追跡!ワイナリー最新情報!『つくばワイナリー』プティ・マンサンなどの新たな品種に期待が集まる

茨城県にある筑波山の麓で、ぶどう栽培とワイン醸造をおこなっている「つくばワイナリー」。明治28年創業の地元企業「株式会社カドヤカンパニー」が、2011年に設立したワイナリーだ。

つくばワイナリーが最初に自社圃場に植えたのは、ヤマブドウ系品種の「富士の夢」と「北天の雫」。続いて、ヨーロッパ系品種のシャルドネやマルスラン、メルローを植栽。その後プティ・マンサン、アルバリーニョ、タナの栽培もスタートした。

圃場には、筑波山からの風「つくばおろし」が吹くため、湿気がこもりにくい。気温が高く、夜温も下がりにくい環境ではあるが、マルスランなど色付きがよい品種の栽培面積を順調に拡大してきた。つくばに合う品種を見極めながら、試行錯誤している最中だ。ワイン醸造においては、ブレンドを重視。最善のブレンド比率を模索している。

今回は、つくばワイナリー ワイナリー長の大塚勝さんと、栽培・醸造責任者の大浦颯人(そうと)さんに、2023〜2024年のぶどう栽培とワイン醸造について伺った。リリース済みのおすすめ銘柄も紹介いただいたので、あわせて紹介していこう。

『つくばワイナリー 2023〜2024年のぶどう栽培』

まずは、2023〜2024年の天候とぶどう栽培の様子を振り返ってみよう。

安定しない天候に悩まされるなど、ぶどう栽培をする中では苦労することも多い。大浦さんが栽培管理をする中で感じたことや、工夫していることについても詳しくお話いただいた。

▶︎気候の特徴と、対応の難しさ

2023年と2024年は、いずれも夏の気温が高く、雨への対策が欠かせない気候だった。

「2023年は、開花期である5〜6月にかけての雨が多く、病気が発生した品種もありました。また、気温が高かったために着色不良も出ましたね。一方の2024年は、悪くない年ではありましたが、赤ワイン用品種の一部に高温や雨の影響が見られました」。

つくばワイナリーでは、梅雨に入る前の6月頃になると、雨対策のためにレインガードを設置している。だが2023年は、レインガードを設置する直前のタイミングで雨が降ってしまったのだ。

また、2024年は収穫時期が早い「富士の夢」が雨の影響を受けた。お盆明けの時期に発生した夕立と台風が原因だった。

「近年特に実感しているのが、雨や台風の時期が早まっていることです。以前までは9月に来ていた台風が、最近では8月から発生するようになりましたね。つくばワイナリーのメイン品種『富士の夢』と『北天の雫』の収穫期は、お盆明けから始まります。最近はちょうど雨の時期と重なってしまうため、管理が難しくなってきていると感じています」。

収穫期になると、毎日空とにらめっこしながらの作業だと話してくれた大浦さん。晴れ間を狙いながら収穫をおこなうが、雨が降り出したら中断せざるを得ないことも多く、なかなか作業スピードが上がらないという。

その上、『富士の夢』と『北天の雫』は、つくばワイナリーの圃場の中では最も栽培面積が広い。そのため、早く収穫しなければいけないが天候のせいで収穫が進まないというジレンマに悩まされている。

「赤ワイン用品種では、ぶどうが水分を吸って果実が割けてしまう『実割れ』が起こったものもありましたね。今後は、栽培管理の方法や収穫タイミングを見直すことも検討しています」。

▶︎ヤマブドウ系品種とヨーロッパ系品種

自社畑で栽培しているぶどうのうち、特に好調なのは、白ワイン用品種のプティ・マンサンや赤ワイン用品種のタナなどだ。2023年から収穫がスタートしたばかりだ。

「プティ・マンサンとタナの2品種は、雨が続く中でも品質がよいぶどうが育っていますね。手応えを感じているので、栽培面積を徐々に広げているところです」。

つくばワイナリーがメイン品種として栽培している『富士の夢』と『北天の雫』は、ヤマブドウ系の品種だ。一方、プティ・マンサンやタナはヨーロッパ系の専用品種。系統が異なるぶどうには、栽培する上での違いはあるのだろうか?

