異色の組み合わせに驚くかもしれないが、Cfa Backyard Wineryはラムネ製造を営む「マルキョー株式会社」が運営しているワイナリー。
「子供が飲む、あのラムネ?」と侮るなかれ。Cfa Backyard Wineryは、ワイン造りに関する知識や経験に裏打ちされた実力を備えたワイナリーなのだ。
栃木県足利の地でワイン品種の「甲州」を栽培するCfa Backyard Winery。そのワインへの情熱と思い、ワイナリーの歩みについて、じっくりと紹介していきたい。
『ラムネとワイン。Cfa Backyard Wineryの歴史とは』
ラムネ屋を営んでいるという、Cfa Backyard Winery。なぜワイナリーを始めることになったのか?そのきっかけや、ワインとのつながりについて、代表取締役社長兼醸造家の増子 敬公さん、娘の増子 春香さんにお話を聞いた。
▶ユニークな「ラムネ屋さんのワイナリー」
増子 敬公さんの家業は、敬公さんの父が1950年に創業した清涼飲料水の会社「株式会社 マルキョー」だ。マルキョーは、北関東で唯一「ラムネ」製造をしている会社。
「ラムネ」や「かき氷のシロップ」の製造・販売は主に夏の商売であり、秋冬は比較的時間が取れる仕事なのだという。
そこで、秋冬の事業として敬公さんや春香さんが携わっていたのが、ワイナリーのコンサルティング業だった。今までに、13社のワイナリーの立ち上げや、醸造指導を行ってきた敬公さんと春香さん。
そんな中、会社の代が敬公さんに代わる際「会社を続けるためにできること」として、ワイナリー事業を始めることに。これが2012年のことだった。
▶ワイナリーを始めた理由は「会社を残したい」という強い思い
マルキョーが販売している「ラムネ」などの清涼飲料水は、どちらかというと子供の飲み物だ。昨今の少子化問題や、お得意様の高齢化により、事業は少なからず影響を受けてきた。
株式会社マルキョーは、北関東唯一のラムネ屋だが、全国的にもラムネ屋はどんどんその数を減らしている。
「ワイン事業と一緒にラムネ事業を継続して、後世に自分たちのラムネを残していきたい」
会社を残したいという強い思いが、ワイナリー事業の立ち上げに向かわせたのだという。
しかし、なぜ「ワイナリー」なのか。そこには敬公さんと春香さんの人生における、ワインとの深いつながりが関係していた。
▶ワインと歩んできた敬公さんの人生
醸造責任者でもある敬公さんは、実はアルコールをほとんど受け付けないのだという。
そんな敬公さんが子供の頃から思っていたのは「大人があんなに喜ぶアルコールって何だろう?なぜこれが美味しいんだろう?」ということだった。
だが、その印象はある日を境に一変する。そのときのことを、敬公さんはこう話す。
「山梨か長野の旅行で、ワインを持って帰ってきたのです。今までのお酒とは違う。ワインはとても美味しいものだと感じました。将来こんなものが造れたらと、このときに強く思いました」
当時は、今から55年近く昔のこと。ワインの勉強などできない時代だった。だが、敬公さんのワインへの情熱は収まらず、受験したのは東京農業大学の醸造学科だった。入学が決まり、せっかくワイン造りができると喜んだものの、大学で学ぶことといえば、日本酒のことばかりだったという。
だが、敬公さんにはワイン造りの女神が味方する。たまたま同級生に、歴史ある山梨のワイン醸造所「丸藤葡萄酒」代表のご子息がいたのだ。大学時代の敬公さんは、彼のワイナリーに遊びに行き、そこでワイン造りを教わった。現場のやり方や醸造知識、全てをその友人の元で学んだという。
ワイン造りの熱意は続き、ワイナリーのコンサルティングに携わりつつ、ワイン文献の収集も欠かさない敬公さん。ワインの免許を取って始めるときに丸藤葡萄酒さんから言われた「地獄の世界に入ってきたな」という言葉は、今も忘れられないという。
ワイン造りの現実は、肉体労働。優雅なイメージとはかけ離れた過酷な仕事だ。しかし、敬公さんのワインへの夢は終わることはない。
