『North Creek Farm』北海道・仁木町で、ぶどうの持つ個性を最大限に生かしたワインを造る

北海道余市郡仁木町は、北海道の南西部、積丹(しゃこたん)半島の根元あたりにある。ぶどう栽培が盛んで、ワイナリーも数多くあるエリアだ。

今回紹介するのは、2020年に仁木町でのぶどう栽培をスタートさせた、「North Creek Farm」。代表を務めるのは、鈴木正光さんと綾子さん夫婦だ。千曲川ワインアカデミーで学んだ後、仁木町に移住した。

ふたりがぶどうを栽培している畑は、近くを余市川が流れる、水はけと風とおしのよい土地。冷涼な環境の中で農薬や肥料に頼らない栽培方法で7品種のぶどうを育て、ワインは委託醸造している。また、2024年ヴィンテージからは、自身のワイナリーで醸造をスタートする予定だ。

個人経営のアットホームなワイナリーとして仁木町で新たな人生を踏み出した鈴木さん夫婦に、North Creek Farmのこれまでの歩みと、これからの展望についてお話を伺った。

『North Creek Farmの立ち上げまで』

関東在住だった鈴木さん夫婦は、好きが高じてワインに関するイベントだけでなく、山梨や長野のワイナリーに赴いては、植樹や収穫ボランティアなどにも積極的に参加していたそうだ。

そんなふたりが北海道にワイナリーを設立するまでには、どのような経緯があったのだろうか。まずは、ぶどう栽培とワイン醸造にたずさわることになったきっかけを見ていこう。

▶︎「千曲川ワインアカデミー」で学ぶ

当初はワイナリーの手伝いをすることで満足していたふたりだが、ワインに関連することに関わるほどに、もっとたくさんのことに挑戦したいと考えるようになったそうだ。

そんなとき、東御市のワイナリー「アルカンヴィーニュ」を運営している「日本ワイン農業研究所」が主催する「千曲川ワインアカデミー」が、土日に開講するという情報をキャッチした。

「千曲川ワインアカデミーは、以前は平日開催だったため、参加が難しかったのです。しかし、2018年からは土日に授業があると知り、さっそく受講を申し込みました。千曲川ワインアカデミーでは、ぶどう栽培とワイン醸造についてはもちろん、ワイナリーを開業するためのノウハウも学ぶことができました。次第に、私たちにもふたりでワイナリーを経営することができるのではないかと考えるようになったのです」。

ワイン造りに関する知識を総合的に学べる千曲川ワインアカデミーには、ワイナリーを起業したいと考える熱意あふれる人たちが集まる。鈴木さん夫婦も徐々にワイナリー設立を見据えるようになり、実際に自分たちの畑探しをスタートさせた。

▶︎縁あって仁木町に移住

当初、ぶどう栽培をする候補地として検討したのは、千曲川ワインアカデミーがある長野県東御市だった。だが、土地を借りることにいろいろと障害があると感じた。そのため、他の県も視野に入れることにしたが、山形県などでの土地探しも難航した。そんな中、自分達が望む土地を入手出来る可能性が一番高いと思ったのが北海道余市郡にある仁木町だったのだ。

「仁木町は、自治体による新規就農者の受け入れ体制が整っていたので、1年程で土地を見つけることができました。また、気候変動の影響などで、本州では酸が残るぶどうを作ることがだんだん難しくなってきています。そのため、冷涼な気候である北海道でのぶどう栽培に魅力を感じたのです」。

かねてより、ものづくりへの興味が強かったという正光さん。大好きなワインに関連する仕事と、ものづくりをしたいという夢が、どちらも叶うときがやってきたのだ。

ふたりは2019年2月に仁木町に移住し、2020年には土地を購入。4月にはさっそく1500本の苗を植え、北海道でのぶどう栽培をスタートさせた。

『North Creek Farmのぶどう栽培』

続いては、North Creek Farmのぶどう栽培についてみていこう。夫婦がぶどうを栽培している仁木町の畑とは、どんな土地なのだろうか。本州のぶどう栽培とは異なる、北海道ならではの工夫などもあるのではないだろうか。

畑の土壌の特徴や、栽培管理において気をつけていることなどについて尋ねてみた。

▶︎North Creek Farmの畑

North Creek Farmの畑は平地にあり、昔は近隣を流れる余市川の河原だった場所だ。多くの箇所で表土を20〜30cmほど掘ると小石がたくさん含まれた層が出てくる。そのため、水はけが非常によいのが特徴だ。