「『摘芯』作業の違いが一番大きいでしょうか。ヤマブドウ系のぶどうはツル性が強いため、自立せずに垂れ下がってくる傾向があります。そのため、垂れ下がった部分をきっちりと摘芯しないと風通しが阻害されるので蒸れやすくなってしまいます。しかし、ヨーロッパ系品種は最初の誘引をしっかりとおこなっていれば、その後は手を加えなくても自立してくれるため、ヤマブドウ品種に比べて栽培管理が容易なのです」。

管理が難しいヤマブドウは、栽培の正解を見つけることが困難なため、つくばワイナリーでも試行錯誤が続いている。これまでメインの品種として栽培してきたヤマブドウ系品種ではあるが、栽培する品種に固執し過ぎるのもよくないと大浦さんは言う。

「よりよいヤマブドウの栽培を目指していますが、人の力では変えようのない天候の変化に合わせて、栽培する品種そのものを柔軟に変化させていくことも大切でしょう。つくばの天候とヤマブドウが合わなくなることがあれば、一部を別の品種に植え替えるなどの施策に関しても考えていきたいですね」。

つくばワイナリーでは2025年現在、2.8haの圃場で約7,000本のぶどうを栽培している。そのうち、半分の約3,500本がヤマブドウ系ぶどう「富士の夢」だ。社員やボランティアの力を借りつつ管理しているが、ヤマブドウならではの作業や、天候にあわせた臨機応変な対応も必要な分、工数がかかっているのが現状だという。

こだわる部分と簡略化する部分のメリハリをつけながら、つくばワイナリーはこれからも、つくばでのぶどう栽培に全力で取り組んでいく。

▶︎栽培管理における「除葉」の重要性

ぶどう栽培において、つくばワイナリーが近年特に力を入れているのが、ぶどうの葉を取り除く「除葉」だ。

「近年の雨の影響を受けて、除葉の重要性をさらに実感しています。除葉をおこなう目的は、なんといっても湿気対策ですね。房周りをすっきりさせることで、風通しがよくなって病気の予防につながります。2024年は、例年よりも特に多くの葉を取ることを心がけました」。

湿気対策以外のいくつかの理由でも、大浦さんは除葉の重要性を実感している。ひとつは「酸の調整」のためだという。なぜ、葉を取り除くことで効果が期待できるのだろうか。

「ぶどうには、気温が高くなると糖度が上がり、反対に酸が落ちていく性質があります。除葉して房により多くの日光を当てることで、酸が落ちるのを促すことができるのです。ヤマブドウ系品種は酸が高い品種特性を持っているため、収穫時期が早い場合には酸が高すぎます。しかし、雨が多い年には、どうしても収穫を早める必要が出て食うことがあります。そのため、除葉をおこなって、収穫時に酸味が強くなりすぎないように調整しているのです」。

酸を落とす目的で除葉する場合に落とすのは、「東側についている葉」だ。逆に、西側の葉は西日による日焼けを防ぐために残す必要がある。

「新しい圃場は肥料分が土に馴染んでいないため、区画ごとの生育の差が大きくなります。現状だと、エリアによって樹勢が異なるのは新しく植えたプティ・マンサンとアルバリーニョですね。成熟スピードは互いに影響し合うため、樹勢がバラバラになることで、同じ品種でも収穫時期がズレてきてしまいます。そこで、収穫時期を均一化するために、樹勢が強い方の樹を多めに除葉して、熟度を調整しているのです」。

エリアごとの生育の差異を見極め、除葉によって細かく管理しているつくばワイナリー。大浦さんは、「それぞれの樹にあった方法で管理することが大切」だと話す。栽培家たちがぶどうにかける愛情は、出来上がるワインにもきっと反映されるはずだ。

