『清澄白河フジマル醸造所』東京都江東区で産地と飲み手をつなぐ、都市型ワイナリー

今回紹介するのは、藤丸智史さんが代表を務める「株式会社パピーユ」が運営するワイナリーのうちのひとつ、東京都江東区にある「清澄白河フジマル醸造所」だ。

大阪と東京の2拠点にあるフジマル醸造所は、いずれも都市型ワイナリー。最初に設立された大阪市中央区にある「島之内フジマル醸造所」は、ぶどう栽培からワイン醸造までを一貫して手がける「ドメーヌ」スタイル。

そして、「清澄白河フジマル醸造所」は、ぶどう農家から購入した原料を使ってワインを造る「ネゴシアン」スタイルのワイナリーだ。

清澄白河フジマル醸造所は、1階が醸造所、2階がレストランになっている。フレッシュなワインを、シェフが腕によりをかけた料理と共に味わうことができるのが特徴だ。醸造所では、主に関東以北で栽培されたぶどうを使ってワイン醸造をおこなっている。

清澄白河フジマル醸造所設立までの経緯や、ぶどう選びのポイント、そして東西のフジマル醸造所のコンセプトや醸造スタイルの違いなどにスポットを当てて、藤丸さんに詳しくお話いただいた。じっくりと紹介していきたい。

『清澄白河フジマル醸造所 誕生の経緯』

清澄白河フジマル醸造所がオープンしたのは、2015年のこと。代表の藤丸さんは、なぜ東京にワイナリーを設立したのだろうか。

まずは、清澄白河フジマル醸造所が誕生するまでの経緯を見ていこう。

▶︎新たな醸造所の必要性

2013年に大阪に島之内フジマル醸造所をオープンさせた藤丸さんは、自社畑で栽培したぶどうと日本各地から購入したぶどうを使ってワインを造ってきた。

大阪府内の耕作放棄地を借り受けて圃場として整備してきた島之内フジマル醸造所では、管理する畑が徐々に拡大したため、収量が年々増加。また、近隣農家やほかの地域からも徐々に確保できる量が増えてきた。

2014年頃にはすでに、島之内フジマル醸造所だけではキャパシティが圧倒的に足りない状況が出てきていた。そのため、新たな醸造所を造る計画がスタートしたのだ。

▶︎清澄白河との偶然の出会い

新しいワイナリーをどのエリアに造るかを検討したときに重視したのは、物流の効率がよい場所を選ぶことだった。

新たなワイナリーで使う原料ぶどうは、産地の多くが関東以北だった。そのため、関東圏が新ワイナリー設立の候補地として挙がったのだ。また、収穫したぶどうを搬送するなら、首都圏が都合がよいのではないかと思われた。

「物流は必ず都市部を通りますし、ヒトもモノも集まりやすいのが首都圏のメリットです。特に東京なら、私自身が大阪から通う際にも便利だったので、都内にワイナリーを作ることにしました」。

東京の地理に明るくなかった藤丸さんは、いくつかの条件を設けて物件探しを始めた。東京駅からのアクセスがよく、都心でも空が見える開放的な立地であることを希望していた。そのため、高層ビルが比較的少ないということで、東京駅の東側のエリアが候補地となった。

物件の契約直前まで進んだ段階でトラブルが発生するなど、紆余曲折もあったそうだ。そんな中で出会ったのが、現在ワイナリーを構えている清澄白河の物件だったのだ。

「今でこそ、『最高の場所にワイナリーをオープンしましたね』と言っていただくことが多いのですが、清澄白河に決めたのは本当に偶然でした。よい場所に巡り会えてラッキーでしたね」。

『清澄白河フジマル醸造所の特徴』

清澄白河フジマル醸造所では、買いぶどうでワインを造る。もっとも醸造量が多いのは、山形産のデラウェアだ。また、茨城や千葉、山梨の契約農家が栽培したぶどうも使っている。

ワイン造りをする上で気をつけていることや、こだわっていることなどについてお話いただいた。

▶︎生産者の顔が見えるぶどう

清澄白河フジマル醸造所が醸造に使う品種は、デラウェアとマスカット・ベーリーAが中心だ。ただし、年ごとの天候などによって栽培農家から届く品種や量が変動するため、メルローや巨峰などが加わることもある。ヴィンテージによってに使う品種が異なるところが、清澄白河フジマル醸造所のワインの面白さだ。

