秩父連山の裾野に広がる山梨県甲州市塩山(えんざん)の地で、70年以上の歴史を紡ぎながら、変革し続けているワイナリーがある。今回紹介する「駒園ヴィンヤード」だ。
自社畑では、地元の伝統的な品種である甲州種の古木を大切に栽培。さらに、ピノ・ノワールやシャルドネといった欧州系品種、ビジュノワールなどの新しい交配種も栽培している。
醸造においては、甲州を使ったワインを主力製品とする一方で、低アルコールワインやスパークリングの醸造も開始。伝統を守りつつ、先を見据えた挑戦にも積極的なワイナリーである。
「自然に寄り添い、ぶどう本来の生命力を信じることが大切です」と話してくれたのは、取締役社長を務める金子武志さん。
山梨のテロワールを映し出したワイン造りの裏側には、駒園ヴィンヤードのどのような信念が息づいているのだろうか。また、長い歴史を持つ老舗ワイナリーが思い描く、「これからの日本ワイン」の姿とは。駒園ヴィンヤードのこれまでと未来を詳しく見ていこう。
『駒園ヴィンヤードの歴史と圃場』
まずは、駒園ヴィンヤードがたどってきた今日までの歩みを振り返りたい。2026年に創業74年目を迎えた駒園ヴィンヤードの歴史は、戦後間もない1952年にスタートした。
駒園ヴィンヤードの前身は、初代・代表を務めたぶどう農家の五味氏が立ち上げた「五味果汁工業」だ。自分たちが丹精込めて育てたぶどうをより価値ある形で届けたいという思いから、1963年に果実酒製造免許を取得し、地域に根ざしたワイン造りを始めた。
▶︎山梨県産ぶどう100%へのこだわり
ぶどう栽培とワイン醸造に実直に取り組む中で、大きな転換期が訪れたのは、2019年3月のことだった。社名を「駒園ヴィンヤード」に変更し、新たなスタートを切ったのだ。
創業時から一貫しているこだわりは、「山梨県産ぶどうを100%使用している」ことだという。2025年の生産数は約2万4,000本で、白ワインが全体の75%を占める。さらに、白ワインのうち、64%は甲州を使用した銘柄だ。
「山梨のワイナリーである以上、甲州は私たちにとって欠かせない存在です。山梨の個性を表現することが、私たちの存在意義だと自負しています」。
駒園ヴィンヤードのワインは、数々のコンクールで受賞を重ねた実績を持つ。

▶︎甲州の古木が息づく「駒園圃場」
駒園ヴィンヤードのぶどうを育んでいるのは、甲州市塩山にある自社圃場だ。メインの圃場である「駒園圃場」と「川窪圃場」は、それぞれが異なる役割を持つ。駒園ヴィンヤードがぶどう栽培ににおいてこだわっていることと、ぶどうへの向き合い方を紹介したい。
まず、ワイナリーの目の前を流れる水路の先に広がるのは、社名の由来にもなった「駒園圃場」。駒園圃場には、駒園ヴィンヤードの魂そのものといっても過言ではない、甲州の古木が息づく。
「樹齢60年を超える樹が多く、中には樹齢80年を超えているものもあります。よくぞここまで残ってくれたなと、日々感謝しながら管理しています」と、金子さんは優しく微笑む。
甲州は日本を代表する固有品種であり、山梨においては単なる農産物ではなく、「地域財産」ともいえる大切な存在だ。
2022年には、創業70周年を記念して、60年以上の古木から収穫されたぶどうのみを使った限定ワイン「ヴァンアルチザン」をリリースした。
「山梨を代表する甲州の古木を大切に育て、素晴らしい遺産を後世に引き継ぐことは、私たちの義務だと感じています」。
駒園ヴィンヤードは、地域の未来を見据えながらぶどう栽培をおこなっているのだ。

