皆様、こんにちは。今回は「Terroir.media」が主催する日本のワイナリーのための祭典「Terroir.awards」にて3年にわたり審査員を務めるMichi Akiさんをお迎えし、日本のワイナリーの皆様へのメッセージをお届けします。
「WINE BAR ambition」店主として日本ワインの魅力を伝え続けたMichi Akiさん。2026年からは「WINE BAR ambition」を離れ、次なる展開へ新たな門出を迎えました。今後も斬新な発想で、益々精力的に日本ワインの魅力を発信するMichi Akiさんの、日本ワインに対する思いをお話いただきました。
これまでに訪問した日本のワイナリーの数は200軒近くというMichi Akiさん。来たる3月に「Terroir.media」が開催する「Terroir.awards 2026」でも審査員としてご活躍いただきます。ぜひ最後までお読みください。
『Michi Aki氏 プロフィール』
・J.S.A.ソムリエ
・ブログ:「ミッチー王子と呼ばないで」
・Instagram:
@mitchiy51 旅・パーティー・イベント・日常など日記的に紹介
@mitchy_wine.sommelier ワイン・ワイナリー・造り手の紹介
@sommelier_mitchy 家で楽しむワインと食事やスイーツのペアリングの紹介
『Michi Aki氏とワイン 出会いから現在まで』
バーテンダーとしてキャリアをスタートさせたMichi Akiさんは、日本ワインのシーンにおいてひときわ異彩を放つ存在だ。まずは、Michi Akiさんが日本ワインに出会ったきっかけと、現在までの歩みを振り返ってみよう。
▶︎日本ワインに感銘を受けた出来事
バーテンダーに必要なのは、カクテルの調合技術やスピリッツ、リキュールの知識である。ワインも学びの範疇にはあるものの、バーテンダーが活躍する場では、ワインを提供する機会は少ない。そのため、どうしても学習の優先順位は低くなりがちだという。
だが、Michi Akiさんが持っていた酒類全般への強い興味と好奇心は、カクテルに対する熱量と同じように、ワインにも向けられた。
Michi Akiさんに転機が訪れたのは、2019年に長野県のワイナリーを巡るツアーに参加した時のこと。俳優の辰巳琢郎さんが会長を務める「日本のワインを愛する会」が主催したツアーだった。
「当時は、今ほど日本ワインがメジャーではなく、私自身もまだ日本ワインに興味を持っていたわけではなかったため、ワインを飲む際には主に海外のものを手に取っていました。しかし、長野で日本ワインの生産者と話して、自分の足でぶどう畑に立ったことで、認識が大きく変わったのです」。
提供されたワインを口にした瞬間、日本ワインの美味しさに驚いたMichi Akiさん。味わいの素晴らしさだけでなく、日本の風土の魅力と、造り手の真っ直ぐな意志が込められていることが分かった。日本人として、日本ワインを大切にしなければならないと感じたという。
Michi Akiさんが常に和服を身につけているのも、日本の伝統文化への深い敬意の表れだ。和服と同じように、日本ワインにも「日本人が誇るべき美しい文化」が宿っている。日本ワインの品質の目覚ましい向上と、これからさらに伸びていくであろう未来を肌で感じ、日本ワインを伝えることが自らの使命だと悟ったのだ。
▶︎名古屋にワインバーをオープン
2022年12月、Michi Akiさんは「WINE BAR ambition(ワインバー アンビション)」を愛知県名古屋市にオープンした。厳選された世界中のワインだけでなく、「珠玉の日本ワイン」が楽しめるWINE BAR ambitionでは、「予約のできないレストランのオリジナルメニュー×Michi Akiさんおすすめ日本ワインの奇跡のペアリング」も堪能できた。
店名の「ambition」とは、「志」を意味する言葉だ。日本ワインの価値を伝えたいという強い覚悟と愛を込めて名付けた。
▶︎日本ワインの認知度向上に尽力
日本ワインを取り扱う店は名古屋でも少しずつ増えてきて、日本ワインに対するソムリエたちの意識も変わりつつある。しかし、東京と比較すると、一般層への日本ワインの浸透度は道半ばだ。
「ワインバーを始めた3年前に比べると、日本ワインが飲みたいと言ってくださるお客様はだんだんと増えてきました。しかし、名古屋では日本ワインの認知度はまだ低いと感じています。これからは、新たな方向性で日本ワインの認知度向上に取り組んでいけることにワクワクしています」。
