『十勝ワイン』厳しい寒さを強みに変え、挑戦を続ける自治体直営ワイナリー

今や日本を代表するワイン生産地のひとつである北海道。そんな北海道の中でも、「寒さが厳しすぎてぶどう栽培には適さない」とされる地域が、十勝平野が広がる道東エリアだ。

今回紹介するワイナリーは、北海道十勝市池田町にある「十勝ワイン」。十勝ワインは、北海道にあるワイナリーの中で、最も長い歴史を持つワイナリーだ。

池田町直営のぶどう栽培とワイン醸造、独自品種の開発など、個性的なエッセンスがたっぷりの十勝ワイン。ワイナリーの歴史や魅力、ワイン造りのこだわりなど、さまざまな角度から十勝ワインの魅力に迫りたい。

『十勝ワイン 歴史と歩み』

まずは十勝ワイン誕生のストーリーを紹介しよう。

十勝ワインは、池田町が運営しているワイナリーだ。なぜ町がワインを醸造することを決めたのか。池田町がぶどう栽培やワイン造りをするに至るまでの経緯を見ていきたい。

▶︎財政再建のために始まったぶどう栽培の取り組み

十勝ワイン誕生の歩みは、財政危機にあった池田町の「再建の歴史」と共にスタートした。

池田町の財政難が深刻化したのは、1950年代前半のことだ。第一次十勝沖地震や度重なる冷害による凶作に見舞われ、町の基幹産業である農業が大打撃を受けた。

これにより町財政は急速に悪化の一途をたどった。そして1956年には、地方財政再建特別措置法による「財政再建団体」の指定を受けたのだ。

池田町の窮地を救いたいという強い思いで立ち上がったのが、丸谷金保氏だった。1957年に地元の人たちの支持を背景に、池田町長に就任。財政再建のために血のにじむような努力を重ね、1959年には財政再建団体から脱却した。

しかし、財政再建団体から脱却することが、町のゴールではない。今後も末永く町を発展させていくには、町を支える力を持つ産業の構築が必要だ。

1960年から始まった「新農村建設5カ年計画」。その中で新しい産業を模索している中、注目された農作物があった。それが「ぶどう」だったのだ。

▶︎ぶどう栽培とワイン醸造で活路を見出す

「ぶどう栽培とワイン醸造を町の主要産業に」という計画の発案者も丸谷氏だ。ぶどうに着目した理由について、丸谷氏は次のように話していたという。

「池田町には、秋になるとヤマブドウがたわわに実る。冬の厳しい池田でも、ぶどうなら栽培が出来るはずだ。農業所得アップにつながり、町内の傾斜地も有効活用できるだろう」。

そう、池田町にはヤマブドウが自生していたのだ。ヤマブドウは、古くから池田町の地域や生活に浸透している野草だった。ヤマブドウは耐寒性があり、やせた土地でも育つ。寒さに強いヤマブドウの存在から、丸谷氏はぶどうこそが土地に合う農作物なのではないかと考えたのだった。

では、ぶどう栽培だけではなく、ワイン醸造を主要産業に位置づけた理由とは?生食ではなく「ワインのためのぶどう栽培」を選んだのはなぜなのだろうか。池田町がワイン造りをめざした経緯について、製造課研究開発係長の東億(あずまはかる)さんに教えていただいた。

「当時、丸谷町長を副団長とする農業視察団が、池田町のヤマブドウの標本をロシア(旧ソ連)ハバロフスクの極東農業科学研究所に持ち込みました。すると、十勝に自生するヤマブドウは『アムレンシス』という系統のものだとわかったのです。アムレンシスは、中国やロシアのアムール川沿いに自生する品種です。ロシアでは昔からアムレンシス系統のヤマブドウでワイン造りがおこなわれていた実績があったため、池田町でもワインを造ろうということになりました」。

