追跡!ワイナリー最新情報!『朝日町ワイン』コスパ最高のワインで快進撃を続ける

古くから果樹栽培が盛んな山形県西村山郡朝日町で、1944年の創業以来、地域と共に歩み続けてきた『朝日町ワイン』。町と農協が出資する第三セクターとして、地元の農家と深く連携しながら朝日町の恵みを最大限に生かしたワイン造りをおこなっているワイナリーだ。

昼夜の寒暖差が生み出す凝縮感のあるぶどうが育つ朝日町の圃場では、さまざまな品種のぶどうを栽培している。中でも、マスカット・ベーリーAを使ったワインが数々のコンクールで受賞し、高い評価を受けている。

朝日町ワインが目指すのは、「ぶどう本来の深みと香り」を素直に表現すること。近年は欧州系品種の栽培にも注力し、さらなる進化を続けている。

今回は、「朝日町ワインの今」について、営業担当の島﨑悠輔さんにお話を伺った。日本ワインコンクール受賞ワインの紹介や、近年のぶどう栽培に関するエピソードなど、興味深い話題が満載だ。ぜひ最後までご覧いただきたい。

『日本ワインコンクール三冠達成「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024」』

まずは、「日本ワインコンクール2025」における快挙を紹介したい。「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024」が、国内改良等品種 赤 部門「金賞」「部門最高賞」「コストパフォーマンス賞」の三冠を獲得したのだ。

「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024」は、遅摘みしたマスカット・ベーリーAを丁寧に醸してそのまま瓶詰め。ワイナリーを代表する銘柄である。圧倒的なコストパフォーマンスも魅力で、販売価格は1,771円。受賞ワインの中でも群を抜いて手頃であり、近年の日本ワインとしては非常に珍しい価格設定だ。

「農家さんたちも一緒になって受賞を喜んでくれました。町の酒屋さんからも『おめでとう』と声をかけていただき、本当に嬉しかったですね」と、島﨑さんは笑顔を見せた。

朝日町ワインは今後も、「日常的に飲んでもらえる、コストパフォーマンスのよいワイン」へのこだわりを突き詰めていく。

▶︎困難な状況を乗り越えて

三冠を達成したワインが誕生した2024年ヴィンテージだが、実は過去に類を見ないほど厳しい年だったという。

「2024年は雨が非常に多く、山形では7月末と9月20日頃に線状降水帯が発生して県内全域に記録的な大雨被害が出ました。畑も壊滅的な状態となり、栽培の継続をなかば諦めていたほどにひどい状態でしたね」。

特に、収穫直前のタイミングで降った大雨がぶどうに深刻なダメージをもたらした。朝日町ワインのスタッフは、なんとか雨の被害を免れた房にわずかな望みを託したのだ。

「よいぶどうだけを徹底的に選別しました。全体の収量としては減ってしまいましたが、残った中でトップクラスのものを『柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024』にしようと決めて、よいワインを造るために一致団結しました」。

栽培スタッフが極限まで選別したぶどうを、醸造スタッフがこだわりを持って丁寧に醸した。「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024」は、困難な状況でも決して諦めなかった社員たちの熱意の結晶なのだ。

▶︎朝日町ならではの強み

「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024」の美味しさの鍵となっているのが「遅摘み」だ。使用しているぶどうは柏原地区の4軒の契約農家が栽培を担っており、収穫は11月上旬におこなう。

収穫までの期間が長ければ長いほど、雨風による傷みや病気の可能性が高まるため、リスクを伴うこともある。特に2024年のように大雨に見舞われた年は、11月までぶどうを樹上に残すことは大きな賭けだったはずだ。

「農家さんには、9月の時点で駄目になってしまったぶどうは全て捨ててもらうようにお願いして、11月に健全な状態で残った房だけを収穫しました。腐ったり割れたりしたところは全部落としていただいたおかげで、よいぶどうを確保することができました」。

リスクを冒してまで遅摘みにこだわる理由と、遅摘みを可能にする秘訣とは?島﨑さんは、朝日町特有の気候に答えがあると話す。

「一般的に、遅摘みにすると糖度が上がって凝縮感が強くなる傾向があります。また、酸味が抜けることも珍しくありません。しかし朝日町では、11月上旬まで樹に残してもしっかりと酸が残り、凝縮感がある最高の状態で収穫できます」。

酸が残るのは、朝日町の秋の気候に秘密がある。10月くらいになると一気に気温が下がり、昼夜の寒暖差が大きくなるのだ。冷涼な気候が生み出す、引き締まった酸と凝縮された果実味を最大限に生かした「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024」を味わってみたい。

▶︎時間とともに豊かな味わいに変化

「柏原ヴィンヤード遅摘み 赤 2024」の味わいについても詳しく紹介しよう。

「瓶詰めした時点では硬い印象でしたが、最近開けてみたら驚くほど変化していました。瓶詰めから半年経ち、華やかな香りが出てきましたね」。

時間と共に花開くポテンシャルに、島﨑さん自身も驚きを隠せない様子だ。ペアリングについては、山形の郷土料理と合わせてほしいという。

「山形の郷土料理は濃い目の味付けで美味しいですよ。ぜひ、日常の食事と合わせて楽しんでいただきたいですね。手頃な価格のワインだからこそ、いつもの家庭料理との組み合わせを追求してみてください」。