続けていくことが何より重要だという言葉には、日本ワインを一時的なブームで終わらせてはならないという、Michi Akiさんの強い思いが込められている。
▶︎日本ワインをおすすめする際のアプローチ
Michi Akiさんがワインを提供する際、海外のワインを飲み慣れたお客様の中には、今でも日本ワインに対して偏見を持つ人もいるという。
「日本ワインをおすすめした際に、始めは戸惑った表情になる方もいらっしゃいます。しかし、実際に提供すると、ひと口飲んだ瞬間に、お客様の表情がパッと明るくなるのです。『これが日本のワインなの?』という驚きの言葉をいただけると嬉しいですね。驚いてくださったお客様の気持ちに寄り添って、一緒に感動を分かち合います」。
では、海外のワインを求めるお客様に対しては、どのようにアプローチするのだろうか。
「例えば、ブルゴーニュワインを好むお客様に対してメニューの説明をする際には、ブルゴーニュワインと一緒に、ピノ・ノワールを使った日本ワインをご案内します。日本ワインにしかない『出汁感』『繊細さ』といった和の要素をお伝えすると、興味を持っていただけることが多いですね」。
その後、常連客から「今日の美味しい日本ワインは?」というオーダーが当たり前のように入るようになった。Michi Akiさんの情熱と挑戦は、ワインに興味を持つお客様の意識を少しずつ、しかし確実に変えてきたのだ。
『ワイナリーを訪れる理由とこだわり』
Michi Akiさんがこれまでに訪問した全国のワイナリーは、実に200軒近くにのぼる。素晴らしい行動力だが、Michi Akiさんがワイナリーに行くのは、単に視察や契約のためだけではない。
ワインの原料であるぶどうが栽培されている畑に入って日本ワインの「今」を体感し、生産者と対話を重ねることが大きな目的だ。仕入れるワインの選び方と、ワイナリーに自ら足を運ぶことに対する思い入れについてお話いただいた。

▶︎仕入れるワインは「品質」ありき
Michi Akiさんは仕入れをする際、日本ワインをどのように選んでいるのだろうか。ワインを決める際に大切にしているポイントを見ていこう。意外なことに、ワイナリーの知名度などは判断の基準にならないという。
「ワインは品質ありきで選んでいますね。お客様に『日本ワインの品質の高さ』を感じてほしいからです。日本ワインがブームになって以降、人気のワインがなかなか手に入らないということも多いでしょう。しかし、入手困難かどうかがワインの品質を決めるわけではありません」。
Michi Akiさんは、有名なワイナリーであることや、人気の銘柄であるからといって評価することはない。常に考えているのは、自分が本当に納得できるワインを提供したいということだけ。だからこそ、Michi Akiさんは自らの足でワイナリーを訪れ、現地の空気と造り手の人柄を感じることを大切にしているのだ。
▶︎日本ならではの挑戦に注目
全国各地には数多くのワイナリーがあるが、新たなワイナリーが設立した際には、Michi Akiさんはすぐにでも行きたいと思ってしまうそうだ。
「日本各地でどんな新しいことが始まろうとしているのかをいち早く知っておきたいという欲求が強いのだと思います。造り手さんたちのネットワーク経由で、新しい情報を教えていただけることも多いのでありがたいですね」。
新規ワイナリーに関する情報だけではなく、既存のワイナリーが新しい取り組みを始めたという情報などを紹介されることもある。チャレンジ精神旺盛な日本のワイナリーでは、各ワイナリーが新しいことに日々取り組んでいるが、Michi Akiさんが特に注目しているのは、従来の常識にとらわれない様々な品種への挑戦だ。
「ワイナリーが取り組んでいる新しい挑戦を飲み手に伝えるには、私自身がワイナリーを訪れて、造り手に直接話を聞くことが欠かせません。自分自身の舌で味を確かめなければ、ワインの魅力を心を込めて説明できないと思っています。新しいワイナリーの魅力や、既存ワイナリーの新たな挑戦について、正しく伝えることを重視しています」。
▶︎カクテルのように、ワインにも人柄があらわれる
ワイナリーを訪れる際、Michi Akiさんが意識していることのひとつに、「生産者の人柄を知ること」がある。
