北は日本海が広がり、南に奥出雲などの山々を臨む自然豊かな山陰地方。
日本の原風景が広がり、神々のふるさと、とも呼ばれているこの地方の中心的存在、島根県の出雲大社。
日本最古の歴史書、古事記に起源が記されているこの神社は、縁結びの神として全国から信仰を集め、一年中絶えず数多くの人が訪れ、近年ではパワースポットとしての人気も高い。
そんな霊験あらたかな出雲大社のすぐそばに、島根ワイナリーは位置している。今回は、島根ならではの高品質ワインを探求している、島根ワイナリーを紹介していこう。
『島根ワイナリーの歴史』
ここ島根県では、かつて養蚕用の桑畑だった土地を利用して、明治時代からぶどうが栽培されてきたが、特に昭和30年代、山陰地方の特性とも言える長雨によって、裂果や着色不良のぶどうができてしまうという問題を抱えていた。そんな食用として出荷できないぶどうを活かす産業を興そうと、昭和32年、島根県中央農業共同組合連合会により、島根ワイナリーの起源となる『簸川地方葡萄加工所』が、ワインの製造、販売を目的に設立された。
そして昭和34年、果実酒製造・販売免許を取得。『有限会社大社ぶどう加工所』として試験醸造を開始し、7,600Lの『島根ワイン』を醸造することに成功した。その後、島根産のぶどうを使ったワインを多くの人に知ってもらいたい、飲んでもらいたいという願いから、昭和61年に現在の大社町菱根地区へと工場を移転、山陰地方初の観光ワイナリーとして再スタート。
①良いぶどう作り(第一次産業)
②良いワイン造り(第二次産業)
③よりワインを身近にするサービス(第三次産業)
の3つを一貫した総合実施を目指してきた。
北に弥山、東には出雲大社を臨む風光明媚な菱根の地のワイナリーでは年間平均30万本のワインを製造、多い時には年間100万人もの人が訪れる観光ワイナリーとして発展した。
『島根の風土から最高のワインを生み出すために。ぶどう栽培の最適地を求めて』
島根ワイナリーは創業以来、平地という、ぶどう栽培には厳しい条件下で試行錯誤を重ねてきた。特に欧州系ぶどうに関しては、どんなに手をかけてもなかなか思ったような品質のものが収穫できない時期が続いた。
しかし、試行錯誤を重ねるうちに努力が実り、品質の良いぶどうが収穫できるようになった。だが、それだけで満足することはなかった。品質の良いぶどうができ、良いワインとして結果が出れば出るほど、島根ワイナリーはさらなる品質向上を求めるようになった。
「ワイン醸造を、根本であるぶどう栽培から見直しを図りたい。しかも、島根のこの地で。」その情熱から、島根ワイナリーはぶどう栽培に最適な土地を探し求めた。そして平成20年、中国山地の奥出雲町(旧横田町)鳥上地区に自社農園『横田ヴィンヤード』を開園した。島根の風土から最高のワインを生み出すため、島根ワイナリーのさらなる挑戦がここからスタートした。
『島根ワイナリーの新天地「横田ヴィンヤード」』
スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治し、高天原から降臨した地とされている伝説の山、船通山を望むことのできる横田ヴィンヤード。昔から小そば(粒の小さい横田そば)の産地としても有名な土地だ。
標高は約450mあり、日本の代表的なワイン産地である長野県や山形県とほぼ同じ平均気温(12.1℃)の冷涼な気候の土地である。また、盆地かつ内陸性気候であるために、昼夜の寒暖差が10℃以上と大きい。
この条件のもとで育つぶどうは皮が厚く、実のしまった高品質なものになり、そのぶどうから造られる赤ワインは濃く美しい色に、白ワインは香り高く仕上がるのだ。
砂質まじりの粘土質土壌である横田ヴィンヤードの畑作りで、最も注力したのは排水だ。島根の雨量の多さはぶどうの粒を大きくする傾向にある。
ワイン造りに適した味、香りが凝縮した小粒のぶどうを作るため、排水に対しては万全の対策を行う必要があった。
横田ヴィンヤードではすべての畝間に対し暗渠排水を設置し、雨が降っても畑からすぐに排水できるよう、環境を整えた。
『島根ワイナリーのぶどう栽培へのこだわり』
「ぶどう栽培にとって一番重要なポイントは、ぶどうの各生育ステージ、例えば、成長が止まる、実に色がつく、などの生育ステージを、各期間内にきちんと終わらせる、ということなのです。
