「Terroir.media」公開レポート:日本ワイナリーの魅力を一挙大公開!②

皆さま、こんにちは!いつも「Terroir.media」をご覧いただき、ありがとうございます。

「Terroir.media」は、個性と魅力あふれる日本のワイナリーを紹介するWebメディアです。日本全国のワイナリーにインタビューを実施して、こだわりのぶどう栽培やワイン造りを徹底取材してお届けしています。

2020年11月の創刊以降、190軒以上の日本ワイナリーの紹介記事を掲載している「Terroir.media」。

日本のワイナリーにさらなるスポットを当てる機会を設けたいと、2023年から「Terroir.awards」を開催しています。日本ワインの普及に貢献し、さらには日本ワインを「文化」として定着させることが狙いです。

「Terroir.awards 2024」受賞ワイナリー・ノミネートワイナリー発表記事はこちらからご覧いただけます!

今回、第2回目となる「Terroir.awards 2024」をweb上で開催するにあたり、この3年間の「Terroir.media」のインタビューの成果を、レポートとして皆様にご提供いたします。

レポートは下記のように構成されています。

  • 第1章 日本ワインの現在地(レポートはこちらからご覧いただけます!)
  • 第2章 「Terroir.media」インタビューの特徴と各ワイナリーの取り組みを紹介!(前編・後編)
  • 第3章  「Terroir.awards 2024」受賞ワイナリー・ノミネートワイナリーの取り組みを紹介!

 今回は、第2章 「Terroir.media」インタビューの特徴と各ワイナリーの取り組みを紹介!(前編) をお届けします。

第2章 「Terroir.media」 インタビューの特徴と各ワイナリーの取り組みを紹介!(前編)

「Terroir.media」の趣旨は、一人でも多くの方に「日本の素晴らしいワイナリーを知ってもらう」「日本ワインの魅力を知ってもらう」「各地域の特色あるワイナリーへの訪問を促す情報を伝える」こと。

それを実現するために、下記のような取り組みを行っています。

▶︎インタビューは1回で終わらない

インタビューは「オンライン」で行い、約1時間実施します。インタビューにご対応いただくのは、ワイナリー代表をはじめ、ぶどう栽培・ワイン醸造責任者や広報の方など多岐に渡ります。

「Terroir.media」のもっとも特筆すべき点は、1回のインタビューでは終わらないことです。これまで3年間活動をする中で、1ワイナリーに対し時間を置いて2回のインタビューを実施、2つの記事を掲載しています。

1回目のインタビューでは、「ワイナリー発足の経緯」「ぶどう栽培・ワイン醸造のこだわり」「将来について」を伺い、ワイナリーの「思い」にフォーカスします。

創業者の思いが脈々と引き継がれつつ、時代とともに柔軟に進化する100年の歴史あるワイナリー。後継者不足で耕作放棄地となった畑を守りたいとの思いから、地域活性化を目指し立ち上がったエネルギー溢れるワイナリー。各ワイナリーの「ストーリー」を余すことなく伺い、ワイン造りへの思い、こだわり、これからのワイナリーについて熱い思いをお話しいただきます。

2回目のインタビューは「追跡取材」と命名し、1回目のインタビューから1年以上経過したワイナリーのこの間の変化や、新たな取り組み、その効果などを詳しく伺います。ぶどう栽培に向いているとは言い難い日本の気候条件。近年目まぐるしく変化する天候のなかで、新たに生まれる課題に果敢に挑戦しながら、より素晴らしい品質の日本ワインが誕生しています。

▶︎日本のワイン造りは、日本の「モノづくり」文化の真骨頂ではないか

毎年、新たな課題に直面する日本のワイナリー。その度に試行錯誤し、協働しながら、彼らはどのように立ち向かい、素晴らしい日本ワインが誕生するのでしょうか。一つ一つのエピソードは「教科書には載っていない」唯一無二のストーリーです。日本ワインとは、まさに日本の「モノづくり」文化の真骨頂ともいえるのではないでしょうか。