「どんな人がどんな思いでワインを造っているのかについて、詳しく知りたいですね。私は、ワイン造りの根本は『人』にあると感じているのです」。
Michi Akiさんはプロとして、栽培や醸造に関する技術的なことについても情報を収集する。また、その他にも「普段はどう過ごしていますか?」「 好きな食べ物は?」「 ワイン以外にはどんなお酒を飲みますか?」といったたくさんの質問を投げかける。相手を知るための対話を大切にしているからこその問いかけだ。
造り手がどんなものを美しいと感じるか、どんなものを食べているのかなど、「人となり」を知ることで、ワインの味わいに隠されたかすかなニュアンスをより深く理解できるとMichi Akiさんは言う。Michi Akiさんにとって、1本のワインは、ひとりの人間そのもののような存在なのかもしれない。
バーテンダーでもあるMichi Akiさんは、カクテルの世界に例えて説明してくれた。
「バーテンダーが100人いれば、100種類のマティーニができると言われています。全く同じレシピや同じ回数のシェイクでも、作り手が違えば優しい味わいや力強い味わいになるのです。ワインにおいても、同じエリアで育った同じ品種のぶどうでも、造り手によって仕上がりが大きく異なることがあります。ワインの味わいには、造り手の性格や哲学がダイレクトに投影されるからでしょう」。
Michi Akiさんが優しい口調で語ってくれるワインの説明には、まるで親しい友人を紹介するかのようなあたたかさが感じられる。「このワインの生産者さんは、柔らかい雰囲気の方なんです。だから、出来上がるワインも角がなく優しくて、身体に染み渡る味わいですよ」といった具合である。
Michi Akiさんのソムリエとしての流儀は、生産者の情熱を飲み手に伝え、日本ワインが持つ無限の可能性を感じてもらうことにある。日本ワインへの愛情たっぷりのMichi Akiさんの言葉に飲み手は自然と引き込まれ、日本ワインの魅力を知っていくのだろう。

『ワインを輝かせるため ソムリエとしての哲学』
ワインには時として、オフ・フレーバーやバランスを欠いた状態のものが存在する。しかし、Michi Akiさんはそれを単なる「失敗作」として切り捨てることはしない。
全てのワインに敬意を払い、ひとつの作品として輝かせるための、Michi Akiさんの哲学を紹介したい。
▶︎全てのワインを生かす方法を見つける
「オフフレーバーが出ているワインをお客様にそのままおすすめすることは、プロとしてできません。しかし、提供の仕方ひとつで、欠点がかけがえのない個性に変わることがあるのも事実です」。
Michi Akiさんは、ワイン単体で飲むとネガティブに感じられる要素も、適切な料理と合わせることで相乗効果を生むと確信していると話す。
「和食の中でも、特に刺身や寿司といった生の魚介類には、ワインのオフフレーバーと不思議な共鳴を見せるケースがあります。例えば、強い酸味が感じられるワインは、生の魚介やカルパッチョなどのメニューに寄り添うことがあるのです」。
ソースや酢を使った料理とあわせることで、ワインが調味料のような存在になり、生き生きとした表情を見せるというのは、ペアリングを考える際の基本的な考え方だ。
欠点と思われる点をいかに魅力的なアピールポイントとして転換するかがプロの腕の見せ所なのだと、Michi Akiさんは明るく微笑む。
▶︎おすすめペアリング「マグロの刺身」×「小公子」
Michi Akiさんが提案するペアリングのうち、特におすすめの組み合わせを教えていただいた。なんと「マグロの刺身」とヤマブドウの交配品種「小公子」の組み合わせだという。
「小公子は個性が強く、しっかりした酸が特徴です。小公子という品種を初めて知ったというお客様には、日本のオリジナル品種であるという説明からスタートして、詳しく紹介します」。
赤身の刺身と赤ワインの組み合わせをすすめられると、きっと驚く人もいるに違いない。だが、Michi Akiさんは「だまされたと思って、ぜひ飲んでみてください」とおすすめするそうだ。
実際にマグロと一緒に小公子のワインを口に含んだお客様は、皆一様に驚いた表情を見せる。食材とワインのペアリングにおいて、飲み手に新しい世界を見せたいと考えているため、嬉しい反応だという。
Michi Akiさんには、「魚介の料理に合わせるのは白ワイン」という固定観念はない。自由な発想の源は、自身がこれまでに蓄積してきた膨大な味覚の記憶にあるそうだ。
