「Terroir.media」公開レポート:日本ワイナリーの魅力を一挙大公開!③

皆さま、こんにちは!いつも「Terroir.media」をご覧いただき、ありがとうございます。

「Terroir.media」は、個性と魅力あふれる日本のワイナリーを紹介するWebメディアです。日本全国のワイナリーにインタビューを実施して、こだわりのぶどう栽培やワイン造りを徹底取材してお届けしています。

2020年11月の創刊以降、190軒以上の日本ワイナリーの紹介記事を掲載している「Terroir.media」。

日本のワイナリーにさらなるスポットを当てる機会を設けたいと、2023年から「Terroir.awards」を開催しています。日本ワインの普及に貢献し、さらには日本ワインを「文化」として定着させることが狙いです。

「Terroir.awards 2024」受賞ワイナリー・ノミネートワイナリー発表記事はこちらからご覧いただけます!

今回、第2回目となる「Terroir.awards 2024」をweb上で開催するにあたり、この3年間の「Terroir.media」のインタビューの成果を、レポートとして皆様にご提供いたします。

レポートは下記のように構成されています。

  • 第1章 日本ワインの現在地(記事はこちらからご覧いただけます!)
  • 第2章 「Terroir.media」インタビューの特徴と各ワイナリーの取り組みを紹介!(前編・後編)(前編はこちらからご覧いただけます!)
  • 第3章  「Terroir.awards 2024」受賞ワイナリー・ノミネートワイナリーの取り組みを紹介!

今回は、第2章 「Terroir.media」インタビューの特徴と各ワイナリーの取り組みを紹介!(後編)をお届けします。各ワイナリーの栽培や醸造におけるこだわりを、余すところなく紹介します!

第2章 「Terroir.media」 インタビューの特徴と各ワイナリーの取り組みを紹介!(後編)

インタビューで伺った日本のワイナリーの素晴らしい取り組みについて、この章ではできる限りたくさんのワイナリーの取り組みを紹介します。ワイナリーの努力は想像を絶するほどで、「汗水たらして」などと一言で表現できないほど果てしなく、時に過酷でさえあります。
各カテゴリーごとに、北から南の順にお届けします!

▶︎栽培の工夫

各ワイナリーの栽培における具体的な取り組みについて紹介します。

【仕立て方の工夫】
南三陸ワイナリー(宮城)
週に1度しか通えない山形県上山市の畑では一文字短梢栽培を採用。効率よい栽培方法を考え、将来的には一文字短梢のカーテン仕立てに移行する予定。枝を横に伸ばし、新梢を垂らして摘心していく方法で、上山市の栽培者は既に導入している。

Ro_vineyard(長野)
垣根栽培と棚栽培の両方を導入。栽培する品種によってどちらを採用するかを検討し使い分ける。自社栽培の収量アップも目指しており、収量を確保したい品種は棚栽培を採用。

丸藤葡萄酒工業(山梨)
垣根栽培は長梢剪定で両方向に主枝を伸ばす「ギヨーダブル」を採用。2021年までは、房をつける「結果母枝」を地面から70~80cmのところに誘引していたが、2022年には高さを1mに引き上げる試みを実施。ぶどうの房が地面から離れることで、雨の跳ね返りや湿度の影響を減らすことが可能に。2021年に一部区画で試験栽培したところ結果がよく、2022年からは全面的に実施。

Natan葡萄酒醸造所(徳島)
苗の様子や根の調子、土壌や畑との相性を見ながら、同じ品種でも垣根や棚、その中間、というように仕立て方を変える。結果母枝をどの位置にするか、植え付けの間隔をどうするかといった細かなポイントを考え抜いた上で栽培を始める。

井上ワイナリー(高知)
自社畑と契約農家の畑の棚を、井上ワイナリーの社員が設置。職人が棚を設置する様子を動画撮影し、動画を見ながら設置の仕方を習得。高知は日照量が多いため、密植の垣根栽培より棚栽培の方が管理が容易であり、ぶどうがのびのびと育つ。

【畑を区画単位で管理】
サントリー登美の丘ワイナリー(山梨)
2022年に新ブランド「SUNTORY FROM FARM」が誕生。畑の価値をさらにあげるため、今まで以上に厳しい栽培管理を開始、畑づくりを区画単位で見直す。50ほどある区画をさらに細分化し、品種も系統ごとに比較し管理。成熟期や成長度合いも1日単位で変わるため、最適なタイミングを見極めて系統ごとに栽培作業を進めることで、より緻密なぶどう栽培が可能に。

