『collabo vineyard』人とつながり、信頼関係を積み重ねて広がってゆく、地域に愛されるワイナリー

長野県の南信地方にあり、諏訪湖に隣接する岡谷市。工業都市として知られる岡谷市で、唯一ワイン醸造用のぶどうを栽培しているのが、「collabo vineyard(コラボ ビンヤード)」だ。

2013年11月からぶどうを植え始め、2017年7月からワイン販売をスタート。ワイン醸造は県内のワイナリーに委託している。

ワインのおもな販売先は、代表・三澤智行さんの地元でもある岡谷市に住む人々。将来的には農園レストランを開業し、障がい者が自立した生活をするために働ける場所をつくるのが目標だ。

今回は三澤さんに、collabo vineyard発足のきっかけとぶどう栽培のこだわり、ワイン造りへの思いと将来への展望について伺った。

地域の人々と、家族への深い愛にあふれる三澤さんが造る、collabo vineyardのストーリー。その魅力をさっそく探っていこう。

『collabo vineyard設立のきっかけ』

以前は、サラリーマンとして働いていた三澤さん。勤務先の企業が事業所を移転したのをきっかけに退社し、個人事業主として独立した。夫婦で始めた事業は福祉タクシーの会社だ。
三澤さんは現在も、福祉タクシー会社を経営しながら、ぶどう栽培を手がける。なぜ、ぶどう栽培を始めるに至ったのか。collabo vineyard設立までの道のりをたどってみよう。

▶︎障がい者雇用を促進したい

三澤さんには、障がいを持つ娘さんがいる。娘さんの療育を通じて福祉の世界と関わることになり、多くの気付きがあったという。例えば、障害を持つ子供が就学すると、親による通学のサポートが欠かせない。だが、共働きの家庭では毎日の送迎が難しいケースも多い。そこで、需要が見込まれる福祉タクシー事業をスタートさせたのだ。

利用者層は徐々に拡大し、現在では障害児のほか、高齢者の送迎も多く手がける。地元密着型で丁寧なサービスには定評があり、リピートしてくれる利用者も多い。

そして、福祉タクシー事業だけでなく、ぶどう栽培を始めたきっかけも、娘さんがきっかけだった。

娘さんや、同じく障がいを持つ子供たちも、やがて成長すれば、自立した生活を目指さなければならない。自分の子供をはじめとした、同じ地域で暮らす障がいを持つ人たちが安心して働ける場所を作れないかと考えたのだ。

▶︎ワインとの出会いは「信州ワインバレー構想」

三澤さんは、障がい者自立支援のさまざまな可能性を探るため、長野県内外の企業や作業所、施設などを訪問、見学した。また、2013年には商工会議所からの紹介で「信州ワインバレー構想」の説明会に参加し、ワイン醸造やぶどう栽培と出会ったのだ。

「信州ワインバレー構想」には、農業と福祉が連携して街づくりを推進する手段のひとつとして、地域にワイナリーを増やす計画が盛り込まれていた。

三澤さんの琴線に触れたのは、農業と福祉の連携という、まさに自分が考えていた取り組みだ。

「さらに、『世界が恋する長野ワイン』という、信州ワインバレー構想のキャッチコピーにも惹かれました。自分もぜひ参加してみたいと考えたのです」、と当時を振り返る三澤さん。静かで落ち着いた口調が、ほんの少し熱を帯びた。

信州ワインバレー構想に賛同した三澤さんは、長野県主催の「ワイン生産アカデミー」が開講すると聞きつけ、さっそく受講を申し込んだ。

▶︎「ワイン生産アカデミー」でワイン造りを学ぶ

だが、アカデミー第1期の2013年度には、受講が叶わなかった。日本全国から受講希望者が殺到し、定員20人のところ450人もの応募があったためだ。

アカデミーの受講生の選考基準は、長野県内でワイナリー設立を目指す人であったため、すでにぶどう畑を持っている人や、ワイナリーでの就労経験がある人が選ばれた。中にはすでに、ワイナリー設立とその後の事業計画を立案している人もいたそうだ。

