追跡!ワイナリー最新情報!『錦城葡萄酒』新たな甲州ワインをリリースし、地域貢献にも積極的

日本ワイン発祥の地とされる山梨県甲州市勝沼町で、長年ワイン造りを営んできた「錦城葡萄酒」。前身である「赤坂醸造組合」が1939年に誕生して以降、ワイン造りを続けてきた。

地域のぶどう農家との強い繋がりを大切にしている錦城葡萄酒は、山梨県の伝統的なぶどう品種である「甲州」と「マスカット・ベーリーA」を中心としたさまざまな品種でワインを醸す。

錦城葡萄酒がワイン造りで大切にしていることは、基本に忠実なワイン造りを徹底すること。ぶどうの魅力そのままを引き出すことを重視している。マスカット・ベーリーA100%のスパークリングワイン「淡紅(あわべに)」や、自社畑に育つ樹齢30年以上のカベルネ・ソーヴィニヨンを使った「紫苑(しおん)」など、個性豊かなラインナップが魅力だ。

今回は醸造担当の片山拓馬さんに、錦城葡萄酒の2023〜2024年のぶどう栽培とワイン醸造について振り返っていただいた。錦城葡萄酒の今に迫る。

『錦城葡萄酒 2023〜2024年のぶどう栽培』

まずは、2023年以降のぶどう栽培から確認していこう。年ごとに大きな変化を見せる天候や、契約農家との関係づくりについてなど、気になるトピックを取り上げたい。

生育期の気温上昇による影響など、さまざまな要因に左右されるぶどう栽培。錦城葡萄酒では、どのような対策をして乗り越えてきたのだろうか。

▶︎暑さに負けない高品質なぶどう

「2023〜2024年のぶどう栽培を振り返って感じるのは、やはり暑さの影響が非常に大きかったということですね。虫の発生が多く、高温による着色障害もありました。しかし、契約農家さんの頑張りによって、ありがたいことに品質は例年通り素晴らしいものでした。また、収量も落ちることなく、むしろ前年よりも増加したくらいです」。

力強く答えてくれた醸造担当の片山さんの言葉からは、錦城葡萄酒が契約農家に寄せる信頼の大きさが感じられる。猛暑に苦しめられながらも、ぶどうの出来が上々だったのは幸いだ。

しかし、気候変動による着色不良は、無視できない問題のひとつである。温暖化が進んでいる昨今では、赤ワイン用品種をしっかりと色付きよい状態に持っていくのが難しくなってきている。

錦城葡萄酒で扱う赤ワイン用品種は、マスカット・ベーリーA、カベルネ・ソーヴィニヨン、甲斐ノワールの3品種。特に、本来であれば最も果皮の色が濃いはずのカベルネ・ソーヴィニヨンの色付きが薄くなってしまった。真夏の高温による影響が考えられるそうだ。

一方、白ワイン品種に関しては、甲州の品質がとりわけ良好だった。片山さんは、契約農家への感謝を口にする。

「栽培の難易度が上がってきている中でも、契約農家の皆さんは、素晴らしい品質の甲州を持ってきてくださいます。高品質なぶどうのお陰で、ワインのレベルも毎年上がってきていますよ」。

契約農家が持ってきてくれたぶどうは、必ず対面で受け取ることにしている片山さん。感謝の言葉を欠かさず伝えるように心がけている。ワインの原料を供給してくれる契約農家との長年の絆は、ワイナリーにとってかけがえのない宝である。

「私が錦城葡萄酒でワイン造りを始めて、4年が経ちました。契約農家さんとの信頼関係も、少しずつ構築できていると思います。地域の契約農家さんと関係を深めることが、錦城葡萄酒でのワイン造りにおいてとても大切なのです」。

▶︎地域と協力して切磋琢磨していく

今後もさらなる気候変動が予測される中、錦城葡萄酒はぶどう栽培とどのように向き合っていくのだろうか?

「山梨を代表する品種である甲州やマスカット・ベーリーAのレベルを、さらに上げていく必要性を感じています。山梨県のワイナリーの甲州のレベルはもともと高い上に、年々向上しています。錦城葡萄でも、引き続き甲州やマスカット・ベーリーAを積極的に使って、山梨県のワインを盛り上げたいですね」。

県全体で甲州の栽培レベルが上がっている理由として、情報共有が積極的におこなわれていることが挙げられる。ワイナリーの垣根を超えて、ぶどう栽培やワイン醸造の情報を共有し、地域全体で切磋琢磨できる環境が整っているのだ。

「栽培や醸造でわからないことがあったら、他のワイナリーさんに相談できる環境です。ワイナリー同士の繋がりが強いため、地域ならではの悩みやトラブルがあった際の具体的な解決策など、助けを求めることができるのです。とても心強いですね」。

