『スペンサーズ・ヴィンヤーズ』厳しい収量制限で「美味しさ」を提供するワイナリー

ワイナリーを始める理由として真っ先に思いつくのは「ワインが好きだから」「ワインを造ってみたいから」というものではないだろうか。しかし「Spencer’s Vineyards(スペンサーズ・ヴィンヤーズ)」の代表である芦野広昭さんがワイナリーを始めた理由は、一風変わっている。

「自分がつくったものを、美味しく飲み、食べてもらいたい」。

茨城県つくば市でぶどう栽培をしながらワインを醸造し、東京都墨田区曳舟の「下町人情キラキラ橘商店街」でクラフトワインショップを営む芦野さん。そのバイタリティはどこから生まれるのか。

ワイナリー設立までの物語とぶどう栽培・ワイン造りについてのエピソードをとおして、スペンサーズ・ヴィンヤーズの魅力やこだわりに迫っていきたい。

『自分のお酒と料理で、人の心を動かしたい』

芦野さんは、大手住宅メーカーの会社員だった。なぜ、ワインの造り手に転身したのだろうか。芦野さんがワイン造りに目覚めたきっかけと、ワイナリーを立ち上げた歩みをたどる。

▶︎東日本大震災で被災

芦野さんにとっては、ワイン造り自体が目的なのではなく、自分が造るお酒や料理を人々に楽しんでもらうことが重要なのだという。

なぜ、このような思いを抱くに至ったのか。きっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災で被災したことだった。

当時、住宅メーカーである「三井ホーム」の営業責任者として、仙台で勤務していた芦野さん。もともと料理好きだったが、単身赴任をしたことで、ますます料理の面白さにのめり込んでいた。また、ワインを自分の手で造るということに、漠然と興味を抱き始めたのも同じ頃だったという。

そんな単身赴任生活が1年ほど経過したころ、突如として東日本大震災が発生したのだ。

地震発生時、芦野さんは仙台のオフィスビルにいた。大きな揺れが続き、その後は停電して情報が入りづらい状況となった。会社の上司の家に避難して不安な夜を過ごしたが、実はその時、東北一帯には大きな被害が発生していた。

▶︎食がもたらす力を実感

地震発生後、勤務先では震災対応業務が始まった。社員を30チームほどに分け、被災した建物の調査をおこなうことになったのだ。

「住宅メーカーですので、何万棟という建物を調べに行く必要がありました。調査に行く社員にとっても、オフィスに残って勤務する社員にとっても、厳しい日々でしたね。誰もが辛かったあの期間をなんとか乗り越えられたのは、『食』の力によるところが大きかったと思います」。

被災地の惨状を目にする毎日に、社員たちはひどく疲弊していた。芦野さんは、みんなをなんとか元気づける必要があると感じたのだ。

そこで芦野さんは、自ら「炊き出し係」を名乗り出た。なんと、毎日朝5時に起きて、社員100人分のお弁当を作ったのだ。昼にはオフィス内で勤務する社員に温かい食事を提供し、さらに夜には、調査から帰ってきた社員のためにも腕を振るった。

「オフィスには全国から支援物資が届くのですが、電力が復旧していなかったこともあり、賞味期限との戦いでした。食材を無駄にせず、かつ大量消費する手段として考えたのが、社員みんなに『居酒屋スタイル』で料理を提供することだったのです。温かい食事を食べて一杯飲めば、また明日も頑張れます。食には力があると確信しました」。

被災地で奮闘する社員の癒やしと活力のために、芦野さんが食事を提供する日々は、2か月近く続いた。

この経験を通じて芦野さんは、自分が作った料理とお酒を振る舞い、食の力で人の心を動かしたいと考えるようになったのだ。

▶︎ワイン造りを目指して本格始動

やがて仙台勤務を終え、東京に異動した芦野さん。ワインについて本格的に学びたいと考えて、2018年にワインエキスパートを取得。続く2019年には、長野県東御市で「アルカンヴィーニュ」が運営する「千曲川ワインアカデミー」に入学した。ぶどう栽培とワイン醸造についての知識と経験を着実に積んでいったのだ。

