『木谷ワイン』アートの心で醸すワイン 奈良初のワイナリー

奈良県初のワイナリー「木谷ワイン」。大阪と奈良の自社畑で有機栽培を中心に育てられたぶどうから、こだわりのワイン造りがおこなわれている。

木谷ワインを経営する木谷一登さんの前職は、なんと銀行員。ワインと銀行業は、一見何のつながりもないように思える。なぜ木谷さんは、自分のワイナリーを設立しようと思い立ったのだろうか。

木谷さんが抱くワインへの思いを知ることができれば、木谷ワインのことが理解できるはず。木谷ワイン誕生の歩みからワイン醸造のこだわりに至るまで、興味深い話をいくつも伺ったので、すべてを紹介したい。

『ワイン造りとの運命的な出会い』

2018年に誕生した木谷ワイン。木谷さんは、銀行員になったことでワイン造りに出会うことができた。木谷さんがワイナリーをはじめるまでの経緯には、不思議な縁や運命の力を感じさせるエピソードが満載だ。

若きオーナーの木谷さんに、ワイナリー誕生までの経緯を伺った。

▶ワイン造りとの出会い 銀行員からワイナリーへ

「前職は銀行員として働いていましたが、取引先にワイナリーがいくつかあったのです。自分の住む地域の近くにワイナリーがあることを知らなかったので、とても興味を引かれました」。

大学院卒業後、銀行に就職した木谷さん。木谷さんとワイナリーをひきあわせたのは、銀行での仕事だった。

木谷さんは、もともと大学院生時代から、ワインが好きだったという。そして銀行員としての仕事で何度もワイナリーに足を運ぶうち、ワイン造りに次第に魅せられていく。

ワイナリーへの興味が抑えきれなくなった木谷さんは、あるワイナリーに見学に行くことに。見学に行って改めて目の当たりにしたのは、自分の住まいの近くで「ぶどう栽培やワイン醸造」が行われていたという事実だった。

「自分が住む奈良県周辺でも、ワインを造ることができるのだとわかりました。それならば、自分の仕事にできる可能性があるかもしれないと考えたのです」。ワイン造りを生業にしたい。ワイナリー設立に向けて、木谷さんの運命が動き出した瞬間だった。

ワイナリー運営について学ぶために、まず書籍で学ぶことにした木谷さんは、日本全国に続々とワイナリーが誕生していることを知った。

自分の将来や得意なことを考え抜いた末、銀行を退職しワイナリーへの転職を決意した。自分のワイナリーを持つという目標のため、銀行の取引先のひとつだった「カタシモワイナリー」でワイン造りの勉強をはじめることになった。

▶ワイナリーでの修行と独立 始まったワイン造り

木谷さんがカタシモワイナリーにいたのは2年間。新規就農者の補助金を受給しながら、ぶどう栽培とワイン醸造の基礎を学ぶ毎日だった。

「歴史と実績のあるワイナリーで学ばせていただきました。ただ、自分にとっては、長い2年間でしたね。早く自分のワインが造りたいという思いでいっぱいでした」。
自主性を重んじる環境の中で2年間かけて、ひと通りの栽培と醸造の基本を習得した。

カタシモワイナリーでの研修開始から2年後、期間満了と同時に、木谷さんは農家として独立する。独立後は、3つの畑を借り受けてぶどう栽培を始めた。

▶木谷ワインの自社畑

ひとつは、奈良県天理市の耕作放棄地だった土地を約40a。残りのふたつの畑は大阪で借りた。13aほどの羽曳野の畑と、4aほどの柏原の畑だ。

奈良県天理にある畑は、地面に古いぶどう棚が埋まってしまった状態で、開墾が非常に大変だった。使用できない棚は撤去し、垣根でぶどうを植栽していった。

大阪の畑は借りた当初からデラウエアが植えられており、すぐにワイン原料として利用できた。「大阪の畑のおかげで、初年度から毎年ぶどうが収穫できました。醸造や販売もスムーズにはじめられたのでとてもラッキーでした」。

3つの畑は場所が異なるため、移動が大変だ。しかし、いずれも自宅から30分圏内。移動の大変さよりも、待ち望んだ自分の畑を持てた喜びのほうが大きいという。

「最も遠い天理の畑で、車で30分ほどの距離です。時間を無駄にしないように、1日おなじ畑で作業するようにしています。点在しているとはいえ、車ですぐ行ける距離にあることは、大きなメリットだと考えています」。