「おすすめするペアリングは、ふと思いつくことが多いですね」と謙遜するが、自身がこれまでに味わってきたワインと料理、そして飽くなき好奇心がもたらした産物なのだろう。
『「多様性」に見る、日本ワインの真髄』
Michi Akiさんは昨年、日本ワインの中でもシャルドネに特化したイベントを開催した。様々なワイナリーが手がけた11本のシャルドネワインを提供した企画は、「日本ワインには世界に負けない個性がある」というMichi Akiさんの確信を発信するためのもので、参加者に大きなインパクトを残した。
Michi Akiさんが考える「日本ワインならではの強み」と、日本ワイン生産者に向ける思いを紹介したい。
▶︎日本ワインの強みと魅力
日本ワインの最大の強みは、「圧倒的な多様性」にあるとMichi Akiさんは考えている。ヨーロッパにおけるワイン文化圏とはひと味違う発展を遂げた日本ワインならではの「多様性」に注目しているのだ。
「同一地域内で、多彩な醸造用ぶどう品種を育てているという点において、日本の右に出る国はないでしょう。また、南北に長い国土を有し、気候が異なる土地で同じ品種を育てている点も、日本ワインの大きな魅力です。北海道から九州まで、各地でシャルドネを育ててワインにしているなんて、興味深い限りですよね」。
ワイン造りの歴史自体はまだ浅い日本だが、各地域が自分たちの土壌に合う品種を模索し、実験的に色々な品種を植えてきた。その結果、今や日本全国どこでもワイン専用品種が栽培されるようになったのだ。
「日本各地のシャルドネワインを並べてみると、同じ品種とは思えないほど豊かな表情を見せてくれることがはっきりとわかります。地域や造り手の個性が鮮やかに表現されているワインこそが、日本ワインが持つ多様性の魅力なのです」。
▶︎日本ワインが世界で評価される未来
Michi Akiさんは、日本ワインの素晴らしい未来を確信していると話す。日本には、ウイスキー醸造において世界的に高い評価を獲得した実績があるため、日本ワインにおいても単なる希望的観測ではないというのだ。
「日本ワインは近い将来、日本ウイスキーと同じように世界で正当に評価されるようになると思っています。日本には、外から来た文化を自分たちらしく昇華させる力があります。さらに、丁寧に品質を突き詰めて、世界トップレベルまで引き上げていくこともできるのです。外国からのお客様の反応を見ても、すでに日本ワインには、『世界に認められる個性』を獲得していると感じています」。
日本ワインを盛り上げるためには、積極的に海外市場へのアプローチもするべきだと感じているMichi Akiさん。今後は海外のワイナリーにも積極的に足を運び、醸造スタイルや考え方を吸収し、獲得した知見を日本の造り手にフィードバックしたいと考えているそうだ。
『まとめ』
最後に、日本ワインの生産者に向けたMichi Akiさんからのメッセージを紹介したい。
これまで数多くの生産者の元に足を運び、直接言葉を交わしたり作業の手伝いをしたりする中で、ワイン造りの大変さをひしひしと感じてきたというMichi Akiさん。
天候の急な変化や鳥獣害など、人間の力ではどうしようもない苦難を乗り越えて進む不屈の精神と、ものづくりに取り組む真摯な姿勢を、心から尊敬していると話してくれた。
「日本ワインの魅力を広く伝えていくために、もっとソムリエを頼ってほしいと思います。自分たちのやっていることを信じて突き進んでほしいのです。販売やマーケティングなど、難しいと感じていることがあれば、ぜひ力になりたいと考えています」。
中小規模のワイナリーにとって、ワインの生産業から販売までを全てこなすのは難しいことだ。造り手には、自身のワイン哲学を貫き、最高のワインを造ることだけに集中して欲しいとMichi Akiさんは考えている。
「様々な個性を持つワインを最も輝かせるための提案をするのが、私たちソムリエの仕事です。欠点を指摘するだけの評論家ではなく、欠点すらも魅力に変えて提案できる伝え手でありたいですね」。
これからさらに、斬新な切り口で日本ワインの魅力を世界に向けて発信するMichi Akiさん。今後の活躍から目が離せない。

「Terroir.media」は、これからも日本ワインの普及を目指して、日本全国のワイナリーの紹介記事を掲載して発信していきます。
今後の記事もどうぞお楽しみに!