「Terroir.media」では、ワイナリーの皆様も驚かれるほど詳細に、ワイナリーのこだわりや思いを余すことなく読者の皆様に伝えます。ワイナリーの皆様に原稿をチェックいただく際には、ボリュームに驚かれることもあるのですが、

「ここまで広く深く、我々の思いを織り込んでもらった記事は初めてです」
「この記事を改めて読み、気が引き締まりました。今年も頑張ります」
「自分達の行動を再確認する良い振り返りの機会になりました」
と有難いコメントをいただいております。

インタビューで伺った日本のワイナリーの素晴らしい取り組みについて、この章ではできる限りたくさんのワイナリーの取り組みを紹介します。ワイナリーの努力は想像を絶するほどで、「汗水たらして」などと一言では表現できないほど果てしなく、時に過酷でさえあります。

それでは早速、各カテゴリーごとに、北から南の順に紹介します!

▶︎オリジナル品種、日本で古くから栽培された品種

ここでは、日本のワイナリーのオリジナル交配品種、日本で古くから栽培されてきた品種、日本の野山に昔から生息する「ヤマブドウ」との交配品種など、日本で誕生したぶどうを栽培するワイナリーを紹介します。

◆池田町交配品種「山幸(やまさち)」「清舞(きよまい)」「清見(きよみ)」「銀河」「未来」
北海道池田町 十勝ワイン(北海道)
ヤマブドウの交配品種ではない清見は、「セイベル13053」の中でも極早生のものをクローン選抜した独自品種。清舞と山幸は、清見とヤマブドウをかけ合わせて作られた。山幸は2019年に国際ブドウ・ワイン機構(O.I.V)に登録され、銀河と未来は、2022年1月に国内で品種登録されたばかり。垣根仕立てで栽培され、耐寒性に非常に優れ、防除回数の軽減に成功。オホーツク海に面した極寒の大地でぶどう栽培を行う「インフィールドワイナリー(北海道)」でも、山幸・清舞を栽培。

◆オリジナル交配品種「ふらの2号」
富良野市ぶどう果樹研究所(ふらのワイン 北海道)
「セイベル13053」とヤマブドウを交配。ヤマブドウを交配することで耐寒性の強い品種の開発に成功、1985年に選抜された。ふらの2号は愛らしいエチケット「羆の晩酌(ひぐまのばんしゃく)」やアイスワインに使われている。

◆オリジナル交配品種「北の夢」
サンマモルワイナリー(青森)
「サンカクヅル」というヤマブドウの一種とピノ・ノワールを交配させたハイブリッド品種。ベリー系のジャムのような風味が特徴で、ほのかな野性味も感じる濃厚な味わいのワインに仕上がる。

◆川上善兵衛交配品種「レッド・ミルレンニューム」
岩の原葡萄園(新潟)
ライチや花など極めてトロピカルでフローラルな香りと、フレッシュな酸。栽培技術が向上し、完熟したぶどうが収穫できるようになり、味わい豊かなワインに仕上がる。「レッド・ミルレンニューム 辛口」は都内開催の岩の原葡萄園のイベントでも最初に完売するほどの人気商品。

◆川上善兵衛交配品種「ローズ・シオター」
岩の原葡萄園(新潟)
バナナ、パイナップルといった濃厚なフルーツ香があり、味わいは穏やかで丸みを帯びている。岩の原葡萄園の個性を表現する品種としてプロモーションし、売れ行き好調なワインに成長。

◆「北天の雫」「富士の夢」
つくばワイナリー(茨城)
初めての植栽で欧州系品種を選ぶのは難しいのではとの助言から、ヤマブドウ系のハイブリッド品種の栽培を開始。ヤマブドウ系のぶどうは日本の気候に合い、病害虫に強い。2023年に「北天の雫」で造ったスパークリング「2021 SPARKLING BLANC (スパークリングブラン)」をリリースした。
「富士の夢」はぶどうの樹ワイナリー(福岡)でも栽培。栽培しやすく、ヤマブドウ系の交配品種なので色付きが非常によく、収量も多い。