【肥料へのこだわり】
カンティーナヒロ(山梨)
千葉のイチゴ農家が作ったイチゴを食べて甘さと酸のバランス、コクに驚き、千葉のイチゴ農家が使う肥料を試験的に使用中。肥料は日本のぶどう農家ではまだ使用例がないアメリカ製。

【マグネシウム散布】
坂城葡萄酒醸造(長野)
カベルネ・ソーヴィニヨンの房の先端部分が枯れやすいため、試験的にマグネシウムの葉面散布を実施。葉面散布を実施していないところと比較すると、被害が半分以下であった。

【酵素散布】
よさ来いワイナリー(高知)
2023年より防除のタイミングで酵素散布を実施。酵素と肥料は葉や実が大きくなるのは同じだが、ぶどうの食感と味がまったく違う。肥料で育てたぶどうは水分が多くジューシー、酵素で育てたぶどうは実がキュッと締まって濃く、ワイン用ぶどうには酵素が向いているとのこと。

【凍害対策】
インフィールドワイナリー(北海道)
凍害からぶどうを守るため、オホーツクの極寒の地でぶどうを育てるインフィールドワイナリーでは不織布による防寒を行う。農業用の布を苗に巻き付け、外気からぶどうを守る。

【遅霜対策】
サンサンワイナリー(長野)
霜対策として「防霜資材」を畑に散布している。農薬に混ぜて散布する資材で、新芽を冷害から守る。しかし樹そのものを守ることはできず、根本的な対策は難しいのが現状。

奥野田ワイナリー(山梨)
ぶどうの活動が始まる3月にあえて剪定し、新芽の芽吹きを人為的に遅らせ、甲府盆地で被害が増加している遅霜や雹害を避けて新芽を育てることを可能にした。3月の剪定はぶどう樹に大きなショックを与えるため、新たに導入した栽培プログラムでは夏の剪定である「摘芯」を実施しないことで収穫時期を調整。この剪定時期を遅らせる栽培方法は、フランス・ブルゴーニュの名門ドメーヌ「ルロワ」の栽培部長が確立した技術である。

Vinoble Vineyard & Winery(広島)
防霜資材を使って霜の発生を防ぐ。米ぬかをろうで固めた資材を畑で燃やし、畑に温かい煙を循環させる。作業時刻は明け方の2〜5時頃。気温が氷点下になると霜が発生するため、春先の気温チェックは日々欠かさない。

【剪定、枝の管理】
朝日町ワイン(山形)
ぶどうの新梢管理は、収量や果実の質に直結する重要な工程。「新梢をつける結果母枝には、太すぎない枝が最適」などスタッフ全員で決めたルールに沿って、どの枝を残すか判断する。日々スタッフ各々が勉強し知識を共有、共通の認識で作業を行う。

カーブドッチワイナリー(新潟)
樹液は植物にとっての血液。樹液が房まで滞りなく流れるように樹を整える必要がある。樹液が目的地まできれいに流れるよう、樹液の通り道を考えて剪定することをスタッフに指導。「今ここを切るとその先の枝は枯れてしまうから、2年待って幹を太らせてから切るといいよ」。

ドメーヌヒデ(山梨)
「月の満ち欠け」や「潮の満ち引き」のタイミングで樹液の流れは大きく変わり、畑にいても体感できるほどの変化があるそう。最近開発された樹液センサーを使うことで、月の満ち欠けが植物に大きな影響を及ぼしていることが実証され始めた。引き潮を狙い剪定や収穫を行い、ぶどう樹は病気に強く、農薬不使用を実現。

武蔵ワイナリー(埼玉)
「完全無農薬の有機栽培」を行う武蔵ワイナリーは、科学的理論に裏付けられた「植物の成長ホルモンを利用した自然栽培」を実践。通常は樹勢を抑えるため、枝が1mも伸びれば摘心(枝を途中で切る作業)を行うが、摘心せず枝を長く伸ばす。その際、脇芽を除去すると成長ホルモンの一種が分泌されるそうだ。現在の研究では「枝が伸びた長さだけ根も伸びる」ことが分かっており、ぶどう自身の力を強くし、ぶどう自ら養分を取り込めるよう栽培。

