追跡!ワイナリー最新情報!『エルサンワイナリー ピノ・コッリーナ』ワインのスタイルが確立した最新ヴィンテージ

山形県鶴岡市、月山を望む丘に佇む『エルサンワイナリー ピノ・コッリーナ』。耕作放棄地の増加に危機感を抱いた早坂剛さんが、2017年に設立したワイナリーだ。

北イタリアの銘醸地「ランゲの丘」を彷彿とさせる風光明媚な松ケ岡の地で、科学的根拠に基づいたぶどう栽培とワイン醸造をおこなっているピノ・コッリーナ。栽培と醸造を指揮するのは、ワインバイヤーとして世界中のワインに携わっていた経験を持ち、GMを務める川島旭さんだ。

自社畑ではメルローやシャルドネなどのヨーロッパ系品種を栽培し、契約農家からは甲州など日本の固有品種を中心に仕入れている。また、さまざまな大学や研究機関と連携して、科学的なアプローチを重視しながら最先端の栽培と醸造に取り組んでいるのが特徴だ。

ワイン醸造においては、松ケ岡のテロワールとヴィンテージの個性を最大限に生かす。丘の傾斜を利用して果汁を集める「グラヴィティー・フロー」などを採用し、ぶどうに負荷をかけないための工夫を凝らしているのだ。

今回は、2023年と2024年のぶどう栽培とワイン醸造について、川島さんに詳しく伺った。

『2023〜2024年にかけてのぶどう栽培』

2023〜2024年にかけて、松ケ岡の天候は激しいものだった。春先には雹(ひょう)が降り、夏には経験したことがないような高温が続くなど、想定を超えた事態が相次いだのだ。

そんな激しい気候変動の中にあっても、魅力的なワインを生み出しているエルサンワイナリー ピノ・コッリーナ。ぶどう栽培の今に迫ろう。

▶︎とにかく暑かった2023年

「2023年は、とてつもない猛暑でしたね。日本海側エリアでは、フェーン現象によって40度まで気温が上昇する日が10日以上も続いたのです」。

フェーン現象とは、湿潤な空気が山を越えて反対側に吹き下りた時、風下側で吹く乾燥した高温の風の影響によって風下地域の気温が急激に上昇することを指す。日本海側気候に属する鶴岡市はもともと夏季には高温多湿になるが、40度を超えることは珍しい。

2023年の気候でよかった点は、降水量が少なかったことだ。特に赤ワイン用品種は、しっかりと完熟した状態で収穫することができた。

「日本の気候ではうまく色付かせるのが難しいピノ・ノワールが、2023年は初めてしっかりと色付いたのです。山形県ならではの個性を持ったピノ・ノワールのワインになると思いますので、楽しみにしていただきたいですね」。

2023年ヴィンテージのピノ・ノワールは、しっかりと熟成させてからリリースする。ピノ・コッリーナ初のピノ・ノワール単一ワインだ。

一方、白ワイン用品種に関しては、夜温が下がらなかったために糖と酸のバランスを取ることが難しく、収穫のタイミングを見極めるのが困難だった。

「十分に完熟はしたのですが、多少ぼやけた印象になってしまったことは否めません」と、川島さんは振り返る。

▶︎気候変動を実感した2024年

続く2024年は、気候が不安定な年だった。暖冬だったにも関わらず、春先に寒波が訪れたのだ。さらに突発的な大雨も多く、年間を通して予測のできない気候が続いた。

年初の気候から順に振り返ろう。1〜2月は例年よりも雪が少なく、なんと2月10日には20度という異例の高温を記録。温暖化が進んでいることを強く実感したという。

「暖冬だったので、例年より早い芽吹きを想定していましたが、なんと春になると気温が急降下したのです。5月には雹(ひょう)が降り、ピノ・ノワールのひと区画が全滅するという被害が発生しました。降り注ぐ氷塊によって、幹が傷ついてしまいました」。

被害を受けたピノ・ノワールは、次年度以降の樹の負担を軽減するために房を落とさざるを得なかった。

また、7月には局地的・突発的な大雨が降り、周囲の土地から水が溢れ出して畑に流れ込む2次被害が発生。さらに、9月には長雨が続いた影響によって、ちょうど完熟期を迎えていたゲヴュルツトラミネールが水分を吸収しすぎ、香りが飛んでしまった。

「赤ワイン用品種も、長雨の影響で大きな打撃を受けました。特にシラーは厳しい結果でしたね。10月に入っても雨が止まず、実割れや病果が発生してしまいました。収量は例年比35%減でした」。

