北海道札幌市中央区にある「LIBERA WINE TERACE(リベラ ワイン テラス)」は、ワイン造りと障がい者福祉を両輪に据えた都市型ワイナリーだ。
肥料や農薬に頼らない「自然栽培」でぶどうを育て、自社の畑から採取したオリジナル酵母で醸す。土そのものの力と、栽培・醸造に関わるすべての人の営みを大切にしながら、ワインを世に送り出している。
今回は代表取締役の平澤真理奈さんに、2024~2025年のぶどう栽培の様子から、初めての取り組みだったペティアンの醸造、2026年8月から全国流通が始まった新ブランドについてなど、様々なお話を伺うことができた。
温暖化という現実に向き合いながら、自然と人の力を信じて前へ進むLIBERA WINE TERACEの「今」に迫っていきたい。
『LIBERA WINE TERACE 2024~2025年のぶどう栽培』
最初のテーマは、LIBERA WINE TERACEが直面した直近2年間のぶどう栽培について。
幸いにも大きな災害には見舞われなかったが、温暖化の影響は思わぬ形で畑に忍び寄っていた。平澤さんの言葉から、北海道のぶどう栽培のリアルな現在地を掘り下げる。
▶︎温暖化がもたらす新たな試練「鳥害」
2024年と2025年の2年間を振り返ると、大きな台風や災害に見舞われることはなく、気象災害という面では比較的穏やかなシーズンであったという。
しかし、一見すると平和に思える状況の裏では、これまで経験のなかった「鳥害」に悩まされていた。
「温暖化に伴って、鳥害が増えてきました。今まで全く対策をしていなかったため、鳥用のネットを用意するのも間に合わず、ナイアガラなどが被害にあってしまいました」。
犯人はムクドリやヒヨドリだ。自社圃場だけでなく、近隣の農家も軒並みやられてしまったという。「鳥が来たと思っていたら、3日ほどで全部食べられてしまいました」と、平澤さんは悔しさを滲ませる。
畑全体を守れる巨大ネットが設置できればよいが、資金の問題や人員不足という現実的な課題もある。より効率的に畑全体を守る方法はないだろうかと、知恵を絞っているところだ。
▶︎「猛暑日」を記録する北海道の夏 変化する労働環境
温暖化は、作物だけでなく働く人々の環境にも影響を及ぼしている。冷涼なイメージのある北海道でも、夏の気温が36度に達する日が増えてきた。
「日中の作業はあまりにも危険なので、早朝4〜5時から畑に入って作業をスタートし、気温が上がりきる前の午前8時には屋外作業をすべて終えるという変則的なスケジュールを採用しています」。
涼しい早朝と夕方の二部制に分けて作業をおこなう方が効率的かもしれないが、ぶどう畑の多くは都市部から離れた郊外に位置している。そのため、スタッフが一度帰宅して夕方に再び集まるというのは移動の負担が大きく、現実的ではないというジレンマがある。
変化する状況の中ではあるが、LIBERA WINE TERACEではスタッフの安全と健康を第一に考えた「持続可能な働き方」の確立に取り組んでいるのだ。