「実は、醸造に使う品種にはこだわりがありません。きれいでしっかりと熟しているぶどうであれば、どんな品種でもワインにしたいと思っています。あえてぶどう選びのこだわりを挙げるなら、『顔が見える生産者さん』のぶどうを使わせていただくということでしょうか」。

大阪には自社畑を保有しており、ぶどう栽培をおこなっているフジマル醸造所では、ワイン原料がどのように育てられたぶどうであるのかを重視している。そのため、心を込めて丁寧に育てられたぶどうだけを選びたいと考えているのだ。

「ぶどうが育つ様子を見せていただくために、清澄白河フジマル醸造所のスタッフは、年に何度も各農家さんの畑を訪れます。私たちが造りたいワインに最適な収穫タイミングがある場合には、スタッフが畑にお邪魔して自分たちで収穫することもありますよ」。

ワインは農作物。だからこそ清澄白河フジマル醸造所は、ぶどうに愛を持って接する生産者のぶどうだけを買い取り、大切に醸すのだ。

▶︎山形のデラウェアの可能性にいち早く着目

清澄白河フジマル醸造所で使うメイン品種はデラウェアである。購入しているデラウェアの多くは、山形で栽培されたもの。今でこそ人気が高まってきているデラウェアワインだが、実は藤丸さんは、醸造用としてのデラウェアのポテンシャルにいち早く気づいたひとりなのだ。

「うちと、ほかにも数社のワイナリーさんが、2010年頃からデラウェアワインの可能性を見出していました。ワイン原料のデラウェアは生食用とは違って、『種あり』を使います。種のあるデラウェアを確保するためには、農家さんにお願いして作っていただく必要がありました。そこで、ワイン用のデラウェアを確保するため、JA置賜の『醸造用デラウェア促進部会』と連携していました」。

部会で話し合われていたテーマは、生食用デラウェア栽培から、ワイン用デラウェア栽培に転向してもらうことについて。山形置賜地区のデラウェア農家やJAの職員をはじめ、問屋やワイナリー関係者なども参加して、種ありデラウェアを増やしていくための協議をおこなっていたのだ。

そもそもデラウェアは、生食用としての人気が高い品種。全国各地で生食用デラウェアの生産が盛んなうえに海外からの輸入品も多く、価格競争が激しかったのだ。せっかく栽培しても希望するだけの収入にならなければ、栽培を辞める農家が出てくるだろうと予測された。ワイン用デラウェア栽培への転向依頼は、それを防ぐための取り組みだったのだ。

「生食用としての販売がむずかしくても、ワイン用に転向して種ありデラウェアを栽培すれば、ワイナリーが確実に買い取る仕組みが作れます。当時は特に種ありデラウェアの生産量が少なかった時代だったので、農家とワイナリーがお互いに助かるというわけです。この仕組みがうまくいって種ありデラウェアが売れることがわかれば、将来的にデラウェアの生産者が増えていくだろうという見込みもありました」。

▶︎清澄白河フジマル醸造所が造るワイン

藤丸さんが手がけるワイナリーのうち、島之内フジマル醸造所は自社栽培のぶどうを中心とした「ドメーヌ」スタイルのワイナリー。対して、清澄白河フジマル醸造所は自社畑を持たず買いぶどうでワインを醸造する「ネゴシアン」スタイルのワイナリーだ。

一般的には、ドメーヌのワインの方が人気が出て高く売れることが多いのだと話してくれた藤丸さん。「ドメーヌの方がなんとなくよさそう」「造り手の気持ちが入っていそう」という世間の思い込みもあって高く売れるのだとか。

「ドメーヌの方がよいワインを造ると思われがちですが、ドメーヌもネゴシアンも、ワインに対する造り手の思い入れはまったく同じです。ただ、自分たちのぶどうで造るワインは『攻めた造り』、買いぶどうは『優しくわかりやすい造り』にする傾向はあるかもしれません。しかし、出来上がったワインに対する愛情に差はありませんよ」。