栽培管理における側面だけを見ると困難続きの2024年だったが、幸いにも出来上がった白ワインの品質は安定していたという。

「2023年の白ワインは糖と酸のバランスが課題でしたが、2024年は夜温が低下したために酸が残り、結果として2023年よりも質のよいワインに仕上がりました」。

赤ワインの出来は品種によってさまざまだったが、メルローからは素晴らしいワインができた。気候変動によって、今後はさらに臨機応変で柔軟な対応が求められるだろう。

▶︎科学的な分析で産地化を促進

変動する気候条件に対応するため、大学と連携して先進的な取り組みをおこなっているピノ・コッリーナ。最新情報をお届けしよう。

「産地化に向けた品種研究に特化した畑を作りました。香りの物質になる成分の前駆体に関する情報収集や、土地に合う品種の台木穂木の自家生産、クローン苗の研究などに取り組んでいます」。

10年後の栽培を考えて先手を打つ必要があると、川島さんは言う。気候変動の影響により、既存品種の栽培継続が困難となる可能性があるからだ。ピノ・コッリーナの研究は順調に進行しており、現在は松ケ岡の土壌と気候に最適な台木を特定することができた。今後はさらに次の段階へと移行する。

また、将来の気候変動にも対応できる品種の目星も付いてきた。白ワイン用品種はアルバリーニョの栽培を新たに開始。赤ワイン用品種では、タナ、ムールヴェードル、プティ・ヴェルド、カベルネ・フラン、カベルネ・ソーヴィニヨンの5品種に適性があると判断している。

将来のぶどう栽培を見据えた準備にも余念がないピノ・コッリーナ。必要性を感じているからこそ、時間をかけて来るべき時に備えているのだ。

「次世代に繋ぐことを考えると、松ケ岡を『産地化』する必要があるのです。前駆体のピークを特定できれば、松ケ岡ではどのクローンがよいか、どの時期に収穫するのがよいのかといったことがわかります。そのためにうちの実験室では、ぶどうの香りの変化やピーク成分を毎日収集してデータ化しているのです」。

ピノ・コッリーナは、自社が収集したデータを、地域全体で使えるように開示する予定だ。この活動によって、松ケ岡でワイン造りをと追随する者が増えるだろう。

「実際に、松ケ岡でぶどうを作りたいという方からの問い合わせが最近増えています」と、川島さんは嬉しそうだ。

松ケ岡を産地形成していくためには、1社のみの努力では限界があるため、周囲との連携が不可欠だろう。適性品種の選定について、最終的な結論を出すためにはさらなる年月が必要になるという。しかしどれだけ時間がかかろうと、ピノ・コッリーナは未来のために進み続けるのだ。

『ピノ・コッリーナのワインスタイルが確立』

続いてのテーマは、2023〜2024年のワイン造りについて。

2023年は甲州ワインに新銘柄が登場し、2024年にも個性豊かで魅力的なワインが次々と誕生した。個別の銘柄にスポットを当てて紹介していきたい。

▶︎新銘柄「蔵出し甲州」

2023年にリリースした新しい甲州のワイン、「蔵出し甲州 2023 無濾過」から見ていこう。個性豊かな3か所の畑に栽培されている古木の甲州を混醸した、香り豊かなワインだ。

「イタリアワインの王様『バローロ』と同じように、3か所の異なる畑から収穫したぶどうでワインを造りました。発酵終了後に澱引きしてから、すぐに瓶詰めしたものです。開けたては炭酸のピリピリ感を楽しめますよ」。

芳醇な香りは飲み手の心をガッチリと掴むようで、非常に好評だ。都内で開催された山形ワインのイベントで提供した2024年ヴィンテージの「蔵出し甲州」は、来場者から高い評価を得ることができた。

「サクラアワード2024」で金賞を受賞した2023年ヴィンテージの「蔵出し甲州」は、公式オンラインサイトや酒販サイトから購入可能だ。ぜひチェックしてみてほしい。

また、フラッグシップ・ワインである「鶴岡甲州」も、複数のワインコンクールで受賞しており、「ピノ・コッリーナといえば甲州ワイン」という印象が確立しつつあるという。

「2024年にようやく、主力ワインのスタイルが確固たるものになりました。お客様のニーズとうまくマッチしてきた実感があります」。

ピノ・コッリーナの甲州ワインのこれからに、さらに期待が高まる。

▶︎「ピノ・コッリーナ ネッビオーロ」

ピノ・コッリーナでは、イタリア原産の赤ワイン用品種「ネッビオーロ」を栽培している。ネッビオーロは、国内での栽培事例が少ない品種だ。

「赤ワインと同様の造りをしたうえで、ロサート(ロゼワイン)の『ピノ・コッリーナ ネッビオーロ』としてリリースしました。日本でのネッビオーロの可能性を探っていましたが、やっとネッビオーロらしさを表現できたと感じています」。

