「BELLWOOD VINEYARD(ベルウッド ヴィンヤード)」は、果樹栽培が盛んな山形県上山市の久保手地区にあるワイナリーだ。2017年から耕作放棄地や担い手のない畑でのぶどう栽培を始め、2020年にワイナリーを設立した。上山市の気候を生かし、高品質なぶどうのポテンシャルをしっかりと生かしたワインを造ってきた。
自社畑で育てているぶどうは、欧州系品種が中心だ。除草剤を使わず、農薬の使用は最低限に抑えている。環境に優しく、自然の力を引き出したぶどう栽培を目指しているのだ。
ワインのラインナップは、微発泡のペティアンから凝縮感のあるスティルワインまでと幅広い。丁寧な醸造をおこない、ぶどうのよさを存分に楽しめるワインを造っている。自社栽培のぶどうのみを使用した「ドメーヌ」シリーズのワインのリリースにも注目が集まる。
今回は、ベルウッドヴィンヤードの2023年以降の取り組みと、ワイナリーの今後の展望について見ていきたい。代表取締役の鈴木智晃さんに伺ったお話を、余すところなく紹介していこう。
『ベルウッドヴィンヤード 2023〜2024年のぶどう栽培』
農業は日々の作業の積み重ねだ。季節が移り変わるにつれて生育していくぶどうに寄り添いながら、適切な時期に剪定や芽かき、誘引などの工程を経て、ようやく収穫期を迎える。
2023〜2024年にかけてベルウッドヴィンヤードの自社畑で栽培されたぶどうの様子と、気候の特徴などについて振り返ってみたい。
気候や雨が降る時期の変動など、不安定な要素が多い中でもよいぶどうができたということなので、栽培管理において工夫した点に関しても詳しく尋ねてみた。
▶︎2023〜2024年の天候
まず、2023年は全国的に猛暑だったため、高温による影響を受けた農家も多かったことが記憶に新しい。激しい暑さは、上山市ももちろん例外ではなかったという。
「暑さの影響で、例年よりも生育が早く、手が足りなくて栽培管理が追いつかないこともあって大変でしたね。とにかく、ぶどうにとって必要な作業を適切な時期に実施することに注力して取り組みました」。
2023年の天候でよかった点は、上山市ではぶどうが色付き始めた「ヴェレゾン」の時期に降水量が少なかったことだ。雨による病害虫の懸念がなく、糖度がしっかりと上がった健全なぶどうが収穫できた。また、十分な収量も確保できたという。
ただし、気温が高かったことによるマイナスの影響もあった。一部の白ワイン用品種においては酸が抜けやすく、収穫時期の見極めが難しいという問題が出たのだ。
「病果が少なく健全な状態をキープできたため、できるだけ熟した状態で収穫したいと考えました。収穫時の状態は品種によってさまざまで、ピノ・ノワールやピノ・グリは最もよい時期に収穫できましたね。ソーヴィニヨン・ブランは酸がやや抜けすぎてしまった印象です」。
赤ワイン用品種も全般的によいぶどうができたが、カベルネ・ソーヴィニヨンだけは色付きの度合いがそれほど強くはなかったのが悔やまれるそうだ。暑さのせいでヴェレゾンのタイミングが例年とは ずれてしまった影響だろうか。
続く2024年も、上山市は暑い夏を迎えた。2023年の天候との相違点は、4月頃にすでに気温がぐんぐん上昇したことだった。そのため、ぶどうの生育が例年よりも早かったのだ。ただし、8〜9月は2023年よりもやや涼しく、雨が多かったそうだ。
「前年の気候を教訓に、2024年はかなり前倒しで栽培管理を進めました。早いタイミングでの収穫に踏み切ったので、白ワイン用品種も酸が残った状態で収穫することができました」。
気候が徐々に変化し、少しずつではあるが、確実に温暖化が進んできていることを実感しているという鈴木さん。ベルウッドヴィンヤードでは契約農家から購入したぶどうもワインの原料として使用しているため、契約農家にも収穫を早めるなどの対策を依頼している。

