『これさとワイナリー』ぶどうの特性を最大限に引き出した、フルーティーなワイン

「くだもの王国」と呼ばれ、特に桃やぶどう果樹栽培が盛んな岡山県。今回紹介するワイナリーは、県の中南部に位置する赤磐(あかいわ)市でワインを造っている「これさとワイナリー」だ。1985年に創業し、2025年に40周年を迎えたところである。

ワイナリー名は、創業時に醸造場があった岡山県赤磐郡吉井町(当時)の「是里(これさと)」地区に由来している。古くからぶどう栽培が盛んだった地域で、地元のぶどう農家が中心となってワイン醸造をスタートさせたのだ。

創業時から続く企業理念は、「農家の方が大切に育てたぶどうの特性を最大限に引き出し、おいしいワインに仕上げる」こと。手間を惜しまず丁寧に醸造するのが、これさとワイナリーの特徴だ。

1995年には、赤磐市仁堀中にあるテーマパーク「おかやまフォレストパーク ドイツの森」内に醸造場を移転。ヨーロッパの街並みが再現された素敵な園内で、ワインの製造・販売をおこなっている。2023年からは、自社圃場でのぶどう栽培も開始した。

長い歴史があるだけでなく、新たな挑戦に果敢に取り組むこれさとワイナリー。創業から現在までのあゆみと、ぶどう栽培・ワイン醸造におけるこだわりについて、経営企画の高坂佑佳さんと醸造責任者の藤原幸樹さん、醸造担当の中島貴文さんにお話を伺った。さっそく紹介していきたい。

『これさとワイナリーの設立から現在まで』

まずは、これさとワイナリー設立のきっかけから振り返っていきたい。

これさとワイナリーが創業した40年前は、現在のように日本でのワイン造りが一般的ではなかった時代だ。なぜワインを造ることになったのだろうか。長年ワイン造りを継続してきた、これさとワイナリーの秘密を探ってみよう。

▶︎ワイナリー設立のきっかけ

ワイナリー設立のきっかけとなったのは、自分たちが育てているぶどうに付加価値をつけたいという、地元のぶどう農家たちの思いだった。

ぶどう農家たちが集まり、自治体の事業の一環として立ち上がったこれさとワイナリーは、2023年までは第三セクターとして運営してきた。ワイン原料として使用していたのは市内で栽培されたぶどうのみで、地元のぶどうを生かした特産ワインとして親しまれてきたという。

2023年には、「おかやまフォレストパーク ドイツの森」の運営会社である「株式会社ワールドインテック」が筆頭株主になり、ワイナリーを民営化。ぶどう農家の高齢化や日本で栽培されるぶどうの品種の変化などさまざまな要因から、市外で栽培された国産ぶどうの購入も始めた。

▶︎時代の変化に合わせてぶどう栽培もスタート

「40年前は、日本ではワイナリーはまだ珍しい存在でした。今はワイナリーが増えて、横のつながりも出来てきましたね。また、日本人のワインの好みも大きく変わってきたことを実感しています。民営化のタイミングからは、地元以外のぶどうも使用しています。そのため、味わいによりこだわりを持つようになりました。現代に合ったワイン造りをするべく、模索しているところです」。

2023年以降に醸造量が増たことも、これさとワイナリーにとっては大きな変化だった。地元以外のぶどうを使うことは、農家の高齢化問題などで、今後さらにワイン原料ぶどうの確保が難しくなることを見越しての対応でもある。

さらに、買いぶどうだけに頼らず原料確保することを目指して、2023年には自社栽培もスタート。「おかやまフォレストパーク ドイツの森」の園内に圃場を整備し、初めてのぶどう栽培に着手したところだ。

自然の恵みをワインという形にして人々の心を楽しませ、喜ばせることが使命だという先人たちの思いを引き継いで、これさとワイナリーはこれからも新たな取り組みに挑戦していく。