自分たちで育てたぶどうはどんなふうに育ってきたかをすべて知っている状態なので、醸造する段階でも、ある程度無理ができるのだという。島之内フジマル醸造所では醸し発酵を主体として、澱(おり)や濁りを残した「田舎の酒」のようなイメージで造る。熟成タイプも多く、造り手の感性の赴くままに、自由に造っているという。

一方、買いぶどうは農家が大事に育てたぶどうを譲ってもらうのだから、清澄白河フジマル醸造所では優しく造りたい。仕上がりはクリーンでフレッシュな傾向にある。生産者への尊敬の念が、清澄白河フジマル醸造所でのワイン造りにストレートに反映されているのだ。

『清澄白河フジマル醸造所のワインと食』

清澄白河フジマル醸造所のワインは出来立ての美味しさを楽しむタイプで、ほとんどの銘柄はリリース後2〜3か月ほどで完売となる。

また、入荷したぶどうそれぞれに合う手法を凝らしたワインがその都度並ぶのが特徴だ。まさに、一期一会の出会いだと言えるだろう。

清澄白河フジマル醸造所ならではのワイン造りに迫っていこう。

▶︎スタイル重視のワイン醸造

清澄白河フジマル醸造所のワインは、品種ごとの特徴が明確に出る造りを目指している。ぶどうそのものの持つポテンシャルを最大限に引き出すのが醸造工程におけるこだわりだ。

「クリーンでフレッシュな造りが基本ですね。大きめの澱は簡易的なフィルターで取り除きます。ぶどう本来の味わいがクリアに出て、透明感のある仕上がりになるよう心がけています」。

醸造工程においてスタッフ全員が気をつけているのは、ワイナリーを常に清潔に保つこと。オフ・フレーバー(欠陥臭)を出さないように気を付けることは、もちろん大前提だ。

清澄白河フジマル醸造所ならではのワイン造りについて、具体的な銘柄を例に挙げて深掘りしていこう。

「GLOU GLOU(グルグル)」は、清澄白河フジマル醸造所の定番ワインシリーズである。

「『GLOU GLOU』は、飲みやすさを追求したシリーズです。品種縛りのない銘柄なので、使用する品種と産地は、年によって変えています。目指すテーマをブレンドで表現する、スタイル重視のワインですね」。

どんなスタイルのワインにするかは、その時のぶどうの状況や造り手の気持ち次第。あるときは「喉越しに特化したワイン」、またあるときは「魚介類に合うワイン」になる。

「スタイルを先に決定するので、目指すスタイルの味わいを出すためにはどんなぶどうでどういった造りにするかという方向性を考えていきます。例えば、爽やかさを出したいなら、青いデラウェアを使って酸味を強く出す手法を取りますね」。

ただし、どんな造りを選んだとしても、品種特有の個性はしっかりと出すようにしている。せっかくナチュラルな造りをしても、飲んだときに品種がわからないワインにはしたくないと考えているのだ。

そんな藤丸さんは、かつては品種や産地名をはっきりとエチケットにアピールしたワインを造っていた。そこには「農家応援」という意味合いが大きく、「ワイン用ぶどうは売れない」というイメージを払拭する意図があったそうだ。

しかし時代は変化し、昨今ではワイン用ぶどうが引く手あまたな状態になった。もはや品種や産地をあえてアピールする必要はなくなり、より造り手の自由に任せたワイン造りができるようになってきたのだ。新しい醸造手法を試し、ブレンドの妙を追求できることは、造り手にとっても飲み手にとっても喜ばしいことに違いない。

清澄白河フジマル醸造所では、年ごとにさまざまな地域から集まる多彩なぶどうとの一期一会を大切にしながらワインを醸す。飲み手にとっても、清澄白河フジマル醸造所のワインとの出会いは、毎年の楽しみになることだろう。

▶︎ゆっくりと楽しむ時間と空間

清澄白河フジマル醸造所の店舗2階のレストランではイタリアンベースの創作料理を提供している。

清澄白河フジマル醸造所のレストランは、「ゆっくり楽しんでもらえる空間であること」をコンセプトに上質な時間を提供。自社醸造のワインだけでなく、日本ワインをはじめとして、世界中からセレクトされたワインも料理と共に楽しめる。