これが各期間内にきちんと終わらないと、味に大きな影響が出てきてしまいます。例えばカベルネ・ソーヴィニヨンはぶどうの房の成熟期間にきちんと日光を当てないと、実が未成熟となり、ピーマンの香りのするワインになってしまいます。いつ葉を取り、いつ防除をするかなど、すべての生育ステージの作業には意味があるのです。」
島根ワイナリーの栽培指導課長、藤原和彦さんはそう語る。
藤原さんは東京農業大学出身。島根ワイナリーに入社以来、ぶどう栽培一筋の道を歩んでいる。2019年には「日本ワインコンクール」の審査員を務めた。
2020年の今年は長梅雨のため、多くのぶどう農園が大きく収穫量を減らした中、藤原さんらの尽力によって横田ヴィンヤードは例年通りに収穫を終えることができた。
「梅雨が長かった今年は特に7月の降雨量がとても多く、そのため、多くのぶどう畑でベト病などの病気が出て、収穫量が少し減りました。一方、横田ヴィンヤードでは病気もなく、収穫量もほぼ例年通りで、良いぶどうが収穫できました。」
ぶどうの生育状態と天候とを睨み合いつつ、複雑な状況判断を絶えず要求されるぶどう栽培において、藤原さんらの経験と熱意が、特に厳しかった今年の自然状況を乗り越え、島根ワイナリーならではの高品質ワインの根幹を支えたのだ。
『新鮮で華やかな果実の香味をそのままに収穫する「ナイトハーベスト」』
横田ヴィンヤードではシャルドネ種の「ナイトハーベスト(夜間収穫)」を行っている。社員全員で夜中の2時から早朝6時までに収穫を行うのだ。
ナイトハーベストは芳香高いワインを造るための収穫方法である。日中のぶどうは呼吸をしているため酸素の消費量が多い状態だが、夜間のぶどうは葉のメカニズムとして、なるべく酸素を使わないようにしている。
そのため、夜間のぶどうは昼間よりも内部に香りや糖などの成分が多く閉じ込められた状態となっている。ナイトハーベストによって収穫されたシャルドネは、フルーティな香りと味わいがより豊かに活かされたワインへと醸造されるのだ。
『島根ワイナリーの目指すワインとは』
現在、島根ワイナリーでは年間平均約40万㎘、本数にして約30万本のワインを生産している。
日本にまだ本格的なワインを愛好する層が少なかった時代には、親しみやすい味のスイートワインの醸造が中心だった島根ワイナリーだが、現在はスイートワイン以外のワイン醸造も増えてきている。
島根ワイナリーは、ここ数年のうちにいくつかのコンクールで部門最高賞を含めた様々な賞を獲得するほどの、本格派ワイナリーとして急成長を遂げた。その成長の陰には、島根の風土を生かした良質なぶどうの栽培と、高品質ワインを生み出す醸造技術への、飽くなき探究の存在があった。
「まだ取り組み段階ですが、島根の特徴を出したワインを目指しています。」と製造課長の倉橋さんは語る。
倉橋さんはもともとお酒好きではあったが、最初から「ワインが造りたい」とは思っていなかったそうだ。しかし、異動で現在の製造課に配属されてからは、今まで以上にワインが好きになったという。
2019年の日本ワインコンクールにて、『島根わいん 縁結 甲州 2018』が金賞を受賞した際には、その知らせに人目をはばからずに涙したそうだ。
そんな情熱的な倉橋さんの造る、「島根の特徴的な香りや味わいが感じられるワイン」を飲むことができる日が今から楽しみである。
『島根ワイナリーの醸造へのこだわり』
高品質なワインを造るためには、良質なぶどうの特性を最大限に引き出す必要がある。そのためにワイン醸造に求められる技術は、非常に多岐に渡る。
その中でも、島根ワイナリーが最もこだわっていることは、酸化防止だ。絞ったぶどう果汁を各工程でなるべく酸素に触れさせないよう、素早い作業を心掛けている。
また、ワインそれぞれの個性に大きく影響する、ぶどうの特徴と使用する酵母の種類の組み合わせの見極めにも苦労されている。ワインを熟成させる樽の選定に対しても同様だ。
最初に決定したワインの方向性に向け、様々な要素をどのように組み合わせるか。どのようにすればその方向性に近づけることができるか。ぶどう、酵母、そして樽。実に複雑なそれらの組み合わせに加え、熟成期間の調整を試行錯誤することにより、島根ワイナリーのワインは、高品質で、他にはない個性を持ったものとなるのだ。
