『信濃ワイン』ワイン文化への尊敬と愛が生み出す、桔梗ヶ原ならではの味

長野県塩尻市にある「桔梗ヶ原」は、日本ワイン好きであれば、知らない人はいない銘醸地だ。

そんな桔梗ヶ原のワイン産業を長年にわたって牽引してきたワイナリーのひとつが、今回紹介する「信濃ワイン」。大正時代から続くぶどう栽培の技術と、いち早く本格ワイン醸造に着目した先見の明は、桔梗ヶ原のワイン産業にとって欠かせない存在だ。

また、信濃ワインの魅力は歴史の長さだけではない。信濃ワインの造り手がワイン造りにかける思いの深さもまた、信濃ワインを形作る魅力の一部なのだ。

今回は、信濃ワインの代表取締役、塩原悟文さんにお話を伺った。思わず聞き入らずにはいられない軽快で魅力的な口調で語られたのは、信濃ワインの歴史とぶどう栽培、ワイン醸造について。さらに、独自のワイン哲学や、ワイン文化に真摯に向き合う大切さについても聞くことができた。

信濃ワインの個性とワイン造りへの姿勢を探っていこう。

『受け継がれる信濃ワインの歴史』

信濃ワインの歴史は、1916年(大正5年)に塩原さんの曽祖父・塩原兼一氏がぶどうを植えたことから始まる。

塩原兼一氏は、なぜぶどうを植えることにしたのだろうか?当時の時代背景を振り返りながら、ワイナリーの歩みを共にたどってみよう。

▶︎信濃ワイン創業までの歴史

明治末期、まだ桔梗ヶ原の主要産業が養蚕だった時代のことだ。

「今でこそ桔梗ヶ原はぶどう栽培が盛んですが、大正以前は養蚕が主な産業でした。蚕に与える桑も栽培していましたね。自分が子供の頃にも、まだ家の中にカイコがいたのを覚えています」。

日本製の絹織物は世界的な需要があった。しかしその後、大きな転換期が訪れる。産業革命が起きたのだ。

「産業革命では化学繊維が台頭しました。絹製品はまったく売れなくなり、桔梗ヶ原でも養蚕に代わる仕事を見つける必要がありました」。

米の栽培が盛んな日本だが、水がなければ米は作れない。降水量が少ないエリアである桔梗ヶ原には当時、水資源の少ない原野が広がっていた。そのため、新しい産業として、米よりも乾燥に強い果樹である、ぶどうやりんご、なし、ももの栽培が始まったのだ。

日本では、西洋文化の流入とともに「葡萄酒」が流行。昭和に桔梗ヶ原で栽培されたぶどうは、甘味果実酒の原料として使用された。

その後、桔梗ヶ原に大手ワインメーカーの工場ができたことで、塩尻市桔梗ヶ原のぶどう産業は急速に拡大していった。

▶︎信濃ワインの誕生とワインの醸造

大手メーカーの工場にワイン原料のぶどうを卸していた塩原氏だったが、自社でのワイン醸造も始めていた。試験醸造を開始したのは1930年(昭和5年)のことだ。

「当初から、甘口ワインではなく、『辛口の本格ワインを造りたい』という思いがあったようです。いわゆる『生葡萄酒(きぶどうしゅ)』ですね」。

しかし、時代を先取りしすぎたのか、世間に辛口ワインが根付くことはなかった。

時代は下り、1950年代のこと。信濃ワインの前身である「塩原食品研究所」が法人化し、これを機に本格的なワイン醸造が始まった。

「当時の売上の柱は、ぶどうジュースでしたね。ワインを売るのは難しい時代だったのです。私が入社した頃は、1年間に300本程度しか醸造していませんでした」。

だが、ワイン産業にとって大きな追い風が起きた。1964年に東京オリンピックが開催されることになったのだ。「ワインの本場」からやってくる外国客を迎えるために、本格的な辛口ワインの醸造が開始した。

幸いにも、辛口ワインを醸造するための下地がすでにできていた信濃ワイン。「先祖が残してくれたぶどう畑を残したい」「ヨーロッパの人たちが飲んでいるような本格ワインを造ってみたい」という強い思いを乗せて、信濃ワインのワイン製造事業は一気に加速した。

