『あさや葡萄酒』造り込みすぎない自然な土地の味を大切にする、甲州市勝沼のワイナリー

日本ワインの故郷、山梨県甲州市勝沼にあるワイナリー『あさや葡萄酒』は2021年に創業100年を迎えた老舗ワイナリーだ。
「山梨の風土を生かしたワイン造り」に特化し、幅広いラインナップのワインをリリースしているあさや葡萄酒。今回は、専務取締役の雨宮一樹さんにお話を伺った。

『あさや葡萄酒の歴史』

あさや葡萄酒の創業は大正10年(1921年)のことだった。創業者の雨宮高造氏は、雨宮さんの曽祖父にあたる。
「あさや(麻屋)」の屋号は、高造氏の奉公先である酒屋「麻屋酒店」の屋号を暖簾分けしてもらったことに由来している。

奉公先から実家の勝沼に戻った高造氏は、当初は販売のみの酒店を営んでいた。

1920年代初頭、勝沼でぶどうの栽培が急速に広がった。主要作物であった米や桑に高値がつかなくなってきていたからだ。また、勝沼の地がぶどう栽培に適した土地であるとして、国が栽培を推奨したという時代背景もあった。
その流れを汲み、地域のぶどう栽培を生かした事業をということで高造氏はワイン造りを開始、あさや葡萄酒の歴史が始まったのだ。

▶ワイン不遇の時代

3代目社長の雨宮高明氏によると、ワインが売れない時代にはトラックにワインを積み、山梨や東京にまで売りに行っていたこともあったそうだ。
ワインは舶来もの、というイメージが強いため認知されにくく、普及しているものは赤玉ポートワインなど、甘味果実酒が主流だった頃のことだ。
その後、数々の先人たちが乗り越えた苦労があって、現在の日本のワイン文化が存在することを考えると感慨深いものがある。

▶蔵の中で遊びまわった子供時代

現在の専務取締役の雨宮さんにとって、ワイン蔵は小さい頃の遊び場。ワイン造りは日常の風景として存在していた。長男である雨宮さんが父である現社長に後を継ぐように打診されたのは東京農業大学の醸造学科を卒業する前のことだった。

雨宮さんが大学4年の頃、日本には赤ワインの大ブームが訪れていた。あさや葡萄酒でも人手不足となり、雨宮さんに声がかかったのだ。

雨宮さんは大学時代に、イタリアンレストランでウェイターとしてアルバイトをしていた。実家がワイナリーであることも意識しつつ、店のマネージャーからワインの知識を吸収していたのだ。

「当時、環境問題が叫ばれ始め、環境に関わる仕事がしたくて大学を選びました」と語る雨宮さん。
あさや葡萄酒の後継としての意識は、潜在的にあったに違いない。大学を卒業して地元に戻り、以来20年以上の年月をワイン造りに捧げている。

『あさや葡萄酒の栽培品種』

あさや葡萄酒で栽培しているぶどうの品種は全13種と多い。

白ワイン用品種が甲州、デラウェア、シャルドネ 、甲斐ブラン。
赤ワイン用品種はマスカット・ベーリーA、ベリー・アリカント、ブラッククイーン、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、アジロン・ダック、サンジョヴェーゼ、テンプラニーリョ、プティ・ヴェルドだ。

▶時代の流れとともに選ばれた品種

2000年代初頭、当時は世界的な品種として、赤ワインではカベルネ・ソーヴィニヨン、白ワインではシャルドネが主流であった。勝沼でも、主流である甲州やマスカット・ベーリーAに替わり、欧州系品種のぶどうを垣根栽培とともに普及させようとする動きがあった。
また当時の勝沼周辺の地域では、大雪の影響で栽培用の棚が倒壊する被害が出た。そのため、垣根栽培のカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネを普及させようという流れもあったのだ。

あさや葡萄酒でも甲州やマスカット・ベーリーAの他にも、欧州系品種の栽培からトライしたいという思いがあったのだ。

現在のあさや葡萄酒は山梨県オリジナル品種の栽培に積極的だ。現在の13種に加え、2021年3月からは山梨県のハイブリッド品種を2種植える予定だ。
白ワイン用品種のモンドブリエ、赤ワイン用品種はビジュノワールだ。あさや葡萄酒では試験的に多種類のぶどう品種を植え、さらに適種を選んでいく方針だ。

