『Domaine Mont(ドメーヌ モン)』北海道余市で「日本らしさ」をコンセプトにワイン造り

北海道余市郡余市町登町にある「Domaine Mont(ドメーヌ モン)」は、茨城県出身の山中敦生さんが2016年春にスタートさせたワイナリー。

当初はスノーボードのインストラクターとして北海道に来た山中さん。北海道の雪に魅せられ永住を決めたのが、北海道でワイナリー設立したそもそものきっかけだ。
繊細さの中に複雑な香りを出したいと、「日本らしいワイン」造りを目指す新進気鋭のワイナリーだ。

『2年間の研修の後、北海道余市にワイナリーをオープン』

茨城県出身の山中さんは、スノーボードのインストラクター資格取得をきっかけに、住み込みで北海道で働きはじめた。
北海道の雪があまりにも気に入って、ほかの場所では滑れないと永住を考えたのだ。北海道でワインと出会ったのが、ワイナリー設立のきっかけだった。

ホテルで働きながら、ソムリエの資格を取得

北海道の多くの農家は、冬の期間は閑散期になる。そのため、冬場はスキーのインストラクターをする人も多い。
山中さんが出会ったインストラクターの8〜9割は、農家との兼業だった。周りにそんな人が多かったため、山中さんは必然的に農業に興味を持ったという。

「冬にインストラクター業をするかたわらで、春から秋にかけては農家を手伝いに行ったり、派遣に登録をして働いていました。あるときリゾートホテルでワインを扱うレストランに配属されたことがきっかけでワインについて勉強しはじめ、ソムリエの資格を取ったんです」。

山中さんはソムリエの資格を取るためにワインを多く飲むようになり、どんどんワインが好きになっていった。

北海道でワイン用ぶどうの栽培を目指す

もともと農業に興味を持っていたこともあり、ワイン用のぶどう作りに関心を向いた。はじめは、ぶどうを自社農園で育てて、醸造は委託することを考えていたという。

「そんなとき、『ドメーヌ タカヒコ』に行ってみてはどうかと、ある人からすすめられたんです」。

山中さんは余市町登町にある「ドメーヌ タカヒコ」の曽我貴彦さんに自ら電話し、見学を依頼。ワイン用ぶどうの栽培で新規就農をしたいと伝えて訪問した。

当時、曽我さんが丁度スタッフを探していたこともあり、山中さんはドメーヌ タカヒコで研修生として働くことに。曽我さんの元で2年間研修し、醸造まで教わった。

「ドメーヌ タカヒコ」で研修生として醸造まで学ぶ

「研修期間はとてもハードでしたが、多くのことを学べました。研修後、独立してワイナリーを始めたんです。『雇用就農者育成・独立支援タイプ』という新規就農支援制度を利用していたので、独立する必要がありました」。

新規就農制度で研修生として2年間の研修に従事する場合、国から2年間に渡って支援金が支給される。
その代わり、研修終了後には独立しなければならない制度だ。

独立後も、困ったときには曽我さんに相談するなど、師弟関係は良好だ。また、月1度は曽我さんと元研修生たちが集まり、ブラインドテイスティングや勉強会を行うなどの交流も活発だという。

『明治から続く果樹の産地で、ワイナリーを開業』

ドメーヌ モンがあるのは余市町。この地でぶどう栽培とワイン醸造をしていくことにしたきっかけはなんだったのか。余市の地を選んだ経緯について伺った。

りんごなど果樹の産地である北海道余市に拠点を構える

はじめは、岩見沢も畑の候補のひとつだったという。しかし、岩見沢は平野で米農家が多居場所。果樹栽培を生業にしている農家が少なかった。
そして、ベテランの農家でさえぶどう作りに苦労していた土地。そのため、新規就農する自分には難しいのではと感じたという。

余市にワイナリーのオープンを決めた理由は、明治から続く果樹の産地であることが大きい。先人が培った歴史がある場所でワイン用ぶどう作りをすることに、安心感があったという。