丸谷町長の考えに賛同した町内の青年たちによって「ブドウ愛好会」が結成され、極寒の池田町でのぶどう栽培という壮大な挑戦が始まったのだ。

しかし道のりは決して平坦ではなかった。ネックになったのはやはり「寒さ」。池田町は真冬の気温がマイナス30度に達することもある、厳しい気候の土地だ。

「本州からポートランド、フレドニア、巨峰など40品種5,000本の苗木を持ち込んで植樹しましたが、一部の早熟系品種を除いて、ほとんどが凍害にあって枯れてしまいました。池田町の寒さは、多くぶどうにとって厳しすぎる寒さだったのです」。そう話すのは、所長の佐野寛さんだ。

だが、町の人たちは池田町でのワイン造りを諦めなかった。1963年には果実酒類試験製造免許を取得。ぶどう栽培の構想から、わずか3年というスピードでの免許取得が実現したのだ。こうして、国内初の自治体経営によるワイン醸造が本格的に始まった。

▶︎手探りのぶどう栽培と「十勝ワイン」の誕生

醸造免許を取得しワインを造れる状況にはなったが、池田町は1964年に再び冷害に襲われた。

どうすれば、夏の短さや冬の寒さに負けることなくぶどうを育てることができるのか。町一丸となって手探りで取り組みを続け、寒さに強いぶどう品種の交配も積極的に進めていった。池田町はワイン事業を推進するため、「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」を設置。ぶどう栽培とワイン醸造に邁進したのだ。

諦めずに挑戦を続けてきた池田町ブドウ・ブドウ酒研究所に、転機が訪れる。ヤマブドウワインが、ハンガリーのブダペストで開催された第4回国際ワインコンクールで銅賞を獲得したのだ。初出品ながらも受賞を果たした快挙をメディアはこぞって報道。池田町ブドウ・ブドウ酒研究所の名前は全国に知れ渡った。

一気に知名度を上げた池田町ブドウ・ブドウ酒研究所のワインは、「十勝ワイン」のブランド名のもと、今日に至るまで発展を続けてきた。

35haに及ぶ町内の直営圃場で自社交配品種を育てながら、ハイレベルなワインを醸造する十勝ワイン。北海道におけるワイン醸造の歴史を紐解くと、実は1876年、北海道開拓使による「開拓使葡萄酒醸造所」が記録に残る北海道で初めてできたワイナリーだった。その後、歴史はいったん途絶えたが、1963年に十勝ワインが北海道でのワイン造りを再開させたのだ。十勝ワインが北海道のぶどう栽培の歴史の礎を築いたといっても過言ではないだろう。

『池田町のぶどう作り 寒さを乗り越えるぶどうと共に』

凍害の恐れもある極寒の池田町で、どのようにぶどうの栽培管理がされているのだろうか。続いては、池田町ならではのぶどう栽培について見ていこう。

▶︎自社圃場の栽培品種 魅惑の「ヤマブドウハイブリッド」

十勝ワインの自社圃場では、海外から輸入した品種も含む、数十種類の醸造用品種を栽培している。中でも、メインとなる品種は以下だ。

赤ワイン用品種

  • 清見(きよみ)
  • 清舞(きよまい)
  • 山幸(やまさち)
  • 未来(みらい)

白ワイン用品種

  • 銀河(ぎんが)

いずれも、あまり耳にしたことがない品種だと思った人もいるかもしれない。それもそのはず、これらの品種は、池田町が独自に改良・開発したものなのだ。清見以外の品種には池田町に自生しているヤマブドウが交配されているため、ヤマブドウの品種特性や風味を受け継いでいるのが特徴だ。

上記のうちで生産量が多いのは、清見、清舞、山幸の3品種だという。

ヤマブドウの交配品種ではない清見は、「セイベル13053」の中でも極早生のものをクローン選抜した独自品種。一方、清舞と山幸は、清見とヤマブドウをかけ合わせて作られたものだ。

山幸は2019年に国際ブドウ・ワイン機構(O.I.V)に登録されたこともあり、十勝ワインが力を入れている品種である。また銀河と未来は、2022年1月に国内で品種登録されたばかり。今後の活躍が期待される。

自社畑のぶどうは、垣根仕立てで栽培されている。防除回数は極力低く抑えられ、ワンシーズンに7回ほど。一般的な防除回数の半分程度だ。冷涼で乾燥した気候のおかげで病害虫の被害が比較的少ないことと、ヤマブドウハイブリッド品種が西洋ぶどうよりも日本の環境に強いことも、防除が少なくて済むひとつの要因になっているようだ。