▶︎四代目代表、塩原悟文さんとワイン造り

信濃ワインでワイン製造が本格化したのは、塩原さんの父・塩原博太氏の代だ。そのため、塩原悟文さんはワインが常に身近にある環境で成長することになる。

「私は農業大学出身ですが、残念ながら、当時の日本ではワイン醸造を本格的に勉強することは叶いませんでした。まだほとんど研究されていない分野だったのです」。

より本格的な知識を得るため、悟文さんはアメリカのミシガン州立大学に留学。夏休みの期間も勉強に明け暮れた。大学から紹介してもらった農家に住み込み、実践経験を積んだのだ。

「西海岸には日本人がたくさんいましたが、自分はあえて東海岸を拠点にしていました。今でもステイ先のファミリーとの交流が続いているのですよ」。

帰国した悟文さんは、故郷に戻り信濃ワインに入社。数々のワイン醸造経験を重ね、現在に至る。

先祖代々の思いを受け継いで、地域のワイン産業を牽引してきた信濃ワイン。これからも桔梗ヶ原のワイナリーを代表する存在として、土地やぶどう、人の個性を映し出すワインを生み出し続ける。

『信濃ワインのぶどう栽培 桔梗ヶ原の個性や人の絆を力に』

続いては、信濃ワインのぶどう栽培に関する内容に入っていこう。

信濃ワインが育てるぶどうや、栽培のこだわりとは。塩原さんが語るぶどう栽培の話から見えてきたのは、歴史を守る大切さと柔軟な思考、人との絆に感謝することの大切さだ。

造り手の温かな人柄が透けて見える、「信濃ワインのぶどう栽培」について掘り下げていきたい。

▶︎栽培ぶどう品種 桔梗ヶ原に長く息づくぶどう達

まずは、信濃ワインで育てているぶどう品種を紹介しよう。現状栽培している赤ワイン用ぶどう品種は次の5種類だ。

  • コンコード
  • メルロー
  • マスカット・ベーリーA
  • ブラック・クイーン
  • カベルネ・ソーヴィニヨン

このうち「コンコード」は、信濃ワインにおける最古のぶどう品種。

「コンコードは、全国的にはそれほど有名な品種ではありません。しかし初代が初めて栽培したぶどうであり、ワイナリーを代表するぶどうの品種なのですよ」。

長く桔梗ヶ原の地に息づいているという事実から、土地の個性を出しやすい品種だということができるだろう。

続いて見ていくのは白ワイン用ぶどう品種。栽培しているのは次の4種類だ。

  • ナイヤガラ
  • シャルドネ
  • 龍眼
  • ソーヴィニヨン・ブラン

ナイヤガラは、なんと明治時代から栽培されている歴史ある品種。現代でも桔梗ヶ原の特産品で、生食用や加工用として愛され続けている。

▶︎変わりゆくぶどう栽培 栽培方式の多様性を活用する

信濃ワインの自社圃場は、総面積およそ3ha。品種個性によって棚栽培と垣根栽培を使い分けながら、畑に応じた栽培方法で自然な味のぶどうを目指す。

「以前の日本におけるぶどう栽培は、棚栽培が主流でした。しかし現在は垣根栽培が急激に増えつつあります。うちでは両方使っていますが、両者には明確な利点と欠点があるのを感じます」。

棚栽培と垣根栽培の欠点と利点について解説しておこう。

棚栽培の利点は、ぶどうが天面に広がることにより、房の日当たりが確保されること。そして地表部分の風通しがよくなることだ。また圃場内が移動しやすいため、作業効率が上がる。欠点としては、樹勢の弱いぶどう品種とは相性が悪いことが挙げられる。

一方、垣根栽培の利点は、樹勢のコントロールがしやすく初期投資がかからないこと。対する欠点は、雨に弱く湿度が溜まりやすいことだ。

信濃ワインはそれぞれの栽培方式の特徴を理解し、両方を使い分けることが大切だと考えている。ぶどうや畑は、それぞれの個性を持つ。個性に合わせて栽培方式を変えれば、よりナチュラルで高品質なぶどうが収穫できるというわけだ。

「どちらかというと、垣根栽培に苦労が多いと感じています。垣根は雨が直接当たってしまいますし、夏の作業が非常に厳しく、防除作業もしづらいですね。特に近年は異常気象が続いていますので、よけいに垣根栽培の難しさを感じます」。

▶︎異常気象の苦労と対策

降雨量が増えると、病害虫が発生しやすくなる。農業機材が入りにくい垣根栽培は、病害虫の対処が難しいのだ。さらにやっかいなことに、近年は防除の薬に抵抗力があるウイルスや害虫も増えつつある。

