『小浜温泉ワイナリー 』長崎の食材に寄り添う、フレッシュで優しい味わいのワイン

今回紹介するのは、長崎県雲仙市小浜町にある「小浜温泉ワイナリー」。島原半島にそびえる雲仙・普賢岳の麓に位置する。橘湾を臨む風光明媚な温泉地である小浜温泉街で、長崎の食材と料理に寄り添うワインを造っているのだ。

小浜温泉ワイナリーの代表取締役は、イタリア料理のシェフでもある川島貴宏さん。自らの出身地である小浜町で、ぶどう栽培とワイン造りをスタートさせた。

小浜温泉ワイナリーがぶどう栽培をおこなうのは、耕作放棄地となっていた段々畑。温暖な気候の九州だが、自社畑は意外にもぶどう栽培に適した土壌を有しているそうだ。

地元産のぶどうを使って川島さんが醸すのは、フレッシュな香りが楽しめる優しい味わいのワイン。ワイナリー併設のイタリアンレストランでは、地元の食材を使った料理とともに小浜温泉ワイナリーのワインを楽しむことができる。

地元とワインと食をこよなく愛する料理人のこだわりが生んだ、小浜温泉ワイナリー。これまでの歩みとこれからについて、川島さんにお話を伺った。詳しく紹介していこう。

『小浜温泉ワイナリーの設立まで』

まずは、小浜温泉ワイナリー設立までのストーリーに迫ろう。

川島さんは、なぜ地元である雲仙市小浜町でぶどう栽培とワイン醸造を始めたのだろうか。ワインとの出会いや、ワイン造りのきっかけとなった出来事などについて、順を追ってたどってみたい。

▶︎大阪とイタリアで、シェフとして過ごした日々

小浜町の中学校を卒業後に、地元を離れて大阪の専門学校に入学した川島さん。職業として選んだのは料理人だった。調理系の専門学校で知識と技術を身につけ、卒業後はイタリアンレストランに就職した。シェフとして働くうち、ワインについての知識も自然と身につけていったそうだ。

「ワイン造りに関わるようになったきっかけは、イタリアで料理の修行をしていたときのことでした。イタリア滞在中に働いていたホテルが、ワイナリーも経営していたのです。そのホテルで働いていた2年間は、料理人として働きながら、ワイン造りの手伝いもしました」。

地元から遠く離れた異国の地でワイン造りに携わるうち、川島さんが思い浮かべていたのは、いつか地元に戻って自分のレストランをオープンすること。次第に、そのレストランでは、自分が手がけたワインも提供すればよいのではないかという思いも大きくなってきた。

イタリアから帰国後には、再度大阪に拠点をおいて料理人として活躍。しばらくレストランに勤務した後は自分の店をオープンし、順調にキャリアを重ねていった。

▶︎地元でのワイナリー設立を決意

だが、折に触れて心に浮かぶのは、いつかは地元に自分の店を構えたいという思いだったそうだ。そして、より長く続く産業として地元に貢献するには、単に飲食店を経営するよりも、増えつつある耕作放棄地を活用する事業を展開できないかと考えたのだ。

日本にはワイナリーが随分と増えたが、九州にはまだ数少ない。しかも、ぶどう栽培をすることで、耕作放棄地を活用することもできる。考えれば考えるほど、地元でのワイン造りに参入する価値が十分にあるのではないかと感じられた。

そして、とうとう自らのワイナリー設立を決め、数年間かけていくつかのワイナリーで修行を積んだ川島さん。2020年4月に地元に戻り、念願のぶどう栽培をスタートさせた。10年来の夢が、ようやく叶った瞬間だった。

『小浜温泉ワイナリーのぶどう栽培』

続いては、小浜温泉ワイナリーのぶどう栽培にフォーカスしたい。自社畑で栽培を手がける品種は8種類。土地に合う品種を見極めるため、試験栽培の意味も込めてたくさんの品種を栽培している。

小浜温泉ワイナリーの自社畑がある雲仙・普賢岳といえば、長崎県の島原半島中央部にそびえる山で、現代でも火山活動が続いていることで知られている。自社畑の特徴や、ぶどう栽培におけるこだわりを紹介したい。

▶︎栽培している品種

川島さんがぶどう栽培をスタートさせたのは、2020年4月のこと。最初に植栽したのは、デラウェアとカベルネ・ソーヴィニヨンで、200本ずつを植え付けた。

また、2021年1月には、キャンベルアーリーとメルロー、シャルドネ、ナイアガラ、スチューベンも植栽。さらにその後、日本各地での実績が認められてきている品種であるアルバリーニョも追加した。

