「ル・レーヴ・ワイナリー〜葡萄酒夢工房〜」(以下「ル・レーヴ・ワイナリー」)は、北海道西部の果樹栽培の盛んな町、余市郡仁木町・旭台にあるワイナリーだ。
代表取締役を務めるのは、本間裕康さん。20代の頃からワイナリー巡りを重ねていたワイン愛好家で、北海道のとあるワイナリーの混醸白ワインとの出会いをきっかけに、ワイン造りの道に入った。
ル・レーヴ・ワイナリーでは、低農薬によるぶどう栽培を2015年から開始。2018年から2年間の委託醸造を経て、自社醸造は2020年からスタートした。アルザスの混醸スタイルを目指し、こだわり抜いたワイン造りをしている。
また、ル・レーヴ・ワイナリーはぶどう畑を眺めながらの食事や宿泊が可能な施設も備えているため、訪れる楽しみも大きいワイナリーだ。
魅力的な道産の混醸ワインで、多くのワインファンからの注目を集めるル・レーヴ・ワイナリー。旭台のワイン・ツーリズムを牽引する存在にもなりつつある。
2021年からの動向について、本間さんにお話を伺った。
『ル・レーヴ・ワイナリーのぶどう栽培』
まずは、2021年から2022年にかけての、ル・レーヴ・ワイナリーのぶどう栽培について見ていこう。
▶︎年ごとに異なる気候
余市・仁木は古くから果樹栽培が盛んだった土地だ。雨量が少なく、昼夜の寒暖差が大きい。また、冬季にはまとまった降雪があることで、ぶどうの樹が越冬しやすい環境が形成されている。
だが近年は北海道でも、気候変動の影響は顕著に感じられるようになってきた。特に、年ごとの気候が安定しない傾向がある。
2021年は猛暑日が多く、7月は干ばつ状態となったほど。そのため、粒が小さいものの、非常に凝縮感のあるぶどうが採れた。糖度が高く、酸は落ち気味だった。一方の2022年は、雨天やくもりの日が多く、全体的に日照量が足りなかった。
「2022年は、花の時期と収穫期に特に雨が多かったですね。本州のようにレインガードが必要なほどではありませんが、湿度が高く後半はべと病も見られました。一方でぶどうの酸が高かったため灰色かび病などの病気は少なく、健全な果実が収穫できた。果実味があり、余市のテロワールをしっかりと表現したワインになるはずだ。
「北海道全体で見ると、2022年は雨による病気がかなり出たようです。気候の影響を受けながらも、余市は一定以上の品質のぶどうが収穫できる、まさにぶどうの栽培適地だと感じます。北海道の果樹栽培なら余市だと言われるのもうなずけますね」。
▶︎栽培方法を確立し、さらなる飛躍へ
2023年に8年目を迎えたル・レーヴ・ワイナリーのぶどう栽培の手法は、年を経るごとに進化してきた。数年前からは、「ヴァレ・ド・ラ・マルヌ方式」の仕立てを採用することで、さらに品質が安定し、高いレベルでのぶどう栽培が実現した。
ヴァレ・ドラ・マルヌ方式とは、フランス・シャンパーニュ地方の一級畑があるヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区で採用されている仕立て方法のうちのひとつだ。樹勢が均等になり、芽数を多く確保できるというメリットがある。
降雪量が多い北海道では、ぶどうの樹の仕立て方によっては、、樹勢が不揃いになることがあるという。その点、樹の根本を太くして枝を常に更新していくヴァレ・ドラ・マルヌ方式は中梢仕立てのため、力と栄養分を集中させやすく樹勢が揃う。
また、樹勢が偏ると芽が出ない部分ができる「芽飛び」が起こって収量が安定しない原因となることがあるが、ヴァレ・ドラ・マルヌ方式では樹勢が揃うため回避できる。
余市の新しい生産者には、この仕立て方法を導入している栽培家がほかにもいるそうだ。ル・レーヴ・ワイナリーでは2019年に、すでに植栽していた樹の仕立て方法を変更した。
「樹が若いうちは、仕立て方を途中でも変更できるのです。2021年ごろになってようやく、新たな仕立てを採用した効果が出始めたと感じましたね。収量も最大量になり、うちの畑で採れるぶどうの全体像やこれからの方向性が見えてきたと感じています」。
