【Terroir.media運営企業】『Henry Monitor(ヘンリーモニター)』磁界式センサーで土壌分析を身近な存在に

今回は、ワイナリー紹介専門Webメディア「Terroir.media(テロワール・ドット・メディア)」を運営する「株式会社 Henry Monitor(ヘンリーモニター)」について紹介したい。

Henry Monitorは、長野県諏訪市で精密機械部品の製造を手がける「株式会社 小松精機工作所」からカーブアウトした企業だ。「目に見えないものを、センサーとAIを活用して見えるようにする」というミッションを掲げ、磁気の状態を検知することでさまざまな情報を取得できる「磁界式センサー」の開発に特化して歩みを進めてきた。

企業活動をおこなう中で多くのワイナリーと繋がり、日本のワイナリーおよび日本ワインのすばらしさを知ったHenry Monitorは、日本のワイナリーの魅力を伝えたいという思いから、2020年12月に「Terroir.media」を創刊。2025年現在までに220社以上のワイナリーへのインタビューを実施し、紹介記事を制作してきた。

小松精機工作所の専務取締役、研究開発部部長であり、Henry MonitorのCEOを務める小松隆史に、Henry Monitorの設立の経緯とこれまでの歩みについてインタビューした。

土壌センサー開発の裏側と日本ワインへの思い、2025年4月にリリースする製品情報についても深掘りしたので、ぜひ最後までお読みいただきたい。

『Henry Monitor 設立までの経緯』

まずは、土壌分析センサーの開発をすることになったきっかけと、Henry Monitor設立までの経緯を紹介したい。

金属の塑性加工、精密加工分野にて博士号(工学)を取得した小松は、小松精機工作所で金属材料の研究を続けていた。金属材料を判別するためのセンサー開発を手がけていたという。

▶︎非破壊検査用センサーの開発からスタート

「金属部品を製造するうえでは、材料の品質検査が必要です。金属の結晶中にある原子の流れや向きの違いを見るなど、細かな分析をするためです。しかし、既存の金属検査の方法にはさまざまな課題があったため、センサーを使った新しい検査方法の開発に注目していました」。

従来の金属製品の品質検査は「破壊検査」と呼ばれ、製品の一部を切断した断面を見て、品質の善し悪しを評価する。破壊検査は製造業界で広く導入されている手法ではあるが、検査の正確性やコスト、所要時間など多くの面で改善が必要な点があるのも事実だ。

まず、全品検査ではないため、経験則的にはOKでも本当に全ての品質ががよいかどうかは正確にわからないという点が、破壊検査のデメリットだ。また、1検査あたり8〜12万円程度の費用と、8〜10時間程度の所用時間が必要となる。検査のため、研究機関で徹夜となったこともあったという。

そこで小松が破壊検査に代替する方法として検討したのが、より短時間で安価に全品検査ができる、センサーを使った「非破壊検査」だった。この研究が、後にHenry Monitorの設立と、土壌分析用センサーの開発に繋がるのである。

「まずは、すでに製品化されていた他社のセンサーを取り寄せて使用感を試しました。9製品ほどを比べましたが、私が考えていた非破壊検査への使用に耐えられる機能を実装した製品はありませんでした」。

他社製品が実用的ではないと感じた理由は、主にふたつあった。機械のサイズと検査効率だ。まず、当時製品化されていたセンサーはいずれも大型で、センサーを使用する現場で気軽に扱えるサイズ感ではなかった。また、検査効率にも課題があった。複数の周波数で金属のチェックをしなくてはならず、一度に確認できるのはひとつの周波数のみだった。

「当時発売済みだった製品は、手動で周波数を変更して異なる周波数を検査する仕様でした。周波数を切り替えながら計測するのは、非常に地道な作業です。分析に必要なデータを全て集めるためには、数週間ぶっ通しで作業をしなければならないほどでしたね。実際に金属検査の現場で使用するためには多くの点で改善が必要だと感じました」。

▶︎小型化・効率化の実現と、Henry Monitor設立

そこで小松は、センサーの小型化と検査効率化の2点に改善項目を絞って製品開発をスタートすることにした。自治体からの補助金制度を活用しながら研究開発を進めていたある日、センサーを貸し出して欲しいという依頼を受けたのだ。