それぞれの品種を選んだのには、いくつかの理由がある。まず、自然豊かで野菜や果物の栽培が盛んな小浜町では、実は生食用ぶどうの栽培も盛んだったこと。中でもデラウェアやキャンベルアーリーの産地として有名なのだ。地域での栽培実績がすでにある品種なら、成功する確率が高いのではないかと考えた。

さらに、カベルネ・ソーヴィニヨンは大分や宮崎のワイナリーにおいて栽培されている品種なので、小浜町でも栽培が可能性を感じたという。

▶︎山肌に連なる段々畑

小浜温泉ワイナリーの自社畑は、小浜町の6か所にある。雲仙・普賢岳の山肌に点在しているため、畑によって標高はさまざまだ。いちばん高い畑が標高500m、一番低い畑は標高150mほどだという。

自社畑の特徴的な点は、ほとんどが「段々畑」であること。もともと田んぼやジャガイモ畑として使われてきた土地だったが、農家の高齢化により次第に担い手がいなくなってしまった。

「段々畑は、面積が小さいものがほとんどです。狭くてトラクターなどの機械が入れられないため、高齢の農家さんには管理が難しくなって耕作放棄地となってしまうのです。ぶどう栽培を始めてからわかったのは、意外にも段々畑は水はけがよいということですね」。

もともと田んぼとして使われていた土地というと、ぬかるんだ場所を思い浮かべるかもしれない。しかし、山の斜面にある段々畑は水が留まることなく、どんどん下に流れていく。土壌は基本的には火山性の土だが、畑ごとにpHや土質が異なるのが特徴だ。

「畑がある場所によって、それぞれに個性がありますね。いちばん標高が高い畑は黒土でpHが高めですが、一番下の畑は黄色い土が混ざっていて、ジャガイモ栽培に向いた土質ですね。島原半島全体が、もともとジャガイモの産地なのです。雲仙・普賢岳を頂点に、さまざまな土壌が見られるのがこの辺りの面白いところです。熊本側の島原は黒土、北側は赤土が多く混ざり、西側と南側は黄色い土が混ざっていますよ」。

6か所ある畑のうち、川島さんがもっとも環境がよいと感じているのは、標高200mほどの土地にある畑だ。日の出から日没までずっと日が当たる南西向きの段々畑なので、日照時間が長い。夕日が美しく見えるのが、川島さんのお気に入りポイントだ。

また、温暖な気候というイメージある九州だが、場所によっては雪が積もる畑もある。特に標高500mの畑は寒暖差が大きく、冬には幹に藁を巻きつけて保護しなければ、凍害にあって枯れてしまうほど冷え込むそうだ。

自社畑の中でも環境に差があることは、さまざまな特徴を持つぶどうが育つということでもある。多彩なワインが生まれる可能性を秘めている畑で育つぶどうの、今後に期待したい。

▶︎健全に育つことを第一に

シェフやソムリエとして仕事をしてきた頃に得た知識では、九州は雨が多いためワイン専用品種の栽培には向いていないのではと感じていたという川島さん。

だが、実際に栽培してみて感じたのは、気候はまったく障害にならないということだった。ただし、周囲には野菜畑が多いエリアのため、害虫の被害は多い。そのため、栽培管理をする上で特に気をつけているのは、丁寧な防除をおこなうことだ。

「他県のぶどうの産地では、無農薬でぶどう栽培をしている方もいらっしゃるようですが、雨や虫が多いこの場所では難しいですね。今は健全に育てることを第一に考えて、適切なタイミングでしっかり防除することを最優先に対処しています」。

ただし、除草剤は使用していないため、伸びてきた雑草は随時刈らなければならない。畑が点在しているため、草刈り作業には非常に時間がかかる。すべての畑の草刈りを一周終えたら、最初に刈った畑の雑草はもう伸びているのです、と苦笑いの川島さん。

また、イノシシによる被害も無視できない。樹が成長してたくさんの房がつき始めたら、獣害対策を徹底するのも今後の課題のひとつだ。

さまざまな課題を着実に解決しながら、小浜温泉ワイナリーのぶどう栽培はこれからも続いていく。

▶︎土地に合う品種を模索中

小浜温泉ワイナリーで栽培するぶどうは、垣根仕立てで植えられている。中でも川島さんが今後の成長を楽しみにしている品種はアルバリーニョである。

「2021年に植えたばかりなので、まだ今後どのように成長していくのかは未知数です。ヨーロッパ系品種はやはり病気に弱いでしす、手がかかる印象ですね。しかし、丁寧に取り組めば素晴らしい結果が出るのではないかと期待しています」。