▶娘、春香さんとワインのつながり
敬公さんがアルコールをほとんど飲まないことから、お酒が食卓に出ない家庭で育った春香さん。小さいときには、将来ワインに携わるなどと考えたことはなかったという。
将来の進路について考えはじめる時期、春香さんが目指していたのはファッションやアートの世界だった。そんな中、ファッション・アート関連雑誌を読んでいる中であることに気づく。「ワイナリー」についての記事が、頻繁に出てくるのだ。
「もしかして、ワインならアート・ファッション・建築の全てと関われるのでは?」そう気づいた春香さんは、ワイナリーコンサルタントという道を選ぶことになる。
春香さんが憧れていた、アメリカの映画監督「ソフィア・コッポラ」の姿も影響した。ソフィア・コッポラは、父フランシス・コッポラが所有するカリフォルニアのワイナリーで、プロモーションを担当していたのだ。
もともと興味があったアートの世界への、こんな携わりかたがあることを知ったことも、ワインの道に進むことを決断した大きなきっかけだったという。
▶「Cfa Backyard」の意味は?ワイナリー名に込められた思い
Cfa Backyard Wineryという名前。Cfaとは?Backyardは何を意味するのか?
考えれば考えるほど、ワイナリー名への疑問が浮かんでくることだろう。このワイナリー名には、実に多くの意味が隠されているのだ。その思いについて紹介したい。
まずは、Cfa Backyard Wineryの「Backyard(バックヤード)」の方から解説しよう。「バックヤード」この言葉だけでも、3つの意味が込められている。
まずひとつは、バックヤードそのままの意味である「裏庭」。ラムネ屋の裏庭(バックヤード)でワイン造りを、という意味だ。
もうひとつが、バックヤードという言葉が持つ別の意味である「専門領域を持っている他に」というものだ。専門領域であるラムネの、もうひとつの専門領域であるワインという意味が込められている。
最後に込められた意味。それは「アメリカなど、海外で自分たちの裏庭で高品質なワインを造る人々」へのリスペクトだ。日本に比べて規制が緩い海外では、自宅の裏庭で小規模にワイン生産する人達がいる。
そんなごくごく小規模なワイナリーの中には、世界に評価される素晴らしいワインを造っている所が存在するのだ。
次は、「Cfa(シー・エフ・エー)」の意味を説明しよう。公式サイトによると「Cfa」は日本を表していることが見て取れるが、いったいどういうことなのだろうか?
その答えは「ケッペン」の気候区分にあった。ケッペンの気候区分では、Cfaは日本の気候を意味している。「C」は「温帯」のこと。Cfaとは温帯にあり、雨が多く、夏高温の気候のことだ。
ワイナリー名にCfaを冠したのは、世界に対するメッセージでもある。ぶどう栽培が難しい、Cfa気候で自分たちはワインを造っている。夏の雨と闘う気候でできたワインなんだ、というメッセージだ。
「地域のテロワールより大きな枠組みで、日本を表現していきたい」と春香さんは言う。Cfa Backyard Wineryは冷静に、しかし情熱を持って世界を見据える。
『ワイン品種「甲州」を極める Cfa Backyard Wineryのぶどう栽培』
Cfa Backyard Wineryで育てている品種は「甲州」のみ。ワインの取り扱いには、栃木県の契約農家から購入している「マスカット・べーリーA」があるものの、自社農園としては甲州一本だ。
甲州だけを栽培する理由とは?また、ぶどう栽培のこだわりは?Cfa Backyard Wineryのぶどう作りについて、紹介しよう。
▶甲州一本の栽培
ワイナリーで育てているのは甲州のみだが、甲州に厳選している理由はふたつある。
ひとつは、農地の所有の大変さによる。清涼飲料水の事業を株式会社として営んでいるCfa Backyard Wineryにとって、農地の所有はハードルが高かった。