「補助金制度の審査員を担当されていた信州大学農学部の教授から、『開発中のセンサーを土壌分析に使ってみたい』と連絡をいただきました。土壌分析は、想定していた用途とは異なると思いながらお貸ししたのですが、意外にも、土壌分析に使用可能だというお返事をいただいたのです」。

もともと金属の分析のために開発していたセンサーに、新たな可能性が生まれた瞬間だった。そして、土壌分析について調べるうち、小松は土壌が持つ面白さに惹かれていったのだ。

調査を進めると、金属の場合と同様、土壌分析の分野においても従来型の分析方法はコストと時間がかかるのが現状だった。小型化・効率化を実現したセンサーには、土壌分析の分野でも大きな需要があったのだ。開発を進めていたセンサーはすでに販売実績があったため、ビジネスとしての勝算も充分あり、本格的に土壌分析センサーの開発に取り組むことに決めた小松は、新事業を小松精機工作所からカーブアウトすることにした。

「土壌分析センサーの開発に特化したメンバーを集めて新会社を設立することで、より効果的に新事業を推進できると考えました」。

こうして、2020年6月1日にHenry Monitorが産声を上げた。

「杖型センサー」長い棒の先端に付いたセンサーを土に当てると15秒ほどで測定できる

『Henry Monitor 磁界式センサー開発に成功』

Henry Monitorが土壌センサー開発の中心課題として据えたのは、土壌の保肥力を示す値で「土の胃袋」とも呼ばれる「CEC」だ。また、「カリウム」「マグネシウム」など複数の成分値を、自動的に周波数を変えて取得することも重視。いずれも、既存の製品では測定に時間がかかる項目だった。

求める品質を備えた製品の開発は順調に進んだ。だが、小型化する段階に入った頃に、予想もしなかった危機が突如訪れた。新型コロナウイルスの流行による「半導体不足」だ。製品に使用する半導体をメーカーに発注したところ、納期はなんと2年後になるということだった。

小型化したプロトタイプには特殊な演算回路を使用しているため、「FPGA」という半導体の使用が欠かせない。せっかく順調に推移していた開発を止めるわけにはいかないと考えた小松は、半導体の確保に奔走した。雑誌の付録から入手するなどあらゆる手段を使い、ようやく4台のプロトタイプを作ることに成功したのだ。

テストができる段階までどうにかこぎつけ、土壌のデータをセンサーで計測してAI学習させるフェーズに入ることができた。さまざまな圃場の土壌データを集めて、相関情報のマップ制作を実施していったのだ。

自社で収集・分析したデータと、信州大学の教授が保有していた測定済みデータを比較したところ、80〜90%と精度が高い判定を叩き出せていることがわかった。実験を繰り返してデータを蓄積することで、より高い精度の数値を取得できるようになることもわかっていた。

杖型センサーで計測する様子

▶︎圃場で手軽に使える「杖型センサー」

Henry Monitorが数年かけて開発を進めてきた土壌センサーは、2025年4月にデモ機のリリースを迎えた。ここで、製品化した2種類の土壌センサーについて詳しく紹介したい。持ち運びに優れた「杖型センサー」と、より精度が高い「固定式センサー」である。

まず杖型センサーは、長い棒の先端に付いたセンサーを土に当てることで瞬時に数値を取得できる。計測を思い立ったらすぐに使える、取り回しのよさが強みだ。

「自社で保有している畑で使用して、実証実験を重ねました。圃場の気になる箇所のみのチェックにも使えますし、広範囲な土壌マップを作るのにも活用できます。杖型センサーで圃場を等間隔に計測すると、どの場所にどんな成分が集中しているかなど、スポット単位で土壌の状態を見える化できるように、さらに改善しています」。

従来方式の土壌分析においては、採取した土を研究施設などに持ち帰って装置にかけて成分を測定するのが一般的だった。だが、四隅と真ん中の土を採取して全部混ぜてから検査するため、あたかも圃場全体の成分が均一な成分であるような扱いになってしまう。そのため、圃場内の特定のエリアの特徴までは把握できなかったのだ。