本間さんがヴァレ・ド・ラ・マルヌ方式を取り入れた理由のひとつには、北海道ならではの雪の多さもある。
「余市・仁木は雪が多い土地なので、冬季には120㎝くらい雪が積もります。この地で従来取り入れられてきた短梢栽培の場合、雪の重みで樹の根元に負荷がかかって折れたり、樹液流れがの悪くなったりして、樹の寿命が20年ほどまでしか保たないという問題がありました。樹の寿命を伸ばしていくためもに、ヴァレ・ドラ・マルヌ方式が効果的だと考えていますが、本当の結果がみえてくるのはまだ先だと思っています。」
徹底した管理により、ぶどう本来のポテンシャルを最大限に開花させたル・レーヴ・ワイナリーの自社畑。さらなる飛躍が期待できる、新たなフェーズに突入したといえるだろう。
▶︎アルザス系品種を増やし、プレステージクラスの新銘柄を
ル・レーヴ・ワイナリーでは2021年、畑を0.3ha広げた。拡張した畑には新たに、ミュスカ、ゲヴュルツトラミネール、リースリング、オーセロワ、ソーヴィニヨン・ブランの5品種を植栽。
「アルザス系のアロマティックな品種を中心に増やしました。うちのメインとなる白ワインの銘柄である『MUSUBI』に使用し、よりアロマティックな要素を加えたプレステージクラスのワインを新たに造ろうと考えています」。
本間さんが目指しているのは、長い歴史を持つフランス・アルザスでトップクラスのドメーヌである、「マルセル・ダイス」のような混醸スタイル。さまざまなぶどう品種の混醸により、複雑で豊かな、土地ならでは独自のワインを生み出したいと考えている。ナチュラルワインでありながらも綺麗なワインが理想だ。
2021年に植えた5品種の成長状態は非常によく、本間さんの見立てでは、2023年から収穫ができるはず。ル・レーヴ・ワイナリーから新たに、香り高い最上級の混醸ワインが登場するのもそう遠くはなさそうだ。今後を楽しみに待ちたい。
▶︎スズメバチが好む甘いドルンフェンダー
ここでひとつ、ル・レーヴ・ワイナリーのぶどう栽培におけるエピソードを紹介しておこう。ル・レーヴ・ワイナリーの自社畑のすぐ裏は山になっているため、獣害のリスクとは常に隣り合わせだ。
6月には鹿が新芽を、収穫時期にはアライグマが果実を食べにやってくる。美味しいワインになるぶどうは、山に住む生き物たちによってもごちそうなのだろう。
ル・レーヴ・ワイナリーでは、鹿対策としては山側に電気柵を張り、アライグマ対策にはヴェレゾン前に30cmくらいの低い電気柵で畑の全周を囲った。しかし近年は、また異なる獣害に悩まされるようになったのだという。
「ドイツ系品種のドルンフェンダーがスズメバチにやられやすい品種で、その対策が大変ですね」と、本間さん。
スズメバチ対策としては、春先や秋口にペットボトルの中におびき寄せて捕獲する方法があるのだが、この策で完全に防ぎ切れるわけではない。
ハチにつつかれてしまった実は酢酸が出てしまうため、だめになった粒を摘み取る必要がある。ある程度つつかれた程度なら選果して部分的に使えるが、被害が大きいものは房ごと廃棄するしかなくなるのだ。
ドルンフェンダーは非常に甘い香りがする品種特性を持つ。また酸味もない品種ため、ハチが特に好むのだとか。どれだけ香り高いぶどうなのかが、想像できるようだ。
しかし、裏を返せば、ドルンフェンダーがハチをおびき寄せるため、ほかの品種を守ってきくれている状況なのだとか。シカやアライグマ、スズメバチと、さまざまな野生動物に対して対策をしなければ、自然豊かな北海道では健全なぶどうを収穫することは叶わない。
北海道の大自然の中でナチュラルに育つぶどうは、さまざまな動物に狙われつつも、丁寧な栽培管理のおかげで無事に収穫を迎える。農業とは、自然との共存が必要であることを思い知らされるエピソードだ。
『ル・レーヴ・ワイナリーのワイン醸造』
