今回紹介する「岩手くずまきワイン」は、岩手県岩手郡葛巻町にある。自社栽培のぶどうと、日本各地で栽培されたぶどう、さらにぶどう以外の果物を使って数多くの銘柄を醸造しているワイナリーだ。
中でも特筆すべきなのは、自社栽培のヤマブドウを使ったワインの数々。ヤマブドウは、岩手くずまきワインの象徴的な品種だ。
なぜワイン造りにヤマブドウを選んだのか?理由は、葛巻町の気候にある。葛巻町の平均気温は8度前後と冷涼で、冬季の積雪も多い。そのため、毎年大雪の降る葛巻町に自生し、はるか昔から地元で慣れ親しまれてきたヤマブドウが採用されたのだ。
岩手くずまきワインがワイン造りを始めた経緯やワイン醸造のこだわりなどについて、製造部の大久保圭祐さんと原料課の松澤健吾さんにさまざまなお話を伺った。
ワイナリーの歴史から始まり、未来への思いにいたるまで、岩手くずまきワインの魅力を深掘りしていこう。
『岩手くずまきワイン 誕生の歴史と歩み』
最初に見ていくのは、岩手くずまきワイン発足のきっかけと歩みについて。
なぜ岩手くずまきワインはヤマブドウでワインを醸造しようと考えたのか。ワイナリーの歴史を追っていこう。
▶︎自生する「ヤマブドウ」の可能性を信じて
岩手くずまきワインがある葛巻町の山々には、昔からヤマブドウが自生していた。
「おじいさんおばあさん世代の人たちは、自生しているヤマブドウを採ってきて食べていたようです。採取したヤマブドウを家でジュースにすることも、当たり前におこなわれてきました」と話してくれたのは、製造部の大久保さんだ。
土着品種のヤマブドウで、町のために何か出来ないだろうか?そう考えたのは当時の葛巻町長だった。
葛巻町は、冬季の最低気温がマイナス20度にもなる極寒の地域。寒いゆえに、一般的なぶどうの生産は難しい。しかしヤマブドウであれば、寒さにも強く土地に合っている。ヤマブドウでワインを造ることができれば、地元に貢献する地場産業にすることができるはずだと葛巻町長は考えたのだ。
「当時は、『ヤマブドウのワインなんて、うまくいくはずがない』そんな反対意見も多かったようです。しかし町長は自分の意思を貫き、岩手くずまきワインの前身となる組織が1983年にスタートしました」。
▶︎ヤマブドウ栽培と事業の拡大
ワインを造るにあたっては、原料であるヤマブドウを確保する必要がある。
「葛巻町に自生するヤマブドウを山から採ってきてワインに使用するという案もありましたが、品質や収量にばらつきが出るため、十分な量を確保するのは難しかったようです。そのため、『ヤマブドウの栽培』が始まりました」。
ヤマブドウを人の手で管理できれば、安定供給が実現するのはもちろん「味」の追求も可能になる。葛巻町の本気が表れている決断だといえるだろう。
栽培を進めるため、山から味や性質のよいヤマブドウを探して苗を増やして地元の生産者に配布。圃場に植え付けて、栽培規模を徐々に拡大させていったのだ。苗木生産を開始したのは、1986年頃のことだった。
地域一丸となった努力が実り、第三セクターとして「葛巻高原食品加工株式会社」が始動。のちの岩手くずまきワインだ。1988年には晴れて醸造免許を取得した。
創業から10年ほど赤字が続いた岩手くずまきワインだったが、ヤマブドウワインに真摯に取り組んだ姿勢が功を奏し、黒字に転じる。
岩手くずまきワインはその後、ヤマブドウだけでなく多くの生食用、ワイン用ぶどうからもワイン醸造を開始。紡いできた歴史を大切にしながら新しい試みも取り入れ、ワイナリーは未来に向かって歩みを進める。
『岩手くずまきワインとぶどう栽培 ヤマブドウとワイン用ぶどう』