また、杖型センサーで1回の測定に要する時間は、ほんの15秒ほど。従来方式の土壌検査とは比較にならないほどスピーディだ。一般的な方法でCEC値を測る場合、数か所だけでも1週間単位の検査期間を要していた。広大な圃場を複数有している場合、全ての畑を細かく検査するとなると、計測だけで年単位の時間がかかってしまうこともあるだろう。

「ぶどう栽培においては、品種ごとに最適な土壌成分の値があります。しかし、測定には時間も費用もかかるため、自社畑の土壌成分を詳しく把握しているワイナリーさんは少なかったのが現状です」。

これまでは土壌の状態を即時に把握することが困難だったが、Henry Monitorが開発した杖型センサーがあれば利便性が格段にアップする。畑全体の土壌マップを作ったり、ぶどうの調子が悪い部分の土壌をピンポイントで調査したりと、柔軟な使い方ができるのだ。

さらに、土壌マップを年に数回更新することは、新しい品種を導入する際の判断に役立ち、農業の効率化やリスクの回避に役立てることも可能だ。

圃場を歩きながら、50cm間隔でトントンと土の表面において計測するだけで、土壌の磁界データが取得できる杖型センサー。AI学習して蓄積した土壌のデータと比較することで、CECの値やカリウム、マグネシウムなど特定の成分がどのくらい含まれているかを算出できるのだ。

「Henry Monitorのセンサーは、従来方式よりも格段に早くデータが取得できるため、『瞬時に計測できる』と言って差し支えないレベルだと思います。2025年4月にデモ機として使い始める杖型センサーには、CECと、マグネシウム、カルシウム、カリウムの4つの成分測定ができる機能を搭載します」。

まずは、不足分を施肥で補うことが多い主な4要素に特化した測定を実現することで、農業に役立つ数値の取得を目指す。現時点では、測定終了後には座標データとマッチさせて編集、土壌マップを作成するが、将来的にはデータ生成の自動化も実装していく予定だ。

製品化した杖型センサーは重さ1.4kg。CEC・マグネシウム・カルシウム・カリウムの測定が可能

▶︎精密測定が可能な「固定式センサー」

続いて、もうひとつの製品である「固定式センサー」についても見ていこう。固定式センサーは従来の土壌分析と同じく、畑で採取した土をラボに持ち帰って分析する際に使用するタイプの「据え置き型センサー」である。屋外でのセンサー使用は湿気やほこりなどの要因から影響を受けることもあるが、屋内は環境が安定しているため、より正確な測定が可能だ。

Henry Monitorの固定式センサーは、検査方法こそ従来式の装置と似通っているが、杖型と同様に、測定スピードが非常に早いという特徴がある。1サンプルの測定に要する時間は15秒程だ。

「土壌分析サービスを提供してる企業さんに弊社のセンサーを導入いただければ、大きなメリットを感じていただけるでしょう。これまでだと1週間ほどかかっていた検査が、たった15秒で終わるのです」。

手軽でスピーディーに土壌分析ができるHenry Monitorの土壌センサー。導入メリットとしては、これまでよりも頻繁に測定ができることと、リアルタイムでの対策ができることが挙げられる。病気の兆候を感じた段階で、土壌に問題があることが即座に分かれば、必要な資材を土壌に加えることが可能となるだろう。

一例を挙げると、ぶどう畑の土壌にマグネシウムが不足すると、葉が落ちやすくなる傾向が発生する。畑に異変を感じた際にすぐ土壌分析をおこなってマグネシウム欠乏が判明すれば、即日施肥をすることも可能だ。必要な情報を瞬時に取得できるメリットは、これからの農業にとってかかせない存在となるに違いない。

