追跡!ワイナリー最新情報!『シャルマンワイン』新たなブレンドなど、チャレンジを続ける老舗ワイナリー

「シャルマンワイン」は山梨県北杜市白州町にある、100年以上もの歴史を持つワイナリーだ。地元で作られたぶどうを活用するため、農家たちが作った「組合ワイナリー」を原点とする。

現在はカベルネ・フランなど、フランス、ボルドー地方で造られるぶどう品種にこだわり、ワイン造りに励んでいる。

南アルプスの八ヶ岳や甲斐駒に囲まれた冷涼な気候にある自社畑は、水はけのよい砂質土壌である。昼夜の寒暖差も大きく、ワイン用ぶどう栽培には非常に適した条件の土地だ。

シャルマンワインは自社畑で草生栽培をおこない、除草剤や化学肥料を使わずにぶどうを育ててきた。また、収量を制限して凝縮感のあるぶどうが収穫できるような工夫もしている。

もちろん、醸造においてもこだわりの製法をしている。さまざまな工夫を凝らして高品質なワインを造り、特にカベルネ・フランのワインには定評がある。

常に真摯な姿勢でワイン造りに取り組んできたシャルマンワインの最新情報について、所長の山本公彦さんにお話を伺った。さっそく紹介していこう。

『2022年のぶどう栽培』

まずは、2022年の気候について振り返ろう。近年は温暖化の影響で雨の時期が安定しないのが悩みだと話してくれた山本さん。

2022年は梅雨明け後の7〜8月に雨が多く、雨が上がると一気に気温が上がった。お盆明けには果皮が色付くヴェレゾンが始まるため、本来であれば気温が下がることが望ましい時期だ。気温が高いままだと、病気が出やすく色づきも悪くなるので困りものだ。

「赤ワイン用品種のメインとしてメルローやカベルネ・フランを栽培しているのですが、最近は色が乗りにくいですね。ぶどうもおかしな気候にびっくりして、困っていると思いますよ」。

▶︎35,000枚の傘かけ

雨や湿気の影響で病害虫が発生すると、収量にも大きな影響が出かねない。有効な対策は難しいので、早めに収穫することで対応している。2022年は例年よりも5日程度収穫を早めた。

また、雨対策として2021年から開始したのが、垣根の畑すべてのレインカットだ。レインカットができない棚栽培の畑には、傘かけを実施した。

「傘かけが一番大変ですね。35,000房すべてに、人の手で傘をかけました。棚からぶら下がったぶどうの房を見上げながら手作業でおこなわなければならない傘かけは、数が多いので時間がかかります」。

傘かけは大変な作業だが、房に雨が直接当たらない効果は絶大だ。移りゆく気候に順応し、工夫を凝らしてぶどう栽培をしていくことが大切なのだろう。

▶︎不思議と収量が多かった2022年

雨は多かったものの、2022年の収穫は例年に比べて多かった。不要な房を切り落として収量制限をしなければならないほどだったという。2022年の収量は、2021年の1.3倍もあったという。

2022年になぜ、樹がたくさんの実をつけたのか、山本さんにもその理由はわからないのだそう。

「昔から、何年かに1回はなぜか収量が増える年があるのです。おそらく、6月中旬頃の受粉のタイミングのときの気候の影響によるものだと考えられます。私もいろいろと調べてはいるのですが、はっきりした原因はよくわかっていません。勝沼の生産者さんに聞いたところによると、特に収量に変化はなかったそうなので、地域によっても異なるようですね」。

また、2022年は収量が多かっただけでなく、ぶどうの品質も満足のいくものだったシャルマンワイン。人間がどれだけ努力しても思いどおりにいかないこともあれば、なぜかはわからないが非常に出来がよいこともある。自然相手の農業だからこそ、ぶどう栽培には人知を超えた不思議な現象も起こるのだ。

▶︎「ツヴァイゲルトレーベ」に期待

シャルマンワインの自社畑では、メルローは棚栽培、カベルネ・フランは垣根と棚の両方で栽培している。

以前はシャルドネを垣根栽培していたが、自社畑の栽培は取りやめることにした。シャルドネの樹はすべて引き抜き、畑は更地になっている。2023年春頃には、この畑の3分の2程度に新たにカベルネ・フランを植栽する。

新たに植えるカベルネ・フランは、垣根栽培で育てる予定だ。垣根栽培は棚栽培に比べると収量は減るものの作業はかなり楽になるため、作業の負荷を減らすために採用した。

さらに、温暖化した気候にも対応できる、新たな品種の栽培にも取り組む予定だという。今のところ候補として上がっているのは、ツヴァイゲルトレーベだ。ツヴァイゲルトレーベはオーストリアで開発された赤ワイン用品種。そこまで病害虫に強い品種特性はないが、なんといっても色付きのよさに軍配が上がる。