▶適地適種

雨宮さんが語るところによると、あさや葡萄酒の圃場に合ったぶどうの品種は、白ワイン用では甲州、赤ワイン用ではマスカット・ベーリーA、メルロー、ブラッククイーンだという。
マスカット・ベーリーAは軽やかな味わいのタイプのワインになる傾向がある。しかしもう少し骨格のある、色調の濃いワインになるものを目指すには、小粒で果皮のタンニンや色素が豊富なぶどうが必要だ。
そこで2007年にメルロー、ブラッククイーンを植栽した。

▶品種選択と栽培法の試行錯誤

2000年代初頭は外国産のワインを輸入して、国内のブドウとブレンドしたワインを日本ワインとしてしていた。
そのため、当時の日本のワイン産業は外国産ワインに頼っていた部分があったのだ。 そんな中、あさや葡萄酒では自社栽培の割合を増やしていこうということになり、メルローやブラッククイーンを植えた。
収穫量や栽培のしやすさ、収穫時期などを考慮した結果だった。

木の植え方は、従来棚があった場所なので棚を利用した新短梢栽培や、元の木をT字型に作る一文字短梢栽培にして効率的に管理できるような木の植え方を取り入れた。
畑の1か所だけは垣根栽培を採用し、カベルネ・ソーヴィニヨンを植えている。

▶病気への対策

日本中のぶどう農家を長雨で苦しめた2020年は、あさや葡萄酒や近隣のぶどう農家にとっても難しい年となった。
病気に強いと言われている甲州などの品種でも、べと病が多くでたのだ。

畑によってメルロー種は収穫量が80%減となり、2020年の自社ぶどうのヴィンテージはリリースを断念した。

あさや葡萄酒ではそのような病気の対策として、フランスで120年ほど前から使用されているボルドー液を使用するタイミングを工夫し、できるだけナチュラルな防除を心がけている。
また、天候によっては日差しの量が減るため、風通しを良くするために木を植える配置を考慮している。雨の対策としては品種や畑の場所などによっては1房ごとに傘紙を掛けるなどの対策を行なっている。

「長年ぶどう栽培に携われば、難しい年に出会うのは先人たちも同じことでした。難しい年があれば反省点がわかるようになり、防除のタイミングなどの引き出しが増えるんです」と雨宮さんは語る。
自然が相手の農業では、経験が何よりの教材ということなのだろう。

『あさや葡萄酒の畑』

あさや葡萄酒の畑は全部で2ha弱、ワイン生産量の2割程度を自社栽培のぶどうで賄っている。残りの原料は先代からの付き合いの農家や、地元勝沼の農家のぶどうを中心に使用している。

自社畑に関しては、「先代からぶどう栽培を行っていた土地なので、ぶどうにあった土地なのは間違いないですね」と雨宮さん。土壌にはほとんど手を加えていないという。
雑草にも土の表面を柔らかくする効果があるということで、近年では草生栽培を行っている。梅雨や雨の多い時期には雑草をある程度伸ばしておくと、畑の余分な水分を蒸散させる効果もある。

化学肥料もあまり使用せず、堆肥を3年に1度程度入れるようにしている。従来からあった土壌が土地の個性として、ぶどうに反映される。そのため、窒素やリン、カリウムの肥料三大要素に関しても、ぶどうの表情を見ながら必要な成分だけを入れる程度に留めている。
あさや葡萄酒では土地の特性を生かし、できるだけナチュラルな環境でぶどうを育てているのだ。

▶耕作放棄地を新たな畑に

雨宮さんに、畑をするうえでの苦労を尋ねると、耕作放棄地での畑造りのことを挙げた。長年放置された土壌は硬くなるため、機械を入れて柔らかくしていく必要がある。大木を取り除いたり、整地をしたりなどの大変な作業もある。

しかし「苗木を植えるまでの段階には面白さもあります。周りのスタッフと力を合わせての共同作業はなかなかできない経験でもあります」と雨宮さんは語る。苦労の中にこそ喜びがあるという部分は、農業の醍醐味なのかもしれない。