「固定式センサー」屋内は環境が安定しているため、より正確な測定結果が得られる

『土壌センサーで日本ワインを支えたい』

土壌センサーの製品化に成功したHenry Monitorだが、数ある農作物の中で、ワイン用ぶどう栽培と日本ワインに注目したのはなぜだろうか。

土壌センサーで日本ワインを支えることをHenry Monitorが決意した理由と、ワイン原料用ぶどうの栽培における土壌分析センサーの可能性に迫りたい。

▶︎「ワイン」×「土壌分析」の可能性

Henry Monitorが開発した磁界式センサーは、幅広い用途での利用が可能だ。中でも、土地の魅力である「テロワール」を映し出すことを重視するワイン用ぶどう栽培においては、大いに役立つに違いない。ワイン造りにおいて、ぶどうが育つ土壌を知ることは不可欠であるからだ。

ワイン造りをする上で重視される「テロワール」の概念は、気候風土や土壌の微細な違いがワインそのものに強く影響するという考え方だ。たとえ同じ品種でも、ぶどうが育つ土壌や環境が違えば、ワインの味わいは全く別ものになる。

「日本ワインに着目したきっかけは、土の性質によって仕上がりが変化するワイン造りにおいて、土壌分析用のセンサーが必要とされる場面が多いのではないかと想定したからです。そこで、ワイナリーの方にご意見をいただくことにしました」。

長野県内の大手ワイナリー数社にヒアリングを進める中で、さまざまな学びと気付きがあったという。土壌とぶどう品種には相性があることや、実際に育ててみなければ土地に合った品種かどうかが判断できないことなど、製品開発や活用方法の糸口となるポイントについても知ることができた。

「土壌の性質を把握しない状態で栽培をスタートさせると、うまく育たないことがあるでしょう。その場合には、植栽前に土壌分析を実施し、気象データなどと共に複合的に分析することで、適性品種の選定が可能となります。また、土地に合う品種があらかじめわかっていれば、試験栽培をおこなう必要はなく、手間とコストの大幅な削減に繋がります」。

ワイナリー関係者の意見を聞くことで、ぶどう栽培における土壌分析の重要性を実感したHenry Monitor。ぶどう栽培に土壌分析を浸透させることで、日本ワインをよりよいものにできると確信を強めたのだ。

さらに、ぶどう栽培とワイン醸造について耳を傾け、小松は深い感銘を受けた。これが、土壌センサーの開発とは別のベクトルでも、日本ワインの力になれないかと考えたきっかけだった。そして、日本ワインとワイナリーの魅力を広く紹介していくためのツールとして、Webメディア「Terroir.media(テロワールドットメディア)」をスタートさせたのだ。

「ワイナリーさんから聞いた話はどれも興味深く、私たちだけが聞いておくにはもったいないほどの魅力にあふれていました。もっと多くの人に日本ワインの素晴らしさを知ってほしいと考えたのです。そして将来的に、我々に土壌分析の依頼が来ればよいと考えていました」。

▶︎気軽に土壌分析できる環境を

Henry Monitorでは、多数のワイナリーと連携して、土壌分析のテストとデータ収集を進めている。土壌とぶどう栽培の関連性がより紐づいていけば、今後の栽培に生かせるデータ量が増えていくだろう。

「集まったデータをどのように活用するかは、ワイナリーごとにさまざまです。土壌改良や栽培管理の工夫に役立てることもできるでしょう。土壌の特性をより深く知ることで、ぶどう栽培におけるマイナス要因や、トラブルの原因の特定がしやすくなります。また、土壌による味わいの違いを表現する際にもデータを活用できます」。

土壌の性質は、土地の歴史や人の活動の歴史が反映されている。過去にどんな地形だったか、どんな気候の変化や災害があったか、どんな肥料が使われてきたか。土壌の歴史で、成分の数値や微生物の分布など、多くのパラメーターが変化するのだ。

土壌の性質は栽培中も絶えず変化する。土壌分析は「一度やって終わり」ではなく、「節目節目にこまめにおこなう」ことでより栽培管理に役立つだろう。

「ワイナリー関係者の皆さんやぶどう農家さんも、こまめな分析が必要なことはよくわかっていらっしゃいます。しかし、検査には時間とコストがかかりすぎるため、これまでは土壌分析の実施を諦めざるを得ませんでした。Henry Monitorが開発した技術を利用いただくことで、手軽に何度でも土壌の測定ができ、諦める必要がなくなります。もちろん、土壌センサーを使って収集したデータを、ワイン造りやブランド構築の戦略として活用いただくこともできますよ」。