『高いポテンシャルを秘めたワインが続々誕生』

続いては、つくばワイナリーのワインを紹介していく。2023年ヴィンテージからは、新圃場のぶどうを使ったワインがラインナップに加わった。仕上がりがよく、今後さらに期待が持てるという。

新しくリリースしたワインの味わいや楽しみ方、これからのワイン造りの展望にも触れていきたい。

▶︎「TWIN PEAKS BLANC(ツイン ピークス ブラン)」

まずは、ヨーロッパ系品種のみを使用した「ツイン・ピークス」シリーズから紹介していきたい。

白ワインの「TWIN PEAKS BLANC(ツイン ピークス ブラン)」から見ていこう。使用している品種はシャルドネとプティ・マンサン、アルバリーニョだ。以前から栽培していたシャルドネをベースに、新品種であるプティ・マンサンとアルバリーニョを補助的に加えた。ブレンド比率はシャルドネ60%、プティ・マンサン26%、アルバリーニョ14%だ。

「香りが非常によく、手応えを感じられたワインです。2023年ヴィンテージは『日本ワインコンクール2024』にて、銅賞を受賞しました。」

つくばワイナリーのシャルドネは旨味が強いが、酸が残りづらいという特徴がある。そこで、酸が豊富なプティ・マンサンをブレンドして蜜のような香りと爽やかさを共存させた。また、アルバリーニョは、どんな料理にも合う万能選手。2024年ヴィンテージの「TWIN PEAKS BLANC」は、5月中旬にリリース予定だ。

つくばの環境に合うよい新品種と巡り会えたことを実感できたと話してくれた、大浦さん。今後は、プティ・マンサンやアルバリーニョ単一での醸造も検討している。

▶︎「2023 TWIN PEAKS ROUGE(ツイン ピークス ルージュ)」

続いて、同じく「ツイン・ピークス」シリーズから、「2023 TWIN PEAKS ROUGE(ツイン ピークス ルージュ)」も紹介しよう。

「2023 TWIN PEAKS ROUGE」は、タナとマルスラン、メルローをブレンド。ベストな状態で収穫されたタナがパンチを効かせ、ボリューム感ある味わいに仕上がった。

「タナは、フルボディのワインを造る意図で植えた品種でした。まだ植栽からの年数が経っていないのでフルボディとまではいきませんが、今後はさらに個性を発揮して、より魅力的なぶどうになるでしょう」。

これからも新品種の特性を見極めながらよりよい栽培方法を検討しつつ、ワインの味わいもブラッシュアップしていく。

▶︎ブレンドの可能性を追求

「栽培品種が増えたことで、ブレンドの選択肢や考え方の幅が大きく広がっています」と大浦さん。

味わいに幅を持たせるための工夫として、以前は同じ品種でも数回に分けて収穫する方法を採用していたつくばワイナリー。その後、栽培する品種を順調に増やしたことで、複数の品種を使った複雑なブレンドが可能になった。

大浦さんがワインの製造工程で重要視しているのは、ブレンド比率だ。テイスティングを重ね、年ごとの最良のブレンドを見極める。

「比率が異なるワインを入れたたくさんのグラスをずらりとならべて、ブレンド比率を比較検討しています。ほんの少しの違いが、ワインの味や香りに影響するのです」。

つくばワイナリーが目指すのは「きれいな形」が感じられるワイン。大事なのは、インパクトよりも「2杯目に進みたくなるワイン」であること。「食中酒」というワインの本質を追求しつつ、飲み疲れせず料理と合わせやすいワインにこだわるのだ。


▶︎2024年ヴィンテージのワイン

2024年ヴィンテージについては、「2024 Twin Peaks マルスランブラン」をピックアップして紹介しよう。

「2024年はマルスランの色付きが薄かったため、赤ワインではなく『ブラン・ド・ノワール』として仕込んでみました」。

赤ワイン用品種で造る白ワイン、ブラン・ド・ノワールとして造った「TWIN PEAKS BLANC」は、芳醇な香りでクリアな味わいの白ワイン。ワイナリーでの限定販売だ。