続いて見ていくのは、岩手くずまきワインがおこなうぶどう栽培についてだ。
岩手くずまきワインでは、どんなこだわりを持って、どのようにぶどうを栽培しているのか、知られざる「ヤマブドウ栽培」の様子を紐解いていこう。
ヤマブドウを中心に栽培 ぶどう品種の紹介
岩手くずまきワインの自社圃場で栽培するぶどうは、ヤマブドウを中心とした以下の3品種だ。
- ヤマブドウ
- ヒマラヤ
- 小公子
上記3種類のうち、自社圃場栽培面積のほとんどを占めるのはヤマブドウ。
岩手くずまきワインの代表品種である。
さて、ここでヤマブドウの品種表記について解説しておきたい。「ヤマブドウ」という名称は植物のグループの名前であり、ぶどうの品種名ではないことをご存知だろうか。西洋ぶどう(ヴィティス・ヴィニフェラ種)や北米系生食用ぶどう(ヴィティス・ラブルスカ種)などとは異なる分類で、「ヴィティス・コワニティ種」と呼ばれる。
では、ヤマブドウの中には「品種」と呼ばれるものは存在しないのだろうか?
結論からいうと、ヤマブドウにも品種は存在する。ヴィニフェラ種の中にシャルドネという品種が、ラブルスカ種の中にナイヤガラという品種があるように、ヤマブドウには産地によって様々な品種と系統が存在するのだ。
「ヤマブドウには交配種もたくさんありますし、品種登録されているものもあります。品種登録されていないものは、原産地の違いによって『系統』で分かれています。ヤマブドウの系統は現在も増えており、さまざまな種類があります」。
例えば葛巻で栽培されているヤマブドウは「葛巻系統」という名前がついている。葛巻の山から採取・育種したヤマブドウを指す系統名だ。
栽培家の名がついているヤマブドウ系統は比較的多く見られるが、自治体名がヤマブドウの系統名になっているものはそう多くない。葛巻町が町ぐるみでヤマブドウに力を入れている取り組みは、ヤマブドウの品種系統名からも読み取れるのだ。
「系統が違うと、ヤマブドウの特徴も少しずつ異なります。酸が高いものや低いもの、房の付き方が違うもの、収量が多いものなどの特徴がそれぞれあるのです。岩手県は特にヤマブドウに力を入れている県のひとつで、県が主導して選抜・品種登録した『涼実紫(すずみむらさき)』というオリジナル品種もあるのですよ」。
岩手くずまきワインの、ヤマブドウ以外の栽培品種についても紹介しよう。ひとつは、聞き慣れない品種「ヒマラヤ」だ。民間育種家の澤登晴雄さんが、ヒマラヤ山脈に自生するぶどうを持ち込んだ品種である。
ヒマラヤの特徴や栽培の様子について、栽培担当の松澤さんは次のように話す。
「ヒマラヤは葛巻の土地に合っている印象ですね。熟すのが早く、酸味は少なめのぶどうです。そのためか、虫はヤマブドウよりもヒマラヤを好むようです」。
また、「小公子」も澤登晴雄さんが交配したヤマブドウ系の品種だ。
「小公子が葛巻の土地に合っているかどうか、まだ判断できません。害虫被害で十分に収穫できない年もあり、なかなか安定しませんね」。
ヤマブドウの血が入ったぶどう品種であっても、栽培の結果は異なるようだ。岩手くずまきワインでは、引き続き土地にあうぶどうを見極めて栽培を続ける。
「やはりヤマブドウは土地のものということもあり、病気に強く虫にも食われにくいです。夏場の雨が、生育や風味にそれほど影響しない点も強みですね。また、ヤマブドウが獣害がほとんどありません。おそらく酸味が非常に強いからでしょう」。
岩手くずまきワインで栽培するヤマブドウは、はるか古代から葛巻の土地に息づいてきた植物だ。これほどまでに葛巻のテロワールを表現でき、葛巻の地に適合したぶどうはほかにないだろう。