【ぶどうの樹のバランス】
Cave an(山梨)
サン=テミリオン地区で研修を受けてから「バランス」を重視するようになった安蔵さん。「ぶどう樹のバランス」とは、「根の張り具合」と「芽数」を見極めること。土壌が肥沃で雨の多い日本では根が広がりやすく、ぶどうが大きく育ちやすい。養分のゴールとなる「芽」の数をたくさん残した方が良質なぶどうができる。

【「あえてやらない」という選択】
霧訪山シードル(長野)
栽培を続けるなかで「人の手が加わらない方が美味しいワインができる」と実感した徳永さん。ぶどう本来の力を発揮させるため「新梢の管理」「摘心」「除葉」などをあえて行わない。枝葉を調整せずそのままにすることで、ぶどう自身が樹勢や実の量を調節し始める。育てる品種は日本でも元気に育つヤマブドウ系を選択。

【成熟期・収穫期を遅らせる工夫】
サントリ登美の丘ワイナリー(山梨)
温暖化の影響でぶどうの収穫時期が世界的に早まる中、山梨大学と共同で「副梢栽培」(=副梢に出来た果実をあえて使用する)の研究を実施。副梢は新梢を切り詰めることで発生するため、新梢より遅く実ができる。通常は摘心する副梢をあえて生かすことで、新梢を使う場合よりぶどうの成熟期を遅らせることが可能に。より涼しい季節に成熟と収穫を迎えられる。メルローは早生品種なので、副梢栽培の効果が目に見えて実感できている。

【花かすの除去】
NIKI Hills Winey(北海道)
花が咲いた後に残る花びらや不受精の花となった「花かす」を残しておくと、房内に閉じ込められた花かすが原因で腐敗果が発生することがある。花かすの除去は手間がかかる作業だが、実施の有無で大きな変化を実感。

【畑の道具も清潔に保つ】
カタシモワイナリー(大阪)
カタシモワイナリーの自社畑には古い樹が多いため、ウィルス汚染が懸念される。畑への病気蔓延を防ぐため、ハサミを使うたびに洗浄、消毒を行う。

【草刈り】
Ro_vineyard(長野)
除草剤不使用、草刈りは株周りのみ。イネ科の植物は根を深く張り、適度な酸素を通すため、畝の中心部に生えるものはそのままにしておく。種がつくまで草を伸ばし、自然に土に倒れたイネ科の植物は、地下から吸い上げた養分を種や実の部分に蓄える性質があり、地下の養分を土壌表面に運ぶ効果も期待できる。

ルミエールワイナリー(山梨)
これまで10年ほど長く伸びた草を根元から横に倒し、土壌水分の蒸発や直射日光のダメージから畑を守ってきた。近年下草の種類に偏りがあり、勢いの強い雑草がほかの雑草を追いやる傾向が見られるように。2023年からは下草の根は残し、表土の草を刈る方法へ転換。長い目で圃場の変化を見守る。

【全自動草刈り機の導入】
カーブドッチワイナリー(新潟)
人の手で草を刈ると、作業頻度は10日に1回ほど必要。切る直前の畑は雑草が伸び放題であったが、全自動草刈り機導入後は草の長さを常に2cmに保ってくれるので、畑に湿度が溜まることがほぼなくなった。

【雨対策】
サントネージュワイン(山梨)
雨量が少ないエリアではないが、ビニールの雨除けをしてぶどう周辺の温度や風通しが変化することを避けるため、雨除けを実施しない。天候が悪い年は、通常の栽培管理をより丁寧に実施する。いつも以上にぶどうを観察し、適切に防除をおこない病気を防ぐ。たとえ収量が減っても高品質なぶどう作りを目指す。

熊本ワインファーム(熊本)
年間降雨量が2000mmほど、全国平均より多い熊本ワインファームでは厳重な雨対策を行う。自社畑の地中に配管を張り巡らせ排水する暗渠対策。さらには自社畑の一部分1.5haに、大規模な開閉式ビニールハウスを設置した。ボタンひとつで操作が可能な開閉式のビニールの雨除けがついている。台風時は支柱は残し、ビニールを巻き上げてまとめる。強風で支柱が歪む被害は出ていないが、ビニールが破ける被害は発生。

【害獣対策】
旧WANOワイナリー(TSUGARU WINERYに変更、青森)
アライグマによる獣害対策として、針金製のワナを設置。ワナの中にカレーパンを置くとアライグマがワナにかかりやすいそう。