『これさとワイナリーのぶどう栽培』

続いては、これさとワイナリーのぶどう栽培にスポットを当てよう。生食用の果樹栽培が盛んな岡山県だが、ワイン専用品種の栽培はどのようにおこなっているのだろうか。

テーマパーク内に造成した圃場の特徴や、気候条件などについてもお話いただいたので、あわせて紹介していきたい。

▶︎栽培している品種

2023年、自社畑に植栽した品種は以下の通りだ。全部で1000株ほどを栽培している。

  • ゲヴュルツトラミネール
  • リースリング
  • シャルドネ
  • メルロー
  • マスカット・ベーリーA
  • マスカット・オブ・アレキサンドリア

それぞれの品種を選定した理由を見ていこう。まず、リースリングは、ドイツのライン川流域原産の白ワイン用品種のため、「おかやまフォレストパーク ドイツの森」というテーマパークのコンセプトにもぴったりだ。さらに、以前ワイナリーがあった是里地区で30年ほど前から栽培してきた実績もあるため、これさとワイナリーのスタッフにとっては思い入れの強い品種である。

ゲヴェルツトラミネールとシャルドネ、メルローは、新たな挑戦として選択した品種だ。これまで醸造したことがなかったため、自社畑で育った3品種を醸造するのが非常に楽しみだという。

また、マスカット・ベーリーAは、かつて岡山県内での生産量が多かった品種だが、だんだんと人気が下火になってきたという。新たに登場した品種であるピオーネに改植する農家が多かったのだ。現在は県外産のマスカット・ベーリーAを使用しているが、収穫できるようになれば、再度、岡山のマスカット・ベーリーAならではの味わいを持つワインができるだろう。

最後に、「果物の女王」と称されるマスカット・オブ・アレキサンドリアは、岡山の特産品として長い歴史を持つ。生食用品種だが、マスカット・オブ・アレキサンドリアを醸造用に使用している岡山のワイナリーもいくつかある。本来の産地は県南部が中心だが、温暖化の影響で赤磐市での栽培が可能になることも考えられるため、実験的な意味合いで栽培を始めた。

▶︎自社畑の特徴

これさとワイナリーの自社畑は、全て垣根栽培だ。畑は傾斜地にあり、標高は200~250ⅿほど。土壌は花崗岩が風化してできた砂状の真砂土がメインだが、日当たりは西日がちで水はけがよくないため、土壌改良が必要だ。そのため、少しずつ手を加えて改善しているところだという。

ぶどう栽培が盛んな土地柄とはいえ、周囲の農家はいずれも棚栽培のため、垣根栽培については知恵を借りることができない。そこで、2023年からコンサルタントに入ってもらい、指導と助言を得ながら栽培に取り組んでいる。

「醸造用のぶどうを栽培するというミッションは、私たちにとって初めての試みです。これまでは栽培のプロフェッショナルである農家さんからぶどうを購入してワインを造ってきましたが、自社畑のぶどうは自分たちで試行錯誤して作らなければなりません。こだわりを持ってぶどうを栽培し、ストーリー性のあるワインを生み出してお披露目したいと思っています」。

圃場の造成では、垣根を作るための杭を打つ作業に苦労したそうだ。栽培管理も手作業でおこなう工程が多いため大変なことも多いというが、労力を惜しまず丁寧な栽培を心がけている。

▶︎「晴れの国おかやま」でのぶどう栽培

岡山県は、キャッチフレーズである「晴れの国おかやま」のとおり、降水量1mm未満の日が年間276.7日で全国第1位。晴れの日が多いのが特徴だ。だが、近年の気候変動の影響なのか、2023年頃から不安定な気候が目立つようになってきたという。

「局地的な大雨や収穫期の長雨などで、ぶどうの生育に影響が出てしまうこともありました。雨が止まず、収穫を早める判断も必要でしたね」。

自社畑のぶどうだけではなく、これさとワイナリーを支えてきた地元の契約農家たちも、天候の変化に苦労しているようだ。

ちなみに、岡山の伝統的な品種として名高いマスカット・オブ・アレキサンドリアは、雨を避けるためにガラス温室で栽培するのが一般的だ。これさとワイナリーの自社畑のマスカット・オブ・アレキサンドリアは露地栽培だが、樹が成長する頃にはガラス温室の設置を検討している。生食用品種をワイン用として育てるには工夫が必要だが、これさとワイナリーではどんな味わいのマスカット・オブ・アレキサンドリアが育つのか楽しみだ。

