香川県小豆郡(しょうずぐん)土庄町(とのしょうちょう)、瀬戸内海東部の播磨灘に浮かぶ小豆島にある「224winery(ニーニーヨンワイナリー)」は、小豆島初のワイナリーだ。
ワイナリー代表・醸造責任者を務める志賀隆太さんは、大阪で事業を営む実業家。自身が子供の頃に大切な時間を過ごした小豆島でのぶどう栽培とワイン醸造を志し、5か年計画で念願のワイナリーを開設したエネルギッシュな人物である。
瀬戸内海に浮かぶ島での農業は、決して簡単ではない。海からの強風や雨、自然の中で暮らす野生動物による被害など、さまざまな障壁が立ちはだかる中での取り組みだ。
低農薬でのぶどう栽培を実践している224wineryでは、自社畑で7品種のぶどうを栽培。海のすぐそばで育ったぶどうならではのテロワールを生かし、フレッシュなワインを醸造する。
小豆島を元気にする起爆剤のような存在になることを目指し、走り続けてきた224wineryの近況について、志賀さんにお話を伺った。実業家ならではの見識を軸に新たに取り組んでいる施策についても紹介いただいたので、詳しく見ていこう。
『2023年以降のぶどう栽培』
まず始めに、224wineryにおける2023年以降のぶどう栽培を振り返りたい。
西日本でのぶどう栽培は、雨や湿気との戦いだ。224wineryが実感している気候変動の様子と、栽培管理においてどのような工夫をしてきたのかについてお話いただいた。
▶︎2023年の天候とぶどう栽培
「2023年は雨に悩まされました。年間降水量は例年並みだったものの、降るときと降らないときの差が非常に極端だった印象です。梅雨は雨が多く、夏になってからも局地的大雨が度々やってきました。とにかく、年々暑くなってきています」。
224wineryの自社畑では、2023年の収穫はお盆前にスタートした。台風が来る前にできるだけ収穫しておくためだ。まず、主力品種のひとつであるデラウェアを全体の3分の2ほど摘み取った。自社畑は瀬戸内海に面しており、自慢の景観ではあるが、台風が来た場合には必ずといってよいほど直撃を受ける。雨と風による被害は決して小さくないため、早めの対策が必要だ。
ただし、台風が来ない年でも、224wineryでは早めの収穫をしているそうだ。醸造段階で補酸をしないため、酸が残った状態のぶどうが望ましい。糖度16度くらいのまだやや青さの残るぶどうを収穫して保管しておくことで、 224wineryのワインならではのフレッシュな味わいを造り出す。健全なぶどうから美味しいワインを造るための工夫なのだ。

▶︎2024年の天候とぶどう栽培
続く2024年は、最高気温36℃を記録する猛暑が特徴的だった。暑すぎる気温は、ぶどうはもちろん人間にとっても過酷だ。日中は気温が高く、とてもではないが畑で長時間作業をすることは出来ない。
224wineryでは夏場に空調服を利用している。服に取り付けたファンで外気を取り込み、汗を蒸発させて体を冷やす仕組みなのだが、あまりに気温が高いと熱風が入ってくるため、暑さ対策にならないそうだ。
夏の昼間は昼寝して過ごすしかないと志賀さんは言う。夜明けと同時に畑に出て、昼には早々と外での作業を終える。そして午後は、涼しい室内で瓶詰めなどの作業をおこなうそうだ。
しかし、本格的な生育期を迎えると、暑いからと弱音を吐いてはいられない。暑さに注意しつつ、枝の誘引とつる切りをしたり、どんどん伸びる草を刈ったりするなどの作業に追われることになる。年ごとに暑さが増してくる畑でのぶどう作りは、もはや命の危険と隣り合わせだ。

