『ベルウッドヴィンヤード』ぶどう本来の味わいを引き出し、山形県上山市の風景が思い浮かぶワインを造る

山形県の南東部に位置する上山市は、古くは上山藩の城下町として、また羽州街道の宿場町として栄えた歴史を持つ街。現在は、スキー場や樹氷で有名な蔵王山への玄関口として知られている。

また、上山市は、山形県のなかでもとくに果樹栽培が盛んで、ぶどうやさくらんぼ、ラ・フランスや桃などの名産地だ。

今回紹介するのは、そんな上山市の久保手地区にある「ベルウッドヴィンヤード」。代表取締役の鈴木智晃さんが2020年に設立したワイナリーだ。

鈴木さんが上山市の自社畑で栽培するのは、糖と酸のバランスがよく、凝縮感たっぷりのぶどう。上山の土地をいかに表すかを考えながら、ぶどう栽培とワイン造りに真摯に向き合っている。

ベルウッドヴィンヤードが目指すのは、上山市の風景が思い浮かぶようなワインを造ること。そんなベルウッドヴィンヤードの創業までの経緯と、こだわりや思いを詳しく紹介していきたい。

『独立してベルウッドヴィンヤードを設立』

まずは、ベルウッドヴィンヤード設立までのストーリーをたどっていこう。鈴木さんは、どのように自分のワイナリーの設立を実現したのか。

鈴木さんのこれまでの経験と、ワイン造りにかける思いを追う。

▶︎醸造経験を重ね、栽培の奥深さに魅せられる

山形県西村山郡にある朝日町出身の鈴木さん。就職先として選んだのは、地元のワイナリー「朝日町ワイン」だ。19年間勤務した。

「最初の10年くらいは、主に醸造を担当していました。しかし、長年ワインを造っていると、よいワインに必要なのは、 なによりもよいぶどうだということがわかってくるのです。次第にぶどう栽培にも興味がわいてきたので、栽培にも携わらせてもらいました」。

実際にぶどうを作ってみると、ぶどう栽培の奥深さにどんどん興味がわいてきた。そして、自分だけのぶどう栽培とワイン醸造をしてみたいと思うようになったのだ。

ワイン造りを続けるうちに、ものづくりの面白さに魅了されたのだと話してくれた鈴木さん。自分が理想とする土地で、自分や繋がりのある生産者が栽培したぶどうを使ったワインを造ろうと決めた。

鈴木さんがワイナリーを始めるにあたり、地元である朝日町も候補地のひとつだった。だが、数年かけて土地を探すうち、同じ山形県の上山市で、ワインを通じて町を活性化することを目的とした「ワインの郷プロジェクト」がスタートすることを知った。上山市は朝日町から山を超えた南東にあり、ぶどう産地として長い歴史を持つ地域なのだ。

ちょうど独立を考えていたタイミングで理想的なプロジェクトが始まるとは、なんと運命的な出会いだろうか。さっそく「ワインの郷プロジェクト」に参加を決め、上山市で理想の畑を持つことができたのだ。ベルウッドヴィンヤードを立ち上げたのは2017年、そして2020年にはワイナリーを創業した。

▶︎優れたワイン用ぶどうが育つ上山市

ベルウッドヴィンヤードがあるのは上山市の北西側で、山形市にほど近い場所だ。自社畑は、耕作放棄地や担い手がなくなったデラウェア畑だった。畑を借り受けた最初の数年は、もともと植栽されていたデラウェアを引き継いで栽培。その後、数年かけて徐々に別の品種への改植をすすめてきた。

ぶどうの苗を植えても、すぐに収穫できるわけではなく、醸造に使えるような果実が収穫できるまでには3〜4年かかる。そのため、独立して数年は、収穫可能だったデラウエアを委託醸造でワインにした。

2017年にはピノ・ノワールとピノ・グリ、2018年にはソーヴィニヨン・ブランとメルロー、2019年にはカベルネ・ソーヴィニヨンを植えた鈴木さん。なぜその品種を選んだのか。

メルローとカベルネ・ソーヴィニヨンは、上山市での栽培実績がある品種だ。一方、ピノ・ノワールとピノ・グリは山形県内での栽培例はほとんどない。そのため、栽培に難しさを感じることもあるが、やりがいのある品種だという。