「最近は、昔ほど強い農薬を使わなくなりました。人間の健康が第一ですからね。その分、耐性を持つ病害虫に薬剤が効きづらいことが増えたのです」。

ここ数年は、見込み収量に届かない年が続いている。見込みの半分程度の収量が当たり前になっているというのだ。

農作物の「出来」に関する、異常気象の影響も見逃せない。天候不順によって糖度が上がらなかったり、色が乗らなかったりといった事態が多発している。

「天候に影響されるのは農作物の宿命です。人間は、お天道様には敵わないものですね。しかし、これは醸造技術でカバーするべきではありません」。

信濃ワインはぶどうや土地の個性を大切にしているため、いくら異常気象にさらされようと醸造技術によってワインの味を変えることはしない。だが、気候変動を真正面から受け止めるだけではなく、安定した収穫のためにさまざまな試みをおこなっている。

「例えば、地面に雨水が染み込まないように地面にシートを敷く取り組みを始めています。畑は広大なので全部に敷くのはなかなか骨が折れますよ」。

ワイン造りは自然との共同作業。天候を受け入れつつ、新たな方法を実践することも必要だ。受け継がれてきたぶどう栽培の歴史をつなぐために、数々の困難を乗り越えながら、桔梗ヶ原でよりよいぶどうを育てる方法を模索する。

▶︎一蓮托生の間柄 契約農家との絆

信濃ワインは、自社圃場だけでなく契約農家の買いぶどうも使用してワインを醸造している。ワイナリーが使用するぶどう全体で見ると、契約農家のぶどうは自社畑の収量のおよそ10倍にのぼる。

「信濃ワインの契約農家は、みなワイナリーの近所に住む人々です。先代のころからのつながりが続いており、今は二代目や三代目の人たちが多いですね」。

信濃ワインが長年にわたってワイナリーを続けて来られたのは、契約農家の存在が大きい。安定したぶどうの供給と地域の人々の支えがあるからこそ、ワインを造り続けることができているのだ。

塩原さんは、契約農家の人々への深い感謝の思いを話してくれた。信濃ワインが契約農家の人々を心から大切に思っていることが伝わってくる。そんな信濃ワインでは毎年、収穫後に契約農家100人近くと一緒に「お祝い」をするのだとか。

「栽培作業が一段落する冬には、みんなで1泊2日の温泉旅行に行くのですよ。『今年もありがとう、来年もお願いします』という労いの思いを込めて、毎年企画していました」。

信濃ワイン恒例の企画だった冬の旅行だが、新型コロナウイルスが流行してからは一時中断されている。一刻も早く情勢が落ち着くことを祈るばかりだ。

契約農家と深い信頼関係で結ばれている信濃ワイン。絆を大切にする造り手の姿勢は、ワインの味にもあらわれる。栽培や醸造の技術だけでなく、「造り手の魅力」もワインに宿るのだろう。

『ぶどうと土地の個性を生かして 信濃ワインの「ワイン」』

さて、次のテーマは信濃ワインが醸造するワインについて。

信濃ワインではどんなワインを目指してワインを醸すのか。塩原さんが胸に抱くワインへの思いは深く、ワイン文化へのリスペクトとぶどうへの愛情に満ちている。

信濃ワインが醸すワインについて、さまざまな角度から見ていこう。

▶︎目指すのはぶどうそのままのワイン

信濃ワインが目指すワインの姿は、「ぶどうがもともと持っている性質や個性、地域の特色、畑の特徴を生かせるワイン」だ。

「畑ひとつをとっても、日の当たりかたや風の吹き方といった微妙な要素がそれぞれ異なります。また、ぶどう品種によっても味や香りなどがまったく違います。そういった『個性豊かな大地の恵み』を大切にしていきたいのです」。

個性豊かな大地の恵みが感じられるワインにするには、どのような醸造をすればよいのだろうか?塩原さんは、「小細工してはいけない」と言う。

造り手が何かを変えようとするのではなく、ぶどう本来の味を素直に表現することが大切だというのだ。そのため、信濃ワインの醸造手法は実にシンプルだ。

徹底するのは、「極力手を加えない」こと。余計な工程は挟まず、ぶどうに負担を与えない方法で醸造がおこなわれている。すべては、土地とぶどうの個性をワインの中に満たすためだ。