▶︎ぶどう栽培における工夫と試行錯誤
続いては、224ワイナリーがぶどう栽培において工夫している点についてお話いただいた。気候変動によって、天候の予測は以前よりも難しくなってきた。そのため、栽培において従来のセオリーが当てはまらないケースが増えてきているという。
「前年のデータを参考にして散布する農薬の順番を変えたり、収穫の14日前まで使える農薬を使うようにしたりと、病害虫への対策は常に工夫し続けています。農薬の濃度を薄めて散布回数を増やすなど、よりよい方法を模索中です」。
224wineryの自社畑では低農薬栽培を実践しているため、使用可能な農薬の種類と散布量、散布時期など守るべきルールが多い。だが、畑は海のすぐそばにあるため、強い海風が頻繁に吹きつける。つまり、農薬が散布できる機会が非常に限られているのだ。雨の翌日は薬剤散布をおこなわないのが一般的だが、やむを得ず農薬を撒くこともあるほどだという。 また、畑を徐々に拡大しているため管理対象が増えていて、若木は防除の方法が異なるため手間がかかる。
「自然と共存して戦いながらぶどう栽培をしていると言うとかっこいいですが、実際には人は自然には勝てないことを痛感しています。どうしたって負けるものと決まっているのですから、なんとかよい付き合いをするように頑張るしかないですね」。
梅雨が明ければ「黒とう病」や「ベト病」、7月後半になると「晩腐病」が発生することが多く、その度に対策を取らなければならない。 前年の失敗をなんとかしようと毎年頑張ってはいるけれど、なかなか全てを乗り越えることはできないという。
「毛虫がいっぱいつくこともありますが、殺虫剤は使っていないので、いちいち手でつまんで取るしかありません。しゃあないですわ、口に入るものの原料を栽培しているわけですからね」。
収穫を間近にひかえて美味しくなったぶどうには、どこからともなくたくさんの虫や動物が押し寄せてくる。できる限りの対策はしつつ、体と自然に優しいワインを造るための低農薬栽培をするための試行錯誤はこれからも続いていく。

▶︎農作業の疲れは海で癒す
根っからの大阪人である志賀さんだが、幼少時に夏休みを過ごすのは、決まって母の故郷・小豆島だった。
「島には私の親戚も多いので、すっかりなじんでいますよ。とにかく毎日楽しいですね。釣りが趣味なので、ワイナリーのすぐ下の海岸に船を停めていましてね。畑の作業で疲れたら2〜3時間海に出て釣りをして、気持ちを切り替えています」。
自然の中での遊びを満喫できる小豆島での暮らしは、志賀さんの子どもの頃からの夢だった。大阪での事業も継続しているため毎日が大忙しだが、やりたいことをやってるから本当に楽しいと話す志賀さんにとって、小豆島でワインを造ることこそが、30年頑張ってきた自分へのご褒美なのだ。
「ここでワインを造って暮らすことが目標でした。若いうちはあれも欲しいこれも欲しいとか思ってましたけど、それをひと通りやったら、あとは人生をかけてワイナリーをしながら小豆島で生活することだけが望みでしたね。私の人生、思った通りにいってるなと感じてますよ」。

『224ワイナリー 新たなフラッグシップが登場』
続いては、2023年以降のワイン醸造について紹介しよう。224ワイナリーがリリースしているワインの中で、志賀さんおすすめの銘柄もいくつか挙げていただいた。
小豆島の新たな特産品を生み出す存在として、確実に認知度を上げてきた224ワイナリーのワイン造りの今を紹介したい。
▶︎小豆島の新定番「AZU CHAM(小豆シャン)」
最初に紹介するのは、224ワイナリーのフラッグシップ「SHIMA CHAM(島シャン)」に続いて登場したスパークリングワインである「 AZU CHAM(小豆シャン)」だ。
瓶内二次発酵タイプの 「AZU CHAM」のファースト・ヴィンテージは2023年。自社ぶどうのみを使用した「SHIMA CHAM」が人気で品不足となってしまうため、買いぶどうを使用して同じ製法で仕込んだのが「AZU CHAM」である。
「師匠に教えてもらった通りに、辛口の一歩手前で発酵を止めています。無補糖の辛口スパークリングが苦手だという人が割と多いため、誰にでも飲みやすく、食前から食中まで楽しめる味わいにしました」。
師匠とは、志賀さんの修行先だった大阪府柏原市の「カタシモワイナリー」の社長のこと。カタシモワイナリーの人気商品である「たこシャン」の秘伝の手法を伝授された志賀さんだからこそ造ることが出来たのが、「SHIMA CHAM」「AZU CHAM」だ。ほんのりとした甘さは食事の最初から最後まで合わせられ、魚介類との相性も抜群である。
小豆島の人にとって贈答品といえば特産品のそうめんやオリーブ、醤油などが定番だったというが、「SHIMA CHAM」「AZU CHAM」も地元の人たちにとって贈り物の新たな定番になりつつあるのだ。