ここからは、ル・レーヴ・ワイナリーの2021年以降のワイン造りについて紹介していこう。ル・レーヴ・ワイナリーの魅力的なワインについて迫りたい。
▶︎ラインナップがさらに充実
ワインのラインナップの充実を、直近での目標として掲げていたル・レーヴ・ワイナリー。2021年は、その目標が実現した年となった。
「泡から濃いめの赤まで、すべて造りたいという夢が実現できました。2021年ヴィンテージでは、スパークリングワインや『MUSUBI』のようなフレッシュな白、樽を使った白を醸造しました。また、薄旨系の赤、ピノ・ノワール単体で造った赤、さらに濃い目の赤の『MIYABI』のほか、ロゼワインも造っています。2023年春には甘口ワインもリリースしますよ」。
甘口ワインのリリースにより、スパークリングから甘口まで、フルコースディナーすべての品に対してペアリングできるだけのラインナップが揃うことになる。
観光客を積極的に受け入れることにも力を入れているル・レーヴ・ワイナリー。充実したラインナップは、ワイナリーを訪れるワイン好きを喜ばせることだろう。
▶︎タグ付きで贈り物にもぴったりな「Your Story」
ル・レーヴ・ワイナリーのワインのラインナップには、自社畑のぶどうを使用した銘柄のほかに、買いぶどうを使った「Story」シリーズがある。
ル・レーヴ・ワイナリーでは、自社ぶどうを使ったワインのエチケットは、和風な切り絵をモチーフに使っている。ワイナリーを代表する銘柄である「MUSUBI」には、「梅結び」という水引きがあしらわれているのが特徴だ。
一方、「Your Story」のワインには、エチケットの代わりに、同じく「梅結び」をかたどった「タグ」がついており、タグの裏面にはメッセージを記入できるスペースがある。
「どんなお祝いごとにも使えるようにと考えて、梅結びのタグをつけてみました。ぜひ、新たなライフステージを迎える際のお祝いや、記念日の贈り物にしていただきたいですね」。
メッセージタグ付きの「Story」シリーズは2020年からスタート。年ごとに使用しているぶどうが異なり、2022年ヴィンテージはケルナー、バッカス、シャルドネの3種類のフィールド・ブレンドだ。
余市のぶどう園から購入した新鮮で高品質なぶどうを使用し、余市らしいフレッシュな柑橘系の仕上がりとなっている。また、プライベートリザーブバージョンもあり、こちらは新樽に入れてニュアンスをつけているのだとか。運よく手に入ったら、大切な人への贈り物にしたいものだ。
▶︎ル・レーヴ・ワイナリーならではの味わい、『MUSUBI』2022年ヴィンテージ
ル・レーヴ・ワイナリーを代表する白ワイン「MUSUBI」の2022年ヴィンテージは、2023年春にリリースする。
「うちの常連さんが『むすび香』と呼んでいる味わいがあります。2022年ヴィンテージの『MUSUBI』は、この味わいがしっかりと感じられる仕上りです。フレッシュな状態でも楽しめますし、熟成させることによって蜂蜜のようなニュアンスが楽しめるのも特徴です」。
ル・レーヴ・ワイナリーでは、混醸でワインを仕込む。年ごとに収量が異なるため、使われる品種の割合は5〜10%程度変動するのだとか。それでも毎年、「むすび香」と呼ばれる独特のニュアンスが作り出される秘密は混醸にある。
毎年ぶどうの状態と比率が違っても、混醸なので近い風味が出る。発酵が終わったワインをアッサンブラージュするのではなく、発酵途中に混ぜ合わせることによって品種同士がなじみ、最終的な味のまとまりが出るのだとか。
「この手法のバランスやタイミングなどを言葉にするのはなかなか難しいですが、混醸することがワインが仕上がったときのバランスのよさに繋がるのは、確かですよ」。
絶妙な技によって生み出されるル・レーヴ・ワイナリーならではの味が楽しめる、『MISUBI』の2022年ヴィンテージ。ぜひチェックしてみてほしい。
▶︎大切な「右腕」の右腕が!