自分なりのやり方で、最適な方法を研究して進めたかったと話す木谷さんは、物静かな口調ながらも生き生きと畑の様子を話してくれた。本当にやりたいことに携わっている幸せが伝わってくるようだ。

木谷さんが独立したのは、2018年のこと。そして、2022年6月には、とうとう念願のワイナリーが完成する予定だ。

「融資や補助金の段取りなど、ワイナリー建設に向けて忙しかった時期を過ぎ、ようやくひと段落したところです。あとは施設が建つのを待つだけの状態ですね。ようやく畑仕事に専念できます」と、安堵の表情で微笑む。

自身のワイナリー設立に関して、日本において個人のワイナリーが増えつつある時代の追い風やタイミング、さまざまな縁を感じるという木谷さん。幸運や偶然が重なって、自分のやりたいことができている現状に感謝していると語ってくれた。

運の力もあるのかもしれないが、ワイナリーをオープンできるのは、まぎれもなく木谷さんの決断と行動力の賜物だ。自分に正直な生き方を貫くのは、誰にでもできることではない。木谷ワインが示す「思いを貫く姿勢」には、勇気を与えられる。

『リスクをとって質を重視 木谷ワインのぶどう栽培』

続いてはぶどう栽培について紹介しよう。

木谷ワインで栽培するぶどうや畑の特徴と、「ぶどう栽培」に対する木谷さんの思いとは。また、木谷さんの人柄や思想が垣間見える、ぶどう栽培のこだわりについて見ていきたい。

▶木谷ワインで栽培するぶどう品種 土地に合う品種を模索

木谷ワインでは、以下のぶどう品種を栽培している。

  • デラウエア
  • ピノ・ノワール
  • モンドブリエ
  • ビジュノワール
  • ソーヴィニヨン・ブラン

それぞれの品種を植えた理由について伺った。

まずデラウエアは、購入した大阪の畑でもともと栽培されていた品種だ。
「デラウエアは非常に安定して収穫することができます。熟度もよいですし、酸もしっかりと残るよいぶどうが収穫できています」。

ピノ・ノワールは、繊細なワインに仕上がる赤ぶどう品種。植えた理由は、木谷さんが飲みたい品種だったからだ。一方で「植えたことを後悔している」ほど、栽培の難しい品種だというのだから、なんとも難しいジレンマだ。

続くモンドブリエ、ビジュノワールは日本生まれの交配ぶどう品種。モンドブリエが白ぶどう、ビジュノワールが赤ぶどうだ。植栽した理由はふたつあるという。

まずは、苗木の調達が難しかった時期に、手に入りやすかったという点がひとつ。そしてもうひとつの理由は、日本生まれ故に日本の高温多湿に強い品種だったからだ。

木谷ワインは、ぶどう栽培においては非常に難しい「有機栽培」を実践している。有機栽培はぶどうの力を信じた栽培方法で、収穫まで常にリスクが付きまとう。そのため、有機栽培に対応できる強さを持つ品種が望ましいのだ。

最後のソーヴィニヨン・ブランは、試験的に栽培している品種のひとつ。現在のところ栽培は軌道に乗っており、ワインにしたときにうまく味が出ている。オレンジワインとして醸した際にも、よい仕上がりになった。そのため、今後も栽培を続けていく方針だ。

「『デラウエアが明らかに育てやすい』こと以外でいうと、土地に合う品種が何であるかはいまだ研究中です。4年続けてみえてきたのは、『難しい品種がどれか』ということですね。西洋品種は軒並み難しい印象です」。

栽培方法を変えたり、接ぎ木しながら新しい品種を試したりしつつ、研究していきたいと話す木谷さん。今後予定しているのは、アルバリーニョの栽培だ。奈良の土地にあう品種を見つけるまで、木谷さんの研究と挑戦は続く。

▶棚と垣根両方で栽培するぶどう畑 畑の拡張も進行中

木谷ワインでは、棚仕立てと垣根仕立ての両方を使用してぶどうが栽培されている。

「天理の畑のうち35aが垣根栽培で、残りは棚栽培です」。
木谷さんが利用しているのは、畑にあった既存の棚。垣根栽培の部分は、既存の棚が倒れていたため垣根に植え替えたのだ。

垣根栽培を選んだのには、棚と垣根を比較する意味もある。
「実際に栽培を続けてみて、現時点では棚栽培に可能性があると感じています。垣根もゆくゆくは棚に変更するかもしれません」。