アカデミー修了後の目標は、自分のワイナリーを作ること。当初、千曲川ワインバレーがある東御にワイナリーを構えることを考えたが、東京から簡単に通える距離ではなかったことから断念。考えた末に栽培醸造の地として選んだのは、茨城県つくば市だった。

「当初、別荘を所有していた那須高原でのワイン造りも考えて、ためしにワイン用ぶどう栽培を始めてみました。しかし、標高950mほどもある山中には、思っていた以上に猿が多かったですね。いたずら好きな猿は、ぶどうの樹の枝を折ってしまうのです。そのため、那須でのぶどう栽培は難しいと考えて、つくば市に狙いを定めました」。

つくば市はすでに「つくばワイン・フルーツ酒特区」に認定されており、都内から「つくばエクスプレス」で無理なく通えるのも魅力的だった。そこで2019年には、つくば市での畑の取得に乗り出した。

▶︎ぶどう栽培をスタート

「つくば市役所の農業政策課の方から、数人の地主さんを紹介していただき、まとまった土地を借りることができたのです。ぶどう農家になるための入り口としては、申し分ない広さの土地でした」。

2020年3月には、つくばの圃場に最初のぶどうを植樹。休日になるとつくば市に通い、ぶどう農家として汗を流す日々が続いた。ワインアカデミーの同期たちの手も借りながら、兼業農家として3年の月日を過ごした。

「初年度は自社畑からの収穫はないので、近隣にある『Bee’s Knees Vineyards(ビーズ・ニーズ・ヴィンヤーズ)』さんの畑を一部借りてぶどうを栽培しました。収穫したぶどうを買い上げ、長野県東御市の『アルカンヴィーニュ』さんに醸造を委託したのです。収穫できたぶどうは1tで、ワインにすると1,000本ほどでしたね」。

造ったワインのうち半数はSNSで販売を告知して即完売したほか、芦野さんの地元である東京都台東区浅草の飲食店にも提供している。1店はミシュラン2つ星を獲得しているフレンチの店「オマージュ」の姉妹店、「ノウラ」。もう1店は「浅草じゅうろく」という蕎麦懐石の店だ。

そして残りの半数は、3年後の醸造所オープンに向けて寝かせているとのこと。一部は芦野さんが切り盛りするクラフトワインショップでも少量ずつ販売している。

2022年には、つくばの圃場で初めてのぶどう収穫が叶い、会社を退職した芦野さん。こだわりと人脈を生かした第二の人生をスタートさせた。

『美味しいワインを造るため こだわりのぶどう栽培』

芦野さんのぶどう栽培は非常にストイック。徹底した栽培管理は、美味しいワインを作りたいという思いからだ。

スペンサーズ・ヴィンヤーズのぶどう栽培の詳細を見ていこう。

▶︎自社畑での栽培品種

2020年に自社圃場に植えたのは、赤ワイン用品種のカベルネ・フラン600本と、白ワイン用品種のピノ・グリ300本だ。

「初年度は、苗木がなかなか手に入らない年でした。そのため、親しい苗木屋さんで、ちょうど在庫があったカベルネ・フランとピノ・グリを購入したのです」。

カベルネ・フランとピノ・グリは、芦野さんが好きなぶどう品種でもあったためにスタート品種として最適と考え、植えることを決めたという。

2021年には、赤ワイン用品種のシラーと、白ワイン用品種のアルバリーニョ、プティ・マンサンを植樹。2022年にはシラーとプティ・マンサンを増やし、現在に至る。

「フランス・ローヌ地方産のワインが好きなので、シラーとヴィオニエを栽培したいと思っていました。しかし先輩の造り手さんから、ヴィオニエは難しいのでアルバリーニョを栽培するとよいのではとアドバイスいただき、アルバリーニョを植えてみました」。

