『大池(たいけ)ワイナリー』小さいけれど、社長の家族愛が小気味よいワイナリー

ワインの個性は色み、香り、味わい、余韻は、果物、花、森の植物、ハーブ、乳製品、宝石などになぞらえて言い表されることが多い。味わいの表現には一定の形式があるから、ソムリエなどに伝えるには便利だといえる。

その一方、ワインは嗜好品である。軽妙なユーモアがあったら、もっと楽しく味わえるに違いない。ラインナップの一部をキャラ立ちした三姉妹になぞらえて展開している「大池(たいけ)ワイナリー」である。

「信州・山形村の里山時間で育った個性豊かなワイン三姉妹」と銘打った3本のワインは、それぞれ以下のように言い表されている。

■シャルドネ
長女
しっかり者、自然体、セミロングヘア、凛とした所作

■ソーヴィニヨン・ブラン
次女
個性的、ファッショナブル、前髪パッツン・メガネ女子

■メルロー
三女
人気者、ポジティブ、気配り、大きな目、リボン

セミロングヘア、前髪パッツンのメガネ女子、気配りできる女子。いったいどんな香りや味わいがするのか気になって仕方がない。

大池ワイナリーが公表している3本それぞれの特徴は、記事の最後に紹介する。

『創業のきっかけ』

遊び心あふれる商品を世に送り出している大池ワイナリーは、どんな経緯で創業したのだろうか。

同社の創業は2014年。社長である藤沢啓太さんの叔父が、ヤマソーヴィニヨン(日本で開発された赤ワイン用ぶどう品種。
ヤマブドウとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配種)を栽培しており、その畑を藤沢社長が引き継ぐことになったのがきっかけだという。

「元々は個人の趣味だったのですが、ヤマソーヴィニヨンが豊作だった年に『安曇野ワイナリー(https://www.ch-azumino.com/)』さんに委託醸造をお願いしたそうなんです。
そこで味を占めて『自分たち独自のワイナリーをつくろう』という気持ちが出て創業に至ったと聞いています」と醸造と栽培を担当する小林和俊さんは語る。

趣味から始まったからこそ、遊び心のあるエチケット(ラベル)が誕生したのかもしれない。

「社長夫人がこのラベルのデザイナーのファンで、社長の娘さんたちをモチーフに描いてもらっています。最初にできたワインがソーヴィニヨン・ブランとシャルドネとメルローの3本。
ちょうど娘さんが3人だったので、こういう企画になったようです。社長の娘さんたちへの想いが溢れたエチケットですね」と小林さん。

じつは三姉妹をモチーフにした商品は、これだけに留まらない。創業のきっかけとなったヤマソーヴィニヨンを仕込んだ「紫風の里( https://www.taikewine.jp/list/?colorme_page=items&page_no=2)」というワイン。
これも娘さんたちに因んでいる。「紫衣」「歩風」「有里」という彼女たちの名前から、一文字ずつをとって命名したのが「し・ふう・(の)さと」なのだ。顧客の多くは「ヤマソーヴィニヨンの紫色」と「山里の山形村」から命名したと思っているようだが、さりげない家族愛が表現されたネーミングなのである。

エチケットのトリビアはまだつづく。「Lapin」シリーズ( https://www.taikewine.jp/list/?colorme_page=items)は、ウサギのシルエットがシンボライズされている。
ウサギは藤沢社長の家紋なのだそうだ。先祖は武将でその家系をあらわすためか、下部に刀も描かれている。小瓶だからウサギのデザインと相性は抜群である。

『自慢のワインと栽培品種』

ワインのエチケットのデザインの話から、中身の話に移りたい。醸造担当者として小林さんおすすめの1本はなんだろうか。

「ソーヴィニヨン・ブランをおすすめしております。特徴香がしっかり出てますので、ハーブを思わせる爽やかな香りを楽しんで頂けると思います。
酸味もしっかりしていて、食欲がそそられますよ。天ぷらや唐揚げなどを盛大に食べながら飲んでほしいですね。イチオシのワインです」