『Henry Monitor 製品とサービスの紹介』

最後に、ワイナリー向けのサービス開始に向けたHenry Monitorの具体的な動きを紹介しよう。

Henry Monitorの強みである「ワイン生産者の悩みに深く寄り添えること」を生かし、今後展開していくサービスの詳細を具体的にお知らせしたい。

▶︎2025年4月に提供開始

Henry Monitorでは、2025年4月に、固定式センサーの販売および測定受託サービスを開始する。

固定式センサーの販売価格は425万円。一方、Henry Monitorのラボにて土壌分析を代行するサービスは、1サンプルあたり2,000円という手頃な価格で利用できる。10サンプルから依頼が可能で、自社畑で採取した土のサンプルをHenry Monitor宛に送付するだけだ。

2025年4月にスタートする際のサービス対象範囲は、これまでの共同研究先や、長野県と隣県に圃場を有するワイナリーや農家である。今後、他の地域の土壌データについてもさらにAI学習を進めて分析の正確性を確保し、提供範囲を順次拡大していく予定だ。

「長野のJAさんや近隣農家さんと連携してテストを重ねてきたので、すでに長野県の土は高精度で分析できています。遠い地域に関してはまだデータ収集の段階ですが、データ提供に協力いただけるワイナリーさんや栽培農家さんが徐々に増えているので、今後も継続してデータ収集を進めて、将来的には全国から受け入れができる体制を構築していきます」。

なお、杖型センサーは現在も引き続き基本データの収集段階のため、測定テストの実施後に月額レンタルなどの形でサービス提供を進めていくことを想定している。

採取した土壌サンプル

▶︎土壌コンサルティングサービスも開始

ワイナリーに寄り添うサービスを提供していくHenry Monitor。全国のワイナリー関係者に向けて、小松は次のように語った。

「これまで、土壌分析は高額で時間がかかる施策でした。一度だけ実施しても効果が期待できないからと、分析を見送っていたケースもあるでしょう。Henry Monitorの磁界式センサー技術は、これまでさまざまな原因から導入を諦めていた方にもぜひご活用いただきたいと考えています。ちょっとした困りごとでも構いませんので、ぜひお聞かせいただき、土壌の悩みを解決していくお手伝いができれば嬉しいですね」。

Henry Monitorでは、土壌センサーの販売と並行して、土壌コンサルティングサービスも開始する。例えば、除染が必要とされる土壌など、すぐに土壌分析が困難な場合にも、地域の補助金の活用方法や、土壌の基礎データ作成方法をアドバイスする。土壌分析が導入できる環境を整えるところからトータルサポートしていく。

「ぶどう栽培やワイン造りに関して、問題が土壌に起因するかどうかの見極めから、一緒に取り組んでいきたいと考えています。土壌が原因ではない場合には連携先をご紹介しますので、誰に相談してよいかわからないことでも、何かあれば気軽にメールでご相談ください」。

さらに、ワイナリーのコンサルティングビジネスに携わる人や、ワイナリーの指導をおこなっている人とタッグを組み、新たな事業モデルを構築していく予定だ。

土壌センサーで取得したデータは、気象データなどと連携させることも可能である。畑を取り巻くさまざまな要素を複合的に見ていくことで、土壌への理解はさらに深まるだろう。もちろん、土が原因ではない問題の時にも、複数の要因を確認することで解決につながる可能性が高くなる。

「農業コンサルタントや栽培指導をされている方たちなどは、植物の生育の様子などに詳しいため、Henry Monitorが取得した土壌データをより一層活用いただけるはずです。ぜひ多くの方とタイアップしていきたいですね」。

ワイナリーでの土壌採取風景。土壌コンサルティングサービスも開始し、土壌分析をトータルサポートする

▶︎Henry Monitorの目標と強み

Henry Monitorが目指すのは、ワイン造りに携わるすべての人にとって、土壌分析がもっと身近な存在になることだ。よいぶどうを栽培するためには、まず自社畑がどんな土壌なのかを知ることが欠かせない。