ここでひとつのエピソードを紹介したい。塩原さんの心に残っている、訪問客からの一言だ。

「東京から初めてうちのワイナリーにいらっしゃったお客様が、私のワインを飲んで一言こう言われたのです。『このワインには、ほかのどこにもない優しさがありますね』と。自分のワインへの思いが伝わったようで、嬉しかった出来事です」。

信濃ワインの本質は、ワインにしっかりと溶け込んでいる。心をまっさらにしてワインを味わえば、塩原さんらの信念が手にとるように伝わってくるはず。信濃ワインのワインは、ぶどうの本質を映し出す鏡のような存在だ。

▶︎ワインとは、よくわからない存在? 塩原さんが思うワインの姿

続いては、塩原さんが抱くワインへの思いについて紹介したい。幼少期からずっとぶどう畑と共に生きてきた塩原さん。さぞワインのことを知り尽くしているのだろう、と思うかもしれない。

しかし塩原さんは次のように強調する。「ワインは、よくわからないものなんですよ」。

「ワインに馴染みのない方は、『ワインはよくわからない』と言いますよね。それは無理もないことです。だってワインは得体の知れない存在なのですから。ずっとワインが側にあった私だって、そう思うのです」。

ワインは「得体の知れない存在」なのだろうか?この言葉が意図するものに迫っていこう。塩原さんは、3つの要因がワインをわかりづらい存在にしていると言う。

「日本人との歴史が短いこと」「料理とのペアリングにワインの本質があること」「ぶどう、テロワール、造り手の組み合わせが無限にあること」の3つだ。

塩原さんは「よくわからない存在」であることをネガティブにとらえているわけではない。理解しきれない存在だからこそ、人生をかけて追求しがいのあるテーマなのだという。

「日本人がワインを飲み始めたのは、本当に最近のことです。また現在でも、ほかのお酒に比べて浸透しているとは言い難い状況なのです。ワインについて、よくわからなくても当然だとは思いませんか」。

日本人に馴染みのない酒だという点以上に難しさに拍車をかけているのが、ワインの圧倒的な自由度の高さだ。選択肢が多すぎるからこそ、どう飲めばよいのかがわからないと感じてしまう。

塩原さんは、ワインの本質を「料理を引き立てること」だと説明する。料理の数だけ、ワインの楽しみ方が存在するということになる。つまり、楽しみ方の選択肢が無限大なのだ。

しかもワインの自由度は「楽しみ方」に留まらない、そもそも、ワイン自体が自由度の高いお酒だ。ぶどう品種とテロワール、造り手の掛け算で生まれるワインは、ひとつとして同じものが存在しない。年によっても味や香り、色が異なり、同じ銘柄だとは思えない出来になることもある。

ワインの世界には正解がない。だからこそ「よくわからなくてもよいから、自由に楽しむ」姿勢が重要なのかもしれない。長年ワイン造りに携わってきた塩原さんですら、ワインは難しいものだと言うのだから。塩原さんの口から紡がれるワインに対する言葉には、包み込むような優しさがある。

「ワインは得体の知れないところがあるからこそ、ワインの真髄を追い求める造り手と飲み手がいるのだと思います。謎だらけだから、紀元前6000年から現在に至るまで生き残ってきたお酒なのです。無理にすべてをわかろうとしなくてもよいと思いますよ」。

新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた頃、自分がワインを造り続ける意味を考え、ひとつの真理にたどり着いた塩原さん。

「ワインの長い歴史を振り返ると、疫病が流行していた時代もあったでしょう。今のような状況だって、ワイン産業は何度も乗り越えてきたはずです。造り手である自分がワイン造りを諦めてはいけないと思ったのです」。

ただのお酒という概念を越えた「ワイン」という存在に魅入られた塩原さん。造り手の情熱はワインの魅力をいっそう深いものにし、飲み手を惹きつけてやまない味わいを生み出す。

▶︎ワイナリーの個性 たくさんの銘柄でお気に入りの1本を

信濃ワインには、驚くほど多くの銘柄がある。

「お客様それぞれに好みがあるのは当然のことです。ひとつでも気に入ってもらえるものがあればと思ってワイン造りをしていたら、選択肢がどんどん増えていきました」。

ワインは嗜好品で、造り手が好みを押し付けるものではないという塩原さんの信念が、多くの銘柄を生み出したのだ。

ここで信濃ワインの銘柄をいくつか紹介しよう。例えば、「無添加にごり」。酸化防止剤無添加かつ無濾過で、ぶどうのコクや旨味が詰め込まれた1本だ。

「信濃スパークリング ナイアガラ」は、瓶内二次発酵のスパークリングワイン。こちらも無濾過で仕上げてあり、酵母やぶどう本来の味が生きた味わいが特徴。

そして塩原さんのおすすめは、「信濃樽熟メルロー」。本当に高品質な果実が収穫できた年にしか造られない、こだわりの赤ワインだ。

「太陽と大地の恵みを十分に受けた、糖度の高い果実のみを使ったワインです。標高が高く寒暖差のある桔梗ヶ原だからこそ採れる、高品質なメルローの力が感じられるワインになっています」。

