『せらワイナリー』広島県世羅町で造られる、親しみある味わいが魅力のワイン

広島県の山間部にある世羅町(せらちょう)で、ワイン造りがスタートしたのは2005年のこと。農業振興の目的で、町をあげてぶどう栽培を始めたのがきっかけだ。

せらワイナリーでは世羅町産ぶどうらしさを大切にした醸造を行っており、親しみやすい味わいが特徴のシリーズは、女性を中心に、日常的に楽しめるワインとして需要を伸ばしている。

年間出荷本数は約6万本。契約農家が丹精込めてぶどうを作り、せらワイナリーがぶどうの状態を見ながら醸造する。
農家とワイナリーとが、二人三脚で試行錯誤を繰り返しながら、ワインの品質を着実に向上させている。

『ワイナリーの始まりは、農業振興と町おこし』

広島県世羅郡世羅町は、分水嶺に位置する山間部にある。周りに高い山のない世羅台地では、昔から米や麦、葉タバコなど農作物で生計を立てていたという。
さらに50年以上前から梨の栽培を行っており、梨の産地としても有名であった。

ただ、ワイナリーが創設される前の1990年代頃、世羅町の農業は「経営が安定しない」「高齢化で担い手が減少している」などの課題に直面していた。
その対策として様々な取り組みが生まれる中で、町の次なる特産品として期待されたのが「ぶどう」そして「ワイン」なのだ。

比較的初心者でも栽培に着手しやすく、世羅の気候風土とこれまでの果樹栽培実績をいかすことができ、なおかつ付加価値の高い加工品の製造ができる作物として、ぶどうの栽培およびワイナリーの設立が計画された。

「かねてからぶどう栽培が盛んな地域が県内にはいくつもあり、すでにワイン造りを行っている市町も近隣にあったので、世羅町でもよいものができるという期待はありました」と、醸造責任者である行安稔さん。

世羅町のワインの始まりは、農業振興であり町おこしだったのだ。

『契約農家とともに、年間約6万本を目指す』

農業振興からスタートしたこともあり、せらワイナリーは2021年3月現在では自社農園を持っていない。ぶどうを栽培するのは、世羅町で農業を営む契約農家の人々だ。

「もともと他の作物を育てていた方や農業法人さんの一部の土地を、ぶどう畑に変えて栽培を始めました。2005年秋に初めてぶどうを収穫しましたが、そのときはワイン7000本分くらいしか獲れなくて。年間約6万本の醸造を計画していたので、山梨県や隣の尾道市からもぶどうを購入。ワインを醸造しました。初めのころは、ぶどう栽培に賛同してくれる農家さんを募りながらのスタートでした」

ワイナリーをスタートして5年目の2010年に、やっと年間約6万本のワイン醸造が可能になる世羅町産ぶどうが確保できたという。さまざまな課題があったものの、今は地元のぶどう100%でワインを造っているそうだ。
目標としていた地元ぶどう100%での醸造をわりと早い段階で達成できたことがその後の醸造計画の追い風になった。

『ぶどう栽培もワイン醸造も未経験からスタート』

世羅町に、これまでぶどう栽培の経験がなかったのが、一番苦労をした点だ。広島県の農業技術指導所に依頼して、生食用とワイン用のぶどうを植えるところから指導してもらった。

梨畑や水田だった場所をぶどう畑に変えてもらった土地では、いまだに苦労している部分もある。ただ、初めてぶどうを栽培する農家ばかりなので、自分のやり方に固執する人はいなかった。

ぶどうの木を育てるところから一緒に悩んできた。せらワイナリーも、ぶどう栽培の知識、経験がない状態からのスタート。農家もまったく同じで、ゼロからの手探りでこれまで歩んできた。

『課題や問題を解決しながら、翌年を迎える』

せらワイナリーができた当初は、醸造技術に精通した清酒メーカーのワイン醸造経験者が指導にあたっていた。
また、オフシーズンには全国のワイナリーをまわり、各地の醸造家へ質問を率直にぶつけて、教えを受けたという。

「抱えている課題や問題に解決のヒントをもらい、翌年の醸造に反映するということを繰り返してきました。最初は酵母菌のこともよく知らずにワインの世界に入りました。ゼロからのスタートだったのでできることすべてに取り組む感じでしたね」と行安さん。

もちろんワイナリーの名前は「世羅町」が由来だ。広島県内でもあまり知られていなかったこの土地の名前を覚えてもらいたい。漢字だと少し読みにくいのでひらがなで。まずは「“せら”って何?」と興味をもってもらいたいという。