◆山梨県交配品種「ソワ・ノワール」
欧州系品種の「メルロ」と「ピノ・ノワール」を交配。2022年10月に出願公表された。品種名はワインの色が濃く、味わいが絹のように滑らかであることから「黒い絹」 という意味で命名された。山梨の老舗ワイナリーが注目している。
原茂ワイン(山梨)
育てやすさの面も注目に値する。早生品種であるメルローよりもさらに早く成熟する品種特性があり、病害虫のリスクを低く抑えられる。高温下でも着色しやすく、温暖化が進む近年の日本でも栽培しやすい品種。
岩崎醸造(山梨)
山梨でピノ・ノワールを栽培すると、「握り房」といって、粒がぎゅっと密集した房になりやすい傾向がある。一方、新たな交配品種は粒が離れた「バラ房」になるようなので期待が高まる。
丸藤葡萄酒(山梨)
8月中に収穫できる早熟品種のため、秋雨や台風に当たる可能性を回避できるのが強み。色素が濃いことで、色づきの問題も解消できる可能性がある。今後注力すべきは、よいぶどうを入手すること。気候変動があっても、品質の安定したぶどうを収穫できることが大切だ。

◆山梨県交配品種「アルモノワール」
原茂ワイン(山梨)
山梨県果樹試験場にて、カベルネ・ソーヴィニヨンとツヴァイゲルトレーベを交配して生み出された欧州品種同士の交配品種。タンニンはしっかり、飲みごたえのある質の高いワインを生み出すポテンシャルがある。原茂ワインでは棚仕立の一文字短小剪定で栽培。雨に当たると、晩腐病や灰カビ病にかかりやすいため、原茂ワインではひとつひとつのアルモノワールに笠かけを施す。

◆「マスカット・オブ・アレキサンドリア」
ふなおワイナリー(岡山)
ぶどうの生産量が全国第4位の岡山県でもっとも古くから栽培されてきた歴史を持つ品種。ムスクのような上品な香りとさっぱりした甘さで生食用ぶどうとして人気が高い。ハウス栽培と、雨よけのある露地での栽培を実施。「GRAPE SHIP(岡山)」でも栽培し、マスカット・オブ・アレキサンドリアを後世に伝えようと地域一体となって取り組む。
ふなおワイナリーでは現在、地元の固有品種「シラガブドウ」と、マスカット・オブ・アレキサンドリアの交配品種の開発に乗り出している。

◆オリジナル交配品種 「宇倍野(うべの)」と「Lino(リーノ)」
兎っ兎ワイナリー(鳥取)
鳥取市の環境に適応させるため数十種類の交配ぶどうを選抜、鳥取市の畑の環境に合うものを徹底的に実地調査した。かけた年月はおよそ10年、うち4年は無農薬試験を行い、無農薬でも健全に育つぶどうの開発に成功。

◆オリジナル交配品種「品種名なし」
都城ワイナリー(宮崎)
「エビヅル」というヤマブドウのような在来種をベースとした交配品種と、カベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせた品種。雨に非常に強く、葉が厚く、カビ系の病気に強い。酸がシャープでタンニンは少なめ。

◆「リュウキュウガネブ」
沖縄本島に自生する南方系の山ブドウ。リュウキュウガネブを栽培、ワインを醸造する沖縄のワイナリー「沖縄葡萄(沖縄)」も「Terroir.media」で取材完了。記事掲載をお楽しみに!

▶︎甲州へのこだわり

山梨で誕生したと伝えられ、今や日本の固有品種として世界が注目する「甲州」。より素晴らしい品質を目指し、各ワイナリーがしのぎを削っています。ここでは大手ワインメーカー2社の取り組みを紹介します。