だが当時、三澤さんには就農経験はなかった。2期生としてアカデミー受講を目指すなら、今すぐぶどう栽培を始めるしかなかった。

それからの三澤さんの行動は実に迅速だった。近隣の人に休耕地となっている畑を借りる算段をつけ、ぶどう栽培をスタートさせたのだ。最初に植樹したのは、シャルドネとメルローが20本ずつ。2013年11月のことだった。

ワイン生産アカデミー2期生の募集時には、ぶどう栽培をスタートさせている実績と、「将来的に障がい者の雇用に結びつけたい」との思いを強く訴えた。そして、定員になんとかすべり込んだのだ。

▶︎畑の開墾からのスタート

「ワイン生産アカデミー」で学んだ内容は、多岐にわたる。ぶどう栽培と病害虫への対処法、ワイン醸造についてはもちろん、経営に必要な機材・材料の取り扱い方法、食品衛生法や酒税法などについても学んだ。長野県のワイナリーでの実習もあったという。

「受講してみて、『ぶどう栽培は大変な道だ』と感じましたね。勉強が必要な範囲が広く、学んだことを実地で生かす畑も必要でした。そこで、畑を所有する近隣の人たちに『ぶどう栽培がしたい』と話して、いくつもの畑を借りました」。

15人もの人から、自宅周辺に15か所以上、合計約1haの畑を借りることができた。しかしながら、借りた畑は何年、何十年も使用していない土地ばかり。太い木や笹などが生えた畑や、雑木林となった畑もあり、大変な開墾作業からのスタートだった。

『collabo vineyardの自社畑』

10年契約で借りたのは、標高760m~820mの、東向きから南西向きの斜面にある畑だ。日当たりや水はけがよく、ぶどう栽培に適した条件を備える。桑畑だった土地は石が多いが、野菜畑だった土地は柔らかい。また、長期間放置されていた土地は固いなど、畑によって土壌はさまざまだ。

▶︎自社畑の特徴

岡谷市の夏の気候は、関東と比較すると朝夕が涼しい。日中に30度以上になったとしても、朝夕は20~23度程度なので、早朝の農業は清々しいのだそう。三澤さんは早朝に畑に出てぶどうを栽培し、日中は福祉タクシーの仕事を続けている。

一方、冬の岡谷市の気候は過酷だ。最低気温がマイナス10度以下になる日もある。2021年から2022年にかけての冬は、想定以上に気温が低い日が多く、植えたばかりの苗が冷害で枯れてしまった。

「寒さ対策で幹には藁を巻いていましたが、盛り土をして根もとまで藁を巻いて保護するべきでした。最近は暖かい冬が多かったので、油断してしまいました」。

標高760m~820mの畑に植えたシャルドネやピノグリ、ゲヴェルツトラミネールなどが被害に遭った。

雪がすっぽりとぶどうの樹を覆えば、寒冷地でも問題なく越冬できる。だが、雪がそれほど多くない土地では、冷害が発生しやすいのが現実なのだ。

▶︎レインプロテクトで秋雨対策

また、岡谷市は降水量が少ない地域ではないため、秋雨対策としてビニールのレインプロテクトを導入している。collabo vineyardの畑は、すべて垣根栽培だ。房に雨が当たると病害が発生しやすくなるため、房の上部にビニールを設置することで予防する。畑は三澤さんがすべてひとりで管理しているため、少しずつしか作業を進められないのが悩みだ。

collabo vineyardのぶどう栽培でのこだわりは、除草剤を使用しないこと。JA塩尻の防除暦を活用して、農薬の使用量は最小限に抑えている。

基本に忠実に、心を込めておこなわれる栽培管理によって、collabo vineyardのぶどうはすくすくと健全に成長している。

『collabo vineyardのぶどう栽培』

collabo vineyardで栽培するぶどうは、ワイン専用品種が13種類と、生食用品種が4種類。試験栽培の品種も含まれるが、なんとも種類が多いことに驚かされる。