Veraison-Note(長野)
畑の外側を電気柵で囲ってもハクビシンなどに侵入されたため、2021年には電気柵を垣根の列にそって設置。手間も費用もかかったが、目に見えた効果があり作戦は大成功だった。

ミシマファームワイナリー(高知)
化学農薬不使用でぶどう栽培を実施。自然豊かな環境でのぶどう栽培はハクビシンやシカ、ウサギなどの被害も多く、ビニールハウス内での栽培をメインにしたことで、害獣のリスクは大幅に軽減できた。獣避けとして「木酢液」も活用。木酢液とは炭を焼く際に出る水蒸気が冷えて生じる液体で、独特の強い匂いがある。動物が嫌う臭いなので、ビニールハウスのまわりにまいておくと効果がある。

【害虫対策】
Veraison-Note(長野)
厳寒期に「ぶどう樹の皮剥ぎ作業」を実施。ぶどう樹の皮を剥ぎ、固くなり浮き上がった樹皮と幹の間に産みつけられた虫の卵をひとつづつ手で除去する。幹を傷つけないよう丁寧に作業し、作業は春以降も継続的に実施。

ケアフィットファームワイナリー(山梨)
可能な限り無農薬で、殺虫剤は使用しない代わりに、ぶどう樹の根元の半径50cm、深さ5cmほどの土を掘り起こし、幼虫を一匹ずつ手で除去している。

【契約農家向けの説明会を実施】
錦城ワイン(山梨)
収穫前に、契約農家を集め「目合わせ」という説明会を実施する。ワイン醸造に最適なぶどうの状態を農家に確認してもらうため毎年必ず実施。目合わせの場では、各農家ごとのぶどうの納品スケジュールを記載した特製カレンダーの配布も行う。

【収穫のタイミング】
朝日町ワイン(山形)
マスカット・ベーリーAの赤ワイン「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤」は、通常山形では10月初旬に収穫するマスカット・ベーリーAを、11月上旬まで引き伸ばし収穫したぶどうを使用。十分な糖が蓄えられ、通常のぶどうとは一線を画した、粘り気のある口当たりと濃厚さを持つワインが誕生。

いにしぇの里葡萄酒(長野)
ぶどうの収穫時期を判断するうえで大切にしているのは「種の熟度」。ぶどうの種が緑色から茶色に熟すと、収れん味のある強いタンニンがまろやかに変化する。種が熟したぶどうを使って醸造したワインは、品種本来の果実味を発揮する。収穫時は種もガリガリと噛み、果皮から出る風味やタンニンの具合を確かめてから収穫する。

久住ワイナリー(大分)
ヤマブドウにルーツを持つ品種は、強い酸味を持つため野生的な趣が出て飲みにくくなることがある。そのため収穫時期を可能な限り遅らせる方針を採用。11月まで収穫を待つと、糖度が26~32度程度まで上昇。ぶどうの実をそのまま食べても酸味が気にならない。しっかりしたボディーのエレガントなワインに仕上がる。

▶︎醸造の工夫

続いて、醸造に対する各ワイナリーの取り組みを紹介します!

【醸造所の建物構造の工夫】
エルサンワイナリー ピノ・コッリーナ(山形)
醸造所建設段階から、丘の傾斜を利用して「グラヴィティー・フロー」ができるよう設計。丘の高い場所で搾汁を行い、低い場所にタンクを設置した。また、地熱と断熱層を活用し、発酵・貯蔵設備は半地下に建設。温度を一定に保つ力をより上げるため、床下に1m80cmの空洞を掘って断熱層を作った。これにより醸造設備内の温度を安定させ、空調を使わずに発酵を進めることが可能に。

【選果のこだわり】
タケダワイナリー(山形)
傷んだぶどうは一粒たりとも見逃さず、きれいなぶどうだけを選別する作業を徹底。選果作業は2度実施。収穫する時点で腐敗果を取り除くのはもちろんのこと、醸造前にテーブルにすべての果実を広げ、傷んだぶどうがないか再度チェックする。厳しい選果はすべてのぶどう、すべてのワインに実施。