▶︎池田町の天候

続いては池田町の天候がぶどう栽培に与える影響を見ていきたい。まずは「よい点」から確認していこう。

寒いイメージが強い池田町だが、夏の最高気温が高く、意外にも30℃を超えることも多い。この点は、実はぶどう栽培にとってのメリットになる。ぶどうの成熟期に十分に気温が上がるため、ぶどうの糖度がしっかりと上がるからだ。

また、夏が短く秋以降に気温が急激に下がる点も、ぶどうの品質を上げることにつながる。酸が残った状態で熟していくため、ワインに美しい骨格が付与されるのだ。池田町の夏から秋にかけての気温の変化は、ワイン用ぶどうを栽培するためには非常に好ましい条件だといえる。

池田町の天候の特徴で、ワインにとってプラスになっていることがもうひとつある。ぶどう栽培にとって最大の敵ともいえる「雨」が少ないことだ。特に収穫期である秋口の降水量が少ない点は、病気発生の少なさにつながる。

ここまでは池田町の気候の「よい点」にスポットを当ててきたが、やはり「寒さ」の問題は無視できない。北海道の中でも特に道東エリアは、お世辞にもぶどう栽培に適しているとはいえない土地だ。ぶどうにはある程度の耐寒性があるものの、樹が凍結してしまうほどの寒さには耐えることができない。

12月から3月までの池田町は、平均気温が常に氷点下。特に1〜2月は晴天率が高く、放射冷却現象により最低気温がマイナス20℃以下になる日が続く。また、生育期である春から秋の積算温度の低さもぶどうの生育に影響してしまう。

気温が低いだけでなく、乾燥が強く雪が降らない点も、ぶどうの越冬の難しさに拍車をかける。太平洋側に位置する十勝地方では、西高東低の典型的な冬型の気圧配置のときには、日本海側から太平洋側に向かって湿った風が吹く。日本海側に降雪したのち、北海道の背骨のようにそびえたつ日高山脈を越えるときには乾燥した冷たい風になって、十勝平野に吹き降ろすのだ。これにより、十勝の冬は乾燥が進んで積雪が少なく極寒になる。

積雪が多いエリアでは、ぶどうの樹が雪ですっぽりと覆われることにより越冬させることができる。だが池田町では冬の寒さからぶどうを守る「雪」が少ないため、ぶどうが凍害にあいやすくなるのだ。

▶︎独自品種が生まれた理由

極寒の池田町の冬を乗り越えられるほど強い耐寒性を持つぶどう品種は、決して多くない。

そこで池田町ブドウ・ブドウ酒研究所が考えたのは、耐寒性の強いぶどう品種を独自で研究開発することだった。耐寒性の高いぶどうを生み出すために着目したのが、十勝に自生しているヤマブドウだったのだ。

耐寒性の高いぶどうの選抜や、ヤマブドウとの交配を幾度となく積み重ね、生み出された池田町の独自品種。池田町の不断の努力が実を結び、厳しい冬を乗り越えられる「ヤマブドウのハイブリッド品種」が生まれたのだ。

▶︎寒さからぶどうを守るには 培土で冬を越す「清見」

ヤマブドウさながらの耐寒性を有する「山幸」「清舞」といった「ヤマブドウのハイブリッド品種」には、特別な越冬作業は必要ない。

だが、清見にはヤマブドウの血が入っていないため、ヤマブドウが交配されたほかの品種よりも越冬が難しいという。

そこで十勝ワインが清見におこなっている越冬対策が、「培土」「排土」の作業だ。冬の剪定後に樹を覆うように土を盛るのが「培土」。そして、春の訪れとともに土を除去するのが「排土」だ。

「培土作業をおこなうのは、11~12月ごろです。株全体に土をかけて覆うことで、株が土の中で保温されるのです。外気の乾燥や凍結からぶどうを守る働きがあるのですよ」。