日本の気候に適していて栽培が容易な棚栽培だが、初期投資がかかるというデメリットがある。必要資材は垣根と比較して倍以上、設置にも大きな工事が必要だ。条件やメリットとデメリットを多角的に考慮し、ぶどうを栽培する。木谷さんの栽培方法の探求には、終わりがない。

より多くのぶどう栽培をおこなうため、畑は現在も拡張中だ。拡張といっても、簡単にできることではない。通える立地にあり栽培条件がよいことなど、たくさんの要素をクリアしなければ、畑を広げることは難しい。

しかし木谷さんは、畑に縁があったようだ。
「幸いなことに、大阪の畑を買ってほしいと声をかけられることが増えました。生産量を上げたいと思っていたなかでのチャンスなので、条件がよければ買い取っています」。

木谷さんの目標は、畑の総面積を2haまで広げること。すこしずつではあるが、目標に近づきつつある。

▶品質を求める信念が選ばせた「有機栽培」という茨の道

木谷ワインでは、ぶどうの有機栽培が行われている。日本でのぶどう有機栽培は難しいとされるなかで、なぜあえて有機栽培を選ぶのか。

「有機栽培は、ぶどうの質がもっとも高められる方法だと信じているからです」。
収量や品質が年ごとの天候によって大きく左右される有機栽培。肥料を与えない場合は特に影響が大きい。

それでもあえて有機栽培にこだわるのは、有機栽培のぶどうで醸造したワインが美味しいから。最高のワイン醸造を求める醸造家として、実にシンプルでまっすぐな理由だった。

木谷さんがワイン造りで目指すのは、「100点」の質を出すことだ。
「慣行農法で育てると、80点のぶどうを安定して収穫できますが、100点を取るのは難しい。有機農法は年によって20点もあるけれど、100点もある。気候や条件がガッチリとはまれば、最高品質のワインができるのです」。

一種のギャンブル的要素を含んだ不安定さがある。しかし最高のものができる可能性を秘めている有機農法。だからこそ造り手としては、「おもしろさ」を感じるのだという。

「年による波は相当大きいですし、あまりにも手をかけているので、自分でも趣味的だと感じることがあります。しかし、いくら不安定であったとしても、最高のワインを造るのが目標なのです」。

木谷さんが有機栽培をしているのは、ワインの可能性を極限まで高めたいから。何よりもクオリティを重視しているからこそ選んだ栽培方法だ。己の信念を貫くため、あえて困難な道を歩む。

▶年間最低醸造量をクリアしつつ有機栽培を貫くために

有機農法を貫くには、想像を絶する大変さがあるだろう。そのうえ、木谷ワインはハウスワイン特区の制度を利用していないため、醸造免許を更新するためには年間6,000ℓの醸造量確保が必要だ。安定した収穫量が上げられなければ、ワイン醸造を続けること自体が難しくなってしまう。

有機栽培による栽培リスク回避のために木谷さんがとっている手段が、ドメーヌのラインナップと買いぶどうワインのラインナップを分けることだ。

ドメーヌとは、自社で栽培から醸造販売までを完結させるスタイルのこと。有機栽培ぶどうを使用したこだわりのワイン醸造が、ドメーヌのラインナップになる。一方、買いぶどうによるワインは、スタンダードな品質のワインになる予定だ。

異なる性質を持つふたつのラインナップを展開することで、醸造量の確保や商品の多様性を広げる狙いがある。

「ワイン特区を利用すれば、ドメーヌのラインナップ1本でもやっていけたかもしれませんが、大阪と奈良に畑を持っているので特区は利用できなかったのです。ですが、特区を選ばなかったことで、ほかの地域のよいぶどうを買い取ることができるなどのメリットもあります」。

特区制度を利用することで最低醸造量の基準からは開放されるが、木谷さんは特区を利用しない利点にも目を向けているのだ。

「選択肢を広く持ったほうが、可能性も広がります。特区を選ばなかったのは、正しい選択だったと思っています」。

▶雨が多かった2021年 厳しい年も経験に変えて

「2021年のぶどう栽培は厳しい状況でした。西日本のぶどうは壊滅的です。本当に雨が多い1年でした」。

2020年の栽培と比較すると収量は半分にまで減少した。しかし木谷さんは前向きだ。

「自社醸造がスタートする前だったのでよかったと、ポジティブに捉えています。難しい年のワインとはどういうものかも知ることができました」。

2021年のぶどうを醸造してみて分かったのは、条件の厳しいぶどうでは糖度やアルコール度数が不足しているため、微生物汚染の可能性が高まるということ。ワイン醸造におけるアルコールの重要性や味への影響を、身をもって知ることができた。