「ぶどうには、ある程度水のストレスがあった方がワインが美味しくなると言われています。私たちが想像していたものとは異なる特徴を持つ場所なので、初めは心配もありましたが、今では面白い土地に出会えたなと思っています」。

雨が少ない気候のため、傘かけやレインカットは必要ない。また、仁木町は風がよく吹くので、水分は溜まることなくすぐに吹き飛ばされる。病害虫発生の原因となる湿気が少ないことは、ぶどうの健全な成長に最適だといえそうだ。

さて、ここで、ワイナリー名の「North Creek Farm」に注目していただきたい。「Creek」とは、英語で「小川」を意味する言葉。近くを流れる余市川が由来なのだとか。

「川自体は畑から見えない位置にあるのですが、畑で仕事をしていると、川のせせらぎが聞こえてくるのです。そのため、この土地をあらわすのにうってつけな『Creek』という言葉を、ワイナリー名に入れたいと思ったのです」。

関東から移住してきたふたりが、仁木町の気候について何よりも驚いたのは、降雪量だという。

「冬になると積雪量は常に1mほどあります。毎日雪かきに追われていますよ。移住してすぐは雪の多さに驚きましたし、初めは本当に大変でした。でも、今ではすっかり慣れてきました。雪があることで四季をはっきりと感じられます」。

積雪が重なるとぶどうの樹は完全に雪に埋まる。北海道では、ぶどうを植樹する際には樹を地面に対して斜めに植え付ける。生育期には樹をワイヤー に固定して立たせておき、収穫後にはワイヤーを外して倒すのだ。

そのため、40〜50cm以上の積雪があれば、樹はすっぽりと雪に覆われる。外気温がマイナス10℃近くまで下がることもある仁木町だが、雪の中の気温は0℃前後に保たれるため、凍害を避けることが可能なのだ。

また、ぶどうの生育期には雨が少なく、湿度も低いのが特徴。夏季には日中の気温が30℃を超えることもあるが、朝晩は涼しく、就寝時には夏でも毛布が必要なほど。昼夜の寒暖差は、糖度が高く酸がしっかりとあるぶどうを育んでくれる。

▶︎畑の土壌の特徴

North Creek Farmの畑は、全て垣根栽培だ。以前は耕作放棄地だった土地のため、畑を整備する際に土壌分析をおこなった。

「日本の土地は一般的に酸性寄りなのですが、土壌分析したところ、アルカリ性が強く出ていました。どうやら、以前使っていた方がホタテや牡蠣の殻を撒いていたようなのです。文献を確認したところ、ぶどう栽培するための土壌としては問題ないことがわかりました。また、調べてみると世界中にはアルカリ土壌で美味しいワイン造っているエリアもあるようなので、今のところは心配していません」。

ぶどう栽培が盛んな仁木町だが、意外にも隣近所には醸造用ぶどうを栽培している人は少なく、周囲には食用ぶどう、さくらんぼ、トマト、プラムなどを栽培する農家が多いのだとか。North Creek Farmの畑も、以前はさくらんぼ栽培がおこなわれていた土地だ。

畑の開墾作業はそれほど大変ではなかったというが、問題は、水はけがよすぎることだったそうだ。

「水はけがよすぎて、水がすぐ抜けてしまうのです。特に植樹2年目だった2021年には、降水量が少なすぎて旱魃(かんばつ)状態になってしまい、毎日のように水撒きをする必要がありました。その影響で苗の成長がやや悪く、その後の成長にも影響が出てしまいましたね」。

植樹してすぐの時期に水不足を経験したNorth Creek Farmのぶどうだが、元来強い植物であるため、今後成長するにつれて土地の特性に慣れていくだろう。North Creek Farmの畑ならではの個性を獲得して成長していくことを期待したい。

▶︎何も入れないことを理想に

鈴木さん夫婦が描くぶどう栽培の理想像は、「何も入れない」こと。しかし、健全なぶどうを作るためには、病害虫の発生にしっかりと対処していく必要がある。

「環境への負荷を考えて、できるだけ化学薬品や化学肥料は使用していません。有機栽培で使用が許可された農薬や、有機肥料の使用を心掛けています」。

もちろん、防除できなかった場合に病気が出てしまうことは往々にしてある。その際には、North Creek Farmでは手で丁寧に取り除くようにしている。

2024年に栽培5年目を迎える畑の広さは2.3ha。そのうち1.7haにぶどうを植えている。北海道ならではの広大な畑を、たった2人で管理しているのだ。

2020年に植えた品種は、ピノ・ノワール、ピノグリ、ゲヴュルツトラミネール、ケルナー、リースリング。続く2021年には、メルロー、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランを植えた。現在は全部で約4000本を栽培している。これらの品種を選んだ理由を尋ねてみた。