『これさとワイナリーのワイン醸造』

40年間ワインを造り続けてきたこれさとワイナリーでは、どのような点にこだわってワイン醸造をおこなっているのだろうか。

これさとワイナリーでは、是里地区の契約農家が栽培したぶどうも、これまでと同様に大切に醸造。さらに、県外で収穫されたぶどうを使ったワイン醸造にも力を入れる。料理に合うワインやデザート感覚で味わえる飲みやすいワインもあるため、普段飲まない人にも飲んで欲しいという。

▶︎醸造におけるこだわり

これさとワイナリーの醸造場内には、大型のステンレスタンクが並ぶ。大切に育てられたぶどうの特性を最大限に引き出して美味しいワインにするため、手間暇を惜しまず醸造している。

醸造工程において、注意を払っていることがいくつかある。健全果のみを使用することと、発酵管理を徹底することである。傷みのある部分は醸造前にしっかりと取り除き、仕込みの際には温度や比重などを計測して発酵管理をする。基本に忠実で丁寧な管理が、美味しいワインを造るのだ。

「長年、買いぶどうでワインを造ってきたワイナリーだからこそ、購入するぶどうには必ず農家の思いや苦労があることをよく知っています。日本一、農家との心の距離が近いワイナリーであると自信を持って、これからもぶどう農家と手を取り合って歩みを続けていくつもりです」。

農家が大切に育てたぶどうの状態に合わせて自分たちができる工夫をし、美味しいワインを世の中に返していくことが、これさとワイナリーのあるべき姿なのだ。

▶︎華やかな香りの「キャンベル・赤」

リリース済みのラインナップから、特におすすめの銘柄についていくつか紹介いただいた。まず「キャンベル・赤」は、是里地区の農家が栽培したキャンベル・アーリーを使ったワインだ。標高350ⅿほどの是里地区は、ぶどう畑の先に雲海が広がる美しい場所である。

「キャンベル・赤」は、キャンベル・アーリーらしい華やかで甘いキャンディ香が特徴。だが香りの印象とは異なり、味わいは酸味があってさっぱりとして、白ワインのようにすっきりと飲める。キャンベル・アーリーの豊かな香りを逃さないために低温発酵を実施。創業時から続く唯一の銘柄のため、伝統の味を守って大切に造り続けているそうだ。

「キャンベル・アーリーはソース味の料理によく合います。岡山のご当地グルメとして人気の『ソースカツ丼』や『えびめし』と一緒に味わっていただくのがおすすめですよ」。

「キャンベル・赤」のエチケットに「TSUCHINARO(ツチナロ)」と書かれていることに気付いたかもしれない。実は、赤磐市(当時は吉井町)では未確認生物ツチノコが目撃されたと話題になったことがある。そこで、ツチノコ伝説にあやかって「ツチノコのようになろう」という願いを込めたのだという。

▶︎桃をまるかじりしたような「清水白桃・白」

「清水白桃・白」は、岡山の名産品である高級品種の「清水白桃」を使用したワインだ。「桃の女王」と呼ばれる「清水白桃」は、甘く芳醇な香りと味、とろけるような果肉が特徴。

「これさとワイナリーで造っているのはリキュールではなく、桃を発酵させたワインです。桃をそのまま丸かじりしたようなフレッシュな味わいが感じられるワインを目指しています。ワインを口に含んだときには桃の優しい甘さが広がり、後味には、まさに桃を食べた後のような苦みや渋みも感じますよ」。

贈答用の場合、ひと玉数千円もする高級品種の「清水白桃」だが、これさとワイナリーのある赤磐市は桃農家が多いため、原料となる桃を手に入れやすいという。桃の果汁のような色味でほのかな果実の甘さが感じられ、すっきりと飲みやすい味わいに仕上がっている。