シャトー・メルシャン 椀子ワイナリー(長野)
シャトー・メルシャンでは「2段階選果」を実施。収穫したぶどうを房のまま選果する。赤ワイン用ぶどうの場合、色の濃い房、鮮やかな房、少し薄い房に選別し、ぶどうを果梗から取り外し、粒の状態から、少し色づきの良くない粒や青みがかった粒を取り除き、熟したぶどうだけをタンクに入れる。

【収穫時に果皮の温度を測る】
エルサンワイナリー ピノ・コッリーナ(山形県)
最適な温度で発酵を始めるため、収穫時に果皮の温度を測ってから発酵を開始する。最適な発酵温度は品種や酵母の選択によっても大きく変わる。低温発酵が必要なぶどう品種の場合は、果皮温度を下げてから発酵を開始。

【搾汁へのこだわり】
松原農園(北海道蘭越町)
搾汁率はコストに直結し、搾汁率を上げればワインの価格を下げることが可能になる。品質を上げつつ搾汁率を確保するため、バケツを使ったスキンコンタクトを実施。バケツに搾汁前のぶどうを投入し、酵素を加えながら足踏みして果皮と果汁を接触させる。蓋を閉めて時間を置いてから絞ると、柔らかくなった果肉からたくさんの果汁を絞り出すことに成功した。

スペンサーズヴィンヤーズ(茨城)
ぶどうが本来持つよさを損なわないために「絞りすぎない醸造」を実施。2022年はすべて手絞りで搾汁した。

奥野田ワイナリー(山梨)
国内初の導入例となるイタリア製搾汁機を導入。最大の特徴は、「プレス式」ではなく「バキューム式」であること。果汁を搾るのではなく、ぶどうから果汁を吸い取るマシン。

木谷ワイン(奈良)
搾汁率が悪くなりがちで、ぶどうにストレスがかかりやすい「バスケットプレス」から「バルーンプレス」へ移行した。風船のような膜を膨らませて均等に果実を圧搾、優しい力で圧搾でき、搾汁率も向上した。

久住ワイナリー(大分)
果実を傷めず、梗を完全に除去するため「振動式除梗破砕機」を導入。久住ワイナリーのワインはすべて梗が完全に除去されている。機械で除去できずに残った梗も手作業で取り除くという徹底ぶりだ。ホールバンチプレスはほとんどおこなわず、少し破砕してスキンコンタクトを実施。白ワインの場合、酵素剤を併用して2~3時間程度スキンコンタクトしてから発酵に移る。旨味や香味がアップし、発色がよくなる効果が期待できる。

【酵母の選択】
Fattoria da Sasino(青森)
ネッビオーロのワインには、イタリアでバローロの発酵に使用されている酵母と同じ種類のものを使用。

【低温発酵】
NIKI Hills Winery(北海道)
3タイプの醸造手法で造ったピノ・ノワールをブレンドし「香り豊かで複雑味があり、余韻が残る」ピノ・ノワールのワインを目指す。低温発酵と高温発酵、長めに醸した3タイプ。低温発酵したワインは香り豊か、高温発酵は味に厚みが出て、長く醸したワインにはバランスのよいタンニンが生まれた。ブレンド比率を試行錯誤中。

木谷ワイン(奈良)
2022年の木谷ワインでは、温度13度程度をキープして低温発酵を実施。さらには約6度で発酵させる「極低温発酵」にもチャレンジ。大阪でドメーヌスタイルでワインを造る「仲村わいん工房」が白ワインを低温発酵していると知り導入。通常2週間で終わる発酵が極低温発酵では3か月から半年程度かかる。

よさ来いワイナリー(高知)
2022年には、ぶどうの香りを豊かにするため全てのワインを低温で発酵させた。よさ来いワイナリーで使用するぶどうは水分の多い生食用が中心。低温発酵で醸す期間を長く取り、豊かな香りを引き出すことを目指した。

【補糖に和三盆を使用】
Domaine Bless(旧ル・レーヴ・ワイナリー 北海道)
2021年、瓶内二次発酵を実施し補糖する際に、従来のグラニュー糖ではなく「和三盆糖」を使用したスパークリングワインを醸造。後味に和菓子を食べたような上品な甘みが口中に広がるワインに仕上がった。


