富山県魚津市にある「KANATA WINERY(カナタワイナリー)」は、140年以上の果樹栽培の歴史がある魚津の地で、地域に根ざしたワイン造りに取り組んでいる。
富山湾に面している魚津市は、平野部と2000m級の山岳地帯を持つ独特の地形を有する。「天然のいけす」と称される富山湾から水揚げされる新鮮な魚介類が、豊かな食文化を育んできた土地だ。
KANATA WINERYが目指すのは、魚津の食に寄り添うワインを造ること。ピノ・ノワールやアルバリーニョ、甲州などを自社畑で丁寧に育て、「魚津テロワール」を表現する。
今回は、栽培・醸造責任者の土井祐樹さんに、2023〜2025年にかけてのぶどう栽培・ワイン醸造についてお話を伺った。KANATA WINERYの「今」をお届けしたい。
『2023年〜2025年のぶどう栽培』
まずは、KANATA WINERYの2023〜2025年のぶどう栽培を振り返ろう。全国的な猛暑や極端な降水量の変化など、息をつく暇もないような気候変動が続いた。富山県庁の「改良普及員」(現在の「普及指導員」)として、果樹栽培の普及指導をしてきた経歴を持つ土井さんでさえ、驚くほどだったという。
KANATA WINERYは大自然の猛威をどのように受け止め、乗り越えてきたのだろうか。
▶︎2023〜2025年を振り返る
「2023〜2025年に共通していたのは、本当に暑かったということです。ただし、栽培の難しさやぶどうの品質は、年ごとにさまざまでした」と、土井さんは振り返る。
2023年は、7~8月の日照時間の長さと空梅雨が特徴的だった。雨がほとんど降らなかったためぶどうの成熟には理想的な気候で、結果的に「当たり年」となったのだ。だが、2024年は苦難の連続だった。
「2024年が難しい年だったのは、雨が多かったためです。7月の降雨量が例年の1.5倍ほどもあり、雨の影響で病気も発生して収量にも影響が出ました。雨量の多さは、枝の成長を促進します。次々と伸びるので、摘心しても全く追いつかないほどで大変でしたね」。
2024年は7月末に梅雨明けしたものの、8月も曇天が続いた。雨こそ少なかったが、湿度が高かったために地面が乾きにくく、枝の成長が止まらなかった。成熟期のばらつきや、糖度が上がりにくくなるという弊害も出たという。
続く2025年の生育シーズン序盤は雨が少なく、2023年に近い空梅雨だった。そして、6月中旬頃からは一気に気温が上昇。豊富な日照量にも恵まれた。土井さんをはじめ、スタッフたちは「今年は素晴らしいヴィンテージになるかもしれない」と胸を躍らせていた。だが、8月初旬に、1週間で300mmを超えるほどの災害級の雨が降り、期待していたようにはいかなかった。
「期待が大きかったのでがっかりした気持ちはありましたが、ぶどうの品質はまずまずでした。大雨の影響を最小限に食い止められたので、ひと安心でしたね」。

▶︎気候変動による変化
果樹栽培のスペシャリストとして30年以上のキャリアを持つ土井さんだが、近年の気候はかつての常識が通用しないほど変化していることを実感しているという。
「とにかく、夏の気温が高すぎるのです。ぶどうの枝の成長が想像以上に早くなり、大げさではなく1日30cm近く伸びているのではないかと感じることもありますよ。圧倒的な生命力です」と、ため息をつく。
近年の猛暑は、収穫時期のスケジュールにも劇的な変化をもたらしている。特に、赤ワイン用品種の主軸であるメルローの収穫時期が大幅に変わってきた。
「自社畑のメルローはかつて、9月下旬頃に収穫していました。しかし、2023年は8月31日と9月1日に収穫しました。およそ1か月も時期が早まったのです」。
一方、曇天と長雨に悩まされた2024年は、枝が伸びすぎた影響で全体の成長が遅れ、収穫時期が後ろにずれ込んだ。天候によって栽培スケジュールが不安定な中で、最適な収穫タイミングを見極めるのは至難の業だ。
さらに、課題は他にもある。赤ワイン用品種の着色問題だ。KANATA WINERYの自社畑では、高温の影響で2024〜2025年は着色が思わしくなかった。枝の管理方法を変えたり房数を調整したりなどの対策を講じている最中だ。
「どうやら、ぶどうが色付き始める『ヴェレゾン』前後の気温が高すぎると、着色のスイッチが入りにくいようです。気温に関しては人の力ではどうすることもできないため、頭を悩ませています」。
畑に打ち水をするというアイデアもあるが、人手や労力、得られる効果のバランスを考えると決定打とするのは難しい。栽培している品種の中で、特に着色に問題が出ているのが、カベルネ・フランとカベルネ・ソーヴィニヨンだ。土井さんは、栽培品種を変更することも視野に入れているという。
環境の変化に合わせて柔軟に舵を切ることが、これからの時代を生き抜くワイナリーに欠かせない力のひとつになるだろう。

