今回紹介するのは、栃木県那須塩原市にある「Y‘s Vineyards」だ。栃木県の北部に位置する那須塩原市は、市の半分を広大な山岳地帯が占めている。自然を満喫できる避暑地として有名な那須塩原には温泉もあり、四季折々の楽しみ方ができる土地だ。山々に囲まれた地形をしており、平野部でも標高は200~250mあるため積雪量が多い。冬には首都圏最大級のスキー場に多くの観光客が足を運ぶ。
そんな那須塩原ぶどう栽培とワイン醸造をおこなっているY‘s Vineyardsのオーナー・ワインメーカーは、山崎賢子(かしこ)さん。自然豊かな那須塩原の自社畑で栽培したぶどうは、色付きがよく香り高いのが特徴だという。
出身地である那須塩原市でぶどう栽培とワイン造りを始めた山崎さんは、なぜワインに興味を持ったのだろうか。ワインとの出会いからY‘s Vineyardsの立ち上げ、現在まで続くストーリーをお話いただいた。栽培・醸造におけるこだわりについても詳しく紹介していくので、ぜひ最後までお読みいただきたい。
『Y’s Vineyards 誕生の経緯とぶどう栽培』
山崎さんがワインの魅力に気付いたのは、アメリカの大学に留学していた時のことだった。帰国後はワインに携わる仕事がしたいと考えて、ワインの輸入業者で貿易事務の仕事に就いた。ワインに関わる仕事をする中で、ワインに対する思いはますます強くなり、自分でワインを造ってみたいと思うようになったそうだ。
山崎さんが那須塩原でワイン造りをするまでの道のりと、Y‘s Vineyardsのぶどう栽培について見ていこう。
▶︎アメリカ留学でワインと出会う
山崎さんがアメリカに留学したのは、専攻していた観光学を学ぶためだった。大学は幅広い分野の学びを得られる環境で、授業の一環としてワインテイスティングの講義を受ける機会があったという。ピノ・グリのワインやイタリアワインなど、計6本ほどを飲み比べる講義内容が、山崎さんがワインに興味を持つきっかけとなったのだ。
「ワインテイスティングの講義を受けるまでは、ワインに特別な興味を持っていたわけではありませんでした。しかし、テイスティングでいくつかのワインを比較する機会を得て、それぞれのワインの味わいの違いにびっくりしたことをよく覚えています。同じ白ワインであっても味わいが全く違うことや、ワインの種類の多さに面白さを感じましたね。講義の後、自分でいろいろな種類のワインを買って試すようになりました」。
さまざまなワインを楽しむうちに、自分の好きな味わいを見つけていった山崎さん。帰国後はワイン輸入業者に就職したが、ワイン造りの道に進みたいと考えるようになった。そこで、ニュージーランドのリンカーン大学で、ぶどう栽培とワイン醸造の準修士号を取得したのだ。
「アメリカやニュージーランドでは、収穫時期だけ働くヴィンテージ・スタッフとしてワイン造りの実践的なノウハウも学びました。そのうち、やはり自分は日本でぶどうを育ててワインを造りたいのだということに気付いたのです」。
日本へ戻った山崎さんは、山梨県勝沼町にある老舗ワイナリー「丸藤葡萄酒工業」に就職。栽培兼醸造スタッフとして経験を積んだ後に独立し、地元である那須塩原でワイン造りを始めたのだ。

▶︎Y’s Vineyardsが栽培している品種
国内外でぶどう栽培とワイン造りに携わり、経験を積んできた山崎さん。2016年9月に就農し、2017年4月からは自社畑でのぶどう栽培を開始した。Y‘s Vineyardsで栽培している品種は以下の通りだ。
- デラウェア
- シャルドネ
- プティ・マンサン
- ソーヴィニヨン・ブラン
- ゲヴュルツトラミネール
- アルバリーニョ
- ツヴァイゲルトレーベ
- カベルネ・フラン
デラウェアとアルバリーニョは棚栽培で、他の品種は垣根栽培を採用している。栽培する品種はどのように決めたのだろうか。
「植栽したのは、那須塩原の気候でも育ちやすい品種と、私の好きな品種です。シラーも栽培したいと思っていたのですが、気候的に難しいと思ったので、同じタイプのスパイシーさが感じられるツヴァイゲルトレーベを選びました」。
温暖で乾燥した気候を好むシラーは、那須塩原の気候では栽培が難しいと考えたのだ。一方、オーストリア原産のツヴァイゲルトレーベは寒さに強く、比較的冷涼な土地でも育ちやすい。
「Y‘s Vineyardsで栽培している品種の中でも、ツヴァイゲルトレーベは特に那須塩原の土地に合っていると感じています。今後はさらに収量を増やしていきたいですね」。
また、栽培が難しいゲヴュルツトラミネールに関しても、栽培面積を広げたいと考えている山崎さん。少量加えただけでも強い香りを出してくれるゲヴュルツトラミネールは、香り高いワインを造るために欠かせない品種なのだ。