『島根ワイナリーのおすすめワイン』
島根ワイナリーでは普段の食事、特に和食に合うワインを多数取り揃えている。家庭で気軽に楽しめる、バラエティ豊かなワインを販売している。数ある島根ワイナリーのラインナップの中から、特におすすめのワインを紹介する。
▶島根わいん縁結
島根わいん縁結シリーズは、出雲大社のお膝元、島根ワイナリーならではのワインシリーズで、島根土産としてもおすすめ。
シリーズの中でも特におすすめなのが『島根わいん縁結 甲州』だ。このワインは『日本ワインコンクール2019』において、甲州部門の最高賞である金賞を受賞している。甲州は古くから島根で栽培されている品種ではあったが、日本ワインの本場、山梨県のワインを抑えての最高賞受賞は、まさに下克上とも呼べるほどの大快挙で、島根県としても初めての受賞だった。
和柑橘のような風味のある『島根わいん縁結 甲州』とのマリアージュには、あっさりとした、刺身などの和食がおすすめだ。特にこれからの季節であればおでんや、魚を入れた鍋料理などにも合う。和食の旨味を縁結が、さわやかさに演出してくれることは間違いない。
また、『島根わいん縁結シリーズ』には『縁結スパークリングワインデラウェアブリュット』『縁結 マスカット・ベーリーAブリュット』『縁結 甲州ブリュット』の、スパークリングワインシリーズもある。シャンパンの製法と同じ瓶内二次発酵法で作り上げた、本格的な辛口スパーリングワインだ。
▶横田シリーズ
『横田シリーズ』は奥出雲の横田ヴィンヤードで育まれた、希少なカベルネ・ソーヴィニヨンと、シャルドネだけを使用した島根ワイナリーこだわりのフラッグシップワインだ。
『横田カベルネ・ソーヴィニヨン』は、上品で程よい香りのボリューム感を楽しめる。桑の実や革のような香りが感じられてスパイシー。口に含むとすっきりとしつつも柔らかく、かつフレッシュなアタックが感じられる。そしてやってくる甘い果実の香り、その後にはほろ苦くアルコールの重厚感が口の中に広がり、キレの良い後味へと変化していく。マリアージュにおすすめなのは、野性味のある旨みを持ったジビエ料理だ。
『横田シャルドネ』は『日本ワインコンクール2019』において、欧州系品種白部門で銅賞を獲得した実績がある。『日本で飲もう最高のワイン2019』においては、白辛口部門でシルバー賞を獲得。
ナイトハーベストによってシャルドネの香りと味わいが存分に活かされたワインだ。色合いはフレッシュな緑色を帯びたイエローで、柑橘系フルーツと甘い花、黄色いリンゴの甘くフルーティな香りと香ばしさが感じられる。
口に含むと穏やかな酸味が感じられ、なめらかで優しい、まろやかな口当たり。マリアージュにおすすめなのは魚料理だ。奥出雲を訪れて、のどぐろと横田シャルドネのペアリング、などが楽しめたら最高の体験になるだろう。
▶清酒酵母仕込み 甲州
『清酒仕込み酵母 甲州』は、日本では他に類を見ない、清酒酵母でじっくり低温発酵させたワインだ。『日本で飲もう最高のワイン2019』において白辛口部門でシルバー賞を獲得している。
優しい香り、柔らかな味わいで、和食との相性が良く、今の時期なら鍋が最も合う。岩牡蠣や冷奴、刺身や焼き鳥などの料理にも合う、気軽に楽しめるテーブルワインだ。
▶オリジナルスイート12%白・赤
甘くて飲みやすいスイートワインは、お酒が苦手な人におすすめだ。日本のワインブームの影響を受け、島根ワイナリーのスイートワインの生産量は大きく減少しているが、平成20年頃までは売り上げの70%を占めていて、今でも50パーセントを占めているワイナリーの大人気商品だ。70歳以上の方を中心に人気があるが、若い人におすすめなのが炭酸で割ってハイボール風にする飲み方だ。オリジナルスイートの赤はレモンやオレンジ、りんごなどのフルーツやシナモンなどのスパイスと合わせて、ヨーロッパのクリスマスの味、ホットワインにして楽しむのもおすすめだ。
▶ジンジャーワイン
島根県出雲市産の『出西みどり生姜』を白ワインに漬け込み、爽やかな香りと後味にピリッとした辛味が特徴のスイートワインだ。こちらも炭酸で割ってジンジャーエール風にして飲むと爽やかに楽しめる。また、温めてホットワインにするのも寒い時期にはおすすめの飲み方だ。