▶︎「オリーブ豚」によく合うメルロー
続いて紹介するのは、自社醸造をスタートした初年度から醸造しているメルローのワインだ。2024年のメルローは、ステンレスタンク熟成、木樽熟成、ロゼと3種類の仕込み方法で醸造した。
そのうち、「木樽熟成メルロー」は、ほのかな樽の香りが酸味を和らげているため飲みやすいと人気の銘柄だ。フレンチオーク樽を使ったメルローのワインには、小豆島で飼育されている「オリーブ豚」を合わせたい。オリーブ豚は小豆島特産のオリーブの搾りかすを食べて育つため、旨みが強くジューシーな肉質が特徴だ。
「シンプルに塩胡椒で焼いたオリーブ豚と『木樽熟成メルロー』は本当に美味しいですよ。島で獲れるイノシシ肉を使った『ボタン鍋』にもよく合います」。
メルローを使ったロゼについても触れておきたい。1日だけ醸しをおこなってすぐに搾ったというロゼは、発色がよく鮮やかな色合いが特徴だ。志賀さん自身がこれまであまりロゼを好まなかったため、自分好みの味にしたいと考えて木樽に入れることにしたという。
「ロゼワインは中途半端な味に感じてしまうことが多く、このロゼも試作の時点でそう感じたので、木樽に入れることにしました。ロゼを木樽に入れるなんてと驚かれましたが、3か月ほど樽熟成させたら香りがよくなり、コクが増しましたね」。
メルローのロゼは刺身との相性もよいので、志賀さんは自分で釣った魚と一緒に楽しむそうだ。

▶︎小豆島の醤油にはシードルを
小豆島の特産品である醤油を使った料理に合わせる銘柄として志賀さんが提案するのは「SHIMA CHAM」「AZU CHAM」、そして瓶内二次発酵で造るシードルだ。
2025年ヴィンテージのシードルには「シードル 甘口 / Cidre Sweet」と「シードル ドライ スパークリング / Cidre Dry Sparkling」の2種類がラインナップ。
「224wineryでは瓶内二次発酵のワインとシードルを造る際に、澱(おり)引き作業である『デゴルジュマン』を手作業でしています。瓶内二次発酵を全部で4000本くらい造ってるので、だんだんと握力がなくなってきてしんどいですが、香りや味わいを大きく左右する大事な工程のため頑張っていますよ」。
400年以上の歴史を持つ小豆島の醤油は伝統的な木桶仕込み製法で、独特の風味と香りが特徴的。小豆島に新たに誕生した発酵文化を担う存在である224ワイナリーの、ワインとシードルと共に味わってみたい。

『224ワイナリーのこれから』
最後に、224ワイナリーの今後の取り組みと、志賀さんがワイン造りに込める思いについてお話いただいた。
224ワイナリーでは、自社ぶどうと買いぶどうをワイン原料として使用している。しかし、地元の人にも観光客にも、やはり島で育ったぶどうを使用して造ったワインの人気が高いため、今後は自社畑をさらに拡大して収量アップを目指していく予定だ。
「自社ぶどうで造ったワインには、塩味が感じられて美味しいという声をよくいただきます。畑は海沿いにあってまともに潮風が当たるため、ミネラル分が蓄積して潮の風味があるのでしょうね。お客様の期待に応えられるよう、さらに自社ぶどうを増やしていきたいと考えています」。
▶︎地道な活動で基盤を作る
志賀さんが今、重点的に実施している施策のひとつに、島の大型ホテルにテイスティングブースを設置することがあげられる。ロビーの目立つところに毎週ブースを出して試飲してもらい、購買に繋げていくためだ。島の出入り口である港でも、同様の取り組みを実施する予定である。
できるだけ広く存在をアピールするのはもちろんだが、志賀さんの方針は「まず地場での営業をきっちりと固めるのが基本」という点に集約できる。地域で生きていくには、地域での販売基盤を確実に構築し、地元の人に飲んでもらえるワインを造ることが何よりも重要だ。
「あちこちに手を広げすぎるのは絶対に駄目です。都市部に向けて販売したいと考えているワイナリーは多いのですが、それは地場で頑張ってからの話ですね。それができなければワイナリーは苦労しますよ、商売はそんな甘いもんじゃないんです」。
自身が企業を経営する中で、30年間にわたって紆余曲折しながら苦労をしてきた志賀さんの言葉には、ずっしりとした重みがある。
「うちの『SHIMA CHAM』は2年かけて小豆島に広がりました。今は次の段階として、香川県高松市や岡山県岡山市のホテルなどにも営業をかけて、ワインをおいてもらう仕掛け作りをしているところです」。