『白ワイン用・赤ワイン用のぶどうを7種類栽培』

せらワイナリーが扱うワイン用のぶどうの品種は7種類。
白ワイン用品種がハニービーナスとサンセミヨン、シャルドネ。
赤ワイン用品種がマスカット・ベーリーA、ヤマソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンだ。
特に栽培面積が大きいのが、ハニービーナスとマスカット・ベーリーAだという。ハニービーナスは、広島県の果樹試験場で品種改良されたぶどう品種で、生食用としても美味である。
フルーティーでマスカットのような味わいが特徴だ。そんなハニービーナスをはじめ、7品種の選択にはもちろん理由がある。

「ハニービーナスは広島県生まれであり、ほかの地域での醸造実績も少ない品種のため地域色が出せる。食べてもワインにしても美味しいと伝えたくて取り組んだ品種。サンセミヨンは日本で品種改良されたぶどうで、西日本の土壌では抜けやすい「酸」をある程度保ってくれる。シャルドネに関しては、より多彩なワイン造りのためのチャレンジだ。世羅町の土地でグローバルな品種がどんなワインになるのか。ワイン造りに携わる以上、関わってみたい品種だと思って始めた」と当時を振り返る。

赤ワイン用ぶどうの品種について「マスカット・ベーリーAは日本での栽培実績が多いため、栽培上の特性がわかっていることもあり、農家さんの経営を安定させる品種として考えています」と話す。
そのほかヤマソーヴィニヨンは、サンセミヨンと同様に酸を補い、かつ比較的病気に強い。安定した収量が確保できるのが特徴だ。メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンはシャルドネ同様、チャレンジの意味合いが強いという。

『フルーティーで甘い、ハニービーナス』

せらワイナリーの主要品種のひとつであるハニービーナスは、生食用のぶどうでもある。本来、そのまま食べて美味しいぶどうは、酸味やコクを重視するワインには向かない。
しかしながら、フルーティーで上品な甘さを持ち、飲みやすい味わいを出すことができる。もともとワイン文化がなかった世羅町で愛され、地場でも飲んでもらいたいとの思いがある中で、ライト層にも親しみやすい要素を持っていることは大事だとして選ばれた品種だ。

「ハニービーナスのワインはクセが少なく優しい味なので飲みやすく、ワインを普段飲まないという方にも薦めやすい。秋には、ぶどう狩りでそのままのぶどうも食べてもらえるので、試飲などのとき『今食べたぶどうで造ったワインです』と話すと、より興味関心が広がり、思い出にも残る。観光体験としても楽しんでいただける存在です」と行安さんはハニービーナスの魅力を語る。

ほとんどの契約農家は、ぶどうを1品種だけではなく、2品種、3品種と植えている。ぶどう栽培を行うからにはいろいろ作ってみたいという、チャレンジ精神の旺盛な人が多いのだという。
そのため、今後はハニービーナスや前述の品種に限らず、新たな品種のワインが生まれることもあるかもしれない。

『農家さんの顔が見えるワインを造りたい』

世羅町のぶどう畑は、もとは梨畑や水田であったところが多いため、土壌が肥沃で保水力が高いという特徴があった。だが、ぶどう栽培には基本的にその逆の性質が求められるため、ぶどう畑にする前には土壌表面を削って別の土を入れるなどの改良を施した上で栽培に臨んだ。
ぶどう栽培において、気候風土、土壌の性質は重要な要素である。

しかしながら、ぶどう栽培にもっとも欠かせないのは人の存在である。ぶどうの品質を一定に保つために、「人」であるぶどう農家や醸造家は何をしているのか。

「当初は木の年齢も同じで、同じ作業を同じ時期にしていたのですが、年月が経つにつれ契約農家さんによってどんどん個性が出てきました。その際、無理に同じものに揃えることよりも、農家さんごと、畑ごとの個性をいかし、お客様にも農家さんの顔が見えるようなワインを造っていきたいと考えるようになりました」と行安さんはワイン造りのこだわりについて語る。

また、ぶどうの成長期には、こまめに契約農家の畑をめぐって様々な話をするという。栽培に関することから、時には他愛のない話題など、コミュニケーションは欠かせない。
農家によっては、栽培に関する情報を得る先や相談先が限られており、様々な課題を抱えたまま栽培を続けていることもある。
そんな情報をコミュニケーションの中で収集し、共に解決策を探し、時には他の農家とも共有する。醸造家にとってぶどう農家はより良いワイン造りのパートナーであり、町のワイン文化を盛り上げたいと願う同志なのである。