シャトー・メルシャン勝沼ワイナリー(山梨)
1990年後半から「甲州を使っても特徴あるワインが造れない」と、甲州の苗木が他の品種に植え替えられるようになった。甲州の減少を食い止めなければという使命から、2000年に「甲州プロジェクト」を開始したシャトーメルシャン。その成果としてふたつのワインが誕生した。柑橘の香る「甲州きいろ香」と、甲州ぶどうの魅力を100%引き出すことに成功した「甲州グリ・ド・グリ」。今までにない甲州ワインの製法、いわば「企業秘密」を、シャトー・メルシャンは勝沼近隣ワイナリーに公開。その後甲州ぶどうの減少は確実に止まり、甲州は世界に認められる品種となる。さらに2021年、「シャトー・メルシャン 岩出甲州 オルトゥム」という新たな甲州ワインが誕生。「きいろ香」を越える、新たな香りが検出された甲州ぶどうから造られたワインが「オルトゥム(=上昇の意)」。甲州のポテンシャルが、今後さらに上がるという実感と願いを込めて命名された。

サントリー登美の丘ワイナリー(山梨)
2022年、サントリーに新ブランドが誕生。その名も「SUNTORY FROM FARM」。「畑を大切にするワインづくり」という、サントリーが一貫して行ってきた取り組みを外に向けて発信する、という決意が込められている。世界の権威あるワインアワード「Decanter World Wine Awards 2023」にて「SUNTORY FROM FARM 登美の丘 甲州 2021」が最高賞プラチナ賞を受賞。「登美の丘 甲州2021」のワイン造りは、畑選びと植樹の段階から始まる。自社管理畑の中でも凝縮感が期待できるエリアを選択、山梨県の系統選抜種の中でもとりわけ濃い果実ができる甲州樹を選択。植えた樹はすぐには大きくせず樹勢をコントロールし、4年後ようやく獲れ始めたぶどうの中でも十分に完熟したものだけを房単位で選別し使用。味わいに厚みを出すため、異なる3つの区画の甲州をブレンド。①凝縮感がある甲州②垣根栽培の甲州③樹齢40年の甲州だ。異なる特徴を持つ甲州をさらに細かなキュベに分け、究極のバランスから誕生した「登美の丘 甲州 2021」。和柑橘やマンダリンオレンジなどの熟した柑橘の香り、甘やかな桃のアロマが多層的に感じられる。

▶︎新たに栽培しはじめた品種は?

ここ数年、気候変動の影響を受け各地域のワイナリーがその土地にあった品種を求めて栽培するぶどう品種を検討、植え替えを行っています。各ワイナリーの取り組みを北から順番に紹介します。

Domaine Bless(旧ル・レーヴ・ワイナリー 北海道)
2021年、拡張した畑に「ミュスカ」「ゲヴュルツトラミネール」「リースリング」「オーセロワ」「ソーヴィニヨン・ブラン」の5品種を植栽。アルザス系のアロマティックな品種を中心に増やした。

Fattoria da Sasino(青森)
2023年から3品種を増やす予定。青森県弘前市の土地に合うぶどう品種について、「シャルドネ」「ネッビオーロ」「バルベーラ」に期待を寄せる。

アールペイザンワイナリー(岩手)
2022年に5品種目となる「プティ・マンサン」を増植。岩手での栽培が初となるプティ・マンサンを耕作放棄地に植えて、高齢農家や地域支援をおこなうことが目的。300本植える予定だったが苗木不足で80本ほど植樹。

ココ・ファーム・ワイナリー(栃木)
「アルバリーニョ」の作付け面積を増やし、「プティ・ヴェルド」を試験栽培。プティ・ヴェルドを植えた当初は色づきが悪かったが、除葉のタイミングなど栽培方法を試行錯誤していくうちみるみる改善された。

ヴィンヤード多摩(東京)
2022年に「甲州」と「ビジュノワール」を増やす。甲州は棚栽培にチャレンジ、ビジュノワールは非常に色づきと香りがよく、期待する品種。

サントネージュワイン(山梨)
2023年よりプティ・マンサンの栽培を山形県上山地区の圃場で開始。病気に強く、上山市の畑に適した品種だと現地の生産者も期待をよせる。苗木の数が一度に揃わないため、少しずつ増やしていく。

シャルマンワイン(山梨)
温暖化にも対応できる新たな品種として「ツヴァイゲルトレーベ」を試験栽培。ツヴァイゲルトレーベはオーストリアで開発された赤ワイン用品種。色付きのよさと収穫時期が早いことが利点。