島﨑さん個人としては、スモークした料理と合わせるのがお気に入りだそうだ。さまざまな食材やメニューとの組み合わせを試して、自分だけのお気に入りペアリングを発見したい。

『変化する気候と、朝日町ワインのぶどう栽培』

続いては、朝日町ワインのぶどう栽培の今について見ていきたい。朝日町ワインでは2021年に気象観測装置を設置し、降水量や気温のデータ収集をおこなっている。データが示すのは、近年の気候変動の激しさだ。

データの数値の変化が明確になってきたのは2023年頃から。かつてない夏の暑さや、降雨量の減少が目立ってきた。さらに2025年も、記録的な酷暑を経験した。

変わりゆく天候の中、朝日町ワインはどのようなぶどう栽培をおこなっているのか。2023年以降の天候の特徴と、栽培管理における工夫にスポットを当てよう。

▶︎変動する気候の中でのぶどう栽培

「夏の気温が高くなってきました。2025年7月の平均最高気温は33.9℃まで上がりましたね。それ以前の最高気温は2023年に記録した30.8℃だったので、一気に3℃も上昇したのです」。

2025年7月はほとんど雨が降らず、デラウェアには高温障害が出たという。朝日町は、夏でも夜温が15℃近くまで下がるという冷涼さが特徴だったが、2025年は夏季の夜温が平均1℃上昇。予測できない天候は、ぶどうの生育サイクルにも大きな影響を及ぼしている。

「ブラッククイーンやリースリング・フォルテの場合、収穫時期が1週間から10日くらい早くなっています。ぶどうの品質が低下したり病気のリスクが上がったりする懸念があるため、早めに収穫することを決断しました」。

栽培歴が長い地元農家でも、適切な成熟期と収穫のタイミングを見極めることが難しいほどだという。

▶︎栽培管理における新しい工夫とチャレンジ

刻々と変化する環境に対応するべく、朝日町ワインでは新しい栽培方法にも積極的に取り組んでいる。自社畑の赤ワイン用品種の栽培においては、垣根の新梢を「L字型」に仕立てる方法を試験中だ。 

「通常の垣根栽培では、葉が16枚目くらいの位置で枝を切って高さを揃えます。しかし最近は、枝をさらにを伸ばして、垂れてきた部分をL字型に固定する方法を試しています。光合成できる葉の面積を増やすことを目的とした施策です。光合成を増やして、糖度を上げることができるかどうかを検証しているところです」。

さらに、気候に適応する品種を新たに導入することも視野に入れている。実は、朝日町ワインの自社畑の約半分ほどが道路造成エリアに該当するため、移転する必要が出てきたのだ。

「代替として作る新しい畑では、新しい品種にチャレンジしようと思っています」。

数年後、朝日町ワインのラインナップに加わるであろう新たな顔ぶれを楽しみにしたい。

『個性を磨き続ける朝日町ワイン』

ここからは、朝日町ワインが手掛けるワインの中から、注目の銘柄を紹介していきたい。

工夫を凝らし、進化を続ける朝日町ワインの姿勢をしっかりと表現した、「レイス デラウェア マセレーション」「マイスターセレクション バレルセレクションルージュ」を取り上げる。

▶︎「レイス デラウェア マセレーション」

気候変動の影響で、国内のワイン原料用ぶどうの確保が難しくなってきていることを受けて、新しい銘柄を生み出すのは簡単なことではないそうだ。

そんな状況の中でも、なんとか工夫を凝らして生まれたのが、デラウェアを使ったオレンジワイン「レイス デラウェア マセレーション」。直近の2024年ヴィンテージでは、醸造手法をリニューアルした。乾燥酵母に野生酵母7%をブレンドしたものを使っているのだ。

「レイス デラウェア マセレーション」に使用しているのは、8月中旬に収穫した品質のよいデラウェアだ。発酵温度16℃で、ステンレスタンクを使って1週間ほど醸し発酵をおこなった。淡いオレンジピンクのキュートな色合いが特徴的だ。

「レイス デラウェア マセレーション」は、ポップで親しみやすいエチケットにも注目したい。お客様に「斬新だね」と言われることもある、人気のデザインである。

「『レイス デラウェア マセレーション』はフルーティーな香りとさっぱりした飲み口で、食事の邪魔をしない万能ワインです。合わない料理が見つからないほど、和洋中色々なメニューに合わせていただけますよ」。

特におすすめなのは、苦みがある山菜を使った料理だという。旬の時期になると山形の飲食店でも楽しめる「山菜の天ぷら」と好相性だ。キリッと冷えた「レイス デラウェア マセレーション」との組み合わせを試していただきたい。