▶︎新たな品種の栽培をスタート
ベルウッドヴィンヤードでは、栽培する品種についても改めて見直しをおこなった。変化し続ける気候に対応するためだ。
例えば、カベルネ・ソーヴィニヨンなどの晩熟系品種が成熟する時期は、以前であればすでに朝晩の気温がぐっと下がっていた。だが、近年は秋口になっても気温が下がりにくくなり、以前は出なかった晩腐病が発生しやすい傾向がある。2024年も、10月になっても暑いままで、カベルネ・ソーヴィニヨンに晩腐病が出てしまった。
日本のみならず世界中の各地のぶどう産地で、栽培する品種の見直しがおこなわれている昨今。ベルウッドヴィンヤードでは、2024年の春に新たにプティ・マンサンとアルバリーニョを植え付けた。いずれも、高温多湿の環境での耐病性が高いと評価されている品種だ。
もともと、ベルウッドヴィンヤードで栽培していた白ワイン用品種は、ソーヴィニヨン・ブランのみだった。そこで、ラインナップの幅を広げるという目的もあって、新たに白ワイン用品種を追加したのだ。
「プティ・マンサンとアルバリーニョは、日本のワイナリーでの栽培が急増している品種です。プティ・マンサンはもともと買いぶどうとして使用していた品種です。過去のヴィンテージで仕込んだワインの仕上がりがよかったので期待しています。また、アルバリーニョは他のワイナリーさんがリリースしているワインを飲ませてもらった際、高いポテンシャルを感じたので、自社畑で新たに栽培する品種として選びました」。
2017年から始めた自社畑での栽培を通して、比較的安定した収穫ができているメルローやカベルネ・ソーヴィニヨンなどに加えて、新たに栽培をスタートした品種がベルウッドヴィンヤードを代表するワインのひとつになる日が楽しみだ。
「上山市は降水量が少なく、畑は日照量が多い斜面にあって水はけもよいため、プティ・マンサンとアルバリーニョにも期待が持てます。土地に合う品種は刻々と変化しているので、今後も引き続き見極めていこうと考えています」。

『ベルウッドヴィンヤードのワイン醸造』
ベルウッドヴィンヤードのラインナップに、2023年から新たなシリーズが加わった。自社栽培のぶどうを自社醸造した「ドメーヌ」タイプのワインだ。
すでに展開していた瓶内発酵の発泡ワイン「ヴァンペティアン」、スティルワイン「クラシック」、上位クラスの「スペリオール」、買いぶどうの最上位クラス「キュヴェ・デ・ザミ」に加え、5つ目のシリーズとなる。
以前は自社栽培・委託醸造を「キュヴェ・クロッシュ」として展開していたが、自社栽培・自社醸造に移行したため、新たなシリーズ「ドメーヌ・クロッシュ」を開始。より手間をかけて丁寧に造りあげた作品となっている。収量が少ない一部の品種に関してはブレンドしたものもあるが、ほとんど単一品種で仕込む。1〜2年ほどの樽熟成ののち、2年の瓶内熟成を経てからリリースする予定だという。
ベルウッドヴィンヤードのリリース情報は公式サイトとSNSで公開予定なので、気になる方はこまめにチェックしてみるのがおすすめだ。
▶︎ワインは造り手からの「手紙」
「ドメーヌ・クロッシュ」シリーズの中でおすすめを尋ねてみたところ、ピノ・グリのオレンジワイン、ピノ・ノワールの名前が挙がった。いずれも2021年ヴィンテージがイチオシだという。
「2021年はぶどうの質が非常によかった年です。もうしばらく熟成させてからリリースする予定なので、楽しみにお待ちください。しっかりと熟して奥行きのある味わいになると思いますよ」。
ワインとは、造り手から飲み手に送る「手紙」のようなものだと考えている鈴木さん。ベルウッドヴィンヤードのエチケットは、手紙や切手をイメージしたデザインだ。中でも「ドメーヌ・クロッシュ」「キュヴェ・クロッシュ」 「キュヴェ・デ・ザミ」シリーズは、出荷前の仕上げとして鈴木さん自ら切手を模したシールを貼って、消印のスタンプを押す。手作業で仕上げを施して、造り手の思いを込めるのだ。
ちなみに、ベルウッドヴィンヤードのエチケットには「山」と「手のひら」が小さくデザインされている。山はワイナリーがある久保手地区の象徴として親しまれている「鷹取山」で、手のひらは「久保手」という地名をイメージしたものだという。
「『久保手』という地名から、『久しく人の手によって保たれてきた』とのイメージがわいたので、それをデザインしました。この土地でぶどう栽培とワイン醸造をしていく意味を表現できたと思います」。

▶︎おすすめ銘柄を紹介
ここで、リリース済みのワインの中から、鈴木さんおすすめの3本を紹介しよう。まずは、2023年ヴィンテージの「コレクション スペリオール マスカット・ベーリーA 」だ。
「しっかりと熟していて、酸味とのバランスがよく奥行きのある味わいに仕上がりました」。
続いて、2022年ヴィンテージの「コレクション スペリオール メルロ」は、凝縮感があってタンニンも強く、飲みごたえがある1本だ。メルローらしい柔らかさの中にも力強さを感じるため、肉料理と合わせて欲しいと鈴木さん。
「ジビエにとてもよく合いますが、普段はなかなか食べる機会がないと思いますので、ぜひいつもの食卓で食べる肉料理に合わせてみてください。食中酒としてはもちろん、ワイン単体でも楽しんでいただける自信作になりました」。
最後に、2024年ヴィンテージの「コレクション スペリオール ソーヴィニヨン・ブラン」を挙げていただいた。使用しているぶどうは、鈴木さんが全幅の信頼を寄せている生産者、遠藤佐一さんが手がけたソーヴィニヨン・ブランである。まとまった量が収穫できたので、初めて単一でワインにしたそうだ。
「少し早摘みしたことで、美しい酸味が際立つ味わいになりました。果実味とミネラル感も感じられて、爽やかな香りも楽しめます。生産者さんの力量が表れた、上質なぶどうの素晴らしさが伝わってくると思いますよ」。