▶︎ヤマブドウの栽培環境
岩手くずまきワインの自社畑は2.6ha。標高の異なる畑が、上段・中段・下段に分かれて広がっている。
上段に位置する畑の土壌は黒ボク土がメインで、中・下段は粘土層だ。圃場全体の風通しは良好で、ぶどうが健全に生育する環境が整う。
葛巻の天候についても見てみよう。年間降水量は1010mm前後であり、全国的に見ても雨は少なめだ。自社畑は標高400mほどの場所にあり、朝晩の寒暖差が大きい。
気温が低いのがぶどう栽培にはネックとなる点だが、寒さに強いヤマブドウは例外だ。雨・風・気温のあらゆる要素において、ヤマブドウの栽培に適した気候だと言える。
さて、ヤマブドウを中心の栽培する岩手くずまきワインの「ヤマブドウの栽培」についても見ていこう。ヤマブドウは、一般的なぶどうの栽培とどのような点で違いがあるのだろうか。
最も大きな違いは、ヤマブドウは雄(オス)と雌(メス)の樹が別々で、自家受粉できない点だ。
「オスの花粉は8m飛ぶといわれているので、メスの垣根の列の中に、オスを2割程度散在させて栽培しています。何年か前までは綿棒で人工受粉もしていましたが、ここ2〜3年は自然に受粉させています。人の手を加えなくとも、風と虫が花粉を運んでくれますね」。
人の手で管理する栽培からより自然な栽培へ。長年育ててきたヤマブドウはより強く成長し、造り手もヤマブドウを信じた栽培方法へとシフトしている。
▶︎栽培のこだわり 貴重な古木を大切に
岩手くずまきワインの栽培管理は、松澤さんを含む2名のスタッフでおこなわれている。収穫時期には町内の人手も借りるが、それ以外はたった2名で広大な自社畑を管理しているのだ。
そんな松澤さんたち栽培担当者のこだわりは「樹への負担を最小限に抑えること」。優しく丁寧に管理する理由は、育てるぶどうの樹齢が高いからだ。岩手くずまきワインのヤマブドウたちは、樹齢32年の「古木」なのである。
「1990年頃に植栽した樹なので、いわゆる『古木』と呼ばれる樹齢に達しています。樹齢の高いぶどうは貴重です。大切に栽培し、生産寿命を最大限延ばせるように管理しています」。
具体的な管理の内容を見ていこう。一番力を入れているのが冬季剪定作業だ。
冬季剪定とはその名のとおり、冬の間に行う剪定のこと。冬の間、ぶどうは休眠期に入っている。休眠期のぶどうの根は活動を止め、水を吸い上げることはない。そのため剪定しても水が出ず切り口が傷みにくいのだ。
「剪定時も、ぶどうに負担をかけないことを第一に考えています。ハサミを入れるときは丁寧に慎重におこないます。冬はぶどうにダメージを与えることが少ない季節です。寒い中の作業は大変ですが、ぶどうにとってはこの時期に剪定をおこなうことが大切なのです」。
剪定がおこなわれるのは、例年1〜4月にかけて。最低気温がマイナス20度にも達する葛巻の1〜2月は、車も動けないほどの大雪で大地が埋まる。そんな大雪の中、岩手くずまきワインの栽培担当者たちは雪をかき分けながら剪定を進めているのだ。
「5月の雪解けと同時に、ぶどうは根から水を吸い上げて生育を開始します。水を吸い始めると、剪定したときに切り口から水が出て細菌感染などの危険性が高まるのです。寒い時期に剪定を終わらせることが作業の肝ですね」。
近年は「寒さ」による被害もあるという。ぶどうによっては、凍害の影響が出始めているのだ。凍害にあっているかどうかは、雪が溶けてからでないと判断できない。年によっては5月の頭まで雪が残っていることもあり、雪解け後の芽吹きを待つ時間がもどかしい。