「最初に植えた品種は、まだ畑が決まる前に苗木を注文したのです。土地に合わせて選ぶことができなかったので、自分たちが好きな品種を選びました。その後は土地が決まっていたので、北海道に合いそうな品種にしました。北海道で育ったメルローのワインは、面白いものになると思いますよ。栽培している品種の中で案外期待できるのがメルローではないかと思います」。

土地にあっている品種なのか、それともメルローを植えた区画が特に肥沃だからなのか、まだはっきりとはわからないそうだが、今後の成長がますます楽しみだ。品種選定時に気をつけたことは、ほかにもある。

「夫婦ふたりだけで収穫作業をすることを想定して、収穫時期が重ならないように品種を選びました。また、将来的にはアッサンブラージュのワインを造ってみたいと考えているので、ブレンドに使うのによさそうな品種にしたのです」。

『North Creek Farmのワイン造り』

続いての話題は、North Creek Farmのワイン造りについて。北海道の冷涼な気候で育まれたぶどうは、どのような味わいのワインになるのだろうか。

ワイン造りをする上でのこだわりと、どんなワインを目指しているのかについて尋ねてみたので、さっそく紹介していこう。

▶︎North Creek Farmが︎目指すワイン

ものづくりをしたいという夢を実現させ、ワイナリー設立を実現させた鈴木さん夫婦。もともとワイン好きだったため、ワイン造りに携わるようになる前から、目指すワイン像があった。しかし、どんなワインを造りたいかという思いには、実際に手がけることで変化が出てきたそうだ。

「醸造に関する知識や経験がなかったころは、自分が好んで飲んでいたタイプのようなワインを造りたいと漠然と思っていました。例えば、自分好みのフルーティーな白ワインです。しかし、醸造について学ぶうちに、次第に考え方が変わってきたのです。今は、収穫したぶどうの力を引き出すようにワインを造りたいと思っています」。

手がけるワインの完成系を想像し、「こういうワインを造りたい」と狙いを定めることは重要だ。しかし、ぶどうのコンディションは毎年違うため、同じ品種でも前年と全く同じ造りにすることはできない。

そのため、好みやこだわりに縛られず、ぶどうの持つ個性を最大限に生かしたワインにすることが大切だと考えるようになったそうだ。

収穫したぶどうをベストな状態でワインにすることを目指し、夫婦の間で盛んに意見を交わすのがふたりの日常だ。夫婦でありながら同じ道を進む同志でもある、正光さんと綾子さん。

さまざまな醸造手法の中で、ぶどうの状態に最適なものを選び、スティルワインだけではなく、微発泡ワインであるペティアンも視野に入れる。また、単一品種だけではなく、混醸することでさらに魅力を発揮できることもあるだろう。

「駆け出しのため経験は少ないですが、美味しいワインを造るために、できることはなんでもやろうと思っています。そのためには、ぶどう作りの段階から必要な工程をしっかりと積み重ねていくことが大切です。毎年勉強しながら進めているので、今後もさらに技術を磨いていきたいですね」。

正光さんは以前、北海道岩見沢市栗沢町のワイナリー「10R(トアール)winery」で2年間修行した経験を持つ。カスタムクラッシュワイナリー(受託醸造所)である10R wineryには、さまざまな品種や品質のぶどうが次々と持ち込まれてワインになる。

「年間80tくらいのぶどうを仕込むのですが、いろいろなケースが経験できるので、貴重な経験でしたね。2年間の経験を通じて、ぶどうのためにいちばんよい醸造をすべきだと考えるようになったのです。本当に勉強になりました」。

▶︎「for Alice 2022」

2023年6月、North Creek Farmはファーストヴィンテージ2銘柄をリリースした。それぞれの銘柄について紹介していこう。

ふたつのワインはいずれも委託醸造だが、使用しているぶどうも委託先も違うため、それぞれ異なる個性を持つ仕上がりとなった。

まずは、近くの農家が栽培したキャンベル・アーリーを使ったペティアンの「for Alice 2022」。キャンベル・アーリーを全房のまま1週間ほどタンクに入れて醸したため、香りと色がより濃く引き出されているのが特徴だ。

アルコール度数は7.5%と控えめで、「いちごレモンソーダ」のような味わいが魅力的。気軽にゴクゴクと飲めるので、暑い時期に冷やし飲むのに最適な1本。ビールに近い感覚でワインが苦手な方にも飲んでみてほしいワインに仕上がった。