プティ・マンサンを選んだ理由は、栃木のワイナリー「ココ・ファーム・ワイナリー」で育てられている品種だから。隣同士である栃木と茨城の気候風土は似通っている部分がある。また、ブレンド用として優秀な点も、プティ・マンサン栽培をスタートする理由になったという。

▶︎圃場のテロワール

スペンサーズ・ヴィンヤーズが保有する、つくばの圃場は計4つ。いずれも筑波山の山際、北条大池に注ぐ沢沿いに位置する。

「沢に沿ったエリアに4つの圃場が点在しています。ミネラル分が土に浸透しやすい立地のため、ぶどうにとってよい環境なのではないでしょうか。沢の水は灌漑にもできるので、気兼ねなく水が使えて非常に便利です」。

筑波山は隆起した岩でできた山だ。そのため畑は花崗岩土壌であり、土にはミネラル分がたっぷり含まれる。平均年間降水量は1,400ml程度と、全国平均よりはやや少ない。

豊かな自然があるために野生動物も多いが、うまく共存しつつぶどうを栽培している。特に多いのがイノシシとハクビシン。ハクビシンによる食害はあるものの、那須高原での猿のいたずらほどひどくはないと、芦野さんは笑う。

「収穫が始まっている畑に関しては、ハクビシン対策の電柵を張っています。しかし、ハクビシンは柵を登ってしまうのです。糖度が上がったら食べられる前に収穫するしかなく、スピード勝負ですね。ちなみにイノシシもやってきますが、イノシシは畑のミミズを食べにやってくるだけです。ぶどうは狙わず、垣根の間を練り歩いているようですよ」。

気候や土壌以外の要素で、芦野さんが強く感じるという「つくばの特徴」がある。それは「人のよさ」だ。東京から来た芦野さんに対しても、非常に好意的に接してくれる。

「農業に関しても色々教えてくださいますし、とても協力していただいています。なんと、私は地域では『若手のホープ』扱いを受けているんですよ」。

芦野さんはつくばの住民に溶け込み、愛されているようだ。芦野さんがつくばの畑にいると、次々と地元の方が畑に遊びに来るという。

つくばでぶどうを育てることにして本当によかったと話してくれた。芦野さんはつくばのテロワールと人の絆を力に変え、ワイン用ぶどう栽培を続けていく。

▶︎凝縮した一粒へのこだわり

スペンサーズ・ヴィンヤーズの圃場では、垣根仕立てでぶどうが栽培されている。

栽培でこだわっているのは大きくふたつ。「土を柔らかく保ち根を育てること」と、「収量制限により果実の質を追求すること」だ。

土が柔らかければ、ぶどうは土中に広く根を張り巡らせられる。そして根が豊かに育てば、土中の成分を余すことなく果実に吸収することができる。

スペンサーズ・ヴィンヤーズの圃場では重機を使わない。機械の重みで圃場の大地を踏み固めることを防ぐためだ。唯一使用するのは接地面の圧力を分散し、土を固めないキャタピラだけ。土を柔らかく保つためのこだわりだ。