初めに植栽したシャルドネとメルローは、長野県内での栽培実績が豊富であることから選定した品種だ。また、育ててみたいと考えて植えたたくさんの品種の中から、土地に合うものを選定している最中でもある。

赤ワイン用品種

  • メルロー
  • アルモノワール
  • カベルネ・ソーヴィニヨン
  • ヤマ・ソービニオン
  • ピノ・ノワール
  • シラー
  • マスカット・ベーリーA
  • プティ・ヴェルド

白ワイン用品種

  • シャルドネ
  • ソーヴィニヨン・ブラン
  • リースリング
  • ピノ・グリ
  • ゲヴュルツトラミネール

生食用ぶどう

  • ナガノパープル
  • 天晴(あっぱれ)
  • マイハート
  • シャインマスカット

▶︎ヤマ・ソービニオンに期待

「岡谷市で特に栽培しやすいのは、ヤマ・ソービニオンですね」と、三澤さん。ヤマ・ソービニオンは、日本の在来種であるヤマブドウとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配品種だ。ヤマブドウのDNAが入っているため、日本の気候に強いのが特徴で育てやすい。

そのほか、試験的に植えたピノ・ノワールも寒さに枯れることなく育ち、シャルドネも比較的育てやすい品種だと感じている。

▶︎岡谷市でぶどう栽培をする意味

長野県内には、一面にぶどう畑が広がる美しいワイナリーが多い。景観のよいワイナリーがうらやましい気持ちもあるが、三澤さんは生まれ育った岡谷市でぶどうを栽培してワインを造りたい思いが強いという。

かつて製糸業で栄えていた岡谷市は、現在は精密機械工業などの小さな町工場がたくさんある。熱意を持って頑張っている人が多く、人々の結びつきが固いのが土地の魅力だ。

毎年のように新しい畑を開墾している三澤さんの元には、「よかったらうちの畑も使ってほしい」と声をかけてくれる人が後を絶たない。

そんな人情味あふれる岡谷市でぶどうを作ることこそが、三澤さんが決めた、進むべき道なのだ。

『collabo vineyardのワイン』

collabo vineyardで栽培されたぶどうは、長野県伊那市にある「伊那ワイン工房」に委託醸造している。伊那ワイン工房の醸造所で、除梗破砕機にぶどうを入れるまでの工程を、自らの手でおこなう三澤さん。

仕込みの方針は、お客様からの意見も参考にしながら、しっかりと意向を伝えて醸造してもらうそうだ。

▶︎目指すワイン

目指すのは、しっかりした酸味と樽熟成した香りの赤ワイン。果実味が感じられ、濃厚で余韻が長ければなおよい。白ワインは、品種由来のぶどうの香りがしっかりと残り、フルーティーで爽やかな酸味が感じられるチャーミングな仕上がりが理想だ。

三澤さん自身は辛口のワインが好みなので、これまでは辛口のみの醸造だった。しかし、「もう少し甘いワインが飲みたい」というお客様の要望があり、2022年は「ナイアガラ&シャルドネ」のやや甘口を新たにラインアップ。

collabo vineyardでは、シードルやりんごワインも販売している。原料として使用するのは、岡谷市内で栽培されたりんご「ふじ」だ。

シードルやりんごワインを造るワイナリーに見学に行った経験がある三澤さんは、岡谷市で栽培するりんごを使って果実酒を造りたいと伊那ワイン工房に相談、醸造が実現した。

できあがったシードルやりんごワインは、生産者に届けて喜んでもらっているそうだ。ここでも地域との新たな繋がりが生まれ、collabo vineyardが目指す姿にまた一歩近づいていく。

▶︎食事とともに楽しんでほしい

collabo vineyardのワインを、どんなシーンで飲んでもらいたいかという質問をしてみた。三澤さんの回答は、「日常の食事とともに、楽しみながら飲んでもらいたいですね」。