錦城葡萄酒は「勝沼ワイナリーズクラブ」に所属している。「勝沼ワイナリーズクラブ」は、勝沼ワインの品質向上や高品質な甲州を広めることを目的とした団体だ。毎月開催される会合に参加し、情報共有をおこなっているという。地域のワイナリー同士での情報交換ができるため、新しい知識を自分たちの栽培や醸造に生かすことが可能である。

「勝沼でワインを造るということの素晴らしさを実感しています。私は他県から来たので、みんなで情報共有しようという勝沼の風土に、初めはとても驚きました」。

片山さんは、ワイン造りを通して「地域と支え合っている」ことを実感していると話す。周囲からのサポートへの感謝の思いを支えに、自分たちもより一層地域を支えられる存在になるため、たゆまぬ努力で品質の向上を目指していくのだ。

『錦城葡萄酒のワイン醸造 白ワイン造りに新たな工夫』

続いては、錦城葡萄酒のワイン造りについて見ていこう。2024年の醸造では、どのような工夫が加えられ、どのようなワインが出来上がったのだろうか。

片山さんがおすすめするワイン銘柄も教えて頂いたので、あわせて紹介していきたい。

▶︎デブルバージュを導入して、より香り高いワインに

錦城葡萄酒のワイン造りにおいて、2024年に最も大きな変化となったのは、白ワイン醸造で「デブルバージュ」という工程を加えたことだ。デブルバージュとは、発酵前に果汁を落ち着かせて不純物を沈殿させることである。

「これまではおこなっていなかったデブルバージュですが、2024年の醸造からは必ずデブルバージュの工程を取り入れることにしました。きれいな発酵を促し、香りをより引き出すことが目的です」。

デブルバージュを実施したワインの官能評価は評価が高かった。豊かなアロマが感じられたため、新たな取り組みは成功だったといえるだろう。

「赤ワイン醸造はこれまでと大きく変えていませんが、ワインの質は向上しています。これは、単純に私自身の醸造技術が向上したからでしょう。例えば、マスカット・ベーリーAのプレス作業をする際には、以前よりも大幅に作業時間を短縮できるようになりました。さまざまなポイントで成長を実感しています」。

マスカット・ベーリーAはプレス時に果実が目詰まりを起こしやすく、搾汁に時間がかかる品種だ。以前は、マスカット・ベーリーAのプレスがなかなか終わらず、夜通しプレス機をチェックしていたこともあったという片山さん。今後は、ぶどう本来の果実感をより表現できるワイン造りを目指すと決意を語ってくれた。

▶︎「東雲ーしののめー」

今回、片山さんにおすすめいただいた銘柄は3種類。最初に紹介するのは、勝沼町東雲地区の甲州のみを使用した白ワイン「東雲ーしののめー」だ。

「2023年の日本ワインコンクールで銀賞を受賞しました。錦城葡萄酒が造るワインのスタイルの、ベースモデルとなる1本が新たにできたと思っています」。

「東雲ーしののめー」の特徴は、ほんのりと感じられる甘みだ。発酵を途中で止めることであえて糖分を残し、味わいに丸みをもたせた。甲州の爽やかさが感じられつつも飲みやすく、酸と甘味のバランスが素晴らしい。なぜ甘みを残すスタイルで醸造したのだろうか。

「『東雲ーしののめー』は、名前の通り『東雲地区』のブランドワインを造ることがコンセプトでした。錦城葡萄酒には甲州の白ワインの既存銘柄があったので、差別化するために甘みを残したのです」。

甲州の新しい楽しみ方を提案する「東雲ーしののめー」は、優しい味わいの和食にピッタリとマッチする親しみやすいワインになった。

「日本らしさを表現したいということで、エチケットの文字は書道家の方に書いていただきました。地域にこだわりたいという錦城葡萄酒の思いが反映されたワインです。エチケットから味わいまで、みんなで話し合いながら決めました。なんでも相談して決めるのは、うちのワイナリーのよいところですね」。

「東雲ーしののめー」は、飲んだお客様からの反応がよく、今いちばん好評を博している銘柄だ。錦城葡萄酒としても、今後大きくアピールしていきたいと考えている。「錦城葡萄酒といえば『東雲ーしののめー』が美味しいよね」と思い出してもらえる、アイコニックな存在に育てていきたいそうだ。

▶︎「紫苑ーしおんー」

錦城葡萄酒の自社畑には樹齢30年を超えるカベルネ・ソーヴィニヨンがある。古木のカベルネ・ソーヴィニヨンで造った「紫苑ーしおんー」は、長い歴史がある銘柄だ。

「気候変動で温暖化が進み、勝沼ではカベルネ・ソーヴィニヨンの栽培が難しくなってきました。錦城葡萄酒は、『勝沼でカベルネ・ソーヴィニヨンを育て続けてきたワイナリー』として、可能な限りずっと『紫苑ーしおんー』を造り続けていきたいと考えているのです」。

