『NIKI Hills Winery』ワイン勉強会を開催し、仁木町のワイン産業を盛り上げる

北海道余市郡仁木町にある「NIKI Hills Winery」は、33haもの敷地を持つ複合型ワイナリーだ。北海道らしさを感じられる、酸を生かした切れのあるワインが特徴で、ぶどうのポテンシャルを最大限に発揮したワイン造りを強みとしている。

敷地内にはレストランや宿泊施設のほかに、広大なぶどう畑、森林、庭園などがあり大自然を心ゆくまで楽しめる。ワイナリー見学やネイチャー体験を開催しているNIKI Hills Wineryは、仁木町に観光客を呼び込み、地域を盛り上げることを目指しているのだ。

そんなNIKI Hills Wineryの新たな取り組みのひとつが、2025年4月に開催したワイン勉強会だ。

今回は、NIKI Hills Wineryが開催した勉強会と地域を盛り上げる取り組みについて、醸造責任者の太田麻美子さん、広報担当の三島早貴さんにお話を伺った。

『地域のワイナリー向け勉強会』

NIKI Hills Wineryが開催したワイン勉強会に参加したのは、自社スタッフの他、NIKI Hills Wineryに委託醸造をしている生産者5社の計24名だ。

勉強会には外部講師を招き、世界のワイン事情やワインの知識を深める講義をおこなった。ただ知識を習得するだけでなく、仁木町ワインの底上げを地域一体となって目指すための取り組みである。勉強会の目的、内容について詳しく見ていこう。

▶︎ワイン勉強会開催の経緯と目的

自社ワインの醸造と並行して、委託醸造も請け負っているNIKI Hills Winery。委託醸造を通じて、自分たちにできることは何かについて考えるようになったと太田さんは話す。

「NIKI Hills Wineryは『NIKI Hillsヴィレッジ』と『NIKI Hillsファーム』のふたつの会社が運営しているワイナリーで、母体となっているのは東京に本社を構える広告代理店『DACホールディングス』です。地域貢献の一環として委託醸造への対応をする中で、『企業が運営するワイナリー』だからこそ、できることがあるのではないかと思うようになりました」。

仁木町をワインの産地として盛り上げるためには、仁木町の生産者全体がワインの品質向上に取り組む必要がある。そこで、まずはワイン勉強会を開催したのだ。

勉強会をすることによって、NIKI Hills Wineryで委託醸造することに付加価値をつけることもできるのではないか。また、仁木町のワイナリーの結束力が高まれば、地域活性化につながると考えて開催に至ったそうだ。

勉強会の目的は、仁木町のワインの特徴を探り共通点を見つけることと、生産者同士の交流を深めることだ。

「ワイン勉強会をすることで、地域一体となって仁木町のワイン産業を盛り上げていくという意識を高めたいと考えました。自分のワイナリーだけでなく、地域全体で仁木町のワインを日本全国、そして世界に出していくことが大事だと日々感じていたのです」。

▶︎外部講師による専門性の高い講義

NIKI Hills Wineryによるワイン勉強会では、外部講師を招いて3つの講義をおこなった。充実の講義内容を詳しく紹介をしよう。

ひとつ目は、仁木町・余市町のワインの可能性をテーマにした講義だ。フード&ワインジャーナリストの鹿取みゆきさんが講師を務め、近年の国内外のワイン情勢と今後の需要について学んだ。

「近年、温暖化の影響で赤ワインの生産・消費量が減ってきている代わりに、スパークリングワインや白ワインが伸びているそうです。また、世界的にワインの消費量が減っているといった海外のワイン情勢を学びました。日本ワインの需要を支えている世代から、今後は消費がより少ない次世代に代わっていくことを見据えて、仁木町のワインの可能性をお話しいただきました」。

ふたつ目は、世界でのワインの品質評価方法についての入門講座だ。実際に世界のワインを試飲しながら学んだ。講師はNIKI Hills Wineryの経営母体である「DACホールディングス」社員で「WSET Diploma」の資格を持つ近藤美伸さん。

「WSET」はイギリスで設立された国際的なワイン教育機関だ。「WSET」の認定試験の中で最上位の資格が「Diploma」で、ワインに関する高い専門知識や評価能力が求められる。講義では、国際ワインコンクールでも審査員を務める近藤さんから、品質評価についての説明を受けた。