▶︎新たな取り組み「ダム熟成ワイン」
ベルウッドヴィンヤードでは、2024年から上山市にある前川ダムの管理用トンネルを活用し、ワインを熟成させる取り組みをスタートした。トンネル状になった管理用通路は、年間平均気温が10度ほど。ワインの貯蔵に最適な環境だ。電力を使わずに適温を保つことができるという点で、SDGsへの貢献も期待できる。ダム熟成ワインの取り組みは、今後も継続していく予定だ。
「山形のワイナリーでは、ダムの管理用トンネルでワインを熟成させているのはうちだけです。時間をかけることで表現できる美味しさが出てくることでしょう。特に、しっかりと熟成させたいドメーヌシリーズを中心に活用していきたいですね」。
すでに前川ダムの管理用トンネルに運びこんだワインは、1年半程度寝かせる予定だ。どのような味わいになるのか楽しみである。リリースは2026年春以降になるということなので、心待ちにしたい。

▶︎「サポーター会員制度」を開始
ベルウッドヴィンヤードは、かねてより検討していた「サポーター会員制度」を開始した。サポーター会員制度とは、ベルウッドヴィンヤードのワインや取り組みに興味を持ってくれた方を対象に、現地でのぶどう栽培などの作業に参加してもらう仕組みだ。以前から組織化を検討していたが、2024年にようやくスタートすることができた。会員は徐々に増え始めているという。
「サポーター会員のみなさんには、収穫などの作業に参加いただきました。今後は収穫以外の作業にも参加していただけるようにしていきたいですね。来て下さった方たちに満足してもらえる方向で進めていきたいです」。
サポーター会員制度は非常によい滑り出しを見せており、楽しく和気あいあいとした雰囲気だと嬉しそうに話してくれた鈴木さん。今後も人との縁を大切に、たくさんの人と繋がっていきたいと笑顔を見せた。

▶︎ワインとオリジナルグッズのセット販売も好調
ベルウッドヴィンヤードの商品で、ワインと共に人気があるのがオリジナルグッズだ。シンプルかつデザイン性に優れたグッズは、普段ワインを飲まない人にも興味を持ってもらえることが多い。
少しずつラインナップを拡充しているというオリジナルグッズは、ワイナリーのグッズ販売スペースと、公式オンラインショップで購入できる。
「オリジナルグッズの制作は半分趣味みたいなものなのですが、お客様に好評なので嬉しいですね。ソムリエナイフやワイングラスなど、ワイン関連のグッズはもちろん、フェイスタオルやTシャツもあるので、ぜひ普段使いしていただければと思っています」。
2024年には、オンラインショップ限定でオリジナルグッズとワインのセット商品を販売したが、わずか数時間でほぼ売り切れ状態になり、追加分も完売した。今後もセット商品の展開を検討しているということなので、公式オンラインショップとSNSで販売スケジュールをチェックしたい。

『まとめ』
「ドメーヌ」シリーズをスタートし、ダム熟成ワインなど新たな取り組みにも積極的なベルウッドヴィンヤード。
鈴木さんは毎年、平均すると20種類ものワインを造っているが、今後は少しずつ方針を変えていこうという計画もある。これまではさまざまな銘柄を少しずつ仕込んできたが、銘柄ごとの醸造量を増やして、通年販売していけるようにと考えているのだ。
ベルウッドヴィンヤードを立ち上げた2017年から、ほぼひとりでぶどうを栽培し、ワインを造ってきた鈴木さん。これまでの経験と実績を生かし、販売アプローチも確実に進化し続けている。
最後に、鈴木さんの目標と、ベルウッドヴィンヤードでこれから挑戦したいことについてお話いただいた。
「これからもワイナリーを長く続けて、地元のみなさんにも親しんでもらえる存在になれるように頑張っていきたいです。また、ワイナリーのショップに足を運んでくださる方も増えてきたので、テイスティングしていただけるスペースを作るために改装を検討しています」。
ベルウッドヴィンヤードがある上山市の久保手地区を訪れ、現地でしか味わえない空気感と共にワインを味わうことは、きっと贅沢な体験になるだろう。
鈴木さんの言葉からは、お客様と地域へのあたたかい思いが伝わってくる。ストイックで独自な世界観とスタイルを貫いて、ぶどう栽培とワイン醸造に取り組むベルウッドヴィンヤード。熱い思いに共感した方は、ぜひワイナリーを訪れて鈴木さんが醸すワインを味わってみてほしい。

基本情報
名称 | ベルウッドヴィンヤードワイナリー |
所在地 | 〒999-3166 山形県上山市久保手字久保手4414-1 |
アクセス | https://maps.app.goo.gl/A3LwKQnTUxNSwRMZ6 |
HP | https://bellwoodvineyard.com/ |