「清水白桃・白」を飲むおすすめのタイミングは、アフタヌーンティーだという。

「スイーツと一緒に、アフタヌーンティーに『清水白桃・白』を楽しんでいただきたいですね。贅沢な午後のひと時を過ごしてください」。

▶︎食事によく合う「ベーリーA・赤」「甲州・白」

続いては、国内産の甲州を使った「甲州・白」を紹介しよう。2023年に初めて醸造し、2024年2月にリリースした。しっかりした酸味があって味わいのバランスがよく、魚介類をはじめとした和食によく合う。

「リースリング以外の初めての辛口ワインです。キリっとした酸味が心地よく飲みやすいですよ」。

また、マスカット・ベーリーAを使用した「ベーリーA・赤」は、「甲州・白」と共に「食事に合うワイン」がコンセプト。食卓に並べたときに映えるエチケットが目印だ。「ベーリーA・赤」「甲州・白」は、いずれも魚介や加工肉との相性もよいので、赤ワイン・白ワインという枠にとらわれず楽しんでみたい。

▶︎「フォレストパーク ドイツの森」の楽しみ方

「フォレストパーク ドイツの森」には、ワイナリーを訪れる他にもさまざまな楽しみ方がある。

まず、自家製ソーセージやクラフトビール、石窯で焼いたピザやパンなど、美味しいグルメが満喫できる。園内を歩けば、咲き誇る季節ごとの花に癒されるだろう。また、冬季のイルミネーションなどイベントも満載だ。

さらに、アルパカやカンガルーなどの動物と触れ合うことができ、体を動かして遊べるアトラクションもある。

園内ではこれさとワイナリーのワインを使ったソフトクリームの販売も実施。季節限定なので、ぜひ食べることができる時期に足を運びたい。

以前はボジョレー・ヌーヴォーの時期に「キャンベル・ロゼ」の新酒リリースをお祝いするイベントを開催していたが、コロナ禍以降は中止している。2025年以降はイベント復活もしていきたいということなので、実施を心待ちにしたい。

「フォレストパーク ドイツの森」のイベント情報や、これさとワイナリーが出店するワイン関連のイベント情報はSNSで確認できるので、ぜひチェックしてみよう。

『まとめ』

これさとワイナリーのワインは、「 “SAKURA” Japan Women’s Wine Awards 2025」において受賞の快挙を果たした。銘柄は「ピオーネ・ロゼ」で、ダブルゴールド賞、コストパフォーマンス賞、ロゼワイン賞を受賞。醸造スタッフをはじめとするワイナリーのメンバーたちにとって、非常に嬉しい結果となった。

「これさとワイナリーは岡山県にある小さなワイナリーですが、40年生き残り続けているということは、やはり私たちのワインに魅力があるからだと自負しています。まだ飲んだことがない方は、ぜひ一度飲んで感想を聞かせてください。皆様の声を励みに、これからもより美味しいワインを造っていきたいと考えています」。

「フォレストパーク ドイツの森』ではビールだけでなくワインも造っているのかと驚かれることもある、これさとワイナリー。これまでワインに触れる機会がなかった人でも、「フォレストパーク ドイツの森」にきたお客様が足を運んでくれることも多い。試飲をしたら美味しくて気に入ったので購入するという客層も多いのだとか。

これさとワイナリーへの訪問が、ワインの美味しさに気付くきっかけになればと考えているそうだ。軽めの飲み口で、気軽に飲める銘柄がそろうこれさとワイナリーのワイン。どんな場所で造られたワインなのか知りたいと思ったら、ぜひワイナリーまで直接足を運んでみたいものだ。

基本情報

名称これさとワイナリー
所在地〒701-2435
岡山県赤磐市仁堀中1356-1
「フォレストパーク ドイツの森」内
アクセスhttps://koresato-wine.jp/access/
HPhttps://koresato-wine.jp/

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