難しい天候も、技術研鑽を日々続ける木谷さんにとっては「学びの機会」だ。すべての経験は、何かしらの意味を持つ。あらゆる困難も学びに変えて、ものづくりの高みを目指すのだ。

『委託醸造から自家醸造へ 木谷ワインのワイン造り』

次に、木谷ワインで醸造する、ワインについて紹介したい。

どんな場面で楽しんでもらいたいかという質問に対し、「自分の造ったワインを美味しく飲んでくれるなら、なんだって嬉しいです」と、話してくれた木谷さん。木谷さんの言葉からは、よいワインを造りたいという思いと、飲み手への感謝の思いが感じられる。

木谷ワインが醸造するワインの特徴やこだわり、目標をみていこう。

▶造りたいのは「水」を思わせる飲み心地のワイン

木谷さんが目指すワインの目標は、水のような飲み心地のワインを造ること。

「日本のテロワールを表現するものは水だと思っています。例えば白ワインであれば、クリーンな味が目標です」。

日本らしさと、奈良らしさを表現しながら、自分の個性を出すワイン造りをする。どこで作られ、誰が作ったぶどうかを明確に分けて、それぞれの特徴が損なわれないようにワインを醸造するという考え方だ。

木谷ワインのファーストヴィンテージは2017年。5回の委託醸造を経て、2022年の秋から自家醸造がスタートする。

委託醸造では、複数の委託先を利用してワインを造ってきた。
「ワイナリーによってカラーが違います。いくつものワイナリーに委託することで、多くの技術を吸収できると考えました」。

委託先のひとつに、三重県の「國津果實酒醸造所」がある。木谷さんは天然酵母による発酵技術を学ぶため、國津果實酒醸造所を委託先に選んだ。

「ワイナリーによっては、ほぼすべての醸造工程に関わらせてくださるところもあるので、自家醸造のイメージをふくらませることができました」。

委託醸造で完成した2020年のデラウエアワイン「u」は、木谷さんが「気合が入った一本」と表現するワイン。ヴィンテージならではの特徴を、巧みに表現した。無農薬で栽培された自社畑のデラウエアを100%使用し、酸化防止剤は無添加。日本の一大ワイン産地にある長野のワインショップの目にも留まった銘柄だ。

「ワインの本場である長野に自分のワインを送るのは緊張しますが、なにか響くものがあればと思います」。

これから自家醸造がはじまれば、さらに自分の求めるワイン造りが追求できる。じっくりと低温発酵させた、洗練された白ワイン。乾燥酵母は使用せず、天然酵母かつ酸化防止剤不使用のワイン。
舌の上に酢酸の風味を感じる、ナチュールのワイン。木谷さんが実行したい醸造のイメージは、すでに固まっている。あとは自社ワイナリー設備の完成を待つのみだ。

▶ワイン造りは「サイエンスのアート」 醸造への思い

「造り手によって完成形が変わるのがワイン造りのおもしろさです。ワイン造りは、サイエンス要素があるアートだと思っています」。

ワイン造りに正解はなく、ゆえにワインの完成までには星の数ほどの選択肢がある。無数の手法の中から、何を選びどんなタイミングで実行するか。どんなぶどう栽培をしたかによって、ワインの仕上がりが変わる。

同じぶどうを使って同じ地域で醸造したからといって、造り手が違えば、おなじワインは生まれないのだ。

ワイン造りは「自ずと造り手の人生がにじみ出る」と、木谷さんは考える。造り手の数だけワイン哲学があり、人生をかけた表現で作品を作り出す点はまさにアートといえる。

もともとものづくりに興味があったが、「デザイン」は苦手だったと話す木谷さん。ワイン造りに必要なのは「デザイン力」より「科学の知識」。科学の知識を使ってアートができる点に、言いようのない魅力を感じたのだ。

植物の成長や、微生物による発酵。ワインには科学の要素が大いにある。「デザイン部分は自然や酵母に任せ、自分が得意なサイエンスでアートをしているイメージです」。

自然と木谷さんの合作で生まれる「ワイン」という芸術品。運命的に出会ったワイン造りは、木谷さんにとってかけがえのない生きがいになっている。

▶苦労も前向きに乗り越える

異業種から転向してワイン造りを始めた木谷さん。現在に至るまでに、苦しかったことや楽しかったことを数え切れないほど経験してきたことだろう。印象に残っているエピソードについて伺った。

