『シャルマンワイン』素朴で素直なワインを造る、欧州ぶどうの個性を引き出すワイナリー

南アルプス、甲斐駒ヶ岳のふもとに位置する白州町(はくしゅうまち)。美しい自然に囲まれたこの場所では、昔からワイン造りが行われてきた。
「シャルマンワイン」は、100年という長い歴史を持つワイナリーだ。
昔から行われてきたぶどう栽培の伝統息づく土地で、こだわりのワイン造りが行われている。

所長の山本公彦さんにワイナリーの歴史やこだわり、ワインについてなど数々のお話を伺った。興味深いワイナリーのエピソードについて紹介していきたい。

『デラウェア栽培から始まったシャルマンワインの歩み』

シャルマンワインの歴史は2つの会社がワイン造りを始めたことに始まる。

一つ目の会社は、兵庫県明石市の酒造メーカー「江井ヶ嶋酒造株式会社」。1919年に甘味ワイン製造を開始した。
もう一つの会社は「白洲醸造株式会社」で、1957年にワイン製造を始めたという。

その後、ワインを製造していた両社は1963年に合併。「江井ヶ嶋酒造株式会社 山梨ワイナリー」として生まれ変わり白州の地で「シャルマンワイン」のワイン醸造をスタートさせたのだ。

もともとデラウェアなどのぶどう栽培が行われていた山梨県白州町。白州町は、周囲を山々に囲まれた場所にある。
西には甲斐駒ヶ岳や鋸岳を臨む、南アルプスの山麓の地だ。

そんな白洲町での両社の出会いについて、山本さんは語ってくれた。

白州町でデラウェアの栽培を始めたのは、白洲醸造に勤め、その後シャルマンワインの創業者となった、山本さんの祖父だ。

デラウェア作りにいそしんでいた当時のこと。栽培を行う以上必ず出てくるのが食用としての販売が難しいぶどうの存在だ。これをなんとか利用できないだろうか?利用するためにはどうしたらよいだろうか?

山本さんの祖父はデラウェア栽培に取り組むかたわらで、食用としての販売に向かないぶどうの利用方法について考えることが多かったという。

ぶどうの活用方法として思い立ったのが、ワインとして利用すること。そこで地元農家100軒程が集まり、組合ワイナリーとして活動をスタートすることにしたのだ。
組合の結成後は農家達がおのおののぶどうを持ち寄り、共同でワインを醸造していたという。

そんな時、江井ヶ嶋酒造が山梨県でのワイン醸造をスタートさせるということで、山本さんの祖父は同社と提携を結ぶことに。こうして1963年にシャルマンワインが設立された。

なおワイナリー名である「シャルマン(charmant)」は、フランス語からとられた名前だ。シャルマンには「かわいい、愛おしい、チャーミングな」といった意味がある。欧州系品種による本格的なワインを醸造しながら、気取らない親しみやすいワインを目指すシャルマンワイン。
まさしく「シャルマン」の名にふさわしいワイナリーとなっている。

『欧州系品種へのこだわり』

続いて、ぶどう品種やぶどう栽培に関する話に移ろう。まず尋ねたのは、シャルマンワインで取り扱うぶどう品種について。
シャルマンワインが所有する、1haの自社畑で育てている品種は「カベルネ・フラン」「メルロー」「シャルドネ」だ。

シャルマンワインでは契約農家3軒のぶどうも扱っており、契約農家では「マスカット・ベーリーA」「甲州」「セミヨン」「カベルネ・ソーヴィニヨン」といったぶどう品種が栽培されている。

自社畑で取り扱うぶどう品種に共通するのは、欧州系ぶどう品種という点だ。特にカベルネ・フランは、シャルマンワインの自社畑において最も栽培量が多い。
日本のワイナリーでカベルネ・フランを最も多く育てるワイナリーは、なかなかお目にかかれない。

設立当初こそは、上記3種類のほかにも複数のぶどう品種を育てていた。しかし徐々に土地に合うぶどう品種が選定されていき、最終的にはカベルネ・フランが残ったという。

カベルネ・フランは柔らかなタンニンと、軽やかでエレガントな華のある香りが特徴。なめらかな質感のワインになる赤ぶどう品種だ。
ワインの銘醸地、フランス・ボルドー地方においても、補助やメインのぶどう品種として使用されている。