若尾果樹園マルサン葡萄酒(山梨)
「アルバリーニョ」を2021年より日本の風土に合っているという観点から栽培。圃場にもともとあった棚を活用し棚栽培で行う。ぶどうの健全な生育や農家の作業効率のよさから棚栽培の優れた点に再注目。

岩崎醸造(山梨)
気候に合わせた新しい品種を模索中。「プティ・マンサン」や「アルバリーニョ」などの栽培を新たに開始。

ヴィラテストワイナリー(長野)
毎年新しい品種を増やしているが、2021年頃から「プティ・マンサン」「アルバリーニョ」「シラー」「ガメイ」を植栽。代表の小西さんが理事を勤める「一般社団法人 日本ワインブドウ栽培協会」では、海外のワイン用ぶどうを日本に導入する活動を行っている。まだ日本に導入されていない品種の中には、病気に強く、日本での栽培が成功する可能性が秘められている。

サンサンワイナリー(長野)
自社畑では「ピノ・ノワール」や「ソーヴィニヨン・ブラン」「カベルネ・ソーヴィニヨン」などを試験栽培し、メルローやシャルドネに代わる品種を模索中。

サンクゼール・ワイナリー(長野)
圃場が冷涼な土地にあるため「山幸」「清見」「清舞」のヤマブドウ系3品種を試験栽培。2020年からは、少量収穫できたものがブレンドに使用されている。

Vinoble Vineyard & Winery(広島)
栽培やワイン醸造の他、ワイン用ぶどう苗木の生産も行う代表の横町さん。扱う品種が多いため三次市の土地に合う品種がまだ判断できないが「ピノ・ノワール」に可能性を感じ、2024年にはピノ・ノワールの畑をさらに広げる予定。ピノ・ノワールは他の品種に比べてクローンごとの差が出やすく、クローンによって土地との相性もはっきりするそう。現在栽培しているピノ・ノワールのクローンは15種類。三次市に合うクローン型は、「943」「MV6」「115」など。房が小さく、「ばら房」になる943などは湿気が溜まりづらく病気になりにくいため相性がよい。クローン型によっては、明らかに三次との相性が悪いものもあるという。

安心院葡萄酒工房(大分)
2021年に植えられた品種は主に「ピノタージュ」と「アルバリーニョ」。ピノタージュは、南アフリカで広く栽培されている赤ぶどう品種。ピノ・ノワールとサンソーをかけ合わせて生み出されたぶどうで、酸味と果実味のバランスが魅力。熟しやすく、病害虫に強い性質を持つため、高温多湿でぶどう栽培が難しい日本でも、安定した栽培が期待される。

香月ワインズ(宮崎)
2018年に開拓した新圃場にて「ナイアガラ」「ポートランド」「巨峰」の生食系ぶどう栽培を開始。欧州系のぶどう品種を中心に栽培していた香月ワインズだが、高温多湿な環境に耐えられる強健なぶどう品種を選んだ。

▶︎「栽培に適した品種」の定義とは

「栽培に適した品種」という定義は、それぞれのワイナリーによって、地域によっても変化がありそうです。ここでは、3ワイナリーの「栽培に適した品種」についての考えを紹介します。

タケダワイナリー(山形)
「リースリング」は、30〜40年前に比べて品質がよいものが採れにくくなり、反対に、「カベルネ・ソーヴィニヨン」や「ヴィオニエ」は、以前よりも品種特徴が出やすくなってきたと感じます。しかし、気候が変わったなら、変わった気候に合うように栽培を行えばよく、栽培の時期を調整し、栽培する品種を気候に合うよう変化させていきたいと思います。(代表:岸平さん)

カーブドッチワイナリー(新潟県新潟市)
「質のよいぶどうがとれること」「栽培コストがかかりすぎないこと」「一定の収穫量を確保できること」の3つがバランスよく満たされて「栽培に適している」といえると思います。さらに、ワイン用ぶどうには「テロワール」というファクターがあり、そこにしかない味が生まれます。土地の特殊性を「品種」を介して表せるかどうかを一番大事にしています。(取締役:掛川さん)