▶︎海底熟成ワインを「ふるさと納税」返礼品に
釣りが趣味だという志賀さんは、2025年に漁業組合に加入した。自前の漁船で漁に出て、獲った魚を販売するための資格を取得したのだ。島の気候が昔と変わってきたことを受けて、農業だけではなく漁業においても貢献したいと考えた。
「年間降水量が以前よりも増えていると感じていますし、昔はクーラーなしでも夏の夜をしのげましたが、今はクーラーがないと寝られないほどに暑くなりました。漁獲量も減ってきて、魚や貝が獲れにくくなっているため、島のホテルなどで提供している海産物も、地元産のものはほとんど見られなくなったほどです」。
そして、「一石二鳥、一石三鳥を狙う男」と自称する志賀さんが漁業組合に入ったのには、もうひとつの大きな理由がある。224ワイナリーのワインを「海底熟成」するためだ。島周辺の海域は町の漁業組合が管理しており、ワインを海底に沈めるには組合員の過半数の賛同を得る必要がある。自分が組合に入ることで、そのハードルを下げることができるというわけだ。
さらに、「瀬戸内の島で育ったぶどうのワインを瀬戸内海に沈める」という施策に取り組んだのは、224ワイナリーが初めてだというポイントをアピールして、自治体と対話を重ねた志賀さん。自社の海底熟成ワインを、土庄町の「ふるさと納税」返礼品にしてもらうことに成功した。
「みんなにメリットがある取り組みですよ。小豆島の特産品に、そうめんだけじゃなくてワインがあるって、なんかええでしょう。ワインを造って売るためには、仕組み作りをきちんとして結果を出すことが欠かせません。どんな業種でも、経営者は3年ごとに何か新しいことをやらなければ飽きられます。絶えず新しい施策を打ち出していかなければ、売り上げは落ちていきますよ」。
海底熟成ワインの他にも、みかんワインなども新商品としてリリースしている224ワイナリー。今後も次々と登場するであろうワインと取り組みに期待したい。

『まとめ』
数年かけて、小豆島内での存在を確固たるものに築いた224winery。島の外にも活躍の舞台を広げるべく、次なるステージに足を踏み出したところだ。
ワイナリーが生き残って成長していくためには、仲間を増やし、協力してくれるチームを作ることが大切だ。志賀さんが224ワイナリーの取り組みを通じて実現させたいことは、設立時から一貫している。島に新たな産業を興し、島外から訪れる人を増やして小豆島を盛り上げていくことである。
「島の人には224ワイナリーの存在がだいぶ浸透してきましたので、これからは水面に投下する石をどんどん大きくする段階ですね。それなりの味のワインをそれなりの本数造ると共に、『おもろい』ものを造っていくことも大事です。小豆島のぶどうでのワイン造りにはしっかりこだわりたいので、おもろくなりすぎないようにという加減が難しいところです」。
豊富なビジネスにおいて長年積み上げてきたノウハウを生かして、志賀さんは小豆島発のワインを消費者に届ける。224wineryは小豆島から世界に向けて、これからも波紋を広げていくことだろう。

基本情報
| 名称 | 224winery |
| 所在地 | 〒761-4114 香川県小豆郡土庄町甲3406-1 |
| アクセス | 土庄港から車で約6分 |
| HP | https://224winery.com/ |