土を取り除く作業である「排土」は、4月下旬からおこなわれる。芽吹きが始まったぶどうは光合成をするため、土を取り除かなくてはならない。排土には時間と手間がかかり、作業タイミングが他の農作業が忙しくなる時期とも重なる。

「越冬に手間がかかりすぎるため、当初はぶどう栽培農家がなかなか増えませんでした。しかし池田町のワイン造りは、農業振興のために始められた取り組みです。農家が増えなければ、施策の意味がありません。そのため、よりぶどう栽培を簡単にしようと、耐寒性を上げたヤマブドウのハイブリッド品種を生み出したという経緯があるのです」。

耐寒性の高い「山幸」「清舞」は、今や北海道全域で栽培されている。北海道の寒さに耐えうる品種として、北海道で活躍するさまざまなワイナリーが栽培するようになったのだ。

では、なぜ十勝ワインではあえて清見を育て続けるのか?それは、池田町が切り開いてきたぶどう栽培の歴史の源流に「清見」があることが大きい。山幸も清舞も、清見から生まれた品種だ。また、美しい酸味とコクが共存する清見のワインは、十勝ワインを象徴する銘柄でもある。

越冬の難しさはあるものの、十勝ワインならではの存在として愛されてきた清見。これからも池田町ブドウ・ブドウ酒研究所は、手間暇かけた越冬作業をおこないながら、守っていくべき品種である清見の栽培を続けるのだ。

『シャープな酸と樽熟成 十勝ワインの醸造』

次のテーマは、十勝ワインの「ワイン造り」について。

北海道で生まれたぶどうならではの特徴を活かした、十勝ワインならではのこだわりや銘柄、味わいを紹介したい。

▶︎十勝ワインの特徴

「十勝ワインといえば」?という質問の答えとなる、ふたつのキーワードが、「シャープな酸」と「樽熟成」だ。

冷涼な地域で育つぶどうには、ワインにキリッとした酸味を付与する「リンゴ酸」の含有量が多い。十勝ワインでは「北国ならではの酸」の特徴を生かして白ワインを醸している。酸味をストレートに表現し、料理の味わいを引き立てるワインに仕上げているのだ。

一方の赤ワインでは、「熟成」が重要視されている。しかし、その熟成も、酸の強さあってこそ。ワインが熟成する上で、豊かな酸は欠かせない要素だからだ。道東の寒さだからこそ生まれる美しい酸を、熟成で生かさない手はない。

ワインを熟成させるために使用する樽は、約500ℓと約225ℓのオーク製。15℃にキープされた地下熟成室で、1年間じっくりとワインを熟成させる。適切な素材と温度で熟成することにより、酸味豊かな赤ワインは、まろやかでコクのあるバランスのとれた味わいへと変化していくのだ。

▶︎冷涼な気候の酸を生かしたスパークリングワイン

十勝ワインが造るのは、スティルワインだけではない。瓶内二次発酵法で造られるスパークリングワインにも力を入れている。実は十勝ワインは、国内で初めてシャンパンと同じ製法でスパークリングワインを製造したワイナリーなのだ。瓶内二次発酵のスパークリングワインを醸造する上でも、しっかりとした「酸味」が重要だという。

フランス・シャンパーニュ地方で造られる「シャンパーニュ」においても、通常より酸の高いぶどうが原料として使用される。シュワッとした口当たりとキリッとした酸が合わさることで、上質な風味を持つスパークリングワインに仕上がるのだ。

「十勝ワインも、シャンパーニュ地方以上に冷涼な気候で酸味豊かなぶどうが育つ土地です。スパークリングワイン醸造を始めた頃のメンバーは、実際にフランスのシャンパーニュへ地方に行って勉強し、試行錯誤を繰り返したようです」と、製造課醸造係長 兼 品質管理係長の山岸賢三さん。

十勝ワインでスパークリングワインのプロジェクトが始まったのは、1970年代後半のこと。1980年に最初の「瓶内二次発酵スパークリングワイン」が醸造された記録が残っているという。その成果として生まれたスパークリングワインが「ブルーム」。1985年に発売開始され、現在まで続く銘柄だ。