大池ワイナリーの圃場(ほじょう:農産物を育てる場所。田、畑、果樹園、牧草地、放牧地のいずれにも使える言葉)は標高720〜800メートルに拡がっている。標高があって温度差があると、ぶどうに酸味が残る。
そしてソーヴィニヨン・ブランは、早採りすれば品種の特徴香が出やすい。白ワインに関しては「風味があって酸味のしっかりしたワインを造る」という方向性があり、これにかなう品種として選ばれたのがソーヴィニヨン・ブランとシャルドネだという。

赤ワインはどうだろうか。「赤用はメルローとヤマソーヴィニヨン、それから山ぶどうを育てています」と小林さん。赤ワイン品種のメルローは、昭和50年代にはじまった桔梗ヶ原(塩尻)での栽培が有名だ。
山形村は塩尻と地続きで地質が似ている。おそらくメルローに向いているのではないか。そんな考えで選定したそうだが、とてもよいぶどうが採れているので読み通りだったという。

一方、山ぶどうとヤマソーヴィニヨンは、藤沢社長の肝いりで選ばれた品種だ。「純国産のぶどうでワインを造りたい」。それが「大地ワイナリー」を藤沢さんがはじめた動機のひとつ。だから国産品種をラインナップに加えたかったのだ。

小林さんは「ヤマソーヴィニヨンは小粒ですが量が取れるんですよ。収穫量にして1t前後。ソーヴィニヨン・ブランが700kg。メルローは800kg。シャルドネが一番多くて1.2tぐらいです」と説明する。

山ぶどうだけ畑の立地が特殊で、山際の「ちょっとすごい所」にあるそうだ。どうしても鳥や獣に食べられてしまうため、電気柵を立てるなどしてはいるものの、200kg程度の収穫量に留まっているという。
山ぶどうに関しては、これからもっと採れるように頑張っていきたいとのことだ。

小林さんには今年から自社農園を増やす計画がある。「女子ウケするような、さっぱりかつ香りの良い白ワイン」を新たに造るのだ。収穫したぶどうは会社に買い取ってもらう。
候補として考えているのはピノ・グリやリースリング、ゲヴュルツトラミネールだ。赤ワインも植えるつもりだが、こちらは白紙である。
何が土地に合っているか、まったく見えていないからだ。少量多品種で手探りしながら、山形村に合っているものを探していきたいと考えている。

『山形村のテロワールと畑での苦労』

大池ワイナリーにはぶどう畑とりんご畑がある。栽培面積6,582平米のうち5,600平米がぶどう畑、残りがりんご畑だ。原則としてぶどうは垣根栽培だが、山ぶどうだけ棚で育てている。
山ぶどうは生育が早くて幹が太くなりすぎたり、垣根が足りなくなったりするからだ。逆にそれ以外の品種が垣根なのは、効率を考えた結果である。この方が管理しやすいのだ。棚で管理すると、生産者は上を向いて作業し続けなければならない。

ほかにこだわっている点は、剪定と芽かき(優良なものを選抜して残し、それ以外は間引いてしまう作業のこと)だ。
剪定も芽かきも枝と枝の間隔をしっかり取って、風の通しを良くするために行う。密植すると風通しが悪くなり、ぶどうが病気に掛かりやすくなる。病気の予防には剪定と芽かきが欠かせない。

これは山形村がワイン生産地としては、雨が多いことと関係している。村の年間降水量は約1600ミリ。一般にワイン用ぶどうの理想的な降水量は年間500〜900ミリとされているので、確かに多い。

山形村のテロワール(生育地の環境。地勢、気候など風土のあらゆる要素を包括したフランス語)は決して悪くはない。「大地ワイナリー」の圃場がある村の東部は、肥沃な扇状地がなだらかに広がる高原地帯だ。
土壌は火山灰土で水はけが良い。日照時間も年平均2000時間と充分で朝と昼の寒暖差が大きく、ワインの生育に有利だ。

したがって土作りに特別手を加えるようなことをせずとも、ぶどうは育ってくれる。むしろ気をつけていることは、化学肥料を入れすぎないことだという。出来るだけ自然な堆肥を入れて、土着の微生物を増やす方向で手入れする。
化学肥料を入れ過ぎると10年〜15年しないと抜けないので補助的な使い方に留める。土壌診断をしながら気をつけて投入することが肝心だ。