ネッビオーロは豊かなタンニンと上品で繊細な口当たりが特徴だ。ほのかに立ち上る心地よいバラの香りがあるのが品種特徴で、「ピノ・コッリーナ ネッビオーロ」にはピノ・コッリーナならではの香りもある。

「柔らかく豊かな味わいと香りのハーモニーが感じられるワインです。ネッビオーロらしさを感じられるネッビオーロのワインが日本にもあるということを知っていただけたら嬉しいですね」。

まだ成長段階にあるとは言いながらも、川島さんの言葉の端々からは、造り手として確かな手応えを感じている様子が伝わってくる。

ネッビオーロの繊細な香りを表現できたのは、グラヴィティー・フローによる搾汁が功を奏したからだ。ピノ・コッリーナでは、丘の傾斜を利用して圧力をかけず搾汁する。そのため、果実を傷つけずに繊細な味わいを実現することができたのだ。

「グラヴィティー・フローの素晴らしさは、『液体を面ではなく点で捉えている』ところにあると思っています。水が滴るときの自然な形状は『点』です。ぶどうの果汁もポトポトと点の形になる方が自然なのです。しかし果汁を『面』にして上から力で押してしまうと、圧力や摩擦で液体が傷つくことになります」。

グラヴィティー・フローによってぶどうの繊細な味と香り引き出した「ピノ・コッリーナ ネッビオーロ」は、豚しゃぶや海鮮焼きなどの料理と相性がよい。

「トマトソースのパスタやとんかつとのペアリングもおすすめです。酸が豊富で香りも豊かなので、冷やしすぎずに楽しんでほしいですね」。

▶︎「フルフル シラー」

続いて紹介するワインは、自社圃場で栽培したぶどうを使ったテーブルワインシリーズの「フルフル」だ。フルフルシリーズには、単一品種を使った銘柄と、アッサンブラージュした赤・白・ロゼがある。まずは「フルフル シラー」を紹介しよう。

栽培が難しい品種だというシラーを使った「フルフル シラー」は、フランス・ローヌのシラーを思わせるエレガントな仕上がりだ。

「シラーといえばオーストラリアの『シラーズ』もありますが、『フルフル シラー』はフランスのシラーに近い味わいです。乾いたオーストラリアよりも一定の雨量があるローヌの気候に近いことが理由かもしれません」。

そんな「フルフル シラー」は、煮込み料理や赤身マグロとの相性が抜群だという。赤ワインとマグロという驚きの組み合わせを、より魅力的にする秘訣を川島さんから伝授いただいた。

「マグロの刺身を、『フルフル シラー』を一滴だけ垂らした醤油に付けて、ワインと一緒に味わってみてください。さらに美味しく感じるはずですよ。ワインは繋がりを生み出すお酒です。シラーとマグロ、醤油の一滴を繋げるイメージで楽しんでみてください」。

今すぐ試したくなるような、なんとも粋なペアリングの提案ではないだろうか。

▶︎「フルフル」シリーズ

続いては、アッサンブラージュの「フルフル」シリーズを紹介する。「松ケ岡の味」をアッサンブラージュで表現した、誰でも気軽に楽しめる入門ワインが「フルフル」シリーズの赤・白・ロゼだ。

白は、シャルドネとソーヴィニヨン・ブラン、赤はシラーとメルローをアッサンブラージュしている。

「赤の『フルフル』は、メルローとシラーのアッサンブラージュで互いの長所を引き出しています。シラーを加えることで、メルローに足りない部分を上手に補えるのです」。

「フルフル」のアッサンブラージュシリーズは、親しみやすく可愛らしいエチケットにも注目だ。デザインを担当したのは、女優・鶴田真由さんの夫でアートディレクターの、中山ダイスケ氏。「フルフル 白」には日本海のヨットハーバー、「フルフル 赤」には日本海に沈む夕日をイメージしたシールが貼られている。

「季節限定品の『フルフル』もあります。いちばんよい樽のワインのみをブレンドして、クリスマスとバレンタインデーに2回に分けて販売している特別な銘柄です」。

季節限定品にも、ピノ・コッリーナの遊び心とセンスが光る。ボトルの首にアクセサリーのような「小枝のチャーム」がかけられているのだ。小枝は、剪定したぶどうの枝なのだとか。かわいらしくおしゃれなワインボトルは、特別な日をさらに盛り上げてくれること間違い無しだ。

「ワインはもっと楽しくおしゃれに、自由であってよいと思うのです」と、川島さんは微笑む。

『松ケ岡を盛り上げる取り組みにも積極的』

ピノ・コッリーナは地域の未来を考えているワイナリーだ。ただワインを売るのではなく、地域の魅力を輝かせるためにワインをどう生かすかを考え抜く。

ピノ・コッリーナが提供するのはワインだけではない。さまざまなアイデアや体験が楽しめるのが特徴だ。直近で企画しているイベントや取り組みを紹介したい。

▶︎季節を感じられるワインを

ピノ・コッリーナの取り組みをふたつ紹介しよう。ひとつは「季節を感じられるワイン」の提案だ。松ケ岡の美しい四季に合うワインを提供することで、地元を盛り上げようという施策である。