▶︎那須塩原の気候と、自社畑の特徴
那須塩原市の年間平均気温は12.1℃。高原性の冷涼な気候であるが、近年の気候変動は那須高原にとっても他人事ではない。2023~2024年の夏は、今までにない暑さに苦しめられた。
「夏場の最高気温が35~36℃まで上がりました。2024年は夜温も下がりにくかったため、ぶどうにとって苦しい状況でしたね。ツヴァイゲルトレーベなど、涼しい場所が原産地の品種には暑すぎる気候が数年続いているので、試行錯誤しながら栽培しています」。
Y‘s Vineyardsの畑は那須塩原市の「関谷(せきや)」地区に4か所あり、総面積は0.9haだ。標高はいずれも450~460mほどで、区画によって平地と急斜面の畑がある。
「畑はどの区画も風が吹き抜けやすいため、強風で垣根が若干曲がってしまうこともあるほどです。冬場も風が強いので、雪が散らつくと吹雪のようになりますが、降雪量は多くないので積もることはほとんどないですね」。
ぶどう栽培に適している気候条件も有しているとはいえ、那須塩原は初夏から秋にかけて雨が多いのがネックだ。また、自然豊かな土地のため、猿や鹿などの野生動物や野鳥による被害も大きい。
「秋雨は特に厄介です。ぶどう収穫前の大事な時期に雨が多くなるので、苦労しますね。棚栽培のぶどうにはビニール製の傘、垣根の畑にはレインガードを設置して、雨対策を徹底しています。レインガードを設置していることで、野生の鳥獣による被害も軽減できています」。
那須塩原はもともと酪農が盛んな土地のため、Y‘s Vineyardsの自社畑にも、かつて牧草地として使われていた区画がいくつかある。畑の土壌は黒ボク土が主体で、非常に肥沃だ。平地にある畑は川の上流に位置しているため、大きな石が土中にたくさんあり、植栽する前の整地に苦労した。酪農業を営む山崎さんの叔父が近くに住んでいるため、強力な助っ人になってくれたという。
「土中の石が邪魔をして、土中に支柱が入らないなどの問題が起きました。大きな石にぶつかるところは避けたり、叔父の力を借りて農機で崩したりしました。また、ツヴァイゲルトレーベがある斜面の畑はもともと山林だった場所で、小石が多く養分がない状態でした。堆肥を入れて土作りをした時も、叔父がサポートしてくれたのでとても助かりました」。

▶︎ぶどう栽培におけるこだわり
山崎さんがぶどう栽培で意識しているのは、各工程で最適なタイミングを見定めることだ。
「気候やぶどうの生育状況にあった管理をすることが、健全なぶどうを育てるためには何より必要ですが、手間をかけすぎることもよくないのです。そのため、管理が几帳面になりすぎないように心がけています。なによりも、畑の様子をよく観察することが大切ですね」。
山梨県勝沼町でもぶどう栽培とワイン醸造に携わった経験を持つ山崎さんに、勝沼と那須塩原におけるぶどうの違いについて尋ねてみた。
「気候は年ごとに変動してきていますが、那須高原は夜温が下がりやすいので、赤ワイン用品種は色づきがよいと感じています。山梨のぶどうと比べると糖度は下がりますが、酸が残るため香りが立ちやすいのが特徴です。雨は山梨の方が少ないので羨ましいですが、那須高原で育つぶどうも本当に素晴らしいので、満足しています」。