現在所有している小規模の畑も、5年ほどかかってやっと借りることができた場所だ。
Cfa Backyard Wineryの圃場は、もともとトマトの水耕栽培をやっていたハウス農園だった場所。耕作放棄地だった畑を借り受けたのだ。面積も小さく、限られた土地の中では単一品種に絞る必要があったという。
もうひとつの大きな理由は、甲州が「日本の在来品種」であることだ。「甲州」という漢字名を持つぶどう。
「日本のワインメーカーとして、甲州を作る責任と義務があると考えました」と敬公さんは話す。
また甲州は、在来品種ゆえに「日本ならではの気候」に強いことも関係している。Cfa Backyard Wineryがある栃木県足利市は、日本の中でも猛烈に暑い場所だ。夏は40度まで気温が上昇し、畑仕事中は45度に達することも。
「夏に蒸し暑い」日本独特の気候の中で生き残ってきた甲州だからこそ、ここで作る意味があるのでは。そう考えたのだ。
春香さんも、甲州にポテンシャルと強い魅力を感じている。今までのコンサルティング経験と照らし合わせ、甲州についてこう話す。「ワイナリーのコンサルティングをしているときは、ピノ・ノワールやシャルドネを扱ってきました。こういった品種は、携わっていると「ある程度の道筋」が見えるのですが、甲州に関しては道筋が見えない。
こういったことが、思いのほか難しくて、だからこそ面白いのです。新しい甲州ならではのスタイルがあるのでは?と思っています」
Cfa Backyard Wineryのチャレンジは、足利産の甲州で新しい甲州のスタイルを確立すること。甲州を選んだ理由には、そんな決意もあるのだ。
▶分析を重ね、ぶどう畑を蘇らせる…Cfa Backyard Wineryの畑作り
Cfa Backyard Wineryの圃場は、もともと河岸だった場所。地表から80cmくらいは粘土と砂がぎっしりと詰まり、その下には握りこぶし大の礫層が続いてアンカーが入らないほど。そして礫層の下には、また粘土が続いている。
耕作放棄地だった圃場は、以前の農地はハウス栽培だったため、地表には防草シートなどが敷かれていた。そのため、土壌はほとんど死んでいる状態だったという。有機物は存在せず、水はけがいいのかも悪いのかも分からないような場所だったのだ。
そんな土壌をぶどう栽培に適した地に変えるため、様々な方法を試みている。力を入れているのは、水はけの改善だ。土壌には深さを変えて数カ所にセンサーを入れ、そのデータを見ながら適切に水を管理。畑の水量は、完全にコントロールされている。
「甲州はとても大きい木になるでしょう? 木が大きくなる原因は『水と肥料』つまり、日本は水が多すぎると思うのです。水をコントロールすることで、品質を上げられるのでは、という仮説を持って取り組んでいます」と敬公さんは言う。
有機物がほとんどなかったという土壌。肥料も計画的に施しつつ、ぶどうを育てている。
堆肥を3年間ほどかけて毎年入れ、その後からぶどうの植え付けを開始した。現在でも、年ごとに土壌分析をかけている。不足している成分があれば、できる限り有機
的な物をベースにしつつ、土壌改良を加える。例えば、不足しているリン酸は「コウモリの糞の肥料」を使用しているのだとか。
分析結果によっては、有機的な物では手に入らない成分が不足しているときもある。そういった場合は、化学的な肥料でぶどうに必要なものを加えていく。
土壌改良を考える上で、困っていることもあるという。海外の肥料計算と日本の分析の捉え方が違うため、混乱するというのだ。
「ぶどう栽培は素人なので、専門書のデータや理論は猛烈に読んでいますよ」と謙虚な敬公さん。様々な理論を立ててぶどう栽培を実施するものの、現実は理論とかけ離れているという。しかし「かけ離れていると感じるのは、自分の技量が足りないから。理論の域に到達できていない」と自分に厳しい。