▶︎仁木町に新圃場をオープン
年々対応が難しくなる気候に向き合いながら、LIBERA WINE TERACEが挑戦しているフィールドは着実に広がりを見せている。余市町に隣接する仁木町に1.5haという広大な土地を新たに取得し、ピノ・ノワールを植樹した。本州からワイン造りを志してやってきた人が手放したという経緯を持つ畑を、農業委員会からの紹介を受けて引き継いだのだ。
「植樹してから数か月経過したところです。ワインとして形になり、皆様の手元にお届けできるようになるまでには、あと3年ほどの歳月がかかります。楽しみに待っていていただければありがたいですね」。
仁木の美しいテロワールで育つピノ・ノワールが、数年後にどのような輝きを放つのか。北の大地で育つぶどうから目が離せない。
▶︎自然栽培という選択 2年間の成果
LIBERA WINE TERACEの栽培を語る上で欠かせないのが、肥料や農薬に頼らない「自然栽培」だ。2026年は、丹精込めて育てたぶどうの本格的な収穫がスタートする。あえて手間のかかる自然栽培を選んだ理由を、改めて尋ねてみた。
「自然栽培をしていると、土から上に出ている幹や葉が伸びるのに、とても時間がかかります。しかし、成長していないかというと、決してそうではありません。樹は生きるために栄養や水分を求めて、土の下へと驚くほど深く広く根を張っていくという特徴があるのです」。
根はぶどうを支える基盤だ。土の中に深く広く張り巡らされた根は、ぶどうの強さに直結する。平澤さんたちは、温暖化や病気への耐性を考え、3年という歳月をかけて根を十分に育てた。じっくりとかけた時間こそが、これからの厳しい環境を生き抜くための揺るぎない土台となるのだ。
肥料を使わない自然栽培において、土壌環境を整えるうえで重要な役割を果たしているのが、緑肥植物の活用だ。以前から取り入れてきた大豆に加え、現在は赤クローバーも大きな役割を担っている。LIBERA WINE TERACEのぶどう畑では、畑一面にクローバーが広がる。
「マメ科植物のクローバーは、根粒菌との共生によって大気中の窒素を土壌に取り込む働きを持っています。また、葉の色や生育の状態には、土壌のpHや養分、水分など、さまざまな環境条件が反映されます。クローバーの様子を日々観察することが、土が今どのような状態にあるのかを考えるひとつの手がかりになるのです。植物の変化を読み取り、ぶどう栽培に生かしていくことに、私たち自身も『自然栽培らしさ』を感じています」。
数値だけで土を見るのではなく、土地に生きる植物の変化に目を凝らし、畑の状態を読み取っていく。植物と対話するように自然を観察し、その小さな変化を栽培に生かしていく営みこそ、自然栽培ならではの流儀なのである。

『木村式自然栽培を未来へ繋ぐ』
LIBERA WINE TERACEの活動は、ぶどう栽培とワインの自社醸造以外にも幅広い。「木村秋則自然栽培農学校」を運営し、「奇跡のりんご」で知られる木村秋則氏の環境再生型農業を、次の世代へと受け継いでいく場としての役割も担っているのだ。
運営を引き継いで4年目だという活動の最前線を紹介しよう。
▶︎全国から学び舎に集う
「木村秋則自然栽培農学校」では、木村式の自然栽培を体系的に教えている。毎年、全国からおよそ60〜80名が入学。月2回の授業には遠方から通う人も多く、なんと海外からの参加者もいるというから驚きだ。
畑には木村氏の「奇跡のりんご」が400本ほどあり、ぶどう畑も授業に活用している。他にも葉物野菜をはじめとした野菜全般を、自然栽培で育てる方法を学んでいく。生徒は余市と仁木の圃場に好きな野菜や果樹を植えて、実践しながら学んでいくスタイルだ。
講義内容は多岐にわたり、環境保全の考え方や国の食料問題、自給自足といったテーマにも及ぶ。平澤さんは、農学校のあり方について次のように語る。
「自分たちの食の安全は自分たちで守り、選んでいくという姿勢を教えることが大切だと思うのです。未来の地球環境のために私たちは今何をすべきなのかについて、生徒の皆さんとしっかりと話し合いながら授業を進めています」。
自然栽培を実践している米農家や果樹農家を講師に招いたり、畑に直接勉強に出かけたりと学びの場所も様々だ。特徴的なのは、実践では必ずしも「自然栽培用の苗」にこだわらない点である。
「近所のスーパーやホームセンターで売っている普通の苗や種でも、自然栽培をすることで十分に環境保全につながります。身近なものから始めても、美味しいものや健康なものを育てることができるという点に気づいていただきたいのです」。

▶︎「相互扶助の精神」を農業に
「門戸を広く開く」姿勢の根底にあるのは、平澤さんが大切にする「コミュニティ」への思いだ。
「これからは、農家もコミュニティで協力し合わなければ生き残れない時代になるでしょう。例えば、自分たちだけで個別に農機具を購入しようとすると、年数回使うだけなのに数百万円ものお金がかかることになり、新規の人には手出しができません。だからこそ、コミュニティで農機具をシェアしたり、繁忙期には作業を助け合ったりという相互扶助の仕組みが必要になるのではないでしょうか」。
実際に、農学校の授業をきっかけに意気投合して、共同で農業を始める参加者もいるという。農学校の募集は年に1回だが、温かくエネルギッシュな魅力に惹かれて2年以上継続して通う熱心なリピーターも多い。参加者のバックグラウンドは実に多様で、すでに独立しているプロの生産者から、週末の趣味として家庭菜園を楽しみたいオフィスワーカーまで様々だ。
だが、遠方に住む生徒や仕事を持つ人々にとっては、毎日のように畑に足を運んで雑草を抜いたり水やりをしたりするのは物理的に難しい。そこで大きな力を発揮しているのが、LIBERA WINE TERACEの就労支援施設に所属する障がい者の方々の存在である。
生徒たちが不在の間、畑の日常的な管理や栽培のサポートを、頼もしいスタッフたちが心を込めて代行しているのだ。相互扶助の精神は、木村秋則自然栽培農学校だけでなく、LIBERA WINE TERACEにもしっかりと息づいている。
また近年は、ヨーロッパ系品種の自然栽培についての講座もおこなっているそうだ。LIBERA WINE TERACE自身にとっても大きなチャレンジで、挑戦者の気持ちで取り組んでいるという。
自らも手探りを続けながら、これまでに得た知見を惜しみなく分かち合う。「木村秋則自然栽培農学校」は、学びと実践が地続きになったLIBERA WINE TERACEならではの学び舎なのだ。

