追跡!ワイナリー最新情報!『マンズワイン小諸ワイナリー』困難を乗り越え、未来に続くワイン造りに挑む

キッコーマングループのワインメーカー「マンズワイン」は、山梨県甲州市勝沼町と長野県小諸市の2か所に拠点を置いている。今回は、長野県小諸市にある「マンズワイン小諸ワイナリー」の最新情報を紹介していきたい。

マンズワイン小諸ワイナリーは、マンズワインの中でもプレミアムワインとして位置付けられている「ソラリス」シリーズの栽培・醸造を担う。マンズワインが醸すワインの中でも、とくに厳選したぶどうのみを使ったプレミアム日本ワインのシリーズが「ソラリス」なのだ。

2001年のファーストヴィンテージからブラッシュアップを重ねてきた「ソラリス」は、日本を代表するワインブランドとして成長を続けている。「ソラリス」の魅力は、高品質なぶどうの魅力をそのままワインにしていることだ。余計なものは加えず、それぞれの土地、ヴィンテージの味をそのまま表現して究極のワイン造りを目指す。

マンズワイン小諸ワイナリーの2022〜2023年について、栽培・醸造責任者の西畑徹平さんにお話を伺った。

『2022〜2023年のぶどう栽培』

まずは、マンズワイン小諸ワイナリーにおける、2022〜2023年のぶどう栽培を振り返りたい。刻々と変化する気候に左右されることも多い、近年のぶどう栽培。長野県小諸市ではどんな天候が見られたのか。

芽吹きから生育期にかけて、気温の高さによるぶどうへのダメージが大きかったという2022〜2023年。マンズワイン小諸ワイナリーの自社圃場周辺の天候の特徴と、ぶどう栽培への影響を確認していこう。

▶︎2022年のぶどう栽培

2022年と2023年に共通していた天候の特徴は、芽吹きの時期の「異常な暖かさ」だった。春の訪れによって気温が上昇することは、一見よいことのように思える。だが、2022年には、春の暖かさこそが予想外の事態を引き起こしたのだ。

「2022年は、春の気温の上昇が急激で、例年よりも数日から1週間ほども早く芽吹きが訪れました。気温が上がったとはいえ、その後、急に下がることもあって安定しませんでした。そのため、春先の気温が原因で発芽時期にばらつきが出てしまったことが、栽培の難しさの大きな要因となったのです」。

芽吹きが早ければ、病害虫の被害が発生する時期もそれだけ早くなる。そのため、ほんの数日芽吹きが早かっただけでも、防除のスケジュールを調整する必要が出てくるのだ。だが、2022年は防除のタイミングを決めかねている間に、病気が発生してしまった。

「同じ区画で複数の品種を栽培している場所もあるので、タイミングの見極めが難しかったのです。雨が多かったわけではないということで、油断もあったかもしれません。圃場によっては春の時点で収量減が確定していました」。

芽吹きのタイミングのばらつきによる影響は想定以上に大きく、収穫できるぶどうが非常に少ない区画もあった。栽培メンバーたちは辛い思いを味わったため、西畑さんはメンバー全員に、残ったぶどうを大切に育てようと、繰り返し丁寧な声かけをおこなったそうだ。そして、なんとか気持ちを切り替え、前向きに栽培に向き合ったのだ。

一方、芽吹きのタイミングが適正だったソーヴィニヨン・ブランなどは例年通りの収量を確保できた。天候に大きく左右される農業の、人間の力ではどうにもできない大変さがわかるエピソードである。

▶︎2022年のぶどうの品質

病気によって収量が落ちた2022年だったが、代わりに得たものもある。「品質」と「次年度に向けた対策」だ。ぶどうは、房数を減らして「収量制限」をすることで、より凝縮感のある高品質な果実が栽培できる。

2022年のマンズワイン小諸ワイナリーの自社畑では、人為的な施策ではないにせよ、結果的に収量制限を実施した場合と同じような効果を得ることができたのだ。

収量への影響が特に大きかったのは、シャルドネとメルローだった。中でも、シャルドネの古樹(ヴィエイユ・ヴィーニュ)に関しては、かつてないほどの凝縮感を持つぶどうができたため、西畑さん自身も大変驚いたという。

