日本のワイナリーの皆様へ:アカデミー・デュ・ヴァンWEST資格取得コース主任講師 青山敦子氏

皆様、こんにちは。今回は、ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」にて、WSET資格取得コース主任講師として活躍する青山敦子氏から、日本のワイナリーの皆様へのメッセージをお届けします。
青山さんには、「Terroir.media」が主催する日本のワイナリーのための祭典「Terroir.awards 2026」にて、社外審査員を務めていただきました。
今年で第4回となる「Terroir.awards 2026」の結果は、こちらからご覧いただけます。

ロンドン在住時にWSET Diplomaを取得し、帰国後、アカデミー・デュ・ヴァンにてゼロからWSET日本語講座を立ち上げ、これまでに多くの受講生を輩出してきた青山さん。世界のワインに精通する青山さんが日本ワインに惹かれた理由には、海外生活の長かった青山さんが大切にする「日本への敬意」の念がこめられていました。

ぜひ最後までお読みください。

『青山敦子氏 プロフィール』

アカデミー・デュ・ヴァンWSET資格取得コース主任講師
・WSET®Level 4 Diploma in Wine & Spirits
・WSET®認定講師
・WSET®Level 3 Sake
・ギリシャワイン・オフィシャル・アンバサダー
・「日本ワイン講座」アカデミーデュヴァンにて企画・開催
・日本ワイン、日本のワイナリー訪問、日本ワイン講座&WSET講座などを紹介
・Instagram:  @atsukoblue.wine 

『ワインとの出会いと、WSET講師としての歩み』

ロンドンに本部を置く世界最大のワイン教育機関「WSET(Wine & Spirit Education Trust)」。WSETの講座・試験は世界75か国以上、700以上の認定校、15の言語で実施され、年間総受験者数は世界中で12万人を超える。

現在、ワインスクール「アカデミーデュヴァン」にてWSET資格取得コース主任講師として活躍する青山敦子さんだが、意外なことに元々はワイン業界の出身ではなかった。

青山さんはどのようにしてワインの世界に足を踏み入れ、講師としての道を歩むことになったのだろうか。

▶︎ワインとWSET講座との出会い

青山さんがワインの勉強を始めたのは、2008年から8年間居住していたロンドンでのことだった。ワインが好きだからという軽い気持ちでWSETの講座を受け始め、ロンドンが世界のワイン市場の牽引マーケットであることを知るのもずっと後のことだったと言う。

Level 2、Level 3はとにかく楽しく、順調に資格を取得した。最上位資格であるLevel 4(Diploma)は非常に難関だと聞いていたので、当初は挑戦するつもりもなかったそうだ。

「時間ができたことをきっかけに『やってみようかな』という軽い気持ちで受講を始めましたね」と青山さんは振り返る。

「当時は今と違い、公式テキストも存在しませんでした。自分で専門書を買い集めて、『The Drinks Business』などの業界専門記事を読み込んで猛勉強しました。当時の試験には『スピリッツ』の科目も含まれていたため、今の試験よりも大変だったかもしれません」。

努力の甲斐があり、Diploma試験にストレート合格。さらには成績優秀者として、スカラーシップのオファーを受けた青山さん。業界従事者でないために受賞は逃したが、WSETで採点の仕事を始めた。さらに、英国のスパークリングワイン専門誌『Glass of Bubbly』でライターとしてのキャリアもスタートさせ、ワインの世界に深く関わるようになっていったのだ。

▶︎日本でWSET講座を立ち上げる

ロンドンでの生活の中で、青山さんは著名なワインジャーナリストであるジャンシス・ロビンソンMW(マスター・オブ・ワイン)や、ティム・アトキンMWといった世界のトップ・プロフェッショナルたちと同じ空間でテイスティングをする機会にも恵まれた。特に、アカデミー・デュ・ヴァンの創始者であるスティーヴン・スパリュア氏との出会いが、青山さんの運命を大きく変えることになった。

日本への帰国を控えた時期のこと。あるセミナーでスパリュア氏に帰国の挨拶をした青山さんは、スパリュア氏より「日本のワインスクール『アカデミー・デュ・ヴァン』でセミナーをするのでぜひ来てください」と招待を受けた。2016年に青山さんが帰国すると、アカデミー・デュ・ヴァンから「WSETの日本語コースを立ち上げてほしい」というオファーが舞い込んだという。スパリュア氏が青山さんを推薦したということを、あとから知ったそうだ。