水はけ・土壌改善のかいあって、0.1haの自社圃場での初収穫は上々だった。雨が多い中でも600kgという十分な収量を確保。消毒も1度で済み、農薬も必要なかったという。また、ぶどうの糖度も高い数値を示した。
収穫後に、実験的に少量のぶどうを木に残しておいたところ、2週間程度でさらにぶどうの糖度が上昇することがわかった。次の年の収穫ではこのタイミングを参考にしたいと意気込む。また、水の上げ方で糖度を上げる方法も考案中だ。オーストラリア等の、灌水しているぶどう畑のデータを入手。諸外国のデータを参考にしながら、香りと糖度を出すための水やり方法を考えている。
そんな自社畑のぶどうから造ったワインは、現在熟成中。目覚めの時を待っている状態だ。
▶畑の工夫と苦労
栃木県足利市は、とにかく酷暑の土地だ。ぶどう栽培においても暑さ対策が必須。Cfa Backyard Wineryの畑では、前の農地がハウス栽培だったことから、元からビニールの雨よけがかかっていたのだが、その雨よけを、ぶどう栽培でも活用している。
ビニールの雨よけは、日光が散乱するような素材を使い、直射日光がぶどうに降り注がないように工夫されている。ビニールがあるのは上面だけなので、横の風通しは確保できているが、敬公さんたちはよりよい風通しがほしいと考えている。
ぶどう栽培の理屈上は「いいぶどうは南側斜面かつ、風が畝の間を通り抜ける畑」とされているが、限られた土地だからこそ、そこまでの好条件を確保するのは難しい。
風通しの更なる改善に向けて「将来的には、大きな換気扇などで風対策をしようかなと思っていてね」と話す敬公さん。
欠点があれば、そこを科学的に考察し、ひとつひとつ対策していく。Cfa Backyard Wineryの工夫と挑戦は、終わることがない。
『まずは、甲州のポテンシャルを見極めたい』
Cfa Backyard Wineryは、ぶどう栽培を始めて比較的日が浅い。今は、ワイン品種の甲州のポテンシャルを確認している段階だという。
将来的に育てたい品種が他にあるか聞くと「新しい品種が面白そうだからといって、品質がよい物ができるとは限らない。今は甲州ひとつを突き詰めるのがいいと思っています」という答えだった。
温暖化が進んでいる世界において、日本の現状は「すでに温暖化が進んだヨーロッパそのものではないか」と感じている敬公さん。そういった状況の中で、ヨーロッパ系の新しいぶどう品種を取り入れても変化がないのでは?と考えているのだ。「涼しいところで栽培されてきたぶどうを、日本のような暑いところで栽培したらどうなるのか?」という実験的なお面白さは、ワインとしての完成度とは別だからだ。
そもそも、足利の地はいちごの産地であり土地が高い。他に畑を借りることは、なかなか難しいそうだ。
「いちごは0.1haで1,000万円くらいの売り上げになりますが、ワイン用ぶどうでは25万円しか収穫できない」と敬公さん。つまり、ワイナリーを経営すること自体が、とんでもないハンディキャップを背負う行為なのだ。
「ワイナリーって無謀ですよね。でも、世界のワイナリーで無謀なことをやり続けている。それってある意味すごいことだと思います」と、春香さんは話す。
難しい土地で、難しいワイナリー経営をすること。想像を絶する大変な状況の中、笑顔で話をする敬公さんと春香さん。底知れないワインへの情熱に、頭が下がる気持ちになった。
『伝統に囚われないワイン造り その魅力とは』
Cfa Backyard Wineryのワインは、伝統や「今までこうだったから」に囚われることがない。新しい技術はどんどん吸収し、ワイン造りに生かしていく。そんなCfa Backyard Wineryのワイン造りの魅力を紹介しよう。
▶日常と共にあるワインを目指す
第一に目指すのは、日常に寄り添うワインであることだ。日頃ビールや日本酒を嗜むような感覚で飲んでほしい。そんな願いを込めて、造られている。