農薬や消毒を避ける生産者もいるが、大池ワイナリーでは雨が多い日には必ず散布しているという。「ぶどうが採れないと意味がないので、手を入れるべきときにはしっかり手を入れてます」と小林さんは語る。

とはいえ、やはり基本となるのは「草が伸びたら小まめに苅る」という昔ながらの方法だ。大地ワイナリーのウェブサイトには「夏にはカブトムシやクワガタが畑にやって来ます」と書かれており、自然に優しい栽培法をアピールしている(https://www.taikewine.jp/important/)。

ほかに栽培上で苦労している点といえば、強風だという。春先は前が見えないほど砂埃が舞い上がり、車の運転が出来ないほどである。当然ぶどうの枝が折れることもある。垣根栽培ではぶどうが実を付けるとテープで番線に固定していく「誘引(ゆういん)」と呼ばれる作業をしていく。
ところが風で全部とれて、またやり直しすることも珍しくない。しかし「それでもぶどうの実が落ちることはありません。逆に風通しが良くなって溜まった湿気が飛んでいきます。病気のリスクも減るのでよいと思います」と小林さんは強風をむしろポジティブに捉えている様子だ。

『飲みたい人はいろいろな種類を飲みたい』

ゆったりした時間の流れに身を任せ、実ったぶどうを一房一房もいでいく。収穫したぶどうは丹念に確認し、きれいなものだけ絞る。

ワイン造りで大切にしていることは?という質問に、小林さんはこう答える。「まず飲み飽きないワインを造ること。いつの間にか1本空いてたよね、というワインが理想です。大事なのは酸味だと思うんですよ。ワインにとっての背骨となるものは酸味です。ぶどうの特徴香を活かしながら、ぶどうの個性を表現出来るようなワイン造りを目指していますね」。

醸造する上でこだわっている点はふたつあるという。

ひとつは、収穫した日のうちに醸造すること。ぶどうは採ったらどんどん酸化が進んでいく。収穫した分はすべてその日の内に処理することが、良質なワイン造りの鉄則である。

もうひとつは温度管理だ。ぶどうを低温発酵させた方が特徴香が出やすい。白ワインであれば、15〜20度の間に室温を保ち1週間かけて発酵させる。しかし温度管理は簡単ではない。

さまざまな困難を乗り越えながら、ワインは造られていく。しかしどうしても初めて出会うワインは手に取ってもらいづらい。そこで大池ワイナリーでは、積極的に小瓶をリリースしている。

大池ワイナリーが出しているのはハーフの375mmサイズだ。それ以下の容量での瓶詰めも可能ではあるが、効率を考えてこのサイズに落ち着いた。小瓶は今後もっと増やしていく方針だという。「飲みたい人はいろいろな種類を飲みたいんです。せっかくフルボトルを開けたのに、余って料理酒にしてしまった経験はありませんか?小瓶にしたら、3人で2本ずつ買ったら6種類飲めます。そういう楽しみ方も出来るんです」。エチケットの件もだが、面白い戦略だ。

『小林さんを引き寄せたシードル』

大池ワイナリーでは、ワインのみならずシードルも製造している。小林さんが入社したのも、シードルの製造を学びたかったからだという。

「高校時代から醸造を学んでおりまして、ワインの仕事に就きたいと思っていました。去年までは松本の『山辺ワイナリー(http://www.yamabewine.com/)』で12年間お世話になり、醸造と栽培を担当しました。この会社に転職したのは、広島から来て頂いている醸造指導者の横町さんという方から、どうしてもシードルの技術を学びたかったからなんです。シードルの造り方を覚えておけばスパークリングワインも造れますしね。じつは生まれも育ちも山形村で、ここは地元です。山形村ではりんごが盛んに作られているので、『地元産のものを活かして、シードルやワインにできたら』という思いもあって昨年帰ってきました。最近はシードルが流行ってきたので、これからが楽しみです」

大池ワイナリーの主力製品は、あくまでもワインだ。りんごの栽培は原則として農家にお任せである。シードル専用の「メイポール( http://www.haradasyubyo.jp/2015/06/169/)」というりんごは手が掛からないので自社で栽培しているが「ふじ」「つがる」「紅玉」といった品種は山形村の生産者から仕入れている。