【アンフォラ・クヴェヴリ(=素焼きの壺)を使用した醸造】
さっぽろ藤野ワイナリー(北海道)
「クヴェヴリ」など素焼きの容器を使ったワイン造りは、容器の内側がざらざらとして隙間があるため、微生物にとって住みやすい環境といわれる。さっぽろ藤野ワイナリーでは、白ワインはぶどうの果実をそのままクヴェヴリに入れて発酵させ半年ほど置く。赤ワインは熟成容器としてクヴェヴリを使用。同じ赤ワインを樽とクヴェヴリにそれぞれ入れて熟成させ比較したところ、クヴェヴリで熟成させるほうがピュアな味わいで果実感も残った。樽香がつかないためぶどうのシンプルな味わいをダイレクトに感じられる。

Fattoria AL FIORE(宮城)
オレンジワインの聖地ともいわれるジョージアなどで使用される「アンフォラ」。目に見えない細かな隙間から徐々に酸素が入るため、ゆっくりと酸化熟成させられる点は樽と同様だが、「樽香」が付かないのが最大の特徴。ゆくゆくはワイナリーがある場所の土で作ったアンフォラを使用してワインを造りたい。500リットル容量のアンフォラを使用。

島之内フジマル醸造所(大阪)
2014年にジョージアの醸造所を見学した際、デラウェアにそっくりなぶどうが皮ごと醸されているのを見て思い立った藤丸さん。醸し発酵で使う伝統的な壺「クヴェヴリ」を現地で購入し日本に配送。また、ジョージアのレストランのワインリストに「オレンジワイン」という単語を見つけ、はじめて「オレンジワイン」というジャンルに遭遇。その場で日本のスタッフに連絡し、レストランのメニューに「オレンジワイン」を追加した。

【石倉和飲】
ルミエールワイナリー(山梨)
日本の明治期のワインは日本酒と同じく木桶で醸造していたが、やがて大量生産のために花崗岩を積み上げて作った巨大な石造りのタンク「石蔵発酵槽」で造られるようになった。ルミエールワイナリーの「石蔵和飲」は、現存する石造りの発酵槽で造った赤ワイン。耐水性や耐酸性に優れた花崗岩のタンクは1901年から使用。ステンレスタンクのワインからは感じ取れない歴史の重み、複雑で独特な味わいが存在する。「石蔵和飲」はイベントで参加者と一緒に造るワインで、毎年10分で定員に達する人気イベントだ。

【樽へのこだわり】
亀ヶ森醸造所(岩手)
輸入樽を使うことに違和感を覚え、国産の杉樽を使うことを検討。通常のオーク樽と同様、杉樽には温度を適切に保つ効果があり、発酵中に醪の温度が上がり水滴が発生しても、ある程度の蒸散が期待できる。金属製のタンクと比較しても、木樽は内部の温度を一定に保つ力が強い。最初の4年程度は杉特有の強い香りが出る可能性があり、数年で杉の香りがほどよく抜けると考え5年単位で検討中。

武蔵ワイナリー(埼玉)
日本生まれの杉や檜、ミズナラの木材を使用して製造した木樽によるワイン醸造を本格的にスタート。2021年からは全ての新樽を日本産に移行した。ミズナラは「ジャパニーズオーク」ともいわれるが、木樽からは白檀などの香木を思わせる香りがあり、一般的なオーク樽の「樽香」はあまり感じない。新ジャンルのワイン。

岡山ワインバレー(岡山)
フレンチオークのなかでも希少価値のある、フランス・アリエ県の「トロンセの森」で伐採した木樽を使用。非常に目が細かいのが特徴。 岡山ワインバレーの圃場は石灰岩土壌。そこで採れたシャルドネは樽に負けず、風味豊かでパワフル、華やかなワインに仕上がる。

島之内フジマル醸造所(大阪)
「吉野杉の木桶を使ったワイン造り」に挑戦。木桶で醸造したワインが日本ワインの新たな魅力になれば、日本の伝統文化の継承にもつながり、日本ワインの独自性もさらに確立できるとの思いから、日本酒や醤油蔵などが集まって木桶の未来を語る「木桶サミット」にも積極的に参加、実現を目指す。

【酸化防止剤を使用しない工夫】
domaine tetta(岡山)
フランスでいう「ヴァン・ナチュール」に近い製法を取り入れるdomaine tetta。滓引きの際にも、ポンプを使わず高低差を利用してワインを移動させる。フォークリフトでタンクを高く持ち上げてワインを流し入れ、滓が入りそうになるタイミングでバルブを閉じて滓引きを実施。酸化防止剤不使用のワインは非常に繊細な状態にあるため、負担を軽減させるための工夫だ。