しかし、当時の日本においてWSETの認知度は極めて低かった。業界関係者にもほとんど知られていない状況で、スクールがWSET Level 2の講座を募集しても、開講できるほどの人数が集まらなかった。

決意を固めた青山さんは、腰を据えて本気で取り組みたいと考えた。そして、自ら企画書とカリキュラムを作成し、スクールに「無料体験講座を担当させてほしい」と直談判。青山さんの熱意は多くの人を動かし、大教室が満席になるほどの無料体験講座を2回成功させたのだ。

2016年12月、青山さんが講師として登壇するWSET Level 2の授業がスタートした。その後青山さんの講座には受講生が殺到し、ピーク時には1週間に12クラスを担当。現在も多くの受講生からの支持を得ている。

「日本のワイン業界におけるWSETの認知度は、この10年で劇的に上がりました。今では業界で知らない人はいないほどです。今こうして多くの方がWSETを受講してくださることが、本当に嬉しいです」。

『日本ワインに対する熱い思いと尊敬の念』

世界のワインについての講座を担当している青山さんだが、近年熱い思いを傾けている存在が「日本ワイン」だ。世界のワインを知る青山さんが日本ワインに惹かれる理由は、一体どこにあるのだろうか。

▶︎日本の「ものづくり」の精神の素晴らしさ

青山さんの根底には、「日本人として日本を応援したい」という気持ちが常にあったという。

「WSET/ワインに関わる仕事を始めて少し余裕ができた頃から、『自分に何ができるか』を少しずつ考えるようになりました。長年の海外生活を通して、日本の素晴らしさを改めて実感し、日本人として日本の魅力を伝え、応援していきたいという思いを強く抱くようになりました」。

イギリスをはじめ、アメリカ・ニューヨークなど複数の国や都市で長年暮らし、世界各国を旅してきた青山さん。日本にしかない明確な強みを実感しているという。

「一時帰国するたび、空港に着いた瞬間から、涙が出そうになるほど感動してしまうんです。日本のサービスやホスピタリティ、すべてが圧倒的に高いレベルにあるからです。そして何より、日本ならではの『ものづくり』の精神と、プロダクトの品質の高さは、本当に素晴らしいものです。日本人の真心と努力、魂がぎゅっと詰まっています。小さなお菓子ひとつをとっても、妥協のないものづくりへの精神を感じ取ることができると思うのです」。

細部にまで手を抜かず、当たり前のこととしてこだわる勤勉さに対する深い尊敬こそが、青山さんが抱く日本ワインへの愛情の源泉なのだ。

▶︎ワインがもたらす「地方再生」への期待

青山さんが日本ワインを応援するもうひとつの大きな理由に、「地方再生」への思いがある。

「日本において、農業という分野はどこか見過ごされているように感じています。しかし、日本ワインが各地で造られるようになるということは、その土地に相応のブドウ畑が生まれるということでもあります。実際に、耕作放棄地であった土地が新たにブドウ畑として息を吹き返している例も少なくありません。

さらにワイナリーが誕生すれば、ワインツーリズムを通じて人々を地方へ呼び寄せる魅力も生まれます。ワインと食は切っても切り離せない関係にあり、その土地の食材を使った料理とともにワインを楽しむ人々が訪れることで、観光産業も活性化していきます。

このように、ワイン造りは単にお酒を生み出すだけでなく、農地をよみがえらせ、人を呼び込み、地域を盛り上げる。『ワインを軸にした地方再生のサイクルを生み出す』可能性を秘めているのです」。

ワインを通じて日本の地方を元気にしたいと考えた青山さんは、溢れる思いを「ワイナリーの手伝い」という形で実行に移し始めた。

「はじめ、気軽にワイナリーを訪問するのは失礼にあたるかもしれないと考えました。一方で『作業の手伝い』ならワイナリーがSNSなどで募集しているケースも多く見られます。ボランティアとしての参加であれば受け入れてもらえるだろうと考えて、収穫などの手伝いに積極的に出向くようになりました」。

2025年に青山さんが訪問した国内のワイナリーは、なんと47か所。エリアを限定せず、北海道から瀬戸内エリアまで日本を縦断するように訪問を重ねていった。

2026年も引き続き、青山さんは全国のワイナリーに直接足を運び、収穫や作業を手伝う。土に触れ、造り手と同じ空気を吸うことで、ひとりの「日本ワインファン」としてワイン造りの現場に寄り添っているのだ。