もうひとつ大切にしているのは、飲んだ後に印象に残るワインであること。「誰かとCfa Backyard Wineryのワインを飲んだ『その時間』を印象的にするワインがいい」と春香さん。ワイン自体の印象以上に、ワインを飲んだ時間や思い出を印象に残せるワインでありたいと話す。
大切な誰かと、ワインで共有する時間を彩る存在であること。それが、Cfa Backyard Wineryの願いだ。
▶こだわりは、徹底した分析と仮説の検証で満足のいく一本を造ること
Cfa Backyard Wineryでは、ワイン造りにおいて様々な仮説を立てて取り組む。仮説に対して徹底した検証を行い、新しいワインの可能性を探る。
現在ワイン造りで考えている仮説は、甲州の個性表現についてだ。一般的に、甲州の特徴は「色が薄く、苦みがある。良くも悪くも、香りの個性が少ない」ことだと言われている。
そこで考えた仮説。それは「香りが少ないく色が薄い、苦いというのは、『未熟だから』なのではないか?」ということ。この仮説を検証するため、Cfa Backyard Wineryでは糖度20%を超える甲州の果実を作り、未熟さを排除したぶどうでのワイン造りを実行している。
また、もうひとつの仮説もある。「苦みがあり、ボディが薄いこと」は一種の欠点ではないのかということだ。これを甲州の欠点と捉えると、それを補うための醸造方法があるはず。「例えば、苦みの原因はポリフェノールだから、醸造工程で処理することで苦みを取るワインは造れるはずです」と敬公さんは話す。
味の薄さに関しては、スキンコンタクトで厚みを持たせている。スキンコンタクトとは、通常果汁だけで発酵させる白ワイン醸造において、あえて果皮を漬け込んで旨みなどを抽出する方法だ。Cfa Backyard Wineryでは、破砕にかけてからすぐにぶどうを搾ることはせず、17~18時間果皮と果汁を接触させてから搾っている。
スキンコンタクトによってボディを保ちつつ、果皮の苦みが出てしまう部分に関しては醸造でコントロールする。
スキンコンタクトに加え、「ワイン用酵母以外の微生物」を利用した醸造も実践している。これは、海外でもよく利用されている手法だ。ワインに危害を加えないことが分かっている「ワイン用酵母以外の微生物」を添加し、ワインの味や香りに複雑味を与える醸造方法なのである。
Cfa Backyard Wineryでも、仕込み最初の4日間は「ワイン用酵母以外の微生物」を加えている。微生物を添加する4日間においては、微生物の動きを阻害させる亜硫酸は一切加えずに温度だけで醸造をコントロールしている。
▶海外の醸造スタイルを取り入れたワイン造り
Cfa Backyard Wineryは新しいワイナリーだからこそ、従来の甲州の醸造方法にこだわらない。むしろこだわっているのは、前述したとおり「新たな方法の仮説と検証」を繰り返すこと。
もっと適切な方法はないか、もっと美味しくできる方法はないか、あらゆる選択肢を貪欲に試し続ける。
そんなCfa Backyard Wineryが行っているのは、世界の3つのスタイルを甲州で造ることだ。
ひとつ目のスタイルは、マロラクティック発酵(乳酸菌の丸みでワインの酸味を穏やかにする発酵工程)をした、ブルゴーニュの白ワイン的な作り方。
ふたつ目は、果実のトロピカル感を出す、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランのようなスタイル。
3つ目は、フレッシュ&フルーツを前面に出した、昔のドイツワインの醸造スタイルだ。この中で、どの甲州が評価が高いのか検証を重ねている最中だという。
「甲州ワインの、原料や酵母、醸造方法や処理の仕方は、まだ確立していないと感じているのです」と敬公さん。甲州の「よりよい醸造スタイル」は何かということを考え続ける。
「甲州のスタイルを突き詰めるためには、ある程度評価されたワインがあっても、やり方をスパッと変えてしまうかも」という、潔い敬公さんの答え。