「4月12日に地域で開催される『松ケ岡桜まつり』に合わせて、ロゼワインを発売しました。春は桜を見ながらロゼ、夏はシャルドネをなど、日本ならではの四季と共に楽しめるワインを提案していきます」。

現地に足を運んで風景を見て、空気や風を感じながらワインを飲んでもらうことで、家に帰ってもう一度ワインを飲んだときに、ワイナリーで感じたことを思い出すだろう。

地元を盛り上げるには、松ケ岡でしか味わえないワインを提供することが重要だと考えているピノ・コッリーナ。そこで、地域の宿泊施設と共同でオリジナル・アッサンブラージュワインの開発・販売も進めている。

「庄内の宿泊施設『スイデンテラス』さんや『カメヤホテル』さんと、各施設でしか飲めないオリジナルワインを造っています。現地でしか味わえない体験にするために思いついた企画です」。

施設限定のワインは、使う品種やアッサンブラージュの比率だけでなく、エチケットもオリジナル。旅の思い出として持ち帰れば、特別な1本になるだろう。

▶︎2025年開催予定のイベント

ピノ・コッリーナでは、各種イベントの開催も積極的におこなっている。2025年開催予定の企画をいくつか紹介しよう。

ひとつは、国内外から人気を集めている「ワインピクニック」だ。地域の山や丘までハイキングをしつつ、料理研究家・辰巳芳子氏監修の料理と共にワインを自由に楽しめるイベントである。

「手ぶらで来てフリースタイルで楽しめるイベントです。参加した皆さんは、畑の中でワインを飲んだり、パラソルや桜のアーチの下で楽しんだりと、思い思いに満喫されていますよ」。

例年、5月初旬から11月頃までの期間に開催している「ワインピクニック」。2025年の開催日程は、公式インスタグラムでの告知を確認してみてほしい。

もうひとつは、秋に開催される「ピノ・コッリーナ ランドスケープダイニング」。地域散策とフルコースディナーが融合した、松ケ岡の自然と上質なワイン、食事を味わえる贅沢な企画である。1日のみ開催の人数限定企画で、特別な非日常体験が味わえるとして大好評だ。2025年も実施予定なので、ぜひ楽しみにしていてほしい。

さらに、11月3日に開催するヌーボー発売記念イベントも見逃せない。以前はオーナーズクラブ限定だったが、2024年からはオープンイベントとして開催している。

「ワイナリーの畑を巡りながら新酒を飲む会です。剪定したぶどうの枝を使ったバーベキューなど、ワイナリーを楽しみ尽くせる企画になっています」。

『まとめ』

2025年5月、イギリス・ロンドンで毎年開催される世界最高峰のワインコンペ「International Wine Challenge(IWC / インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」にて、ピノ・コッリーナのワイン「鶴岡甲州2023」が最高賞であるゴールドメダル(金賞)を受賞した。

国内初の「ユネスコ食文化創造都市」である鶴岡市のワインが世界的に認められることは、鶴岡市の食文化の価値全体が向上することにも繋がるだろう。

最後に、「今後チャレンジしてみたいこと」を川島さんに伺うと、次のような答えが返ってきた。

「気球をあげて、上から畑を見て風景を楽しめるイベントが実現できたらと思っています。空から楽しむワイナリーというのも素敵ですよね」。

川島さんのアイデアは、無限に湧き出てくる泉のようだ。これからのピノ・コッリーナがどんな驚きと感動を提供してくれるのか、今から楽しみでならない。


基本情報

名称エルサンワイナリー ピノ・コッリーナ
所在地〒997-0801
山形県鶴岡市羽黒町松ケ岡字松ケ岡156-2
アクセス鶴岡駅、庄内空港、鶴岡インター、あさひインター
https://pinocollina.com/access/
HPhttps://pinocollina.com/

関連記事

  1. 実は農業が盛んな都市・神戸が誇る『神戸ワイナリー』の歴史

  2. 『ココ・ファーム・ワイナリー』障がい者施設の園生たちと共に造り上げる、極上のワイン

  3. 追跡! ワイナリー最新情報!『機山洋酒工業』 地域に根ざしたワイナリーであることが誇り

  4. 『久住(くじゅう)ワイナリー』新進気鋭の醸造家が造る、クリアでエレガントな味わい

  5. 『倉吉ワイナリー』鳥取産の高品質なぶどうで造る、こだわり抜いたワイン

  6. 『大阪エアポートワイナリー』空港内にあるワイナリーとして、一期一会の出会いを提供