葛巻のぶどう栽培は、寒さとの共存が必要不可欠だ。冬を乗り越え、寒さに打ち勝ったぶどうが、次の年のワインへと姿を変えて羽ばたく。
『幅広いラインナップ 岩手くずまきワインのワイン醸造』
次に、岩手くずまきワインが醸すワインについて紹介したい。
ヤマブドウだけでなく、幅広い品種のぶどうやほかのフルーツも使ってワインを醸造している岩手くずまきワインの、醸造のこだわりとワインの特徴に迫っていこう。
▶︎目指すのは、飲みやすいワイン
「目指すワインのスタイルは『飲みやすいワイン』です。うちはヤマブドウ以外のぶどうによるワインも醸造しており、そちらは特に飲みやすさを重視しています。ヤマブドウはどう頑張っても個性的になりますから、癖の強さをいかに飲みやすく仕上げるかにこだわっています」と話してくれたのは、製造を担当する大久保さんだ。
岩手くずまきワインが生産するワイン全体を見ると、ヤマブドウが占める割合は3分の1ほど。醸造量が多いのは、生食用ぶどう品種によるワイン。岩手県を含めた東北各地の生産者から購入したナイヤガラ、デラウエア、キャンベルなどだ。
そんな岩手くずまきワインが醸造するワインの特徴は「フレッシュ・アンド・フルーティー」。日々の食卓や晩酌用として、気軽に開けられるワインを目指して醸造されている。
▶︎飲みやすさへのこだわり
それでは、岩手くずまきワインらしいフルーティーさは、どのように生み出されているのだろうか?具体的な醸造手法に注目していこう。
「一番気を使っているのは、ぶどうを絞るときに苦味を出さないことですね。ワインによってはオートで圧搾機にかけるのではなく、機械任せにしない圧搾を実施しています」。
例えば「ほたる・白」という銘柄は、手動での作業が重要になるワインだ。このワインはナイヤガラを使用しているのだが、ナイヤガラは果実の特性上「絞りづらい」ぶどうだという。
皮が厚いため皮と果肉の間の部分の粘度が高く、機械が目詰まりを起こしやすい。目詰まりを起こすところを無理やり機械で圧搾すると、果汁もうまく出て来ないうえにきれいな果汁が絞れない。
そこで圧搾機にかける途中で手作業を挟み、ゼリー状の部分が目詰まりを起こさないようにしている。目詰まりを起こさせないようにするさらなる工夫として、取り除いた果梗を加える作業も追加する。果梗とは、ぶどうの実をつなぐ茎の部分だ。
なぜ果梗を投入するかというと、潰したぶどう液に果梗が混ざることで適度に空間ができ、果汁が絞りやすくなるからだ。果梗は苦味の元にもなるが、上手に圧搾すると苦味の抽出を抑えられる。
造り手がワインの状態を観察し、丁寧な手作業を加えるからこそワインは一段と美味しくなる。岩手くずまきワインの飲みやすさの秘訣は、生産者による心のこもった手仕事にあったのだ。
▶︎岩手くずまきワインの楽しみ方 銘柄とペアリング
岩手くずまきワインには多数のワインラインナップがある。代表銘柄の4種を紹介していきたい。
最初に紹介するのが「ほたる・白」。岩手くずまきワインで一番人気の甘口白ワインだ。デザートワインのような味わいで、食後に単品でも楽しむことができる。
「食事と合わせるなら、岩手名物の『田楽みそ』がおすすめです。町内にある飲食店の田楽みそ料理と合わせたらものすごく合っていて、感動しました」。
そんな「ほたる・白」は、日常的な夕食などと合わせることを想定して醸造されたワインだ。ワイン単体なら、特別な日の夜にゆっくり楽しむのもよいだろう。
続くワインは「山ぶどうワイン」。自然に止まるまでしっかりと発酵させ、果汁や糖分を加えて甘口にした濃厚なワインに仕上がっている。ヤマブドウの個性と飲みやすさが共存したワインだ。