『Y’s Vineyardsのワイン造り』
続いては、Y‘s Vineyardsのワイン造りの話題に移ろう。目指すのは「バランスのよいワイン」だ。ワインは料理と一緒に会話を楽しながら飲むお酒であるため、食事と合わせてもワインの味が突出せず、バランスのよい味わいが理想だ。
また、Y‘s Vineyardsでは、気軽にごくごくと飲めるシードル造りにもチャレンジしているという。
那須塩原のぶどうを使ったワインは、那須塩原の特産品であるチーズやアスパラガス、牛肉とよく合うのだとか。Y‘s Vineyardsのワインとシードル醸造におけるこだわりを深堀りしていこう。
▶︎手を加えすぎず、見守るワイン造り
山崎さんにワイン造りにおけるこだわりを伺うと、ぶどう栽培と全く同じで、「過保護にしすぎないことだ」と話してくれた。
「あまり手を出しすぎないように心がけています。毎日様子を見てきちんと耳を傾けてあげると、それぞれの工程で手を加えるべきタイミングが見えてきます。最適なタイミングで作業すれば、実はそれほど手間はかからないのです」。
Y‘s Vineyardsのワインは、食事と合わせて家族や仲間とわいわい飲んでもらいたいと考えている山崎さん。特にターゲット層は設定しておらず、幅広い層の人たちに楽しく飲んでもらうのが理想だ。
「アメリカでワインに出会ったときに強い衝撃を受けたことは、私にとって忘れられない思い出になりました。私が造るワインも同じように、誰かの思い出にしっかりと残るワインになってほしいです。楽しく過ごした時間に味わったワインなら、あたたかい思い出と共に記憶に刻まれることでしょう。これからも、食事と合わせやすく、みんなで一緒に飲めるワインを造っていきたいですね」。

▶︎那須塩原産りんごのシードル
自然豊かな那須塩原では、りんごやキウイフルーツ、ブルーベリーなど、いろいろな果物の栽培が盛んだ。Y‘s Vineyardsのシードルは、市内で採れたりんごだけを使用している。
「ワインよりシードル造りの方が難しいかもしれません。りんごはぶどうよりもpH値が高いので、微生物や菌の混入の恐れが常にあります。低温で時間をかけて発酵させる必要があるので注意が必要なのです」。
pH値とは、溶液中の水素イオンの濃度を示す数値のことだ。液体が酸性だとpH値が低くなり、アルカリ性だと高くなる。pH値が高すぎると酸化しやすくなり、微生物や菌の働きが活発化して、味によくない影響を与えてしまう可能性が高くなる。
「Y‘s Vineyardsのシードルは辛口なので、カジュアルに飲んでいただけます。サンドイッチなどの軽食や家庭料理など、どんな料理にも合わせやすいと思いますよ。ビールのような感覚で、気軽に飲んでいただきたいですね」。
使用している那須塩原産のりんごは、「フジ」「秋映(あきばえ)」「王林」などだ。複数品種をブレンドしたすっきり爽やかな味わいは、乾杯用のドリンクとしても最適だ。

▶︎お客様との交流の場となるワインショップ
Y‘s Vineyardsは、2023年冬にワインショップをオープンした。那須塩原を訪れた人たちに、土地のよさを感じてもらえる場所だ。
「ワインショップを作った理由は、直接お客様にワインの説明をして、ワインのことを知ってもらいたいという思いがあったからです。ワイナリー横にあるワインショップは、金曜日と土曜日のみ営業しています」。
また、ワイナリーのすぐ向いには、塩原温泉や那須高原の玄関口に位置する道の駅「道の駅アグリパル塩原」があるため、那須塩原に観光目的で訪れた人が足を運ぶには最高の立地だといえるだろう。「道の駅アグリパル塩原」には地元産野菜の直売所や農村レストランもあるため、那須塩原の味覚を一度に満喫することができる。
「那須塩原には、吊り橋や温泉などの観光スポットもたくさんあります。ワイナリーは那須町からのアクセスもよいので、観光がてらワイナリーにも足を運んでいただけると嬉しいです」。
さらに、Y‘s Vineyardsのワインは、那須塩原市内の温泉旅館でも味わうことができる。
「那須塩原市の黒磯地区にある『かんすい苑覚楽』や、塩原地区にある『湯守田中屋』では、美味しいお食事と一緒にY‘s Vineyardsのワインを提供しています。那須塩原で土地の食材と一緒に飲んでいただきたいです」。
那須塩原の空気を感じながら、地元食材と一緒に楽しむのが、Y‘s Vineyardsのワインの一番美味しい飲み方だと山崎さんは話す。
将来的には、ワインショップでもチーズなどの那須塩原の特産品を販売したいと考えているそうだ。ぜひ、那須塩原の豊かな自然を感じながらワインを満喫してほしい。