赤ワインになる「メルロー」は2011年に植えられた品種。シャルドネは、芳醇な白ワインになるぶどう品種だ。

なおシャルマンワインのシャルドネは、棚仕立てで栽培中だ。しかし、今後は垣根栽培に移行するかを検討しているという。ぶどうの仕立てかたによっても、栽培の手間やぶどうの生育が大きく異なってくる。
様々な方法を試しながら、よりよいぶどうとワインを目指しているのだ。

▶土壌や気候に恵まれている自社畑

シャルマンワインの自社畑は、標高650mの土地に広がっている。
標高が高いので、比較的冷涼な気候だ。

周囲は南アルプス・八ヶ岳・甲斐駒などの山々に囲まれており、水はけのよい砂質土壌が特徴的である。砂地からは緻密なワインが生まれると言われており、ワイン用のぶどう栽培に適している土壌のひとつだ。
乾燥を好むぶどうは、水はけのよさも生育にとって好条件となる。

また自社畑がある土地は、昼夜の寒暖差も大きい。昼夜の寒暖差は良質なぶどうを育むために必要となる気象条件だ。シャルマンワインの自社畑は、ぶどうの生育に欠かせない好条件を備えた場所なのだ。

一方、近年の地球温暖化の影響で、栽培品種を変更する必要性も生まれつつある。自然とともにあるぶどう栽培だからこそ、地球の変化に対応していくことは必要不可欠だ。
ひとつひとつ試し、確認しながら土地に合うものを見つけていく。ぶどう栽培の実験は、今後も続いていく作業になるだろう。

そしてシャルマンワインの自社畑における大きな特徴のひとつが、カベルネ・フランの古木がある点。古木の樹齢は30年から40年にもなる。
樹齢の高いカベルネ・フランからは、良質なワインが生まれるという。

「棚仕立てによる栽培はぶどうの幹が大きくなりやすく、古木の幹は直径15センチにもなるのですよ」。
古木を使ったカベルネ・フランのワインは「カベルネフラン尾白無濾過」という銘柄に使用されている。奥深い旨味と複雑な色合いが素晴らしいワインだ。

難しいのは「ぶどうの樹齢は高ければ高い方がよい」訳ではないこと。もちろん若すぎても、高品質なワインは生まれにくいという。山本さんの感覚だと、カベルネ・フランは30~40年の樹齢が最も美味しいワインになるのだそうだ。
「人間と一緒で、一番よい仕事をする時期があるのでしょうね」。

人とぶどう、全く違う生き物なのに不思議と共通点を感じる事に驚いた。自然の中で、甘やかしすぎないで育てることで素晴らしい出来になるぶどう。まさしく人間と同じなのかもしれない。

▶自然な栽培と凍害への対処

自社畑のぶどう栽培において、力を入れている部分やこだわりについてお話を伺った。

まず大前提として、シャルマンワインでは自然に近い環境での農法が採用されている。除草剤や化学肥料は用いず、下草を生かす「草生栽培」を実施。
そのうえで、さらなるこだわりとして行っているのが、収量制限である。

ワイン用ぶどうは凝縮感が肝。ワインになる際に、ぶどうの持つ旨味や香りを、ワインに強くうつしこむためには「凝縮感」が必要になる。そんな凝縮感あるぶどうにするため、収量を調整して豊作になりすぎないように工夫しているのだ。

特に棚栽培では、垣根栽培と比較して、ぶどうの実がつきやすい。そのため収量制限を行うことで「高品質なワインのための一粒」を生み出している。

もちろんたくさん収穫してワインにする方が、多くの本数を生み出せるだろう。しかしシャルマンワインはあえて収量を制限する。すべては、美味しいワインを造るためだ。

続いてのこだわりは、凍害へのきめ細かな対処だ。山の麓で雪害や凍害に合いやすいシャルマンワインの自社畑では、冬季にぶどうの樹を藁でおおい、凍害に遭わないような処置を施す。

特に念入りに作業しているのは、樹齢の古い木だ。素晴らしい実をつけるカベルネ・フランの古木を枯らさないよう、しっかりと守っているのだ。
冬季の作業は、寒さが厳しくつらい仕事。しかし翌年の生育のため、欠かさず行っているという。