圃場に入れられない機械が増える分、もちろん手作業も増える。しかし芦野さんは、手間よりもぶどうの品質追求を選ぶ。

「農薬散布用の『スピードスプレーヤー』も、うちは使いません。機械と液体の重量が合わさって圃場を固く締めてしまうので、薬剤はすべて手散布です」。

▶︎徹底した収量制限

続いては、芦野さんがおこなう「収量制限」の話題に移ろう。これはスペンサーズ・ヴィンヤーズのぶどう栽培において、一番のこだわりといえる要素だ。

芦野さんが採用している収量制限の基準では、1本の樹から収穫する量は、最大2Kgとしている。

「ひとりでも管理が行き届くように、最終的には1,500本くらいの樹から、年間3,000本程度のワイン生産量にする予定です」。

また、剪定時には、「どの枝や実を残すか」も重視する。

「勢いのある枝は将来的に邪魔になるので、思い切って切っていきます。大切なのは、樹の全体的なバランスですね」。

いくら美味しいワインのためとはいえ、なぜこれほどまでに厳しい収量制限を課すのだろうか?収量を下げれば、当然だがワインの生産量も減ってしまう。収量を大幅に減らしてまで美味しいワインを目指し続けられる熱意は、どこから来るのだろうか。

「そもそも私がワイン造りを始めた目的は、『美味しい食事とワインを提供したい』という点にあります。そのため、ただワインを造るのではなく、『美味しいワイン』を目指すことに意味があるのです。ワインの味わいを薄くしたくないので、収量制限はとりわけ厳密におこなっていますね」。

目指すものに迷いがないからこそ、あえて困難な道を選び歩んでゆけるのだろう。

▶︎2022年のぶどう栽培

続いて、直近のぶどう栽培の様子について見ていきたい。

2022年のつくば市は、天候に恵まれた1年だった。なんと、例年の平均年間降水量の3分の1程度しか雨が降らなかったという。雨が少なかったことで、凝縮感のある濃い味わいのぶどうが収穫できた。

ちなみに、芦野さんは自他共に認める「晴れ男」。2022年の7月には連日つくば市で畑作業をしていたのだが、なんと7月のつくば市の降水はゼロだったという。最近では、晴れていると「芦野さんが畑に来ているのかな?」と地元の人に言われることもあるほどだ。

2022年の栽培では、灌漑が必要だった時期もあったほどだ。そのため、成分が凝縮された房は小ぶりで、収量は予定量の半分以下となった。

「雨の少なさに加えてハクビシンによる被害もあったので、全体の収量は予定の3分の1ほどになりました。収量は少ないですが、ぶどうは非常によいものができているので嬉しいですね」。

年ごとの気候をダイレクトに反映するのが、ぶどう栽培の難しさでもあり面白さだ。芦野さんはヴィンテージごとのぶどうの特徴を楽しみながら、ワインを造る。

『スペンサーズ・ヴィンヤーズのワイン造り』

凝縮感にこだわったぶどうから造られる、スペンサーズ・ヴィンヤーズのワイン。いったいどのようなスタイルを目指して造られているのだろうか。

▶︎目指すのは、ぶどうと対話しながら造るワイン

芦野さんが目指すのは、ぶどうにとってベストなワイン造りをすることだ。紋切り型な醸造ではなく、収穫時点のぶどうの個性や出来にあったワイン造りを実践する。成熟具合とヴィンテージの特徴、ぶどうの個性を見極め、ぶどう本来の魅力を最大限引き出すワイン造りをしようと考えているのだ。

「実は、実際にワイン造りを始める前までは、フランスワインのような味やスタイルを目指していました。むしろ、本場フランスに行って醸造したいと思っていたくらいです。しかし自分でぶどうを栽培するようになって、考え方が変わりました。成熟したぶどうにとってベストな造り方をしてあげたいという思いが強くなったのです」。

ぶどうにとってベストな造りを目指すという考えが強く反映されたのが、2022年ヴィンテージのワインだ。

2022年に初収穫を迎えたピノ・グリと、カベルネ・フラン。ピノ・グリは当初、白ワインにする予定だった。しかし収穫したピノ・グリの様子を見た芦野さんは、方針を転換することを決めた。

「つくば市の気候が合っていたのか、ピノ・グリがとてもよく熟し、美しい藤色に色づいていました。ぶどうを見た瞬間に、『白ワインではなく、皮を活かしたオレンジワインにしよう』と思ったのです。収穫を手伝ってくれた元・千疋屋役員の友人が『これほど美味しいぶどうを食べたのは生まれて初めてだ』と言ってくれたほどなんですよ」。