『世羅台地の気候風土が、ぶどうの品質を上げる』

せらワイナリーが醸造するワインの中で、マスカット・ベーリーAを使ったワインは、特に日本ワインのコンクールでの受賞実績が多い。それには世羅台地の気候風土が関係している。

「果樹は寒暖差があるほど色づきやすく、糖度が高まると言われます。世羅台地は周囲に高い山がなく、風がよく通る土地。現在ぶどう畑はすべて棚栽培を行っているのですが、その棚の下を風が通ることで熱がこもらず、木の周りの温度が夜間に下がりやすいんです。この条件が、高い品質のぶどうを生むのには欠かせないと思っています」と分析する。
特にマスカット・ベーリーAの色づきや果実味は、近隣の醸造家からの注目も熱く、その栽培手法について尋ねられることもあるそうだ。

ただ、西日本は台風の影響を受けやすく、極端に天候が変わる年も多い。雨が多いと木が灰かび病やベト病などに侵されたり、果実が劣化しやすくなったりする。収穫期にはこまめに生育の状況を見ながら、場合によっては収穫時期を早めるなどの対応をしているそうだ。
農家側も畑の状態を敏感に感じ取った上で、その後の作業を調整するなど、各農家の経験なども基に丁寧な管理が行われている。

『人とのつながりで生まれる世羅町のワイン』

世羅町のぶどう畑で収穫したぶどうの良さをワインとして伝えるのが、せらワイナリーのこだわりだ。

「農家さんにこちらの都合だけで指示するのではなく、農家さんの栽培に関する考えや想いを尊重しています。とは言え、僕らの『こんなぶどうを栽培してくれないか』という要望に、快く応えてくれる農家さんも多い。農家さんと一緒にぶどう栽培とワイン造りを行っているんです」と行安さん。
人とのつながりの中でできたぶどうを、どのようにワインへと醸造するか。せらワイナリーでは試行錯誤を続けている。

契約農家には何よりも安定した収益を確保し、継続してもらうことを望んでいる。年齢的には60歳以上が多く、80歳を超えている農家もいる。
次世代を育てて受け継いでもらうためには、若い人にも興味をもってもらわなければならない。ワイン販売の収益を上げて生産者に還元していくことは、せらワイナリーの大きな使命のひとつなのだ。

『目標とするのは、“せら”さんっぽいワイン』

「この土地で生まれた農作物の魅力を、ワインで表現して味わってもらう」のが、せらワイナリーが目指してきた姿だ。
最近ではワインを飲んで「なんだか、“せら(ワイナリー)”さんっぽい味のワインだね」と言ってくれる人も増えた。当初の目標に着実に近づいている。

ワイン醸造の際にも、農家の栽培したぶどうの味を伝えることを一番に考えている。「収穫したぶどうに対して無理なことはしたくないので、補糖や補酸は極力行いません。課題はたくさんありますが、試行錯誤を繰り返しながら、楽しんで造っています」

ぶどうの栽培過程では、もともとの気候風土に寄り添いながら、より良いワインのための土壌改良や栽培方法の見直しを試みる。ワインの醸造過程では、発酵中の温度管理や品質管理を、この土地の気候の変化に合わせて最適化する。
そのほか、濾過や瓶詰など、全行程にわたって、“せら”らしさをより良い形で出せるようさまざまなチャレンジを続けている。

『農家ごと、畑ごとに糖度や酸度、pHを分析し、収穫時期を決める』

現在の契約農家は約20戸。複数品種を栽培する農家もいるため、1か所の畑をさらに細かく品種ごとに分けると全国で70カ所ものぶどう畑があるという。
収穫量が500㎏ほどの畑もあれば、数トンにのぼる畑もあり、収穫できる量はそれぞれだ。せらワイナリーが1日に受け入れられるぶどうの量も限られている。

ワイナリーでは、シーズンになると、すべての畑のぶどうの糖度や酸度、pHなどを分析。また、実際に実や種を食べて、官能的にも成熟具合をチェックしているという。
最高の状態でぶどうを収穫できるよう、結果は各農家に伝え、相談をしながら収穫日を調整しているそうだ。

「同じ品種でも畑や手のかけ方で成熟具合は変わってくる。また、熟すほどにワインに必要な酸が抜けていってしまうし、病気や腐敗のリスクも高まるので、完熟まで待てばよいというものでもない。分析結果とその後の天候などを考慮して、個別のタイミングを探るためにも、農家さんと相談を重ねて収穫に臨みます」。