味については、「癒される味」と評する塩原さん。穏やかな中にもまろやかな渋みがあり、華やかな果実の香りが感じられる。繊細で複雑な味覚を感じることができる日本人好みの味わいだ。

紹介した銘柄は、信濃ワインの銘柄のほんの一部分を切り取っただけにすぎない。「たくさんありすぎて、選べない」という、訪問客からの嬉しい悲鳴が聞こえることもしばしばなのだとか。

実際にワイナリーに行き、バラエティーに富んだ銘柄展開を自分の目で確かめてみてほしい。辛口から甘口、クリアな質感からにごりワイン、ブランデーまで揃えたラインナップは圧巻の一言だ。必ずや、好みに合う運命の1本が見つかることだろう。

『これからの信濃ワイン 死ぬまでワイン造りを追求したい』

最後のテーマに移りたい。ここでは、信濃ワインの未来について見ていこう。

信濃ワインはこれからどんなワイン造りをしていくのか。どのような思いを持って、ワイナリーを運営していくのか。塩原さんの思いを紹介したい。

▶︎ブランデーの可能性に着目

「信濃ワインでは、1993年からブランデーを製造しています。ブランデーは、本場フランスで『Eau de vie(オー・ド・ヴィ、命の水)』と呼ばれます。ワインと同様に、これからもっと高く評価されるお酒ではないでしょうか」。

ブランデーは、ワインを蒸留して長期間樽熟成させることでできあがる蒸留酒だ。同じぶどうという原料でから生まれるワインとブランデーを造ることは、塩原さんにとって必然なのだろう。

信濃ワインのブランデーは国際コンクールでブロンズの受賞歴もあり、数ある商品の中でも目が離せないもののひとつ。信濃ワインを訪れた際には、ワインのみならず、ぜひブランデーの世界にも足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

▶︎一生を賭けてワイン造りを追求したい

「ワイン造りは、死ぬまで続けても極めることはできないでしょう。生きている限り、ずっと追求していきたいですね。ぶどうやワインの品質を高めることや、求めるワイン像をより明確に表現することを突き詰めたいです。実直にワイン造りを続ければ、今よりさらに世界に通用するワイン造りができると考えています」。

今、世界的に「和食ブーム」が巻き起こっている。日本人の繊細な味覚や色彩感覚、四季を表現した感性や盛り付けの美しさが評価されているのだ。和食が世界的な料理になったことが影響し、日本ワインの質の高さも注目されるようになってきた。

「世界のワイン造りでは『日本のワイン造りを見習おう』という機運が高まってきました。著名な世界のジャーナリストたちが、日本ワインを評価しています。日本人ならではのワイン造りは、世界に通用しつつあるのです」。

日本人ならではの感覚を誇りに、歩みを続ける塩原さん。

「神話の世界から生き続けるぶどうの歴史と伝統は尊重すべきものです。5年後も10年後も、ぶどうそのものの味わいを生かした、優しいワインを造り続けていたいですね」。

『まとめ』

桔梗ヶ原の地で、土地とぶどうの個性を映し出すワインを造り続ける信濃ワイン。長い歴史に裏打ちされた醸造技術と、造り手が抱くワインへの深いリスペクトが、ワイナリーの個性であり強みだ。

信濃ワインが醸すのは、飲む人を優しく包み込むようなワイン。口に含むと、心が洗われるような感覚を覚えることだろう。たくさんの銘柄の中から、自分だけの1本を選ぶ時間も楽しみたい。

ぜひワイナリーを直接訪れて、ワインへの愛情あふれる造り手と対話し、お気に入りの銘柄を見つけてみてほしい。

基本情報

名称信濃ワイン株式会社
所在地〒399-6462
長野県塩尻市大字洗馬783番地
アクセスJR中央線塩尻駅下車 車で約7分
高速道中央道長野道塩尻ICより 車で約15分
松本空港から 車で約13分
HPhttps://sinanowine.co.jp/

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