食べて美味しく、見た目も美しいぶどうに育ったピノ・グリなのだから、皮まで余すところなくワインにしたい。「ピノ・グリを皮ごと醸してオレンジワインにする」という考えは、ぶどうと対話しながらワインの醸造方法を考えることで生まれた決断だ。ピノ・グリのオレンジワインは、「グッドボーイ オレンジ」という銘柄になった。

ぶどうの魅力を120%表現する、スペンサーズ・ヴィンヤーズのワイン。ぶどうと対話しながら生み出される芦野さんのワインには、ほかにはない個性が宿る。

▶︎ぶどうの美味しいところだけをワインに 醸造のこだわり

「ワイン醸造は、ぶどうの品質が第一です。現代では醸造設備の性能が向上してきているので、醸造作業自体はそれほど難しいものではありません」。

芦野さんが醸造する上で大切にしているのは、「いかにぶどうの美味しいところだけをワインにするか」という点。ぶどうが本来持つよさを損なわないために、「絞りすぎない醸造」をおこなっている。

2022年の醸造は、茨城県牛久市にある「麦と葡萄 牛久醸造所」で委託醸造した。ぶどうが持っている最高な状態を表現するため、搾汁は極めてソフトに、すべて手絞りで搾汁した。

「2022年は収量が少なかったので対応出来ましたが、醸造量が増えたら手絞りだけでは難しいかもしれません。しかし、非常によい経験になりました」。

栽培と醸造にこだわりを重ねたスペンサーズ・ヴィンヤーズのワインは、保管状況にも細心の注意が払われる。適切にワインを保管するため、問屋を介さずに販売しているのだ。

「問屋さんに卸すと保管方法は各店に任せる形になります。管理方法に関与できない以上、酸化防止剤を多めに入れざるを得ません。しかし、うちのワインは自分のショップか直接取引のある飲食店にしか卸さないので、最適な保管が可能です。そのため酸化防止剤を極限まで減らすことに成功しています」。

芦野さんにぶどう栽培やワイン造りの苦労を尋ねたが、不思議と苦労はないという。こだわり抜いたぶどう栽培とワイン醸造を続け、数年後には圃場近くに建設予定の醸造所で、自社醸造を始める予定だ。

「自分の目が届くだけの量を造り、管理するのが最大のこだわりだといえるでしょうか。ぶどうのポテンシャルを最大限に生かすことだけを最優先に考えています」。

▶︎スペンサーズ・ヴィンヤーズが提案するワインの楽しみ方

スペンサーズ・ヴィンヤーズのワインは、東京都墨田区曳舟の「下町人情キラキラ橘商店街」にあるクラフトワインショップ「Spencer’s Vineyards」で、芦野さんが作る料理と一緒に楽しむことができる。

クラフトワインショップで提供している料理は、多国籍家庭料理だ。料理メニューはすべてひと皿500円。スペンサーズ・ヴィンヤーズのワインは、どの料理にもマッチするように造られている。

「クラフトワインショップでは、うちのワインだけでなく私が好んで飲む輸入ワインも販売しているので、料理と共にさまざま組み合わせで楽しんでいただけますよ」。

ぶどう栽培とワイン醸造、そしてクラフトワインショップの経営。考えただけでも忙しさで目が回りそうだが、お話の中で一度も、「大変」だという言葉は出てこなかった。むしろ、心ゆくまで料理とワインに関わっている今の暮らしを、生き生きと楽しんでいることが伝わってくる。