『LIBERA WINE TERACEが醸すワインの魅力』
続いては、LIBERA WINE TERACEのワイン造りに話を移そう。温暖化への対応や新たな畑の広がりと歩調を合わせるように、醸造の現場でも新たな挑戦が次々と生まれている。
初醸造となったペティアンや、自家製酵母で醸したワインなど、LIBERA WINE TERACEのチャレンジ精神を象徴するワインの数々を紹介していきたい。
▶︎初醸造の微発泡ワイン「ペティアン」
まずは、初醸造の「ペティアン」を紹介しよう。これまでシードルなど、ガス圧が強いスタイルの発泡ワインは手がけてきたが、今回あえて微発泡ワインに挑んだのには理由があった。
「私たちのワインを卸してくださっているミシュラン星付きレストランの方から、『女性のお客様は、お腹がいっぱいになってしまってコース料理が食べ切れないからと、ガス圧の強いスパークリングを敬遠される方もいるんですよ』と、教えていただいたのです」。
この意見を真摯に受け止めた平澤さんは、即座に新しいスパークリングワインを設計した。近隣の農家が育てたミュラー・トゥルガウを主体に、シャルドネをブレンド。自家製酵母を使って瓶の中で発酵を進めることで柔らかい炭酸が溶け込むペティアンを造ったのだ。
ペティアンの醸造は新たな挑戦だった。瓶詰めのタイミングを見極めるのが難しいのだ。手作業が必要な場面も多いため、手を出さないワイナリーも少なくないという。
「難しいならあえて挑戦してみようという気持ちで取り組みましたね。うちのワイナリーは大規模な機械化が進んでいるわけではないので、スタッフを集めて瓶詰めして、みんなで造り上げました」。
LIBERA WINE TERACEのチャレンジ精神は、見事に実を結んだ。「ミュラーペティアン」は発売直後から大好評を博し、2026年春時点で完売したのだ。あっという間に大人気銘柄に成長したペティアンの今後にも期待したい。

▶︎「こだわりをもたないこだわり」と自家製酵母
LIBERA WINE TERACEのワインには、一貫した思想が流れている。それは、あえてこだわりを掲げないという姿勢だ。
「私たちの使命は、障がい者の生活を守ることです。そのためには、ワインを買っていただき、ひとりでも多くのファンを作って、ワイナリーをビジネスとして続けていくことが大切なのです。『ワインの味にこだわる玄人の方だけがわかっていればよい』というような姿勢では、安定した経営が成り立ちません」。
30人ほどのメンバーを支えていくためには、安定的にキャッシュが入ってくることが欠かせない。だからこそ平澤さんは、取引先やお客様の声にとことん耳を傾けるのだ。自分が造りたいワインを造るのではなく、求められるものを誠実に追い求めることこそが「こだわりをもたないこだわり」の真意である。
一方で、LIBERA WINE TERACEとしてのアイデンティティを守るために譲れない軸が、「自家製酵母」である。
「お客様の声を第一にしているので、ワインの造り方にこれといったこだわりはあえて持っていません。しかし、私たちは唯一無二の『自家製酵母』を使っています。同じジュースからワインを造っても、酵母が違えば味は変わるのです」。
味わいの方向性はお客様に寄り添い、基盤の部分では自分たちのスタイルを守るという絶妙なバランス感覚こそが、多くの人を惹きつけているのかもしれない。