それ以外にも魅力的なワインが続々とリリースされるので最新情報は公式サイトとSNSでチェックしていただきたい。

『ワイナリーでのイベントを多数開催』

最後に、つくばワイナリーが開催したイベントなどについて紹介したい。

2024年、つくばの自然や食の楽しみが味わえる企画など、魅力的なイベントを開催した。これまでにおこなわれた企画を紹介するとともに、今後のつくばワイナリーが見据える未来についても見ていこう。

▶︎サポーターの力を実感した2024年

つくばワイナリーには、ワイナリーの活動を支えるサポーター組織がある。サポーターの方々は、栽培作業ボランティアなどに参加してワイナリーを支援をしているそうだ。

ワイナリー長の大塚さんは、「ボランティアの皆さんに助けられた1年でした」と、2024年を振り返る。

2023年はボランティア募集を休止していたため、5名程度の栽培スタッフでなんとか作業をこなしていた。しかし2024年はボランティアの募集を再開し、総勢60名で作業することができたのだ。多くの人に協力してもらえたことで、雨が多い天候の中でも、なんとか収穫を乗り切れたという。

「2024年11月には、新酒発売会に先駆けて、サポーターの方々に集まっていただき『お疲れ様会』を開きました。2025年も引き続き、皆さんと共に飛躍できる年にしていきたいですね」。

お疲れ様会では新酒が振る舞われ、ゲームなどもおこなわれた楽しい懇親の場では、スタッフとサポーターの親交を深めることができた。

ワインを形造るのは、天と地と「人」だ。さまざまな人とコミュニケーションを取り、支え合いながらワイナリーを運営していきたいと大塚さんは話してくれた。

▶︎人が集うワイナリーを目指して

イベント開催に積極的なつくばワイナリーでは、2024年の新酒発売会にはキッチンカーを呼び、食事とワインのテイスティングが楽しめるイベントをおこなった。

「7〜8店舗のキッチンカーに美味しい料理を提供いただき、ワインに合うおつまみと共に新酒を楽しんでもらいました。今後も、新酒発売の時期には毎年楽しいイベントを開催したいと考えています」。

また、2024年12月にはアートやワークショップが楽しめる「2024つくばアースワーク展」を開催。剪定した枝を使ってリース飾りを制作するワークショップが好評を博した。

さらに、ワイナリーの敷地内でバーベキューが楽しめるケータリングサービスもあり、筑波山の麓に広がる美しい景観の中で食事を楽しむことができると好評だ。

今後は、敷地内にホテルやオーベルジュなどの宿泊施設を建設することも計画しているつくばワイナリー。おいしいワインと食事、雄大な景色を同時に楽しめる素晴らしい施設になることだろう。

『まとめ』

2023〜2024年は雨に悩まされた年だったが、新たに植えたぶどうの生育は順調だ。ぶどうの生育状態をしっかりと確認しながら実施している除葉など、栽培管理にもより一層工夫を凝らし、高品質なぶどう栽培に取り組んでいる。

最後に大浦さんが、今後の目標について次のように話してくれた。

「今後は『低アルコール飲料』の醸造など、新しい試みにもチャレンジしていきたいですね。普段お酒を飲まない方にも気軽に手にとっていただけるような製品を開発し、より多くの人に楽しんでもらえるワインを造っていきたいと考えています」。

都心からほど近い茨城県つくば市に足を運び、美しいぶどう畑を眺めながらワインを飲めば、きっと日頃の疲れが解けていくような感覚を味わうことができるだろう。のんびり過ごしたい週末には、つくばワイナリーを訪れてみたい。


基本情報

名称つくばワイナリー
所在地〒300-4231
茨城県つくば市北条字古城1162-8
アクセス・つくばエクスプレス「つくば駅」から車で約25分
・常磐道土浦北インターから車で約20分
HPhttps://tsukuba-winery.kadoya-company.com/

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