仕入れたりんごは商品数を多めにしつつ、シードルに仕上げている。これは「せっかく買うのなら、自分の飲みたいものを飲んでいただきたい」という思いから、選択肢を増やす努力をした結果である。と同時に、ある程度選択肢があった方が購入されやすいという傾向に沿ったものでもあるという。

「つがる」「ふじ」といった同一品種に「極甘口」「スイート」「ドライ」などのバリエーションが用意されているのはそのためだ。アルコール度数も3%〜8%と幅広い。ジュース感覚で飲めるシードルもあれば、しっかりした辛口タイプも揃っている。
敷居を下げることで「ちょっとお酒に興味ある」とか「あまり飲めないけど一緒にいるだけでも」という初心者にも手にとってもらいやすい。「シードルが美味しかったからワインも飲んでみたい」と思ってもらうのが、ひとつの理想形だ。

『多品種小ロットを強みに、今後はブレンドにも挑戦』

最後に大池ワイナリーの強みと今後の展開について語っていただいた。

「多品種小ロットでお客様の望みに応えられるところが、大地ワイナリーの強みと言えそうです。ちゃんとしたぶどうが出来れば、小さいタンクの方が管理しやすいんです。
委託醸造でプライベートブランドをやる場合、お試しで200〜300kgからチャレンジ出来ます。小さいワイナリーだからこそ出来ることだと思います。逆に大きいところだったら、大きいタンクで最低ロットが1t以上あたりからになると思います」と小林さん。

今後の展開については「ぶどうもりんごもブレンド醸造していければいいなと、思っていますね。品種が加わることで複雑性や香りが変わってきます。何か足りなければ別の品種をブレンドして補っていくというのが、今後の挑戦です。赤も白も一緒に混醸したら面白いんではないかな、ということも考えています。現在の状況でまだやったことのないことにチャレンジして、ワインもシードルも味の幅を広げていきたいですね」。

ワインやシードル造りについて夢と目標をもつ小林さんと、家族への愛を商品に込める藤沢社長の思いが、素晴らしい相乗効果を実現しているのではないだろうか。

『まとめ』

大池ワイナリーは、小規模ワイナリーならではの楽しさに満ちあふれている。それは藤沢社長の家族や家系に由来する商品名からも明かだ。

じつは社名もしゃれのようなものだ。ワイナリーがある場所はナカオイケ(中大池)という地区なので、「大池」と書いて「オオイケ・ワイナリー」と読ませるのが一般的な感覚だ。
しかし敢えて「タイケ」としたのは社長の名前が「啓太(ケイタ)」だから。「ケイタ」を後ろから読むと「タイケ」になるのだ。大規模ワイナリーだったら、こうはいかないだろう。

200kgからチャレンジ出来るという委託醸造、気軽に試せる小瓶の商品開発など、小規模事業所ならではの小回りの効いた動きは大池ワイナリーの強みである。

爽やかな香りと酸味の効いた味わいに釣られ、知らず知らずボトル1本空けてしまった。そんな幸せな飲み手が増えることを願ってやまない。


※冒頭にあげた「ワイン三姉妹」の特徴を紹介する。
3本のワインの個性を姉妹のキャラクターではなく、一般的な言い廻しで表現すると以下のようになる。

シャルドネ:長女(フルーティー、汎用的人気)
ソーヴィニヨン・ブラン:次女(爽やか、キレ、柑橘系)
メルロー:三女(まろやか、なめらか、飲みやすい)

あなたの予想は、ワイナリーの公式見解と比べてどうだっただろうか?

基本情報

名称大池(たいけ)ワイナリー
所在地〒390-1301 
長野県東筑摩郡山形村2551-1
アクセスお車でお越しの場合
中央自動車道
松本I.Cから約15分 塩尻北I.Cから約20分

電車・飛行機で
JR篠ノ井線
松本駅からバス・タクシーで約30分
松本電鉄上高地線・波田駅からタクシーで約10分
信州まつもと空港からタクシーで約15分
HPhttps://www.taikewine.jp/

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