「自分の店で料理とワインを出すことで、目の前で食べたり飲んだりしてくださるお客様の姿を直接見ることが出来ます。造り手冥利に尽きるの一言ですね。本当に幸せです」。

芦野さんのこだわりを本人の目の前で満喫することこそが、スペンサーズ・ヴィンヤーズのワインの真の楽しみ方なのかもしれない。

▶︎「グッドボーイ」の由来

スペンサーズ・ヴィンヤーズで醸すワインの銘柄名は、「グッドボーイ」。この名称には、ふたつの意味が込められている。

「ひとつは、愛犬の得意技から来ています。私の愛犬スペンサーは『グッドボーイ』というとピシッと『きをつけ』の姿勢をするのです。

もうひとつは、尊敬するフランス・ボルドー地方、サン=テミリオンのシャトー・ヴァランドローの造り手であるジャン・リュック・テュヌヴァンが醸す、『バット・ボーイ』というワインへのオマージュからです」。

フランスの法律から外れた独自ブレンドで、自分が本当に造りたいワインを造るテュヌヴァン氏。自分が飲みたいものを造らないと意味がないという信念に強く共感したという。

▶︎「グッドボーイ」シリーズの紹介

さて、グッドボーイシリーズから4種類のワインを紹介しよう。

まずは2020年ファーストヴィンテージの2銘柄から。ひとつはオーク樽熟成の赤ワイン「グッドボーイ Barrique」。もうひとつはステンレス熟成の赤ワイン「グッドボーイ Red」だ。気になる方はぜひ、クラフトワインショップ「Spencer’s Vineyards」を訪ねてほしい。

残りの2銘柄は、2022年ヴィンテージだ。ピノ・グリのオレンジワイン「グッドボーイ オレンジ」と、カベルネ・フランの「グッドボーイ ピンク」。ピンクは、赤とロゼの中間のような色調が特徴的。ただしいずれも、銘柄名は仮のものだとか。

「自社畑のぶどうから生まれた最初のワインが、『ピンク』と『オレンジ』なんて、普通ではないですよね。でもスタンダードから外れたところが、自分らしいかなと思っています」。

2022年ヴィンテージの2銘柄は、2023年8月頃にリリース予定だ。

『スペンサーズ・ヴィンヤーズ 将来の目標』

スペンサーズ・ヴィンヤーズの栽培と醸造は、まだ始まったばかり。芦野さんのワイナリーには、どんな未来が待っているのだろうか。

芦野さんが考える、スペンサーズ・ヴィンヤーズの「これから」について伺った。

▶︎収量を増やしてより多くの人にワインを

「2022年の収量は少なかったので、2023年はもっと多くの人にワインを飲んでもらえるようにしたいですね」。

具体的な目標として、2023年の収量は2022年の倍量以上を予定しているという。ワインボトルに換算すると1,000本ほどになるだろう。

収量以外の目標としては「白ワイン」の醸造を挙げた芦野さん。プティ・マンサンやアルバリーニョから白ワインを造りたいと話す。

白ワインができれば、グッドボーイシリーズは赤・白・ピンク・オレンジと4色がそろうことになる。ラインナップが次第に充実していくことを楽しみにしたい。

『まとめ』

人のつながりを大切にする芦野さんは、多くの造り手や日本ワイン関係者との親交がある。自身のこだわりを貫き、周囲の人々からの刺激を受けながら、高いレベルの「美味しさ」を徹底的に追求していく。

「美味しいものを造り、提供すること」というブレることのない軸があるため、芦野さんのワイン造りには一切の迷いがない。美味しいものを提供するために限界まで収量制限をして、保管方法にまでこだわるのだ。

「自分が造ったものを飲んだり食べたりしてほしいからワインまで造るなんて、ちょっと変わったビジネスモデルかもしれませんね」と、芦野さんは快活に笑う。

自分が飲みたいと思えるものにこだわってワインを醸すスペンサーズ・ヴィンヤーズ。これからの歩みにも、引き続き注目していきたい。

基本情報

名称スペンサーズ・ヴィンヤーズ
所在地〒300-4231
茨城県つくば市北条417番地
アクセスhttps://goo.gl/maps/aEjcS2mnt5UEx5ge7
HPhttp://spencer-v.com/

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