「苦しかったことはたくさんあったはずなんですが、忘れてしまうんですよね。初めのころ、造ったワインの味わいに苦言を呈されたことや、畑で火事を起こしてしまったことなどでしょうか」。

静かにほほえみながら話してくれた木谷さんは、苦しいことがあっても引きずらず、ポジティブに進み続ける。

「楽しいのはやはり、ぶどうの収穫とワインの完成を仲間と迎えられることです。大きな達成感と喜びがあります」。木谷さんの畑の収穫作業には、地域の飲食店や酒屋、地元の友人などが駆けつける。ワイン好きの人が、収穫作業を手伝いに来てくれることもあるそうだ。

新型コロナウイルス感染症による影響も、無縁ではなかったはずだが、ピンチはチャンスととらえて前向きだ。

「自分はまだスタートラインに立ったばかりですので、給付金等も活用してチャンスに変えようと思っています」。自分の状況に感謝しつつ、さらに上を目指す姿勢は、心から応援したくなる魅力を持っている。

「しっかりと準備することこそが大切だと考える人もいるとは思います。ですが、私自身は早く決断してやりたいことを始められてよかったです。何事も前向きに捉えることで、周りにもよい影響を与えられるはずです」。

木谷さんであれば、これからどんな苦労が待ち構えていようとも乗り越えていけるだろう。そう思わせる意志の力に満ちている。

『木谷ワインの未来 奈良県初のワイナリーとして目指すもの』

最後に、木谷ワインの将来の展望について紹介しよう。

目指すのは、大きくふたつ。自社醸造ワインでのチャレンジと、奈良県で初のワイナリーとしての活動だ。それぞれ紹介していこう。

▶始まる自家醸造 デラウエアでドンペリを

2022年ヴィンテージから、木谷さんが心から楽しみにしている自家醸造がはじまる。自社醸造で掲げている目標は、自分のやりたい醸造にチャレンジすること。そして「デラウエアでドンペリを造る」ことだ。

「委託醸造ではチャレンジできなかった方法や、昨年醸造してみて気づいたことを試すなど、やりたいことがたくさんあります」。
自分のワイナリーだからこそできることを試し、さらにクオリティを上げたいと決意を話してくれた。

もうひとつの目標として挙げた、「デラウエアでドンペリを造る」こと。木谷ワインの柱である「デラウエア」の可能性を追求するために掲げたキャッチコピーだ。

デラウエアは、スパークリングワインへのポテンシャルが高いことが分かっている。
「これまでデラウエアといえば、安いワインのイメージでした。今後はイメージを変えられるよう、工夫して最高品質のものを造りたいです」。

価格を1万円前後に設定し、こだわりを詰めたワインにしたいと考えている。木谷さんなら造りあげてくれるはず。今からワインの完成が楽しみでならない。

▶奈良初めてのワイナリーとして目指すこと

「奈良県初のワイナリーだということを、うまく生かしたいと考えています。地域のプラットフォームとして活動したいですね」。

ぶどう栽培から醸造までを一貫してできる設備が整うことで、ほかの農家とのコラボレーションが可能になる。地域の農家が作ったいちごやりんご、なしをお酒にする「委託」を請け負うことも構想しているのだ。木谷ワインを中心に、地域農業が活性化するきっかけになるかもしれない。

「ゆくゆくは、自分より若い人たちのなかに、奈良でワイン造りがしたいという人が出てきてくれると嬉しいですね」。
木谷さんは未来の奈良ワインに思いを馳せる。

『まとめ』

ワイナリーがなかった奈良県で、有機栽培のぶどうを用いてワインを醸す木谷ワイン。異業種からワイン造りの世界に飛び込んだオーナーの木谷さんは、物静かながら、ものづくりへの情熱を秘めた芸術家だ。

自家醸造がスタートすることで、木谷さんの目指す思いがワインとして実体化することだろう。木谷さんのワイン哲学が詰まったワインを、思う存分楽しむことができる日が待ちきれない。

奈良ワインの基礎を造ることになるであろう、木谷ワインが秘めた可能性は無限大だ。これからもワイナリーの活動を追いかけ、こだわりのワインを味わうことで、木谷ワインを全力で応援したい。

基本情報

名称木谷ワイン
所在地〒639-0231
奈良県香芝市下田西3丁目6(醸造所)
アクセス【電車】
近鉄下田駅より徒歩6分
JR香芝駅より徒歩12分
HPhttps://narawine.com/

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