小浜温泉ワイナリーの自社畑は、場所によってさまざまな特徴を持つため、同じ時期に植えた苗でも育ち具合が均一ではない。すでに房付きがよい樹もあれば、まだ苗のような成長具合のものもあるそうだ。

今のところ、もっとも早く成長して収量も多く、土地に合うと感じている品種はキャンベルアーリー。育てやすく、病気に強い特徴がしっかりとあらわれている。

今後は、土地に合う品種をさらに開拓していきたいと考えている川島さん。マスカット・ベーリーAや甲州など、日本生まれの品種にも興味があるそうだ。

小浜町では、地元農家による生食用のマスカット・ベーリーA栽培の実績があるため、ワイン用としての栽培にも期待が持てる。

『小浜温泉ワイナリーのワイン醸造』

次に紹介するのは、小浜温泉ワイナリーのワイン醸造について。

料理人であり、シニアソムリエの資格も保有してる川島さんは、長崎で育ったぶどうでどんなワインを造るのか。小浜温泉ワイナリーのワインのコンセプトと、自社醸造しているワインの特徴を深掘りしていこう。

▶︎長崎の食に寄り添うワイン

「『長崎の食に寄り添うワイン』がコンセプトです。島原半島にある小浜町では新鮮な野菜がたくさん採れ、目の前の海では豊富な海の幸が毎日水揚げされます。魚と野菜を中心とした、この土地の食文化に合うワインを造りたいですね」。

小浜温泉ワイナリーが目指すのは、地域のお年寄りが日常の食卓で楽しめるワイン。飲みやすくあっさりした味わいこそが、小浜町の食材に寄り添う味わいなのだ。また、川島さん自身も、濃くタンニンが強いワインよりも、香りが華やかでさっぱりしたワインが好きなのだとか。

自社畑のぶどうはまだ若く、本格的に収穫がスタートしていないため、原料として使用しているのは長崎県内で栽培された買いぶどうだ。

「もともと焼酎文化が根強い土地なので、あっさりとした飲みやすい味わいが受け入れられやすいのです。これからも、地元の人に喜んで飲んでいただけるワインを造っていきたいと考えています」。

▶︎こだわりの新酒、「長崎ヌーヴォー」

小浜温泉ワイナリーでは、2022年11月に初めて自社ぶどうを使ったワインをリリースした。自社畑で収穫したデラウェアとカベルネ・ソーヴィニヨン、キャンベルアーリーと買いぶどうをブレンドした「長崎ヌーヴォー」である。

ぶどうジュースのような仕上がりで、軽めで飲みやすい「長崎ヌーヴォー」は、アルコールがあまり得意ではないという方にもおすすめだ。

「『長崎ヌーヴォー』の解禁時には、ワイナリーでお祭りを開催しました。地元で作ったぶどうのワインということもあり、とても喜んでいただけましたね」。

2023年ヴィンテージからは、毎年11月に「ヌーヴォー祭り」を開催するそうだ。ぜひ小浜温泉まで足を伸ばし、造りたての「長崎ヌーヴォー」を楽しみたいものである。

▶︎目指すのはフレッシュな味わい

川島さんがワイン造りをする上で重視しているのは、グラスに注いだ時の香りのよさをいかに表現するか。ぶどう本来のフレッシュな香りが残るような醸造を心がけているのだ。

「長崎は暖かい地域なので、9〜10月の醸造シーズンにはまだ外気は暑いくらいです。そのため、空調を効かせて醸造所内を16℃くらいにキープした上で仕込み、フレッシュさが残るように気を配っています」。

小浜温泉ワイナリーでは今後も、現地でしか味わえないフレッシュさがある早飲みタイプのワイン造りをおこなう方針だ。

「この辺りに住んでいる高齢の方たちが、飲みやすいと感じるような味わいのワインを造りたいですね。魚の煮付けや山菜料理などが並ぶ、日常の食卓で楽しんでいただきたいです」。

『おすすめ銘柄とペアリング』

川島さんは、小浜温泉街にあるレストランでシェフとしても活躍している。自ら調理したメニューを、自社醸造のワインと共に提供。ひとり何役もこなす活躍ぶりだ。

小浜温泉ワイナリーのレストランでは、地元の食材を使ったイタリア料理とワインが楽しめる。座席数は10席の居心地のよい空間だ。

「自社醸造のワイン以外にも、イタリアやニュージーランドのワインも置いています。食材に寄り添うような優しい味わいのワインだけを選んでいるので、もし濃い赤ワインが飲みたい場合は、近くの酒屋さんで買ってきてくれるようにお客様にお願いしています」と、川島さんはいたずらっぽく笑う。