「例年、ボトル換算で1500本程度の収量が確保できるところ、2022年は1000本にも満たないほどでした。しかし、とろみがあるテクスチャーを持った、今までにない味わいのぶどうが収穫できたのです。苦しい年ではありましたが、収穫のタイミングまで決して諦めなかったからこそ、すぐれた結果を出せたのだと思います。メンバーみんなの頑張りのおかげですね」。

困難が立ちはだかっても、基本に忠実な栽培管理を地道にこなす強い意志こそが、素晴らしい品質のワインを生み出したのだ。

▶︎2023年のぶどう栽培

続く2023年は、2022年の経験を存分に生かすことができた年となった。芽吹きが早かった場合には、躊躇せず防除作業を前倒しで実施することを決めて行動に移したのだ。2023年も、前年同様に芽吹きが早い区画があったため、例年より早めに防除を開始。結果として病気の発生を最小限に抑えることができた。

「防除には、有機農法でも使われるボルドー液を使っています。芽吹きの状況に応じて、散布タイミングを前倒しにしました。軽く撒くだけでも効果が高いという話を聞いたので、実践してみたのです。結果的に、予防策として実施した防除が大きな効果を発揮しました」。

これまで、マンズワイン小諸ワイナリーでは、カレンダー通りに防除を実施していた。そのため、今までの計画と違う薬剤散布をおこなうことに抵抗があるという声もあった。だが、2022年の収量減を受けて実施に踏み切り、効果はすぐにあらわれた。例年8t程度の収量がある区画において、2022年には約1tにまで落ち込んでいた収量が、早めの防除を実施した2023年には、例年の収量にまで回復することができた。

「もちろん、2023年の収量をキープできたのは、防除のタイミングだけではなく畑の管理全般を頑張った結果でもあります。栽培メンバーたちは、前年の悔しさをバネに懸命に努力しましたから」。

そのほかに2023年のぶどう栽培について取り上げるべきは、前例がないほどの「暑さ」だ。夏になると最高気温がぐんぐん上昇し、ぶどうが健全に生育するかどうか不安になる程だった。だが、夜はしっかりと気温が下がったために、熟度の伸びも上々。糖度も上がり、よいぶどうができた年となった。最終的には、例年より収量が増えた畑もあったほどだ。

2022年の困難を乗り越えたことで、栽培技術やセンスを上げることにもつながったと話す西畑さん。すべての経験を力に変え、マンズワイン小諸ワイナリーは前を向いて進み続ける。

▶︎地中の根を育てる取り組みを開始

夏季の気温が非常に高かった2023年。基本的には大きな影響なくぶどう栽培が進んだものの、中には暑さに苦しんだぶどうもあったという。特に暑さの影響を受けたのは、樹齢が若い樹だった。

若い樹が暑さの影響を受けやすいのは、根が育ちきっておらず、表土の乾燥に耐えきれないことがあるから。一方、樹齢の高い樹は地中深くまで根を伸ばしているため、表土が乾燥しても地中深くに残る水分を吸い上げることができて乾燥に強い。そんな若い樹の根を育てるために始めた取り組みが「耕起作業」だ。

耕起作業とは、簡単に言えば「表土を掘り返すこと」。除草のタイミングで、鋤(すき)の様な機械を使って畑の表面を掘り起こす作業をおこなう。では、なぜ耕起作業がぶどうの根の成長を促すことになるのだろうか。

「耕起作業をすると、地表近くの根も一緒に切ることになります。すると、地中の深いところにある根だけが生き残ります。地道にその作業を続けると地中の根が強くなり、暑さや干ばつ、多雨に強いぶどうになると言われているのです」。

樹の成長と共に、数年かけてゆっくりと根を成長させ、結果を見ていくつもりだという。根を育てるための耕起作業は、樹が若いうちに実施することで効果が期待できる。子供の頃にちゃんとしつけるイメージでしょうか、と微笑む西畑さん。手間と愛情を惜しみなく注ぐ栽培家の気持ちは、ぶどうにもしっかりと伝わっていることだろう。

将来のことを考えて継続していきたいと話してくれた西畑さんが見据えるのは、常に数年先の未来だ。現状に満足せずチャレンジを続け、よりよいぶどう栽培を目指す。

『マンズワイン小諸ワイナリー 2022〜2023年のワイン醸造』

続いては、2022年、2023年のワイン醸造や銘柄の味わいについて見ていきたい。

マンズワイン小諸ワイナリーが醸す「ソラリス」シリーズの両ヴィンテージは、どのような出来だったのか。醸造の様子にも注目していこう。

▶︎高品質が自慢の、2022年ヴィンテージ

2022年のワインは、品質の高さが自慢だ。2022年は収量が少なかったため、醸造に割ける時間が多く、選果作業を非常に丁寧におこなうことができたのだ。すべてのキュヴェにおいて、トップ・キュヴェ並みの選果を実施した。