自然に近い状態で栽培しつつ、サポートすべき所は人の手でサポートする。シャルマンワインのぶどう栽培の、大きなこだわりだ。

▶過去の凍害・現在の温暖化

次に伺ったのが、ぶどう栽培の苦労についてのエピソード。エピソードの全てが「天候」によるものだった。ぶどう栽培やワイン造りと天候の影響は、切っても切り離せないほど強い。

シャルマンワインではその立地により、過去には凍害に対する苦労が大きかったという。山本さんに、ぶどうが凍害を受けた時のエピソードをお話しいただいた。

「1970年代は、冬に氷点下10度になる日が何日も続くことがありました。ある年にはその凍害によって、枯れてしまった木もあったのです」。

なお当時のぶどう畑には、今以上の数のぶどう品種が植わっていた。
しかし凍害によって枯死した品種が多数あり、その時から残っているのが「カベルネ・フラン」なのだ。

直近だと、2016年に記録的な大積雪があった。大雪の影響でぶどうの棚が雪でつぶれてしまったので、大変苦労したという。棚栽培は天面に枝が広がるため、積雪の影響を受けやすい。
大雪被害があったことで、現在では多くの樹を垣根栽培に移行した。

凍害に苦労した過去がある一方で、目下最も苦労しているのは「温暖化」による影響だという山本さん。ここ数年の気候変動の影響を強く受けているのは、主に赤ぶどうだ。なぜ赤ぶどうが影響を強く受けているのかというと、気温が高すぎることで「実の着色」に障害がでてしまうのだ。
赤ワインの色を付けるために必要不可欠な「色」が出ないことは、非常に大きな問題だ。

温暖化ならではの環境に変化によって増える、ぶどうの病気もある。近年は、病気に対応するための対処の必要性が増えたという。ぶどうの病気を防ぐために、笠かけや防除に気を配っている。
特に高温多湿に弱い欧州系ぶどう、カベルネ・フラン、メルロー、シャルドネには、全ての苗に防除処理をしている。

「欧州系品種と比較するとやはり、甲州やマスカット・ベーリーAは強いですね」と山本さん。
日本生まれの品種は日本の気候に適応しているのを肌で感じているそうだ。

凍害に温暖化。人の手ではどうにもならない「天候」による苦労が、ぶどう栽培で最も大変なことだ。気候の変動に合わせた対処や、気候に合う品種を見極めること。
「天候」の苦労に立ち向かうため、シャルマンワインの栽培への工夫は続く。

『体に染み渡るワインを目指して』

目指しているワインの姿は「素朴な味わい」だというシャルマンワイン。
「体にすっと染み渡るようなワインでありたいと思っています」。

シャルマンワインが考える「素朴な味」とは、体に染みこむ飲み口のよさを持ち、ぶどうの個性が自然に引き出されたワインだ。素朴なワインを目指すシャルマンワインの、ワイン造りのこだわりについて見ていきたい。

▶ぶどうことに熟成方法を変える、こだわりのワイン造り

シャルマンワインの醸造のこだわりは、ワインごとに醸造方法を細かく変えていくことにある。

まず発酵過程の酵母についてだ。赤ワインは自然酵母で発酵させ、白ワインでは培養酵母を使用している。

幾度も醸造を重ねた結果、山本さんが感じたのは「白は培養酵母を使った方がよい味になる」ということ。
「自然酵母だからよい」と紋切り型に考えるのではなく、ぶどうにとって最適な方法を考えて試す。シャルマンワインのワインは、美味しくなるためにどうすべきかを考え抜いて造られているのだ。

続いて取り上げたいのが、熟成の方法についてだ。シャルマンワインでは、ぶどうごとに異なる熟成方法を用いている。

例として、赤ぶどう品種であれば10か月の樽熟成。シャルドネやセミヨンといった欧州系白ぶどうであれば、樽貯蔵は2ヶ月。
甲州は、タンク熟成と樽熟成の両方を実施している。同じ赤ワインであっても、手頃な価格のマスカット・ベーリーAは、タンク熟成で造られる。

このように、同じ熟成であってもぶどうによって様々な方法や熟成期間が取られているのだ。

樽を使う理由について尋ねると「味わい深く柔らかいワインができるから」だと言う。赤ワインは、樽の旨味が増えるため積極的に樽熟成させる。
そして白ワインは、少しだけ樽に入れることでよい効果をもたらすと考えているのだ。