スペンサーズヴィンヤーズ(茨城)
ワインを流通させる際、問屋に卸すと保管方法は各店任せになり、管理方法に関与できないため酸化防止剤を使わざるを得ない。スペンサーズヴィンヤーズでは、自身のショップか直接取引のある飲食店にしか卸さないため、最適な保管が可能。酸化防止剤を極限まで減らすことに成功している。

【酸化を防ぐ工夫】
富良野市ぶどう果樹研究所(ふらのワイン 北海道)
「ウルトラファインバブル」という技術を使い、ワインの液体内に微細な泡を発生させ液体内の酸素量を減らし、ワインの酸化を防ぎ、酸化防止剤の使用を軽減できるよう研究を重ねる。

シャトージュン(山梨)
2021年から本格稼働したボトリングマシーンにより、ボトル内のワインが酸素に触れる機会をほぼゼロにすることに成功。品質の安定感がたいへん高くなり、長期熟成への足がかりとなった。

Domaine KOSEI(長野)
過度に空気に触れて酸化が進まないよう、一定間隔でタンクの蓋を開け香りや状態を厳しくチェックし、貯酒管理を徹底している。

【濾過に遠心分離機を導入】
ぶどうの樹ワイナリー(福岡)
濾過の作業時、1分間に1万2000回ほど回転する遠心分離器で雑菌や不純物を飛ばし、澱下げ剤の使用量を減らすことに成功。澱下げ作業も短時間で済んでいる。

▶︎滞在型ワイナリー

ワイナリーに車で遊びに行っても、運転があるから試飲ができなくて残念…ドライバーの方は悲しいですよね。下記のワイナリーには宿泊施設があります!土地の「テロワール」を思う存分満喫しながらワイナリーのワインを堪能できる、そんな素敵な全国のワイナリーを紹介します!情報をぜひチェックしてください!

◆Domaine Bless(旧ル・レーヴ・ワイナリー 現在サイトリニューアル作業中)(北海道)

◆NIKI Hills Winery(北海道)

◆八剣山ワイナリー(北海道)

◆エーデルワイン(岩手)

◆了美 Vineyard & Winery(宮城)

◆カーブドッチワイナリー(新潟)

◆Rue de Vin(長野)

◆Veraison-Note(長野)(会員限定)

◆セブンシダーズワイナリー(山梨)(2024夏オープン予定)

◆中伊豆ワイナリーシャトーT.S(静岡)

◆ミシマファームワイナリー(高知)

◆ぶどうの樹(福岡)

▶︎都市型ワイナリーの取り組み

近年増え続ける「都市型ワイナリー」。畑を持たず契約農家からぶどうを購入してワインを醸造するところも多く、人が集まる都市部で「楽しい!」さまざまな取り組みを行っています。

船橋コックワイナリー(千葉県)
代表の小久保さんは『図解 ワイン一年生』の著者。千葉県船橋市にある肉とチーズとワインのバル「コックダイナー」のオーナー。住宅街にあるため大きな音をたてる機材が使えず、可能な限り手作業でワインを醸造。ワイナリー見学会では、小久保さん自ら醸造用機材や醸造工程について説明を行う。説明が終わるとワイナリーの2階に移動し、お待ちかねのテイスティングタイム。ワイナリー見学会に来る人の中には、見学後に小久保さんの経営するバルでワインと食事を楽しむ人も多い。

深川ワイナリー東京(東京)
2017年より屋上に設置したプランターにて、無農薬でぶどう栽培を開始。栽培する品種はナイアガラとデラウェア、80本程を栽培する。屋上は風通しがよく病気になりにくいうえ、設置したプランターは日照時間が長く、厚みがあり丈夫な葉が育つ。樹は順調に成長しており、2021年は4.5Kgだった収量が、2022年には10Kgに倍増した。

渋谷ワイナリー東京(東京)
契約農家のぶどうの収穫期には可能な限り現地に赴き、ボランティアスタッフも交えて収穫体験を実施。醸造所では除梗・破砕のボランティアを募り、人との繋がりを何より大切にする。「ワインのテーマパーク」を掲げる渋谷ワイナリー東京は、渋谷という様々な人が集まる立地を最大限に活かし、毎月ワイン会を実施、渋谷の企業や学校・プロスポーツチームや地元商店街とコラボ企画を実現。ワイン造りの「自由度の高さ」こそが渋谷ワイナリーの強み。

