『ルサンクワイナリー』香り高くやさしい味わいで、料理を引き立てる綺麗なワイン

新潟県新潟市の南西部西蒲区に、海と砂に囲まれた「新潟ワインコースト」と称される一画がある。そこに5年前にできたのが、今回紹介する「ルサンクワイナリー」だ。

寒暖差があり水はけのよい土壌で、ブルゴーニュ地方のふたつのぶどう品種を育てているルサンクワイナリー。
「トラディショナルでエレガント」をモットーに、香り高くやさしい味わいのワインを目指している。代表の阿部隆史さんにお話を伺った。

『1年間の研修を経て、新潟にワイナリーを設立』

ルサンクワイナリーは、ITサービス関係の仕事をしていた阿部さんが、2015年に設立したワイナリーだ。当時、貧困や教育など社会課題を解決するようなソーシャルビジネスをしたいと思い描いていた阿部さん。
しかし、どんなビジネスに参入するか、なかなか具体的なテーマが決まらなかったという。

▶一杯のワインが、人生を変える

阿部さんがワイナリービジネスを選んだのは、一杯のワインとの出会いがあったからだ。もともとワインが好きでよく飲んでいたという阿部さん。
ある時、シャルドネの「聖地」と称されるブルゴーニュ地方の「シャサーニュ・モンラッシェ」と出会った。「こんなおいしいワインがあるのか」と感動したのだという。

「立ち上げるビジネスとして、ワイナリーを選択肢に加えることも可能なのでは」と考えた。ちょうどその頃、新潟の「カーブドッチワイナリー」が開催する、ワイナリー経営塾の存在を知る。

2014年に、カーブドッチワイナリーが主催するワイナリー経営塾で1年間の研修を受けた阿部さん。その後、2015年10月1日には、早くもワイナリーをオープンした。

ルサンクワイナリーがあるのは、カーブドッチワイナリーから近い立地で、海もある土地。さらに、日本酒の文化が深く根付いている新潟県に、大きな魅力を感じたためだ。

食文化も豊かで、お酒もあり自然にも恵まれている土地なら、ワインを受け入れてくれる懐の深さがあると考えた。

▶「新潟ワインコースト」5番目のワイナリーとしてオープン

ワイナリーの名前は、いくつかの候補から選ばれた。ルサンクワイナリーは、「新潟ワインコースト」で5番目のワイナリーという意味である。

「『ルサンク(Le CINQ)』の『サンク(CINQ)』は、フランス語で数字の『5』を表します。五大陸や五番街、宝塚の組も5つあるなど、5を使った名前は多いですよね。そんなネーミングに魅力を感じたのです」。

「新潟ワインコースト」とは、阿部さんが研修を行った「カーブドッチワイナリー」を含む5軒のワイナリーがあるワイン産地を指す。新潟市の南西部にある、海にほど近い砂地の土壌が特徴。
各ワイナリーでは、可能性を秘めたさまざまなワイン用ぶどう品種の栽培に挑戦している。

▶日本海の海岸地帯に位置する「新潟ワインコースト」とは

「新潟ワインコースト」は新潟市中心部から車で約50分。日本海に広がる海岸地帯に位置している。美味しいワインが生まれる秘密は、砂質の土壌にあるという。

この地の最初のワイナリーは、1992年に創設された「カーブドッチ」。

2006年には2軒目となるワイナリー「フェルミエ」が、2009年に「ドメーヌ・ショオ」がオープン。2013年には「カンティーナ・ジーオセット」も創業。
現在は「ルサンクワイナリー」を含めて、5つのワイナリーが軒を連ねている。

新潟ワインコーストのワイナリーは、どこも小規模ながらそれぞれに個性があり、熱い思いを持ってぶどう栽培とワイン醸造を行っている。
ワイン用ぶどうの産地形成が着実に進んでいる、注目のエリアなのだ。

『栽培している品種は、ブルゴーニュの2品種』

▶流通量が少ないピノ・ノワールを栽培する

ルサンクワイナリーで栽培しているぶどう品種は、ピノ・ノワールとシャルドネの2種類。阿部さんがフランス、ブルゴーニュ地方のワインが好きなことが、品種を選定する際の決め手となった。
さらにピノ・ノワールは、日本では流通量が少ない。栽培が難しく収量が少ないなどの理由で、農家の人たちがあまり栽培したがらないのだという。
そのため、ピノ・ノワールのワインを造るには、自分で栽培する必要があると考えたのだ。

2015年のワイナリーオープン時にまず植えたのは、ピノ・ノワール。その後シャルドネの栽培もスタートした。今後はピノ・ムニエなども栽培することを検討している。

もともとピノ・ノワールが多く栽培されているブルゴーニュ地方では、垣根栽培が採用されている。
ルサンクワイナリーでも、ピノ・ノワールは垣根栽培を採用した。垣根栽培は、日当たりがよく作業や手入れがしやすい特徴がある。