▶︎「マイスターセレクション バレルセレクションルージュ」

続いて紹介するのは、朝日町ワインのラインナップのうちでトップクラスの人気を誇る赤ワイン「マイスターセレクション バレルセレクションルージュ」。コンクールでの受賞歴を持つ実力派だ。

「2016年に、G7伊勢志摩サミットのワーキングランチで採用されたことから、人気が出たワインです」。

山形県産のマスカット・ベーリーA、メルロー、ブラック・クイーンを使用し、新樽率高めで11か月間樽熟成した。140樽以上の中から厳選したものだけをブレンドして造っている。樽由来のロースト香と各品種の個性が調和し、非常にまとまりがよいのが特徴だ。

「2023年は大変な暑さだったにもかかわらず、バランスがよく上品な味わいになりました。高級感があるエレガントな仕上がりです」。

「マイスターセレクション バレルセレクションルージュ」には、肉料理をあわせて楽しみたい。

「特別な日の食卓で、フレンチ系の味付けの料理とともに味わっていただきたいですね。和食であれば、焼肉などと合わせるのもおすすめです」。

『地域と共に歩む ワイナリーの使命と未来』

朝日町ワインの強みは、高品質かつ手を伸ばしやすい価格のワインを市場に送り出していることだ。品質と価格のバランスがよいワインを生み出している背景には、品質重視へと舵を切った大きな転換点と、地域との深い結びつきがあった。

自社畑のぶどうと共に、地元の農家が栽培したぶどうも多く使用している朝日町ワイン。実は、現在のような「品質重視」の体制は、努力の末に勝ち取ったものなのだ。

▶︎品質重視のぶどう栽培に

「2010年以前は『品質より収量』という方針でした。しかし、品質はワインの売れ行きに直結します。ワインが売れなければ、ワイナリーにとっても農家さんにとっても収益にはなりません。品質を重視する方向に舵を切ったおかげで、素晴らしいワインが造れるようになりました」。

出来の悪いぶどうは受け入れられないということをはっきりと伝えたおかげで、農家のスタンスも徐々に変化。よいぶどうだけを納めてくれるようになったのだ。最初は反発もあったに違いない。しかし、品質への熱意を伝え続けた結果、朝日町ワインの思いが伝わり、今では深い信頼関係で結ばれている。

品質の高いぶどうからよいワインができれば、農家に利益を還元できる。両者が認識を合わせて進んできたおかげで、良好な循環が生まれたのだ。「農家さんが心を込めて丁寧に作ってくれたぶどうをしっかりと買い取ることが、ワイナリーの責任なのです」。

▶︎町の人たちに誇ってもらえる存在を目指す

「町のワイナリーである以上、町全体のことを考え、町の農家さんを大事に考えてワイン造りをやっていくことがこれからも朝日町ワインの根幹です。もちろん、常に上を目指してよいワインを造っていけるように取り組んでいきます」。

朝日町ワインは今、次のステージを見据えている。国内だけでなく、海外のコンクールでもよい結果を出せているためだ。具体的な目標としては、マスカット・ベーリーAで日本トップクラスのワインを造り続けること。そして、欧州系品種にもさらに目を向けて、国内外から評価される品質を確立させることだ。山形県のワイナリーとして、確固たる地位と実力をつけていきたいと考えている。

「朝日町ワインを飲むこと自体に魅力を感じて欲しいですし、町の人たちに誇ってもらえるワイナリーになりたいですね。また、若い人たちにも選ばれる存在でありたいです」。

『まとめ』

インタビューの最後に、島﨑さんは日本ワインへの思いを語ってくれた。

「日本ワインをもっと多くの方に楽しんでほしいと思っています。各ワイナリーには明確な『得意分野』があり、比較しながら味わってみるのも面白いのではないでしょうか。最近の日本ワインは価格帯が高いという印象を持たれるかもしれませんが、品質にこだわったワインを低価格で提供しているワイナリーもあるので、ぜひ気軽にチャレンジしてもらえたら嬉しいですね」。

ワインに親しんでもらうことを目的として、朝日町が毎年9月に開催しているイベントが、「朝日町ワイン祭り」だ。チケットを購入すると、赤・白・ロゼの中から好きなワインを1本選べて、肉と野菜のバーベキューも楽しめる。

会場では様々な果物など朝日町の特産品も販売され、多くの人で賑わう。詳細は朝日町の公式ホームページで通知されるため、興味のある方はぜひチェックしてみてほしい。

「今後は、朝日町ワイン主催のイベントも作りたいと考えています。朝日町ワインのワインや取り組みを、もっと積極的に発信していきたいですね」。

造り手たちの情熱と地域の恵みが凝縮したワインを醸す朝日町ワイン。素晴らしいコストパフォーマンスと、深みある味わいをぜひ堪能してほしい。


基本情報

名称朝日町ワイン
所在地〒990-1304
山形県西村山郡朝日町大字大谷字高野1080
アクセスhttps://asahimachi-wine.jp/company/
HPhttps://asahimachi-wine.jp/

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