赤ワイン用品種の色付きに不安があるシャルマンワインにとって、救世主となる可能性を秘めているのだ。

また、早生品種であるツヴァイゲルトレーベは収穫時期が早いのもメリットのひとつだ。

「農家さんから仕入れているマスカット・ベーリーAなどはすべて10月に入ってくるので、10月は収穫とワインの仕込みでとても忙しいのです。その点、ツヴァイゲルトレーベは9月に収穫できるのでスケジュール的にも最適ですね」。

シャルマンワインのツヴァイゲルトレーベは、少量を試験的に栽培している段階だ。新しいラインナップにツヴァイゲルトレーベが加わるのも、そう遠くはないだろう。

『オレンジワインやボルドーブレンドに挑戦』

ここからは、シャルマンワインの最新のワイン造りに話題を移していこう。

2022年ヴィンテージに新たに取り組んだ醸造と、おすすめの銘柄について紹介したい。

▶︎ 甲州のオレンジワイン

最近、甲州の可能性を改めて評価したいと考えているシャルマンワイン。その思いを実現する形で、2022年にシャルマンワイン初となる甲州のオレンジワインが造られた。

「仕込みから発酵期間中まで、すべて無添加で醸造しました。瓶詰めのときにほんの少量のみ亜硫酸を入れています。ものすごく期待が持てる味わいに仕上がっていますよ」。

これまで長く醸造に携わってきた経験から、無添加で醸造して発酵させるワインは香りが出にくいのがこれまでの山本さんの印象だった。だが、今回のオレンジワインは非常に香りがよいのが特徴だ。

口当たりのよい飲み口で、グラスに注いだときにシュワシュワと泡が出る程度の炭酸がある。また、しっかりとした酸が感じられる。

どんな料理とのペアリングがおすすめなのかについて尋ねてみたところ、ぜひ鍋物などの和食と合わせてほしいとのこと。すっきりとした酸が、少しこってりした料理ともよく合うだろう。

「日本酒のように、ゆっくりちびちびと味わいながら楽しんでいただきたいですね。冷やしすぎると香りが感じられにくいので、少しだけ冷やす程度で飲むのがおすすめです」。

2022年ヴィンテージの甲州のオレンジワインは、限定180本のみのリリースとなる。基本的に小売店での販売だが、オンラインショップで取り扱う可能性もある。気になる方はチェックしていただきたい。

▶︎山本さんおすすめの銘柄

いっぽう、2021年ヴィンテージで特筆すべき銘柄は、「日本ワインコンクール 2022」で銀賞を受賞した「甲州・シュール・リー無濾過・微炭酸」だ。フレッシュな味わいが特徴の微炭酸ワインで、はなやかな香りが心地よい。

シャルマンワインは「日本ワインコンクール2021」でも、「カベルネ・フラン 尾白 無濾過 2016」が銅賞を受賞している。収量制限をした凝縮感のあるカベルネ・フランで造った、優雅な香りが豊かなフルボディワインである。

また、2020年ヴィンテージでおすすめなのは、「ジャパンワインチャレンジ2022」で銀賞を受賞した『セミヨン釜無 無濾過2020』である。セミヨンの特徴的な甘い香りがしっかり出た、滑らかな口当たりの白ワインだ。

ネットショップや店頭で見かけた際には、醸造家おすすめの1本を、手にとってみてはいかがだろうか。

『醸造での新たな取り組みと、イベントの開催』

ここで、シャルマンワインの赤ワイン醸造における新たなな取り組みを紹介しておこう。

メルローやカベルネ・フランの色付きに問題があるなか、近年は赤ワイン醸造には苦労が伴っている。そこで採用しているのが、セニエ法だ。

▶︎赤ワインではセニエを実施

セニエとは、発酵途中で果汁だけを別のタンクに移して発酵を続ける手法のこと。果汁に対して果皮の比率が高くなるので、色も味わいも濃い赤ワインに仕上がることが期待出来る。

「やりすぎるとバランスが悪くなるので、調節しながら例年より少し多めにセニエをおこないました」。

発酵が終わると、赤ワインは樽熟成の工程に入る。シャルマンワインでは、カベルネ・フランの場合、古樽と新樽の2種類を使う。樽によってワインの異なる性質を引き出すのだ。

▶︎試験を重ねてボルドーブレンドに挑戦

樽熟成が終わると、続いてはブレンドの工程だ。シャルマンワインがこれから取り組むのは、2021年ヴィンテージのメルローを主体としたブレンドワイン。2021年に仕込んだメルローのうち、もっとも品質がよいものを厳選し、カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンで複雑さを加えたブレンドにしよう考えている。