『日本ワインの強みと可能性』

世界中のワインを審査するコンペティションの審査員も務める青山さんに、世界のワインと比較した際の日本ワインの立ち位置や、優位性について伺った。

▶︎日本ワインと時代との親和性

「ワインは、単純に『比較』できるものではないのではないかと思うんですよね。ワインは『土地や生産者の表現』で、他とは違う個性こそが魅力となっていることが多いと考えているからです」。

一方で、日本ワインが持つ「難しい面」についても、評価者としての立場から率直な意見を語ってくれた。

「ヨーロッパのように、長い歴史や病害の少ない乾燥した気候を持つ国に比べれば、日本の環境はぶどう栽培をする上で決して容易ではありません。まだまだヨーロッパでは日本ワインの知名度は低いですし、WSETのカリキュラムにも日本ワインのカテゴリーはありません」。

しかし日本ワインには、この日本だからこそ生まれる、独自の個性があると青山さんは語る。それは「アルコール度数が控えめで、みずみずしく飲み心地がいい」という点だ。

「世界のワインのトレンドは常に変化していますが、次第に『濃いワイン』から『飲み心地のよいワイン』へ支持されるようになっている側面もあります。かつて一世を風靡したのは、『フルボディで凝縮感のある重厚なワイン』でした。しかし近年は、気候変動による温暖化の影響でブドウの糖度が上がりやすく、ワインのアルコール度数が高くなりすぎる傾向が見られます」。

そのため現在、世界のワイン産地では、いかにアルコール度数を抑えながら繊細さやバランスを表現するかが大きな課題となっている。こうした潮流のなかで、日本の気候条件はむしろポジティブに働くのではないか、と青山さんは予見する。

「日本は雨が多く、ブドウの水分量が多くなりがちだと言われます。逆に言えば、アルコール度数が高くなりすぎず、デリケートで軽やかなワインを造りやすい環境とも言えるのです。重いワインは杯が進みにくいものですが、軽やかなワインであれば、するすると飲み進められます。繊細な日本の食とも相性がいいでしょう」。

日本の豊富な水と気候は、日本ならではのみずみずしいワインを生み出す。それこそが、日本ワインの唯一無二の強みであり、個性なのかもしれない。

▶︎生食用ぶどうのワインが持つ魅力

青山さんが日本ワインの強みとしてさらに挙げるのが、「生食用ぶどう」で造るワインの存在だ。

「生食用ぶどうをワインにすることは、ヨーロッパでは極めて稀です。しかし日本では、巨峰などの生食用ぶどうから、現在は驚くほど高品質で魅力的なワインも誕生しています。これは日本ワインならではの魅力だと思っています」。

フランスのボーヌで開催された日本ワインのイベント「サロン・デ・ヴァン・ジャポネ」でも、日本の生食用ぶどうを使ったワインは非常に高く評価されたそうだ。

「まさしく、日本の生産者のたゆまぬ努力と、ものづくりへのこだわりの賜物です。もともと各地の観光農園などで育てられてきた生食用ぶどうを大切に受け継ぎ、ワインに昇華させている点も、日本のテロワールを表現する素晴らしい文化だと感じています」。

▶︎日本の造り手たちに伝えたいこと

青山さんから全国の造り手の方々に向けて、並々ならぬリスペクトを込めたメッセージをいただいたので紹介しよう。

「日本人の、謙虚であり、細部にまで気を配る気質は、日本人ならではの素晴らしい特性だと感じています。だからこそ、ぶどう栽培においても、手間を惜しまずひと房ずつ傘をかけ、過酷な気候変動に立ち向かうことができるのです。繊細な気質を持つ日本人だからこそ、難しい環境でもこれほど美しいワインが生まれるのでしょう」。

一方で、厳しい気候変動に立ち向かうには、個々の努力だけでは限界があることも指摘する。

「ワイン用ぶどう栽培の歴史が浅い日本では、個々の生産者が対応できることには限界もあります。だからこそ、『JVA(一般社団法人 日本ワインブドウ栽培協会)』のような組織の取り組みが非常に重要です」。

研究者とのネットワークを強化し、学術的なサポートを共有する仕組み作りこそが、日本を世界的ワイン産地へと成熟させるために欠かせない要素になるはずだ。

『日本ワインファンを増やすための活動』

青山さんの活動の主眼は、常に「教育」にある。日本のワイナリーに宿るものづくり精神の素晴らしさを伝えることを目的に、青山さんは「日本ワイン講座」を立ち上げるに至ったほどだ。