『あさや葡萄酒のワイン』

あさや葡萄酒では、自社で作ったぶどうのワインに関しては地理的表示「山梨」(GI Yamanashi)や甲州市原産地呼称ワイン認証制度を取得し、畑からのストーリーがわかるワイン造りを目指している。

▶造り込みすぎないワイン

あさや葡萄酒では高品質のワイン造りのためにできるだけ健全なぶどうを収穫する、という基本を忠実に守っている。あさや葡萄酒のワイン造りに対する姿勢は、あくまでも「造り込みすぎない」というものだ。

甲州を使った白ワインは、ぶどうの果実味をしっかり味わえるものに仕上げている。「勝沼甲州シュールリー」は果汁を絞るときにあまり1番搾り、2番絞りに分けず、高圧気味に絞る。
皮の近くの果皮の旨味を抽出、味わい深さがポイントのワインとなっている。

▶オレンジワインと樽熟成

最近では甲州を使ったオレンジワイン「勝沼甲州かもし」もリリース。ぶどうの果実味全体を表現したワイン造りにも取り組んでいる。

マスカット・ベーリーAは、ぶどうの持っている本来の旨みを出すため完熟するまで待って収穫する。醸造して樽で熟成、深みのあるワインに仕上げている。

▶花鳥風月シリーズ

あさや葡萄酒では、比較的早い段階で山梨県オリジナル品種を自社や契約農家で栽培、ワインにしてきた。しかしそれらのワインは品質が良いにも関わらず、他にも多数のワインがあるなかで埋もれてしまうことが多々あった。
それら山梨県オリジナル品種のワインをシリーズ化しフィーチャリングしたのが『麻屋花鳥風月シリーズ』だ。

2000年代初頭は、世界的にニューワールドワインが台頭。シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンなどタル香やパンチの強い味わいが主流だった。その後、昔からの地域ごとの土着品種に注目が集まるようになったのが2005年の頃だ。

『麻屋花鳥風月シリーズ』は、その2005年にリリースされた。同シリーズはマスカット・ベーリーAを使用した『花 ルージュ』、甲斐ブランを使用した『鳥 ブラン』、甲州を使用した『風 ヴェール』、甲斐ノワールを使用した『月 ノワール』の全部で4種。
全て地元勝沼町・峡東地域で栽培されたぶどうを使用したワインだ。

そのなかでも特筆すべくは『花 ルージュ』だろう。除梗を行なっていない全房発酵のワインだ。通常取り除かれる茎の成分まで取り込んで抽出され、ぶどうの持つ複雑な味が表現されている。

『麻屋花鳥風月シリーズ』のエチケットは、古風さのある和のデザイン。デザイナーは雨宮さんの高校時代の同級生なのだそう。シリーズ全てを並べて置いておきたくなるような、趣のあるデザインだ。

▶SHIBUYA CITY F.C.所属 阿部翔平選手とのコラボワイン

あさや葡萄酒では2021年から、SHIBUYA CITY F.C.阿部翔平選手とのコラボレーションワイン『ISSHU(イッシュウ)』をリリースしている。
阿部選手は名古屋グランパスの所属時代にサッカー日本代表候補になった実績がある。

コラボのきっかけは、阿部選手がヴァンフォーレ甲府に所属していた頃に出演したFMラジオ番組だった。
番組内で阿部選手はワイン好きであることを語った。そこで番組DJが冗談半分で「そういう業界の人がいらっしゃったらワイン送ってください」と呼び掛けたのだ。

偶然その番組を畑で聞いていた雨宮さんは、当時サッカーをしていた息子さんと連名で阿部選手にワインを送った。
すると阿部選手はオリジナルのスパイクを携えてワインのお礼を言うために、ワイナリーまで雨宮さんを訪ねてきたのだそうだ。

そのやりとりが縁となり、阿部選手が甲府から移籍する際には地域の子供達を集めてワイナリーで特別サッカー教室を開いたり、激励会をしたりなど、家族ぐるみの付き合いとなった。

ワインのコラボレーションに関しては、阿部選手の方から数年前に申し出があった。エチケットのデザインだけではなく、味わいにもこだわったものを出したいという希望だったという。