「ピノ・ノワールとピノ・グリは栽培が難しいぶん、愛着もある品種ですね。ソーヴィニヨン・ブランは、個人的に好きな品種なので選びました」。

ベルウッドヴィンヤードのワイナリーとメインヴィンヤードのある上山市久保手は、周囲が開けた標高250mほどの丘にある地域。日当たりと風通しは良好だ。

土壌は石混ざりの強い粘土質だ。保水性はしっかりとありつつ、地形に傾斜がついているので排水性がよい。しかも上山市は、山形県の中では雨量、積雪量ともに少ないエリアだ。また幸いなことに、台風の影響を受けることはあまりない。

つまり、ベルウッドヴィンヤードの自社畑には、優れたワイン用ぶどうが実る条件がしっかりと揃っているのだ。

▶︎恵まれた環境を最大限に活用

メインヴィンヤードの北斜面ではピノ・ノワールとピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、南斜面ではメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを栽培しているベルウッドヴィンヤード。畑はすべて垣根栽培だ。

また、ワイナリーから500mほど離れた場所にも畑を借りていて、引き継ぐ前から植えられていた棚仕立てのデラウェアを有核栽培している。

6種類のぶどうを育てている鈴木さんが、もっとも可能性を感じている品種はカベルネ・ソーヴィニヨンだ。

「品種としてのポテンシャルが高く、気候に合っているので比較的栽培しやすいですね。ピノ・ノワールとピノ・グリは栽培管理が大変で、手間がかかります」。

だが、しっかりと愛情を受けて育ったピノ・ノワールとピノ・グリは、素晴らしい品質のワインになる。

ピノ・ノワールとピノ・グリは、いずれも非常にデリケートな品種特性を持つとされる。例えば、最適な収穫時期から少しでも過ぎてしまうと腐敗が始まったり、実割れが起きてしまったりする。上山市の気候はピノ・ノワールとピノ・グリにあっているとは言い難い。だが、手間暇かけて収穫したブドウからできるワインにはとても可能性を感じているのだ。

上山市で育つぶどうの全体的な特徴としては、糖と酸のバランスがよく、ワインにすると凝縮感がでることが挙げられる。上山市ならではの味わいは、季節による温度変化が大きい気候であることが影響しているだろう。

また、ベルウッドヴィンヤードのメインヴィンヤードは朝日がしっかりと当たる斜面にあり、近くにある標高459mの鷹取山が西日を遮ってくれる。そのため、昼夜の寒暖差も大きいのが特徴だ。

ピノ・ノワールとピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブランなど、収穫時期が早い品種を栽培している場合、夜温が下がらないことが原因で、酸が早めに抜けてしまうことは往々にしてある。

しかし、鷹取山が西日を遮ってくれるベルウッドヴィンヤードの畑では、収穫時期の早い品種でも酸を適度に維持しつつ、しかもしっかりと熟した状態で収穫できるのが特徴だ。

周囲の自然環境や気候の影響を大きく受ける農業だが、鈴木さんは自社畑の恵まれた環境を最大限に活用することで、優れたぶどうを栽培することに成功しているのだろう。

▶︎出来上がるワインを想像しながら栽培する

ベルウッドヴィンヤードでは、ぶどう畑に除草剤を使用していない。また、農薬を極力減らす努力もしている。ベルウッドヴィンヤードのSNS投稿では、レンゲや山菜など、季節ごとのさまざまな植物が畑に共生している様子が見受けられる。

また、メルローの畑には「淡竹(はちく)」と呼ばれる、タケノコの一種が大量に生えてきて、数量限定でワインと淡竹のセットを販売していた時期もあったほどだ。

「周囲の自然と共存しようと考えているわけでもないのですが、ぶどうだけではなく、一緒に生えている植物たちも元気に育つような場所にしたいとは考えています。そのほうが、ぶどうもしっかり育ってくれるのではないでしょうか」。

ぶどう畑の土を植物たちの根が育ててくれるからこそ、ぶどうも健やかに育つと感じているという鈴木さん。栽培のこだわりを言葉にするのは難しいですねと言いながらも、次のように話してくれた。