▶︎多様性と挑戦の最前線「川窪圃場」
一方、ワイナリーから700〜800mほど離れた場所にあるのが「川窪圃場」だ。栽培しているのは、シャルドネ、ピノ・ノワール、リースリングなどの欧州系品種の他、日本で交配された比較的新しい品種「ビジュノワール」や「ベーリーアリカントA」など。
金子さんが特に注目しているのは、赤ワイン用品種のビジュノワールだという。「黒い宝石」の名を冠するぶどうで、山梨県で開発された期待の新星だ。
「自社畑で栽培した新しい品種がどんな味わいになるのかを試したいという強い探究心を持って導入しました。直近4~5年で、急激に圃場のバラエティが豊かになりましたね」。
かつては甲州を中心とした国産品種がメインだったが、今ではバルベーラやサンジョヴェーゼといったイタリア系品種まで栽培しているそうだ。
「栽培している品種は、『世界的に人気があるから』という理由で植えているわけではありません。私たちが目指すのは、塩山のテロワールで育った時に、それぞれの品種がどんな個性を出してくれるのかを引き出すことです。『塩山らしいシャルドネやピノ・ノワール』の魅力を見つけるための取り組みを続けています」。

『駒園ヴィンヤードのぶどう栽培』
続いては、駒園ヴィンヤードのぶどう栽培にスポットを当てよう。塩山というぶどう栽培の歴史が長い土地で、どのような点にこだわって栽培管理をおこなっているのだろうか。
気候の特徴や、手をかけすぎないように気をつけているという取り組みについても見ていこう。
▶︎ぶどう栽培に適した塩山のテロワール
中山間部に広がる甲州市塩山は、標高480mほど。甲府盆地の一部に位置しているが、午後になると秩父山系からの風が吹き抜けるため、熱気がこもりすぎないのが特徴だ。
土壌は川砂の堆積土で、水はけは非常に良好。夏の暑さに苦労することはあるものの、ぶどうが健全に生育するための条件が揃っている土地なのだ。
「秩父山系から吹き下ろしてくる風のおかげで昼夜の寒暖差が生まれて、しっかりと着色して十分な酸を保持した果実が育ちます。土壌の川砂は、近くを流れる笛吹川の氾濫によって堆積したものです」。
風と大地が形作る塩山のテロワールは、ぶどうに宿る唯一無二の個性としてあらわれる。

▶︎自然に寄り添う姿勢を大切に
金子さんが栽培管理において重きを置く「自然に寄り添う」という姿勢は、日々の過酷な農作業の中から導き出された確信だ。ぶどう栽培する上で最も大切にしているのは、「地上部と地下部のバランス」を整えることだという。
「私たちは、ぶどう自身が地上部と地下部のバランスを整えるための手助けをしているだけなのです。樹に負荷をかけすぎず、かつ良質な果実が収穫できるように、1〜2芽だけを残して剪定しています。手を加えすぎないように心がけていますね」。
自然に近い状態で大地の力をそのままぶどうに蓄えさせることが、長年の試行錯誤の末にたどり着いた「自然と共生したぶどう栽培」の基本となっているのだ。

▶︎畑に息づくもの全てが土地の一部
「生育期になると雑草がどんどん生えてきて、本当に大変ですよ」と、金子さんは苦笑するが、悲壮感は全くない。
「畑にはさまざまな生き物がいます。雑草が全く生えない場所があるなと思ってよく見ると、モグラが穴を掘っていたということもありますね。モグラは悪さをしそうに思えますが、実は土をふかふかにしたり害虫を食べてくれたりする存在です。ぶどうは自然のサイクルの中で生きているのだと感じながら、畑を管理しています」。
さまざまな要因に左右されるぶどう栽培では、近年の異常気象への対応は容易ではない。駒園ヴィンヤードの自社畑周辺では、2025年の冬は極端に雨が少なかった。また、夏場に突発的な豪雨に見舞われることも増えた。
「雨対策としては傘掛けをおこなっていますが、基本的には、水はけのよさを信じて自然に任せています。気候が変われば、適した品種も次第に変わってくるでしょう。そのため、自然の摂理に寄り添い、柔軟に対応を変えていくことを大切にしています」。
夏の暑さや害虫、生い茂る雑草など、次々と湧き上がってくる課題に対して、駒園ヴィンヤードのスタッフは一丸となって格闘している。自然にしっかりと向き合って続けている努力こそが、多くの人々から愛されるワインの美味しさの源泉となっているのだろう。