「悔しい思いもしましたが、数年後に振り返って『美味しいワインになってよかった』と笑い合うことができるよう、全力で醸造しました。もちろん、やるべきことはいつもと変わりません。よいぶどうをよいワインにすることを意識して、しっかりワインに向き合うのみです」。

2022年ヴィンテージのワインをいくつか紹介しよう。まずは、「ソラリス 小諸 シャルドネ ヴィエイユ・ヴィーニュ2022」。2022年ヴィンテージのシャルドネには、華やかさだけでなく、深みやふくよかさが豊かにあらわれている。飲んだ瞬間に直感的に素晴らしさを感じられ、ぶどうの底力が実感できる味わいに仕上がった。

「2022年はネガティブな気持ちを抱えながらの作業となりましたが、出来上がったワインを飲むと、非常に良いものができたと感じられました。リリース後のお客様の反応も楽しみです」。

「ソラリス 小諸 シャルドネ ヴィエイユ・ヴィーニュ2022」はまだ熟成中で、リリースはもう少し先になりそうだ。今まで感じたことのない新しい味わいが楽しめる2022ヴィンテージのリリースを、心待ちにしたい。

続いて紹介するのは、「ソラリス 千曲川 ソーヴィニヨン・ブラン 2022」。ソーヴィニヨン・ブランに関しては、2022年も大きな被害を出すことなく収量をキープ。品質が高く、安定した仕上がりになった。

「『日本ワインコンクール 2023』の『欧州系品種 白』部門で金賞を受賞することができました。ソーヴィニヨン・ブランは、ソラリスの中でも人気シリーズとして成長しています」。

ソーヴィニヨン・ブランは、栽培管理での新たな挑戦が実を結んだ品種でもある。変更したのは、除葉を中止して葉をあえて残したこと。ゆっくり成熟させる方針に転換したのだ。その結果、2021年ヴィンテージから評価が上昇し、2022年ヴィンテージでも金賞を受賞した。挑戦が間違っていなかったことが評価されて非常に嬉しいと話してくれた西畑さん。

「これまではセオリーどおりに除葉をおこなっていたため、試験的に『除葉をやめる』と決断したときには、メンバーから不安の声が上がっていました。しかし、結果が出たことで、失敗を恐れずにチャレンジすれば、よりすぐれたワインを造ることができるということが提示できました。若い栽培家に成功体験をさせることができ、コンクールで外部からの客観的な評価をいただけたのもよかったですね」。

その他、2022年ヴィンテージでは「ソラリス ル・シエル 2022」がリリース済み。シャルドネ、信濃リースリング、ソーヴィニヨン・ブランの3品種を混醸した「ソラリス ル・シエル 2022」は、テロワールの表現を意識したワインだ。「日本ワインコンクール2023」の「[欧州・国内改良品種等ブレンド」部門で銅賞を受賞した。ぜひマンズワイン小諸ワイナリーのぶどう畑の空気を、このワインから感じていただきたい。

▶︎暑さの特徴があらわれた、2023年ヴィンテージ

2023年の天候で特徴的だった「猛烈な暑さ」は、ワインにもあらわれている。色づきがよく糖度が高かった反面、酸が落ちやすかったのだ。そのため、マンズワイン小諸ワイナリーでは、味わいのバランスを取るために「収穫時期をずらしたぶどう」を別々に醸造する方法を試験的に採用した。

「白ワイン用品種は、気温が高いと酸が落ちやすくなります。収穫時期については、非常に頭を悩ませましたね。例えば、シャルドネの古樹では、収穫時期を2回に分ける工夫をしました。最初に畑の南半分を収穫して、数週間後に北側半分を収穫するといった具合です」。

早く収穫したぶどうにはしっかりと酸が残る。一方、後から収穫したぶどうはより成熟しているため、味わいに厚みを出すことができるのだ。

「まだ確定的なことは言えませんが、現状としては分けて収穫して正解だったと思っています。別々の樽で熟成中ですので、今後、ブレンドするかどうかを検討していきたいです」。