かつて、土地の管理を先代から引き継ぐ際には、土地の特徴や管理方法もあわせて受け継いだものだった。だが、今後の日本ではさらに人口減少が進み、農業技術を伝承していくことがより難しくなるだろう。

また、いったん耕作放棄地になると、土地に合う管理方法は失われてしまう。そんな時代にこそ、失われてしまった部分を技術がサポートして対策を取っていくことが重要となるのだ。

さらに、継続的に管理してきた土地においても、気候変動によってこれまでの経験則が生かせなくなることも増えるだろう。Henry Monitorが開発した新たな土壌センサーは、そんな時にこそ役立つ技術だ。農業をより効率的に成功に導くことができれば、ワイン造りに関わる人たちからストレスと不安を払拭することが可能となる。

「低コストで素早く土壌の状態を把握できるサービスを提供するのが、Henry Monitorの強みです。土は生命の源であり、人間にとっても植物にとっても非常に重要な要素です。土壌はものづくりの土台で、より詳しく知るべき存在なのです」。

社名である「Henry Monitor」の由来について小松に尋ねると、「電磁気の研究をおこなったアメリカの物理学者Joseph Henryが由来です。Henryはコイルに電流を流した際に発生する磁界と、別のコイルへの影響についての研究を発表しました。Henryの研究の応用から得られる信号を、我々が『モニタリングしている様子』を社名に込めたのです」とのこと。Joseph Henryは自制心が強く、穏やかでユーモラスな人柄だったそうだ。Henryの研究と精神を受け継ぎ、Henry Monitorは時代に合った農業技術を展開していく。

『まとめ』

金属用センサーの研究から始まって、土壌測定用センサーの開発・製品化に至ったHenry Monitor。日本のワイナリーの熱意と土壌測定の可能性に魅せられ、土壌センサーの普及と機能向上のために企業活動を続けてきた。全てのワイナリーが気軽に土壌測定できる環境を創造することこそが、Henry Monitorの使命だ。

また、Henry Monitorが運営するWebメディア「Terroir.media」では、日本全国のワイナリーを紹介する記事を通して、土とワインの繋がりを感じてもらうことを目指す。ワイナリーの取り組みと姿勢を知ることで、日本ワインにより興味を持って欲しいと考えているのだ。ぶどうが育つ土壌の特徴や魅力に触れることで、日本ワインの楽しみ方が増えるに違いない。

インタビューの最後に、Henry Monitorの長期的な目標を尋ねてみた。

「Henry Monitorが開発した土壌センサーが広まれば、世界中の土壌マップが作成できて、食料問題の解決などにも役立てられるはずです。まずは、日本全国の土壌マップ作成を目標に進んでいきます」。

世界のどこにおいても、許可なく土や砂を移動することは許可されていない。そのため、持ち運び可能なデバイスを使用して、現地で手軽に土壌分析ができる技術には大きなニーズがある。杖型デバイスが多くの国と地域に広まれば、食糧生産の安定化と効率化などにも貢献できるだろう。

さらに、世界中の土壌マップに留まらず、月面や火星の土壌マップにも技術を活用できたらと目を輝かせる小松の夢は、どこまでも果てしなく広がる。Henry Monitorの今後の取り組みにも、ぜひ引き続き注目していただきたい。

ナパ・ヴァレーの有名ワイナリーの土壌 。グローバル展開も視野に入れ、海外のワイナリーの土壌も視察

土壌についてのご質問や、Henry Monitorへのご意見・ご質問がありましたら下記連絡先へお願いいたします。
連絡先メールアドレス:info@henrymonitor.com


基本情報

名称株式会社 Henry Monitor
所在地【本社所在地】
〒392-0012 長野県諏訪市四賀桑原942-2
【ラボ所在地】
〒392-0012 長野県諏訪市四賀2333-1 K-Lab内
アクセス【本社】
https://maps.app.goo.gl/4sVGMkhuZKycVVJc7
【ラボ】
https://maps.app.goo.gl/32PEqNmjzHzTRLqR7
HPhttps://henrymonitor.com/

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