『駒園ヴィンヤードのワイン醸造』
駒園ヴィンヤードが目指すワイン像は明確だ。「日本の食文化に寄り添い、若い世代にも楽しんでもらえるワイン」である。
日本食とのペアリングがおすすめだというワインの、醸造におけるこだわりを深掘りする。駒園ヴィンヤードの醸造哲学と共に、いくつかの銘柄も紹介していこう。
▶︎気軽に楽しめるスクリューキャップを採用
駒園ヴィンヤードは、多くの銘柄にスクリューキャップを採用している。「特別な日」だけではなく、日々の食卓で気軽に開けてほしいとの思いを持っているためだ。
「ワインを楽しめば食事が楽しくなり、食卓を囲んでいる人同士の会話がはずむでしょう。私たちは、大切な人と過ごす時間を豊かにするきっかけを作りたいのです」。
また、駒園ヴィンヤードの公式サイトでは、山梨の特産品を使った料理レシピを積極的に公開。おすすめのペアリングを提案することで、「どう楽しめばいいかわからない」と迷っている消費者にも、日本ワインをもっと身近に感じてもらえればという思いから始めた試みだという。
「特別な料理と合わせたり、決まった組み合わで飲んだりしなければと構える必要は全くありません。例えば甲州ワインは、塩焼きした白身魚との相性が抜群です。いつもの食卓で気取らない食材と合わせることで、気楽に楽しんでいただけますよ」。
「ワインが当たり前にある生活」を提案する駒園ヴィンヤードがターゲットとして見据えているのは、若い世代の人々だ。
「比較的リーズナブルな価格帯で、しっかりとした品質の日本ワインを届けることを目指しています。若いうちからワインの美味しさを知ってもらえれば、やがてその方たちが親になった時、子どもたちに『こんなに美味しい飲み物があるんだよ』と伝えてくれるはずです」。
一過性のブームではなく、文化として長く続くものを造りたいという金子さんの言葉からは、造り手としての深い覚悟が伝わってくる。

▶︎ぶどうありきのワイン醸造
「ワインを醸造する工程では、特別なことはしていません。一番大事なのはぶどうの品質です。余計なものは加えず、シンプルな資材のみを使って、ぶどうのコンディションをストレートに表現しています」。
駒園ヴィンヤードでは、圃場ごとの特性を生かしたワイン醸造をおこなっている。ぶどうの個性そのままをワインに醸すスタイルで、圃場ごとの土壌や気候の違いを繊細に反映することを目指す。
例えば、南アルプスの麓に位置する西野圃場のぶどうから生まれたワイン「Cru Nishino(クリュ・ニシノ)」シリーズは、すっきりとした酸を感じる味わいだ。他の圃場よりも涼しい地域で育ったぶどうの個性が明確に感じられるだろう。

▶︎駒園ヴィンヤードのフラッグシップ「Tao 甲州駒園」
駒園ヴィンヤードを代表する銘柄である「Tao 甲州駒園」も紹介したい。自社畑で育った甲州のみを使用した「Tao 甲州駒園」からは、和柑橘の香りが鮮烈に立ち上がる。醸造ではステンレスタンクのみを使用し、12〜14℃で低温発酵させている。
「青りんごのようなフレッシュさと洋なしを想わせる芳醇な香り、穏やかな酸味が特徴です。甲州の古木から収穫したぶどうも一部使用しています。和食との相性が抜群で、おでんや茶碗蒸しといった家庭の味にも寄り添う味わいに仕上げました」。
ワインを飲んだ経験があまりない人でも美味しく味わえる、優しく上品な味わいの「Tao 駒園甲州」は、ワインコンクールでも高い評価を受けている。直近では「サクラアワード2026」でゴールドメダルを受賞。黒地に「Tao」の文字が刻まれたシックなデザインのエチケットにも注目してほしい。

▶︎凝縮感たっぷりの「Tao Kawakubo ピノ・ノワール」
続いて紹介するのは、川窪圃場のピノ・ノワールを使った「Tao Kawakubo ピノ・ノワール」だ。
「一般的には冷涼なイメージのあるピノ・ノワールですが、温暖な塩山で育ったピノ・ノワールは驚くほどの凝縮感を持っています」。
「Tao Kawakubo ピノ・ノワール」の2023年ヴィンテージは、ステンレスの密閉タンクで3週間じっくりと低温発酵させた後、フレンチオーク樽でさらに3週間寝かせた。樽感はあえて控えめにし、熟成した果実のニュアンスを主役に据えている。
醤油ベースの和食だけでなく、脂ののったステーキにも負けないと金子さんが話す「Tao Kawakubo ピノ・ノワール」は、欧州のピノ・ノワールとはひと味違う日本らしさと力強さのある味わいだ。