「山ぶどうワインは、何かの料理に合わせるというより、単品で飲むのがおすすめですね。カクテル感覚でヤマブドウらしさを楽しんだり、ワインの個性を堪能したりするのがよいと思います」。
一口飲んだときに押し寄せる満足感の高さから、食後酒としてもおすすめだ。
続くワインも、ヤマブドウを原料とした銘柄。「レアリティ」は、樽熟成した辛口のヤマブドウワインだ。一味違った個性を求めるワインラヴァーに手にとってほしい。文句なしに合うのは、肉料理。ヤマブドウの野趣が存分に感じられるだろう。
最後に紹介するのは、「山ぶどうワインクラシック」。酸化防止剤無添加で、ナチュラルスタイルのヤマブドウワインだ。
大久保さんは、意外な料理をおすすめペアリングとして紹介してくれた。
「うまいと感じたのは、『山ぶどうワインクラシック』と蕎麦の組み合わせです。地元の手打ちそばの店に『山ぶどうワインクラシック』を持っていって合わせてみました。『かけそば』との組み合わせが、意外なほどマッチしていて驚きましたね」。
日本の田楽みそや蕎麦など、郷土料理との組み合わせが楽しい、岩手くずまきワインのワイン。赤ワインに肉、白ワインに魚。そんな常識にとらわれない自由な組み合わせで、心の赴くままに味わいたい。
▶︎ヤマブドウらしさと飲みやすさ
ヤマブドウの個性は、なんといっても「酸の高さ」。高い酸は美点でもあり欠点でもある、諸刃の剣だ。強すぎる酸は甘みや旨味をかき消し、飲みづらさを強くしてしまう。かといって酸のないワインには、一本通った芯がない。
そこで岩手くずまきワインでは、ヤマブドウの強い酸を飲みやすくするための工夫を凝らす。
「酸をまろやかにするための醸造をおこなっています。例えば、炭酸カルシウムで酒石酸を除去する作業があります。もうひとつは、マロラクティック発酵ですね。きつい酸味を生む『リンゴ酸』を、マイルドな酸の『乳酸』に変える醸造手法です」。
酸の強いヤマブドウだが、実は糖度も高いことをご存じだろうか。ヤマブドウの糖度は、20度を超えることも多い。糖度20度といえば、食用として人気が高いシャインマスカットと同程度だ。寒暖差が大きく天候の条件がよかった年は、なんと糖度27度まで達したこともあるという。
「ヤマブドウには高い糖度と、キメの細かいタンニンがあります。この要素を生かして可能性を追求したいです。まだまだヤマブドウに関してできることがあると思っています」と、大久保さんの言葉は力強い。
「ヤマブドウ」は数少ない日本原産の品種だ。甲州よりも古い歴史を持ち、縄文時代からその存在が認められている。青森県にある縄文遺跡の「三内丸山(さんないまるやま)遺跡」からも、ヤマブドウの種が発見されているのだ。
「もしかすると、当時の日本人はすでにヤマブドウでワインを造っていたかもしれませんよね」と、大久保さんは微笑む。
ヤマブドウワインは、日本ワインにとって大きな武器のひとつだろう。岩手くずまきワインは、これからもヤマブドウワインの可能性を追求し続ける。
『ヤマブドウワインの未来とは 岩手くずまきワイン将来の展望』
最後のテーマは、岩手くずまきワインの将来について。未来に向けて岩手くずまきワインが取り組みたいこと、造りたいワインなどの目標を伺った。
▶︎干しぶどうのワインを造りたい
最初に話してくれたのが、将来的に造りたいワインについて。大久保さんの頭には、今までにリリースしたことのないワインの構想があるという。
「造りたいのは、ヤマブドウの『干しぶどうワイン』です。半分干しぶどう状態になったヤマブドウを使って、ワインを仕込んでみたいですね。おそらく、より濃厚でしっかりとしたボディのあるワインになると思いますよ」。