そんな敬公さんが今興味を持っている海外の醸造スタイルについて、ひとつ紹介しよう。それは、ワイン発祥の地ジョージア(グルジア)で造られる「オレンジワイン」だ。
ジョージアワインは、「オレンジ色」の色調が大きな特徴だ。白ぶどうをあえて果皮ごと醸すことで、ワインはオレンジ色を帯びる。このオレンジ色の原因は、「ぶどうの果皮から出る色」と、「亜硫酸(ワインの酸化防止剤)を使用しないことによるポリフェノールの酸化」だと敬公さんは話す。「甲州でもオレンジワイン的なことができるのではないか?と思っています。ただし、ポリフェノールの酸化でオレンジ色にしないように工夫して」
Cfa Backyard Wineryでは目標をまっすぐに見据え、ひたすら実現に向けて突き進む。彼らが持っているのは、困難もあえて受けて立つ、ポジティブな強さと明るさだ。敬公さんの思い描くワインがどんどん形になっていくことが、今から楽しみでならない。
▶甲州の表現に苦心
Cfa Backyard Wineryの、ワイン造りの苦労を尋ねた。大きな苦労は、甲州をいかに従来と違った方法で表現するかという問題だそうだ。
まずは、甲州の「苦み渋み」を軽減するための苦労がある。そもそも、敬公さんが甲州の栽培・醸造に携わるのは実に30年ぶりだ。敬公さんが当時触れていた1980年代の甲州は「苦く渋いやっかいなぶどう」という認識だったという。
海外品種のシャルドネは、糖度も十分でこんな苦み渋みはない。甲州の糖度を上げるための栽培をしたり、醸造においては様々なタイプの清澄剤、酵素剤を使用するなど、苦心しつつも考え得る様々な方法を試してきた。
いくつもの試験を重ねて最適なものを加えながら、今やっと苦みが取れるものができ始めているという。敬公さんは「海外のワイン醸造においても、苦み渋みを軽減するための化学的な工夫が日々開発されている。実は自分たちがやっていることも、世界と同じ悩みなんだな、と思いました」と話す。
そして、次なる苦労は「香りがない」と言われる甲州に香りを出すための苦労だ。敬公さんが着目しているのは「酵母」。というのも、ワインの香りは半分以上酵母が醸し出しているのだという。
Cfa Backyard Wineryでは、甲州の香りを引き出すため、酵母選択を重視する。なんと、30種類もの酵母を使っているのだ。「新作のワイン醸造用酵母は、必ず取り入れます」と春香さん。新しく発売される酵母には、世界のブームが如実に表れるのだという。「ワインのトレンド」を見逃さないために、新しく出る酵母の利用・研究は欠かせないのだ。
新しいものに果敢にチャレンジするCfa Backyard Winery。その機動力の高さこそが、ワイナリーの素晴らしい点だが、そのことで苦労する部分もあるのだという。
「批判を受けることもありますよ。酵母を変えたり、清澄剤で調整したりすることに対して『自然を尊重していない』と言われたりね」と敬公さんは話す。
しかし、Cfa Backyard Wineryの信念は曲がらない。「甲州がまだ何者か分かっていない以上、甲州に合うものや方法を自分たちで探し続けたい」という信念だ。
毎年ワインの造りのスタイルが変わるため、昨年あった味が今年は無いこともある。しかしそれが、このワイナリーの大きな魅力でもある。
造り手のチャレンジを、ワインで感じられる楽しさは無限大だ。縛られる伝統がないことがCfa Backyard Wineryの強さでもある。新しいことには躊躇せず変えていける、自由なスピリットが輝く。
▶若い世代こそ、触れてほしいワイン
Cfa Backyard Wineryのワインを、どんな人にどんな場面で楽しんでほしいと考えているか?敬公さんと春香さんに尋ねた。
メイン客層は、今までワインを飲まなかった若い世代だという。なぜ若い人なのか?その理由は、これからアルコールを飲んでいく、若い世代に訴求していくためだ。