余市町は北海道の日本海側、積丹半島の付け根に位置する。漁業と果樹などの農業が盛んで、降水量は比較的少なく、昼夜の寒暖差は大きい土地だ。
北海道内では比較的温暖な気候で、果樹栽培に適しているとされる。

冬の期間の積雪量は安定しており、ぶどうの木を雪の中に埋めて越冬させるのが一般的な栽培方法だ。ぶどうの木は越冬できるように斜めに植えられ、雪が降ると自然に倒れるように仕立てる。

余市には品質のよいぶどうができる条件がそろう

余市には、よいぶどうができる条件がそろっていると話してくれた山中さん。

ぶどうは、寒暖差が大きいとよく育つといわれる。
しかし、日中の気温が30度以上になると光合成をしてもぶどうがエネルギーを使ってしまい、光合成の効率が悪くなる性質を持つ。夜は20度以下の方が昼間光合成で蓄えた糖分を消費しないという。

「北海道は日中の気温が30度を超えることは少なく、夜には20度以下になります。つまり、光合成効率がよいというわけです。結果として適度な酸が残りやすく、糖度も上がる。よいぶどうができる条件がそろっているのが強みですね」。

さらに余市は海に面しているため、霜の害も少ない。内陸では10月になると気温が下がり霜が降りるが、余市は霜が降りにくい土地だ。
夏に温まった海水が冷めにくく、寒さを緩和するためだという。

『日本らしいワインをコンセプトに、繊細さを追求』

余市の積算温度はブルゴーニュ北部やアルザス地方とほぼ同じ。山中さんはドメーヌモンで栽培する唯一の品種を、ブルゴーニュ北部やアルザス地方で成功している品種のひとつである「ピノ・グリ」に決めた。
ワイン用ぶどうを栽培する場合、積算温度が近い産地を参考にして品種を絞っていくのが一般的だという。

果皮の薄い「ピノ・グリ」で、繊細な味わいを表現したい

ドメーヌ タカヒコでは、ピノ・ノワールを栽培していた。
そのため山中さんは、自分で栽培する品種としてピノ・ノワールと近い遺伝子を持つ「ピノ・グリ」を選んだ。

ピノ・ノワールとピノ・グリは、生育ステージや病気への耐性、くせなどがほぼ同じ。ピノ・グリであれば、曽我さんの元で学んだスキルで栽培や醸造ができると考えた。

また、ドメーヌモンでは「日本らしいワイン」をコンセプトにする計画を立てていた。そのため、果皮が薄く繊細なワインを造りやすい品種であることも決め手だったという。

ぶどうの皮が厚いとタンニンが出て、力強いワインになりやすい。逆に皮が薄ければ、繊細なワインが造れる。日本は雨の多い国なので、果実味などで勝負すると、雨の少ないカリフォルニアやチリには勝てない。

「雨の多い日本で苦労して栽培するなら、繊細さで勝負した方がよいと思ったのです」と、山中さんは胸の内を話す。雨を味方にしようと考えたのだ。

「曽我さんがよくそう表現するのですが、イメージは土瓶蒸しです。味は濃くないけれど、うま味が詰まっている感じ。飲んだら日本人に生まれてよかったなという余韻に浸れる。せっかく日本で栽培するなら、日本らしさを感じてもらえるワインを造りたかったんです」。

自社農園は日当たりや風通し、水はけの良い傾斜地

山中さんがピノ・グリを植えた自社畑は、標高50m前後で東向きの傾斜地。ぶどう畑の上部からは日本海を見わたすことができる。
日の出から日が当たり、風通しと水はけがすぐれた土地だ。

長く使用されていなかった耕作放棄地であったため、農薬の残留はなく、ミミズなどのさまざまな生物が豊富に生息していた。
そんな恵まれた環境の自社農園に、2016~2019年の4年間でピノ・グリを1.6ha植えていった。