「ブルーム」の原料には池田町のぶどうのほか、北海道余市郡仁木町にある自社圃場の西洋ぶどう品種も使用されている。シャルドネやピノ・ノワールなど、シャンパーニュと同じぶどう品種も使われており、ワンランク上の味わいが楽しめる本格派スパークリングワインだ。

▶︎ブランデーやアイスワインまで幅広く製造

十勝ワインでは、ブランデーやアイスワインも製造している。

ブランデーの製造は、1964年にスタートした。ブランデーはワインを使用した蒸留酒。実は、最高級ブランデー「コニャック」が生まれるフランス・コニャック地方のぶどうにも、池田町のぶどうと同じく酸が高いという特徴がある。

ブランデーの芳醇な香りを生み出す「エステル成分」は、低いpHでアルコール成分を蒸留することで生成が促進される。つまり、酸味の強いぶどうから造られたワインを原料とすることで、より芳醇なブランデーになるという訳だ。

蒸留されたブランデーはそのまま「ブランデー」として販売するのはもちろん、リキュール類の原料としても活用されている。白ワインにブランデー原酒を加えたデザートワインなど、ラインナップもさまざまだ。食前酒から食後酒まで、幅広く楽しめるアイテムが展開されている。

ブランデー以外にも、池田町の天候を利用したワインである「アイスワイン」の製造もおこなっている。アイスワインとは、樹上で自然凍結したぶどうで醸造した極甘口ワインのこと。ぶどうが凍結するほどの寒い地域でしか造れないワインだ。

かつて十勝ワインの酸の強さは「欠点」だといわれてきた。しかし、時代は変化した。今では強い酸は誇れる個性であり強みとなり、多くの日本ワインファンに受け入れられているのだ。

「ワイン文化の浸透と共に、十勝ワインの酸味の強さが『特長』だと認められる時代になりつつあります。北国の冷涼な気候に由来する酸味を生かした、池田町ならではのワイン造りを、これからも受け継いでいきます」。

▶︎もっと「山幸」を広めたい

十勝ワインが、今もっとも力を入れているワインが、「山幸」の赤ワインだ。今や北海道土着品種として定着しつつある山幸だが、まだまだ知名度を上げる余地がある。

そんな山幸の魅力を、ここで紹介したい。山幸の最大の品種特徴は野性味だ。山幸はヤマブドウの血筋が強く表れている品種であり、ワインの風味もワイルド。酸も強く、インパクトのある味わいだ。酸が特徴である「十勝ワインらしさ」も同時に感じることが出来るだろう。

山幸を初めて飲んだときのことを、営業課長 兼 東京事務所長の鈴木さんは次のように話す。

「十勝ワインの『清見』は、どちらかというとマイルドな味わいですが、『山幸』は、とにかく個性が強く力強いのです。一口飲んだ瞬間に、『十勝ワインを代表する新しいワインになる』と確信しました」。

そんな「山幸」と合わせたい料理といえば、北海道ならではの「ジビエ料理」だ。機会があればぜひ現地で、エゾシカ料理との組み合わせを試してみてほしい。あまりにもしっくりくる組み合わせに衝撃を受けるはずだ。

だが、ジビエ料理が食べられるシーズンは、現地でも限られている。もし今すぐにでも手軽にペアリングを楽しみたいなら、鈴木さんのおすすめはミート系のパスタ。また、北海道名物・羊肉のジンギスカン料理と合わせて、北海道らしい味わいと山幸のペアリングを楽しむのもよいだろう。

▶︎十勝ワインの楽しみ方

ヨーロッパでは、その土地のワインはその土地の料理とあわせて楽しまれている。十勝ワインの楽しみ方も同様だ。造り手が望むのは、「十勝に来て、十勝ワインを楽しんでもらいたい」というシンプルな願いだ。

「旅先でその土地の食事とお酒を楽しむのは、旅の醍醐味のひとつです。また、ライフスタイルが多様化した現在ですので、お好きなスタイルで十勝ワインを楽しんでいただきたいですね。私たちが気づいていない個性的な楽しみ方があれば、ぜひ教えていただきたいと思っています」。