青山さんがワイナリーを訪問する際は、どのような視点でワイナリーを見学するのだろうか。また、現場で得た気づきを、「講座」を通してどのように飲み手に伝えているのだろうか。

青山さんのこだわりと「伝え手」としての矜持を紹介したい。

▶︎情報を押し付けず、フラットに感じてもらう

青山さんの日本ワイン講座の試飲は、まずブラインドでテイスティングをおこなう。講師側からの個人的な感想や技術的なコメントは提供せず、受講生にワインを感じ、分析してもらう。

「情報を先に伝えるとバイアスがかかってしまうため、まずは目の前のワインをフラットに感じてほしいのです。ワインは嗜好品であり、人それぞれ感じ方が違っていいのですから」。

また、ワイナリーに実際に足を運ぶことの大切さを青山さんは実感している。受講生を生産者の元へ連れて行くと、造り手の思いや畑の空気に触れた途端、全員が熱狂的なサポーターへと変わるのを何度も見てきたのだ。

「私自身も、ご縁があれば様々なワイナリーに直接行きたいと思っています。全てのワイナリーに独自のフィロソフィーがあり、生産者の皆さんを心から尊敬しているからです」。

ワイン造りは自然相手の仕事であり、思い通りにいかないことの連続だ。だからこそ、たとえば「天候の影響で理想のワインに仕上げることができなかった」という生産者のリアルな苦悩と決断のストーリーなど、現場の生の声を聞くことを何より大切にしている。

自分が現地に赴き、五感のすべてを傾けて感じ取ったたことを受講生にありのままに伝えることで、ひとりでも多くの日本ワインファンを増やしたい。青山さんが抱くのは、シンプルながらも力強い願いなのだ。

▶︎「0を1にする」という使命

青山さんは「自分にできることで日本ワインに貢献したい」と話す。
それは、「0を1にすること」。

WSETのクラス会でも、青山さんは必ず日本ワインを提供するようにしている。「日本ワインを飲んだことがない人に紹介したい」という青山さんの思いが、やがて大きな渦へと変化していくのかもしれない。

「私ひとりの力で出来ることには限界がありますが、数千人の生徒さんたちがそれぞれの場所で日本ワインを広めてくれれば、世界は確実に変わります。日本ワインは今、魅力的なドキュメンタリーを見ているようにドラマチックな変革期にあります。この面白さを、私は伝え続けていきたいのです」。

『まとめ』

ロンドン在住時にWSET Diplomaを取得し、帰国後ゼロからWSET日本語講座を立ち上げ、多くの受講生を輩出してきた青山敦子さん。現在の行動力の根底にあるのは、日本のものづくりへの深い尊敬の念と、地方を元気にしたいという純粋な願いだ。

インタビューの最後に、青山さんに個人的に好きなワインを尋ねると、ふわりと微笑んだ。

「生産者を心から尊敬しているので、どんなスタイルのワインにも魅力を感じます。強いて言えば、私は日本の食をこよなく愛しているので、日本の食に寄り添ってくれるワインでしょうか」。

郷土料理とその土地で造られたワインが溶け合った瞬間に、日本の「食の豊かさ」が凝縮される。青山さんは、料理とワインを共に味わった時の小さな感動を、全国そして世界の人々と分かち合いたいと願う。

「ワイナリーの皆さんを心から応援しています。皆さんが最善を尽くして造ったワインを、私は全力で伝えていきます。一緒に日本を元気にしていきましょう」。


「Terroir.media」は、これからも日本ワインの普及を目指して、日本全国のワイナリーの紹介記事を掲載して発信していきます。
今後の記事もどうぞお楽しみに!

関連記事

  1. feel terroir!日本ワインを味わってみよう!『サンクゼールワイナリー』「長野ルージュ2018」~メルロー主体のまろやかなブレンドワイン~

  2. イベント体験記:志津川湾クルーズと美食を堪能できる『南三陸ワイナリー』海中熟成ワイン引き上げイベント2022

  3. イベント体験記「ねりまワイン2021リリースパーティー&つながるマルシェ 」

  4. 発表!2022年上期「Terroir.media」公式Instagram総合ランキング

  5. feel terroir!日本ワインを味わってみよう!『ココ・ファーム・ワイナリー』「2015北ののぼ」〜シャンパーニュに匹敵する日本のスパークリングワイン〜

  6. スペシャルインタビュー:「日本を世界の銘醸地に」を実現するために、我々がすべきこと『シャトー・メルシャン』ゼネラル・マネージャー 安蔵光弘氏