「銘柄が分からない状態で試飲する『ブラインド・テイスティング』を3種類のワインでおこない、香りや味について感想を出し合いました。20,000円のワインもあれば2,000円のワインもあり、同じ品種なのになぜこれだけの価格差があるのかについて解説してもらいました」。

実際にワインの香りや味わいを確かめながら品質評価方法を習得でき、参加者の満足度が高いプログラムとなった。

3つ目は、グラスとワインの関係についての講義だ。ワイングラスの老舗「RIEDEL(リーデル)」のブランドアンバサダーを務める庄司大輔さんを講師に迎え、グラスの違いについて学んだ。

「形や素材の異なるグラスに5つの銘柄のピノ・ノワールを注ぎ、香りや味わいにどれだけ違いが出るか実際に試しました。同じ品種でも産地によってグラスを使い分けてみると、より魅力を引き出せることが分かります。庄司さんに理由を説明していただき、ワインに合ったグラスを使うことの大切さを体感できました。今まで感覚的にグラスを使い分けていたスタッフは、理論的に学ぶことによって、自分の知識を言語化する機会となったそうです」。

ワインのプロフェッショナルから質の高い講義を受けられ、得られるものが大きかったと話す太田さんと三島さん。満足度が高く、継続開催を期待する参加者からの声も多かった。

▶︎生産者同士でのディスカッション

3つの講義の後は、グループに分かれてディスカッションをおこなった。勉強会に参加した5社がそれぞれワインを持ち寄り、ブラインド・テイスティングして感想を出し合ったのだ。

「今回は品種をピノ・ノワールに限定して、ワインをそれぞれ持ってきていただきました。7~8人ずつ、3つのグループに分けてテイスティングをおこない、5種類のピノ・ノワールについて感じたことを、専門用語だけではなく自由な言葉でディスカッションしたのです。タンニンの濃さやボディの種類からワインをざっくりグループ分けし、みんなで『北後志(きたしりべし)エリア』の特徴を探りました」。

北後志は、小樽、仁木、余市、赤井川、古平、積丹の6市町村があるエリアを指す。このディスカッションの狙いは、近隣の生産者同士の交流を深めることと、北後志エリアのワインの特徴を探し共通点を見つけることである。継続することで仁木町のワインの品質向上につながると太田さんは話す。今後は仁木町の生産者をはじめ近隣地域の生産者にも少しずつ参加してもらい、ディスカッションしていきたいそうだ。

▶︎ワイン勉強会 参加者の感想

ワイン勉強会実施後にアンケート調査をおこなったところ、参加者全員が「また勉強会に参加したい」と回答した。

「どの講義も、専門用語に頼らず、分かりやすくポイントを絞って説明いただいた点が好評でした。グループディスカッションでは、みんなで言葉を重ねていくことでワインの特徴や輪郭が明確になるという発見があり、生産者同士でぶどう栽培やワインの知識や情報を交換する場にもなったという声を多くいただきました」。

また、NIKI Hills Wineryのサービススタッフからは、「ワインの知識を高めることでお客様にお伝えできることが増え、顧客満足度向上につながった」との声も。ワイン造りに直接携わっていない社員もレベルアップできる、有意義な勉強会となった。

「アンケートの中には、今後の勉強会に希望することなどの意見もありましたね。参加者の範囲を広げることや、テーマをひとつに絞って内容を濃くしたらよいのではないかなど、参考になるアドバイスをいただきました」。

次回も引き続き勉強会が開催されることを前提とした感想・提案も多く、仁木町のワイン産業の発展に向けて意識が高まったことが伺える。

『ワイン勉強会を通して得たこと』

今回開催した勉強会は、NIKI Hills Wineryの社内でワイン勉強会開催の案が出てから、わずか数か月のうちに実現した企画だ。当初は自治体との共催を押す案もあったが、調整に時間がかかってしまうため、自社のみでの運営となった。

いろいろな点で工夫しながら検討した勉強会では、開催にかかる費用の面での苦労も多かった。参加費無料で実施したため、ワインを持ち寄ってもらったり、講師の方にはNIKI Hills Wineryの宿泊施設やレストランを利用してもらったりして、参加者の費用負担が大きくならないように進めた。

「勉強会にかかった経費の内訳は、品質評価の講義で使用したワインなどです。高価なワインもありましたが、自社負担しました。より充実した勉強会にするためにも、今後は仁木町と一緒に開催できればと考えています」。