それ以外にも、分析結果は自身のぶどう作りの成果を数値で目にできるものなので、結果を楽しみにしている農家さんも多いという。

『おすすめは、マスカット・ベーリーAとサンセミヨン』

せらワイナリーのおすすめの1本は、「百花 マスカット・ベーリーA 2018」だ。しっかりと果実味を感じられる仕上がりで、酸味もあって食事との相性も抜群だ。また、サンセミヨンを使った「百花 サンセミヨン2018」も、これまでにないワインができたという。

「すでに在庫がわずかとなっていますが『百花 サンセミヨン2018』が個人的には近年で一番の仕上がりでした。2018年はぶどうの糖度が高かった年だったこともあり、アルコール度が高く、コクも出て酸もしっかりある。本格的な1本に仕上がったと自負しています」と行安さんは話す。このクオリティのものはめったに造れない。この味のワインには、当面出会えないかもしれないと感じているという。

『ラベルをコレクションする独自の試み』

せらワイナリー独自の試みとして興味深いのが、全12種類で構成されるコレクターズワインだ。ぶどう栽培からワインのできあがりまでのストーリーを、ラベルで表現したシリーズで、36カ月かけて12種類のワインラベルをコレクションできる企画だという。

2021年4月で15周年という節目に際して、改めて「せらワイン」にかける思い、「せらワイン」が出来るまでに紡がれるストーリーを共有するファンアイテム、レコードアイテムとして、「味わいを記憶に」「ラベルをお手元に」との考えからこのシリーズは企画された。
2021年3月までに2種類が発売済みだが、既存のラベルとは違う客層が手にしている印象で、ビジュアルによって興味を持ってくれるお客様が違うということを改めて実感。売り場で造り手の思いを伝えるツールとして、ラベルの力の大きさを改めて認識したという。

デザインやワインの内容は順次発表を予定しているため、次は何だろうとラベルも味も楽しみにしてほしいと考えている。

『将来的には、世羅町産ぶどうの可能性を広げるワイン造りを』

せらワイナリーのワインは親しみやすい日常のワインとして、特にライトユーザーに人気が高い。また、ワイナリーを始めてから地元に少しずつワイン文化が根付いてきたことで町民にも興味を持ってもらえるようになった印象を持っているそうだ。

「しかしながらそれに甘んじていてもいけない。ワイン専門店やレストランなどの高品質なワインを求めるところの要望に応えるものも造っていきたい」との思いも持っている。
将来的には、世羅町産ぶどうで、親しみやすいものから複雑な味わいのものまで多彩なワインスタイルを表現していきたい。そのために、世羅の土地に醸造専用品種を更に増やすことも考えている。
とは言え、契約農家に依頼するには、気候や土壌との相性が未知であることから栽培面積が広げ難く、少量栽培では収益化が難しいことも懸念される。いずれは自社農園を構えて、そういった試験的取り組みを行っていきたいと計画中だ。

『まとめ』

広島県世羅郡世羅町で、地域を盛り上げ、農業を維持し続けることを目的として誕生したせらワイナリー。世羅町で生まれたぶどうやワインは、いまや町おこしのひとつのツールとして町のPRの一助を担っている。
美味しいぶどうを作りたいと、移住してきた人もいるという。

醸造家と農家の人々のたゆまぬ努力の結果、せらワイナリーのワインは地域や近隣の人々に愛される、日常のテーブルワインとして知名度を上げてきた。そしてもっと幅広い人に飲んでもらいたいと、ゆくゆくはよりプレミアムなワイン造りに挑戦することも考えている。

根底にあるのは、常に世羅町ならではのワインであるということ。この土地だからこそ表現できる“せらワイナリーらしさ”。その上で、高品質でそれぞれの層の要望に適う、ワインの醸造を目指しているのだ。

基本情報

名称せらワイナリー
所在地〒722-1732 
広島県世羅郡世羅町黒渕518番地1
アクセス電車
JR尾道駅(JR新尾道)から中国バスで約60分「甲山営業所」下車→タクシーで約15分
JR三原駅から中国バスで約60分「甲山営業所」下車→タクシーで約15分

岡山・四国方面からのお客様
山陽自動車道尾道JCTから尾道松江道経由
世羅ICより国道184号→世羅高原ふれあいロード・フルーツロード経由約20分
山口・広島方面からのお客様
山陽自動車道 河内ICより(広島空港)
フライトロード→県道49号線→大和工業団地東口信号を右折→フルーツロード経由約30分
中国自動車道ご利用のお客様(山陰方面から尾道松江線ご利用のお客様)
尾道松江線三次東IC経由吉舎ICより国道184号→フルーツロード経由約40分
三次ICより国道184号→フルーツロード経由約50分
三次ICより国道375号→県道45号線→ふれあいロード・フルーツロード経由約40分
HPhttp://www.serawinery.jp/winery.html

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