殺虫剤や殺菌剤はほぼ使わず、野生の酵母で発酵

日本らしいワインを醸造するため、山中さんは「繊細さの中に複雑な香りを出したい」と考えた。
そのために重要なのは品種の選択と、野生の酵母を使うこと。選抜された優秀な乾燥酵母を使い、発酵を素早く終わらせることはしない。醸造中にさまざまな微生物がゆっくりと活動し、複雑な香りを出せる方法を選択したのだ。     

「繊細で複雑な香りを持つワインを造るために、農薬は極力使用しません。殺虫剤や殺菌剤を撒いた分だけ、微生物が死んでしまうからです」。    

酵母を運ぶのは虫なので、特に殺虫剤は使用したくないという。ドメーヌモンではJAS有機農産物の認証を取得し、有機栽培をしている。
生物の多様性がワインの多様性につながると考えているためだ。

ただし、ぶどうが全滅すると元も子もないので、ボルドー液というベト病の殺菌剤だけは使用している。ボルドー液は100年以上使われ、JASでも認証されている安全性が高い殺菌剤だ。
そのほかの薬剤は使わず、虫がついたら手作業で取る。

獣害ももちろんある。鹿もよく来るし、収穫前はアライグマやたぬきが、ぶどうの実を狙ってぶどう畑を訪れる。収穫前だけは電気柵を張って防御しているという。

『ピノ・グリ以外は、近隣で栽培された新鮮なぶどうを使用』

自社農園で育てるピノ・グリ以外のぶどうは、近隣のぶどう農家から購入している。近所の農家から買うことができるので移動が少なく、収穫したてのぶどうが新鮮なうちに仕込めるのが強みだ。

余市はワイン用ぶどうの栽培量が日本一、しかも品質が高い

山中さんが取得した醸造免許は、ワイン特区のもの。そのため、地域で栽培したぶどうしか使えない。
現在は余市町登町の4軒の農家からぶどうを買い入れている。農協や地域のイベントや集まりで顔を合わせたときに、譲ってもらえるよう交渉した。

余市はワイン用ぶどうの栽培量が日本一だ。北海道という土地柄、農薬の使用は少なく、品質のよいぶどうができるというアドバンテージがある。
よいぶどうが手に入りやすい土地なので、おのずとワインの品質も高くなる。自社畑で収穫したぶどうと同様に、購入したぶどうも野生の酵母で発酵させて醸造している。

『地域に根付く産業を目指し、醸造を工夫する』

「ワイナリーが地域に根付く産業になるためには、もともとその地でワイン用ぶどうを栽培する農家がワイナリーを始める環境が構築できること」。
強い気持ちは、研修中に学んだことのひとつだ。

農家が醸造を真似しやすいよう、醸造の道具をシンプルに

「今、余市にはワイナリーが増えています。しかし、もともとワイン用ぶどうを栽培する農家がワイナリーを始めた例はないんです」。

余市のワイナリーは、移住してきた新規就農者が始めたものばかり。そのため、余市で長くワイン用ぶどうを作る農家もワイナリー事業を始められるよう、山中さんは「真似できる醸造」にこだわっている。
「真似できる醸造」とは、一体どのようなものなのだろうか。

まず、ドメーヌ モンでは除梗破砕機は使わない。醸造過程で除梗をすると、発酵が始まってしまうためだ。

北海道は冷涼な気候で雪が降る土地だ。そのため、降雪前に剪定を終わらせる必要がある。しかし、剪定と醸造を同じタイミングで実施するのは大変な作業。そのため、基本は全房のまま

仕込んで、除梗はしない。収穫後にぶどうを仕込んでおいて、剪定が終わってから醸造するシンプルなスタイルを採用しているのだ。

また、初期投資が高くなるステンレスタンクは使わず、樹脂製のタンクで発酵させる。その後、樽で1年間貯蔵するため、ステンレスタンクと比べても出来上がりに遜色はない。
樹脂製タンクには、軽くて洗いやすいという利点もあるという。ぶどう農家が醸造をはじめる場合は、樹脂製タンクで発酵させるだけでヌーボー(新酒)が醸造できるため、気軽に挑戦できる。