『見て、飲んで、味わえる。島根ワイナリーで1日遊ぶ』
出雲大社から車で5分程の緑深い自然の中に、一際目立つレンガ色の瓦と白い壁が美しい、南欧風の棟が並ぶ島根ワイナリーには、年間平均60〜70万人ほどが訪れる。
島根ワイナリーはワインだけでなく、ランチやお買い物など、1日中でも楽しむことができる人気の観光スポットなのだ。島根ワイナリーの充実した各施設について、紹介しよう。
▶ワイン醸造館
ワイン醸造館では無料でワインの製造を見学することができる。ぶどう・ワインを貯蔵する屋外・屋内タンク99基や、仕込み作業や瓶詰め作業ラインの新鋭機械や設備が整った工場内で、ワインの製造工程を見学するコースが、年中無休で設けられている。是非その新鋭機械を見ていただきたい。
▶試飲即売館バッカス
試飲即売館バッカスでは、約10種類の旬のワインとノンアルコールのグレープドリンクの無料試飲が楽しめる。アルコールだけでなく、ノンアルコールドリンクが無料でいただけるのは、車で訪れた際にはありがたい。
また、ワインバルバッカスでは、無料試飲では味わえないスペシャルシリーズ以上のワインを、食とのマリアージュを楽しみながら、落ち着いた雰囲気のカウンター席で味わうことができる。是非こちらも楽しみたい。
豊富なワインだけでなく、島根ワインと海水を煮込んで作った赤ワインソルトや、島根ワインのお酢のドレッシングなど、各種豊富なお土産品が取り揃えられているため、島根ワイナリーで楽しんだ際には必ず立ち寄ってほしい場所だ。
▶バーベキューハウス シャトー弥山
バーベキューハウス シャトー弥山は、島根和牛がワインと一緒に味わえるバーベキューハウスだ。島根和牛を中心とした、豊富なバーベキューコースはワインとセットで楽しめる。
また、島根和牛ロース定食や出雲そば和牛セットなどのランチメニューも用意されている。夜限定飲み放題プランの予約も受け付けており、島根和牛と島根ワイナリーのワインのペアリングは、ここでしか味わえない贅沢だ。
▶ビストロ&カフェ シャルドネ
ビストロ&カフェ シャルドネはヨーロッパの古い街角をイメージした屋外テラス付きのカフェだ。島根ワイナリーの広い場内散策に疲れたら、ここでゆっくり一服できる。軽食やスイーツ、ドリンクなど豊富なメニューが取り揃えられているので、お子様連れにもおすすめだ。
▶しまりん キッチン
しまりんキッチンではソフトクリームやコーヒー、熱々島根和牛コロッケが販売されていて、開放的なテラス席でゆっくりくつろげる。ソフトクリームの種類が豊富で、巨峰ソフトクリームとワイン使用のワインソフトクリーム、そばソフトクリーム、デラウェアソフトクリームとバニラソフトクリームの5種類が揃っている。
まとめ
栽培指導課長、藤原さんは今後についてこう語った。
「近年は目まぐるしく気候が変動しています。今までの経験からすると、以前まで作れていた品種のぶどうでも、作れなくなるようなことが予想されます。新たにどんな品種を栽培することができるのか、そしてそこから、どんな個性を持つワインが造れるのか、今まさに、取り組んでいるところです。」
気候変動は深刻な問題だが、そのハードルをもバネに替えて、新たなステージへと飛躍していくことを意気込む島根ワイナリー。
島根の気候・風土で育った優れたぶどうの香りや味わい、そのぶどうを最大限に活かした、「ザ・島根」というようなワイン造りにこだわる島根ワイナリーの探求は、今も、そしてこれからも、さらに続いていく。
次はどんな新しいワインを世に生み出してくれるのか?これからも注目していきたい。
出雲の神々に見守られつつ熟成する島根産ぶどう100パーセントのワインは、これからも私たちを楽しませ、癒してくれるだろう。
島根ワイナリーをぜひ一度訪れて、島根でしか味わえない味の世界を、体験してもらいたい。
基本情報
名称 | 株式会社 島根ワイナリー |
所在地 | 〒699-0733 島根県出雲市大社町菱根264番地2 |
アクセス | 出雲市駅から路線バス 一畑電車「浜山公園北口駅」から徒歩15分 出雲空港から連絡バス30分 山陰道出雲ICから15分 |
HP | https://www.shimane-winery.jp/ |