『駒園ヴィンヤードの強みと挑戦』
駒園ヴィンヤードの強みは、引き継いできた土地を大切にしながらぶどう栽培を続ける堅実さと、スピーディーな製品開発が示すチャレンジスピリットにある。
さらにスタンダードな赤白ロゼワインだけでなく、オレンジワインや「ピンクワイン」なども展開する、バラエティの豊かさも自慢だ。人気銘柄や新製品情報を詳しく見ていくことで、挑戦を続ける姿勢がは明確に浮かび上がってくる。
▶︎新たな取り組みを実現した2銘柄
近年好評を博している2銘柄を見ていこう。まずは、桜の花びらを思わせる淡いピンク色が美しい「Pony 甲州 桜花」だ。
「使用しているのは甲州のみですが、スキンコンタクトの時間を長めにして果皮の色を濃く抽出することで、ピンク色のワインにしました。桜の季節に開けたい1本です」。
なお、シリーズ名「pony」は、塩山の土地に縁ある戦国武将、武田信玄の騎馬隊をイメージして名付けられたものだ。
続いては、「きまぐれ」という意味を持つ銘柄の「Tao Caprice(カプリス)」を紹介しよう。「日本ワインの高級品とは単一品種である」という固定観念を打破するために生まれた意欲作だ。
「ヴィンテージごとにブレンド比率や使用品種が変わるのが、『Tao Caprice(カプリス)』最大の特徴です。例えば2025年の赤は、ピノ・ノワール、シラー、ビジュノワール、サンジョヴェーゼをブレンドしました。白は甲州にソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネです。年ごとの『きまぐれ』な味わいを楽しんでいただきたいですね」。
新しい試みは消費者から好評で、「Pony 甲州 桜花」はリリース後すぐに売り切れてしまう人気銘柄となっている。「Tao Caprice(カプリス)」も、毎年のリリースを心待ちにするリピーターが多い。駒園ヴィンヤードでは今後も引き続き、ブレンドワイン造りにも積極的にチャレンジしていきたいと考えているという。

▶︎時代のニーズに応える新銘柄
駒園ヴィンヤードでは2025年、新たにアルコール度数9%の「Pony Low Alcohol 甲州」をリリースした。
「近年の日本の夏の暑さでは、アルコール度数が12%以上あると重すぎると感じてしまうこともあるでしょう。そこで、サラリと飲めて、しかもワインの満足感も得られるものを目指して造りました」。
さらに2026年には、駒園ヴィンヤード初となるスパークリングワインもリリース予定だ。
「日本の暑い夏にも気軽に楽しめるスパークリングワインにしたいと考えています。最初のヴィンテージは甲州を使う予定ですので、どうぞ楽しみにお待ちください」。

『まとめ』
「日本ワインの一大産地である山梨にあるワイナリーとしての自負と責任を、忘れてはならないと思っています。醸造のクオリティを追求し、伝統を守りつつも、新しい感性を失わずにチャレンジし続けていきたいですね」。
「サクラアワード」や「フェミナリーズ世界ワインコンクール」といった国際的なワインコンクールで高い評価を受けている駒園ヴィンヤードのワイン。自然を愛する造り手の丁寧な栽培管理と醸造が、女性や若者にも選ばれる高品質で柔らかな印象のワインを生み出すのだろう。
駒園ヴィンヤードは、新製品のリリースやイベントに関する情報を公式SNSや公式サイトで随時発信している。気になった人はチェックして、造り手の自信作をぜひ一度味わってみてほしい。

基本情報
| 名称 | 駒園ヴィンヤード |
| 所在地 | 〒404-0054 山梨県甲州市塩山藤木1937 |
| アクセス | https://maps.app.goo.gl/8oC535h8kkbkzZzU9 |
| HP | https://comazono.com/ |