▶︎手応えを感じている品種
厳しい天候が続く中でも、土井さんが手応えを感じている品種がいくつかある。赤ワイン用品種のピノ・ノワールとシラー、白ワイン用品種の甲州とアルバリーニョだ。
「特に、ピノ・ノワールが栽培しやすいという確かな手応えが当初からありました」。
ピノ・ノワールの強みは、収穫時期の早さにある。近年の過酷な気候でも、気温が高くなって天候が崩れやすい9月を待たず、8月のうちに健全な状態で収穫できるのだ。
また、シラーは近年の猛暑に対抗できる強さが最大の魅力だ。他の赤ワイン用品種が暑さで色付きにくくなる中、シラーは高いポテンシャルを維持している。これからの温暖化を見据える上で、非常に頼もしい存在だ。
「白ワイン用品種の一番の『推し』は、アルバリーニョです」と笑う土井さん。だが実は、畑仕事泣かせの品種だという。環境適応力の強さから原種に近い品種だと推測されているアルバリーニョは、野性味溢れる性質ゆえに栽培スタッフを大いに悩ませる。
「アルバリーニョは、春の早い段階から脇芽(わきめ)が次々と出てきます。そのため、油断するとあっという間に畑全体がもじゃもじゃとした茂みになってしまうのです」。
芽の勢いは強いが、新芽は非常にデリケートだ。「捻枝(ねんし)」と呼ばれる手法を使って優しく固定するが、難しい作業のため慣れないうちは思い通りに進まないこともある。
栽培管理をする際には、土井さんが自らスタッフと一緒に畑に入り、品種ごとの特徴などを丁寧に伝えながら進めている。正解がひとつではないぶどう栽培においては、「その場でぶどうの状態を見て最善の判断をする」感覚を共有することが、何より大切なのだ。

▶︎栽培管理におけるこだわり
KANATA WINERYでは、ワイン専用品種だけでなく、ピオーネや安芸クイーンなどの生食用品種の栽培も手がけている。生食用ぶどうには、ワイン用ぶどうとは異なる「管理のしやすさ」があるそうだ。
「生食用のぶどうは、ワイン用以上に厳密に人間の手で管理をします。房数だけでなく、ひと房の中に残す粒の数まで完璧にコントロールするのです。だからこそ、近年の過酷な高温の影響に対してもある程度はカバーがしやすいという側面があります」。
だが、ワイン用ぶどうに対して、生食用と同じような「一粒単位での過剰なコストや人手」をかければ、ワインの生産コストが跳ね上がり、ワイナリーとして採算が取れなくなってしまう。
房や粒をしっかりと間引いてひと房の価値を極限まで高める生食用と、可能な限り健全な状態をキープしながら、多くの収穫量を安定して確保したいワイン用ぶどう。両者の違いをシビアに見極め、「どこまで人手を割くべきか」のバランスをコントロールすることこそが、ワイナリーを長く続けていくために必要な能力のひとつと言えそうだ。
「大切なのは、ぶどう栽培に対して真剣に向き合い、その時にやるべき作業に実直に取り組むことです。日本でワインを造るすべての人にとって、必要な覚悟だと思います。ぶどう栽培は、それほど簡単なことではないという厳しい現実と真正面から向き合い、毎日の地道な作業を積み重ねていくこと以外に道はありません。最高のワインを生み出す唯一の鍵なのだと信じています」。

『KANATA WINERYのワイン』
続いては、2023年以降のワイン造りに焦点を当てよう。KANATA WINERYからどのようなワインが誕生したのだろうか。
ヴィンテージごとの違いが生み出した個性と、土井さんがワインに込めた思いを紹介したい。
▶︎「Merlot 2023」と「Buffalo Metodo Classico 2023」
おすすめとして土井さんが真っ先に挙げてくれたのは、当たり年である2023年のワインで、メルローを使った「Merlot 2023」だ。
「『ザ・メルロー』と呼ぶにふさわしい味わいに仕上がりました。確かな手応えを感じています」。
ステンレスタンクで発酵後、木樽で熟成させた「Merlot 2023」。恵まれた天候によって生まれた凝縮感のある果実味が、優しい酸と調和した自信作だ。
続いて紹介するのは、アメリカ系の生食用ぶどうを使用したロゼスパークリングワイン「Buffalo Metodo Classico(バッファロー・メトド・クラシコ) 2023」。
「バッファローという生食用品種を使った、瓶内二次発酵のロゼスパークリングです。非常に華やかでフルーティーな香りが立ち上り、キレのよい酸が全体を引き締めてくれるのが特徴です」。
品種名の「バッファロー」からイメージするのは荒々しさだが、「Buffalo Metodo Classico 2023」は洗練された印象のエレガントな味わいだ。生食用品種のポテンシャルを醸造で引き出す、KANATA WINERYの実力を感じられる一本だ。