▶水はけの良い砂質地で寒暖差があり、風通しが良い

ルサンクワイナリーがぶどうを栽培している土壌は、海岸の砂浜のような砂質、そして、水はけがよいのが特徴だ。砂地は栄養分が肥沃ではないために、収量は多くない。
しかし、収穫できるぶどうの量が少ない分、果実味がしっかり出ていると評される。そのため、砂質土壌で育ったぶどうからは、繊細な味わいと華やかな香りのワインが生み出されるのだ。

気候の特性について伺ってみると、夏の昼間は気温が高い気候だという。しかし朝と夕方には気温が大きく下がるので寒暖差が大きいそうだ。

また、海岸から1.5㎞に位置しているため、昼は海から、夜は陸から風が吹く。風があることは、ぶどう栽培の大敵である湿度を下げるメリットがある。
梅雨が短く、ぶどうの成熟期に雨が少ないのもこの土地の特徴だ。

冬季は風が強く、海風がうまく抜けていくため、ぶどう栽培にはプラスに作用する。湿気が多い土地柄ではあるが、朝や夕方は風通しに恵まれているのが好条件だと阿部さんは考えている。

▶海岸線に近いので、雪はあまり降らない

新潟県といえば、雪がたっぷりと降り積もるイメージがあるかもしれない。しかしルサンクワイナリーがある土地は海に近いため、あまり雪が降らないそうだ。例年の積雪量は10~20㎝程度。
雪は降っても積もらず、すぐ溶ける。雪が多い年は40~50㎝、最大で80㎝まで降ることもあるが、新潟県の山間部や豪雪地帯に比べると、雪が少ないのが特徴だ。

「大雪が降ると、垣根栽培に使用するワイヤーや木の枝が雪の重みで切れたり、折れてしまうこともあります。通常はそんなに降らないので、影響は少ないですね。雪の多いエリアでは、雪が降り始める前にぶどうの樹の剪定を終えますが、私のところは1月や2月に剪定しても間に合います」。

冬の間はぶどうの休眠期間だ。「樹が休息している冬季に気温が下がることは、ぶどうの木にとって悪いことではないんです」。
新潟県ならではの冬の寒さが、翌春のぶどうの生育に良い影響を与える。

『病気や害虫の影響を最小限にしてぶどうを育てたい』

ワイン造りのベースは、良質なぶどうを栽培するところから始まる。植物は天候や気候に左右される部分が大きく、病気や害虫の影響も考えなければならない。

▶最適な防除を行い、良いぶどうを育てて収穫する

ルサンクワイナリーでは、よいぶどうをつくるためには、適度に農薬を使うことも必要だと考える。そのため、しっかりと防除を行っているという。

「もちろん、農薬はあまり使いたくありません。ですが、無農薬にこだわるより、よいぶどうを育てて収穫することを第一の目的に栽培しています。近年は猛暑や長雨など気候の変化が大きく、ぶどうにとっては厳しい生育環境です。なんとか乗り越えていかなきゃならないですね」。

ルサンクワイナリーは自社畑でぶどうを栽培するだけではない。農家から購入したり、青果会社を通じて、ぶどうを仕入れているのだ。ルサンクワイナリーでは、メインにぶどうを仕入れている農家が2社ある。
ぶどうの品質が素晴らしい、新潟県と山形県の農家だ。ぶどう品種や栽培されている地域が異なるぶどうを使うことは、リスクの分散にもつながる。
自社畑の収量が減ったときのために、よいぶどうの仕入れ先のチャネルをいくつか確保しておきたいと考えているのだ。

▶自社畑で栽培するぶどうは、今後が楽しみ

ルサンクワイナリーの自社畑で栽培されたぶどうでは、2019年に醸造したピノ・ノワールがファースト・ヴィンテージだ。ピノ・ノワールならではの特徴が、しっかりと味わえる仕上がりになった。

これからさらに、土地の味わいが感じられるワインに成長することへのポテンシャルを秘めているという。

『トラディショナルでエレガントなワインを目指す』

ルサンクワイナリーが目指すのは、土地らしさや品種の特徴が素直に表現されたワインだ。香り高く優しい味わいの「綺麗な」ワインを目指している。

▶白ワインは低温発酵でゆっくり、赤ワインは丁寧にかく拌する

ルサンクワイナリーの醸造のポイントは、白ワインであれば比較的低温である12〜13度でゆっくりと発酵させること。ぶどうが本来持つ香りや味わいを、ワインに引き出しやすくするためだ。

発酵の温度は使用する酵母にもよるものの、20度くらいが一般的だ。一方で、ルサンクワイナリーが採用している発酵温度は、通常よりも低いという。

ワインメーカーによっては20度前後で行うところもあれば、低温で行うところもある。ワイン醸造に使用する酵母は、種類が豊富だ。それぞれに発酵に適した温度帯があり、目指す味わいを出すために酵母の種類から変える必要も出てくる。

またルサンクワイナリーでは、赤ワイン醸造の「ピジャージュ」にこだわりを持っている。ピジャージュとは、アルコール発酵中に浮き上がってきた、ぶどうの実と皮などの固形物を櫂(かい)で混ぜる作業だ。
ピジャージュをやさしく丁寧に行うことで、うまみなどの成分をうまく引き出し、おいしいワインを醸造できる。