最近は若者のお酒離れも叫ばれているが、春香さんは「毎日飲む人が減っているだけで、飲酒量が減っている訳ではない」と分析する。若い人のお酒の楽しみ方は「気心知れた人たちと、楽しく飲む」こと。そういった時間を楽しむ人達に寄り添うお酒でありたいと話す。
また、Cfa Backyard Winery自体が、古いものや考えに囚われず、新しい挑戦を続けるワイナリー。そういった意味でも、若い人たちとの親和性がある。
若い人に知ってもらうため、SNSなども利用しプロモーションの工夫を凝らす。具体的には、こんな試みもしている。畑にあるミモザの木を、2021年3月の国際女性デーでボトルに付けて販売した。まだ地元で小さくアクションをしている段階だが、次々と生まれる新しい試みから、目が離せない。
▶世界基準での勝負。Cfa Backyard Wineryの強み
Cfa Backyard Winery、ここだけの強みは何か。春香さんが強みと感じているのは「海外ワインのインポーターから、ワインの評価をいただけている」ということだ。 海外基準で評価してもらえていることは、ひとつの大きな自信になっているという。
Cfa Backyar Wineryでは、世界のワイン市場を見据えて、自分たちのワインの評価を下している。海外と闘えることを基準にして、価格と品質のバランスが練られているのだ。
将来的には輸出も見据えている。ただし「お声かけはいただいているんだけれど、まだ準備中です」と春香さん。「輸出」を本格的に行うには、製造量とのバランスが重要だと考えているため、安易なスタートは切りたくないという。十分に輸出できるだけの生産量が確保できていないのが現状だ。
コンスタントに出てこそ「輸出」。「海外に1ケース出ました」と言うのは簡単かもしれないが、それでは真の海外展開にはならない。単発で終わらないための、輸出への土台づくりを継続中だ。
▶Cfa Backyard Wineryのチャレンジ
栽培・醸造共に、丹念に分析や仮説を立て、新しいことにも果敢に挑戦していく。そんなCfa Backyard Wineryは「リアリストの集まり」だという春香さん。新しい材料、方法も積極的に取り入れ、毎年毎年が新しいことの連続だ。そんなCfa Backyard Wineryのワイン造りのビジョンについて聞いた。
「具体的にこれというチャレンジではないけれど、自分たちが考える仮説が実際に証明できるかをチャレンジしていくことが、大きな目標です」と敬公さんは話す。現在Cfa Backyard Wineryが考えている大きな仮説は3つある。
ひとつは「cfa気候帯の中でも、栽培・醸造の工夫で甲州の香りに特徴的なものが作れるのか」という仮説。もうひとつは「今までものものとは違う、甲州の新たなスタイルが造れるのではないか」という仮説。そして最後は「そもそも日本という環境の中で、ワイナリー経営がなりたつのか」という仮説だ。
数多く様々な法律などの縛りがある日本でワイナリーをやること自体、チャレンジングなこと。そんな中で、海外と肩を並べられるワインを造れれば。と目標を語ってくれた。
秋にぶどうを仕込んでいるとき、早くも来年の秋のことを考えているという敬公さん。そのぶどうへの愛と、飽くなき探究心は本物だ。
『まとめ』
ラムネ屋の「裏庭」で、専門的にワインに向き合うCfa Backyard Winery。このワイナリーは、新しいことへ躊躇せず飛び込んでいく、ほとばしるチャレンジ精神がとても魅力的だ。
東武伊勢崎線の福居駅から徒歩10分で行ける、アクセスの良さも嬉しいCfa Backyard Winery。しかも2021年3月に、ワイナリー内部が改装されたばかりだ。ぜひ直接足を運び、ワイナリーの挑戦を見届けてほしい。
基本情報
名称 | Cfa Backyard Winery |
所在地 | 〒326-0337 栃木県足利市島田町607−1 |
アクセス | 電車 東武伊勢崎線福居駅より徒歩10分 車 東北自動車道佐野藤岡ICより30分 |
HP | https://winemaker.jp/ |