▶︎「Pinot noir (ピノ・ノワール)2024」
苦労が多かった2024年ヴィンテージのうち、土井さんが最も思い入れのある一本が「Pinot noir (ピノ・ノワール)2024」だという。
2024年のピノ・ノワールは、気候の影響で成熟にばらつきがあったため、当初は3回に分けて収穫する計画を立てていた。しかし、収穫直前になって台風が接近したため、まとめて収穫せざるを得ない状況に追い込まれてしまったのだ。
「台風から守るためとはいえ、収穫したぶどうに未熟果が混じっていたことが本当に不安でした。仕込んでいる最中も、色付きが薄いぶどうが目に入るたびに胃がキリキリと痛みました」。
だが、ピンチの時にこそ、ピノ・ノワールの持つ神秘的な底力を見たと土井さんは振り返る。ピノ・ノワールが、自分自身の力で「あるべき姿」に進んでいったように感じたそうだ。
「他の多くの品種は、年ごとの天候や特徴に合わせて、人間の手にある程度導かれながらワインというゴールに向かっていくイメージがあります。しかし2024年のピノ・ノワールは、『こういうワインになる』という頑固な意思を持って、自ら突き進んでいったような感覚があったのです」。
例年よりはやや淡い色合いだったものの、カラメルや飴を焦がしたような独特のニュアンスがあり、KANATA WINERYのピノ・ノワールらしい個性が光る味わいに仕上がった。
KANATA WINERYのピノ・ノワールを使ったワインは、熟成におけるポテンシャルにも注目したい。3年半が経過したファースト・ヴィンテージのピノ・ノワールをテイスティングした土井さんは、未だ衰えないみずみずしさに驚いたという。
「3年半経ってもフレッシュで丸みを帯びた味わいで、骨格もしっかりと残っていました。この調子なら5年、10年と熟成に耐えられそうです」。
ピノ・ノワールの神秘性に瞳を輝かせる土井さんは、「世界の造り手たちは、こうやってピノ・ノワールの沼にはまっていくのでしょう」と微笑んだ。

▶︎大好評の白ワイン
2024年ヴィンテージのアルバリーニョと甲州のワインは、いずれもあっという間に完売してしまった。大きな反響は、KANATA WINERYの白ワインへの期待の高まりを示している。
「アルバリーニョに関しては、ワイナリーの定番銘柄にするべく試行錯誤を重ねています。甲州に関しては、2024年ヴィンテージの熟成中に、非常に面白い偶然が起こりました。タンクでの熟成中に、意図しなかった『マロラクティック発酵(MLF)』が始まったのです」。
マロラクティック発酵とは、ワインに含まれるリンゴ酸が乳酸菌の働きで乳酸へと変化するプロセスのことを指し、まろやかさと複雑味を加える効果がある。
「酸が少し柔らかくなり、口当たりのよい味わいになりました。購入いただいたお客様からも、非常によい評価をいただいています」。
今後は、甲州のワインにおいて、MLFの実施有無や両者のブレンドなど、多角的なアプローチを模索していく予定だという。熟成中の2025年ヴィンテージの甲州ワインは、2026年秋から2027年春にかけてリリース予定だ。
「今後も白ワインに注力していきたいと考えているため、完売している期間は非常に心苦しい思いです。次のリリースを、ぜひ楽しみにお待ちください」。

『まとめ』
まずは一度、魚津に実際に足を運んでみてほしいと考えている土井さん。畑や醸造所を見学して、魚津の食と合わせてワインを楽しんでもらうのがいちばんの願いだ。
KANATA WINERYでは、冬季を除く月1〜2回、土井さん自らが案内する「ワイナリー見学ツアー」を開催している。1日8名限定の少人数制で、魚津駅からの送迎付きだ。畑・醸造所の見学と試飲で2,000円という破格の内容で、食べ物の持ち込みも可能である。最近は、思い思いのおつまみを持参して楽しむ人も増えているそうだ。
2026年5月には能登半島地震の復興支援イベント「ありがとう復興ワインフェスタ」に参加。また、地元のイタリアンシェフと連携したペアリングディナーも不定期で開催しているため、気になる方は公式Instagramで最新情報を確認してほしい。
「よいワインとは、ぶどうをしっかりと作って、しっかりワインにすることの積み上げにある」と土井さんは言う。KANATA WINERYはこれからも「KANATA WINERYらしさ」を追求し、毎年の天候やぶどうの状態と真摯に向き合い続けてワインを醸していくのだ。

基本情報
| 名称 | KANATA WINERY |
| 所在地 | 〒937-0013 富山県魚津市天神野新字西大野147番1 |
| アクセス | https://maps.app.goo.gl/GiRG89KiaBqEZCVT6 |
| HP | https://kanatawinery.com/ |