▶選抜された酵母を使い、しっかりと発酵する

ルサンクワイナリーでは、酵母はぶどうの木についている自然酵母ではなく、きちんと選抜された酵母を使用している。 発酵不良や発酵遅延のリスクを減らすことにつながり、確実に発酵する確率を上げる。
「自社畑のぶどうの収量が増えれば、ゆくゆくは天然酵母にもチャレンジしたいですね」。

栄養素についても、選んだものがうまく作用すれば、使い続けることにしている。選択肢は多く、作業のタイミングも重要。ワインメーカーごとに判断が異なるポイントだという。手作業や機械を使うなどの違いもある。
しかし判断するのは、最終的には人だ。ぶどう栽培やワイン造りにおいて、人間が判断する要素は多い。

発酵は微生物が行うもので、コントロールするのは容易ではない。「大変さはもちろんあります。しかし、嗜好品であるワインを造るので、楽しんで造るように心がけています」。
造り手が楽しんで造ったワインは、飲み手の楽しみにもつながるのだろう。

『「おいしい」の言葉が、一番やりがいにつながる』

ワイン造りの中で阿部さんにとっての1番のやりがいは、ワインが出来上がってお客様から「おいしい」と言ってもらうことだ。
「ワインを召し上がったお客様に喜んでいただき、お褒めの言葉をいただけると、やっててよかったと思います。大きな励みになりますね」。

▶素敵な時間をともに過ごすワインを造りたい

人によって、ワインを味わう場所や時間はさまざまだ。「どのような人に、どんな場所で味わっていただくかよりも、ルサンクワイナリーのワインを飲んでいるときに、よい時間を過ごしてほしいですね。私のワインを手に取り、召し上がっていただいたときが、どんな方にでも素敵な時間であってほしいと願っています」。

▶料理を引き立てる、綺麗なワイン

ルサンクワイナリーのワインの強みを聞いてみた。「お客様からは、綺麗なワインだといわれることが多いです。それが強みのひとつでしょうか。また、単独でもおいしいですが、料理と合わせるとその料理をさらに引き立てる。そういうワインじゃないかと思っています」。
料理によって合わせやすいワインは変わるものの、食事に合わせやすいワインなのもルサンクワイナリーの特徴だ。

ルサンクワイナリーのワインを初めて飲む人におすすめのワインは、フレッシュでフルーティーなデラウェアで醸造した「2019 デラウェア」だという。
培養酵母とステンレスタンクを使用し、山形県産のデラウェアを12~13℃の低温で発酵している。やや辛口の口当たりで、豊かでクリアな味わいが特徴だ。

ルサンクワイナリーを訪れると、ワイナリー自慢のワインがテイスティングできる。何種類かテイスティングを行い、気に入ったワインを選ぶのもおすすめだ。

『品質をより高く、新商品も開発していきたい』

将来的には、「ワインの品質をより高くしていきたい」と考えているルサンクワイナリー。おいしくて、しかも付加価値がより高いワイン造りを目指している。

「現在はスティルワインだけのラインナップなので、新商品も開発したいとも考えています。今後はスパークリングワインにもチャレンジしていきたいですね。製品のバリエーションも増やし、より付加価値を高めていきたいと考えます」。

▶コロナ禍でクラウドファンディングに参加

2020年から新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、飲食店の時間規制などによりワインの需要が減少している現在。
「ルサンクワイナリー」のワインも、味わってもらう機会が大きく減っていると感じる阿部さん。

そこでルサンクワイナリーでは、全国の日本ワインファンとワイナリーをつなぐプロジェクト「ShoProクラウドファンディング」に参加した。
クラウドファンディングの限定セットとして、飲み比べができる「2020デラウェア&2019デラウェア2本セット」を販売している。

ルサンクワイナリーで2015年に初めて醸造されたのは、デラウェアのワインだった。オープン5周年を迎えたルサンクワイナリーが自信を持って提供するデラウェアワインのセットは、見逃せない。

プロジェクトに支払われる支援金は、自社畑で栽培しているピノ・ノワールやシャルドネの栽培、新商品開発などに使いたいと考えているという。賛同した人へは、新作のワインをリリースした際に先行してお知らせをする予定もある。
ルサンクワイナリーのこれからが気になるファンにはうれしい企画ではないだろうか。

『まとめ』

2015年にできた「ルサンクワイナリー」は、丁寧に育てられたぶどうを使ってじっくりとワインを醸造することで、着実にファンを増やしている新進気鋭のワイナリーだ。

日本海の風を感じられる場所で、豊かな自然や食文化に恵まれた土地。これからより品質の高いワインが生み出されることだろう。トラディショナルでエレガントなワインたちに、新たな仲間が加わる日が待ち遠しい。

基本情報

名称ルサンクワイナリー
所在地〒953-0011
新潟県新潟市西蒲区角田浜1693
アクセス電車
JR越後線「越後曽根駅」よりタクシー約10分。JR越後線「内野駅」よりタクシー約15分。
お車
北陸自動車道「巻潟東IC」より15 km 約25分。
HPhttps://lecinqwinery.com/

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