『2020年、自社農園「ピノ・グリ」ワインを初リリース』

「日本らしさがあり、みんなに喜ばれるワインを造りたいと思い、有機栽培を実践しています。日々楽しいですね」。
ワイナリー開業時は苦労したものの、やりがいを感じながら日々を過ごしている。そして2020年春、ピノ・グリのワインを初リリースした。

苦難を乗り越え、現在はすべての作業を楽しんでいる

山中さんが「特に大変だった」と振り返るのは開業前だ。
15年以上耕作放棄されていた土地の開墾から始めなければならなかった。チェーンソーで白樺や松などの木を切り、切った木を燃やすなど、骨の折れる作業が多かったという。

また、ワイナリー開業当時に買いぶどうで醸造を始めた際に苦労したのは資金繰りだ。ぶどうやビンの購入代金など、売上げが発生する前に支払わなければならなかったためだという。
商品の売り先については、研修中から販路を確保していたのが幸いした。

現在は、「全てが楽しい」と笑顔で話す山中さん。休みもなく大変ではあるものの、作業に集中していると1日はあっという間。
雪の中の剪定も、寒さが厳しいものの、「来年こういう木になるだろうなと想像しながら切っているので楽しいです」と迷いはない。

師匠も「美味しい」と太鼓判のワインが完成

収穫して発酵させ、プレスして1年寝かせた自社農園のピノ・グリのワインを2020年の春に初リリースした。約900本を出荷したという。

「自分でも予想はしていましたが、仕上がりが非常によかったです。師匠の曽我さんも『美味しい』といってくれるワインが造れたのがうれしかったですね」と、山中さんはファーストヴィンテージの味にほっとした様子。

2020年には樽を貯蔵するスペースを増やしたため、今後は醸造量をもっと増やしていきたいという。自社農園で栽培するピノ・グリの収穫量も徐々に上がる予定だ。

世界も驚く品質で、世界に向けてアピールしていきたい

「今後の一番の目標は、収量を増やして、みなさんの手にわたるような醸造量を確保することです。さらに、世界の人も驚く品質で、世界で戦える力を持ったワインを造りたい。世界に向けてアピールしていくことも考えていきたいと思っています」。

山中さんは、以前は日本らしいワインを日本の人だけに味わってもらいたいと考えていたという。
しかし、日本ワインを造るワイナリーが増えた今、余市のワインを世界に広めたいという気持ちを次第に持つようになった。繊細さを持つ日本ワインの味は、世界に通用する品質を持つと確信しているためだ。

また、日本人に認めてもらうためにも、まずは世界にアピールする方法が有効だと考える。世界からも北海道全般がワインの産地として注目されてきていることも、追い風になりそうだ。

『自然を味方に。効率よりも、感性を大切にしたワイン造り』

新規就農という大きなハードルを乗り越え、全国的にも名の知れたワイナリーの多い余市町登町に「ドメーヌモン」を開業した山中さん。
青い空が広がる北海道の自然を満喫しながら、ぶどう作りとワイン造りを楽しんでいる。

ぶどう作りは、微生物の力を最大限に引き出す有機栽培を採用。さらにトラクターなどの重機は極力使わず、手作業で手間と時間をかけてピノ・グリを育てる。
出来上がったワインを飲めば、丁寧に栽培されたぶどうであることがわかるだろう。

「自然の摂理に即した栽培」を心がけ、効率よりも感性を大切にしたワイン造りをおこなうドメーヌ モンから、今後も目が離せない。世界に認められるワインが登場する日は、そう遠くないだろう。

基本情報

名称Domaine Mont(ドメーヌ モン)
所在地〒046-0002
北海道余市郡余市町登町898番地
アクセス電車
余市駅から車で10分

余市ICから車で5分
HPhttps://domainemont.com/

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