『Y’s Vineyards おすすめのワイン』
我が子をそっと見守るように、ぶどうの力を信じて造っているY‘s Vineyardsのワイン。使用する品種に合わせて木樽とステンレスタンクを使い分けており、どの銘柄も食事に合わせやすいのが特徴だ。
山崎さんのおすすめの銘柄をいくつかご紹介いただいた。味わいの特徴や、ワインに合う料理を詳しく見ていこう。
▶︎「プティマンサン・シャルドネ」
白ワインのおすすめは「プティマンサン・シャルドネ」だ。清澄剤を使用せず、時間をかけてゆっくりと自然に澱を沈殿させて濁りを除去する「自然清澄」を採用した。
「プティ・マンサンとシャルドネをブレンドした白ワインです。プティ・マンサンは小粒で房が小さいため、収量が少ない品種なのですが、とても香りがよいのが特徴です。白桃のようなフルーティーな香りの中に、ハーブ系の爽やかさがあるワインですよ」。
合わせる食事としておすすめなのは、ハード系のチーズや鶏肉の香草焼きだ。

▶︎「ツヴァイゲルトレーベ」
赤ワインのおすすめとして山崎さんが挙げてくれたのは、「ツヴァイゲルトレーベ」だ。ツヴァイゲルトレーベ90%、カベルネフラン10%をブレンドした赤ワインである。「プティマンサン・シャルドネ」と同様に自然清澄して瓶詰めした無濾過ワインのため、ぶどうの香りが最大限に発揮されている。
「スパイスやインクを思わせる独特の香りが特徴です。ミディアムボディですが、しっかりとした渋みがあり、赤身の肉料理が食べたいときにぴったりな赤ワインです。記念日のちょっと豪華な食事に合わせていただくのもおすすめですよ」。
ビーフシチューやジンギスカン、チョコレート系のデザートに合わせやすいそうだ。

▶︎「とうとロゼ」
Y‘s Vineyardsでは、ロゼワイン造りにも力を入れている。「とうとロゼ」という銘柄は、自社畑のツヴァイゲルトレーベとカベルネ・フラン、山形産のメルローをブレンドし、木樽で発酵・熟成している。
「とうと」シリーズには、ロゼのほかに赤ワイン、白ワイン、オレンジワインがあり、全部で4種類。カジュアルラインとしてリリースいるワインだ。
「『とうと』とは、栃木の方言で『ずっと、いつも』という意味です。『とうとロゼ』は樽感が強めに仕上がっているので、こんがりと焼いたチキンやポークグリルがよく合います。ベーコンをたっぷり入れたクリームパスタなど、こってり系の食事にも合わせやすいですよ」。
「とうと」シリーズはどの銘柄も、いつもの食事に合わせやすい味わいのため、「日常に溶け込むようなワイン」という位置付けだ。
Y‘s Vineyardsのワインは、ワイナリー横のワインショップ以外にも、オンラインショップや那須塩原の酒販店で買うことができるので、チェックしてみてほしい。

『まとめ』
Y‘s Vineyardsとして、今後も引き続きチャレンジしたいことが盛りだくさんだと話してくれた山崎さん。まず着手したいと考えているのは、より多くのワインを造るために、自社畑を増やして収量をアップすることだ。
「これまで栽培してきた品種だけでなく、さらにいろいろな品種の栽培にも挑戦したいと考えています。オーストリア原産の白ワイン用品種である『グリューナー・ヴェルトリーナー』などを育ててみたいですね。ここ数年で一気に気候が暑くなってきてしまったので難しいかもしれませんが、アロマティックなぶどうを増やすために挑戦したいと思っています」。
その他にも、長期間の樽熟成ができるように、置き場所や各種設備を整えていくことが目下の課題だ。さらに、本格的なスパークリングワインを造るなど、山﨑さんの夢はどこまでも広がる。キラキラと輝く山崎さんの表情からは、ぶどう栽培やワイン造りが本当に楽しいという思いがひしひしと伝わってきた。
「私はワインが大好きなので、栽培や醸造を仕事だと思ったことはありません。趣味のような感覚で楽しく取り組んでいます。栽培品種が増えれば、さらにワインのラインナップを増やすことができるので、期待していただきたいですね」。
新たな品種の栽培を始めることで、那須塩原に合う品種がもっと見つかるに違いない。
繁忙期以外は、山崎さんがひとりでぶどう栽培からワイン醸造までおこなっているY‘s Vineyards。忙しい時には疲れてしまうこともあるが、無理しすぎず、楽しくワインを造ることが山崎さんのモットーだ。
造り手自身のワクワクした気持ちは、出来上がったワインにもきっと映し出されていることだろう。Y‘s Vineyardsが今後リリースするワインを心待ちにししつつ、引き続き応援していきたい。

基本情報
| 名称 | Y‘s Vineyards |
| 所在地 | 〒329-2801 栃木県那須塩原市関谷516-1 |
| アクセス | 西那須野塩原インターから塩原方面に車で約10分 |
| HP | https://ysvineyards.com/ |