手頃な価格で、食事に合う辛口ワインが多いため、気取らず飲めるのがcollabo vineyardのワインの魅力だ。

三澤さんの好みは、赤ワインならカベルネ・ソーヴィニヨン。白ワインならソーヴィニヨン・ブランやリースリングで、夏は冷やした白ワインをごくごく飲むのが好きなのだそう。

造り手が自身が好きなワインには、collabo vineyardならではのよさと特徴がしっかりとあらわれているはず。ぜひ味わってみてほしい。

▶︎長期熟成ワインを造りたい

三澤さんは今後、どのようなワインを造りたいと考えているのだろうか。

「自分で醸造を手がけるなら、数年から数十年熟成させるようなワインを造ってみたいですね。これから醸造経験を重ねて、ぶどうの出来によって醸造を工夫したり、アッサンブラージュで自分なりの表現をしていきたいです」。

熟成期間の長いワインについては、「ぶどうを収穫した年の思い出を、仲間や家族と語り合いながら飲んでほしい」と、飲んでほしいシーンを提案する。長期熟成させることで味わいが深まるワインならではの楽しみ方で、特別な時間を過ごしてほしいと考えているのだ。

現在は委託醸造だが、将来的には自社の醸造施設を持つことを検討しているそうだ。スキンコンタクトやシュールリー、マロラティック発酵など、試してみたい醸造方法がいろいろあると熱く語ってくれた。

岡谷市でぶどう栽培を手がけるのは、今のところcollabo vineyardのみ。だが、ぶどう栽培を始めたいという人からの相談を何件か受けており、実際にぶどうの苗木を植えた人もいるそうだ。

岡谷市でのぶどう栽培の先駆者として突き進むcollabo vineyardに続く人が現れるのを、三澤さんも楽しみにしている。

▶︎collabo vineyardの未来

collabo vineyardは岡谷市へ構造改革特別区域法の認定を依頼し、認定が認められたら「特定農業者による果実酒製造用」の申請をしたいと考えている。

申請が認可されれば、製造見込数量の多寡にかかわらず果実酒の製造免許を受けることができ、農家が経営する農園レストランでのワインの提供が可能となる。

農園レストランは、自宅や駐車場を改装しての開業を考えている。実現には自治体や地域住民の協力が不可欠であるため、しっかりと計画して進めていく予定だ。

「農園レストランが実現すれば、娘や娘の友人、作業所に通う障がいを持っている近所の人たちの雇用創造にもなるので、ぜひ実現させたいですね」と、障がい者自立支援への道筋も模索する。

『まとめ』

collabo vineyardのいちばんの強みは、地域の人たちとのつながりだ。collabo vineyardのワインの販売先は、ほかのワイナリーとはやや異なる。

「福祉タクシーの利用者さんや病院関係者、社会福祉協議会や施設関係の方たちに購入いただくことが多いです。また、養護学校の方々も喜んでくださいます。もちろん、近所の方もワインができると買いに来てくださるので嬉しいですね」。

福祉関連や地域の人など、多くの人との絆を感じながら、ぶどう栽培を続ける三澤さん。さまざまな人との暖かな人間関係があるからこそ、今の自分があると話してくれた。

「商売も、人間同士のやりとりが基本です。信頼関係を積み重ねることで、collabo vineyardのワインを少しずつ広めていきたいですね。周囲の皆さんのおかげで、大好きな地元でぶどう栽培ができ、本当にありがたいことだと思っています」。

岡谷市に住む人々の顔を思い浮かべながら、今日もぶどうを栽培するcollabo vineyardは、未来への歩みを着実に進めている。

基本情報

名称コラボヴィンヤード
所在地〒394-0047
長野県岡谷市川岸中2-33-31
アクセス電車の場合 岡谷駅よりタクシーで約10分
車の場合 岡谷IC下車、約15分
HPhttps://collabo-vineyard.jimdofree.com/

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