シャルマンワインがかねてより目指していた、「ボルドーブレンド」としてリリースされるワインがなんとも待ち遠しい。

「メルローのよさが引き立つブレンドを目指そうと思っています。納得いくまで何回もブレンドのテストを繰り返します。10回程度で決まることもありますが、なかなか決まらず、50回以上繰り返すこともありますよ」。

ブレンドの比率を決めるのは非常に難しい。納得のいく比率を見つけるまで、何度でも試験を重ねる。100ccずつの少量でいろいろなブレンドの比率を試す、「小試験」をおこなうのだ。

ブレンド工程では、赤ワインの場合には口に渋みが溜まってしまう。だんだんと味覚が麻痺してくるため、長時間続けて作業を続けることは難しい。そのため、これだと思ったブレンド比率でも、翌日に改めて確認して自分自身で再チェックをするのだとか。

シャルマンワインのボルドーブレンドの赤ワインのコンセプトは、なんといっても「バランスのよさ」だ。

「味わいのバランスが悪いと、すっと入って来る感覚がなく、余韻も感じられにくいのです。自然に染み込む感覚の味わいを目指して、使用する樽の種類も重視しています」。

▶︎歴史があるワイナリーだからこそできる古樽熟成

カベルネ・フランの熟成に使われる古樽について、もう少し言及しておきたい。この古樽はシャルマンワインで35年間使われてきた380ℓの大樽だ。

ワインに詳しい人の中には、35年も使用した樽と聞いて驚く人もいることだろう。一般的なワイン樽は、数年使ったら廃棄するものだが、その古樽は特別なものなのだとか。

「樽屋さんに確認してもらったところ、フレンチオークを使ってスペインで作られた樽とのことでした。ヨーロッパでは古樽が使われることもありますが、日本国内で35年ものの古樽を使用しているのは、非常に珍しいと聞いています」。

これほど古いフレンチオーク樽は日本ではほとんどほかに見られないそうだ。もちろん、買おうと思っても買えるものではなく、非常に貴重であることはいうまでもないだろう。

この古樽はカベルネ・フランのほか、マスカット・ベーリーAの熟成にも使われる。長い歴史があるワイナリーだからこその、特別な樽熟成がシャルマンワインの美味しさの鍵なのだ。

「古樽の効果をもっとも感じるのは、カベルネ・フランですね。味わいと香りの相性がよいのだと思います。ブレンドワインでは、古樽で熟成させたワインを15%くらいブレンドします。カベルネ・フランの落ち着きと濃さを引き出してくれますよ」。

▶︎南アルプスの麓で開催されるアートイベント

3年以上続いた新型コロナウィルス感染症の大流行が収束しつつある2023年。シャルマンワインでは、「アートマルシェ」の開催を予定している。

「ワイナリーがある北杜市には、木工や焼き物などの『ものづくり』をしている芸術家の方たちがたくさんいます。シャルマンワインはワイナリーの庭がとても広いので、作家の方たちにブースを出店していただき、マルシェを開催する予定です」。

もちろん、シャルマンワインのワインとともに楽しめる、食も準備するつもりなのだとか。串焼きやたこ焼き、ピザなどのキッチンカーが出店の予定。ワインが、アートと食とともに思う存分楽しめる素敵なイベントになりそうだ。

シャルマンワインのアートマルシェは4〜6月に毎月開催予定。春から初夏にかけての爽やかな気候の中、南アルプスの甲斐駒ヶ岳のふもとにあるシャルマンワインを包む大自然は、さぞ美しいに違いない。

ワイナリーの公式サイトをチェックして、参加してみてはいかがだろうか。

『まとめ』

最後に、2023年はどんな年にしたいかについて尋ねてみた。

「栽培管理の面では、雨対策を重点的にしていきたいですね。垣根の畑は早めにレインカットをしていきます。醸造の面では、新しいブレンドワインにも挑戦したいですね」。

また、更地になっている畑に新しく苗を植えるため、圃場整備も必要だ。排水性を上げるための暗渠排水もワイナリーのスタッフでおこなう予定なのだとか。2023年は、シーズンのスタート時から走りっぱなしの1年になりそうだ。

「2023年は、久しぶりにたくさんのお客様に来ていただける年になることを期待しています」と、山本さん。

長い歴史を持つワイナリーでありながら、常に新たなチャレンジを続けるシャルマンワイナリー。醸造家のおおらかであたたかい人柄と、活気あふれるワイナリーの雰囲気を感じるために、ぜひ現地を訪れてみたいものだ。


基本情報

名称シャルマンワイン
所在地〒408-0315
山梨県北杜市白州町白須1045−1
アクセス■お車でお越しの場合
中央自動車道韮崎ICより30分、小淵沢ICより18分
■電車でお越しの場合
中央線日野春駅より12分、長坂駅より13分、小淵沢駅より18分
※駅からはタクシーなどの車での所要時間です。
HPhttps://www.charmant-wine.com/

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