複数のレストランやワインショップ、ワイナリーを経営する藤丸さんにとって、レストラン」は特別な目的を持つ存在だ。藤丸さんが目指すのは、「お客様にゆっくりとワインを楽しんでもらうこと」。そのために必要なのはワインを造ること以上に、ワインを楽しめる空間を提供することだと考えているのだ。

「ワインと料理を心ゆくまで楽しめる時間と空間、そしてサービスを提供することを大切にしています。ワイナリーやショップは、付加価値のような存在ですね。ワインと食事を楽しみたいと考えている多くの人に楽しんでいただると嬉しいです」。

じっくりとワインと食を楽しんでもらえる空間を作るため、いわゆるビジネスランチは提供していない。ビジネスランチを設定しないことは、従業員の負荷を軽くするためにも役立っているという。

「いわゆるビジネスランチメニューを作ると、仕込み担当のスタッフが忙しくなりすぎるので、採用していません。ただし、うちは常にサステナブルな生産者から旬の食材を仕入れるため、提供するメニューが常に変わります。お客様には大変喜んでいただいていますよ」。

▶︎「旬の食材」の魅力を引き出す

藤丸さんがレストラン運営で大切にしていることのひとつに、「旬の食材」を使うことがある。専門のバイヤーが全国から選りすぐった、旬の食材をレストラン用として調達しているのだ。グループのレストランの各シェフは、送られてきた食材を見てから、その日のメニューを考える。

何かを造りたいから食材を探すのではなく、よい生産者、食材ありきで料理を考えるのが、藤丸流。この考え方は、「ぶどうありきのワイン造り」という藤丸さんの醸造哲学にも通ずる。

「現代では、旬の食材のよさを改めて感じる機会が減ってきています。旬とは、その食材が自然に豊かに実る季節のことです。つまり、1年のうちでもっともおいしく、かつ安価に仕入れられる時期でもあります。旬の食材をうまく使えば、美味しいものを良心的な価格で提供できます。また、利益も上げやすいので、従業員への給料や休みにも還元できるというメリットもありますよ」。

日本は四季があり、豊かな食材が四季に合わせて巡るサイクルが存在する。旬のものを無理なく使えば、持続可能な社会の実現にもつながると言えるだろう。

▶︎多種多様なペアリングを楽しんで

清澄白河フジマル醸造所のレストランは、ワイナリー併設でありながら、自社ワイン以外のワインを多数取り揃えている。自社ワインはグラスワインリストでさえ40%程度にとどまる。

理由を尋ねると、「自分たちのワインだけだと、飽きるじゃないですか!」と朗らかに笑う藤丸さん。ワインの魅力は「多様性」にあるため、より多くの選択肢を提供することがレストランとしての使命だと考えているのだ。

世界中には色々なワインがあり、絶対の頂点に立つものはない。それこそがワインの魅力であり、楽しさだ。星の数ほどあるワインの中でも奇跡のような出会いがあるから、ワインは面白いのだという。

「ワインは嗜好品ですから、『この瞬間の一番』はあっても『この世の中での一番』はありません。それでも、造り手たちは互いに競い合って切磋琢磨し、自分が考えるコンセプトを追求するために造り続けます。お客様には、造り手たちが情熱を込めて造るたくさんのワインをもっと楽しんでいただきたいのです」。

『まとめ』

清澄白河フジマル醸造所は、ワインと食事を楽しみたい人すべてに向けて開かれたワイナリーだ。藤丸さんはあえてターゲットとなる客層を指定せず、幅広い層のお客様に、ただ楽しい時間を過ごしてもらいたいと話してくれた。

ワインと食を愛する人は、ぜひ、清澄白河フジマル醸造所を訪れてみていただきたい。美味しい料理とワインと、それを楽しむ空間、そして上質なサービスが実感できるはずだ。

産地と飲み手をつなぐ都市型ワイナリーだからこそ気軽に楽しめる「ワインのある日常」を、一度体験してみてはいかがだろうか。


基本情報

名称清澄白河フジマル醸造所
所在地〒135-0022
東京都江東区三好2-5-3
アクセス東京メトロ半蔵門線清澄白河駅B2出口から徒歩5分
HPhttps://www.papilles.net/

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