機山洋酒工業(山梨)
「収穫量が安定している品種」を重視しています。安定をとる理由は、山梨の畑は面積が狭いからです。限られた土地でぶどうを育てなければならないので、単位面積あたりの収穫量が確保できることが欠かせません。家族や従業員など背負っているものを守りつつ、お客様に喜んでいただけるワインを造るには「安定して収穫できる品種」であることが第一条件です。(代表:土屋さん)

▶︎苗木問題について

これまで各ワイナリーの品種に対する取り組みを紹介してきましたが、新たな品種を入手する際に多くのワイナリーが悩む「苗木にまつわる問題」。苗木が手に入らない、ウィルスに感染しているのでは…といったことについて、北海道で苗木商を営む「北海道ブドウ苗木園(北海道)」の取り組みと、独自で苗木を作るワイナリーの取り組みを紹介します。

北海道ブドウ苗木園(北海道)
日本におけるぶどうの収量が海外に比べて少ないのは、気候的な要因だけではなく、ウイルス感染も原因のひとつだと考える代表の家島さん。
①ウイルスフリーなぶどう苗を増やすため、北海道大学と共同で「PCR検査」により、簡易ウイルスチェックが可能になる研究を進めている。
②北海道に自生するヤマブドウを台木にし、北海道の大地に適合する苗木作りを目指す。ヤマブドウは極寒の地でも自生するものもあるが、野生味が強すぎる品種特性もある。ヤマブドウの台木としての活用に期待。
③日本でも栽培が容易にできる品種交配を研究中。

Fattoria AL FIORE(宮城)
現状、どの品種も上手く育てられそうだと感じているため、品種選び以上に「強い苗のクローン」を増やすことが大事だとプロデューサー兼醸造家の目黒さん。同じ品種でも苗ごとに特性が異なるため、Fattoria AL FIOREでは自社畑で育つ苗の中でも、特に強い苗を選び、台木を自社で作っている。

▶︎土壌へのこだわり

それではここから、各ワイナリーの栽培や醸造のこだわりについて具体的に紹介します。
まずは健全なぶどうを育てるための土壌へのこだわりからです。

ふらのワイン(北海道)
ぶどう栽培に向かない土地でぶどうを作るにあたり、高橋さんが保有する「日本土壌協会」の資格が非常に役立っている。土づくりでは土壌の成分に注目するのが一般的だが、ぶどう栽培をする上では「土の硬さ」も重要になる。地中に伸びる根の周囲の土が固い場合、根の伸びが悪かったり、根が空気を吸えずに窒息することもある。

エルサンワイナリー ピノ・コッリーナ(山形)
松ケ岡を「ワイン産地」にするため、徹底的にデータを収集した。ぶどう品種は松ケ岡の気候・土壌・日照時間のデータと照らし合わせ土地に合うと判断されたものを植樹。データ取得には、鶴岡高等専門学校が保有する気象データのモニタリング装置を借りて実施した。土作りは、樹を植える段階で山形大学農学部に協力をあおぎ、「根の張り方」「水の流れ方」「土壌環境」を調べ、足りない成分を畑に入れpHを調整。土中の液体・個体・気体の配合データを確認し、畑にとって最適な「傾斜」をつけて水の流れが良好に保たれるよう調整した。樹を植える間隔が変わると根の張り方も変わり、土壌水分の吸い上げにも影響する。定植時に樹間を50cm、1m、1m50cm、2mと変えて植え付けた結果、根が最もうまく張り安定するのは1m50cmだと判明。

南三陸ワイナリー(宮城)
粘土質土壌で根が張りにくく、ぶどうの生育がうまくいかないのではという専門家からの指摘を受け、土壌環境の再構築を決行。2023年、ぶどう樹の50cmほど横を掘り返し、堆肥や土壌改良材剤などを入れて埋め戻す作業に着手。粘土質由来の水はけの悪さ対策として、水の流れる道筋を作った。

ドメーヌ長谷(長野)
土壌改良のため、ぶどうに合わない土には管理が楽な「蕎麦」を植えている。蕎麦には土壌に含まれた過剰な肥料分を吸い取る特性があるため。蕎麦は肥料が強すぎる土壌や酸性土壌でも問題なく育つ。