樽のよさを最も引き出すのは、カベルネ・フラン。カベルネ・フランのみ、樽の中でも「35年使った樽」で熟成させている。溶け出す旨味や樽香の厚みが段違いに増えるのだとか。
35年物の樽で熟成したワインは、新しい樽に2~3割入れてブレンドされる。

シャルマンワインの味は、熟成の工夫の賜物だ。熟成の工夫によって、ワインの魅力や奥深さ・ぶどうの個性が表現されているのだ。

▶ボルドー品種がワイナリーの強み

シャルマンワインならではの強みとは?そしてシャルマンワインが考えるワインの楽しみ方とは?聞けば絶対にワイナリーに行きたくなる、シャルマンワインだからこその魅力を紹介していこう。

第一の魅力が、取り扱うぶどう品種だ。シャルマンワインでは欧州系の赤ぶどうによる赤ワインが三種類ある。
「フランスワインが好きな方にとって魅力あるラインナップだと思っています」。

シャルマンワインは小規模なワイナリーだ。しかしボルドーという、ワインの代表的な地域のぶどう品種にこだわってワイン造りが行われている。

シャルマンワインでは、栓を抜いてからのワインをじっくり楽しんで欲しいと考えている。抜栓したワインは、刻一刻と表情を変えていく。
「様々な顔を見せるワインの味を、食事とあわせながら楽しく飲んで欲しいです。大勢でわいわいと楽しんでもいいし、少人数でゆったりと楽しむのもよいでしょう」。

ぶどうにとって最適な熟成方法を経て生まれたワインだからこそ、抜栓後、のびのびと表情の変化を見せるのだろう。

今まで手作業で行っていた除梗(じょこう)を、機械でできるようにしたというシャルマンワイン。
「よりピュアな味わいを届けることができます」。
シャルマンワインの目指す「素朴な味」のワイン造り。山本さんがこだわるワイン造りに終わりはない。

『シャルマンワインの将来、新しいぶどうと新しいワイン』

最後に、シャルマンワインの将来の展望について山本さんに尋ねた。

シャルマンワインがこれから行いたいと考えているのは、主にぶどう品種に関する取り組みだという。
具体的には3つあり、ひとつは気候変動に合ったぶどう品種を探していくことだ。

ここ数年の温暖化にともない、栽培しているぶどう品種にも、土地に合う、合わないが出てきている。そこで、温暖な気候に強いぶどう品種の栽培を検討しているそうだ。

ふたつ目は、ボルドーブレンドのワインにチャレンジしていくこと。小規模なワイナリーながら、ボルドー品種のぶどうがそろうシャルマンワイン。引き続き、強みであるぶどう品種のレベルを上げて行きたいと山本さんは話してくれた。

最後に挑戦したいと考えていることは「甲州」を使ったワインのさらなる改良だ。「やはり甲州は別格だと思って取り組んでいきたいです」。

日本の気候に適合し、病気に強い甲州。ワイナリーがある山梨県にとってはアイデンティティ的品種でもあり、特別に力を入れていくべきだと考えている。
シャルマンワインでは、現状は契約農家に甲州の栽培を依頼している。しかしゆくゆくは、自社畑で甲州を栽培することを検討しているそうだ。

「在来品種である甲州を見直して、お客様に満足いただける更にいいワインにしていきたいですね」。
シャルマンワインが培ってきたぶどう栽培・ワイン造りの歴史や技術は、立ち止まることなく先へと進んでいく。

『まとめ』

100年の歴史と、欧州系の王道品種へのこだわりが魅力のシャルマンワイン。2021年現在、シャルマンワインでは売店を改装中とのこと。同年7月頃には新売店がオープン予定だ。
ちょうど6月頃には、ワイナリー周辺は美しいぶどう畑の緑が広がることだろう。

是非とも実際に足を運び、美しい景色に囲まれたぶどうの世界に触れてみて欲しい。そして胸いっぱいにぶどう畑の空気を吸い込み、美味しいワインと共に非日常を味わってみてはいかがだろうか。

基本情報

名称シャルマンワイン
所在地〒408-0315
山梨県北杜市白州町白須1045−1
アクセス■お車でお越しの場合
中央自動車道韮崎ICより30分、小淵沢ICより18分
■電車でお越しの場合
中央線日野春駅より12分、長坂駅より13分、小淵沢駅より18分
※駅からはタクシーなどの車での所要時間です。
HPhttps://www.charmant-wine.com/

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