽しめ、みんながワインを手に乾杯できる場所を目指す。今後は自治体とも連携してワイナリーをアピールしていくという。

もちろん、ワイナリーとしての最大のミッションは、ぶどう栽培とワイン造りに注力することだ。KANATA WINERYの最大の強みは、果樹栽培の専門家が手がけるワインであること。

「ワインというものは土地に根差したものです。魚津という土地だからこそできる、ほかにはないワインを見つけ出していきたいと考えています。魚津にしかないワインが、そのうちできますよ。行き着く先が見えると面白くないので、可能性を感じられる存在でありたいですね。すべてのことに面白味を感じながらやっているので、大変だけど毎日が楽しいですよ」。

KANATA WINERYの造り手の晴れやかな笑顔とおおらかな魅力は、きっとワインの味わいにも溶け込んでいることだろう。KANATA WINERYのさらなる飛躍に、引き続き注目していこう。

基本情報

名称KANATA WINERY
所在地〒937-0013
富山県魚津市天神野新字西大野147番1
アクセスhttps://kanatawinery.com/#access
HPhttps://kanatawinery.com/

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