『これからのマンズワイン小諸ワイナリー』

天候に悩まされながらも、最善を尽くしてぶどう栽培とワイン醸造に取り組んでいるマンズワイン小諸ワイナリー。最後に、マンズワイン小諸ワイナリーの今後の目標についてお話いただいた。

ソラリスの造り手は、これから何を目指すのか。具体的な栽培管理の工夫や、未来に向けての思いを紹介していきたい。

▶︎栽培作業を突き詰める

マンズワイン小諸ワイナリーには、オーガニック栽培を実践している畑がある。オーガニック畑の面積が増えてきたことによって、課題も見えてきたという。課題への対策をひとつひとつ考えて実践し、うまくいくのかを試す作業が必要になると話してくれた。

「本当に細かいことですが、剪定ひとつをとっても、『この芽を残す必要は本当にあったのか?』というレベルにまで落とし込んでいくのです。考えたことをメンバー間で話し合って共有し、作業に生かすというサイクルを続けています」。

西畑さんが小さな作業に目を向けるのには理由がある。例えば剪定作業において、残す芽数をぶどうの樹1本あたりひとつ多くするだけで、その後の作業に大きな影響が出るのだ。たったひとつの芽であっても、全部で約6万本の樹を管理しているマンズワイン小諸ワイナリーでは、成長すると6万の枝となる。

「ひとつひとつの作業は簡単でも、畑全体を管理することを考えると、より深く考えて効果的な方法を検討していく必要があるのです。地道な取り組みですが、先のことを考えて丁寧に対応していくことを心がけています」。

すべての行動が畑の未来を形作っていくと考えているマンズワイン小諸ワイナリーでは、目の前の課題に手を抜くことなく、全力で立ち向うのだ。

▶︎常に未来を見据えた取り組みを

マンズワイン小諸ワイナリーのぶどう栽培とワイン造りの未来について、西畑さんは次のように話してくれた。

「将来、後輩たちによいかたちでバトンを渡せるように、日々の栽培や醸造に真摯に取り組んでいます」。

造り手が考えるのは、今おこなっているワイン造りの技術や経験、知識を次世代に繋げていくこと。それだけではなく、日本ワインを文化として伝えていくことも自らの使命とする。

「自分のことだけではなく、将来まで長くワイン造りを繋げていくことで、マンズワインがもっとよい会社になり、歴史が積み重なっていくでしょう。それを考えると、今の自分が妥協して何かを『やめる』とか『怠ける』ことはできません。シンプルですが、よいぶどうを作ることを追求していきたいです。派手ではないし、毎年変わらない目標になってしまいますが、未来のためには大切なことだと思うのです」。

西畑さんの言葉は「継続すること」の難しさと大切さを教えてくれる。最後に、西畑さんにとってワインとは何かを尋ねてみた。

「私にとってワインとは、生活のすべてです。友達も家族も、みんなワインつながりで生まれた縁です。ワインのお陰で私は生かされているし、幸せですね」。

『まとめ』

ぶどう樹の病害に苦しんだ2022年と、その経験を生かしてさらなる成長を遂げた2023年は、マンズワイン小諸ワイナリーにとって意味のある2年間だった。ぶどう栽培やワイン醸造の充実感だけでなく、人々の絆も実感した時間だったと振り返る。

「2022年は苦しい思いもしましたが、恵まれた環境であることへの感謝も強く感じることができました。周囲のサポートがあるからこそ、私たちはよいワインを造ることだけを考えて、先を見据えて行動することができます。本当にありがたいことです」。

自分たちがいる場所は、世界基準からするとまだまだ道半ば。追いつき、追い越せるように、畑作りからしっかり取り組んでいきたいと話してくれた西畑さん。

「1年間でできることは限られていますが、限られた時間のなかでも、できることを全力でやって、これからもよいものを造っていきたいです」。

2024年もマンズワイン小諸ワイナリーの挑戦は終わらない。今後の活躍も、引き続き楽しみにしていきたい。


基本情報

名称マンズワイン小諸ワイナリー
所在地〒384-0043 
長野県小諸市諸375
アクセス【お車でお越しの方】
上信越自動車道・小諸IC 約5分
【電車でお越しの方】
JR 小海線・しなの鉄道 小諸駅よりタクシーで 約10分
北陸新幹線 佐久平駅よりよりタクシーで 約30分
HPhttps://mannswines.com

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