ヤマブドウならではの濃いエキス分がさらに濃縮された、パンチのきいたワインになることは間違いない。ぜひとも実現させてほしいアイデアだ。
「2015年にヤマブドウの糖度が27度まで上がったとき、糖度の高いヤマブドウだけでワインを造り、限定販売しました。8,000円くらいの高いワインになってしまいましたが、あっという間に完売した。濃厚で美味しかったとの声をいただきました。同じようなタイプの、魅力的なワインを造りたいです」。
より美味しく、人を惹き付けるヤマブドウワインを醸造したい。岩手くずまきワインの思いは、いつの日か必ずや実現することだろう。私たちはワインを飲みワイナリーを訪問することで、生産者の挑戦を応援したい。
▶︎強みを生かし、若い人にも訴求
「ワイナリーの方向性としては、引き続きヤマブドウを活用したワイン造りを発信していきたいです。海外文化であるワイン造りにおいて、地元の素材を使えるという点は大きな強みになると思います」。
岩手くずまきワインは、ヤマブドウという強みを生かしてワイナリー運営を続けていく。そのために必要だと感じているのが、若い層の消費者を増やすことだ。現状ヤマブドウワインは、高齢者の購入が多いという。今後もワイナリーを発展させていく上では、若い世代に興味を持ってもらう必要がある。
「ヤマブドウには『昔ながらのもの』というイメージが根強くあります。目を引くエチケットを作ったり、ぶどうの産地情報を詳細に記載するなどして、若い人や日本ワインに興味のあるお客様の新たなシェアを獲得したいです」。
試飲できない環境でワインを選ぶときに、購入の決め手になりやすいのは、「エチケットデザイン」だ。女性をターゲットにした甘口ワインに、女性が好むデザインのエチケットを採用すれば、手に取ってもらえる機会が増えることだろう。
また、エチケット裏の「産地情報」表記も見直し中だという。
「長年契約している県外の生産者に栽培していただいているぶどう原料を多く使用していますが、現状表記は『日本産』のみ。どこのぶどうを使っているかという情報を表記すれば、ワインに興味のある人にとって、より手に取りやすくなるのではと思うのです」。
岩手くずまきワインの魅力をより多くの人に知ってもらうため、造り手たちの努力は続いていく。
『まとめ』
地域原産のヤマブドウで、個性を生かしつつ飲みやすいワインを造る岩手くずまきワイン。地域の買いぶどうから、フレッシュでフルーティーなワインも好評だ。岩手くずまきワインは丁寧な醸造で、日本の食卓に合うワインを醸す。
ヤマブドウのワインの味わいに興味を持ったら、ぜひ岩手くずまきワインまで足を運んでいただきたい。
葛巻町に息づく素材からできたワインが造られた場所に行って味わうことで、より一層感動が深まるはずだ。大地の恵みをいっぱいに溜め込んだヤマブドウの、オンリーワンの個性を感じてほしい。
基本情報
名称 | 岩手くずまきワイン |
所在地 | 〒028-5403 岩手県岩手郡葛巻町江刈 1-95-55 |
アクセス | 【新幹線】いわて沼宮内駅下車 自動車ー国道281号(約45分)ー平庭高原 【JRバス】盛岡駅JRバス特急白樺号(1時間40分)ー平庭高原 【車】 ・東北自動車道: 滝沢ICー国道4号(約35分)ー岩手町(沼宮内)/国道281号(約45分) ー平庭高原 ・八戸自動車道: 九戸ICー国道340号(約30分)ー国道281号(約10分)ー平庭高原 |
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