「どの土地もそれぞれに異なる特徴を持っているので、ぶどうが育つ場所が違えばできる果実は当然違う味わいになります。うちの自社畑は上山市にあるので、この土地ならではの個性を生かしたぶどうを作りたいと考えています。結果として、自然の力を借りたぶどう栽培ができていると嬉しいですね。できあがるワインを想像しながら栽培するように心がけています」。

例えば、メルローであれば日の光を当てて濃縮感が出るように。また、ソーヴィニヨン・ブランであれば、爽やかな酸味と香りを引き出すことを心がける。

房形をコントロールして果粒に均等に日光が当たるように工夫したり、収穫時期を見定めたりすることで、土地の個性と品種の特性を最大限に引き出したワインを仕上げることを目指しているのだ。

『ベルウッドヴィンヤードのワイン醸造』

続いては、ベルウッドヴィンヤードのワイン醸造に焦点を当てていこう。ベルウッドヴィンヤードの自社醸造施設が完成したのは2020年のこと。同年に醸造免許も取得し、自社醸造のファーストヴィンテージをリリースした。

ぶどうのよさをいかに引き出すかを常日頃から考えて醸造をしているという鈴木さん。朝日町ワイン在籍時から、長年にわたって山形県産のぶどうを使ったさまざまなスタイルのワイン醸造を経験してきた。

▶︎ぶどうのよさが存分に楽しめるワイン

ベルウッドヴィンヤードのワインのうち、微発泡タイプのペティアンなどは、気軽に楽しめて体に馴染む仕上がりにしたいと考えて造られている。一方、欧州系品種のスティルワインは凝縮感があり、味わい深い仕上がりを目指す。

「ワインのタイプによってコンセプトや狙いどころは違いますが、全体としてぶどうが本来もつ味をしっかりと出せるように醸造しています。去年より今年、今年より来年とブラッシュアップし、飲むお客様が上山市の風景を思い浮かべられるようなワインにしたいですね」。

ワイン造りには仕込みから瓶詰めにいたるまでさまざまな工程があり、それぞれにおさえるべきポイントがある。発酵だけを例にとっても、温度、酵母などの最適解をひとつひとつ積み重ねることが、飲む人のもとに届くワインの味に直結するのだ。

だからこそ鈴木さんは、すべての工程をそれぞれ大切におこなう。そして、ぶどうの持つ本質を覆い隠す要素のない、ぶどうのよさが存分に楽しめるワインを私たちのもとに届けてくれているのだ。

▶︎おすすめ銘柄の紹介

続いて、ベルウッドヴィンヤードのワイン銘柄について紹介していきたい。

「コレクション ヴァンペティアン」や「コレクション クラシック」シリーズのワインは、日常に寄り添い、気軽に楽しむことができるワインとして展開している。

また、「コレクション スペリオール」シリーズはワイングラスを使い、じっくりと味わうのにふさわしいクラスのワインだ。

販売中のワインの中から、鈴木さんのおすすめのワインをたずねると、まずは「2022ルペタル コレクション ヴァン ペティアン」の名が挙がった。

「2022ルペタル コレクション ヴァン ペティアン」は、メルローなどのヨーロッパ系品種を主体にしたロゼ仕込みのペティアンだ。ベリー系の香りとほのかな渋みが特徴。暑い季節に冷たく冷やして飲むのもよいので、バーベキューなど屋外イベントのシチュエーションにも合いそうだ。

また、山菜など和の食材との相性も抜群。鈴木さん自身は、山菜を味噌汁の具や天ぷらなどにして合わせるのがお気に入りなのだとか。普段の食事に合わせたり、みんなが集まる楽しいシーンで飲んで欲しいと話してくれた。

続いて、「2021アッサンブラージュルージュ コレクション スペリオール」は、上山市産の5品種をアッサンブラージュしたワイン。奥行きと複雑味がある味わいが魅力的な1本だ。マスカット・ベーリーAのチャーミングさとヨーロッパ系ぶどうの重厚さが重なり、奥行きのある味わいに仕上がっている。

「淡竹と肉やこんにゃくを一緒に煮た料理に合いますよ。また、しっかりとした味付けの和食や肉料理と合わせていただくのもよいと思います」。

山形名物では、芋煮とのペアリングはいかがだろうか。芋煮会のシーズンに山形を訪れ、べルウッドヴィンヤードのワインを芋煮と一緒に楽しむ旅をしてみるのもおすすめだ。

『ベルウッドヴィンヤードのこれから』

ベルウッドヴィンヤードでは、自社畑で栽培したぶどうのみをしたフラッグシップシリーズ「Domaine Cloche(ドメーヌ クロッシュ)」のワインも、今後続々とリリースしていく。