まずは、とにかくアクションを起こそうと、参加費無料の勉強会を開催したNIKI Hills Winery。実際に勉強会を開催してみて、担当者が感じたことや気がついたことをいくつか挙げていただいた。

▶︎企業型ワイナリーとしての存在意義

NIKI Hills Wineryが仁木町に貢献できることを議論するだけではなく、実際に行動に移すことで、企業としての存在価値をより発揮できるのではと三島さんは話す。

「個人でワインを生産している方も多い中で、私たち企業は、醸造チームや畑チーム、サービスチームがそれぞれの業務に従事しています。仕事を分担できる人数がいる企業だからこそ、ワイン造り以外の仕事に時間を割くことができます」。

ひとりでワイナリーを運営している場合、ぶどう栽培やワイン醸造以外の時間を確保するのはなかなか難しい。その点、NIKI Hills Wineryは部門ごとに担当者がいて、三島さんのような広報担当の事務スタッフもいる。

「私はワインを造ることはできませんが、地域の生産者との連携や、イベント開催などの取り組みをおこなう広報担当として、仁木町に貢献できるのではないかと思います。今後も試行錯誤を繰り返して、経験値を高めて成長していきたいです。自分たちの成長が仁木町の発展につながると考えています」。

また、太田さんは勉強会を実施して、新たな気づきがあったそうだ。

「地域の生産者さんたちは、生産本数が増えるにつれて販路に苦戦していると感じました。そこで、NIKI Hills Wineryのワインとのセット販売をするアイディアを提案しました。お互いのワインを一緒に広められるだけでなく、地域一丸となって取り組んでいる姿を発信できると思います」。

NIKI Hills Wineryは仁木町で2番目にできたパイオニア的存在のワイナリーとして、地域をけん引していこうという思いがある。仁木町のワイン産業をより活性化させるため、さまざまなアイディアを行動に移してチャレンジし続けていくのだ。

▶︎ワインを正確に評価することの大切さ

ワイン勉強会を通して、太田さんは「共通の言葉でワインを評価することの必要性」を感じたという。

「たとえば、同じワインに対しての表現として、『甘酸っぱい香り』『果実の香り』など、人によって異なることがあります。みんなが『共通の言葉』で表現できれば、公平な品質評価ができて世界のワインと私たちのワインの個性の違いをより判断できるのではないでしょうか」。

今回受けた講義では、世界的な評価方法や味を表現する際に使われている言葉を学んだ。それを習得出来たら、日本特有の表現を加えたいそうだ。

「日本ならではの表現には、『柚子』や『出汁(だし)』などがあります。世界の表現方法で話し合えるようになったら、日本特有の表現を交えて、表現をより細分化できるかもしれません。自社ワインを表現するだけでなく、仁木町のワインを表現する言葉を地域の方々と一緒に見つけたいですね」。

仁木町のワインをあらわす言葉を見つけることは、風味の元となる土壌や環境を理解することにもつながるだろう。地域で共通化できれば、産地としての一体感がますます高まるに違いない。

▶︎仁木町のワイナリー同士のつながり

地域の生産者が一丸となって仁木町を盛り上げるために、ワイン勉強会やイベントなどを企画し、リーダー的役割を果たしているNIKI Hills Winery。実は、地域の生産者とコミュニケーションがとりやすくなったのはきっかけがあった。

「過去に開催された、仁木町のワイナリー関係者向けのワイン勉強会で、仁木町の生産者の方々と交流することができました。勉強会の後には自分たちのワインを持ち寄り、お互いに感想を話して親睦を深めることができました」。

普段なかなかゆっくり話せない生産者同士、ワインを飲みながらラフな感じで話せたことが、つながりを深めるきっかけになったのだ。

町内のワイナリー同士の連携が以前からあったからこそ、今回のワイン勉強会もスムーズに開催できた。NIKI Hills Wineryだけが行動しているのではなく、地域で協力し合える関係が築けているところが仁木町のよさなのだ。

『今後の発展に向けた取り組み』

地域と共にワイン産業を盛り上げるために、NIKI Hills Wineryはワイナリー運営以外にもさまざまな活動に参加している。

NIKI Hills Wineryの親会社である「DACホールディングス」は、青少年の未来に向けた社会貢献活動として「DAC未来サポート文化事業団」を2013年に設立。NIKI Hills Wineryでは、仁木町からの委託事業として、仁木町で生まれ育つ子どもたちにワイン産業を知ってもらう「仁木町子ども体験塾特別講座」を実施。DAC未来サポート文化事業団と連携し、2020年から実施している。