大きな飛躍を見せたここ数年のル・レーヴ・ワイナリーだが、2022年には思わぬアクシデントに見舞われてしまった。本間さんの奥さんが、醸造中に腕を骨折してしまったのだ。
「醸造のピークも超えたところで、疲れがたまっていたのもあると思うのですが、ホースに足を引っ掛けて転び、コンクリートの壁に腕をぶつけたのです。妻は僕の右腕として頑張ってくれているのですが、『僕の右腕』の右腕が、折れてしまいました」。
醸造の重要な担い手である奥さんの怪我という大変な事態だったが、幸いにもすでに完治してお元気になっているとのことだ。
右腕の不在時には、力を貸してくれるたくさんの人に恵まれたル・レーヴ・ワイナリー。2021年から委託醸造を受け入れている、近隣でワイン造りを始めた方や、研修生として受け入れていた地域おこし協力隊のメンバーなどが醸造を手伝ってくれた。
非常事態が発生しても周囲の人たちが助けてくれるといった、人と人とのつながりや、地域全体でワイン産業を盛り上げていこうという雰囲気も、余市・仁木という土地ならではの魅力なのだろう。
『新たな取り組みと、ワイナリーの今後』
最後に、ル・レーヴ・ワイナリーが予定している新たな取り組みについて尋ねてみた。
2023年度のワイン醸造に対する本間さんの意気込みについても、あわせて紹介していこう。
▶︎スパークリングワインに注力
「2023年ヴィンテージでは、スパークリングに力を入れていこうと思っています。北海道のぶどうは酸が美しいので、スパークリングに向いていると思っています。また、以前から、スパークリングワインに本腰を入れようと考えていたので実現させたいです」。
スパークリングの醸造に向け、2023年新春におこなったクラウドファンディングの資金を使って、調達したい専用機器を2023年秋に新たに導入する予定だ。
実は、ル・レーヴ・ワイナリーでは、スパークリングワインへの特別な取り組みが以前からすでに始まっていた。
2021年には、瓶内二次発酵の際の補糖に、従来のグラニュー糖ではなく「和三盆糖」を使って発酵させたスパークリングワインを造ったのだ。
和三盆糖を使ったスパークリングワインは2022年春にリリース。後味に和菓子を食べた時のような上品な甘みが口に広がるとあって、非常に評判がよい1本だ。
「うちのワインのエチケットデザインは和をテーマにしているので、日本の伝統的な砂糖である和三盆をぜひ使いたかったのです。コストはかかりますが、ほかとは違う個性が出るので、やる価値はあると感じています」。
ル・レーヴ・ワイナリーからリリースされる新たなスパークリングワインにも、期待が持てる。
▶︎ワイナリーツアーをスタート
続いては、ぶどう栽培やワイン醸造以外の取り組みについても触れておこう。ル・レーヴ・ワイナリーでは、ワイナリーツアーをおこなっている。
2022年に開始したワイナリーツアーは、カフェの営業期間である5〜9月の半ばくらいまで、1日10名限定。土日のみの開催だ。
「これまでにお越しいただいたお客様には、大変好評でしたよ。実は、余市・仁木のワイナリーは醸造場だけで見学や飲食ができるところがほとんどなのです。現地にお越しいただいたお客様に楽しんでいただける取り組みが必要だと考えていたので、始めてよかったです」。
ル・レーヴ・ワイナリーのワイナリーツアーは、畑と醸造場の見学と、4種類のテイスティングがセットで所要時間は約1時間。余市・仁木の新たな人気観光スポットになることだろう。
▶︎ワイナリーでのガーデンウェディング
ル・レーヴ・ワイナリーでは、ほかにも新しいサービスの開始を予定している。ワイナリーウェディングのサービスを2023年中にスタートさせる予定なのだ。
「依頼しているフレンチレストランのキッチンバスをワイナリーに持ってきて、庭で料理を提供するガーデンウェディングという形でやっていきたいと思っています」。
美しいぶどう畑に囲まれたシチュエーションで美味しいワインと料理を楽しみながら祝うウェディングは、人生最高のワンシーンになることは間違いない。
『まとめ』
ル・レーヴ・ワイナリーの2023年も、非常に忙しい1年になりそうだ。
4月にはセラーの増設も始まる。セラーにはコンドミニアムを2室併設する予定のため、完成すればワイナリーに長期滞在が可能となる。余市・仁木のぶどう畑が広がる中でのんびりと過ごす休暇は、ほかののにものにも変えがたい素晴らしい経験になるだろう。
「セラー自体は醸造に間に合う頃には建てますが、宿泊サービスのスタートは2024年1月頃からスタートになるでしょう。ぜひ楽しみにお待ちいただきたいですね」。
最後に、本間さんの目指す理想のワイナリー像について、あらためて伺った。
「ル・レーヴ・ワイナリーは、僕自身がワイン好きであることから始まったワイナリーです、同じようにワイン好きな方がうちに来て、楽しんでいただけるような施設にしたいですね。ワイン好きにとって、癒しの空間となることを目指しています。新たな縁が結ばれる場所になれば最高です」。
常にアンテナを張り巡らして新しいことに挑戦し、醸造量も増やしていきたいと話してくれた本間さん。最近では、余市で新規就農した人のぶどうを委託醸造も受け入れを開始。ぶどう栽培とワイン造りの仲間を、もっと増やしていくことを使命だと感じているのだとか。
ル・レーヴ・ワイナリーは、日本全国のワイン好きが集う癒しの地として、これからも進化を遂げていくことだろう。今後のさらなる発展に期待があつまる。
基本情報
名称 | ル・レーヴ・ワイナリー |
所在地 | 〒048-2401 北海道余市郡仁木町旭台303 |
アクセス | 車 札幌より高速道路を利用で…1時間10分 電車 仁木駅から徒歩25分 |
HP | https://le-reve-winery.com/ |