▶︎「MÛR TOI(ミュール・トワ)」すべての人の食卓へ
LIBERA WINE TERACEの理念を、より多くの人へ届ける新たな挑戦が始まっている。ハウスワインの新ブランドとして、「MÛR TOI(ミュール・トワ)」をリリースしたのだ。
ブランドコンセプトは「For Everyone at the Table(テーブルを囲むすべての人のために)」。名に冠せられた「MÛR:ミュール」はフランス語で「熟した」、「TOI:トワ」は「あなたのために」を意味する。関わるすべての人が同じ食卓で楽しめるようにという祈りを込めた。
オーストラリアから取り寄せたぶどうを使用することで、販売価格を抑えることに成功。酵母は自社のものを使うことで、「LIBERA WINE TERACEらしさ」を表現した。
2026年8月からは、大手食品卸売業の国分北海道株式会社にて「MÛR TOI」の取り扱いが決定した。LIBERA WINE TERACEにとって、全国の人々へワインを届ける大きな一歩となる。
「自社ワインを市場に流通させるのは初めての試みですが、全国の皆様に楽しんでいただけるワインに仕上がっています」。
売上の一部は、国分北海道株式会社との共同の取り組みとして「認定NPO法人北海道こどもホスピスプロジェクト」へ寄付する仕組みを導入。「『世直しのワイン』で、夢の扉を開く」という、LIBERA WINE TERACEの理念を象徴するワインが、日本全国に羽ばたこうとしている。

▶︎和とイタリアンが出会う併設レストラン『Bruschetteria MILO』
LIBERA WINE TERACEが醸すワインの魅力を存分に味わえるのが、ワイナリー併設のレストラン『Bruschetteria MILO(ブルスケッテリア・ミロ)』だ。LIBERA WINE TERACEが醸すワインと和風イタリアンの繊細なマリアージュが楽しめる。北海道ワインのテロワールに寄り添った料理は評判を呼び、多くの客が訪れる人気店となった。
旬の食材を使ったメニューやぶどう畑の様子が公式Instagramで更新されているため、訪れる前にぜひチェックしておきたい。
さらに、「株式会社中山眞琴アーキテクツ」が設計を手掛けたレストラン施設は、「JCD北海道支部デザインアワード2024」にて「最優秀賞」を受賞。その年に北海道で建てられた建物の中で、最も優れたデザインとして認められたのだ。「本当に光栄なことです」と、平澤さんは微笑む。
北海道の自然とモダンなデザインが調和した空間で、内装の温かな照明は景観に馴染む。優しくあたたかな世界観が息づいている佇まいだ。
「私たちのワインには『この世に生を受けたものが、みんな楽しくワインを飲めるように』という思いを込めています。ワインボトルのエチケットはもちろん、空間やデザインも優しい雰囲気にしたいと思っているのです」。
働く人を守り、お客様から選ばれるため、妥協することなくクオリティを追求し、あらゆる人を分け隔てなくワインの世界へ招き入れるのだ。

『まとめ』
これからのLIBERA WINE TERACEが目指す姿は、「社会課題を解決しながらビジネスを大きくしていく」というブレないコンセプトが中心となっている。
「ワインを通じて障がい者の方が生きやすくなる仕組みを広げていきたいです。障がい者施設はもちろん、彼らが利用する施設、さらには健常者が彼らと一緒に利用できる施設まで、さまざまな企画を進行中です」。
ワイン造りの先に平澤さんが見据えるのは、より大きな社会への眼差しだ。LIBERA WINE TERACEの取り組みは、外部からも確かに認められている。2025年には、「ノウフク・アワード2025」にて「チャレンジ賞」を受賞。農業を障がい者とともにおこない、さらに町や地域の活性化にもつなげている点が高く評価された。
賃金、設備、環境。障がいを持つ人にとって働きやすい環境が整えられており、移住を希望する人も多いという。
「ただし、施設のキャパシティや設備の事情で、全員を受け入れられるわけではないのです。だからこそ、さらに設備を整えて、より多くの方を受け入れられるようにしていきたいですね。国や自治体からの補助も受けながら、活動に取り組める体制を作っていきたいです」。
土の下で静かに根を張るぶどうのように、社会の中にゆっくりと、しかし確かに根を広げていくLIBERA WINE TERACE。優しくも力強いワインを、ぜひ一度味わってみてはいかがだろうか。

基本情報
| 名称 | LIBERA WINE TERACE |
| 所在地 | 〒060-0002 北海道札幌市中央区北2条西10丁目 |
| アクセス | https://libera-wine.jp/#access |
| HP | https://libera-wine.jp/ |