「仁木町の子どもたちに生きる力とふるさとへ愛着をもってもらうため、仁木町の観光資源であるワイン産業の理解を深める体験を提供しています。内容は、収穫体験と醸造体験、ラベル貼り体験などです」。

▶︎ワインツーリズムを推進する

NIKI Hills Wineryが実施しているその他の取り組みもあわせて紹介しよう。NIKI Hills Wineryは、2022年3月に設立された「仁木町ワインツーリズム推進協議会」の中核法人を務めている。仁木町ワインツーリズム推進協議会では、ワインの観光事業を強化するべく、ワイン文化の醸成と町民の参加意欲を高めるための活動を推進。

「ワイナリー以外にも、宿泊施設の方やアクティビティを提供している企業など、15社ほどが所属しています。イベントの開催や、観光における問題点を解決するための取り組みが主な活動内容です。仁木町は隣の余市町と比べると知名度が低いので、仁木町のワインをたくさんの方に知ってもらうのが活動の主な目的です」。

効果的なブランディングをおこなうために、専門家を呼び、どのように仁木町のワインツーリズムを発信したらよいかを相談した。その際には、農林水産省の助成金を活用したそうだ。専門家のアドバイスのもと、仁木町独自の強みや魅力を引き出すことが必要だと考えたのだ。

「仁木町のワインとは何かを言語化することや、アクティビティの組み合わせを工夫するなど、観光事業の改善に重点を置いたアドバイスをいただきました」。

▶︎イベント開催にも積極的

仁木町ワインツーリズム推進協議会を通して、横のつながりが強化できたと三島さんは言う。ワイン生産者同士でのコミュニケーションが活発化したことで、ワインのイベントを定期的におこなえるようになったそうだ。夏に開催される「ワイリングウォークフェスNIKI」と、冬に開催される「冬のワインパーティー in NIKI 仮面葡萄会」のふたつのイベントだ。

「仁木町のワイナリー『Domaine Bless(ドメーヌブレス)』代表の本間さんが発起人となり、食とワインの感謝祭『ワイリングウォークフェスNIKI』を企画しました。いつも仁木町のワインを飲んでくださる方々に、実際に仁木町の環境を見て、楽しんでもらいたいという思いがつまっています。また、『冬のワインパーティー in NIKI 仮面葡萄会』は、オフシーズンである冬に観光客を呼び込むためのイベントです」。

仁木町の冬の観光客数は、グリーンシーズンと比べると9割も減ってしまう。そこで、行政の力も借りながら、室内で開催できるエンターテイメント性の高いイベントを企画した

「NIKI Hills Wineryは委託醸造を引き受けているので、生産者の方と連携を取りやすいですね。また、仁木町は生産者がまだ少ないので、情報共有・団結しやすい環境だと思います。ポスター制作や事務作業など、それぞれが得意なことや経験してきたことを生かして役割分担し、みんなでイベントの準備をしています」。

『まとめ』

ワイン勉強会においては、今後はNIKI Hills Wineryで委託醸造をしている生産者だけに限らず、仁木町全体のワイナリー関係者まで対象を広げ、町と連携して開催することを検討している。

「仁木町には、2025年現在、16件の生産者さんがいらっしゃるので、地域全体でディスカッションを重ねていき、一丸となって仁木町のワインを盛り上げたいです」。

地域で同じ目標に向かっていくには、スケジュール調整など難しいことも多い。だが、すでに横のつながりが構築できているからこそ、つらいときでもお互いに切磋琢磨し合って活動をやり遂げられた。

仁木町のワイン産業の発展に向けて地域をリードしていく立場だと理解し、率先して行動に移しているNIKI Hills Winery。仁木町のワインの底上げにつながるのはもちろん、観光事業の発展にも貢献していくだろう。

産地化形成・強化を目指す取り組みの具体例として、NIKI Hills Wineryが開催した勉強会をぜひ参考にしてほしい。

基本情報

名称NIKI Hills Winery
所在地〒048-2401
北海道余市郡仁木町旭台148-1
アクセスJR仁木駅よりタクシーで10分
HPhttps://nikihills.co.jp/

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