十勝ワインのワインには、北国のぶどうにしか出せない豊かな酸味と香りが詰まっている。ワインが生まれた場所の空気を感じ、ゆっくりとワインを楽しんでいてはいかがだろうか。そして池田町に赴いたときには、ぜひワイナリーで、熱意あふれる造り手と「ワインの楽しみ方」について語り合ってみてほしい。

『十勝ワインの未来』

最後に、十勝ワインの将来の展望を紹介しよう。

十勝ワインは今後、どんなワインを造り、何にチャレンジしていくのだろうか。ワイナリーが目指す方向性について尋ねてみた。

▶︎基本は変えずに 生活を彩るワイン造りを

十勝ワインはこれからも、北海道ならではの豊かで美しい酸を生かしたワインを醸造していく。また、同時に目指すのは、「生活を彩るワイン」の開発と醸造だ。

「食文化向上のためには、遊び心や生活を楽しむ心持ちも必要だと思います。日本人の生活の一角を彩るワインを造っていきたいですね」。

今や北海道は、日本を代表する一大ワイン産地に成長した。温暖化の影響もあり、道内ではピノ・ノワールやシャルドネといった西洋ぶどう品種でワインを造るワイナリーが増加している。

しかし十勝ワインは、これからも変わらず池田町独自のぶどう品種を守り続ける。個性を大切に、日本の食文化をよりいっそう豊かにするワイン造りを続けていくのだ。

▶︎持続可能な社会実現のために

十勝ワインは、「持続可能な開発目標」をクリアしていくという、ワイン醸造以外の目標も掲げている。

ワイナリーとして具体的に取り組んでいく目標は、SDGs17の目標のうち、「環境」「健康」だ。ぶどう栽培、すなわち農業が「環境」に与える影響を考えること、またワインとの付き合い方を発信して「健康」に関する情報提供をおこなっていく。

大規模な土地を使って単一の植物を育てる「農業」は、環境に対するインパクトが大きいといわれている。農薬や肥料は環境に負荷を与えるためだ。そのため、今後も環境負荷を減らすための農業を実践していくという。

また健康の面では、ワイナリーとして飲酒の問題を啓発する。

「ワイナリーとしては、ワインをたくさん飲んでいただけるのは嬉しいことですが、楽しんで適量を飲むことをおすすめしていけたらと思っています」。

ワイナリーとして、地球環境をよくするためにできることは何か。造り手たちは自分たちに何ができ、何を伝えられるかを本気で考える。環境や健康への真摯な姿勢は、日本の食文化にワインを浸透させる大きな手助けになるはずだ。

『まとめ』

耐寒性に優れた独自品種の開発によって、ほかにはない個性と魅力を放つ十勝ワイン。国際品種として登録された品種である「山幸」の品種交配や、日本初の瓶内二次発酵スパークリングなど、先進的な取り組みで日本ワイン界を牽引する存在だ。

「一見不利な条件からも、唯一無二の価値を創り出す能力が、十勝ワインの強みではないかと自負しています」。

池田町でのぶどう栽培とワイン醸造の提唱者である丸谷氏は、ヨーロッパの農村を思い描いて取り組みを始めたという。ヨーロッパのワイン造りは、地域の農家の生活と共に発展してきた。金銭的な裕福さ以上に、豊かな食文化と生活の質が重視される世界だ。ワインと農業と共に生活を楽しんでいるヨーロッパのぶどう農家のように、十勝の農村を豊かにしたいという思いがあったのだろう。

十勝ワインが軌道に乗るまでには、幾多の苦難が立ちはだかった。しかし、たゆまぬ努力と豊かな発想、類まれなる行動力で事業を続け、世界に認められるぶどう品種を生み出すまでに至ったのだ。

これからも、十勝ワインならではの強みを武器に、個性あるぶどう品種で人々を感動させるワインを造り続けることだろう。

基本情報

名称北海道池田町 十勝ワイン
所在地〒083-0002 
北海道中川郡池田町清見83番地
アクセスhttps://www.tokachi-wine.com/access/
HPhttps://www.tokachi-wine.com/

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