リリース済みのおすすめ銘柄と、ペアリングを紹介していこう。

▶︎巨峰のワイン「紅桔梗(べにききょう)」

小浜温泉ワイナリーのオンラインショップで販売中の「紅桔梗」は、長崎県時津町で栽培された巨峰を使ったワインだ。色合いは巨峰由来の美しい紫色である。

「レストランで提供したメニューでは、『炒め玉ねぎと鳥の出し汁のリゾット』とのペアリングをおすすめしていました。地元産のチーズと、潰したブルーベリーを加えたリゾットです。ブルーベリーの甘酸っぱさとローズマリーの香りが、巨峰のみずみずしさとマッチしました」。

また、家庭で作れる料理としておすすめのペアリングは、鳥もも肉のローストだそう。ちょっとしたお祝い事や特別な日に、「紅桔梗」と一緒に味わいたいものだ。

▶︎みかん香る「雲仙蜜柑ワイン」

続いては、地元産のみかんを使った「雲仙蜜柑ワイン」を紹介しよう。

「オレンジ風味の炭酸ジュースをイメージしたペティアン(微発泡)です。真鯛やイサキ、スズキなどの白身魚のカルパッチョと合わせると美味しいですよ。また、カツオなど赤身の魚の場合にだ、塩とオリーブオイルをかけると、みかんの香りとよく合います」。

みかんの香り、そして泡の爽やかさとともに味わう新鮮な九州の魚介は、さぞかし美味しいことだろう。

みかんでのワイン造りは、ぶどうの醸造よりも発酵が遅いため、発酵管理にやや工夫が必要だ。みかんのペクチンには、発酵を阻害する性質があるためだ。ただし、小浜温泉ワイナリーではこれまで、発酵助成剤などの薬剤に頼ることなく発酵に成功している。

「みかんの糖度はぶどうより低いので、みかんらしいフレッシュな香りを残しながら発酵させるのに手間がかかりました」。

2022年ヴィンテージはアルコール度数が約5.5%だったが、2023年は6%ほどになった「雲仙蜜柑ワイン」。キリッと冷やして、さっぱりとしたみかんの香りを味わっていただきたい。小浜温泉ワイナリーのレストランでは、シャンパングラスで提供している「雲仙蜜柑ワイン」。気になった方は、ぜひ公式オンラインショップでチェックしてみてほしい。

▶︎新たな取り組み

小浜温泉ワイナリーでは今後、自社栽培のカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローの収穫が見込まれており、十分な収量が確保できるようになれば、ロゼワインにすることを考えている。地元の食材に合わせて飲みやすいワインを考えた場合、濃い赤よりはロゼの方が適しているためだ。

「小浜温泉の辺りでは、地鶏や『雲仙あかね豚』など、白身の肉が大半です。そのため、今後仕込むワインも、引き続きフルーティな感じで造ろうと思います。これまでワインをあまり飲んだことがないという方にも楽しんでいただけるものを造りたいですね」。

自分の好みも主張しつつ、地元の食材と料理に寄り添うワインを突き詰めていく川島さん。

また、2023年ヴィンテージでは新たに、長崎県大村市で栽培された「雄宝」という品種100%のワイン「大村ブラン」をリリースした。しっかりと旨味を充分に引き出すために赤ワインの造り方で皮ごと発酵し、粗めの濾過をほどこしたフレッシュなにごりワインだ。長崎のテロワールが表現された味わいを感じてみてほしい。

『まとめ』

小浜温泉を訪れた観光客に、自社醸造のワインを楽しんでもらうこともイメージしている川島さん。

「遠くからはるばる小浜温泉にきてくださった方が温泉に入って体を癒し、ホッとひと息つくときに味わっていただけると嬉しいですね、宿泊する旅館の和食と合わせやすく、体に染み入るような味わいを感じてほしいです」。

土地の自然環境や文化を表現し、地元の食事と一緒に楽しむのがワインの醍醐味である。イタリアでワイン造りとの関わりをスタートさせ、地元に帰って小浜町ならではのワインを醸す川島さん。長崎の温泉地で地域の食事にマッチするワインを造る川島さんのワインへの向き合い方からは、ワイン文化の真髄を感じる。

料理人ならではの繊細な感覚が生み出す味わいのワインと、今後の小浜温泉ワイナリーのさらなる活躍が非常に楽しみだ。

基本情報

名称小浜温泉ワイナリー
所在地〒854-0514
長崎県雲仙市小浜町北本町862
アクセス島鉄バス小浜ターミナルから徒歩1分
HPhttps://obamawinery.base.shop/

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