たまたまその頃、勝沼の『山梨園』から甲州を譲り受けるという機会が重なり、阿部選手もぶどうの収穫から醸造までを体験し、味のプロデュースをした。SHIBUYA CITY F.C.のYouTube画では、阿部選手が足でぶどうを破砕している様子などを見ることができる。

「サッカー選手のたくましい足で踏んだぶどうの味は、ストーリー込みで美味しいものだと思います。実際、面白い味に仕上がっていますよ」と雨宮さん。あさや葡萄酒の『ISSHU』は、サッカー選手とワイナリーの不思議な縁が生み出した、ほかに類を見ないワインなのだ。

▶秘蔵のワインで作った濃厚古酒

『濃厚古酒』は先代が作った1978年の古酒に、ブランデーを添加した甘味果実酒だ。地下セラーで熟成した秘蔵の甲州ワインには、ワイン以外のお酒を思わせる独特の香りがある。
琥珀色が美しく、夏はロックで、冬はお湯割にと、楽しみ方の幅が広い。オリジナルカクテル作りにも良いだろう。

▶あさや葡萄酒のワインと食

あさや葡萄酒では、ワインを文化として定着させるためには、日常の食卓に合わせて欲しいと考えている。

「肩ひじ張らずに、和の調味料を使った料理と。例えば肉じゃがと甲州とかを一緒に楽しんで頂きたいですね。逆にメルローなどのしっかりした味わいのものは、ハレの日に飲んでもらいたい。ワインは飲んでもらってなんぼですからね」 と雨宮さんは言う。

あさや葡萄酒の甲州は、皮近くの旨味も出ていて、ほんのり渋みもある。鶏肉や豚肉など、淡白な肉料理に合わせても面白い。

マスカット・ベーリーAなどの軽い赤ワインは、肉だけではなく赤身の魚とも相性がよい。さまざまな組み合わせのバリエーションで楽しんでもらいたい。

『あさや葡萄酒のこれから』

世界のワインの流行は、各地域の古くからの品種、地域の風土を反映したワインが主流になりつつある。あさや葡萄酒としても、山梨県オリジナルのワインを目指していきたいと考えている。
中でもワイナリーのある甲州市、勝沼の土地の味を表現することを柱にし、あくまで造り込みすぎないワイン造りを継続していく構えだ。

雨宮さんは言う。「僕がワイン造りに入った当初は、甲州ぶどうから『目指せシャルドネのワイン』とか、マスカット・ベーリーAから『目指せピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン』という時期もありました。でもやはり、甲州からシャルドネは造れませんよね」

甲州ぶどうの持っている味は、造り込みすぎると持ち味を失ってしまう。収穫したあとのぶどうを食べてみて、どういうワインがいいのかを考え、品種の個性を出す。あさや葡萄酒のワイン造りへの姿勢は、ワインの世界に素晴らしい多様性を生み出していくだろう。

『まとめ』

近年はEPA(経済連携協定)などの影響により日本にも低価格の外国産ワインが入ってくるようになった。雨宮さんはそのような状況も、逆に日本ワインの良さにも気付いてもらえる好機だと考えている。
国内外、それぞれの土地の味が楽しめるのもワインの良さのひとつなのだ。

日本中、そして世界中のワイナリーのワインでその土地を旅した気分を味わいたい、と言うのは欲張りだろうか。

まずは山梨の風土の味を生かした『あさや葡萄酒』のワインで、勝沼を旅した気分になってほしい。

基本情報

名称あさや葡萄酒
所在地〒409-1315 
山梨県甲州市勝沼町等々力166
アクセス電車でのアクセス
JR中央本線「勝沼ぶどう郷」駅下車、駅よりタクシーで約8分。
駅よりバスご利用の場合は、甲州市営・勝沼地域バス(*時刻表等の情報はこちら)<ぶどうコース「等々力公民館前」>または<ワインコース「等々力四つ角南」>バス停がワイナリー付近にございます 。
車でのアクセス
中央道「勝沼」インターチェンジより20号線を甲府方面へ。5つ目の「南野呂千米寺」の信号を右折。塩山方面に向かい「等々力四つ角」の信号手前、右側の看板が目印です。
HPhttp://www.asaya-winery.jp/

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