◆清澄白河フジマル醸造所(東京)◆島之内フジマル醸造所(大阪)
親子向けイベント「夏休み こどもワイン造り体験」を毎年開催。子どもたちが保護者とペアになってぶどう搾りを体験後、できたてのぶどうジュースを飲みながら、シェフ特製ミニランチコースを堪能できる。さらには搾ったぶどう果汁からできたワインが、子どもひとりにつきボトル1本プレゼントされる。参加費は一人1000円という破格の大人気イベント。

大阪エアポートワイナリー(大阪)
ソムリエとワインエキスパート試験の対策講座を実施。全6回の1次試験講座とワインの試飲付きの2次試験講座で構成される。

島之内フジマル醸造所(大阪)
子どもが無料または安価で飲食できる場として「こども食堂」を2週間に1回開催。

▶︎番外編:ワイナリーの面白いネーミング

ワイナリー名には、地名や代表者の名前が付けられることが多いですが、ユニークなネーミングも多いのです!そんな面白い&素敵なワイナリーネーミングを最後に紹介します!

North Creek Farm(北海道)
畑仕事をしていると川のせせらぎが聞こえてくるという。川は畑から見えない位置にあるが、この土地をあらわすのにうってつけな「Creek」という単語をワイナリー名に。

Domaine Kelos(山形県)
「ノン・デ・ケロス」は「飲んでください」という山形弁。地元では馴染みのある言葉で、一度聞いたら絶対に忘れない名前だと好評。

ベルウッドワイナリー(新潟)
代表の鈴木さんのお名前から(鈴=ベル、木=ウッド)で命名。

111VINEYARD(長野)
代表の川島さんの「川」から命名。(「川」の文字を3本線に見立てた!)

イルフェボー(長野)
フランス語で「イルフェボー」は「よい天気」という意味。代表取締役の落合良晴さんの「良く晴れる」という名前にちなんで付けられた。「落合さんは本当に太陽のような方です」と醸造責任者の北山さん。

シクロヴィンヤード・496ワイナリー(長野)
シクロはフランス語で「自転車」。代表の飯島さんは、元自転車競技選手だ。自社醸造場設立にあたり、愛称として「496ワイナリー」という名称を加えた。「4(シ)9(ク)6(ロ)をよろしく!」

スプリングワイン(山梨)
SPRING=「春」「弾ける・跳ねる」「泉」などの意味。「飲み手の幸せの源泉になるように」という想いを込めて、代表の佐野「いずみ」さんが、甲府駅にほど近い商店街にこの春ワイナリーをオープン予定。

兎ッ兎ワイナリー(鳥取)
①鳥取が舞台となった「因幡の白兎伝説」の「兎」②県名の「とっとり」③人々がつながり「とっとっと」と、軽やかに歩みを進めていく様子からもじった言葉遊びから命名。

224ワイナリー(高知)
代表の志賀さんいわく、「誕生日が2月2日、名字が『志賀』なので、2×2=4で『ににんが志賀』です。こういうのはね、コテコテのベタなのがいちばんいいんですよ。うちのワイナリーの看板犬はドーベルマンですが、名前は『コロ』ですから」。

▶︎まとめ

以上、この3年間で「Terroir.media」が取材した、各ワイナリーの取り組みをダイジェスト版で紹介しました。既に内容が古くなっていたり、新たな取り組みを始めているワイナリーもあるかと存じます。インタビュー時に伺った内容としてご了承いただければ幸いです。

「日本ワインは海外のワインに比べて価格が高い」という意見も聞きます。しかし、各ワイナリーの取り組みをお読みいただけば、価格の理由もご納得いただけるのではないでしょうか。日本のワイナリーの勤勉な取り組み、並々ならぬ努力、研究の成果が日本ワインを底上げし、世界も認める日本の産業という地位を確立する日も遠くありません。

第1章でお伝えしたように、日本でワイン造りが始まってからまだ150年しか経っていないにもかかわらず、日本ワインが世界のワイン銘醸地からも評価されるようになったことは特筆すべきことです。

それでは次の章では、「Terroir.awards 2024」で受賞したワイナリー、ノミネートされたワイナリーの魅力を紹介します!
お楽しみに!

©株式会社Henry Monitor 執筆:長島綾子 レビュー:小松隆史


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