ハセ・ド・コダワール(長野)
畑作りでは「作土層」をしっかり作ることを重視。作土層とは地面表層の黒い色をした腐植土層のこと。枯れた雑草などで作られる層で、微生物が多く、植物が根を張りやすい環境になる。土壌学を専攻していた代表の長谷川さん。作土層を広げるため、畑作りの初期に松の樹皮をチップ状にした農業資材「バークチップ」を撒いた。バークチップを入れて土に健全な栄養素を含ませた後、圃場に下草を生やす「草生栽培」を開始。雑草を生やし放題にしてしまうと虫が巣を作り大量発生してしまう。肥料は、ぶどうがpHの高い土壌を好むため天然由来のカルシウム肥料のみ使用。養分の少ないところで実をつけたぶどうの方が、複雑味と凝縮感を表現できるという。

サントリー塩尻ワイナリー(長野)
自社管理畑にて「土壌水分調査」を実施。畑に穴を掘り管を埋め、年間を通じて水の動きの変化を調査。凝縮感あるぶどうを育てるため、土壌中の水の動きを知り、それぞれの畑に合った適切な水分ストレス管理を実施。

スペンサーズ・ヴィンヤーズ(茨城)
土を柔らかく保つことを重視し、重機の使用を避け、機械の重みで圃場を踏み固めることを防ぐ。唯一使用するのは接地面の圧力を分散し、土を固めないキャタピラのみ。

Sawa Wines(千葉)
自社畑は関東ローム層の粘性土。酸性土壌のためカキ殻石灰を撒き、土壌成分をアルカリ性に近づけている。近隣の野菜畑で撒いた肥料の成分が流れ込むため抜本的な土壌改良が難しく、土壌分析を定期的に実施。その都度足りない成分を肥料で補う。

224ワイナリー(香川)
花崗岩がメインの土壌は養分がなく非常に痩せているため、畑を造成する際、必要な成分を補充。水はけが非常によいが、一部の水はけが悪い区画では暗渠を作って対策。

▶︎まとめ

この3年間で「Terroir.media」が取材した、各ワイナリーの取り組みをダイジェスト版で紹介する第2章、前編をお届けしました。既に内容が古くなっていたり、新たな取り組みを始めているワイナリーもあるかと存じます。インタビュー時に伺った内容としてご了承いただければ幸いです。

第1章でお伝えしたように、日本でワイン造りが始まってからまだ150年しか経っていないにもかかわらず、日本ワインが世界のワイン銘醸地からも評価されるようになったことは特筆すべきことです。その背景には、各ワイナリーの想像を越える努力があったからに他なりません。

それでは次回は、第2章「Terroir.media」インタビューの特徴と各ワイナリーの取り組みを紹介!(後編)をお届けします。各ワイナリーの栽培や醸造における取り組みについて余すところなく紹介します。

どうぞ、お楽しみに!

©株式会社Henry Monitor 執筆:長島綾子 レビュー:小松隆史


★本メディアは、個性と魅力あふれる日本のワイナリーを紹介する、日本ワイナリー専門Webメディア「Terroir.media」です。

★日本全国のワイナリーにインタビューして、こだわりのぶどう栽培とワイン造りを徹底取材してお届けしています。まだお読みいただいていない過去記事がありましたら、チェックしてくださいね。

★「Terroir.media」公式SNSも随時更新中です。皆様からのフォロー、いいね、コメントなどをお待ちしています。

★「Terroir.media」に紹介記事掲載をご希望のワイナリー関係者の皆さま、ぜひお気軽にご連絡ください。インタビュー・ご紹介記事作成はすべて無料で対応しています!

メールアドレス:terroir@henrymonitor.com

関連記事

  1. 「Terroir.media」公開レポート:日本ワイナリーの魅力を一挙大公開!①

  2. 「Terroir.media」公開レポート:日本ワイナリーの魅力を一挙大公開!④

  3. 「Terroir.media」公開レポート:日本ワイナリーの魅力を一挙大公開!③