繊細なタッチでエチケットに描かれているのは、「エゾユキウサギ」。North Creek Farmの畑にも姿を現す。ぶどうの樹にとっては害獣ではあるが、とても愛くるしい存在なのだとか。

「for Alice」という名前の由来は、「不思議の国のアリス」の中で、アリスが三月うさぎに勧められるワイン。だが、実はそのワインは存在しないのだ。ワインがないとご立腹のアリスのために、「ではこのワインを」と名付けた。

「エチケットデザインは、知り合いのデザイナーさんに依頼しました。陶器製のエゾユキウサギも造ってもらったので、ワイナリーのマスコットにしようと思っています」。

▶︎「Blush 2022」

次に紹介するのは、North Creek Farmの畑で栽培した5種類のぶどうを混醸にした「Blush 2022」。まだ若い樹のため華やかさは控えめだが、飲んだ人からは、ゲヴュルツトラミネールの香りが際立っていると評判だった。

「香りが開くまでには、開栓から少し時間がかかります。少し時間を置いてから飲んでいただきたいですね。ほんのりとピンクオレンジに色づいた、フレッシュな味わいが印象的です」。

「ブラッシュ」とは、薄い色合いのロゼを指す名称だ。

「ブラッシュという言葉には、『頬を染める』という意味もあります。そこで、ファーストヴィンテージのワインを恥ずかしながらもリリースしますという意味も込めて名付けました。ピノ・ノワールから薄く色づいたのだと思います」。

「Blush 2022」のエチケットに採用されているデザインは、イチョウの葉。ワイナリーの近くに数本の大きなイチョウの木が生えていて、ワイナリーのシンボル的な存在となっているため、エチケットデザインに採用した。秋に色づくイチョウはとても綺麗なのだとか。

「『Blush 2022』は、記念日や特別な日に開けて頂けたら嬉しいです。会話の邪魔にならず、ワインの味わいでその場に花を添えて、会話が進むような存在になればと思っています」。

▶︎イベントへの参加にも積極的

North Creek Farmは、イベントへの参加にも積極的だ。魅力的なワイナリーが揃う余市町や仁木町では、ワイン関連のイベントも数多く開催されている。

2023年8月には、「ワイリングウォークフェス NIKI 2023」や「仁木フルーツ&ワイン マラニック 2023」に参加。さらに、9月に開催された「La Fête des Vignerons à YOICHI 2023」にも初出店した。

今後も、さらにいろいろなイベントでNorth Creek Farmのワインに出会える機会が増えることだろう。North Creek Farmのワインが気になった人は、ぜひ足を運んでみてほしい。

『まとめ』

これまで委託醸造でワインを造ってきたNorth Creek Farmだが、念願の醸造所のオープンに向けて、準備が着々と進んでいる。

「1960年代くらいに作られた古い納屋が敷地内に残っていたので、全面改修して醸造施設を造りました。まずは半分くらいを醸造スペースとして使って、じきに収量が増えるのでなるべく早くスペースを増床したいと思っています」。

醸造所自体は2023年秋には完成したが、醸造機器の輸入に時間がかかっているため、オープンは2024年の春から夏頃になりそうだ。

ぶどうの収量も年々増加し、いよいよ自身のワイナリーでの醸造が始まるNorth Creek Farm。2024年はどんな年になるだろうか。

「まずは、フラッグシップワインを造りたいですね。自分で醸造できるようになると、いろいろな挑戦ができるので楽しみです。銘柄を増やして、飲んでいただく方の楽しみも増やせればと思っています」。

North Creek Farmの魅力は、なんといってもアットホームなワイナリーであること。目指すのは、かつて夫婦で訪ねて感銘を受けた、海外のワイナリーのような存在だ。

「たくさんの人が集まってワイワイと過ごしている、カジュアルなワイナリーが理想ですね。気軽に訪れて過ごしていただける場を造りたいと思っています。手作りの小さなドッグランもあります。愛犬と一緒に遊びに来ていただきたいですね」。

仁木町の地域おこし協力隊として、3年間活動した実績もある鈴木さん夫婦。ぶどう栽培とワイン造りを通じて、縁あって移住した仁木町にも地域貢献をしたいと考えているそうだ。

仁木町の豊かな自然はもちろん、穏やかで温かな雰囲気の鈴木夫妻の人柄と美味しいワインに惹かれて、きっとこれから、たくさんの人がNorth Creek Farmを訪れることだろう。そんな未来を楽しみに、これからのNorth Creek Farmの活躍に期待したい。

基本情報

名称North Creek Farm
所在地〒048-2406
北海道余市郡仁木町西町11-11
アクセスhttps://maps.app.goo.gl/j43chBB14XEPFQ9m7

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