毎年造り続けている「紫苑ーしおんー」だが、古木が少しずつ枯れてきていることもあり、生産量はごく少数だ。直近のリリース済みビンテージである2022年の生産量は、全部で30本のみ。本数が少ないため、ワイナリーに直接足を運んでくれた顧客向けの限定販売だ。

「ぜひワイナリーに来ていただいて、カベルネ・ソーヴィニヨンの畑を見ながら『紫苑ーしおんー』楽しんでいただけたら嬉しいです。実際にカベルネ・ソーヴィニヨンが育ったその場所を感じながらワインを飲めば、より深く味わっていただけるでしょう」。

ワイナリーの試飲スペースのすぐ隣に広がるカベルネ・ソーヴィニヨンの圃場を散策しながら貴重なワインを飲んだ思い出は、長く残る大切な記憶になるだろう。

▶︎「藍白-あいじろ-」

最後に紹介するのは、すずらんが描かれたエチケットが印象的な甘口白ワイン「藍白-あいじろ-」だ。

「とても飲みやすいワインです。近年は若者のアルコール離れなどもあって、度数の高いワインは敬遠されがちです。『藍白-あいじろ-』は、普段アルコールを飲まないという人にも気軽に試していただける1本ですよ」。

フルーティーな味わいに仕上がっている「藍白-あいじろ-」は、甘さの中にある爽やかな「酸」も魅力のひとつ。ワインに初挑戦してみたいという人にこそ手にとってほしい、錦城葡萄酒の自信作だ。

「テーブルワインとして飲んでいただきたい1本です。初めてワインを飲む人にもぴったりの味わいになるように造りました」。

『錦城葡萄酒のこれから』

最後に、2025年以降に企画している錦城葡萄酒の取り組みと、今後の目標について尋ねてみた。

初開催のイベントや具体的な施策などについてお話いただいたので、錦城葡萄酒のこれからを共に見ていこう。

▶︎2024年初開催のメーカーズランチ

まずは、イベント関連の話題から。錦城葡萄酒は、2024年に初めて「メーカーズランチ」を開催した。

「ワイナリー近くにある貸別荘で、山梨の食材を使ったランチと錦城葡萄酒のワインのペアリングを楽しんでもらうイベントを開催しました。ランチの後は、ぶどう畑で一緒に作業をしたり、ワイナリー見学をしたりと盛りだくさんなイベントで、参加したお客様には大変満足いただけたようです。よい企画だったと自負しています」。

山梨ならではの味覚とワインが楽しめるイベントは、当初10名程度での開催を予定していたが、30名以上からの申し込みがあった。

「次は定員を増やして、継続的に開催していきたいですね。メーカーズランチはお客様に感謝を伝えられる貴重な場です」。

最新のイベント情報はInstagramで告知しているので、気になる方はぜひチェックしていただきたい。

▶︎2025年以降の目標

錦城葡萄酒が掲げるワイン造りでの次なる目標は、甲斐ノワールとマスカット・ベーリーAをブレンドして今までにないワインを造ること。甲斐ノワールを育てる契約農家が増えたため、積極的に使って品種個性を生かしたワインを造ろうと考えているのだ。

「甲斐ノワールは、樽熟成することで渋みやタンニンを魅力として表現できる品種です。山梨発の品種だからこそ、どんどん使ってよいワインを造っていきます」。

また、ワイン造りと並行して、地域を盛り上げることにも積極的な錦城葡萄酒。地域に支えられているワイナリーだからこそ、地域貢献への思いが強いのだ。

「ワイナリーの隣にクラフトビールの工場が移転してきました。その他にも、近くにコテージができ、地域が少しずつ盛り上がりを見せています。錦城葡萄酒もまわりの皆さんと協力して、地域を盛り上げる一端を担いたいですね」。

『まとめ』

2023〜2024年のぶどう栽培では、猛暑の影響を受けて着色不良などが見られたが、契約農家の努力によってぶどうの品質はしっかりと維持。収穫量も増加し、甲州は特に高い品質のぶどうが収穫できた。

また、2024年の白ワイン醸造では、不純物を沈殿させるデブルバージュの工程を導入し、豊かなアロマを持つワインが誕生。さらに、2024年初開催のメーカーズランチは好評を博した。今後もイベントを通じて顧客との交流を深めて、地域と連携したワイン造りを目指していく。

「消費者の皆さまが日本ワインに触れる機会は、少しづつ増えてきていると感じます。しかし、ワインをもっと日常に定着させるためには、まだまだ努力が必要です。私たちは、日本ワインが毎日の食卓にあることを理想としています。伝統ある勝沼の生産者として、『日本ワインを日常にしよう』というメッセージを、これからも伝えていきたいです」。

地域とともに歩む錦城葡萄酒の魅力的なワインに、これからも注目していきたい。


基本情報

名称錦城葡萄酒
所在地〒409ー1303
山梨県甲州市勝沼町小佐手1735
アクセスhttps://maps.app.goo.gl/ZMr8YBNJtZzxtR1E8
HPhttps://kinjyo-wine.com/

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