8月には「2020 デラウェアオランジュ」をリリースしました、今後リリース予定なのは、ピノ・グリ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワールのアッサンブラージュや、ピノノワールやソーヴィニヨン・ブランの単一ワインだ。

「すべての銘柄について言えることですが、『Domaine Cloche』では特に、この土地のよさをいかに表現するかをいちばんに考えて醸造しています。今後さらに注力しようと考えている『Domaine Cloche』は自分が栽培を手がけたぶどうだけを使っているので、栽培時からワインの方向性を考えて管理しています。引き続き模索を続け、自社畑の樹がさらに成長して味わいが変化していくのも楽しみです」。

▶︎上山市の風景が思い浮かぶワインを

ベルウッドヴィンヤードは、訪れる人の記憶に残るワイナリーを目指している。

「ベルウッドヴィンヤードがある上山市に来て、風景を見ながらワインを飲んでいただけるイベントの開催を検討しています。また、畑作業が体験できる仕組み作りにも取り組んでいるところです。まずは、サポーター会員制度の導入を目指して検討しているところです」。

鈴木さんがイメージするのは、ワイナリーでの経験を自宅に帰ってからも思い出して、ワイナリーで購入したワインを大切な人と共に飲んでもらうシーンなのだとか。

ベルウッドヴィンヤードの公式サイトには、これまでに開催した植樹イベントや収穫祭の画像なども掲載されている。興味を持った方は、ぜひサポーターとしてベルウッドヴィンヤードの栽培作業などに参加してみてはいかがだろうか。

お客様とのつながりをしっかりと造っていき、多くの人とのご縁がさらに繋がっていくことを実現させたいと話してくれた鈴木さん。ワインを通じて、ベルウッドヴィンヤードの人の輪はこれからさらに広がっていくことだろう。

▶︎自己表現の場として

ワイナリーの立ち上げに際し、ワインを造るだけではなく、自己表現の場として機能させることも当初から念頭に置いていたという鈴木さん。

ベルウッドヴィンヤードのワイナリーは、鈴木さんのこだわりが随所に感じられるスタイリッシュでおしゃれな空間だ。

ワイナリーのロゴマークとして使われているリバティ・ベルをあしらったオリジナルグッズも展開。さらに、ワインのエチケットも遊び心が効いたデザインで、コレクションしたくなる人も多いことだろう。

「私が持っているイメージを具現化してくれる上山のデザイナーさんと出会い、一緒にさまざまなデザインを構築してきました。ワイナリーに来て、私の思いに共感してくれる人が増えてくれたら嬉しいですね」。

鈴木さんが伝えようとしている世界観そのものとも言えるベルウッドヴィンヤードのワインを、ぜひ現地の風景を眺めながら味わってみたいものだ。

『まとめ』

「畑仕事や醸造では大変なこともいろいろありますが、飲み手のみなさんがうちのワインを飲んで笑顔になってくれたらと思いながら、いつも仕事をしています」と、終始穏やかな表情で語ってくれた鈴木さん。造り手自身の人柄も、ベルウッドヴィンヤードの魅力のひとつに違いない。

ベルウッドヴィンヤードの強みとは?という質問には、非常に優れたぶどうの産地である山形県上山市という土地そのものが強みだと答えてくれた。

「ワイン造りに携わって25年ほどが経ちました。これまでたくさんのぶどうをワインにしてきた経験と、たくさんの方から教えていただいたことが今の私のワイン造りに活きています。人との繋がりも、私の強みかもしれませんね」。

飲む人が自然と笑顔になり、その場が和んで楽しい気分になれるワインを造りたいという鈴木さん。笑顔になれるワインを探している方は、ぜひ上山市まで足を伸ばしてベルウッドヴィンヤードを訪れてみてほしい。

基本情報

名称ベルウッドヴィンヤードワイナリー
所在地〒999-3166
山形県上山市久保手字久保手4414-1
アクセスhttps://maps.app.goo.gl/A3LwKQnTUxNSwRMZ6
HPhttps://bellwoodvineyard.com/

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